不夜城の都市とも呼ばれる歓楽都市ユーロウ。
 この都市最大の産業は風俗産業であり、ありとあらゆる快楽の需要が詰まっ
ているとも言われている。
 表面上はごく普通の煉瓦造り。
 ただこの土地は元々地盤が緩く、何度かの地盤沈下を繰り返してきた。
 そのたびに、上に新たな都市を積み重ねてきたため、ユーロウには何層もの
『地下』が存在する。
 当然、下層に行くほど暗く生活には不向きであり、裕福な階層が自然上で生
活していくことになる。
 とまあ、そういうガイドブックは読んだのだが、百聞は一見にしかず。
 黒髪の放浪者、ノア・サイモンはあんまりそういうのを当てにしないまま、
この都市に踏み込んだのだった。

 で。
 一週間経過。
 通常『地下層』と呼ばれる中流階級層のごく平均的な酒場。
 ノア・サイモンはつい三日前に買った奴隷とテーブルで向かい合って、豆茶
を飲んでいた。二十代半ばの、黒髪の青年だ。服も黒、真っ黒だ。
 時刻的には夕方だが、地下なのであまりその辺は関係ない。
「……大穴、大当たり」
「半年はここで遊んで暮らせますよ? どうします?」
 ノアと新規契約を結んだ奴隷、ソフィー・ノーディンは手帳に現在の所持金
額を書き込みながら尋ねた。
 栗色のおさげ髪に眼鏡、動きやすさ重視の上下を着込んだ十代半ばぐらいの
――女の子だ。パッと見、男の子のように見間違える人も多いだろう。
 今日の闘技場は、まさかまさかの大波乱であった。
 あんな小柄な少年が、たった一人で老舗の娼館の少女五人を相手に勝ち抜く
とは。
 もちろん、少年も射精はしたが、それ以上に中出しされた少女達は少年の孕
み奴隷になる約束まで公衆の面前で宣言させられ、もはや立ち上がる気力すら
なく全員気絶という、ほとんど誰も想像しない結末を迎えたのだった。
 今頃、老舗娼館の方では、まだ出したりない少年が暴れまわって大変な事に
なっているという情報をソフィーはここの噂話で耳にしていた。受け付け嬢か
ら従業員全員犯され、今は女将が店の前で公開種付けの真っ最中だとか。

 そんな大穴な展開を当てたご主人様は、ひらひらとお気楽に手を振るのだっ
た。
「あいにく、ここに骨をうずめる気はないね。うちの一族は放浪するのが仕事
みたいなもんです。故に、適当に遊んで使ってしまおう。何かいい案あるかね、
ソフィーくんや」
「呼び捨てでいいですってば。ボクは買われた性欲処理奴隷なんですから」
 実のところ、ソフィーはとっくの昔にカドワカシに遭い、この都市で売られ
たのだった。昔、どんな村で何歳まで育てられたのかも、本当の名前ももう憶
えていない。
 調教の過程で、それは忘却するよう躾けられたのだ。今のソフィーは自分を
買ったノアに従順に仕えるソフィー・ノーディンなのである。
 で。
 自分以外の男に強姦されたりしたら困るからとソフィーの自衛用にこんな男
の子な格好をさせたりするわりには、どうもこのご主人様は自分が主人という
自覚がないのだった。
「うん、そうなんだけど、慣れるまでちょっと難しい。とりあえずガイドの仕
事をしてくれると大変助かります」
「そうですねー……ようするにノア様はパーッとお金を使いたい訳ですね」
 読み書き算盤、ハイスペック奴隷なソフィーはガイド用のページをめくった。
「そ。全部じゃなくて適当に。あ、酒場で金貨撒き散らすのとかはなしね。趣
味じゃない。自分のためだけに使いたい」

