夕方になって風が出て、軒先に吊るした風鈴が鳴った。ちりん、ちりんと涼感を醸し出す
音色は時折、暮れ六つを知らせる鐘の音と重なり合い、山の向こうから迫り来る宵闇の
中へと消えて行く。

「ああ、いい風」
村井晶子は浴衣姿で、湯上りの火照った体を冷ますべく、縁側に腰をかけて涼を取って
いた。今年二十五歳になる晶子は元々、村で小学校の先生を務めていたが、この秋に
結婚を予定しているため、春に職を辞している。結婚相手は、山の麓にある町で建設業
を営む男の次男で、晶子よりも年が二十も上だった。土建屋の倅、しかも親子ほど年が
違うため、村ではこの結婚を祝う者はきわめて少なく、中には口汚く、金のために嫁ぐの
だろうと言う輩もいた。

事実、晶子の生家は事業に失敗し、困窮を極めていた時期があった。その時、金の工面
をしてくれたのが件の土建屋である事を考えると、この結婚にはきな臭さがつきまとうと言
わざるを得ないだろう。だが、晶子は誰にも何も言わなかった。
「先生」
不意に藪の中から若い男が現れた。晶子の事を先生と呼ぶので、おそらくは教え子だろう。
やせっぽちの可愛い少年だった。

「あら、川本君」
晶子は大して驚きもせず、少年を川本と呼んで手を振った。すると、今度は背の高い少年
がひょっこりと顔を出す。
「俺もいるよ、先生」
「岸田君も来たの?まあ、上がってちょうだい」
縁側に座っていた晶子は立ち上がり、少年二人を部屋の中へ招き入れた。

「ちょっとした同総会気分ね。そこに座って。何か飲む?」
「あっ、別にいいです。俺たち、ちょっと先生の顔を見に来ただけだから。な?」
岸田が川本の頭を小突きながら言う。

「こいつ、先生が結婚するって聞いて、矢も盾も無く会いたいって言うんで、俺が連れ
てきてやったのさ。相変わらず、一人じゃ何も出来ない野郎でね」
「そんな事、ないだろう」
「ふふ、相変わらず、仲が良いのね、二人とも」
晶子の知る二人は幼なじみで、いつも行動を共にしていた。言葉使いは悪いが気の良
い岸田が、優しい川本を庇うような関係だった。小学校を出てから三年が経っているの
で、二人は今、中学三年生である。

「でも先生、二十も年上の人と結婚するって、本当なの?」
川本が問うと、
「ええ、本当よ」
晶子は素っ気無く答えた。

「俺、信じられねえ。先生が、そんなオッサンと結婚するなんて」
「悪い人じゃないわよ。見た目も年よりはずっと若くて」
「でも、オッサンだよ。俺の親父より、年いってる」
「僕の父さんよりもだ」
「人の価値はね、年齢なんかで決まるもんじゃないのよ」
晶子は束髪を手で梳きながら、ねっとりと絡みつくような流し目を二人にくれてやった。
熟した女が見せる、ちょっと悪戯な眼差しである。少年二人は一瞬、たじろいだような
風を見せた。

ここで風が吹き、風鈴がちりちりと細かく音を刻んだ。それが晶子と二人の中に間を作り、
気まずげな雰囲気を醸し出す。少年二人は何か聞きたいのか、先生と慕う晶子の顔を窺
うような仕草を何度も見せていた。

「ねえ、二人とも──さっき、私の顔を見に来たとか言ってたけど、本当の所は他に何か
用があるんじゃないの?」
晶子はそう言って、足を崩した。花を染め抜いた白い浴衣の裾が割れた時、少年二人は
そこを凝視した。下着までは覗けないが、すらりと長い足が太ももの辺りまで露わとなり、
晶子はわざと蓮っ葉な女を演じているかのように見える。

「じ、実はさ、先生」
「なあに?」
口を開いたのは岸田だった。川本の方は、いけない事をして母親に怒られる子供のよう
な顔をしている。

「同級だったやつらに聞いたんだけど・・・せ、先生と、その・・・」
「私と、なに?」
「先生とさ・・・ああ、なんて言ったら良いんだろう」
「はっきり言いなさいよ。何を聞いても、私は驚かないわ」
電灯一つの下で、晶子と少年たちは差し向かいで、膝をつき合わせていた。幸いという
か家人は皆、留守で、この家には彼ら三人しか居ない。聞きづらい話でも何でも、誰に憚
る必要も無かった。

「先生と・・・さ・・・やっちゃった・・・とか、言うやつが・・・いるんだ」
「ひどい話でしょ。僕達は全然、信じてないけど」
岸田と川本は、ようやく本題を切り出した。それを知ると、晶子は何が可笑しいのか袖で
口元を隠しつつ笑うのである。

「ふふふ。確かにひどい話ね」
「でしょ?やっぱり嘘なんだね。先生がそんな事、するはずないもんね」
川本は顔をほころばせて、晶子を敬うような視線で見る。岸田も同様で、ほっと胸を撫で
下ろすような仕草を見せた。すると、晶子が崩していた足を膝立ちにして、言うのである。
「ごめんなさい。ひどいっていうのは、元教師が元生徒とセックスしたって話よ」
晶子がケラケラと笑うと、乱れた膝の奥が見えた。白く透ける生地で出来たショーツが二
人の目に映じ心を逸らせたが、晶子はこの後、二人をもっと驚かせるような事を言った。

