日の光も届かぬ暗く深い森の中、息を殺して動く影が二つ。
 二人とも小さな身体には不釣合いな甲冑を纏い、腰にはその細腕で扱えるのか、
幅広の両刃剣を下げていた。
「まいったね……すっかりはぐれちまったよ」
 背の高いほうの影、長い赤髪の女が辟易して呟いた。
 小さな影、ショートカットの金髪の幼い少女は縋る様な目で傍らの女を見た。
「アリサちゃん、なんとか皆と合流できないかな?」
「できりゃとっくにやってるっての」
 小さな少女――イヴはまだ新米の戦士だ。たった二度の出撃でこの世の恐怖とい
うものはあらかた経験したと思っていたが、どうやらとんだ思い違いだったようだ。
まさか本隊とはぐれるなど夢にも思わなかった。
 もとからイヴは戦士としての素質は皆無だ。小さな体格に他人に依存しがちで臆
病な性格、その上お人よし。
 そんな彼女ですら駆り出されるほど状況は切迫していた。
 数十年前から彼女らの国は近隣の森に巣くう異形の怪物に脅かされていた。その
圧倒的な数に屈強な戦士たちは一人、また一人と倒れていった。そんななか考案さ
れたのが、若い女性のみで構成された殲滅隊だ。
 女性のみで構成する利点として、生存率の高さがある。異形どもは男は容赦なく
食い殺すが、女は生殖のために利用する。そのため捉えられた女の二割弱が無事に
隊に復帰できるのだ。二割と言う数字からは、今も囚われた八割以上の女たちの泣
き叫ぶ声も、命だけは助かったものたちの呻きも聞こえない。
「怖い?イヴ」
 イヴはアリサがいなければ自分は恐怖でどうにかなっていただろう、と思う。
 彼女はこんな状況でも朗らかに笑い、イヴが怯えていれば大丈夫だよ、と言って
手を差し伸べてくれる。聞いた話では兄を戦いで失い、自ら志願して殲滅隊に入隊
したらしい。働き手にもなれず、国に売られたような自分とは始まりからして違う。
「ちょっとだけ……」
 その精一杯の虚勢も突然草むらから飛び出た黒い影によって脆くも崩れ去った。
「きゃぁああああああっ!?」
「このぉっ!」
 イソギンチャクが陸に上がってきたような怪物はアリサの剣によって胴体を両断
された。
「イヴ、大丈夫?」
「アリサちゃん後ろ!」
 イヴのほうを振り返ったアリサは二匹目の襲撃者を防ぐことが出来なかった。
 無数のぬめり気のある触手に絡みつかれ手足の自由を奪われてしまう。手首をき
つく締め上げられ、唯一の武器である剣を落としてしまった。
「離せ!離せよ、この!」
 遮二無二暴れるが怪物はアリサの抵抗など意に介さず、その身体をずるずると引
きずって草むらの中へ失せた。

 ぬるぬるとした塊が身体を撫で回す不快感にアリサは身を捩った。声を上げよう
にも口には気色悪い触手が突っ込まれていて叶わない。しかも触手の先端から得体
の知れない液体が分泌されている。他になすすべもなくアリサはむせながらそれを
飲み込んだ。
 器用に甲冑を取りさらう怪物は一際大きく太い触手をアリサに突きつけた。
 そのあまりにグロテスクな見た目にアリサは目を見開いた。そしてそれが何に使
われるものであるか考えて、身を強張らせた。
 全ての衣服を取りさらわれ、糸くず一つ身に付けていないアリサの足を強引に開
かせた怪物は、足の付け根の花芯に醜悪な生殖器を押し付けた。
「ん〜〜っんんっ!」
 足をばたつかせようとしてもがっしりと絡め取られてままならない。必死の抵抗
も空しくアリサの桜色の秘所に粘膜に包まれた肉棒が侵入してきた。
「んんっ!んむぅぅ!」
 最愛の兄を奪った化物に犯されてしまった。この無念はどれだけ涙を流しても晴
れるものではないが、泣かずにはいられなかった。
(ちくしょう……ちくしょう)
 蠕動し、怪物はゆっくりとアリサの中を侵していく。その感覚に吐き気を通り越
してアリサは眩暈を感じ始めていた。少なくとも、彼女はそう思っていた。
(な……に?これ)
 意識が朦朧としていく、頭が痺れる。膣が熱くて、蕩けそう。
 怪物の触手が口から離れ、形の良い乳房を弄び始めた。
「ん、ふぅ……」
 甘い吐息を漏らすアリサが見ているものは、眩しい光。
 そして……
「兄……様?」
 優しく、包み込んでくれるような笑顔。そうだ、この腕に抱かれると胸が温かく
なった。アリサの髪は綺麗だねって褒められると、顔が熱くなった。
「兄様、逢いたかった……本当に、ずっと……」
 思いを告げる間もなく去ってしまった彼が自分を求めてくる。アリサは脳髄を溶
かすような喜びと快感に嬌声を上げた。
「ああっ!兄様、兄様ぁぁっ!」
 彼女は知る由も無いが、怪物に飲まされた液体には幻覚作用を持つ物質が多量に
含まれていて、それが彼女の脳を侵していた。
 アリサは皮肉にも兄を奪った怪物に、兄の姿を見出しその醜い身体を抱きしめ、
はしたなく腰をくねらせた。
「兄様ぁ、もっと、もっとぉ……あぁ、奥まできてる、いい、いいよぅ兄様」
 膣内で巨大な触手が脈動を始めると、アリサは激しく身悶えた。
「あぁっ!出そう?出そうなの?いいよ、出して!兄様の全部アリサに頂戴!」
 そして子宮に熱くたぎった精液が叩きつけられた――
「あーっ!あっ!あっ!兄様ぁぁぁぁーっ!」
 絶頂感と至上の幸福に満たされながら、アリサの意識は白んでいった……