「……といっても、ノア様の場合、大体遊びつくしたんじゃないですか?」
「そうなんだよなぁ……少なくとも、表のはかなりやり倒したと思う」
 表というのは、この都市で合法的に行なわれている風俗産業のことだ。
 それにしても通常の売春宿からSMやらアナル専門やら結構な種類があるの
だが……。
「……一週間でやり倒しますか」
「そ。一週間でやり倒しました」
 何より、金銭の出所がすごい。全部博打で稼いだ金である。
 聞くと旅費全部、それで成立しているという。
「その博才があれば、一生安泰ですね、ノア様」
「所詮こんな才能水物さー。で、さっさと決めてくれないか。さもなきゃ、ま
た宿屋でお前さんとイチャイチャになるんだけど」
「特に、ノア様のお好みに合うお店はありませんね」
 調べるのやめ、とソフィーは手帳を閉じた。ボクはそっちの方がいい。
「ハイ、そこのガイド嘘つかない。仕事は真面目にやろうな」
 主の鋭い指摘に、慌てて手帳を開きなおす。
「りょ、了解しました。その、ですね。お気に召すような店ならいくつか心当
たりがあります。でも、ちょっと危険ですよ?」
「つーと?」
「地下、ちょっと深めに潜りますから」

「つまり、やばめな店なのか」
 やばいといえば下層自体がやばいんですけどね。
 犯罪が日常茶飯事な場所だし、小銭目当てで刺されたら、身包みはがれて身
元不明死体になってしまう。
 もっともこの場合はそういう『やばい』ではなく、『非合法な店』という意
味でノアは言ったのだろう。
「そうですねー。ご主人様、寝てるのを犯すのと、起きてるのを犯すの、どっ
ちが好きですか?」
「どっちも好き」
 即答だった。
「……いや、どっちかでお願いします」
「寝てるのを犯るのは、した事ないなぁ。だから、やってみたいっちゃーやっ
てみたい」
「ご主人様、鬼ですね」
 そーゆーの、にこにこしながら言われてもなぁ。
「なんなら、ソフィーさんでもいいんだけど」
「お望みならしますけど?」
「不満そうだな」
「そりゃ、ボクは面白い事何もありませんから」
 寝てて、起きたらなんか気だるいですよじゃ、ボクぁー一体何なんだって気
分になるというものである。だがそれが奴隷の務めならばこなすまでだけれど。

「ごもっとも。それはそれとして、両方するだけの金はあるはずだけど?」
「……はい、とりあえず起きてる方ですけどお店の名前は『原峰亭(はらみね
てい)』。種付け専門店です」
 ソフィーは手帳を一ページめくる。原峰亭の詳細な情報が記されていた。
「種付け?」
「子作りですよ?」
「いや、知ってるけど。ははぁ、なるほど、そういう店」
「そういう店です」
「いいね、実にいい。女の子は可愛い?」
「ボクが調べたんですよ?」
 不細工のいる店を調べてくるはずがない。
「愚問だった。詳しい情報を頼む」
「場所は下層です。基本的に人間専門。最下層レベルなら、妖精や魔族相手も
ありますけど」
「それもいいな」
「男を妊娠させたり、女が妊娠させたいという欲求も、この辺なら可能ですね」
 最下層はちょっとすごい。
 触手孕ませとか、触手対触手のよく分からないセックス見世物とか、幼児と
老婆のセックスとか、大抵の需要ならここにいけば存在する。需要がなくても
ある。
「……ちょっとマニアックすぎるな。今日のところはソフィーさんのお薦めで
いこう」

