帰宅したらなんか変な生き物がいた。
「……」
ドサッという音と共に持っていたカバンが床に着地した。
ベッドの上にはすーすー寝息を立てる女の子がいる。
見たこともない子だ。なんでこんな子がいるのか不思議。
とにもかくにも少々頭方面がかわいそうな子なのか、ネコミミバンドを頭につけている。
黒いワンピースと黒いネコミミ……黒猫をモチーフにした格好のようだ。
俺のベッドは、俺が飼っている黒猫のミミの特等席だったはずなんだが、
今日は別のネコミミ女の子に占領されていた。
つーか、誰なの?
親を呼ぶべきか悩む。
帰宅直後に、親は何も言わなかった。
俺の部屋に女の子がいるのに何も言わないってことはないだろう。
部屋に女の子がいる、と言い出して、万が一お袋が何も知らなかったら、
まず疑われるのは俺。
その様子を脳内シミュレートした結果、あまり嬉しくない状況になった。
にしても、この子をどうにかしないとまずい。
ついでにミミを探さないと。
「……」
ちりん、という音がした。
ミミの尻尾につけている鈴の音だ。
ミミは中々おしゃれ好きの雌猫で、尻尾にくくりつけてやった鈴をとても気に入っていた。
音のした方を見ると……。
びっくりした。
黒い何かが、アラビアンナイトに出てきそうな蛇使いの蛇のようにうねうね動いている。
それは女の子のお尻あたりから伸びていて、黒い毛が生えていて。
尻尾だ。
ネコの尻尾だった。
ネコミミに加え、ネコの尻尾もついているなんて、かなり凝っている。
というか、重傷だろう。
……。
なんだか、尻尾は本物の尻尾のように見えてきた。
質感や毛の生え具合は、それこそ本物のようだ。
しかもくねくね動いている。
かなり高性能なモーターが無ければこのリアルな動きは再現できないだろう。
それでいてモーター音が一切聞こえてこない。
……。
まさか、と思う。
俺の愛猫ミミが消え、代わりにミミと同じような黒い服を着た女の子がミミの特等席に寝ている。
それも丸まって、猫のように、ものすごくリアルな猫尻尾をつけ、
尚かつミミと同じようにその尻尾に鈴をつけ……。
信じられないことだが、変な共通点がありすぎた。
とりあえず、俺は物音を立てないようにそおっと部屋を見渡した。
もしこれが全部誰かが仕組んだことならば、どこかにCCDカメラか何かがあるはずだ。
ドッキリテレビならどこかで盗撮しているはず。
テレビで見る以上、全景が見やすい部屋の上の方に仕掛けられていることが多いと思うので、
台を持ち出して徹底的に調べ上げた。
結果、それらしきものは一個も見つからなかった。
俺は激しく動揺した。
俺の価値観を激しくぶち壊す事態が、ひょっとしたら起きているかもしれないのだ。
ああ、俺はどうすれば……。
いつも使っていない勉強机に肘をつき、悩む。
まさか、まさかミミが女の子になっているだなんて。
いや、それは俺の病的な妄想かもしれない。
落ち着け、俺。
そんなことありえないんだ。
起きるわけないんだ。
猫のコスプレ好きの女の子が家を間違えて入って来ちゃったんだ。
そっちの方がなんか起きるわけないような気がしないでもないんだが……。
もう一度振り返ってみる。
女の子は消えていない。
金色の瞳でこっちを見つめている。
再び机に肘をつき、拳をこめかみに当てて考える。
考える、考える……。
「……ニャー」
ちっ、駄目か、見て見ぬふりはできないか。
再び振り返ると、女の子は、俺に向かってニャーと言って笑った。
「おかえりなさいニャ」
「あ、ああ、ただいまだワン」
自分で言っておきながら、寒いジョークだった。
女の子は、自分の手でネコミミの裏をくしくしと掻いている。
ネコミミも尻尾と同様に動きがリアルだ。
つけ耳とかそういうレベルじゃない。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……ニャー」
