男は重い溜息をついて歩いていた。
 最近では珍しい着物姿だが、彼の家柄を知るものであればそれを疑問には思わない
だろう。
 彼の家は古き歴史を持つ闇払いの中でも四大退魔と称される名家の一つだった。そ
の名を架神という。
 彼が愛しい人の許へ向かっているというのに陰鬱そうなのもそこに原因があった。
 架神の家は近年衰退していた。彼の祖父の代から強力な使い手が生まれなかった
のだ。もとより架神は直接の戦闘力は高くない。彼らの力は力の流れや人の思念が見
える、という戦闘に関しては補助的なものでしかなかったし、混血でもなければ強力
な秘術が伝えられているわけでもない。結果、彼らの得意とする護衛の仕事も碇や天
原といった戦闘専門の連中に回っていってしまっていた。
 架神の長老たちはこの状況を打開するためにより強い子を求めた。しかし超越者で
ある架神家の力『心眼』は継承率のずばぬけて高い九浄家と違い、力を持たずに生ま
れる子も珍しくない。その状況下で強力な使い手が生まれる確率など一体どれくらい
なのか、考えるのも虚しくなる。
 継承率を高める術がない以上、架神家のとる手段は一つ。とにもかくにも数を産む
ことだった。代々に受け継がれてきたその考えだが、彼の父の代からそれは病的なま
でになっていた。
 実際彼のたくさんいる兄弟たちは皆その考えを実践していた。兄や姉たちは例外な
く子持ちであるし、一つ下の弟も十五になるからそろそろ小作りを始める時期だ。十
三の妹はすでにこの冬、子を授かった。
 だがしかし、次期頭首という身分でありながら彼には跡継ぎ問題に関しての興味は
皆無だった。たまたま彼の父が頭首をしていて、彼の力が他の兄弟の誰よりも強かっ
たという理由で授かった身分だ。思い入れなどあろうはずがない。
 男子は十五、女子は十三、という定められた子作りを始める時期を過ぎて一年にな
ろうとしているが、彼はまだ子を作るつもりはなかった。
 理由は単純明快。十四という幼い年齢の少女に出産は大きな負担となると思ったか
らである。偏に愛する許婚を思ってのことだった。


 いつもの池のほとりに彼女はいた。こっちに気付かずに一心に池の中を覗いている。
薄桃色の着物をきた姿は日本人形のようだ。
「ゆな」
 声をかけると顔を上げてこちらを向き、顔を輝かせて走り寄ってくると勢いそのまま
に飛びついてきた。
「コウちゃんおそいーーーーーっ!」
 不意のこととはいえ、小柄な彼女に飛びつかれた所でそう大きくバランスを崩すもの
ではない。首にしがみついてくる小さな身体をそっと抱きしめた。
「悪い悪い。また爺様方に捕まってな」
 今は従妹の彼女だが、相応の年になれば俺の妻になる。俺の身分を考えれば架神家の
姫様になるはずなのだが、落ち着きのかけらもない。
「もうっ!最近のコウちゃんそればっかり。ちっとも私にかまってくれない」
 彼女は俺のことをコウちゃんと呼ぶ。耕太だからコウちゃん。子供の頃から変わらな
い呼び名だ。恥ずかしいので止めて欲しいのだが、優菜のことを縮めてゆなと呼んでい
る俺には何も言えない。
「いやだから何度も謝ってるじゃないか、わかってくれよ」
 次期頭首などというしち面倒くさい身分のせいでここ数日ゆなにかまっている暇がな
かった。しょうがないことなのだが、ゆなはいかにも不満そうに頬を膨らましている。
「ごめんごめん、今日は一日中付き合うから機嫌直してくれよ」
「ほんとうっ!?ほんとにずっといてくれる!?」
「もちろん本当さ。俺がゆなに嘘ついたことあるか?」
「ううん、ない」
 声を弾ませて息が止まるほどきつく抱きしめてくるゆなは十四という実年齢よりも幼
くみえる。小柄な身体や大きな眼、両耳の上で結んだ髪などの外見に合わせるように精
神面もまた幼いようだ。
 かといってそれが厭であるか、と問われれば俺は全力で否定するだろう。彼女の元気
な姿を見るだけで、いや声を思い出すだけで煩わしいことを全て忘れることができた。
「さて、じゃあ今日は何をしようか?ゆなは何がしたい?」
 俺の身体を離したゆなは少し考えて言った。
「んとねえ・・・そうだ!私新しい曲弾けるようになったんだよ。聞いてくれる?」
 ゆなは昔から琴が好きだった。架神の家に生まれた以上嗜みとして習わされるが、彼
女はそれを心の底から楽しみ、今ではこの家に琴でゆなの右に出るものはいない。
「そうか、それは楽しみだ。是非聞きたいよ」
 俺がそういうとゆなは贈り物でも貰ったかのように喜んだ。


