1.
"徴募令状"
その無愛想なはがきには、平凡な明朝体でそう印字されていた。
震える手でシール貼りを剥がすと、中にはこう書いてあった。
"日本国総理大臣は、「優生男子保護を目的とする法令」第4条に基づき、左記の者を平成51年7月1日より徴募するものとする。徴募期間は3年間とする。"
何かの間違いじゃないか。一縷の望みをかけて次の行を読む。
"若杉辰馬 平成37年6月5日生 満14歳"
間違いない。そこに書かれているのは、確かに僕の名前だった。
"当人は徴募期間開始の3日前より前日までの間に、現住所最寄りの優生徴募事務所へ出頭のこと。"
それ以下の文章は、まるで頭に入らなかった。僕の手元を覗き込んでいる家族、父さんと母さん、そして妹の春佳は、一瞬の間を置いて一斉に泣き崩れた。
僕は、お国のために"種馬"に選ばれてしまったのだ。
「そんな、……そんなっ」
へたり込んでしまった母さんの涙声を聞きながら僕は、赤紙ってちっとも赤くないんだな、なんてぼうっとしながら考えていた。

21世紀に入る前から段々と下がっていた新生児出生率が、0.2%と絶望的なまでに下がってしまったのは、ちょうど僕が生まれて1年も経たない頃のことらしい。それも、日本だけのことではなくて、アフリカやインドや中国、どの国でも子供がほとんど生まれなくなった。
当時は誰もその原因が分からなかったけれど、世界的な原因究明の結果、偉い遺伝子研究の先生がその理由を突き止めた。
APDS、後天性生殖不全症候群という、菌だかウイルスだかが引き起こす伝染病が原因だった。これにかかると、他には全然悪いところがないのに、子供が出来ない体になってしまう。
最初、人口爆発に悩む途上国なんかでは、歓迎する声もあったらしい。日本でも、子供が出来る心配をしないでセックスが出来ていいなんて言う人もいたそうだ。
でも、病気の実態が知れるにつれて、そんな暢気な空気はすぐに吹き飛んでしまった。
女の人の3割、男は9割ちかくも子供が出来なくなる。しかも、子供が出来る男の人でもほとんどの場合、30歳前には子供が出来なくなってしまう。
子供が出来ない男は結婚できない。子供が作れる男は取り合いになる。日本ではなかったけど、外国ではパニックになって暴動が起きたりもしたらしい。一国の社会問題どころか、人類全体の存亡が掛かった問題になってしまったのだ。
日本やヨーロッパでは、すぐに全国的な抗体検査の実施と、APDS陰性の男児を保護する制度ができあがった。先進国でも、ロシアや中国のように人口の多い国は油断していたみたいで、逆に組織的な保護体制が立ち後れてしまったそうだ。
そんな風にして、世界人口の実に0.1%に満たない"若い種馬"は、パンダなんかよりもずっと貴重な保護動物になってしまっていた。
僕は12歳になったときに初めて抗体検査を受けた。第二次性徴が始まらないと正確に抗体の判定が出来ないとかいう話で、成長の遅かった僕は、クラスでも一番最後の検査だった。
クラスのみんなが"タネナシ"だったから、僕もてっきりそうだと思っていた。
この"赤紙"がくるまでは。

誰が、徴募令状のことを"赤紙"と言い始めたのかは知らない。
僕が初めてその話を聞いたのは、学校の先生が痛ましげな顔で"優生男子保護制度"について説明している最中に、隣の席のユースケがこう言ったときだ。
『アカガミが来ると、ジンキョで死んじゃうんだぜ。』
キシシシと笑うクラスメイトを見て、アカガミってのはシキガミの仲間かなんかかと思ったものだ。とにかく、なんだか良く分からないジンキョとかいうので死ぬのは、ちょっとだけ怖かったのを覚えている。
でも、そのアカガミに連れ去られる今になって、ほんとの怖さが足下から這い上ってくるような気がしてきた。
「若杉辰馬君、バンザーイ!」「バンザーイ!」
近所のおじさんやおばさんが声を張り上げる中、僕は家を出た。父さんと母さんは、強ばった顔に無理矢理笑顔らしきものを浮かべていた。母さんの握った手は血の気が失せて真っ白になっていた。
「おにいちゃん。」
青い顔で唇をかみしめた春佳は、真っ赤な目で僕を見つめていた。小学4年生の春佳はもうアカガミについて知っているから、僕がもう生きて帰ってこれないものと思っているみたいだ。
「大丈夫だよ。僕はほら、あんまりかっこよくないから、そんなに、その、お仕事も回ってこないさ。」
笑って頭をなでてやると、妹はぐしりと鼻をすすり上げた。
「辰馬君、時間だよ。」
家の前の道路で待ちかまえていた黒塗りの車から、黒服にサングラスの怖そうなおじさんが降りてきて、僕に声をかけた。アカガミには出頭なんて書いてあったけど、実際には優生保護局がこうやって迎えに来るものらしい。きっと、徴募される男が怖じ気づいて逃げないように捕まえに来るんだろう。
「行ってくるね。」
「息子さんをお預かりします。」
車の後部座席に乗り込んで振り返ると、せり上がる黒いガラスの向こうに一瞬だけ、妹の泣き顔が見えた。
春佳の赤い頬から零れた涙が地面に落ちるところまでは、ガラスが閉まってしまい見ることが出来なかった。