しばらくくしくしと耳の裏を掻いていた女の子だったが、
満足したのか掻き終えて、再び俺と目が合うと、笑ってニャーと鳴いた。
正直に言えば俺は反応に困っていた。
素直に「お前……ミミか?」と言えればかっこよかったのだが、
残念なことに俺はカッコワルイことに定評がある男だ。
言葉がどうしても口から出なかった。
「ニャー」
女の子は女の子でニャーとしか口を開かない。
もうちょっと頭蓋骨の中身使って見せろよ、と怒鳴りたかったが、
俺もヒトのことは言えなくて、ちょっと情けなかった。
しばし睨み合う二人。
向こうは金色の瞳をくりくりさせて、なんかにこにこしているけど、
飽くまで睨み合う二人。
人なつっこい顔が、ミミを思い出させる。
気が付けば顎に手をやってくすぐってしまいそうだ。
しかし、女の子はにこにこしているだけで動かない。
俺はどうすればいいのかわからなくて動けない。
ちょっとはアクションを起こしてくれないと、俺としてもリアクションできないわけで、
かといって、俺からアクションするというのもあまり想像できない。
第一、何をすればいいんだ。
ココは俺の部屋だ。
ゲームをやるという選択肢があるが、
突然部屋に侵入していた女の子の前でゲームをやるのもちょっとなんかずれているような気がする。
「ニャー」
ちりりん、と鈴が鳴った。
尻尾がしなやかに動いている。
「ニャー……」
全身に汗をかく俺。
大あくびをする女の子。
「ニャー」
なんだか部屋が暑いような気がする。
女の子が自分の手の甲をぺろぺろ舐めていた。
「にゃ?」
と、突然、女の子は手を止める。
何か考えている顔をする。
手を見る。
俺を見る。
手を見る。
「な、な、な、人間になっちゃってるニャー!?」
「気付いとらんかったんかいッ!」
夕暮れの空に、俺のビシィというツッコミの音が高らかに響いた。
「な、何が一体どうなっちゃってるのニャ」
「しらねーよ、馬鹿、まとわりついてくんな!」
やっぱり女の子はミミだった。
俺の座っている椅子の周りに四つんばいになってぐるぐる周り、
にゃーにゃーと切なそうな瞳で俺を見上げてくる。
本当に正真正銘猫だったときのミミでさえ、かぼそい体でニャーと鳴くだけで、
俺は全てを投げ捨ててミミの元に走っただろう。
金色の瞳がうるうると潤み、甘えるような、懇願するような声で囁かれるだけで、
俺の胸が痛くなって優しさを覚える。
今の姿で、にゃーにゃー鳴かれると、それはそれで別の意味で胸が痛くなる。
女の子だ。
猫のときだって、うちのミミほど美人、いや、美猫はいないだろう、と思っていたが、
人間の女の子になってもそれはかわらなかった。
いや、むしろ俺の貧弱な想像力で想像した擬人化像が、全然お話にならないブスのように思える。
そんな子に近寄られると、俺の男の子はのっぴきならない状態になってしまうのだ。
「にゃー、にゃー、ご主人様、ミミのこと嫌いになったのかにゃー?」
ぐ……。
ミミは金色の瞳をうるうるさせて見上げてくる。
耳がぴくぴく動き、尻尾が力なくうなだれて、切なげにニャーと鳴く。
俺の胸は高鳴り、心臓が破裂してしまうんじゃないかと心配まで……。
「そ、そんなわけないだろう、ミミ……」
俺はそういっておずおずとした手つきでミミの右耳の裏を掻いてやった。
ミミは気持ちよさそうに目を細め、喉をオロオロと鳴らす。
どう見ても人間だけど、ミミだ。
ミミの耳の付け根は完全にくっついていた。
しかもこの感触……ミミのものだ。
俺は、ミミの耳の裏の感触は例え目隠しをしていたとしても見分けられる。
ミミの耳の裏から手を放すと、ミミは突然俺の手を掴んだ。
「ニャー……」
あろうことか、ミミは俺の指を舐めた。
これもミミの癖というか、何故かミミは俺の指を舐めたがる。
