辺り一面の暗闇の中、ただ聞こえるのは、ぜえぜえ、という男の荒い息のみ。
次第にその間隔は短くなり、何かうなされているような呻き声も混じるようになり・・・

「あっ!」

唐突な叫び声とともに、男は跳ね起きた。
青年と言われる年齢だが、汗でびっしょりと濡れたその裸の上半身は、
まるで思春期の少年のように痩せ細っている。
かつては端正であったその容貌も、夜毎の悪夢に苛まれた今となっては、げっそりとやつれている。
ベッドの上で半身を起こした状態で、彼は頭を抱えた。

・・・まただ。
・・・この先幾夜、こんなことを繰り返せば、忘れられるのだろう・・・

「・・・どうしたの?」

寄り添って寝ていた女が、脂汗で滑る青年の額へと手を伸ばす。
その柔らかく、ひんやりとした掌は、悪夢に焼け付いた今の彼にとってひどく心地良い。
・・・彼女こそは、ようやく彼が辿り着いた安らぎそのもの。
これまでに随分と紆余曲折が在ったが、今はただ、青年はその身を彼女に委ねるだけである。
彼女の温もりが無ければ、青年はとうの昔に、自ら命を絶っていたことだろう。

「ねえ・・・大丈夫?」

その落ち着いたアルトの声音には、無償の慈愛が滲み出ている。
ベッドサイドのランプをつけると、女は上半身を起こし、
覆いかぶさるように、そっと青年を抱き締めた。

年の頃は、青年よりも3つか4つ上、20代半ばというところだろう。
・・・自然に生え揃った美しいアーチを描く、眉。
・・・切れ長で釣り目気味の二重瞼の奥に輝く、ライトブラウンの瞳は、
見る者に芯の強さを予感させる。
・・・すっ、と通った形良い鼻梁の下の唇は、サイドランプの仄かな光に照らされて、
パールピンクの艶やかな光沢を放っている。
・・・少年時代の懐かしい思い出を蘇らせるような、甘く切ない香りが青年を包む。
だがどこか憂いを帯びた、そして思い詰めたような雰囲気が、その類稀な美貌に影を落としている。
・・・・・・影を作った原因は、青年であり、また彼女自身の責任でもある。

「ごめん・・・起こしちゃったね・・・」
「別にいいわよ・・・いつものことだし。何か飲む?」

青年が小さく頷くと、女はベッドから降り立った。
引き締まっているが、豊かに恵まれたその長身の体躯は、それまでずっと抱き締めていた青年の汗で、
ニスを塗った白木のように濡れていた。
燐光を発するようにほの白く輝く裸体が、深夜の寝室の暗闇の奥へと消えてゆく。
程なくして戻ってきたとき、女の手には透明な液体が一杯に注がれたグラスが握られていた。

「これ、ただのミネラルウォーターだけど・・・飲んでみる? きっと落ち着くわよ。」

グラスを受け取ると、青年はゆっくりと飲んだ。
目の周りに深く刻み込まれた隈や、脂汗で額に張り付いた前髪が痛々しい。
彼の上半身には、いくつかの傷跡がある。
中でも目を引くのは、刃物によるとおぼしき、一直線に伸びてひきつれた脇腹の傷跡だ。
だが、体に刻まれた傷跡よりも彼を苛むのは、
心に刻まれた・・・おそらく終生消えることの無い、思い出という傷跡である。

「怖い夢でも見てた?」
「・・・いや、昔を思い出してた。ずーっと昔の頃・・・僕がまだ小学生の頃のことを・・・」

その言葉を聞くと、女はその整った眉を軽く顰めた。
そして一拍置くと、引きつったようなかすれ声で、

「・・・ひょっとして、恭子さんのこと?」

ややあって、青年は諦めたように、ゆっくりと頷いた。
それを見て、女の長い睫が寂しそうに伏せられる。
以前であれば、この名前を聞くだけで彼女は激昂しただろう。
だが、彼と恭子・・・水原恭子という女の間には、彼女がどうあがこうと断ち切れぬ絆がある。
絆を利用するだけ利用し尽くして、心身ともに取り返しがつかぬ程青年を傷つけた恭子が憎い。
だがそれ以上に、すぐ傍に居ながら何もしてやれなかった自分の弱さが、
無知ゆえに青年の傷を深めてしまった自分の無思慮さ加減が、憎い。
そしてようやく、彼女が自分の気持ちに素直になれるだけの強さを持った時、
全ては手遅れになっていた。
水原恭子も、その共犯者達も、もはや手の届かぬ遥か彼方に行ってしまった今、
彼女に出来ることは、凍てついた彼を、ただひたすらに抱き締めて温めるだけである。

