「抱いて、友くん……」

深夜、我が家の寝室にて
湧き上がる羞恥心を押し殺して、我が愛する夫に囁いた。
いつもと違い、スケスケのいやらしいランジェリーを着て、誘惑する。
自分で言うのもなんだけど、今の私は最高に色っぽいと思う。
学生時代、高校や大学のミスコンで優勝しなかった事は、ある一回を除いては無いし。
結婚した今でも、スタイルの維持の為の運動はしっかりしているつもりだ。

しかし、この下着と台詞で夫──友くんが堕ちなかった事はない。
友くん以外の男性は知らないから分からないけど、多分イチコロだと思う。

「ゴメン、美夜さん……」

しかし、私をさん付けで呼ぶ年下の夫の答えは『NO』だった。
既にベットに横になり、私の方を見ようともせず、壁の方を向いたままで。
夫の拒絶に、莫大な不安と恐怖を味わいつつも、わかった。と頷いた。
黙って後ろを向き、脱ぎ捨ててあった寝間着を羽織る。
そのまま無言で、夫の隣に横になる。
愛しい、自分の半身とも言える友くんの匂いに包まれながら、布団にくるまった。

涙ぐみながら、
(いつからだろうか?)
と考えて見ると、それは二週間ほど前からだった。




    * * *



その日、私は病院を訪れていた。
ここ最近、食欲不振──と言うか、拒食症の症状が再び出ていたからだ。
再び──と言うのは、友くんと付き合い始めるまで、私は一時期、精神の病──鬱病にかかっていた時があった。
その鬱病になったのは、友くんに別の彼女が出来ていた事に起因しているのだが、長くなるので割愛する。
紆余曲折あって、晴れて付き合い始めると、嘘のように鬱病が治ったのだ。
だけど、今でもたまに、拒食症などの鬱病の名残が出ることがある。
原因はわからないけど、食べた物をもどしてしまうのだった。

その事を医者に話すと、「何か不安な事でもあるんですか?」と聞かれた。
だけど、その時自分の不安をハッキリ自覚していなかったので、分からないとしか答えなかった。

「じゃあもう少し様子を見ましょうか」

それが医者の診断だった。

そしてその晩、夫である友くんに、

「……病院、行ってきた」

と告げた。
すると友くんは、少し悲しそうな、それでいて驚いたような声で、

「うん、わかった……」

とだけ返事をした。

そもそも、私は元から寡黙な方で、友くんはよく喋る方であった。
だから自然と、友くんの話を私が聞き、相槌をうつ。という会話のスタイルが私達夫婦の間では出来上がっていた。
友くんは、私が何を言いたいか分かっているはず、と信じて疑わなかった。
今回の事件は、そんな私の過信が原因なのかも知れない。

それから今まで二週間。
夫が、求めて来なくなった。
私を、だ。
今までそんな事は無かった。
結婚してからもう丸一年経っているが、今までは2日以上間を開けた事など無かった。
1日一回、もしくは二日に一回は最低でもこなしていた。
まるで獣のようだ───と自分でも思うが、抑えられなかった。
友くんに抱かれるのは、心も体も、とても満たされる。
友くんは優しく、時には激しく私を求め、私もまた、友くんを求めた。

だったのだが───それが途絶えて、もう二週間。
私は我慢出来なくて、思い切って誘惑したのだけど────

結果は惨敗。
私を見てもくれなかった。
泣きそうになった。
でも泣けば、友くんが迷惑すると思ってこらえた

そして、もう一つ、私が気になっている事があった。
帰りが、遅くなったのだ。
今までは、どんなに遅くとも10時までには帰ってきていたものが、最近、最悪夜中の一時を過ぎることもあった。
私は晩御飯を共に食べるために待っていたのだけれど、
「先に寝てないとだめだよ」と言われてしまった。

帰りが遅くなる────その事が、どんな不安に繋がるのか、
そう、浮気である。
私は、友くんが浮気をしている────なんて、最低で最悪の、絶望と殺意をともなった不安を感じてしまった。
そんな筈はない────そう思い込もうとしても、思い当たる出来事が多すぎた。
帰りが遅くなり、私を求めなくなった────

つまり、そとで他の女と────

それに思い当たった時、私は卒倒した。
比喩ではなく、実際に。

そして、それを確かめるため、今日、誘惑したのだ。
結果───浮気、している可能性が高い。
その事実を認めたくなかった。
もしかして、私を嫌いになったのだろうか────
こんな、年中情緒不安定女に疲れたのかもしれない。

