私の中を、硬い熱が出入りしている。
硬い感触が奥まで届くたびに、はしたない声が上がりそうになるのを堪える。
「我慢しなくていい」
「あっ…ひゃあんっ!」
始さんが…私を力強く抱きしめる。大好きなたくましい腕にだ抱きすくめられ気が緩んだ私は、エッチではしたない声を出してしまう。
一度堰が壊れるともう止まらなくなる。
「あぅっ…ふぅ…あん…だ、駄目ぇ、声がっ…出ちゃいます…」
「出していいんだよ、蓮花。俺は聞きたい」
「ひぅ…け、けど…けどぉ…」
始さんは意地悪だ。羞恥心で真っ赤になっているだろう私の顔に微笑むと、腰の動きを加速させる。
始さんの男性が、私の女性を抉ってゆく。その刺激に、私は追い詰められていく。
意識を蝕む快楽に抵抗しようとするが、それもむなしく私は果てさせられる。
「いやっ…あ、いやぁっ…あ、はぁぁっ!」
始さんの胸板に縋り付きながら、私ははしたない悲鳴を上げた。
また、始さんより早く果ててしまった。
幸いだったのは、始さんの限界もすぐ手前まで近づいていたことだった。
荒々しく息づきながら、始さんは私に腰を叩きつける。
「ふっ!ふぁ!あぅ!あっ!」
絶頂を経たばかりで、感じやすくなってしまった私の粘膜を、より張り詰めた始さんが擦りあげる。
そして、始さんも果てた。
始さんは小さく呻き、私を抱く腕を一層強く抱きしめる。押し付けられた始さんの体は、私の中に入っている一部と一緒に、断続的に震える。
始さんの欲望が吐き出されるのを、私は全身で感じる。
だけど…それは半端なものにすぎない。
始さんの精液は、始さんがつけたゴム製の避妊具の中にとどまり、私の胎には届かない。
「ごめんね、蓮花。君はいっちゃってたのに止まらなくて…」
申し訳なさそうに言ってくる始さんの声。それは薄いゴム越しに感じる始さんの体温と共に、私に嬉しさと悲しさが入り混じった、複雑な感情を与えてきた。
深窓の令嬢と言われるけれど、私はその言葉が嫌い。
ただ生まれつき体が弱かったからゆえの『深窓』という形容。
ご先祖様の努力であって、自分の功績でもなんでもない『令嬢』という形容。
深窓の令嬢という言葉は大嫌いで、だからそう呼ばれる自分自身も嫌いだった。自分に自信がなくて他人に近づくこともなく、だから他人もこちらに近づかない。
ずっと独りで本を読みながら、縁側から庭の草木と青空を眺め続けるのだろう思っていた。
だけれど、その私の世界の殻を破って始さんが入ってきた。
お父様の紹介でお見合いした相手が始さんだった。
とても活発で、明るくて、皆を惹きつけ元気付けるような人。私と正反対の、太陽のような人だった。
それに対して私は、弱々しくて、暗くて、誰にも見向きもされない人間。
そんな自分が始さんの光で照らし出されるようで、とても恥ずかしくて、情けなくて、怖かった。
だけど、何も言えずに俯いている私に、始さんは意外な言葉をかけてきた。
「綺麗ですよね、蓮花さんって」
あまりに驚いてしまって、私は慌てて否定した。
綺麗だなんてとんでもないと。
その剣幕がすごかったのか、あっけにとられた表情の始さん。私は恥ずかしくて固まってしまった。
そんな私に、始さんは微笑みかけてきた。微笑みながら言ってくれた。そんなことはないと。
とても物静かで、優しくて、皆を見守り慰めるような人。
「まるで月みたいな人……って、ちょっとクサイかな?」
照れくさそうな始さんの苦笑と言葉に、私の心臓は大きく鼓動した。
お見合いの後、私は始さんとお付き合いすることになった。
「私を貰ってくれませんか?」
それが、私からの告白の言葉だった。その時私の心臓は、壊れかねないほどに脈打っていて、そして始さんはその心臓ごと、緊張に震える私を抱きしめてくれた。
全く正反対の私達…始さんの言葉を借りるなら太陽と月のような私達だったのに、私は惹かれ、そして始さんはその気持ちを受け止めてくれたのだ。
初めて肌を重ねたとき、私の貧弱を恥じて恥ずかしそうにしている私に始さんは繰り返した。
ガラス細工のように綺麗だと。野花のように可憐だと。
不器用に囁かれながら、愛撫されながら、純潔を奪われながら、私は泣いた。
もうこの人から離れられないと。この人がいなくては私は生きていけないと。心も体も奪われてしまったと。
―――愛してしまった、と。
情事の後の気だるい倦怠の中で、私は始さんに、どうして私なんかを好きになってくれたのかと聞いた。