しかし、今は女の子の姿。
ミミが女の子になったパーフェクツな容姿でそんなにぺろぺろされたら、俺はもう、もう……。
完全に椅子から立ち上がれなくなってしまった。
「どうしたのかニャ? ご主人様」
ぐぅ……ご主人様とは、呼ばないで欲しい。
そんな甘えたがっていることが丸わかりな声で俺に呼びかけないで欲しい。
「あ、そうか、人間になったら四つんばいで歩いちゃいけないんニャ」
ミミは立ち上がった。
当然、椅子に座っている俺よりも高い位置に頭が移動する。
ミミは俺を見下ろしていた。
「……んふふ〜」
ミミの顔が笑みで歪む。
そりゃあもう、ミミが廊下でゴキブリを捕まえて俺のところへ持ってきたときのような笑みだった。
「にゃふっ」
両手を広げて俺の頭を捕まえた。
目の前にはミミのふかふかした二つの塊があり、激しく煩悩が掻き立てられる。
「み、みみみみ、ミミィッ!」
「ご主人様、あったかいにゃぁ」
俺は声を裏返して叫んでいるというのに、ミミは呑気なことを言っている。
ミミは更に腕に力を入れ、ぐりぐりと左右に揺らしてみるものだからたまらない。
柔らかい二つのこぶが、俺の顔を滅茶苦茶にしていく。
というか、俺の頭も滅茶苦茶で、ついでの俺のムスコも滅茶苦茶だった。
「うう、うぉあぁああああ!!」
ミミが俺の顔を左右に動かして、色んな体験をさせたので、
俺はもう動揺して、動揺して、この上なく動揺して、机を蹴っていた。
椅子が倒れ、ミミも倒れ、俺も倒れる。
なんという幸運! いや、なんという不運と言うべきか。
俺の目の前には、仰向けに倒れたミミの秘密の部分がッ。
黒いワンピースのスカートの中の、白い下着が目の前に展開されていた。
「いやん、ご主人様のえっち」
ミミは、まくれたスカートを元に戻した。
しかし俺にはそんなに嫌そうには見えなかった。
あああ、俺をどうにか、どうにか止めてくれ。
しばし理性と本能との葛藤が繰り広げられた。
ミミはかわいい。
信じられないほどかわいい。
この世に存在していいのかどうかわからないくらいかわいい。
だからこそ俺はいきり立つのだし、だからこそ俺は最後の一線を越えられないでいる。
ミミは、ああ、かわいいとも。
食べてしまいたいほどかわいい。
しかし食べてしまったら、ミミは俺のことを嫌ってしまうかもしれない。
そんな、そんなことがあったら、
俺は、俺は一体どうやってこれから生きていけばいいのかわからなくなってしまう。
どうすればいいんだ、俺……。
はっ、そうだ!
とある漫画の一ページを思い出した。
今の俺と同じように性欲に悶える主人公が、倫理観を重視するために頭を壁に打ち付けて気持ちを静めようとしていた。
なるほど、それは効率的だ。
そのキャラクターは何度も何度も壁に頭を打ち付けて、出血しても尚打ち付けていた。
が、俺は根性無しなのか、一発頭を壁にぶつけたら、目の前が朦朧としてきた。
もう限界みてぇだ……。
俺は腰抜け野郎だということが証明されたけど、効果はあった。
額の痛みが性欲を鈍くする。
端的に言えばチンコ萎えた。
ちょうどいい案配に、視界がぼやけ、ミミの顔もぼやけてくれた。
「ご、ご主人様、な、何をしているニャン」
「ふ……ふふ、壁に頭打ち付け健康法だ……」
「馬鹿じゃないのかニャン。そんなことして、健康になれるわけがないニャ」
全く持ってその通りだった。
けれど、俺は健康になりたいわけじゃない。
いや、むしろ健康すぎて困っているんだ。
「ベッドに寝るニャ、おでこ赤くなってるニャ」
俺はミミの言われるがままに横になった。
おでこが痛くなって、意識が朦朧としている。
ミミのぼやけた顔がアップになり、痛む額にぬるんと何かが這い回った。
「おうわぁっ!」
「動いちゃ駄目ニャ」
「な、何してるんだ、ミミ」
「おでこ舐めてるニャン」
なんてこった、信じられない!
