冬の深夜、とある住宅街の上空、高度1200mにて、
「・・・・隊長、これはどうでしょう?」
「う〜〜む、・・・・・まぁいいだろう。捕獲を許可する。」
「了解、捕獲器発射用意、・・・・・目標捕捉・・・・発射」
「・・・・・・・・・・・・命中、捕獲成功、これより回収します。」
  
   、
「捕獲器回収完了。回収個体は速やかに初期処理後、係留。」
「了解、作業終了、これより母船に帰還する、上昇開始せよ。」
「了解、上昇開始。」         夜空を上っていく宇宙船。

同時刻、同船内、捕獲器回収室にて、
入室する2名の作業員、全身を防護服で覆っている。
彼らは、薄暗い室内に、横たわる形で置かれている円筒形の捕獲器の前に立つと、
捕獲器に付いているタッチパネルを数回押したあと持っていた鍵を同じく
捕獲器に付いている鍵穴に差込み、封印を解除した。
すると、円筒の一方の底面が開き、中から担架の様なものがせりだしてきた。
そして、その上には、推定20代前半と思われる女が横たわっていた。
意識を失っているのか、体が麻痺しているのか、女は両目を強く見開き、
半開きの口元からは涎を垂らしたまま微動だにしない。
作業員達はそんな女が乗っている担架を捕獲器から取り外し、入って来た扉から、
すぐ隣の部屋へと女を運び出していった。       女が運び込まれてきた。
新たな部屋には、女と同年代くらいの女達数十人程がいた。     その女達は、全員
全裸だった。また、足枷をはめられ、逆さ吊りにされ、牛肉のブロックの様に整然と並べられていた。
そして、この女と同様に全く反応が無かった。
作業員達は、運んできた女を部屋の隅にある、広い作業台の上に乗せかえると、備え付けてあった
レーザーメスのような道具を手に取り、女の着衣を焼き切り始めた。
コート、スーツ、スカート、シャツ、ストッキングと、なれた手つきで素早く作業をこなしてゆく。
上下の下着も切り取られ、無抵抗の女は瞬く間に一糸纏わぬ素っ裸の状態にされた。
時計やネックレス、指輪等の装飾品も全てはずされ完全裸体にされた女は、他の女達と同様に両足に
枷をはめられた。作業員の一人が台上のスイッチを押すと、枷に繋がった鎖が巻き上げられ、
女は頭を下に向けて宙吊りになり、そのまま天井に敷かれたレールを通って部屋の空いていた隅に係留された。
作業員達が部屋を出て行く。無音状態の部屋の中で、宇宙船の揺れに合わせて数十本の肉の塊が揺れていた。   
           
数十分後、月の裏側にまで飛んできた宇宙船の前に、巨大な母船が姿を現した。



漆黒の母船は、艦首から艦尾まで約5500メートル、舷側幅約1100メートル
艦艇から艦橋最上部までが約1200メートル程の大きさがあり、月面から高度約
2万メートルの軌道上で静止衛星化していた。
地球から帰ってきた小宇宙船は母船艦艇部に近ずき、相対速度が0になったところで、
開口部から母船に収容された。

「第一0八捕獲小隊収容を確認、検畜課は捕獲個体受領の後、速やかに検畜作業を遂行せよ。」
収容された格納庫に伝令が流れた。するとすぐに、格納庫にあったシャッターが開き、
向こうから一台の貨物車両が後ろ向きに走ってきた。そして、小宇宙船の真下で停車した。
それと同時に、宇宙船の船底部が開き、中からコンテナが一つ下りてきた。
貨物車両は、荷台にそのコンテナを搭載するとシャッターの向こうへ走っていった。

車両は、母船内の通路を走っていく。時々同じコンテナを積んだ車両に出会った。
しばらく走った後エレベータ−に乗り、上へ昇った。そして扉が幾つもある、非常に広い区画に到着した。
車両はその扉に向かって後ろ向きに進行しコンテナの扉を開けた。すると、区画の扉も開き、中からレールが
伸びてきて、コンテナの中に入っていった。そして間も無く、コンテナから、逆さ吊りにされた素っ裸の女達が
レールに架けられて一列になって流れ出てきた。最後の一人は、先程の女だった。
レールに吊り下げられた全裸の女達は、開いた区画の扉の向こうへ、吸い込まれていった。