そうしたら始さんは、本当に意外そうに答えた。
「えっ、俺としては、蓮花が何で俺なんかを好きになってくれたのかの方が謎だけど」
変なところだけ似ていると、私達は笑いあった。
そして私達は結婚した。
「抜くぞ?」
一言断ってから、始さんは私から離れる。
お布団に横たわる私から、始さんの一物はゆっくりと引き抜かれ、ゴムに包まれた逞しい姿を現す。
「まだ、その……したいんじゃないですか?」
「あ、いや。もう十分だよ」
始さんの言葉は、嘘だ。
先端に精液をためた避妊具に包まれた始さんは、まだ硬く猛っている。
「気を使わないでください」
「……そういうわけにはいかないだろ。蓮花は体が弱いんだから無理させれない」
始さんが言うのは事実だった。以前、始さんに沢山愛してもらった翌日、私はお布団から起きることができなかった。
大したことはないと思ったけど、始さんは酷いことをしてしまったと自分を責めていた。
そんな思いをさせてしまう自分の貧弱さを、私は情けなく思った。けれど、それ以上に始さんのすべてを受け止めれないことが、そして始さんがその全てをぶつけてくれないことが悲しかった。
私は妻としての―――始さんの伴侶として不足だと言われているようで、身を裂かれるよう。
だが…それ以上に悲しいことがある。それは、始さん自身が身に着けている避妊具だった。
『出産は命にかかわる』
私は、お医者様にそういわれていた。
ただでさ病弱な私の体では、一つの命を産み落とすには、文字通り命を削らなくてはならないそうだ。
両親も始さんも、そのことで私を責めることはなかった。それどころか始さんは、夜の生活でも私の体を最大限に気遣う。
妊娠しないようにしっかりと避妊し、私の体力がないのを慮って私が絶頂を迎えると止めてしまう。
その気遣い嬉しくなかった。むしろ悲しかった。
始さんのすべてを受け止めれていない。始さんの妻としての役割を果たせていない。
そのことがたまらなく情けなく、悲しい。
始さんの猛りをすべて受け止めてあげたい。始さんの子供を生みたい。
だから私は、決意した。
「失礼します」
ゴムを外そうとする始さんに一言いい、しかし了承を得る前に私は行動した。
いまだ硬度を保ったままの始さんのペニスに顔を寄せて手を添える。
「な、何を…?」
普段はされるがままの私が積極的な動きを見せたことに、始さんは動揺する。その様子を可愛いと思いながら、私は始さんに被せられた衣を捲りあげた。
ゴムを外すと精液の大半と、嗅いだことのない強い臭いが溢れる。
「ぁっ…」
始さんの匂いに少しクラクラする意識は、シーツの上に零れた精子をもったいないと思う。
だけど覆水盆に帰らずともいうし…仕方ない。
私はゴムの中に残った精液を手のひらに乗せる。まるでゼリーのような濃い粘液からは、男の人の匂いが立ち上っている。
やっぱりクラクラする。まるで頭の中に桃色の霞がかかったように思考が鈍り、体の奥で子宮がきゅんっ、となる。
ぼおっと、私は手の中の精液を指でぬちゃぬちゃと弄る。
「き、汚いよ蓮花」
「……汚くないです」
そう。これは汚くなんかない。これは始さんが自分を感じてくれた証であり、始さんの生命の源。
私は決意すると、精液に塗れた指を、私の股間で湿っている場所に導く。
だけど、驚いた始さんが私の腕を掴んでそれをとめた。
「ちょっ、待てっ蓮花!」
「は、離してください!」
「そんなことをしたら妊娠して…」
「知ってます!だから…するんです」
力では敵わない。私は観念して力を抜くと、始さんの顔を見る。
「私は…妊娠したいんです。始さんの子供を生みたいんです」
「だからそれは蓮花の命に関わるんだ」
私の視線を見つめ返す始さん。その目に溢れる優しさと気遣いを自分は拒絶して、踏みにじろうとしている。そのことに申し訳なさを覚えながらも、私は引かなかった。
「始さん……私は、あなたの伴侶をちゃんと務めきれてますか?」
「そんなの当たり前じゃないか?」
「時々、自分を慰めているのにですか?」
「え゛っ…」
驚く始さん。言ってから、私もあの時のことを思い出して赤面してしまう。私の名前を呼ぶ切なげな声を不審に思いながら半開きの扉を覗くと、始さんが…その、自家発電、というものをしていた。
自分の名前を呼んでいてくれたことから、いやらしい本などでなく自分を想ってくれているのが解って安心して、次に泣きたくなった。