徴募事務所といっても、全然お役所っぽくなかった。きっと区役所みたいな場所なんだろうと思っていたけれど、そこの見た目は巨大な研究所というか美術館というか、とにかく広くて大きな場所だった。
黒服のおじさん達に案内されて、びくびくしながら建物の中を歩いていくと、豪勢な応接室に通された。
勧められたソファに恐る恐る座ると、奥の扉が開いた。大勢の黒服たちを従えて、真っ赤なスーツを着た女の人が入って来た。
その人を見て、僕はびっくりして口を開けて固まってしまった。
ものすごい美人。
黒目がちで大きな瞳に長い睫毛。細面だけどふっくらとした頬。通った鼻筋の下には、つやつやした赤い唇が微笑んでいる。
背が高くて、大きな胸にくびれた腰で、すらりと伸びた細い足はストッキングに包まれている。
長い黒髪を後ろでアップにしいて、その人が動くたびに白いうなじがちらりと覗く。
「君が若杉辰馬くんね。新生館へようこそ。」
「しんせいかん?」
「ええ、新しい命が生まれる場所だから、そういう名前なの。」
そのきれいな人は、優しく答えてくれた。
「私は優生保護局の主任担当官で、新谷悠子。あなたの担当になるわ。よろしくね。」
僕の向かいに座ると軽く会釈する。
「知っていると思うけれど、あなたにはこれから3年間、子供を作ってもらうことになるわ。」
そこで言葉を切った新谷さんは、ふふっ、と口元に笑みを浮かべて少し身を乗り出した。
「そう、女を孕ませるのよ。」
妖艶にささやいたその声に、僕の背筋がぶるっと震えた。


2.
ぼーっと、熱でもあるみたいになったまま、新谷さんに言われるまま良く分からない書類にサインしたりした後、僕は何か検査みたいなものをされた。最初、何をされるのかちょっと怖かったけど、
「辰馬くんが、これから元気に女の人を孕ますことが出来るように、体の調子を見ておくのよ。」
新谷さんにそう言われると、それがすごく大事なことなんだと感じるようになった。
血を抜かれたり、素っ裸にされて調べられたりして少し恥ずかしかったけれど、言われるとおりにした。
検査の時にはチンコの大きさを測られたりもした。
メジャーを持った女の看護師さんに
「あら元気。勃てる必要ないわね。」
といわれたときは赤面してしまった。新谷さんに会ってからずっと、僕のチンコは固くなったままだった。