「ごめん・・・こんなままで・・・」

空しい謝罪の言葉を、青年はぽつり、と漏らした。
少年時代の軽口も、はにかむような笑みも、もはや彼の顔に浮かぶことは無い。
変わらぬのは、目の前に居るこの年上の美しい女への、敬意と優しさだけである。
しかしそれも、今の彼女にとっては、心のどこかで遠ざけてられているような、
よそよそしさに感じてしまう。

「・・・もう忘れたらなんて、わたしには言う資格、無いよね・・・」

やり切れぬ無力感が、女の全身を浸してゆく。
しかしそれを振り払うように、うなだれる青年の頭を、彼女はその胸にそっと抱き締めた。

「でもね・・・これからはずっと雅紀と一緒だから、きっと大丈夫・・・」
「ありがとう・・・佳織・・・姉さん・・・」

そして、再び二人でベッドに横たわる。
さほど青年と丈の変らぬ女・・・桐谷佳織は、
その長い四肢を弟・・・桐谷雅紀の身体に絡め、
母が幼子にするように、その頭を撫でてやる。
サイドランプを消そうとして、ふと枕元の時計に目をやると、

「・・・あれ、もう3時だね。どう? このまま眠れそう??」
「ん・・・わかんない・・・起きて何かしようかな・・・」

ふと少女の時分に戻ったような、悪戯っぽくも無邪気な微笑みを浮かべると、
佳織は枕元に肘をついて起き上がった。
緩くウェーブがかかった、艶やかな亜麻色の髪の先が、雅紀の頬にかすかに触れる。

「・・・あのさ・・・疲れることしたら、眠れるかもよ?」
「ん、何? 姉さん」
「・・・あしたは日曜だし、のんびりしていられるから・・・」

佳織は、上半身に掛かっていた毛布を払った。
そして、雅紀の顔の両脇に手をつき、見下ろす姿勢から、ゆっくりとその唇を近づけてゆく。
返事など待たずに、弟の唇を塞ぐと、

「・・・いいよ、ね?」

かすれた声で囁く佳織に、雅紀も、もちろん逆らおうなどとはせずに、

「うん・・・」

お互いの背に腕を深く廻すと、姉弟は堅く抱きあった。

「・・・あ、ちょっと待って、姉さん」
「ん〜? この後に及んで、往生際が悪いぞ??」
「いや、そのぅ・・・するんだったらさ・・・アレ、取ってこないと・・・」

弟を見つめるライトブラウンの瞳が妖しく輝き、
幸せだった少女の頃に戻ったかのように、軽口がすらすらと口をついて出る。

「あれぇ、自信あるんだ?」
「・・・な、なんだよ?」
「『ああ、この抑えきれない情熱をゴムで包まないと、
ボクは大好きなお姉ちゃんを孕ませてしまうかもしれません』って事でしょ?」

佳織は蟲惑的な笑みを浮かべると、雅紀の腰を跨いでベッドの上で膝立ちになり、
大袈裟な身振りで両手を天井に向かって差し伸べるた。

「おお! 一体なんと嘆かわしいことでしょう!? 
ただひたすらに人肌の温もりを求めるだけの、この哀れな姉の願いに、
意地悪な弟は耳を貸そうとしないのです!!」

姉が見せた、場の空気にそぐわぬ茶目っ気ぶりに、
雅紀は久しぶりに声を上げて笑った。・
・・・確かに、今の関係に到ってからそれなりの時は過ぎているし、
現に今だって、二人で一つの毛布に包まって寝ていたのだ。
・・・そう、昔から悪い遊びや、規則の抜け道を教えてくれるのは、佳織だった。
そして今も、きっと・・・

「い、いや、やっぱり、その、無しってのは・・・
これまでだってそこらへんちゃんと気を使っていたしね・・」

なおも躊躇する雅紀の頬を、佳織がそのなめらかな白い両の手でそっと包んだ。
はっ、と驚く雅紀の目前には、少女の無邪気さと、喪失の辛さを知った大人の表情が
入り混じる姉の端麗な顔がある。
吐く息が、弟の鼻先をくすぐる距離で、佳織は囁いた。