 梅の香る庭に柔らかな琴の音が響く。
 曲名なぞ知らないがそのやさしい音色を聞いていると心が洗われていくようだった。
 まるでこの世からただ二人だけがどこか暖かなところへ切り離されたような気がした。
いや、もしかしたら本当にそうなのかもしれない。ここは重苦しい身分もありがた迷惑な
お小言とも無縁の場所だ。とても、安らかになれる。
 やがて演奏が終わり、草の上に寝転がっていた俺の顔をゆなが覗いてきた。
「どうだった?ちょっと緊張しちゃって音が乱れちゃったけど、そんなにひどくなかった
はずだけど」
 期待半分、不安半分といった顔で尋ねてくるゆなに俺は彼女の琴に負けないくらい優し
い声で答えた。
「相変わらずの凄腕だな。この世に勝るものなしって感じだよ」
「ちょっと、剣じゃないんだから。もうちょっと芸術的な表現してよぅ」
「やれやれ、琴を弾いているときのお前はおしとやかに見えるんだがな。その半分でいい
から普段も落ち着いてられないか」
 俺の軽口にゆなはむーっ、と唸って怒った。
 その顔がとても可愛かったので寝たままその顔を抱き寄せた。
「やっ、ちょっと!」
 突然のことに少し驚いた声を出したが、さして抵抗することもなくゆなは俺に抱きしめ
られていた。
 俺はこの温もりさえあればいいのだ。跡取りがどうとかいうのは兄弟に任せておけばい
い。俺はずっと彼女を抱いていられれば、それでいい。


 数日がたち、俺は十六になった。誕生会は一族総出の豪勢なものだったが、そんなもの
よりもゆなの笑顔のほうがずっと俺は嬉しかった。
 宴会もお開きになり、俺が自分の部屋に戻ろうとするとゆながついてきた。
「どうした?眠れないのか?」
「うん・・・ちょっとね」
 ゆなはたまに眠れなくなると話をしに俺の部屋に来る。今夜もそうなのだろうと思った
が、ゆなの顔を見ているとなにかいつもと違う感じがした。
「何かあったのか?」
 頭一つ分下にあるゆなの顔を見て尋ねる。ゆなは煮え切らない態度で言いよどみ、結局
部屋に入るまで何も聞き出せなかった。
「布団、敷こ」
 話がしたいのなら布団を敷く必要はないだろう。まさかこの年で一人で寝れないという
訳でもあるまい。俺はゆなが何をしたいのかわからなかった。困惑する俺を置いてゆなは
押入れから布団を引っ張り出して綺麗に敷いた。
「ゆな、何を?」
 改めて聞くとゆなは敷いたばかりの布団の上にちょこんと座って言った。
「ええとね、私ももう十四で、コウちゃんも今日で十六でしょ?だから、だからね。今夜
は・・・て欲しいなって」
 最後のほうはごにょごにょと口ごもっていて聞き取れなかった。俺が怪訝な顔をしてい
るとゆなは一度大きく息を吸って言った。
「だから今夜は私を抱いて欲しいなって!そう言ったの!」
 いや、顔を真っ赤にして叫んだ。おそらく家中に聞こえたことだろう。
「抱く、ってお前。それは・・・」
 俺の呟きなど聞こえないように、ゆなは続けた。
「それでそれで、コウちゃんと私の子供が欲しいなってそう思って、家のみんななんか関
係なくて、私自身がそう思ったから!それで、それで・・・」
 ゆなはもはや半泣きだった。嗚咽を漏らす小さい身体を強く抱きしめる。
「ゆな・・・ごめんな」
「コウちゃん。コウちゃぁん」
「ゆながそう言うなら。そう言ってくれるなら、何も悩むことなんかない」
 抱きしめていた身体を離して、濡れた瞳を見ながら一言一句力を込めていった。
「ゆな、俺の子を産んでくれ」
 その言葉を聞くとゆなは俺に抱きついて何度も何度もありがとう、と言った。

