「大馬鹿者!」
資産家で知られる荒川家の庭に、主の荒川泰三の怒鳴り声が響いた。六百坪はあろうかという豪邸の敷地内を管理する、下男の山根新平がへまをやらかし、叱られているのである。
「旦那様、申し訳ありません」
新平は膝を折り、地に頭をつけて謝っていた。十五でここへ奉公に上がってから三十余年、五十を超えているが、今もって一人身である。

痩躯で長身、一見すると虚弱そうだが体は頑健そのもので、重労働も易々とこなす為、家中では案外、重宝がられている。その男が四十一の泰三から頭ごなしに怒鳴られて、ぶるぶると震えていたのを哀れみ、妻の麻美が庭へ進み出た。
「あなた、もうそのくらいで」
まだ二十の花の如き若妻は、父のような年齢の男が土下座するのを見て、快く思わない性格だった。

「うむ、お前がそういうのなら・・・」
髭をたくわえた顔を綻ばせながら、泰三は手を振って新平を追いやった。この男、親子ほども年の離れた妻を溺愛しており、彼女の前では懐の深い性格である事を
強調したがった。
「そろそろお仕事に行かれる時間では?」
「ああ、そうだった。誰か、車を出してくれ」
そう言ってガレージに向かう夫を、麻美は冷たい視線で見送った。塵ほども愛していない。横顔はそう語っているようであった。

麻美は元々、好んで泰三の妻となった訳ではない。父親の事業が失敗し、泰三が経営する銀行から借りている金の返済に困り、身売り同然で結婚しただけの話である。
それまで独身を通してきた泰三は、社交界でも評判だった麻美の美貌に惹かれたが為に、傾きかけていた父親の事業にあえて金を貸し付けたと専らの噂だった。麻美の実家は華族の出で、年頃になればどこか名家へ嫁がれるだろうと誰もが噂していたが、現実は過酷だと言わざるを得ない。

泰三の車が出て行ったのを確かめてから、麻美は邸内をぶらつき始めた。そして小声で、新平、新平やと下男の名を呼ぶ。
「奥様、御用でしょうか」
庭木の手入れをしていた新平が藪からにゅっと顔を出し、麻美の前に現れた。人生の黄昏を迎え始めたこの初老の男の手を麻美はそっと取り、
「私の部屋にいらっしゃい」
そう言うのである。

それから他の家人の目を気にしながら、そそくさと自室に戻ると、カーテンを閉めて着ている物を脱ぎだした。夫に買ってもらった高級なワンピースを放り出し、キャミソールとショーツのみの姿となって、箪笥の中に隠してあるタバコの箱を出し、一服つけていると、ほどなくして扉がノックされた。
「お入り」
「失礼します」
現れたのは新平である。彼は下着姿でタバコを飲む麻美を見て、特に驚きもしなかった。

「誰にも悟られなかっただろうね」
「はい」
「じゃあ、あなたも脱いだら」
麻美はベッドに落ち着くと、手招きをして新平を誘った。
「さっき、あの人にこっぴどくやられてたわね。その鬱憤を私で晴らすのよ」
「はい」

衣服を脱いだ新平の体つきは老いぼれそのものだったが、男根は十代の小僧のような活力に溢れている。大きさはそう、二十センチもあるだろうか。筒の部分がやたらと太く、傘がぐっと開いてよく育った松茸のような姿だった。新平は若妻に圧し掛かり、キャミソールの上から小振りな乳房を揉んだ。
「奥様、奥様」
「ふふ、がっつかないの・・・」
五十男に体をいいようにされて、麻美は上機嫌だった。最後の煙を吸ってからタバコを灰皿に置き、まるで赤子をあやすように新平の頭を撫でてやる。

胸を揉まれているうちにキャミソールが乱れ、生の乳房が弄ばれていた。新平は特に女の乳房に執着があるらしく、麻美とこうしている時はとにかくここを愛撫した。
掌の中に二つの膨らみを収めたかと思うと、それを持ち上げるようにして頂きを吸う。時に甘く噛んだり歯を立てもしたが、麻美は新平のそういう性分が嫌いではない。
僅か十五で奉公に出され、母親の慈悲も知らずに生きてきたのだろう、乳房を恋しがるのもやむを得ないと思うのだ。

「新平、もういいでしょう?私にもやらせてちょうだい」
「はい」
麻美は新平に立ち上がるように命じると、反り返った男根に口をつけた。
「あの人にだって、やらないんだから」
「ありがとうございます、奥様・・・」
舌先にぴりりと塩気を感じてからは、生臭さばかりが鼻をつく。夫にすらしてやった事のない口唇愛撫の感想は、いつもそんな風である。