また俺の取った行動が裏目に出てしまった。
「い、いいよ、舐めなくて……」
「駄目だニャン、赤くなって痛そうだニャ」
「痛くないって」
「駄目ニャッ!」
ミミは暴れる俺の手を押さえつけた。
腹の上にどんと尻を乗せて、俺の額をぺろぺろなめる。
ちょうど首辺りに豊かな胸、腹には柔らかい尻の感触。
更なるピンチ、というかもはや泥沼で。
「や、やめろ、ミミ……頼むから、離れてくれ……」
理性の糸が茹でてないそうめんほど細くなり、喉をかすれさせながらも声を絞り出した。
ミミの肉感をこれ以上感じていると、俺はもう辛抱溜まらなくなってしまう。
俺はこれでも男の子だから、欲望と言う名の列車に乗って崖から飛び出した気もしたいという気持ちがあったが、
ミミへの愛情がそれを繋いでいた。
猫とセックルするなんてヤバイだろう、なんていう禁忌感は最初から持ち合わせていない。
小さな頃から一緒に生きてきたミミは、もはや精神的な恋人のような存在だったのだ。
ツーと言えばカー。
言語の通じない一人と一匹の間には、もはや「おはよう」も「ニャー」も必要なく、
目があっただけでお互い何が言いたいのかわかるのだ。
気のせいではなく、本当に。
本当に信頼し合っている仲ならば、種族の差を超越できると俺は信じている。
彼女と目が合って、膝に乗りたい、ということを感じ取り、膝を出してやればひょいひょいと飛び乗って丸くなる。
お腹減った、ということを感じれば、エサを出してやり、
昼寝がしたいというのなら、カーテンを開けて日差しを調節してやる。
人間より素直でいい子なのだ、ミミは。
少しずつ視界が元に戻っていく。
ミミの顔がはっきりと見え、くりくりした金色の瞳が見えてきた。
人間の姿になってもミミはミミ。
その目を見てミミがどう考えているのか、うっすらをわかった。
「ミミ……」
「ご主人様ぁ……」
しばし見つめ合う、一人と一匹……いや、今では二人、か。
ミミに対する愛しさがどんどんとふくれあがり、ついではぱちんと弾けた。
「ミミ……ミミ……ミミィッーッ!」
ついに辛抱たまらなくなり、ミミを突き飛ばした。
幸い壁に頭をぶつけることなく、ミミはベッドの上に横になる。
それを俺は上から覆い被さっていった。
今の自分を鏡で見たら引いただろう。
目は血走り、息は荒く、まるで獣のようだった。
ミミは口元に手を当て、潤んだ瞳をほんの少しだけ俺の視線からそらした。
「ミミ……ご主人様の赤ちゃん、欲しいニャン」
……。
「ご主人様ぁ……ミミ、どうやって人間になっちゃったのかはわからないけど、
どうして人間になったのかはわかったニャ。
ミミ、ずっとご主人様のことが好きだったニャン。
でも、ミミは猫でご主人様は人間で……前にご主人様が読んでくれた絵本みたいに、
毎日毎日神様にお願いしたニャ。ミミを人間にしてださいって……」
「ミミ……」
ミミは俺の首に腕を回しぎゅっと抱きしめてきた。
熱い吐息とともに、俺の耳元でミミは囁いた。
「ご主人様ぁ……ミミに、ミミに、赤ちゃんを孕ませてくださいニャァ」
俺の理性は、まるで古くなった輪ゴムのようにぷつりと切れてしまった。
いきりたっていた股間の棒は、更なる硬直をし、ミミの秘部をスカートごしにぐいぐいと押しつける。
ミミの体が砕けてしまいそうなほど強い力で抱きしめて、その後、とろけそうなキスをした。
ミミの肌は白かった。
地が白いため、よりいっそうワンピースと長い髪が黒く感じられる。
衣服を全て取り去った状態のミミは、まるでミルクのような色だった。
「ミミ、綺麗だ……」
「は、恥ずかしいニャ、ご主人様の、えっち……」
ミミは非常にもったいないことに、胸と股間を手で隠した。
桃色の突起と花びらが、ミミの白い体のアクセントとして存在していた。
ちょっとアレな表現をすることを許して頂ければ、それは白浜にある桜貝のようだ。
俺のムスコはもはやギンギンで、フィーバー状態。
ズボンと下着を三秒で脱ぐと、天を仰ぐ始末。
「ご、ご主人様……大きいニャ……」
ミミは顔を赤らめて、手で目を隠す。
しかし指の隙間から、ちゃんと視線を感じていた。
それを知っていながら俺は意地悪く、その手をどかせた。
「ちゃんと見るんだ、ミミ。これが今からミミの中に入るんだぞ」
「にゃ、にゃぁうん」
ミミは視線を逸らした。
あまりにも恥ずかしがる様子が可愛いから、
「ほーらチンチンだぞー」と見せびらかしてみたいところだったが、
それはいくらなんでも脳が膿みすぎてると思ったのでやめた。
「さて、ミミの方も見せてもらうぞ」
「にゃ、にゃにゃっ!?」
ミミの秘めやかな部分を隠している手をどかそうとした。
が、ミミはさっと俺の手をかわし、強固に隠し通そうとした。
「ミミ、ずるいぞ、俺のを見ただろう? だからミミも見せないと」
「み、見てないニャン。ミミは、何にも見てないニャン!」
「見てないにしろ、挿れる準備もしなきゃならないんだ、ほら、大人しく手をどかしなさい」
ミミは思わぬ抵抗をした。
そんなに見られるのが恥ずかしいのか、手を弾こうとする手を逆に弾かれ、これがまたうまくいかない。
流石猫というべきか、俺よりも身体能力高そうだ。
「赤ちゃん欲しくないのか?」
「ほ、欲しいニャ。で、でも、見られるのは……恥ずかしいから、嫌なのニャ」
「けど、見ないと上手く挿れられないし、それに前戯無しだと痛いぞ?」
「ミミが上手くいれるニャン。痛いのは……我慢するニャ」
「駄目だ、ミミ、できることなら痛くないようにしたい。ただでさえ最初は痛いのに……」
ふと思った。
ミミって初めてなんだろうか?