女達が輸送されてきた場所は、先程よりももっと広い場所だった。そしてそこには、およそ100000人程の
人間達が、彼女達と同じく、一糸纏わぬ素っ裸の姿を晒していた。


女達は、レールの軌道に沿ってその空間を運ばれていった。
レールの先では、彼女達と同じ全裸の人間達約10000人が逆さ吊りにされ、
なにか解からない機械や装置の間を通らされて検査のようなことをされていた。
さらにその先では、巨大な柵で覆われた大広場の中で、およそ80000人程の
人間達が、全裸で走ったり、飛び跳ねたり、泳いだりと様々な種類の運動をさせられていた。
またさらにその先では、全裸で狭い檻に入れられた約10000の人間達がコンベアーの上を流され、
奥の扉の向こうへ消えていった。
場内は、人間達の様々な言語での怒声や悲鳴・泣き声等でうるさかった。
およそ100000の全裸体には白・黒・黄色等様々な色が含まれていた黄色が最も多いようだった。
男もいたが、その全裸体のほとんどは10代後半から20代前半の若い女達で占められていた。

しばらくすると、先程コンテナから運ばれてきた女達が検査を受けさせられるときがやってきた。



   家畜性能検査

場内は、高さ6メートル、横幅1000メートル、奥行き5000メートルの
無機質な空間で天井には数百本のレールが設置され、その下を小型の運搬車両
に鎖と足枷によって連結された約10000の全裸体が頭を下にして吊り下げられている。

同船内「家畜性能検査場」作業指令室

椅子に座り前方のスクリーンを見ている作業員達。

「第97期捕獲畜、全作業終了」

「了解、待機中の全被検畜に対し該当検査開始せよ」

「了解、第100期捕獲畜、第一次検査開始」

作業員が操作盤に信号を入力すると、スクリーン内の肉列がゆっくりと動きだした。


   第一次家畜性能検査

吊り下げられた全裸の人間達は、鎖に引かれレールの下を奥へと運ばれ始める。
しばらく進んだ先では、レールが1メートル程の間隔をとって2本に分岐していた。
レール下を進む肉列がその分岐点に到達すると、それまで足枷によって逆「Y」字型に
吊り下げられていた人体は、人体運搬車が分裂し、左右のレールをそれぞれ進みだしたために、
人間達の両足は左右に大きく引っ張られ、次々に大股を開かされていく。こうして全裸で
「X」字の体勢をとらされた人間達に今度は、天井と床から伸びてきた自律型内視鏡が、
肛門と口腔から挿入された。口から挿入された内視鏡はまず洗浄液を人体内に流し込み、口腔、鼻腔
食道、胃壁等を洗浄し、それを胃の内容物もろとも吸収した後、内部の状態を観察した。

肛門から挿入された管も同様に洗浄液を流し込んで、大腸内の便・小腸内の未消化物等の掃除をし、内部を観察した。
それが終わり肛門から出てくると、内視鏡は管内部から細い管を伸ばし、それを尿道に挿入、排尿させた後洗浄し、
膀胱内や尿道の状態を観察した。


 女の場合は、これらの処置の後、さらにもう1つ検査があった。

内視鏡は、消化器官・泌尿器の観察を終えると、「X]姿勢を頭部を下してとらされた
女体の股間部中央にあけられた膣腔に進入し膣壁を洗浄後観察。さらに先程の細管を出し
それを子宮孔から挿入し子宮内部を観察、さらに進んで卵管・卵巣の状態をも詳細に調べ上げた。

内視鏡による体内検査を受けさせられた人間達は、さらに奥へと運ばれ、そこで深さ3メートル
幅2.5メートル、奥行き20メートルの洗浄液入りプールに浸けられた。人間達は水槽内で
強力な水流と泡を全身に打ち付けられ体表面の汚れを全て除去されたあと、引き上げられ、
温風による乾燥処理を受けながらさらに奥へ運ばた。運搬先には高さ・幅3メートル、奥行き200メートルの
トンネルが設置されていて、人間達はそのトンネル内に運ばれた。



