大和郷から「天の鏡」が略奪され、宮司である武頼が妻子もろ共惨殺され、
館に火が放たれたのは先の朔月夜であった。
武頼の妹である巫女姫日名子は、側近からその報告を失意の中で聞いたが、
同時に自身が何をすべきか素早く思いめぐらせた。涙に溺れている暇はない。


その昔、天照大神の子がこの大和郷に社を構えた。二人の子に恵まれ、ひとりは巫女として国を護り、
もうひとりは妻を娶って子を成した。以来必ず男女の双子が誕生し、女は巫女に、
男は宮司にという伝統のもと、永くこの地を守護してきたのである。

その惨殺者は黒沼国の蒜命という豪族である。
昼間は滅多に外に出ることのない一族で、由緒はあるがどこか不穏の香がする
というのが専らの評であった。
大神から恵与され郷の象徴である天の鏡を変換して欲しくば、
清浄をもって旨とする巫女姫、日名子を蒜の嫁として差し出すよう、
燃え落ちた瓦礫のなかに白い矢文が突き刺さっていたのを、生き残った
従者が離社に住まう日名子の元まで駆けつけ、おそるおそる手渡した。

巫女姫の淡い色を湛えた頬は一気に紅を増し、恥辱に耐えようとその唇は
強く噛み締められ一層深みをきつくした。
「兄武頼の血が根絶やしになったということは」聡明な日名子は急いで
考えを巡らせた。


「わたくしがこのまま巫女として生命を全うしたとて、いずれ大神の血は絶えて社は滅ぶであろう。
その上、象徴である天の鏡もない・・・わが身に代えても郷のよりどころを取り戻さねばならぬ」


こうして、この望月の夜にひとりの花嫁の輿入れが決まったのである。
白い着物に身を包んだ巫女姫の美しさは比類なき造形で、神をも歎ぜせしめるほどの輝きを
発散していた。膝下まで真っ直ぐ伸びた艶やかな黒髪は漆を塗ったように光を放ち
しかし神(髪)を結ぶ証として白い和紙紐できつく根元から束ねられている。
満月のように白い顔に描かれた柳眉は緊張のためか外側へ向けてつりあがっているが、
その下の双眸は黒曜石の輝きを潤みのなかにもたせていた。ほのかに赤い唇は一文字に
引き結ばれている。

あれほどの美貌を封じるのはつくづく惜しむべきと民衆が憂えていたものだったが、
まさか敵国の交換物としてその清浄に墨が落とされるとはと、望外の嘆息が郷中を疾走した。


黒沼国に巫女姫を乗せた輿が到着し、彼女は静かに御殿に招き入れられた。
従者たちはかねてからの約束どおりすべて大和郷に帰らせる。
ひんやりと広い居室にひとり、どれくらいの時間が経過しただろうか。
やがて、ひとりの長身の男が目の前に腰を下ろした。

「よくおいでなされた、大和郷の巫女姫、日名子殿。お噂以上にお美しい。
私が当主の蒜です」
「余計な挨拶はおやめなさい。それより天の鏡を速やかにお返しくださるよう」
「勿論お返しいたしますよ・・・貴方が約束を果たしてくだされば」

無遠慮に笑む男の面をきっとした視線で睨む。
男はやおら立ち上がり室内をゆっくり歩き始めた。
「巫女姫は当然ご存知でしょう・・・我が国の最も初めに誕生した赤子が両親にどのような
扱いを受けたのか」
無言で蒜を見返す日名子を見つめ、男は巫女姫の周囲を徘徊しながら言葉を続けた。
「そうです、赤子は骨の緩い蛭子だったため、親であるイザナギ、イザナミに棄てられた。
はっ、この国の創生神の、最初の親の行いは子棄てだったというわけだ」
「何を不遜な・・・・そなた」
「否定できますか?巫女姫殿」
皮肉な目を日名子に向ける。日名子は負けずに視線を跳ね返すように睨み付ける。


「慈しまれて育った日名子殿には、親に棄てられ抱かれたことすらない子どもの気持ちはわかるまい。
蛭子は親を呪い、周囲を憎んだ。・・・その念は脈々と子孫に連なり、いつしか固い意志となった。
イザナギ・イザナミの血を最も色濃く引く末裔を穢し、その力を我が手に得んとね」
「まさかそなたが」
息を呑む美少女に蒜はゆっくり歩を進めていった。
「そう、俺がその蛭子の末だ・・・最も濃く尊い血をになう大神のご子孫を今こそ」