家に飼ってるとはいえ、たまに外に出ているようだし、他の雄猫と番っていてもおかしくない。
この想像はやめようと思ってもできなかった。
俺のミミに手を出した雄猫がいたら……その憎たらしい猫の姿が脳裏から消えない。
何故かきざったらしい素振りのペルシア猫、ミミは背筋をピンと張ったペルシア猫の胸元に頭を預け、
鈴のついた尻尾を左右にゆらゆら揺らしていく。
どす黒い嫉妬が俺の心の奥底から沸いてきた。
もしそんな猫がいたならば、絶対に許せない……。
「み、ミミはご主人様が最初ニャよ? 心配しなくても、ミミにはご主人様だけニャ」
ミミが俺の目を見て考えたことを悟ったようだった。
全ては俺の勝手な思いこみだったようだ。
「で、でもでも、ミミは人間とは違って初めてでも膜ないかもしれないニャ。
猫には膜ないニャから……神様がちゃんと処女の膜を作ってくれたかどうかわからないニャ……」
「心配するなよ、ミミ。俺は、お前を信じてるから。ミミが言うんなら、俺は何があってもミミを信じる」
ミミは俺に飛びついてきた。
首筋にキスを乱射し、にゃうんにゃうんと耳元に可愛い声を聞かせてくれる。
俺もミミの体を抱きしめて、同じようにミミの首筋にキスをしまくった。
二人の心は高まって、ようやくメインステップへと進む。
「な? ミミ、恥ずかしがるな。俺にミミの全てを見せてくれ」
「は、恥ずかしいニャ……」
ミミは顔を赤らめながら、手をゆっくりどかしていった。
ミミのそこは綺麗だった。
綺麗な桃色で、花弁の奥はひめやかに濡れている。
唾を飲み込んだ喉の音が聞こえる。
俺は興奮しながらも、ミミの秘部を指で触った。
「にゃふっ!」
「い、痛かったか?」
「ち、ちがうにゃ……なんかわかんにゃいけど……
ご主人様に見られて恥ずかしくて、嬉しくて、気持ちよくて、
なんかよくわかんにゃいにゃ……」
ミミの言葉は支離滅裂だったが、とにかく痛くはなかったようだ。
今の調子でゆっくり花弁をどかす。
ミミの中からとろりとした蜜があふれ出てきた。
「にゃふはぁん……」
ミミは変な声を上げた。
手で顔を隠し、いやんいやんと左右に揺らしている。
ミミの耳は俺が秘部を触るたびに痙攣して、とてもかわいかった。
ミミの中に人差し指の先端を埋める。
ミミの膣は指をきつくしめつけ、更に深く埋まるように吸い付いてくるようだった。
「熱い……ミミの中、すっごく熱いよ」
「にゃあん、い、いわにゃいでにゃぁん」
あっという間に第二関節まで入ってしまった。
ミミの中はざわざわが蠢いて、何か別の生き物に思えた。
「う……ミミ、ごめんね」
まだまだミミのあそこは硬くて、ほぐれてないように思えたけど、
もう俺は我慢の限界だった。
ミミの中から指を抜き、代わりに怒張を押し当てる。
赤く上気したミミの顔が一瞬歪み、俺はミミの中へと押し入った。
「にゃ、にゃ、まってくださいご主人様。まだミミは心の準備ができてないですにゃ」
「ごめんねミミ……」
「にゃ、にゃふ……」
亀頭がすっぽりミミの中へと埋まる。
流石にその奥まで侵入する勇気はなく、そこで止めてミミとキスをした。
ミミの舌が俺の舌と絡み合い、ミミと俺が一つになった気がした。
「ミミ」
「ごしゅじんさまぁ」
ゆっくり腰を押し込む。
初めての時は中々上手く入らないと聞いたけれど、俺とミミとの間ではそんなことは皆無だった。
腰を動かせば動かすほど、ミミの中へと入っていく。
中程までに到達すると、何か障害に突き当たった。
「……?」
ゆっくりと不自然な抵抗を無視して、腰を押し込んでいく。
「あ、いた……ご主人様、痛いですにゃ」
これが処女膜というやつなんだろうか?