「・・・ん? じゃ、弟として、姉の生理を一撃で止めてみせる自信がある?」
「なッ!・・・なんだよ、変なふざけ方しないでよ・・・」

どぎつい言い廻しで煽る佳織の瞳は熱っぽく潤み、薄明かりの中でもはっきりと判るほどに
頬が朱に染まっている。

「ふざけてなんかいないよ? 今日は大丈夫だって・・・」
「・・・・・・ホントに?」

佳織は、雅紀の額を軽く小突くと、

「・・・コラ。お姉さまの云う事に、いちいち疑問を挟むな。」

くすくすと笑いながら、佳織はベッドからフローリングの床へ降り立った。
そして、

「・・・およ、よっと。」

という小さな掛け声とともに、ひょい、と脱いだライトブルーのハイレグショーツを、
暗がりの奥へと投げた。

「うっわあ、流石にちょっと寒いなあ・・・ま、すぐにあったかくなるか。ね?」

12月の夜寒に腕を擦りながら、ベッドに再び潜り込んできた佳織は、
その豊かな白磁の胸を、弟の薄い胸板に乗せて押し潰した。
雅紀の胸元で、姉のパールピンクの尖った乳首が、まるで暗がりを照らさんばかりに煌いた。

「ほら、雅紀もさっさと脱いで」

弟を押し倒すような体勢で抱き合ったまま、佳織は右手を雅紀の下半身に廻し、
するすると器用にトランクスを脱がしてゆく。

「もう・・・強引だなあ・・・」
「ごちゃごちゃ言わないの。ね、ちょっと腰浮かして?」

佳織は脱がせた弟のトランクスを、自分のショーツと同様に、ベッドの脇へ放り投げた。
そして、一糸纏わぬ生まれたままの姿に戻った姉弟は、一つのベッドで四肢を絡め合った。

「うわっ、姉さん肌冷たッ! やっぱり毛布掛けようよ?」

全身でぎゅっ、と抱き締めるかのように、
佳織は、その長い両脚を雅紀の細い腰に、左手を背中に、そして右手を雅紀の頸に絡めた。

「だめよ、じゃまだもん・・・あ、雅紀はあったかいね・・・やっぱ男の子だねぇ・・・」

佳織は、唇を突き出すようにして雅紀の顔に近づけた。
雅紀が目を軽く閉じると、佳織はその唇をぺろり、と舐め、
軽く開いた口の隙間から、前歯を割ってヌルッと舌を深く挿入していった。
柔らかく熱い姉の舌の感触を受け止めた雅紀は、
両手を、折れてしまいそうなほど細く薄い佳織のウェストに廻して抱き締めた。
腕の中にお互いの身体をすっぽりと包み込みながら、姉弟はディープキスを続けた。
・・・スレンダーだけれども、要所要所に程好いボリュームを誇る佳織の肢体に、
少しずつ熱が篭り始める。

「・・・ん・・・んフッ・・・はムんッ・・・」

姉の甘い鼻息が、雅紀の小鼻をくすぐる。
佳織と雅紀は、口蓋内で啜り上げるように、互いの舌と舌を絡め合った。
いつものペパーミントの香りに、ほんの僅かな生臭さが加わった佳織の吐息が、
雅紀の肺腑の隅々まで染み渡ってゆく。
・・・静かな深夜の寝室に響くのは、姉弟が漏らす荒い鼻息と、
近くの海岸に打ち寄せる、冬の浪飛沫のかすかな響きのみ。
・・・時が経つのも忘れるほどに、十分にキスを堪能した佳織は、
二人の間に銀糸の吊橋を煌かせ、軽く雅紀の下唇を咬んでから、ようやくその唇を解放した。

「・・・こうして、お姫様の熱いキスで、王子様の呪いは解けたのでした。めでたし、めでたし。」

軽く小首を傾げ、その寂しげな美貌を潤ませて囁いた佳織の一言は、
雅紀の胸の奥に、懐かしい思い出と苦い記憶の両方を掘り起こした。

「・・・姉ちゃん、それ普通と逆」

雅紀はつい、姉ちゃん、という昔の呼びかけで答えてしまった。

「いーの。終わり良ければ、全て良しなんだからさ・・・」

・・・僕が7つの時、事業に失敗して莫大な借金を抱えた父は、
かねてから折り合いの悪かった母と別れた。
母は姉を引き連れてさっさと実家に帰り、そして途方に暮れた僕を抱えた父は、
ともかく必死になって身元の引き受け先を捜し回った。