男根を舐めているうちに、麻美の肌は色づいていく。陶器の如き乳白色からうっすらと薄桃色に染まり、目元も紅をさしたように色づいた。知らず知らずのうちに手が内股へ伸び、近頃、覚え始めた女の喜びを貪欲に得ようとする。ショーツ一枚隔てて、充血した肉芽を擦ると素晴らしい気持ちになるのだ。性に淡白な夫との閨では得られぬ、淫靡なときめきであった。

「・・・新平、とどめをさしてちょうだい」
「はい」
麻美は口唇愛撫をやめ、ベッドへ寝そべった。天蓋のついた豪奢な寝具は、夫がこの若妻の為にわざわざ外国から取り寄せた物だった。
「いつもの通り、子種は中へ」
「分かりました」
二十センチの男根が、僅かに開いた若妻の花弁に接した。肉の傘がそこ押し広げ、突き込まれるように埋没していく。
「うッ!」
夫よりもはるかに大きく、逞しかった。麻美は男根を奥まで挿入されると、自分が田楽にでもなったような気がした。

波打つシーツの上で麻美は身悶えた。新平に足首を掴まれ、足そのものを左右に開かれながら体重をかけられて、男根を最も奥深い場所まで突き込んでもらうのが、たまらなく感じる。一、二の三で新平は腰を入れてくる。ズーンと突き上げられる度に我が身は腰骨の辺りから温かな疼きが放射状に伸び、最終的には理性の置き場である脳を焼いた。

その際、夫への罪悪感は無かった。芸者でも落籍するかのように自分を娶った泰三を憎みこそすれ、申し訳ないなどとは微塵も思わない。むしろこの下男の方がよほど素直で愛しい。この忌まわしき野合は夫への復讐であった。最終的に孕む事を目的としている為、泰三以外の男の種であれば、相手なぞ誰でも良い。出来れば夫の嫌う下層の労務者や、それこそ乞食に抱かれても良かった。

「新平、ああ、新平」
「奥様」
二人は抱き合い、口づけを何度も交わした。男根はずっと奥の方にとどまり、麻美を喜ばせた。肉の筒で女洞が満たされる感じが、何とも心地良かった。
「お尻の穴もいじって、ね、お願い」
節くれだった新平の指で排泄穴を穿ってもらう事も、麻美のお気に入りである。もし、こんな事を夫に頼めば、嫌な顔をするに違いない。そこがまた小気味良いのだ。

「あ、はーッ・・・」
新平の指は麻美の肛内へと埋没していく。部屋は防音がしっかりと施されている為、喘ぎ声が外に漏れる心配は無く、よもや若妻と下男がこのように淫らな行為に耽溺しているとは誰も思わず、時はただ流れていった。
「奥様、いきます」
「私もよ、ああ、もっと体をゆすって。子種は全部、中へちょうだいね。私、あなたの子供を産んであげる!」
共に高まってきて、頂きに向かって駆け上がるばかりとなった。新平は腰の動きを小刻みにし、麻美はひッ、ひッと息も絶え絶えに、今際の喘ぎを漏らしている。

「ああッ」
麻美は歯を食いしばり、その時を迎えた。新平の男根の先から放たれる子種が、まるで音を立てているかのように、膣内で感じるのである。例えるのならば男根は水鉄砲で、その先端から温めた液体を放出される光景が、脳の奥で結ばれるのだ。
新平も汗だくになり、最後は震えながら達した。麻美の望む通り子種は全て胎内に放ち、尻の穴をこれでもかと締めて、最後の一滴までも尿道に残す事はなかった。

「ふう・・・」
麻美は新平から顔を背け、絶頂の余韻に浸る。麻美は達した後は何故か男の顔を見たくなくなるのだ。この間抜け面と罵ってやりたくもなる。これだけは相手が夫でもそうでなくても同じであった。
「まだ抜かないでね」
「はい」
麻美は膣口をキュッ、キュッと閉めて、だらしなく涎を零す男根を締め付けた。まだ残り汁があるかもしれないと考え、しばらくは繋がっていたい。

もうこういう関係を幾度も重ねているが、いまだ懐妊の兆しが無い事を麻美は不思議がっている。週に一度くらいしか自分を抱かない夫はともかくとして、新平とはあまり日を置かずに体を重ねており、そろそろ彼の子を孕んでもいい時期だった。
(まだ、頑張らないといけないか)
夫、泰三の子を宿す前に、この下男の血を引く子を孕み、産まねばならぬ。それが麻美にとっての唯一の望みだった。

卑しい身分の男の子供が、鼻持ちならぬ性格の泰三の後を継ぐ。それほど楽しい事がこの世にあるだろうか。実家を追い詰め、自分を無理に娶った悪党の鼻を明かしてやる。麻美はその日が来るのを想像しながら、天井を見つめていた。

おすまいん