 それでは、とソフィーは一気に案内を開始する。
「店は公開式。内装は通常の酒場と変わりありません。仕切りがありませんか
ら、周りには丸見えです。
 ですが、清掃係の女の子がいるので清潔ですよ。ああ、その子も空いていた
ら孕ませられます。
 店長は現在三代目で、三十になったばかりのおっとりした感じがする未亡人
です。この人も頼めば孕ませられます。高いらしいですけどね。
 年齢層は主に十代半ばから二十歳ぐらいが多いです。その辺も人気の秘密で
しょうか。コック、客室係も女の子です。当然、孕ませ対象になります。
 初物はちょっと高めです。調教の時間が掛かってますから。
 調教内容は、主にサービスと暗示です。
 サービスは言わずもがなですが、暗示が特殊です。胎内に子供を宿すことに
至福を憶えるように、従業員全員が暗示を受けています。どんな男の精子であ
ろうと、それを子宮内で受け入れられれば、この店の女性達にとってはこのう
えない幸せとなります。聞いた情報でもすごいですね。処女だった十代前半の
少女を妊娠させた、四十代の雑貨屋主人の証言ですが、最初から自分で腰を振
って積極的に子種をねだってきたとか、初めてなのに膣内射精と同時に絶頂迎
えたとか……結局念入りに三回注ぎ込んだそうです。あ、お子さんの写真見ま
す?
 出勤している女の子はみんな危険日ですし、副作用のない排卵誘発作用をも
たらす薬品も投与してますから膣内射精すれば妊娠間違い無しです。

 女の子はピンでも複数でも可能です。この辺はお金次第ですね。
 確かあのお店、母娘で働いてたり、双子もいたはずです。
 ああ、そういえば、店長にも可愛い娘さんがいたはずです。上層の学校に通
ってる十四歳。情報では、まだ手がついていないはずですが時間の問題でしょう。
 ご主人様は今、お金ありますし、三人ぐらい同時でもいいんじゃないでしょ
うか。
 テーブルに押し倒して正常位で犯したり、カウンターの席に座って背面座位
でみんなに膣内射精してる所を見せつけたり、床に女の子を四つん這いに並べ
て順番に種付けしたり、ご主人様の欲求のままに。
 孕まされた女性はその後、休暇を取って出産します。希望なら、お子さんの
お持ち帰りも可能です。それまでここに滞在するなり、居場所の連絡はしなき
ゃなりませんけどね。
 どうします? 今から行きますか?」
 一息ついたソフィーは一息ついて、香茶を飲みなおした。
「うーん、そうしたいところだけど」
「はい?」
「この店、確か即興ありだったよな」
 この酒場も、歓楽都市の一部である。
 気に入った女の子の給仕がいれば交渉次第で、泊まっている部屋に連れ込む
ことも可能だ。

 そして即興というのは、いわゆる公開プレイであり――。
 その意味が、頭に浸透するより早く、顔に血が上る。
 下腹部が急に熱く、潤ってくる。
「え? あれ? 何でボク? いやちょっと待って、このお茶、まさかもしか
して」
「ああ、やっと効いてきた? 注文の時にちょっとサインを」
 言いながら、ノアはよっこらせと席を移動した。
 具体的には、ソフィーの背後に。そのまま、ベルトのバックルを外し、ズボ
ンをひき下ろす。既に湿り気の帯び始めた純白の下着が露になった。
 客達も感づき始め、二人に注目し始める。
「や、あ……あの、あの、ご主人様? ボクは今日ちょっと…、…危険日れ…
…薬も飲んれなくて……」
 ろれつの回らなくなり始めた口で何とか抵抗を試みるが、ノアには無駄だっ
た。あっという間に下着をずらされ、ノアの膝の上の乗っからせられた。
 いつの間にノアが出したのか股間に熱く硬い感触を感じ、さらにソフィーの
淫唇からは涎がこぼれ始める。
「という事は無料か。さーて、みんなに御開帳」
 ノアは、後ろからソフィーの太股を担ぎ上げた。まだ使い込まれていない秘
処が、大股開きで公衆の面前にさらけ出される。
 そしてそのままノアの肉棒の切っ先が、ソフィーの割れ目へと――。
「ちょ、や、やだー!?」
 酒場に女の子の悲鳴がこだまする。
 これもまた、歓楽都市ユーロウでは日常茶飯事な出来事なのであった。(終)