「・・・すまん。」

ある晩、僕を前にした父は、いきなり土下座して謝った。

「今更どしたの?」
「母さんには、お前を引き取るゆとりは無いそうだ。
だから・・・お前が恭子と一緒に暮らせる見込みは無くなった」

身の回りの色々な物が差し押さえられ、急速に日常が崩壊してゆく様をリアルタイムで
見ていた僕は、極めて淡々とその言葉を受け止めた。

「まあ、時々会いに行くことくらいは出来るんでしょ?」
「まあな・・・それでだ、お前はこれから兄貴の家で暮らすことになった」

父の兄、つまり僕の伯父は、一部上場の製薬会社の役員をしているというかなりの人物で、
妻と、一男一女の4人で大邸宅に住んでいた。
脱サラしてやくざなベンチャー起業に手を出した父とはあまり仲が良くなかった筈だけれど、
事態が事態だけに、救いの手を差し伸べてくれたというわけだった。

「まァ、いいだろ? 雅紀には新しい兄さんと姉さんが出来るんだぞ?」

もはやこの期に及んで贅沢を言えた身分では無かったが、それを聞いた僕はかなり憂鬱になってしまった。
父だって、家庭を崩壊させてしまった責任感から、なんとか僕を元気づけてやりたいという意図があったのだろう。
・・・しかし、新しい兄弟になるという従兄弟達、特にその姉の方は、非常に付き合いづらい性格の持ち主だった。
これまでにも、正月休みなどの機会に家族ぐるみで会いもしたが、彼女とはろくに話も出来なかった。
・・・・・・そんな連中とこれから一つ屋根の下で兄弟付き合いをしていけってのか・・・

翌日、僕は父に連れられて湘南にある伯父の家に挨拶に行った。
やけに嬉しそうな伯母と、微妙な笑顔の伯父、そして兄となる桐谷武史が出迎えてくれた。
武史は僕よりも7つ年上で、ニキビと目やにが目立つ肥満体の中2だった。

「おや? 武史、佳織はどうした?」
「・・・部屋に居るみたい」
「じゃ、呼んでこい」
「やだよ。昨日から機嫌悪いし、何か言うとすぐ殴ってくるんだもん」
「・・・妹の顔色を伺うとは、しょうがないヤツだな。
お〜い、佳織! 降りてきなさい!!」

ややあって、Tシャツに短パンを履いた女の子が、のそのそと2階から降りてきた。
兄とは対照的にほっそりとしており、それなりに可愛い筈だけれども、
眉間に皺を寄せて、明らかに機嫌が悪そうだった。

「・・・こら、佳織。今日からお前の弟になる、雅紀ちゃんだ。去年の暮れにも会ったろ?
挨拶くらい、ちゃんとしなさい」

僕より4歳上の桐原佳織は、じろじろと僕をにらみ付けたあげく、

「・・・ふん」

と呟くだけだった。


胸の奥底に直接語りかけるような佳織のアルトの囁きに、雅紀は涙が零れそうになった。
この深く、優しく、包み込むような雰囲気は、幼い頃から一つ屋根の下で暮らし、
長い時間を共有した間柄ならではの動かぬ証拠である。
・・・佳織は、雅紀の姉なのだ。
この世の誰よりも、大切な、かけがいの無い年上の女(ひと)なのだ。
もちろん、佳織にとっても、雅紀は命に換えることも厭わない、
この世にたった一人の弟である。
・・・同じ父母から生まれた実姉弟では無いにせよ、この絆は決して揺るがない。
もしもこの絆が揺るぐなら、この絆に終わりが来るとすれば、それは・・・・・・