トンネル内に運ばれた人間達は、そこで]線・γ(ガンマ)線・磁力線による
体内透過検査を受けさせられた。脳・眼球・骨格・筋肉・血管・脂肪等の
肉体の状態が事細かく観察されていく。特に生殖器の調査は綿密で、男の場合は
精巣・精巣上体・輸精管・前立腺・陰茎海綿体等が、女の場合は先程の内視鏡検査同様
膣・子宮孔・子宮・卵管・卵巣に加えて、骨盤・恥骨・股関節・陰核・大小陰唇等の
骨格・外性器の他、乳頭・乳腺などの乳房検査も厳重に行われた。

その後、近赤外線レーザーを全身に照射されレーザーによる体表面全体の立体画像を
記録されたあと、トンネル内から運び出された。

トンネルを抜けると、その先にはおよそ数千という数の檻が横一列に並べられていた。
檻は、高さ・幅・奥行きともに3メートルの立方体で、奥の一面だけが金属版で造られていて
その他の面は、天井も含め太さ3センチ程の金属棒を10センチ間隔で並べた格子造りだった。
檻とトンネルはレールで繋がっていて、各トンネルから伸びてきたレールは、その線路数を
檻の数にあわせて分岐し、人間達の肉列は各分岐点でバラバラになり
全裸の人間達は一人ずつ檻へと運ばれていった。


 
 第二次家畜性能検査

 全裸で逆さ吊りにされた人間達はレール下を運ばれ、一人ずつ檻に入れられていく。
そのなかに、先程捕獲されたあの女もいた。女が檻に入れられる。
運搬車は停止し、鎖が延び、女は床に「X」字のまま仰向けに寝かされた。
そのとき足枷から出てきた細い針が女の足首をさした。
足枷がはずされ鎖が巻き上げられると、運搬車を檻の外に出て行った。
上げられていた檻の格子が下がり、檻は閉められた。


          数分後


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
・・・・・・!!!!!!!!!!?!?!?!???!?!???!!!!???!?!?!!?」


「・・・・・・・な・・・・・・・・・・・・・・・・・・なにこれ・・・」


 再び作業指令室にて。
薄暗い司令室。その前方にある大スクリーンを見ている作業員達。
彼らの見ているスクリーンには、検査場の檻に入れられた人間達の様子も映し出されていた。
檻の中の全裸の人間達は、床から体を起こしてただ呆然としていたり、
立ち上がって檻の中を不安そうにウロウロと歩き回ったり、両手で格子を掴み、
物凄い形相で叫びながら檻を蹴り上げたり、或いは、うなだれ両手で顔を覆い涙を流すなど
無反応で微動だにせず、まさに生ける屍か肉に塊のようだった先程までの状態から一変した
非常に活発な様子を作業員達に見せていた。

「全被検畜の覚醒を確認」

「了解、第二次検査へ移行せよ」

「了解、第100期捕獲畜、第二次性能検査開始します」


 
 作業員達が手際良く処理を進めているころ、検査場内では、檻に入れられた
全裸の人間達の怒声、嗚咽、助け求める悲鳴、咽び泣く声などが重なり合い、
一気に騒々しくなっていた。

「 ・ ・ ・ ここどこ?・・・なんで裸なの? ・ ・ ・ 服は? ・ ・
 ・ ・ ・ ・ ・ ・もう ・ ・ ・ ・ ・  どうなってるの!!!!」

女は恐怖と不安で泣きそうになるのを懸命に耐え、冷静さを保ち続けるようとしていたが
やはり、到底落ち着けるような状況ではなかった。
しかしながら、このような非常事態の下であっても女のとしての羞恥心は健在のようで、
床に座りこみ、左腕で乳房を、右手で陰毛と陰部をしっかりと覆い隠しつつ、
混乱しながらも、今自分がおかれているこの状況を理解しようと考えをめぐらせた。


 「仕事が終わって家に帰ろうとしている途中で、突然目の前が真っ暗になって、
そのまま意識が無くなっていって、気が付いたら知らない所で檻に入れられてる。
   しかも裸で。      やっぱり解からない    なんなの?  」

「   他の人も私と同じ格好だ   」

女はあたりを見回し、自分と同じように一糸纏わぬ素っ裸の人間達が、
同じように檻に入れられているのを見た。それも一人や二人ではなく、
何百、何千という物凄い数の人間達が同じ状況におかれる信じがたい情景を。

「   これは                      ゆめ?    」

  ビーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

女が夢であることを願ったとき、けたたましいブザー音とともに、檻の一面を構成していた金属板が、
上へと引き上げられた。それにより、それまで金属板によって遮られていた光景が女達の前にあらわになった。