診察が終わると、用意された服(学校の制服のようなもの)に着替えて別の部屋に案内された。
僕の家が丸々入るぐらいの大きな部屋で、大きなベッドや壁掛けモニタ、机や本棚なんかが置いてある。
落ち着いた感じの家具ばかりだけど、広すぎて落ち着かない。そんな部屋。
「ここが辰馬くんの部屋よ。」
新谷さんが柔らかい笑顔でそう言った。そのまま新谷さんは、ソファを指して座るように促した。
差し向かいで座ると、新谷さんはゆっくりと長い足を組んだ。
思わず、艶やかなストッキングに包まれた足に視線を奪われてしまったけど、慌てて顔を上げる。
すると、新谷さんと目と目が合ってしまった。
ふふっ、と指を口元に当てて笑う彼女に、一気に顔へと血が上るのを感じた。
僕がマジマジと女性の足を見ていたことを知られてしまった。恥ずかしい。
「若杉君。いえ、辰馬君と呼んでもいいかしら。」
「あ、はい!」
調子の外れた大声を出してしまうと、新谷さんは「緊張しなくていいのよ」と頷いてくれた。
でも、新谷さんと差し向かいで二人きり。そのことに気付いてから僕の心臓はバクバクと痛いくらいに鼓動を繰り返している。
「幾つも説明しなくてはならないことがあるのだけれど、細かい部分は明日にするわね。大事なことだけを説明します。いいかしら?」
小首を傾げるその仕草がすこしだけ可愛い。なんて考えながら僕は頷いた。
「はい。その、よろしくお願いします、……し、新谷さん。」
「うん、いい返事ね。」
僕の緊張をほぐそうとしてか、新谷さんはとてもにこやかに笑う。でも、その柔らかな笑顔を見る度に、僕の鼓動は再び速くなってしまう。
「じゃあ、辰馬君。まずはあなたのお仕事の話よ。」
そういって、新谷さんはかいつまんだ説明をしてくれた。
新生館には、僕を含めて5人の徴募者がいるという。僕らの仕事は、この館を訪れる女性達とセックスして、子供を作ること。
僕らは、大体週5日働くことになる。祝日などを入れると年間約230日になるそうだ。ノルマは一日二人。
年間で230日、一日二人、三年で都合、1380人の女生とセックスをすることになる。
なんだかそれは、まだ一回もそんなことをしたことがない僕には、全然ピンと来ない話だった。
「でね、どのくらいの女性が妊娠するかなんだけど。」
新谷さんは、少し難しい顔をしながら説明を続ける。
女性達は、薬物や食物サイクルの調整などで、新生館を訪問する予定の日に一番子供が出来やすくなるよう調整してくるんだという。それでも子供が出来る確率は、平均で67%程度ということだ。1380×67%=924.6。
つまり、一人の徴募者がお勤めを終えるまでに作れる子供の数は大体、920人くらいということになる。
「政府、私たちの方針では、今はすこしでも多く子供が欲しい、出来れば一人の徴募者当たり1000人の子供を作って欲しいと思っているわ。」
だが、今のノルマ以上に押しつけることは好ましくない。だから、+αの部分は徴募者自身の意志に任せているのだそうだ。もし、規定の数以上子供を作ることが出来たら、正規報酬以外の物品やお金、あるいはお金で買えない特権など、退役後の特典が色々もらえるのだという。
でも、僕は本当に生きて退役できるかどうかの方が不安だった。
もし、そんなに簡単にいい暮らしができるんなら、もっとみんないい噂をしてるはずだと思う。
毎日二人の女の人とセックスするってことが、本当はどういう事なのか良く分からないけれど、きっとものすごく大変なんじゃないだろうか。


「それで。辰馬君はまだ性行為の経験がないわよね?」
「は、はい。」
「いきなり訪問者の女性と性行為をするわけにも逝かないから、まずは初体験して慣れてもらいます。
慣れるまでは一人だけで、レクチャーに3日程時間をとるわ。いいかしら。」
新谷さんの微笑に、トーンダウンしかけていた僕の鼓動がまた途端に速くなってきた。もしかして……
「他に何か質問あるかしら。」
最後の確認に聞いてきた新谷さんに、聞くかどうか迷う。
「えっと。」
「いいのよ、何でも聞いて。」
期待が後押しされて、僕は思いきって聞いてみた。
「その、最初の相手って、……新谷さんですか?」
「いえ、違うわ。」
にっこり笑う新谷さんに、僕は思わず目を閉じた。この人と一度でもセックスできたら、その後はボロボロになって死んだっていいと思ったのに。この人が初めての相手だったら、何も後悔はなかったのに。
「心配しないで。私よりもずっと綺麗で上手な人よ。」
落胆した僕をフォローしてか、新谷さんは僕の手を握って励ますように笑った。その笑顔が余計に胸を締め付ける。
「今紹介するわね。すぐ来るから。」
「ま、まってください!」
思わず彼女の手を引いてしまう。
「僕、僕は。し、新谷さんがいいです!」
「え、ちょっと!?」
「初めてはあなたがいいです!あなたみたいに素敵な人がいいです!」
思い切って、叫ぶ様に口にする。彼女がどんな顔をしているのか見るのが怖くて、視線は下に逸らしたままだ。
しばしの沈黙。そして、新谷さんは言いにくそうに口を開いた。
「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、私は無理なの。」
「……そ、そうですか。」
「そんなに気落ちしないで、ね。」
「はい……。」
やっぱり、無理だってことは分かっていたけど。でも、やっぱり口に出して断られると辛い。全身から力が抜けるような感覚に俯いていると、
「辰馬君。」
新谷さんがまた口を開いた。何を言うつもりなんだろう。
「……なんですか。」
「さっきの言葉、本気なのね。」
「は、はい。」
今までと少し違う、硬質な言葉の気配に顔を上げる。
「私の仕事は、一人でも多くの子供を世の中に送り出すことなの。だから……」
そこには、
「だから、今すぐはダメだけど。もし……」
もし、なんですか。
「もし、1000人子供を作ってくれたら、私のこと、」
『私を好きにしていいわ。』
耳元で囁かれた言葉に、僕の全身に震えが走った。