「・・・どうしたの? そんな泣きそうな顔して」

佳織の澄んだ眼差しが、優しく力強く雅紀を見据える。
雅紀は無言で、その視線を受け止めた。

「僕は、姉さんのことをずっと・・・」

それ以上言葉にする必要は無い、という風に、佳織の人差し指が雅紀の口元に添えられる。

「・・・変らないよね、その表情。昔っから良くそんな顔してたよね・・・」

そう言いながら、佳織はその細くしなやかな指で、雅紀のほつれた前髪をそっと梳かす。

「お姉ちゃんがちょっと優しくしただけで泣きそうになるなんて、
やっぱり雅紀はまだまだ子供だねぇ・・・」

いつのまにか、佳織の手が雅紀の下腹部へと降りてゆく。

「・・・で、こっちは十分育ったかな?」

雅紀の屹立しきった男性器は激しく脈動しながら、なめらかに引き締まった姉の下腹部に密着している。
その部分を、佳織はかるく掌で包んだ。

「あ、あうッ!」

身体中で最も敏感なその部分を、じっとりとまさぐられるその感覚は、
幾度身体を重ねようとも、そうそう慣れるものではない。
ペニスから睾丸までを、繊細に丹念に愛撫されて、雅紀は身体をよじらせて呻いた。

「・・・もぅ、たったこれくらいでそんな可愛らしい声出すなんて・・・今晩大丈夫?」

佳織の愛撫は、まるで丹精込めて精錬した刀身を検分する刀鍛治のような細やかなさと執拗さで続いた。
もう時間帯としては『今晩』というよりは『今朝』だろうな、
などと雅紀は頭の片隅でぼんやり思いながら、
優しく焦らす様な姉の指の動きから逃げようと、無意識に腰を引いた。

「こら! 逃げたりすると・・・こうしちゃうぞ?」

佳織はくすくす笑いながら、顔を真っ赤にして身悶えする弟の左の耳朶に、
ふうッ、と吐息を吹き込んだ。

「・・・ひあッ!」

姉の吐息の燃え上がるような熱さに驚いた雅紀は、思わず左腕を持ち上げて耳をガードした。

「おっと、そんな抵抗するような悪い子にはぁっ!」

佳織は雅紀の左手首を掴むと、今度は素早く引き上げてその脇の下を露出させた。

「ちょ、ちょっと姉さん! 何すんの!?」
「え? 何って、そりゃあ・・・」

まばらに腋毛が生えた雅紀の脇壺へと、佳織はためらうことなく唇を寄せていった。
そのまま弟の脇壺に、その可憐な唇と鼻先を埋める。
その間も彼女の左手は、雅紀の股間の強張りを包み込んだままである。

「・・・お姉ちゃんに歯向かった、お・し・お・き♪」

その紅潮した頬が、興奮度を如実に示す一方で、そのからかうような、いかにも小悪魔的な口調からは、
佳織が明らかにこの状況を楽しんでいる様子を伺わせる。

「ちっ、ちょっとホント、そんなの姉さん止めてよ! ひやぁああ・・・恥ずかし過ぎるぅ・・・」
「・・・だって、恥ずかしいからお仕置きになるんでしょ?」

佳織は舌を小刻みに動かして、雅紀の脇の下をちろちろと舐めた。
脇壺へと浴びせられる佳織の鼻息と舌先は堪え難いほどにくすぐったく、
その上その箇所の薫りをクンクンと、姉に嗅がれたとあっては、
雅紀の羞恥は最高潮に達した。

「僕、昨日の晩お風呂入らなかったし、そんなとこ汚いって・・・」
「さっきまで一緒に寝てたから気にならないし、それにちっともイヤな匂いなんてしないよ?
・・・・・・大体わたしの雅紀に、汚いとこなんてどこにも無いわよ・・・」
「またそんなこと言って・・・僕が姉さんの匂いを嗅いだりすると、すぐ怒るくせに・・・」
「・・・わたしはいいの。あんたはダ〜メ・・・」

一度火が点くと、佳織の愛撫は、熟知する弟の体から丹念に、執拗に、快感を穿り出すまで
延々と続く。
もはやくすぐったいのか、それともこれら全てが快感へと転化しているのか判然とせぬまま、
雅紀はその少年のような細腰をくねらせてよがり声をあげた。

「あッ・・・ああッ・・・ちょっ、ホントにもう、姉さんやめて・・・」

苦しそうに喘ぎながら懇願する弟の切なげな表情を見て、佳織はちろッと舌を出して微笑んだ。

「・・・ゴメン。さすがにやりすぎた?」

薄い胸をはふう、はふう、と喘がせながら、雅紀はがくがくと頷いた。
密着する乳房を通して、その力強いどぉん、どぉんという鼓動が、佳織の体奥へと染み渡ってゆく。

「じゃあ・・・そろそろ、ね?」

じっと見つめる猫科の肉食獣のような姉の眼差しに、雅紀は唾を飲み込んでからこくり、と
小さく頷いた。
いつもなら、これから失神しかねないほどの下半身への口唇愛撫が続くはずである。

