名南市にある、ひまわり公園というやや大きめの公園。
 一際人気の少ない区域の茂みに、一組の男女が足を踏み入れた。
 全速力で駆け抜ける。
 眼鏡を掛けた細身の大学生ぐらいの青年と、杖を持った耳の尖った美しい少
女だ。
「ぃ……ゃ……ああっ!」
 進む先から悲鳴が聞こえる。
「あっちです」
「聞けば分かる」
 そんなやり取りをしながら、少し開けた場所に出た。
「は……ぁ……」
 くて……と乱れた制服の少女は後ろの存在に身体を預けた。
 その身体にはまだ、触手が絡み付いている。
 全身粘液まみれだが、少女の頬に涙の跡がある事に耳の尖った少女は気付い
ていた。
 秋陽高校の生徒ですね……塾帰りだったのでしょうか。
 周囲には鞄や生徒手帳が散らばっていた。
「遅かったか」
「そのようですね」
 背面座位で異形の化物に犯されていたらしい少女の股間は、まだ触手と繋が
っている。

 その繋がった場所から、どろりとした液体があふれ出していた。
「なんだぁ、……お前らぁ……?」
 間延びした声と共に、少女を犯していた存在が立ち上がる。
 少女は前のめりに倒れ、そのまま動かない。生きてはいるようだが。
 異形の年齢は三十代後半ぐらいか。作業用のつなぎを着ている。
 一見すると太った巨漢の中年だが、両の二の腕あたりからが大量の触手とな
り、股間のモノも人間にはありえない触手の束となっていた。
「……俺が思うに」
 青年は不満そうだった。
 正直、化物を前にあまり緊張感がなさそうな雰囲気だった。
「どうして、いつもいつも間に合わないんだろう」
「まあ、仕方がないでしょう。エロ小説ですから」
「いや、まぁち、そういうメタ発言禁止」
「事実ですよ、正鷲(せわし)さん? というかあれは、ここじゃなくて触手
スレにいくべきです」
「いや、分からないから、それ。俺に分かるように話そうよ」
「まあ、あれは敵です」
 まぁちは、異形を指差した。
「……変な奴らぁ……男は死ねぇ……女は、孕めぇ……」
 中年男は腕――触手を突き出した。

 無数の触手が粘液を撒き散らしながら、正鷲に迫る。
「……汚いなぁ。まぁち、よろしく」
「はい。召喚、大ムカデ」
 まぁちは杖を地面にかざした。
 正鷲と触手の間に、淡く光る文様の刻まれた円陣が出現し、そこから大きな
蟲が出現する。
「馬鹿なぁ……」
 中年男が動揺する。
「妖精がぁ……こんな人工物だらけの世界でぇ……大きな力を使えるはずない
ぃ……」
「まあ、普通なら、精霊種と自然の繋がりが薄いから、大きな力は使えないん
だけど……」
 眼鏡の青年、天神正鷲(あまがみ せわし)が言う。
「要は妖精が現界にとどまれるだけの繋がりがあればいい訳だ」
「ぶっちゃけると、人間との間に子供を作るとかです、はい。欠点は、たえず
妊娠してないといけないのと、お腹が大きくなると身動きでないという点です
ね」
 社会的には正鷲の妻という事になっている、天神まぁちは、少し膨らみ始め
ている自分のお腹を撫でた。
「ちなみに、今お腹にいるのは二人目です」
「馬鹿なぁ……ふざけるなぁ……」
 蟲の胴体に触手は弾かれてしまう。天に向かって伸びていた長い蟲の胴が弧
を描き、そのまま頭部が異形の触手男に向けられる。
 頭部が開き、無数の鋭い歯が生えているのが見えたのが、男の最後の光景だ
った。


 化物を倒した二人は、気絶している女子高生の身体を確認した。
 まぁちが、少女の腹に手をやってみる。
「やっぱり孕んでるか」
「ええ、孕んでますね。ばっちりです」
 まぁちは頷いた。
「三匹。出産したら、私達で預かりましょう。契約すれば、それなりの使い魔
になりそうです」
「……あの、まぁち、わざと遅れたりしてないよね?」
 確かに、生まれたばかりの化物は、契約が結びやすいとはいえ。
 こういうパターンが、何気に結構多いような気がする。
「してませんよ。思いっきり全力で努力はしてます。ただ、どれだけ頑張って
も、この世界を作っている神様が間に合わせてくれないんです。やっぱ、エロ
小説だからだそうです」
「……いやな天の声聞くね、まぁち」
「好きで聞こえているわけじゃないんですけどね。とりあえず、服とか直して
適当なところにうっちゃっときましょう」
 まぁちは杖をくるくる回した。
 少女の身体を汚していた体液が霧散し、服が修復される。
「それじゃ、どこかベンチにでも寝かせておきましょうかね」
 正鷲が少女を抱き上げた。まぁちは、荷物をまとめて鞄を持った。
「はい。あ、ところでさっきメールをチェックしたら、お仕事入ってました。
山の方で、レアな化物が出るそうです」
「へー、どんなの?」
「女郎蜘蛛の化物らしいです。処女の巫女さんを生贄にして、衰弱死するまで
子供を産ませるそうです」
「……いやな、化物だね」
「いやじゃない化物の方が、珍しいと思いますよ? 今日はもう帰って、エッ
チして寝ましょう」
「……エッチは必ず入るんだ」
「ええ、正鷲さんを愛してますから。お乳飲みます?」
「えー……考えときます」
 などという会話をしながら、二人は公園から消えた。