そんな不安から逃げるように、私の意識はブラックアウトした。




   * * *



翌日。

「じゃあ……行ってくるね、美夜さん……」
「……ん……」

家を出ていく夫を手を振り、見送る。
昨夜の誘いを断ったからか、友くんの言葉には罪悪感が滲んでいるのを感じた。

友くんが家を出てから暫くして、私も家を出た。
尾行して、浮気かどうか────確かめるために。
バレないように、いつもは着ない短いスカートとニーソックスだかハイソックスだか知らないけど、膝上まである靴下を履いて。

もし本当に浮気だったら───死のう。
まだ、愛されている内に。
そう覚悟して、私は家を出た。



     * * *



到着したのは、夫の働く会社の出入り口が見える、近くのネットカフェだった。
友くんが出てくるまで、ここで時間を潰そうと考えてのことだった。



夜、九時になった頃。
友くんが会社から出てくるのが見えた。
結構距離はあるが、愛する人を見紛うはずはない。
すぐさま私は会計を済ませ、友くんの後をつけることにした。

友くんは、明らかに家とは別方向の場所を目指していた。
やっぱり浮気なのか───と諦めかけつつも、一縷の奇跡を信じて最後まで付いていった。

で、着いた先は────



「────工場、現場?」

そう、更に言えば、そこの迂回路への誘導を、警備員のような格好をした友くんが、赤いライトを一生懸命振ってやっていた。

「なんで────?」

離れた場所から、それを見ながらそう呟いた。
なんで、そんなことを?
何でそんなアルバイトを────

そんな疑問を感じつつ、友くんが終えるのをまった。

三時間後────

どうやら終わったらしい友くんが、先輩らしき人にぺこりと頭を下げて、駅の方へ向かうのが見えた。
慌てて追いかける。

「────うわっ!?美夜さん?」
「……友、くん……?」

いきなり目の前に現れた私をみて、素っ頓狂な声を上げる友くん。

「な、何ですかその格好!それになんでこんな所に?」
「……付いてきた」
「付いてきたって……まさか会社から?」
「……ん」

頷く私に、ため息をつく友くん。

「なんでそんなこと───」
「心配、だった……」
「はぁ?」

目を点にする友くん。
しかし私は構わず続ける。

「浮気、してるんじゃないか……って」

頬を何かが滑り落ちた気がしたが、それも気にしない。

「友くん、帰りが遅くなった。だから……」
「あ……」

そこで、友くんがこえを漏らした。

「その、実は……出産費用、稼いでたんです……」
「だ、誰の?」
「へ?美夜さんのに決まってるじゃないですか!」

キッパリと言い切る友くん。
でも、私は困惑するのみだった。

「でも、私妊娠してないよ……?」
「へ?」

またしても素っ頓狂な声を上げる友くん。

「え?だって、最近何度も吐いてたし、病院も行ったって……」
「それは、ちょっと拒食症ぎみだったから……」

どうやら、友くんは拒食症気味で吐いてたのを悪阻だと、病院へ行ったのは産婦人科だと思っていたらしい。
あの時、言葉が足りなかったせいなんだ……
自分の浅はかさを呪った。

「えぇっ?だ、大丈夫なんですか?」
「ん……多分、もう大丈夫」

自分の失態を悔やむよりも、私の心配をしてくれる友くん。
優しい。友くん大好き。
そんな気持ちで胸が満たされる。
私の拒食症は、心因性なので、大きな不安が消え去った今、もう症状はないはずだ。

「はぁ〜良かった。……ちゃんと言ってくださいよ美夜さん……」
「……ゴメン」
「わっ!ちょ、ちょっとこんな所で抱きつかないで下さいよ美夜さん!」


申し訳ない気持ちで一杯になって、思わず抱きついてしまう。

肉体労働をしたからか、Yシャツからは友くんの濃厚な匂いがした。
下腹部が疼く。

「なんで、アルバイトなんか……」
「美夜さんが病院に行ったって言ったとき、あんまり嬉しそうじゃ無かったですよね?
それで、嬉しそうじゃないのは、僕の収入が少ないから、堕胎しようとか考えてるんじゃないか……なんて、今考えれば間抜けだけど、そう思ったんです。」