「・・・・じゃあさ・・・こう、胡座かいて、座って?」

え?という、やや拍子抜けしたような面持ちで、雅紀は言われたとおりにベッドの上に脚を組み、
胡座をかいて佳織と対面した。

「・・・これでいい?」
「そう、そんな感じで・・・ちょっと待ってね・・・」

佳織は股をやや開き気味にして膝立ちすると、左手を雅紀の肩に置き、
そして右手を自らの股間へと伸ばした。
すると、その密やかな陰りの間でひとしきりしなやかな指が踊り、
そして再び手を引いたときには、その指と股間の間を結ぶ粘液の架け橋が、
サイドランプの薄明かりに微かに煌くのを、雅紀ははっきりと見た。

「・・・うん、もう好いみたい・・・」

胡座をかいた膝の中心部で、びくん、びくんと脈打ちながら
反り返るように完全に屹立し、稲妻のような静脈を浮かびあがらせる
弟のペニスに、佳織の視線は釘付けになっていた。

「じゃあ、いくね・・・」

両手を愛する弟の肩に置いて、
佳織はその膝の間を跨ぎ、乗馬する騎手のような姿勢でゆっくりと腰を沈めていった。

「あうっ・・・」

自分のペニスの先端が、いまやたったひとりの、唯一の姉・・・
かつては実の姉と区別して『佳織お姉ちゃん』と呼んでいた、その愛する姉の、
胎内への入り口に触れた瞬間、雅紀が切なげな声を放った。

「・・・ふうっ!」
「くうぅっ!」

佳織が思い切って一気に腰を沈めた瞬間、姉弟は同時に声を重ねた。
まるで胎内深くまで弟の『カタチ』を刻み込むかのような、
熱く硬い、ずっしりとした存在感が佳織の下腹部をうずめた。
コンドームの隔たりも無い今は、弟の分身に浮き上がった静脈の一本一本に到るまでを、
佳織は感じ取ることができた。
抜けるように白く、きめ細かなその太股が、まるで熱帯雨林に住む逞しい大蛇のように、
雅紀の腰へと絡みつく。
今や愛し合う姉弟は。汗を滲ませ合って深く一体となった。

「・・・あ、熱い!」

あの薄いゴム一枚の隔たりが無いだけで、こうも感じる温かさは違うのか、
これが、本当の姉さんの体温なんだ・・・と雅紀は驚いた。

「・・・姉ちゃんの中、そんなに温かい?」

軽く眉を顰め、真っ白な喉元を仰け反らせた佳織は、かすかにうわずる声で尋ねた。
そして両脚を一層きつく雅紀の腰に巻きつけ、さらに両腕を堅く雅紀の頸に廻して、
まさに佳織は全身を使って愛する弟を抱き締めた。

「・・・うん。すごく熱くて・・・ぎゅっと包んでくる・・・」

この対面座位の姿勢では、雅紀の顔はちょうど佳織の豊かな胸に埋められたかっこうとなっている。
だから雅紀の返事は、佳織の胸元から漏れ聞こえた。

「そうだよ・・・それがお姉ちゃんの温もりだよ・・・
この先ずーっと、この温もりで雅紀を守ってあげる・・・だから、」

だからせめて、今この瞬間だけでもこの腕の中に閉じ込めておきたい、
いや、いっそのこと雅紀が胎児に退行して、この胎内に閉じ込めることが出来たなら・・・
とさえ、佳織は念じた。

「・・・雅紀の帰る場所は、ここだからね・・・」
「姉さん、これだとちょっと苦しいよ・・・僕も動けないし・・・」
「やだ。じっくり楽しみたいから・・・動いちゃだめ」

まるで幼児のように姉の胸元に顔を埋める雅紀に向かって、佳織は甘く囁いた。

「ごめん、雅紀・・・お姉ちゃんウソついちゃった。このまま明日の昼まで、雅紀は眠らせないよ」






お姉ちゃん・・・
そう、かつては、雅紀も佳織をお姉ちゃんと呼ぶことにためらいを感じていた時期もあったのだ・・・