(────たいした使い手じゃないな)
突然の襲撃。
相手は一人。
恐らくは、暗殺者。
不意打ちの初撃で仕留められなかったのは、それだけで致命的なはずだ。
腕だけ見るならかなりのものだが、迷いがある上に、相手は事を急いている。
存在を気付かれているのに引かずにちょくちょく牽制してくるのが、いい証拠だ。
手持ちの武器が小振りな短剣一本のみというのは少々心許ないが、まず殺られはしないだろう。
眼を閉じ、その禍々しい殺気を探る。
見るな────と言うのは、師の口癖だ。
隠れ鬼が好きな相手は目ではなく、心(シン)で追う。
(────反撃、開始だ)
路傍の石を拾うや否や、思い切り敵が潜む叢に投げつけた。
同時に、一息で間合を詰める。
当然、石は弾かれた。
狙うのはその一瞬の隙だ。
草がざわめく。
躊躇はしない。
葉と葉の間に見えた白い肌を、殺すつもりで一薙した。
「────ッ!」
耳をつんざく金属音。
弾かれそうになる短剣を握り締めながら、敵と対峙する。
「女、か────」
珍しい話じゃない。
むしろ、俺の、殺すつもりの一撃を凌ぐ奴のほうが珍しいかった。
「くっ!」
「やめとけ、暗殺者が正々堂々戦って、勝てるわけないだろ?」