はは……と自嘲気味に笑う友くん。
ギュッと、抱きしめるてに力を込める。

「み、美夜さん……?」
「バカ」
「へ?」
「……私が、友くんの子供、産みたくない訳がない!」

珍しく怒鳴った私に、ぽかんと呆ける友くん。
私自身、自分が大声を出したことに驚いていた。

「み、美夜さん……」
「……コッチ」

ぐいぐい友くんを引っ張って歩き出す。
友くんも、コケそうになりながらも歩き出した。

「ど、どこ行くんですか?」
「……子作り」

顔が熱い。
自分でも恥ずかしい事を言っているのが分かった。
だけど、もうこの疼きは止められない。
早く、一刻でも早く抱いてもらいたくて、おかしくなりそうだった。

「えぇっ?」
「…………」

驚く友くんを無視して歩き続ける。
やがて、歓楽街へとやって来た。

立ち並ぶはキャバクラやソープランドの看板、そして、私たちの目的地────ラブホテルがあった。

「み、美夜さん?」

友くんが何やら声を上げているが、無視する。
受付を済ませ、用意された部屋へと向かう。

「美夜さっ!?」

部屋に入り、友くんが何か言っていたようだが、最後まで聞かずに唇を合わせる。
もちろん、舌も絡ませるディープな方だ。

「ん……んふ……」

くちゅくちゅと舌が絡み合ういやらしい音が響く。
私は、ほとんど真っ白になっていた。
目の前の、愛すべき獣の精を吸い尽くす事しか考えられなくなっていた。

「美夜さん、せ、せめてベッドでんむっ!」

唇を放し、そう言いかけた友くんに最後まで言わせないで再び口付ける。

「ん……はぁ……んぅっ!」

恍惚としながら舌と舌を愛撫していると、急に抱き抱えられた。
そう、世に言う『お姫様抱っこ』と言う奴だ。
抱っこされながら、世の中の女性がこれをなぜ好むのか分かった。
安心、するのだ。
愛する者の体温に包まれ、愛する者に支えられ、愛する者の心音が聞こえるから
今度から家でもこうやって運んでもらおう、と決めながら、更に深く口付けた。

どさり、とベットに投げ出される。

どさり、とベットに投げ出される。
友くんは慌てたように急いでワイシャツを脱いで行く。
露わになる裸体。
逞しく引き締まった体。
鼻血が出そうになった。

「美夜さん……いや、美夜」

友くんが、私を抱くとき、いつも"美夜"と呼び捨てにする。
それが、どうしようもなく嬉しくて。
ギュッと、抱きしめた。

「くふ……んぁ……」

胸に痺れに似た快感が走った。
気づけば、胸に手が添えられていた。
優しく撫で回される。

「"友也"、ちょっと……」

歩いている時から興奮して、既に準備万端の私には焦れったくて、思わず声を掛けた。
体を離し、すでにぐっしょり濡れているパンツだけ脱ぐ。
ミニスカートを履いてきて良かったと思った。

「ね……早く……」
「う、うん……」

友くんを急かすと、ベット脇に備え付けのコンドームを付けようとした。

「……ダメ」
「え?」
「子作りって、言った」
「でも……ぅわっ!」

私の発言に渋る友くんを、逆に押し倒した。
そのまま口付ける。

「ん……ふっ……」
「んぅ……んふ……」

声が漏れるのに構わず、より深く口付けようとした。
同時に、馬乗りになった体制のまま、服を脱ぐ。

ニーソックスだけを残して、後は裸。という微妙な状態になった所で、唇を離した。

「いれるね……」

そう宣言して、愛しき人の肉棒を手にする。

「ん…ふぅ……」

ゆっくり、腰を沈める。
ずぶり、と熱の塊が侵入してきた。
息を漏らしながら、限界まで挿入する。
友くんのペニスは大きく、太くて私は根元まで受け入れる事が出来ない。

「くふぅ……ぁあ……」

久し振りだからか、挿入しただけで、腰が快感に震えた。

「気持ち、良いの?」

私の下で、友くんがそう言った。

「う、ん……久し振り、だから……」

快感に震えながら、ぎこちなく答える。
そこで、いつの間にか置き去りにしていた疑問が再び浮き上がってきた。

「んぅ……何で、抱いてくれなかったの……?」

膣内でびくりと震えた肉棒に声を漏らしながら、問う。
同時に、腰を前後に降り始める。

「それは、美夜に負担、掛けさせちゃ、いけないって」

あぁ、そうか。
友くんは私が妊娠したと思ってて、だから気遣ってくれたのか。
その答えを聞けて、胸の中のわだかまりが全て無くなった。
変わりに、友くんへの想いで満たされる。