「それを誰から聞いたのかは知らないけど、全部、本当よ。先生はね、元生徒とセックス
しちゃいました。アハハ、驚いた?」
その言葉を聞き、二人は呆然としている。そんないやらしい事が晶子自身の口から出さ
れるとは、思いもよらなかったのである。

「それじゃあ、本当なのかよ・・・」
岸田が問うと、
「ええ。詳しくは言えないけど、事実よ。今、湯上りなのは、今日、訪ねて来た元生徒と
セックスしてたからなの。困った子たちでね、五人がかりで来たのよ」
晶子は少年たちが耳を疑うような、淫らな事を語り始めた。

「今、私たちがいるこの部屋にお布団敷いてね、朝から夕方までずっとやりっぱなしよ。
おかげでアソコがヒリヒリするわ。全身が精液臭くなって、お風呂に入らなきゃやって
らんないわよって感じでね。ふふ、ちょっと下品かしら」
「せ、先生・・・」
川本が目に涙を溜めていた。よもやあの先生が、こんな話をするとは思ってもいなかっ
たのだろう。全身を震わせながら、膝の上で握り拳を作っている。

「ちくしょう・・・やっぱり本当だったのか」
岸田も憤懣やるかたない表情だった。裏切られたような気持ちなのだろう、肩を怒らせ
て目を吊り上げている。
「あなたたちもどうせ、噂を聞いて来たんでしょう?私なら、誰にでもやらせてくれるって。
いいわよ、いくらでもしていって構わないわ。散々、やられた後でよろしければ」
晶子は立ち上がり、電灯の紐を引いて明かりを落とした。辺りがすっかり暗くなっている
せいで、家の中がほとんど闇に近くなると、次の瞬間、岸田が晶子の体を押し倒した。

「きゃあっ!」
「ちくしょう!こうなったら、やらずに帰れるか!」
岸田は晶子の帯を解き、浴衣を毟り取りにいった。束髪が乱れ、闇の中に白い素肌が
浮かび上がる。
「無理矢理はやめて、楽しくやりましょうよ。私は、逃げないわ。さあ、川本君もおいで」
「先生・・・僕・・・」
「いいのよ。先生が全部、教えてあげるから・・・岸田君、あなたにも」
「うるせえよ、この淫売。さっさと脱げったら」
浴衣の合わせが開き、乳房が露わになった。ブラジャーはつけておらず、岸田の手が
そこへ伸びるや否や、たわわに実った母性の象徴は激しく揉みしだかれていく。

「一生懸命、触ってくれるのは良いけど、私、あんまり胸が感じないのよね。出来たら、
すぐにでもあなたのソレをぶち込んで欲しいわ」
晶子が岸田の股間に手をやり、艶っぽい声で誘いつつショーツを脱いだ。その手際の
良さは、さながら娼婦の様である。

「誰でも良いっていうのは、本当だったんだな。ちくしょう、お望みどおり、くれてやるよ」
闇の中で衣擦れの音がして、岸田の体が前のめりになった時、晶子が一瞬、うっとうめ
いた。前戯の無い、無理強いに近い挿入だった。
「はあ、はあ・・・ちくしょう・・・どうだ、気持ち良いのか」
「ああ・・・この、キツキツ感がたまらないわ・・・もっと、激しく動いてちょうだい」
晶子は背を反らし、喘ぎ、腰を浮かして岸田を受け入れた。乳房は乱暴に揉まれ、乳首
は引きちぎられそうなほど、強く啄ばまれた。また、キスを求められた時には、舌を絡め
てもやった。おおよそ、考えられそうな淫ら事は、すべて甘受したのである。

「ちくしょう・・・ちくしょう・・・うッ!」
岸田はうわ言を何度か繰り返した後、激しく射精した。その子種はすべて晶子の胎内
へ注ぎ、一滴すら残さずに放出し終えたのであった。
「次は川本君ね。さあ、いらっしゃい」
晶子は放精した岸田の胸を押し、今度は川本を誘う。川本は無言のまま晶子に従い、
たった今、精液で汚されたばかりの中へ、己の分身を捻じ込んだ。

「ああ、川本君のは、ちょっと右曲がりなのね・・・いい感じよ」
熱い闇の中で晶子は川本にも抱かれ、激しい射精を許した。責めるような言葉をはい
た岸田と違い、川本は終始無言であった。

軒下に吊るした風鈴が、ちりん、ちりんと鳴っている。晶子は闇の中でその音を聞いた。
「風が出てるのね」
晶子は少年二人に抱かれたままの姿だった。肉穴から逆流する子種を拭く事もなく、
ショーツも穿いていなかった。辺りには浴衣と帯が散乱し、激しい情交の跡を物語って
いる。

束髪も乱れ、部屋の畳に波を描いていた。晶子はようやく身を起こすと、朧月に向かっ
て呟いた。
「これで、あんなやつの子供を産まずにすむわ。ごめんね、みんな・・・」
その目には涙が光っている。すでに姿を消した岸田や川本には、決して見せなかった
泣き顔だった。

「せめて、可愛い生徒の子種で・・・それが、精一杯の抵抗なのよ・・・」
顔を両手で覆い、晶子は泣いた。少年たちには考えの及ばぬ、大人の事情を話せない
のが辛かった。
「結婚なんてしたくない・・・ずっと、先生でいたかった」
顔を覆う手の隙間から涙が零れ落ちると同時に、風鈴がちりん、と、また鳴った。その
後も涙が落ちるたびに風鈴は共鳴し、すすり泣く晶子を哀れむような音色を奏でたの
であった。

おしまい