やっぱりミミは初めてだったようだ。
異様に嬉しくなって、俺はついうっかりそのまま押し込んでしまった。
「あっ……ぃ……」
「ミミ、俺の肩を噛んでいい、俺の背中に爪を立てていい。
ミミの初めてを俺が貰ったんだよ」
「い、たぃ……にゃ……」
「ミミ、ミミ、好きだ、ミミ」
「ご主人様、ミミも、ミミもご主人様のこと好きですにゃ」
俺とミミはひっしと抱き合った。
ミミはやっぱり痛むのか顔色が悪く、少々青ざめているように見える。
けど、俺たちは、種を越えて繋がり合った。
そのたまらないうれしさに、俺の視界はにじんでいた。
「もう……動いていいですにゃ」
「痛くないのか?」
「い、痛くはないですにゃ……なんかむずむずしてて……」
俺は少し笑った。
ミミはそれをみて少し拗ねたような表情をしたが、
俺の背中に手を回して、俺が動きやすいようにしてくれた。
「じゃ、いくぞ……」
途中までミミの中に埋まっていた男根を、更に押し込んだ。
血が滲んでいたが、それほど大量というわけでもなく、さっきとあまり代わらない感触。
膣の中の空気が押し出されて、結合部には気泡ができていた。
「んっ……」
ミミは目をつぶり、眉をぴくりと動かした。
ちょうど怒張の先端が、何かに当たったときだった。
「すごいよ、ミミ。膣の長さと俺の一物の長さがまるであつらえたように一致してる」
「ご、ごしゅじんさまぁ……」
「神様も粋な計らいをしてくれたんだな。ミミ。ミミのここは、俺の専用ってことだ」
「ごしゅじんさま、ミミ、うれしい」
「俺もだ、ミミ」
ゆっくりと腰を引くと、まるで磁石でひっついているかのように、ミミの腰もついてくる。
しかし、腰を引く距離は俺の方が長く、粘膜がこすれる音とともに粘液にまみれた一物が姿を現していく。
「ん、あっ」
再び腰を下ろすと、ミミは今度は逆方向に腰を引いた。
一物の挿入から逃げようとしているのか、けれど、やっぱり逃げられず、一物はミミの中に埋まっていく。
ひょいひょい動くのがもどかしかったので、俺はミミの腰を掴んだ。
「にゃっ」
ミミの驚いた声を無視して、腰を掴んで引っ張った。
より一物が深く挿入される形になる。
さっきはツンとつついただけだった子宮口が、ごんと激突した。
「にゃふっ!」
一気に膣の圧力が高くなった。
ミミは舌を突き出して、痙攣している。
「まさか……イっちゃったのか?」
「にゃ、にゃあ……」
ミミは手で顔を隠した。
指の隙間から見えるのは、真っ赤になったミミの顔の肌。
どうやらイっちゃったらしい。
あんなちょっとした動作で、ミミが快楽の絶頂に達したことに俺は言いようのない精神の高揚を覚えた。
次にでてくるのが、底の見えぬ欲望。
ミミをもっと気持ちよくさせてみたい、もっといじめてみたい。
ついでに俺も気持ちよくなりたい。
気が付けば、全力で腰を振っていた。
「だ、だめですにゃあ! 今いったばかりですにゃあ!」
「ミミ! 好きだ、好きだ、ミミ!」
「え……にゃふ……みみも好きですぅ」
滅茶苦茶に腰を振りまくり、膣の感触を全力で感じる。
あまりにも速く動かしたせいで、粘液が結合部から跳ねて、俺とミミの腹に降りかかったが、
それも快楽のスパイス。
ミミも乱暴に扱われているというのに、痛そうにはせず、むしろ気持ちよくてしょうがないようだった。
「ひぐっ、みみ、みみまたいっちゃいますにゃぁ」
「イけ、ミミ、何度もイっちゃえ!」