「私…始さんに気を使ってもらってばかりで…始さんの想いをすべて受け止めきれてません。
始さんを満足させることもできず、子供を生むこともできず…」
「…俺は別に不満じゃないよ」
「私が……不満なんです」
古風な…時代遅れな考えかもしれないけど、私は女性の役目は男性を支えて、受け止めて、そして子供を生み育てることだと思っている。
だけど、私はそれができていない。ただ始さんに守られて支えられて、その幸福を享受しているだけ。始さんに十分を与えていない。
「私、本当の意味で始さんの伴侶になりたいんです。
始さんの全部を受け止めて、全部を奪われて、本当の意味で一つになって…始さんの子供を生みたいんです。それが自分の命を削ることになっても、後悔しません」
そう、後悔しない。子をなす、子孫を得るということは、命をつなぐということ。ただいつ消えるとも解らない命を無理に守ることより、そちらの方がはるかに『生きる』ということだと思う。
「私は私は生きたい。始さんと本当の意味で生きたい。
だから始さん……私を、貰ってくれませんか?」
意図しなかったことだけど、その言葉は告白のそれと同じだった。
だけど、込めた思いはもっと必死だった。必死に『生きたい』という想いを込めて、私は始さんを見つめる。
私の視線をまっすぐ受け止め返しながら、始さんは言った。
「……いいんだな」
「はい」
考えるまでもなかった。始さんの確認に私は頷き返し、後は無言で、私達は抱き合った。
軽い愛撫の交換だけで、私は始さんをお迎えするのに十分なだけ高まってしまった。
それは始さんも同じだったらしい。
お布団の上に仰向けに倒れた私の目に、いきり立った始さんが映る。
「そ、それじゃあ入れるよ?」
私が頷くのを待ってから、始さんは今宵二度目の進入をする。
ずぶりと、いやらしい水音を立てながら、私の中を掻き分けていく始さん。
初めての、ゴムをつけていない始さん。その感触はつけているときとは異なるものだった。始さんの形が細部までわかり、そのすべてがはっきりと伝わってくる。
もちろん薄いゴム一枚の有無による違いなど、単なる気のせいかもしれないけれど、だけど、それでも嬉しいのは本当だった。
始さんが直接入ってる。始さんに直接犯されている。そんな甘い被征服感に私は身を震わせる。
入れた後、始さんは私が落ち着くまでは動かない。それを知っている私は、もう動いても良いと伝えようとして、その時、始さんが普段と違う様子なのに気づいた。
「…緊張なさってるんですか?」
普段よりこわばって見える始さんに、その理由がわからない私は訊く。始さんは苦笑する。
「当たり前だろ。蓮花を孕ませる、ってことは父親になるってことなんだから」
「あ、す、すみません。私のわがままで…」
「気にするな。それより、こっちこそごめんな。気を使ったつもりで、かえって蓮花を傷つけて…」
「それこそ、気になさらないで……始さんの為さる事は、すべて受け止めますから」
始さんになら、たとえどんな行いをされても、私は赦してしまうだろう。もっとも、それは始さんが私を大切にしてくれるという確信を持った上で言うことだけれども。
私は都合のいい、それでズルイいて女なのかもしれない。
そんな自分に呆れながら、私は始さんを抱きしめて、首筋に顔をうずめる。
「来て…下さい」
「ああ」
始さんは、動き始めた。
抜いて、挿す。
確かめるための最初の一撃。私の奥に打ち込まれた質量に、私は零れそうになった声を抑える。
最初の刺激が収まる前に、始さんは次の一撃を、また次の一撃をと私に刺激を打ち込んでゆく。
「…っ!……ぅっ…んっ!」
始さんが打ち込むごとに駆け抜けていたはずの刺激は、やがて常に体を走り回るものに変わってくる。
駆け巡る快楽に翻弄され、私の意識はどこかに飛ばされそうになる。私の体は現世にとどまるよすがを求めて、始さんを抱きしめる。
特に始さんのを咥え込んでいる私のいやらしい唇は、始さんも一緒に絶頂の果てに連れて行こうと、始さんの分身に絡みつく。
そんないやらしい私の感触に答えてか、私の中を掻き混ぜる始さんの棒が、いっそう熱く、硬く、大きくなる。
始さんが絶頂に近づいている。
そのことを嬉しいと想う余裕は私にはなかった。私の方もすでに果てが見え始めていた。
「はむぅっ!」
私は快感に耐えようと、思わず始さんの首筋に噛み付いてしまった。