3.
「彼女があなたの指導を担当する、技術スタッフの松本美弥子よ。」
「よろしくね。」
部屋に入ってきたその女性は、ニコリと笑ってきさくそうに手を振った。
「若杉辰馬です。よろしくお願いします。」
失礼の無いように頭を下げると、
「やだ。そんなにしゃっちょこばらなくてもいいのよ。」
松本さんは、そういってふんわりと微笑んだ。松本さんは確かに美人だった。
それでも、彼女が自分より綺麗だといった新谷さんの言葉はやはり正しくないと思う。
上手く言葉に出来ないけど、新谷さんには吸い寄せられるような、それでいて近づくとどうにかされてしまいそうな怖さがある。
でも、松本さんには見ているだけで心がホッとするような優しい雰囲気があった。
それに、スタイルも新谷さんよりほんの少しだけふくよかな感じがする。
身長も、新谷さんよりは幾分低く、僕と同じか少し高いくらいだ。
女性の年齢はよくわからないけど、新谷さんと同じくらいか少し年上、23〜24歳くらいに見える。
そう考えたところで気がついた。黒服のおじさん達の態度からして、新谷さんはすごくえらい立場のようなのに、きっと歳は20歳を少し過ぎたくらいみたいだ。
お役人としてもすごく若いんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら、目の前の綺麗なお姉さん二人をチラチラのぞき見ていたら、松本さんとばっちり目が合ってしまった。
「緊張しなくても大丈夫よ。ちゃんと私が全部教えてあげるから安心してね。」
「あ、はい!」
「ふふ。いいお返事。」
口元に指を当てて笑う松本さんの仕草に、なんだか照れくさくなって僕は頭を掻いた。
さっき新谷さんに言われた言葉と同じだけど、言う人によって随分感じ方が変わるもんだなあと思った。
「辰馬君。」
「はい!」
声に向き直ると、新谷さんが真剣な表情で僕を見つめていた。
「松本さんはこれから三日、あなたの指導をしてくれます。
朝と夕方は私も様子を見に来るけど、それ以外は松本さんの指示に従ってね。……頑張って。」
「……はい!」
彼女の目を見つめて、しっかりと返事をする。
『僕、頑張ります。あなたを、僕のものにするために。』


「ねえ、辰馬クン。」
二人で一緒に湯船につかっている。
女の人と一緒に、それも後ろから抱きしめながらなんて初めてのことで、僕は茹だってしまったような気分になっていた。
お湯はお腹までしか無くて、温度も温めなのに。きっと、松本さんに誘導されて両手で触っている、みっちりとした感触のおっぱいのせいだ。
柔らかくてふわふわしてるのに、持ち上げるとしっかりした重みと手応えもある。
『揉んだり撫でたりしてみてね。……そうしてくれると気持ちいいの。』
松本さんにそういわれて、僕はさっきから無言でその柔らかな双丘を夢中で触っていた。
股間のチンコはもういきり立っていた。
おっぱいを揉むだけでも興奮するのに、松本さんがつるつるするお尻を僕に押しつけてくるし、襟元やうなじからは何だかいい匂いが漂ってくる。
もう、興奮しすぎて頭がおかしくなりそうだった。
「……は、はい。」
上の空でいたばつの悪さでうわずった返事を返すと、松本さんは『そのままでいいから聞いて。』と耳元で囁いた。
その声音だけでも、僕の首筋にちょっと電気が走った気がした。
「悪いけど、さっきの新谷主任との話、ちょっと聞いちゃったわ。」
「えっ、それは……」
一瞬、ヒヤッとした汗が背中を流れる。聞かれては不味いことを聞かれてしまったんじゃないか。
「気にしなくていいよ。私も応援するからさ。」
「え?」
僕が混乱した頭で絶句していると、ほら、手が止まってるよ、とせっつかれた。
そして、迫ってきた唇が僕の口を塞ぎ、あっという間に絡め取られた舌から蕩けるような感触が伝わってくる。
「どうしてですか、松本さん。」
唇を離して、荒い息をつきながら聞き返す。
「そうだなぁ。松本さん、じゃなくて美弥子ちゃんって呼んでくれたら教えてあげよっかな。」
「え!?……えーと、その。美弥子さん、じゃだめですか。」
いくら何でも、年上のお姉さんを"ちゃん"なんて呼べない。
松本さんは、しょうがないなぁと笑いながら赦してくれた。
「一つは、キミがすごくいい顔をしてたから。男の子じゃなくて、男の顔になってたよ、さっき。」
「そう、ですか?」
「ふふ。本気なんだね、辰馬クン。」
「あ、まつ……美弥子さん。」
こちらに半分向き直った彼女は、その白い指先を僕の胸に沿って這わせた。
固くなった乳首を撫でられると、ぞくりと電気が走る。僕は、次第にこの震えを気持ちよく感じ始めていた。
「それとね。新谷主任は、詳しい事情は知らないけど、私たちとはちょっと立場が違うらしいのよ。」
「ん、立場、ですか?」
「そ。私たちは、お給料を一応貰ってるけど、ボランティアみたいなものなの。」
美弥子さんは、ついばむようなキスをしながら、僕の強ばったモノに手を這わせた。
お湯の中でそっと形を確かめるように触れてくる。
「うあ……でも、その。初めて、あった人と、その、エッチ、するわけですよね。」
「そーよ。でもそれは私たちにとって嫌な事じゃないの。」
僕のチンコをゆっくりとさすりながら、美弥子さんは僕の耳を甘噛みしながらゆっくりと舐めた。
僕の手は美弥子さんの手で、彼女の太ももに誘い込まれていた。
複雑な肉のヒダヒダは、お湯とは違うヌルリとした液体で覆われていた。
「普通の人は、子供が欲しいと思ってもなかなか順番が回ってこないのよ。
くじ引きの順番待ちだけで、2年待ちなんてざらなんだから。
でも、ここで働くと、子供を作る順番が早く回ってくるわけ。」
「そう、なん、ですか。」
もう、僕の頭の中は一つのことでいっぱいだった。
「そ。それに、キミみたいに優しくて可愛い男の子になら、私も孕ませて欲しいな。だから、辰馬クン。」
したい。この、エッチで柔らかくて温かくて、優しく囁く人と、したい。
「私のことたっぷり可愛がってね。これから3日間、あなたが慣れるまで何回でも、ね。」