「なんだか、恥ずかしいね」
 着物の帯を外しながらゆなが言った。確かにそうだ。別に裸を見せるのが初めて、とい
うわけじゃないがこれからの行為に繋がると思うと裸でいるのが急に気恥ずかしくなる。
「こっちむいていいよ、コウちゃん」
 言われてゆなのほうを向くと、彼女はすでに一糸纏わぬ姿になっていた。片手で薄い胸
を隠し、もう片方の手は恥部を隠している。
 電気を消した部屋に入り込む、薄い月明かりを浴びて未発達の裸身が妖しく光る。
「綺麗だよ、ゆな」
 俺が本心からそういうとゆなは顔を赤くして俯いてしまった。
「もっとよく見せて」
 俺がそう言って乳房を隠す手を退けるとゆなは小さく声を漏らしたが、あえて抵抗しよう
ともしなかった。
 新雪のような肌。控えめに膨らんだ乳房を優しく揉みしだく。
「あ・・・」
 ゆなが甘い吐息を漏らす。たまらなく興奮して胸の蕾に吸い付いた。
「あっ、んぁ」
 ぴちゃぴちゃと水っぽい音とゆなの熱い吐息。もうすでに俺はブレーキが利かなくなって
いた。
 未だに股間を隠す彼女の手を退ける。
「あ・・・」
 今度の声は快感でなく羞恥によるものだろう。しかしその声も俺を興奮させた。
「恥ずかしいよ、そんなに見ないでよぉ」
 ゆなの綺麗な桃色のそこを見つめていた俺にゆなは耳まで真っ赤にしてそう言った。
「どうせする時は見るんだぞ。それに、恥ずかしがることなんかない。すごく綺麗だよ」
 そう言って俺は誰も、おそらくは本人さえも触れたことのないであろうゆなの女性の部分
に舌を這わせる。
「ひゃっ?」
 未経験の感覚にゆなは驚きの声を上げる。俺はかまわずに丁寧な愛撫を続ける。
「あっ・・・ぁふ、はぁ・・・」
 ゆなの声はだんだんと甘く湿ったものになっていく。しばらくの間それを続けていると小さ
い突起物が目に止まった。クリトリスというやつだろう。俺がそれを指で摘むとゆなの身体が
跳ねた。
「ひぁああああああぅっ!」
 人生初の絶頂だろう。ゆなは身体をのけぞらせて叫んだ。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ」
 まだ痙攣を続けるゆなの体を抱いて耳元で囁く。
「ゆな・・・とっても綺麗だよ」
「ぁふ・・・コウ、ちゃ」
 ゆなはまだ陶酔しているのだろう。呂律が怪しい。そんなゆながたまらなく愛しかった。
 荒い息遣いのゆなにそっと囁く。
「入れるよ、ゆな」
 言ってゆなの体をそっと横たえる。
「来て・・・コウちゃん」
 俺の背中に両手を回してゆなが言った。
 俺はそそり立った自分自身を彼女の濡れそぼった秘所にあてがい、一気に奥まで貫いた。
「ーーーーーぅくっ!」
 破瓜の痛みは身を裂かれるようだと聞く。俺は少しでもゆなの痛みが和らぐように小さい手
を握った。
「こっ、コウちゃん、コウちゃぁん!」
 ゆなは目に涙を溜めて俺の名前を呼ぶ。俺はその声に答えてゆなの薄紅色の唇に自らの唇を
重ねる。
「んっ、んん・・・」
 糸を引いて二人の唇が離れる。もう痛みは大丈夫だろうか。俺が心配そうな顔をしたからか