ゆっくりと細い肩を掴まれた。びくりとして逃げようとする力を後ろからまわした腕で
絡めとり、空いたほうの腕で強固に合わされた襟元を素早く広げる。被布と肌に溜められた
熱気が女の甘い匂いをからませながら周囲に立ち込めていくのを、蒜は楽しげに嗅いだ。
「何を!」
日名子は男の頭を両腕で押しやろうとしたが、その隙にからげ取られた腰紐で、両手を
後ろにしっかりと縛られてしまった。壁に背中があたり、男に挟まれる格好になる。

「まず、母親がわりに甘えさせてもらおうか、何も知らぬので無礼があるかもしれぬが」
先ほどの慇懃無礼な口調をかなぐり捨て、穏やかながら命令調の声音を響かせた。
ゆっくりと襟から白く透きとおるような肩を露出させ、肘まで着物を引き下げる。誰にも見せたことのない
白く形の良い胸乳が男の前にぶるぶると震えながら零れ落ちた。
日名子が何か言う前に、蒜はその谷間に顔を埋め、熱い吐息をあてた。
「柔らかくて温かい。吸い込まれそうな感触だな」
「いや・・・・離れて・・・」
嫁ぐということの意味を頭ではわかっていたものの、日名子は男の不精髭が自分の乳に
痛く刺さるたびに、どうにも説明のつかないおぞましさが背筋を這い回るのを少しでも軽減するため
身をよじらせた。

蒜は当然そんな言葉に耳を貸すはずもなく、無遠慮に片方の乳に強く吸い付き、もう片方の
乳に指を深くめり込ませた。舌のぬめりが突起を転がし、つついたかと思うと一気に
吸いついていく。甘く噛み付く。日名子は全身の血が一気に泡立ち、乳首に集中したような感覚を
覚えてかすかなうめき声を漏らした。蒜はすかさずもう片方の乳をもみ上げる。絞るように
握り締めたかと思うと、重さを楽しむかのように掌に乗せてかるく揺らす。また下から上へと
指先を使って撫で上げていく。
交互に弄ばれた豊かな乳房は汗と唾液で淫靡な艶を放ち、甘い体臭がそれをゆるやかに
包み込む。蒜がわざと音を立てて乳首を唇で弾き出したとき、日名子の忍耐は静かに
切れ始めた。

「お願い・・・やめて・・・うっ・・・く」
「これはそなたの---そなたに血を与えた者たちの罪だ。巫女姫に贖ってもらうしかない。
諦めてその身を我が手に委ねろ」

涙を湛えた黒い瞳が自身の胸に視線を落とす。男の舌で嬲られた筋がまだいくつも
走っているうえ、蒜は次から次へと新しい線を描いていく。乳首は既にもともとの桜色ではなく
吸い続けられて紅蓮に腫れあがっていた。

ぽん、と小気味よい音を響かせて男はようやく乳首を解放した。
ほっとする間もなく、いつの間にか肌蹴られた腹にその腕が伸びている。ゆっくりと
舌を下腹部に走らせながら、蒜は必死に仰け反るのをこらえている日名子の
表情を時折観察した。日名子の背中は壁に押し付けられ、腕はまだ後ろで
結わえられたままである。少し放心し、光が宿らなくなった瞳を眺めつつ、片手を
秘所にあてた。
「あっ」
短い悲鳴とも喘ぎともわからない声が漏れる。慌てて投げ出した両脚を閉じようと
試みたが、蒜の魔手に淫らな刺激を与えただけだった。
「すっかり濡れているぞ」
いかにも愉快といった風情で蒜は蜜壺から得たものを手に取り、日名子の
頬に擦り付けた。不快感でゆがむ顔すら悦楽の極みである。

日名子の膝を自分のほうへ引き寄せ、上体を押し倒すと一気に抵抗する
膝を広げて間に身体を挟みこむ。中指で女陰を撫でながら、先端を親指と人差し指で
摘みながら軽く引っ張ると、日名子の顔がますます歪み、嫌悪と快楽の響きが混じった
言葉が熱い吐息とともに漏らされた。
「やめて・・・弄ばないで・・・くっ・・・お・・・願い・・・」
「まだまだ、これくらいで屈服されてはつまらぬ。我が一族の恨みは一夜で解消されるものではないぞ」
酷薄な唇が小さく動く。秘所の周辺を彷徨っていた中指がその窪みに真っ直ぐ立ち、一気に
第二関節まで押し入った。
「きゃ・・・あ・・・いっ」
清冽な泉が湧き出ていても、一度も誰にも触れさせた事のない部分への刺激はかなり
強烈なものであり、日名子は痛みに耐えかねて喉の奥で小さな咆哮をあげた。
蒜の指がそのまま中を静かにかきまわし、そのたびに電流が走ったように柔らかな全身が
激しくうねる。ぴちゃぴちゃとした音が自身から発せられているとは信じたくなかったが、
耳を覆いたくても背の下で合わされた両腕は自由にならず、日名子は何度目かの溜息を
漏らすしかなかった。