「……ここですか。」
「こっちだよ、来て、辰馬クン。」
仰向けの美弥子さんが淫らにくつろげた紅い小さな隙間に、僕のチンコを宛がう。
美弥子さんが手でそっと僕を導いてくれた。
「美弥子さん、行きま、すっ」
潤ったその穴に僕のものを押し込んだその瞬間、甘くて切ない電気のような感覚が背中から頭の天辺へと走り抜けた。
「あ!ああっ!あああっ!!」
自分でも訳がわからない叫びを上げて、僕の体は勝手にビクビクと痙攣した。
目の奥から光が走り抜け、そして目の前が急に暗くなる。
「ふあ……はああ。」
気がついた時僕は、美弥子さんの上にのしかかって、ハアハアと息を切らしていた。
「入れた瞬間に逝ったんだね。気持ちよかった?」
美弥子さんは、その大きくてやわらかい胸に僕の頭を抱えて、ゆっくりと撫でてくれていた。
「……ぼ、ぼく。」
「慌てなくていいよ。それに、まだ私の中で固いままだから、息が整ったらこのまま続けよ?」
確かに僕のチンコは、出したばかりなのにまだ痛いくらいに起ったままだった。
そして、やわらかく締め付ける感触に、また背中に小さな電気がビリリと走る。
またこのまま出てしまいそうだ。
でも、今はちゃんとやり方を覚えなきゃ。すこしでも早く。
そうしないと、新谷さんとの約束なんていつまでも手が届かない。
「……動かせば、いいん、ですか。」
「無理しなくてい、あんっ!」
僕が、そろそろと抜いたチンコを精一杯突き上げると、美弥子さんの声が一瞬だけ変わった。
「こう、です、か?」
「あ、こら、あんっ、ちょっと、もうっ」
ただ一生懸命に腰を動かす。
美弥子さんは、少し困った笑顔で、それでも僕を抱きしめてくれていた。
「うあっ!あああ!」
10回も動かさないうちに、僕はまた射精して、美弥子さんの上に倒れ込んでしまった。
「ふふ、いっぱい出したねー。」
美弥子さんの囁きが、気怠い浮遊感の中に漂う僕の耳に聞こえてきた。
こんどこそ、もっと。ちゃんと覚えなきゃ。
そう思ったのを最後に、僕は気絶するように眠ってしまったらしい。
美弥子さんの大きな胸に抱かれて、僕は徴募初日の夜を温かい幸福感の中で過ごすことが出来た。