噛み癖は私の悪癖の一つ。治そうかとも思っているが、始さんが治さなくても良いというので、ついつい甘えてそのままにしている。
口の中に広がるのは、しょっぱい汗の味と、始さんの匂い。
その味覚と嗅覚に安心しリラックスした私の体は、体の中心から全身に走り抜ける暴力的なまでの快楽を、ゆっくりと受け入れ、しびれ始める。
そして、その痺れが脳髄まで達したとき、私は果てた。
「―――――っ!!」
視界がフラッシュバックし、触覚がすべて消え去った。まるで頭の内側に雷が落ちたよう。
絶頂に震える私の耳元で、始さんが呻いた。
そして始さんも絶頂に達した。
私の中で始さんが大きく熱く膨張して、弾けた。
どくどくと、射精している。
それは慣れているはずの感触なのに、いつもと違う気がした。
違うのは当然だった。そう、ゴムをつけていない。
始さんの精液が、何の障害もなく、私の膣の最奥で…女性の中心である子宮のすぐ近くであふれ出している。
どくどくと、射精している。
びゅくびゅくと、射精している。
膣の中全体に広がる、自分以外が由来している暖かさに、私は恐怖にも似た感動を覚える。
孕まされてる。種付けされてる。受精させられてる。妊娠させられている……。
その事実に多幸感を覚えながら、私は始さんを抱きしめた。
射精は、普段と比べてずっとずっと長かった。
永遠に続くのかもと思い、だがそれも幸せだなと思ったとき、ようやくそれは終わりを告げた。
すべてを出し尽くした始さんは、私の耳元で熱い空気の塊を吐き出した。
「蓮花、中に出したよ」
「ありがとうございます。けれど……まだ苦しそうですよ」
私の中の始さんは、まだ固さを保ったままだった。もちろん果てる寸前と比べれば落ち着いていたが、それでも十分、私を乱し狂わすには申し分ない硬度を持っている。
始さんの逞しさを感じながら、私は始さんの首筋に舌を這わせる。場所は、さっき私が噛み付いてしまった場所。果てる寸前に力いっぱい噛み付いたせいで、跡が残っていた。
血は出てないのが幸いだった。私は猫のようにそこを舐めながら、始さんにおねだりする。
「始さんができるのでしたら……その、もっと愛してください。今までの分を取り戻すくらいに…」
「……解ったよ。だけど、本当に辛くなったら言うんだぞ?」
「はい…あっ、けど、ちょっと待ってください」
私は始さんに断ってから、始さんの体の下から抜け出す。
その際、私と始さんの結合部から、聞いたことのないほど大きくいやらしい水音がした。
だけど、私はそれを恥ずかしいとは思わなかった。なぜならこれからもっといやらしいことをするのだから。
私は布団の上にうつぶせになり
「…えっ!?」
という、始さんの声を聞きながら、お尻を少し持ち上げた。
いやらしい格好。はしたない格好。
自分の顔が熱を持ち、耳まで赤くなっているのが自覚できた。
死にそうなほど、恥ずかしい。
だけれども、ここまできて止めるわけにもいかず、私は布団に顔をうずめながら言う。
「あ、あの…後からしたほうが…妊娠しやすいって聞いたもので…よ、よろしければ…その…」
駄目だった。用意していた台詞だったが、最後まで言えない。
自分のこんなエッチな姿を、始さんがどんな顔で見ているのか気になるけれど、恥ずかしすぎてみることなんてできない。
期待と不安と羞恥心と後悔。いろいろな感情で頭の中がぐちゃぐちゃになりかけたとき、ようやく始さんの答えが来た。
答えは言葉ではなく、行動だった。
始さんのごつごつした手が、私の腰にかかった。
「ひゃっ?は、始さん?」
「ごめん…我慢できない」
硬いそれを、私の熔けたそこに宛がって、一気に貫いた。
「ひああんっ!」
不意打ちに、たまらず大きな声を上げてしまう私。
だが始さんの暴虐は終わらない。入れたのと同じ勢いで、始さんは運動を始める。
「はぅっ!あんっ!あんっ!はぅん!」
普段と違うところを、普段と違うペースで、普段と違う始さんに犯される。
そう、犯されている。乱暴に、暴力的に、私の最奥を侵略されている。
まるで強姦されているような錯覚に陥りながら、けれど不安はなかった。
「れ、蓮、花ぁっ!蓮花!」
始さんの声が降ってくる。
こんなに切なそうな声をあげて、こんなに一所懸命に動いて、私を求めている。
そのことで、私はたまらないほどの幸福感に満たされる。
始さんが、私をこんなに求めてくれている!