「ん、はぁっ……くふぅ……好き、好きよ……」
「美夜……僕も……」

友くんへの想いを、半ば無意識的に呟きながら、よりいっそう激しく腰を振る。
それに答えてくれる友くん。
愛しさと、嬉しさ。
それが快感に上乗せされて、意識が飛びそうになった。

「……んぁあ!……ひぅ、ん……んちゅ……」

突然、友くんが下から突き上げてきて、快感で上半身がバランスを失い、友くんの上半身と重なった。
彼に唇を奪われ、離れないように背中に手を回された。
私も、負けじと抱きしめ返す。

「んっんっんっ!ぷあっ!止めっ激しっ!」

キスをしながら、激しく突き上げられ、たまらず唇を離した。
私が抗議の声をだしても、友くんは無視して激しく付いてくる。
気が付くと、いつの間にか、体位が対面座位へと切り替わっていた。

「ふぁ!だめ!もう、もう私……」
「もうちょっと、もうちょっとで僕もイくから……」

快感が最高潮まで高まり、もう太ももにはピクピク痙攣し始めていた。
体が浮き上がるような感覚。
絶頂が近い証だ。
そんなハズない、と分かっていても、離れないように、より一層力強く抱きしめてしまう。

「中に、私の中を一杯にしてっ!っふぁ、ああぁあぁぁぁ!!!」
「っく!」

最後の最後に、快感の大きな波に呑まれた。
脚を彼の背中で絡ませ、ギュッとしがみつきながら、細かく震える。
その時、思わず背中に爪を立ててしまった。
それがキッカケになったのか、友くんが射精した。
私の膣内で膨れて、どくんどくん、と子宮に精液が流し込まれる。
いや、どくんどくん、と言うより、ビシャビシャ、と子宮の底に叩きつけられているみたいだった。
友くんも、我慢してたのかな……
何て考えながら、私の意識はフェードアウトした……



   * * *



「ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!もう二度としません!」

翌朝。
あのあと、私の意識はフェードアウト……させて貰えなかった。
私と同じく、二週間まるまる我慢していた友くんが、私を求めたのである。
私と言えば、色々と深く考えたせいで疲れ果てていたのだけど、それでも友くんの頼みを断る事なんか出来なかった。

そのまま、計七回、膣内射精された。
私は少なくともその倍、絶頂を迎えたと思う。

二〜三回目までは、大丈夫だった。
だけど、それからは、いい加減意識朦朧とし始めていた私を、友くんは犯し続けた。

で、今。
がぴがぴになった下半身と、ガクガクで動きそうもない腰の私に、友くんが土下座している。
上半身を手を使って起こすと、下腹部でちゃぽん、と聞こえた。
比喩ではなく、実際に。
撫でてみると、少し膨れていた。
あまりの友くんの絶倫ぶりに、すこし呆然としてしまった。
もしかしたら、今までの性交でも我慢していたのかもしれない、とも思えた。

「……友くん」
「ハイッ!」

私の呟きに、なぜか悲壮感を感じさせる声で返事する友くん。
それがおかしくて、クスリと笑いつつ、言った。



「……もう一回、しよっか」



(美夜の友人と美夜の会話より)


へー、そんであんたは長女が出来たわけ?

すごいね、今何人目だっけ?八人!?

何?野球チームでも作るつもり?

あたしも早く子供作れって?

いやでも、八人はちょっと……

て言うか八人ってどうなのよ?あんたまだ結婚五年目でしょ?

え?双子が二組に三つ子が一組、それに今お腹に居るのを合わせて八人?

あ、あんたは犬かっ!

それに、そんなちっちゃな体でよくもまぁ……

あんた、多産と安産の神様が守護神なんじゃないの?

……て言うかさ、経済的にキツいんじゃないの?

え?あんたが稼いでんの?

年中孕んでるあんたがどうやって……株?

マジで?日給五百万?

あんた大金持ちじゃない!

全部夫と子供のため?

凄いねあんた、尊敬するわホント

子供が呼んでる気がする?

超能力者かあんたは!

でもまあ、あんたなら分かるのかもね……

じゃ、気をつけて帰んな!

旦那さんによろしくな!




……子供、か……



end of text