 アリサが――尊敬していた、憧れていた女性が忘我の面持ちであられもなく腰を
くねらせ嬌声を上げている。
 その光景を、イヴは地べたにへたりこんで呆然と眺めていた。
 逃げなければならないはずなのに、立ち上がることができない。ただ嗚咽を漏ら
して敬愛していた女性の痴態を眺めているしか出来なかった。
 イヴが我に返ったのは、細い首筋に回された冷たいぬめり気によってだった。
「ひっ!」
 すでにもう一体、近づいてきたものがいたのだ。
 慌ててそれを取り去ろうとするが、無駄だった。あっけなく手足を拘束され、甲
冑を脱がされていく。
「いやっ!いやぁっ!」
 足首を掴まれ、強引に左足を高く掲げられた。生まれてこの方他人に触れられた
こともない秘所が露になる。
 羞恥心よりも、恐怖が先立った。イヴは頭の奥底、本能で悟った。
 逃れようも無く、抗いようも無く、自分はこれからこの生き物に犯される。
 目を閉じ、自分に覆いかぶさるおぞましい生き物を決して見ないようにしてイヴ
は頭を振った。
「やだ、やだよ……許して……」
 その無力さを知りつつも、嗚咽の間から声を搾り出した。
 当然、怪物はその言葉の意味も、イヴの絶望も認識してはいない。
 いいように薄い胸を弄びながら、一際大きな肉塊をゆっくりと秘所に押し付けて
くる怪物を虚ろな瞳で見ながら、イヴは自分の心が崩れていくのを感じていた。
 体の中心を異物が貫いた。だが破瓜の痛みを認識できるだけの精神はすでに残さ
れていなかった。
 自分の中で暴れる触手がますます硬く大きく太くなった。ああ、射精するんだな、
とどうでもいいことのようにイヴは思った。
 そして怪物の迸る子種を受けながら、イヴは微かに残った心で思った。
――こんなのないよ……私まだ、好きな人にキスしてもらったことも無い……

――お母さんが、呼んでる。もう朝だって、早く起きろって私の身体を揺すってる。
 しかし目を開けたイヴが見たのは暖かな日差しに包まれた家族の笑顔ではなく、
暗い森と蠢く怪物たちだった。
「あうっ!あうぅぅっ!」
 声のするほうを見るとアリサが痛みに身を捩じらせていた。足の間からあの怪物が
生えてきている。
 違う、あの怪物を産んでいるのだ。
 出産の痛みとはかくも苛烈なものなのか、いずれ経験するであろう痛みを想像しよ
うとして、やめた。どうでもいいことだ。
 内股を侵す冷たい感触に視線を落とすと、今アリサが産んでいるのとよく似た色、
形の怪物がゆっくりと生殖器を突き出していた。
 おそらくアリサの子供。彼女は体の未発達な自分と違い、次々と子を孕み、産んで
いる。
――私、アリサちゃんの孫を産むことになるのかな。
 それも、イヴにとってはどうでもいいことだった。もはや彼女にとって意味ある事
などなかった。
 親友の腹からでてきた生き物に犯されながら、イヴはぼんやりと思った。
――あと何回寝て起きたら、お母さんの顔が見れるんだろうな……