ゆなは優しく微笑んで言った。
「動いて、コウちゃん」
「うん」
 あるいはここで止めようかと思ったが、ゆなはそんなこと望んでいない。彼女は本当に俺と
の子供を欲しがっているのだ。ならこんな半端で止めるわけにはいかない。
 俺はゆっくりと腰を動かし始めた。ゆなの中はきつくて痛いくらいに俺のものを締め上げて
くる。
「ぁ・・・ぐぅ・・・ぅ」
 まだ痛むのか、ゆなは苦しげに呻いている。だが今の俺にはもう彼女を気遣う余裕はない。
意識せずに腰が動きを早める。
「ぁ・・・く、はぁ・・・んぁっ!」
 ゆなも痛みより快感のほうが勝り始めているらしい。だんだんと声に甘いものが混ざってき
た。
「ひぁっ、あぁん!ぁうっあっ、はぁぁっ!」
 もはやゆなの声は悲鳴に近かった。その声を聞きながらさらに動きを早める。
「あっあぁぁっ・・・やっ、やんっ!わ、私もう、だ・・・め、ダメェッ!」
 俺ももう限界が近い。腰の動きを小刻みなものに変える。
「ゆな、一緒に・・・」
「あぁぁっ、コウちゃん、コウちゃんコウちゃんコウちゃんっ!」
 そして一際深く突いた時、ゆなが二度目の絶頂を迎えた。
「こっ、こうちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
 ゆなの叫び声を聞きながら俺はゆなの中にありったけの子種を放った。
「あぁ・・・熱いよぉ・・・」
 ゆなの膣の痙攣にあわせて俺は彼女の中に精を放ち続ける。小さい体に収まりきらなかった
白濁とした液が溢れ出てきた。
「ねえ、コウちゃん」
「ん?」
「ぎゅー」
「なに?」
 狼狽する俺にゆなは琴の音色のような声で言った。
「だから、お願い。ぎゅーってして。力いっぱい」
「そんなお願い、いくらでも聞いてやるさ」
 俺はゆなの小さくて、白くて、柔らかい体を言われたとおりに力いっぱい、この心が伝わる
くらい力いっぱい抱きしめた。


「だから名前にはさ、願いが込められてるんだよ」
「願い?」
 夏が過ぎ、赤い落ち葉が舞う頃。俺の隣に座るゆなはすっかり大きくなったお腹をさすりな
がら言う。
「うん。こうなって欲しいとか、こんな風に育って欲しいとか、そういう願い」
「ああ、なるほど」
 ゆなは要するに俺に子供の名前を決めろと言っているらしい。
「うぅん、そうだな。俺は架神の家のことは興味ないからな。ただ健康に育ってくれればいい。
それが願いかな」
「あはは、コウちゃんらしい〜。でも、私も同じかな。この子には健康に育って欲しい。それ
だけで十分」
 愛しげに自分の中の子供を見るゆな。俺は二人の愛しい人を同時に抱いた。
 彼女の優しい琴の音を聞いて育つのだ。健やかで優しい子になるに違いない。
 ・・・あ、思いついた。二人の願いにふさわしい名前。

 『健一』と名付けられたその子供が、当代一の使い手になるのはもう少し先の話。

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