やっと中指を抜き取ると、男は息も整わない日名子の腰を高く持ち上げると両脚を盛大に開き、
太腿に両腕を絡めてまだ滴っている秘所に鼻をあてた。
「盛った雌の匂いだな」
残酷な言葉とひんやりした鼻の感触と、男に見られているという恥辱が日名子を狂態に駆った。
激しく腰を振り、脚をばたつかせて蒜の攻撃から逃れようとしたが、想像以上に頑健な腕は
鉄のように微動だにしない。そのうち、ちゅくちゅくとした音が股間から聞こえてきた。

蒜が、日名子の花弁に唇をあてて溢れる蜜を吸っているのである。
時々先端に鼻があたり、微妙な刺激を与える。唇が大きく開いたかと思うと、舌が内部に
傍若無人に進入し暴れまわった。日名子の喘ぎ声が悲嘆の色を増し、かすれ始めてきた。
「あ・・・うっ・・・いや・・・あ」
桃色に染まった全身を見下ろしながら、蒜は嘲るような笑みをその顔に浮かべた。
「そろそろか」

抱えていた腰を床に戻し、逃げられないように腹に自分の足を乗せて牽制しながら
蒜は着衣を脱ぎ捨てた。
「俺の身体をご覧じませ、巫女姫様」
涙のたまったうつろな赤い目が男の肌に落とされる。
思わず息を呑んだ日名子の顔を見て、蒜は軽く微笑した。
その身体は全体的に海月のように透明で、窓から差し込む淡い月光を刺し通している。
透けた肌から白い骨がうっすらと見える。向こうの煤けた塗りの桟が男の胸板の
部分から見透かすことができた。

「これが蛭子神の末裔の証だ。光に負けぬ、陽光の中で生きていける肉体を持つには
どうしてもそなたの肉が要るのだ」


ゆっくりと日名子の戒めを解き放ち、残っていた着物を全て剥ぎ取るとそのまま
巫女姫に覆いかぶさる。男の熱い匂いが彼女にまつわりつき、それだけでも
圧倒されそうだったが、必死に華奢な身体を左右に振って思うままにさせまいと
か弱い抵抗を試みた。
「果敢だが、無駄なことだ」
鼻先で笑うと、男は立ち上がった自身の肉を、日名子の洞穴の入り口に宛がった。
日名子の瞳が驚愕と諦観の混じった色をおびて引き絞った弓のように丸く見開かれた。
「いや・・・やめて・・・」
そのまま男はゆっくりと腰を静めていく。半分くらい肉を分け入ったところで、
日名子は全身を貫く激痛のためその身を硬直させた。

「もっと力を抜け。そなたが苦しいだけだぞ」
その言葉に素直に従えるはずもなく、日名子は一層その裸身を強張らせた。
押し寄せて締め付ける肉襞の収斂を楽しみながら、男はなおも沈着な侵入を
やめようとはしない。日名子の喉から動物に近い絶叫が放出されたが、全く
意に介さず、突き当りまでじわじわと肉刃を突き通した。
ぬるんだ愛液が襞とともにまとわりつき、双方に絶妙な感覚を与えている。
蒜は喘ぐ日名子を激しくかき抱き、そのまま静かに全身で女の肌合いを
感じていた。甘い吐息と沸き立つ芳しい香り、しっとりしたきめ細かな白磁の肌。
肌を密着させることでそれらを余すことなく堪能する。
繊細な指は、もうほとんど抵抗する力を持っていなかった。ただ、時折小さな
弧を空中に描くばかりであった。


「動くぞ」
宣言してから、ゆっくりと女の上で腰を動かす。彼自身が出し入れされるたびに
巫女の身体は意に反して大きく仰け反り、二つの身はひとつの揺籃になった。
入れると誘うように出るときは縋るように肉襞が絡み、少しでも退けばその熱い肉を
埋めるがごとく内部の襞が押し寄せてくる。蒜は、眉間に深い皺を寄せ苦悶の
表情を消さない女を飽かず眺めた。唇は半開きになり、頬は火照りのあまり
紅潮している。

もっと乱したい。
その暗い情念は祖先からの血が成す業か、或いは。

蒜の動きが突然早くなった。日名子の焦点の合わなかった瞳に黒曜石の色が僅かに戻り、
耐え切れずに嬌声を放ち出した。
「いや・・・もう・・・だめ・・・あ・・・あ・・・」
片手が細腰を捕らえ、片手が乳房を嬲る。
「日名子」
名前を呼ばれて男の顔が間近にあるのを日名子が気づいたとき、はじめてその
唇が塞がれた。