「はじっ!め、さん…っ!始、さん!はじめさん!」
「蓮花!」
互いを完全に掌握しながらも、私達はさらに貪欲に相手を求める。
身も心も融けあいながら、更なる快感と合一を目指す。
始さんは私の奥の奥まで到達しようと何度も私に突撃し、私は始さんの全てを飲み込もうと抱きとめる。
お布団の衣擦れと――
ぐちゅぐちゅという水音と―――
パンパンという肌同士がぶつかり合う音と―――
そして荒い吐息混じりに呼び合う互いの名前。
そられの唱和に包まれながら、私達は急速に終末へと加速する。
そして今宵三度目の絶頂を、始さんが迎えた。
射精が始まった。
私の子宮までも犯しぬこうとするような一撃が、最後だった。
私のお尻に腰をめいいっぱい押し付けながら、始さんは想いを遂げる。異性に種付けするという、雄性が持つ原始的で純粋な欲望を遂げる。
そして私も、異性に種付けされるという雌性の根源的欲求を満たされて、私も果てにたどり着いた。
「ぁ…ぁ、ぁぁ……」
絶頂に震える私。始さんは射精を終えると、一物を中に入れたまま、私の上に覆いかぶさるように崩れ落ちてきた。
「ごめん…今、避ける」
「いえ…いい、です…もう少し…このまま…」
全身で始さんの体温を感じながら、私は絶頂の余韻に浸る。
まるで宙に浮んでいるようなあやふやな感覚の中で、ただ唯一、胎内の始さんの硬さだけが確かなものだった。
そう、まだ硬い。
やがて私が落ち着いたのを見計らって、始さんは体を避けた。
それに伴って始さんのものは私の中から引き抜かれる。私と始さんの体液で汚れたそれは、いまだ猛々しく天井を向いていた。
「もっと……できそうですね」
「ごめん。収まりそうにない」
言いながら、始さんは私を抱きしめる。
始さんの腕の中で、私は求められる幸福をかみ締めながら、そっと抱き返す。
「謝らないでください。
私は…あなたに求められるのが私の幸せです」
始さんを抱きしめながら、私は笑顔でこう告げた。
「始さんの全てを、私にください」
始さんは答えの代わりに、私に口づけをした。
体中がぎしぎしといっている。特に腰には、まるで自分のものではないような感じがする。
だけど、そのことを辛いとは思えなかった。なぜなら始さんが愛してくれた証なのだから。
破瓜の痛みと同じ。それは幸せな苦痛だった。
「ありがとうございます、始さん」
私の胸に顔をうずめるように(とはいっても私の胸は小さくてぜんぜんうずまってないのだけれども)寝ている始さんの頭をそっと撫でる。
始さんは静かな寝息を立てるだけ。
「ふふっ…」
まるで子供みたいだと思い、小さく笑ってしまう。
笑ったときの腹筋の動きのせいか、膣からまた少し精液が零れた。
勿体無いと思ったが、けれど今さらだ。
あの後、始さんは今までの分の穴埋めだとでも言うように、何度も私の中に精を放った。
私の小さな体ではその全てを胎内に止めおくことができないくらいに…。
「お布団、お洗濯が大変そう」
その前にお手伝いの人がこの惨状を見たらなんと思うだろうか?
私は想像して赤面するが、しかしそれでもいいやとも思う。
「子供…か」
始さんの顔を見ながら私は思う。
私は良い母親になれるだろうか?
体が弱く、始さんに頼りっぱなしの私が母親を出来るかは、不安だった。
だけど…
「きっと、出来ますよね」
始さんが言ってくれた。
私は月のようだ、と。皆を見守り慰める人だと。
だからそんな人になろう。そんな母親になろう。精一杯、この儚い命が尽きるまで。
「だから…一緒にがんばりましょうね。始さん…」
始さんの体温を感じながら、私も眠りの中の落ちていった。
完