「ふふっ。起きた?」
「……ふぁい?」
カーテンの隙間から差し込む明るい日射しに目を開けると、すぐ目の前に美弥子さんの笑顔が見えた。
何か、満ち足りたような、幸せそうな笑顔。
温かい気持ちが僕にも流れ込んでくる気がした。
なんだかずっと年上なのに、嬉しそうに笑う美弥子さんが、すごく可愛いく感じられた。
「体調大丈夫かな。朝ご飯食べたあと、続きする?」
「や、やります。」
「うんうん、元気でけっこうけっこう。次は後ろからやってみようね。」
3日間で美弥子さんは、僕に女の体の隅々まで教えてくれた。
ホントはダメなこと、お口とか後ろの穴も教えてくれた。
僕も何度か、美弥子さんを満足させることが出来た。
僕はこの間に美弥子さんの中に14回出した、と後で聞いた。
そして美弥子さんは、僕の初めての子供を妊娠した。


「辰馬君、無理はしないでね。」
4日目、目を覚ますと目の前に、眉に憂いの翳りを見せた新谷さんが腰掛けて、僕の頭を優しく撫でていた。
その手をそっと握り返すと、新谷さんの体がビクリと震えた。
「僕、本気ですから。」
自分でも、なぜこんな気持ちになるのか分からなかったけど、新谷さんの上気した頬を見たとき、この人の何もかもが欲しいと、心の底から思った。
きっとこれが、僕の初恋なんだろうと思った。


4.
「今この新生館には、辰馬くんの他に4人徴募された子達がいるの。今日の朝食は、その子達と顔合わせをしながらになるわ。……だから、初仕事はその後ね。」
土日のお休みを挟んで月曜日。6時の起床時間に僕を起こしてくれたのは新谷さんだった。
松本さんと過ごした三日と、その後二日の休暇を経て、僕はついに今日からここで働き始めることになる。
「朝食は、今日から食堂で摂って貰うわ。」
自室で食べてもいいけど大勢で食べた方が美味しいから、そう付け加えながら、廊下を先導する新谷さんは僕の方を振り返った。柔らかく微笑むその優しい表情と、髪の間から僅かに覗いたうなじの美しさに見とれてしまう。
新谷さんの美しさは、凛とした、なんというか透き通るような美しさだ。触れれば切れてしまいそうな鋭さと、それが和らいだときに表れる暖かな眼差し。そして、仕草一つ一つから匂い立つような色気が漏れ出している。口元に浮かぶ笑み、物思わしげに傾けられた眉毛、耳元の髪をかき上げる白い指先。その一つ一つが、不意に堪らない妖艶さを醸し出す。そのたびに僕は、かすかな眩暈と背筋を走り抜ける電流を感じてしまう。そして、高鳴る鼓動と、ズボンの中で自己主張を始める股間のもの。
美弥子さんに女性を教えてもらったせいだろうか。数日前よりも僕は、いっそう新谷さんに女性を感じるようになっていた。
「……どうかした?」
「あ、いえ。今日からトレーニングの時間もあるんですよね。」
話を途切れさせないように、笑顔と一緒に言葉を返す。女性に好かれるには、ドギマギしたり口ごもったりせずに、なるべく自信のある誠実な態度を示すこと。
これも、美弥子さんに教えてもらったことだ。
「そうね。普通の一日のスケジュールは、毎朝6時に起床して軽くトレーニング、7時過ぎに朝食、8時30分からブリーフィングがあって、午前9時頃には最初の希望者応対が始まるわ。
11時30分から13時30分までお昼休みで、ブリーフィングのあと14時から二回目の希望者応対。
15時から就寝時間までは自由だけれど、もしその気があれば勉強やトレーニングに使うことも出来るわ。」
「三人目以降の希望者対応も、そこに入れられるんですよね。」
「ええ、そうよ。松本さんに聴いたのかしら?」
僕が頷くと、新谷さんは微苦笑を浮かべた。
「辰馬君。気持ちは嬉しいし、ノルマ以上をこなしてもらえればそれに越したことはないけれど、焦ることはないのよ。まずは、慣れることを考えましょう。」
ちろりと覗かせた紅い舌で唇を湿らせた新谷さんは、それに、と言葉を繋ぐ。
「徴募期間が終われば、あなたは現実の社会に戻ることになるわ。そのとき、ここでの経験は多少役に立つかもしれないけど、学業の成績も重要になってくるわ。あなたたちは普通の中学生・高校生に較べてどうしても学業が疎かになってしまいがちだから。」
口ごもった彼女は、僕の耳元に近づいて囁く。
「私の立場からしたら、本当はこんなことを言うべきではないのだけれど。出来るだけ、勉強をしておくべきだと思うわ。」
そちらにも考えを振り向けてみて。そう囁く吐息が耳にくすぐったい
「その、教師の人を頼めると松本さんに教えてもらいました。」
「ええ、そうよ。」
帰ってくる笑みに、出来るだけ真剣な表情で言葉を返す。
「それを新谷さんにお願いすることは、出来ませんか。」
焦らない、だけど気持ちを真っ直ぐにいること、僕の価値はそこにある。
美弥子さんのその言葉を信じて、新谷さんのしなやかで柔らかい手を握る。
「ふふっ。強引ね。」
新谷さんは、僕の手を握り返して微笑んでくれた。
「毎日は無理だけど、週に3日くらいならいいわよ。家庭教師してあげる。」