何度目かもう数えてすらいないが、ミミの膣が一気に収縮した。
ミミの膣は完全にほぐれ、ねっとりと絡みつくように一物を締め付けてくる。
俺もそろそろ限界だった。
「行くぞ、ミミ。ミミと俺の赤ちゃんの素を、ミミの中にぶちまけるぞ」
「きて、きてくださいにゃあ! ミミの中に赤ちゃんの素を注いでくださいにゃぁあ!」
ミミの腰を引き寄せ、俺も腰を押しつける。
恐らく今まで一番深い挿入。
一物の先端が子宮全体をぐいぐいと押し上げているところに、俺は果てた。
「にゃあ……」
俺とミミは繋がったまま、ぐったりとしていた。
心地よい倦怠感を、二人で共有し、それぞれの幸福をかみしめていた。
ミミはそっと俺との体の間に手をいれて、自分のお腹をさすっていた。
「わかるにゃあ。
ご主人様の元気のいい精子が、ミミの子宮の中を泳いで、ミミの卵子を取り囲んでいるにゃ。
ミミの卵子は抵抗できずに、ご主人様の精子に捕まっちゃうんだにゃ。
ミミの卵子は完全に征服されて……ミミのお腹の中にご主人様の赤ちゃんが……」
……。
ミミは幸せそうに「にゃふふ」と笑った。
「そんな生々しい表現はよせ」
「にゃ、にゃははは……」
苦笑いを浮かべているミミにもう一度キスをした。
情事の途中にやった荒々しいキスではなく、もっと優しいキスをした。
「……もう一回やるか?」
「にゃ」
ミミは頷いた。
俺たちはしばらく互いの愛を確かめる行為に没頭した。
「……ん……」
部屋が完全に暗くなっていた。
どうやら眠ってしまったらしい。
手探りで電灯のひもをみつけ、スイッチをいれる。
二秒ほど、点滅をしながら電気がつき、部屋が明かりに包まれた。
「ミミ……?」
あのかわいらしい耳と尻尾つきの女の子は、俺の隣にいなかった。
もしや全部夢……?
「……ニャー」
ベッドの脇から、黒い毛の猫が現れた。
ちりりん、と尻尾にくくりつけられた鈴が鳴り、金色の瞳が俺を見上げている。
「……ミミ」
甘えた声を出す愛猫の喉をくすぐった。
とても、愛おしかった。
そして、悲しかった。
神様は残酷なことをする。
ミミの願いは叶ったのかもしれない。
けど、俺の心に新しく生まれた感情は……。
あの、「にゃはは」と無邪気に目を細めて笑う女の子は、
もう二度と俺の目の前には現れないのだろう。
「にゃぁ」
黒猫が心配そうに見上げてきた。
俺は駄目なヤツだ。
人間であろうと、猫であろうと、ミミはミミなんだ。
このミミを幸せにしてやることこそ、あの女の子を幸せにすることなんだろう。
べたべたする液体を、ティッシュで拭き取りズボンを穿く。
そろそろミミのエサの時間だ。
今日は奮発して、ミミお気に入りのキャットフードを買ってきてあげよう。
「ミミ……」
ミミの耳の裏を掻いてあげた。
この前と同じように、ミミは俺の指を舐めてくれた。
ざらざらとした感触が、心地よかった。
俺は玄関までミミに見送られて、靴を履いて外へ出た。
うっすらと目に涙を浮かばせて、暗くなった道をただひたすらに泣きながら走っていった。
その後、ミミは二匹の子猫を産んだ。
出産したとき、ミミは俺に向かって「あなたの子どもですにゃあ」と人間の言葉を言った。
その日は、「一回でできるなんて運がいいなあ」と呟きながら、親父の酒を盗んで呑んだ。
それからミミはしゃべることも人間の姿になることもなかったが、
俺はミミとミミの子どもをずっと見守って生きている。