 金属板の向こう側から現れたのは道だった。幅・高さは彼女達が入れられている檻と同じ3メートルで、左右の仕切り及び天井の作りも檻と同様の格子状だった。
しかしその奥行きが尋常でないほど長く、檻からでは先のほうまでは見通せない程だった。
「!?!? ナニ?   何なのこの道?   」
 突如轟いたブザー音とともに現れた長大な通路を目にし、それまで泣き喚き、声を荒げていた人間達は一様に息を呑み沈黙した。
騒々しかった檻内が一瞬にして静まり返る。
檻は開かれ通路へと続いていたのだが檻から出て通路に足を踏み入れる者はいなかった。
それは、何処に何が潜んでいるのかも解からない川の中に足を入れるのをためらい、勇気ある最初の一頭が飛び込むまで川岸で立ち往生しているシマウマの群れと同じ状態といえた。
 人間達はこの更なる不可思議な事態に困惑し、「勇気ある最初の一頭」出現を待っていた。
が、そのとき、檻の床から、強烈な電撃が人間達に加えられた。
「ア===============================−ッ!!!!!!!!!!!!!」
突如加えられた電流に人間達は一斉に絶叫し、腰が砕けたかの様に床に倒れこんだ。
間も無く人間達は床から跳び起き、一斉に檻から通路に逃げ出した。
「痛い!!!イタイ!!  いたいよ〜   」
 驚きと痛みで焦燥しきった女の両眼からは大粒の涙が零れだし、全身の汗腺からは脂汗が噴き出した。
流れ落ちる汗と涙が、全裸に剥かれた女体の柔らかな肌を濡らしいく。
檻から強制的に跳び出させられた人間達が未だ鮮明な電撃の痛みに身悶えていると、その電撃を加えた檻の床が通路側との接触面を中心軸に回転・上昇し、それまで床だった部分が壁となって檻の出口を塞いだ。
人間達は痛みに耐えつつその鈍く黒光りする金属壁に眼を向けた。
「今度は一体何をされるのか」
恐怖とそれに伴う静寂があたりを覆った…………………………
その時、
  ガッッガコン!!!
ギイィユウィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン
 何かの駆動音の様な重低音が辺りに響き始めた。
すると人間達の前にそびえていた壁がゆっくりと動き出し、ジリジリと人間達に迫ってきたのだ。
「   イッ  イヤァーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!! 」   
人間達は悲鳴をあげ、全速力で通路の奥へと走り出した。
「第100期全被検畜の走行開始を確認。」
「了解、引き続き作業を続行せよ」
 柵で仕切られた通路の中で慌てふためき、迫り来る壁から必死の形相で逃げ続けている全裸の人間達をスクリーンで観察しつつ、作業員達は極めて事務的に作業を進めていく。


「    ハァ   ハァ  ハァ  ハァッ…  イヤァ…    もう…      こないで…   」
柵で仕切られた狭い通路の中を、全裸の人間達は息を切らせつつすでに2km近く走り続けている。
後方から迫る黒い壁はそんな人間達と常に約5〜6メトール程の距離を維持しつつ人間達を追い立てた。
人間が全速力で逃げれば壁もそれに合わせて加速し、反対に疲れて減速すれば壁もまた減速した。
しかし どうやら「最低速度」が設定されているようで、人間が立ち止まったり、或いは減速して
「5km/時」を下回ると 壁は人間に衝突し先程と同じ電撃が加えられる。
そして そこから3分以内に「5km/時」を上回る速度に到達しないと再び電撃が加えられる 
という仕組みになっているようだった。柵の中の人間達もまた 逃げても逃げても追ってくる
壁に追い立てられ、走らされ続けるなかで通電され、絶叫し 悶絶させられたあと、
動けなかった為に再び電撃を加えられたり、或いはそんな哀れな他人の姿を見せ付けられていくうちに、
この仕組みを文字どうり「体で」理解させられたらしく、以後人間達は体力を浪費しないよう
最低速度ぎりぎりの速度で走るようになった。
しかし それでもすでに2km近くを走らされ続けた上に、未だに「終わり」が見えないどころか
そもそも「終わり」があるのかさえも解からないという状況が人間達を肉体と精神の両面から追い詰めていた。
そして そんな人間達の前には更に過酷な現実が待ち受けていた。