食堂は、やっぱり贅沢な造りの広い部屋だった。白いクロスと照明が目立つ部屋は、ホテルとかのレストランみたいな感じだ。
中央には8人掛けくらいの丸テーブルがあり、そこにはゆったりと五脚の椅子が置いてある。
既にそこには四人の、男というには若いけど、子供というよりは少し年上の少年達が腰を下ろしていた。
きっと、彼らが僕の他の徴募者、つまりは先輩って事なんだろう。
新谷さんに促されて、僕は空いている席へ近づいた。
「新しく入った、若杉辰馬です。よろしくお願いします。」
「おー、お前が新入りか。俺は依田だ。」
まず最初に、一番奥の席にだらしなく腰掛けた人が、怠そうに答えた。服装もだらしないし、顔色もあまり良くない。体格はかなり大きく目つきも悪いので、かなり怖い感じだ。
「おれは、芳賀。」
依田のとなりに座った人が、こちらもめんどくさそうに答えた。体格は依田ほどではないがそこそこ大きい。そして、顔貌が随分整っていて、パッと見格好良く見えなくもない。
ただ、こちらをバカにするように笑った態度に、軽薄そうなものを感じた。
この二人は、正直あんまりお近づきになりたくないな。
「僕は加賀美道明(かがみみちあき)。よろしく。」
笑いながら手を挙げたのは、僕より少し年上の人だった。平凡な顔立ちだけど、体格はがっちりしているし、なによりゆったりと余裕の有りそうな態度が僕を安心させた。
どうやら、この人は僕を威嚇したり侮ったりはしていないようだ。
「僕は、その、林次郎です。」
最後にボソリと呟いたのは、僕と同じくらいの年齢の男の子だった。
こちらは、依田よりもずっと顔色が悪かったし、体格もひょろりと痩せている。
「じゃ、辰馬君。私は他の担当者と打ち合わせしてくるから。みんなと仲よくね。」
微笑んで隣室へ立ち去る新谷さんを見送りながら、まともそうなのは加賀美さんくらいだなぁと内心溜め息をついていた。
「ところであの美人はお前の担当か?新入りのくせに生意気な。俺の担当と変えろよ。」
「依田さん、俺もあの女犯りたいッス」
僕ら5人だけになった瞬間、依田と芳賀がそんな口をきいた。
この野郎、新谷さんをなんだと思ってる!
一気に沸騰した気持ちが吹き出そうになった時、一瞬早く冷ややかな言葉が浴びせられた。
「君ら、バカだろ。」
「んだとコラ。」
加賀美さんの軽蔑に満ちた口ぶりに、依田はひどく剣呑な視線を返した。
「主任担当官は内閣府の直任官だぞ。自分の担当をどうしようが君らの勝手だが、他人の担当に手を出すような真似をすれば警備部が黙ってないぞ。」
冷ややかに、ピシリと言い放つ加賀美さん。
依田は、言葉に詰まって荒い息づかいで加賀美さんを睨み付ける。
一触即発の空気はしかし、依田が席を蹴って立ち上がって幕引きになった。
「ごちゃごちゃうるせーんだてめえは!けっ!こんなスカシ野郎とメシなんか食えるかよぉっ!行くぞ芳賀!」
慌てて付いていく芳賀。
「あ、ありがとうございます。その、」
「気にするなよ。僕があいつ等を気に入らないだけの話さ。」
何事もなかったかのように朝食に手を付け始めた加賀美さんは、僕の言葉をさらりと押し止めた。
結局、その後の食事はほとんど会話が成立しないまま終わりを迎えた。


「みんな、その、なんだか変わってますね。すこしは普通そうなのは加賀美さんくらいかな。」
会話のない朝食を終えて、新谷さんと廊下を戻る。たぶん、明日からはわざわざ一緒に朝食を摂ろうとはしないだろうと思った。
「依田君は2年2ヶ月、芳賀君は1年9ヶ月、加賀美君は1年7ヶ月。皆長くここにいるから、少し考え方が変わってしまったのだと思うわ。」
新谷さんの表情は、曖昧な笑いから、深刻な溜め息へと変わった。
「あなたもきっと変わっていくわね。それは成長でもあるから仕方ない事だけど。」
そういって、僕の頭を軽く撫でる。ふわっと、新谷さんの付けている香水の柔らかい香りがした。
「だけど、辰馬君。今の優しいあなたが、私は好きよ。」
その言葉に、心臓が早鐘のように音を立てる。でも、それをそのまま顔に出しちゃ駄目だ。僕は、この人に見合う男になるんだ。
「僕も、新谷さんがますます好きになりました。僕のこと、まじめに心配してくれてるんだなって。」
心は混乱したまま、でも顔で笑って、切り返す。
「こーら、大人をからかうんじゃないの。」
新谷さんは、僕の頭を抱えて笑いながら軽くこづいた。
こうやって、少しずつでも距離を近づけていければいいな。数時間後に迫った仕事のことを忘れて、僕はそんなことを考えていた。