下からは肉塊に突き上げられ、豊かな胸乳は激しく揉まれ続けている。抵抗の叫びは
蒜の唇に封じ込められる。首を振って一度は唇を離したものの、すぐに黒髪を
指に絡ませ向き直させられる。今度はゆっくりとした口付けだった。
「神から解放された只の女には、これは要らぬな」
髪を結わえていた和紙紐を引きちぎる。神との絆を引き裂かれたような感覚を覚え、
日名子は悲鳴をあげた。さらさらと光沢を放って零れ落ちる黒髪の感触を目と指で楽しみながら、
彼女の下に敷かないように上方へすくいあげる。

巫女の荒い息遣いを己の体内に送り込むように吸い込み、蒜は日名子の舌を追い求める。
生々しい唾液の味に眉をしかめ、必死に逃れようとするが甲斐なく脆弱な舌は絡め取られた。
「・・・!」
鼻で息をすることを一瞬忘れ、必死でもがくが、蒜はゆっくりと口内を蹂躙し、
日名子は男の落とした液を飲み下すまで唇を離してもらえなかった。
蒜の唇は嫌悪感に淀む日名子の瞼や頬、額、首筋と余すところなくその刻印を施していく。
身をくねらせれば、その向き合った肌をゆるく吸引する。どうにも逃れようがなかった。

「もう・・・限界だな」
やや恍惚とした響きを含んだ息が耳朶にかかり、甘噛みされる。
男のものが固く引き締まったように感じた刹那、彼女の奥底へ目がけて熱い精が
激しい勢いで放出された。
日名子の絶叫は、男の唇の中に飲み込まれていく。

果てても蒜は日名子から己を抜き取ろうとはしなかった。まるで異物ではないと、常から
一体であったと錯覚させるかのように、ゆるく動いて内部に馴染ませる。
子種を封じ込めるがごとく、長く長く。

随分時を経てからようやく全部抜き取った。蒜は自分の身体を見下ろし、
少し微笑を浮かべながら組み敷いた女に語りかけた。
「創生神の末裔よ。大したものだな、そなたの血筋は。俺の身体を見ろ」
濁って何も考えられなくなった頭をゆっくり振りながら、日名子は男の命令に従ってその身体を見つめる。
先ほどよりも肌の色が濃くなり、もう月の光に透ける肌合いではない。実り始めた果実のように
しっかりとした肉が色づきはじめている。
行為の最中は、殆ど目を瞑り何も目にしないようにしていた日名子だったが、確実な
変化を認めないわけには行かなかった。


「だが、完全に呪詛が解けた訳ではない。
そなたと俺の血を持つ子がこの世に出づるとき、やっと俺は・・・一族は血の楔から解放される」
「いや!妻になっても、子を成すなんて、絶対嫌!」
「わからぬ女だな・・・普通嫁したら子を成すもの。例え兄を殺めた憎い相手が夫でもな」
ぐったりと熱を帯びた日名子を抱き上げると、蒜は再戦のために別室に入った。


「・・・これは」
「このために取っておいた。自身がどんなに淫らか神の前で証明してくれ。婚姻の証だ」
どこにそんな気力が残っていたのかと思うほど、猛然とした勢いで戸口へ向かう日名子を
易々と抱き取る。蒜は「天の鏡」を前に、もがく日名子を膝の上に座らせ、背後から抱きしめて
乳房を揉み上げる。耐え切れず目を背けると一層乳房をきつく絞り上げられ、日名子は
背徳の姿をつぶさに見つめなければならなくなった。
「いやっ!それだけは嫌!」絶叫も、振り向かされる格好を強いられた上、唇で封じられる。

(どうしてこんなこと・・・わたくしが何をしたというの・・・)

虚ろに淀んだ瞳が鏡に映りこちらを見返している。男の腕が再び花園をまさぐり、
ゆっくりと日名子の脚を拡げて持ち上げ、背後から自身に突き刺すように収める。
蒜の腿の上に乗った状態で、日名子は鷲づかみにされた乳房が扇情的に揺れ、
自身の敏感な部分に赤黒い異物が何度も出入りするのを、鏡を通して情景として
脳裏に焼き付けさせられた。
目を逸らせない。逸らすたびに、蒜はきつく腰を打ちつけ彼女に苦痛を強いてくる。
自分の腿には、処女だった証の鮮血と男の種が混ざってこびりついている。
(早く終焉を・・・)
彼女の願いも空しく、男はその後も彼女の奥底へ己の子種を浴びせ続ける。

その淫蕩な光景を、天の鏡は余すところなく映し出していた。




      −完−