5.
ブリーフィングはチームごとで行う。というよりも、徴募者一人ごとに1チームを組んで、それぞれ割り当てられた女性の希望者と応接するのだという。
僕のチームは、主任担当官の新谷さん、応接と技術担当の美弥子さん、そして……
「一人目の受胎希望者の説明をしよう。」
そう、口を開いたのは、僕のチーム担当の医師で白土萌葱さん。年齢は20代後半だろうか、たぶんチーム最年長だと思う。
「名前は北条朱美。年齢24歳、既婚、出産経験は二度。経産回数が多いのは、彼女が代議士・北条秋政の愛人だからだ。今回も優先割り当て権を購入している。」
身長がすごく高く、すごくがっしりとした体躯の持ち主で、医者と言うより武装警備員と言われた方が納得する人だ。
「ま、それは重要なことではない。」
それでいて、出るところは出て引っ込む場所は引っ込んでいたりする。大作りだけれど、女性的な魅力のある人なのは間違いない。
「ここで重要なのは、彼女が経産婦であり、『新生館』訪問回数も既に6回目という事だ。経験者であり、また過去に何らかの問題を起こしたこともない。今回も、感情面で非常に安定していると報告が来ている。
即ち、若杉君の最初の相手としては申し分ないと言うことだ。」
聞いているか?と聞かれて、はっと向き直る。白土さんのお尻とか見てる場合ではない。
「また、バイタルも安定している。妊娠率推測値では74%となっている。」
太ももに絡む白衣の裾を手で払いのけて、彼女は僕を覗き込んだ。
冷徹そうな視線に見据えられて、緊張が体を縛る。
「だから、キミは何も心配しなくていい。彼女の膣内に安心してたっぷりと注ぎ込め。」
「は、はい。」
「特に性的嗜好の要望はないそうだけど、普通に優しく接してあげればいいと思うわ。」
僕を安心させるように、新谷さんが肩を優しく撫でてくれた。
「わかりました。」
では、案内して貰うわね。
新谷さんがそう言うと、僕も自分に宛がわれた施術室、とは言ってもものすごく豪華なスイートルームみたいな部屋なのだけど、そこへ入る。
僕がベッドに腰掛けると、すぐに反対側の部屋から美弥子さんが入ってくるところだった。
その後ろに、派手な顔立ちの女性を案内してくる。
先ほど見せて貰った写真よりも綺麗に見えるその女性は、僕と視線が合うと妖艶に微笑んだ。
「若杉君ね。ふふ、今日はよろしく。」
「はい。頑張ります。」
北条さんがガウンをゆっくり脱ぐと、僅かに上気した白い肌と、柔らかくて綺麗なボディラインが露わになった。
その向こうで、美弥子さんが僕にウィンクを投げて扉を閉めた。

まずは、ゆっくり近づきながら自分もタオル地のローブを脱ぐ。
「僕、あんまり経験無いので。もし何か間違ってたら言ってください。」
震える手を一度握って、北条さんの腰に手を回して抱き寄せる。
小柄な彼女の身長は、僕とそれほど変わらないが、ギュッと力を込めて抱きしめると、その柔らかくて張りのある体がすごく心地いい。しっとりとした肌が吸い付いて来るみたいだった。
「ん、ふぅ。」
既に薬で軽い興奮状態になっているせいか、北条さんはそれだけで熱い吐息を漏らした。
「北条さん。キス、しますね。」
「うん、してちょ……」
軽く開いたその唇を、僕の口で塞ぐ。長い髪を撫でながら、触れるようなキスから、すこしずつ深いキスへ。
すこしずつ荒くなる息を感じながら、うなじに手をかけて舌を押し込み、彼女の舌を捕らえる。
乱暴になるギリギリ直前で、熱い口腔の中を蹂躙する。
口をゆっくり引きはがすと、僕と彼女の唾液がゆっくりと糸を引いた。
美弥子さんの教えを思い出す。
「北条さん。僕はこれから、あなたを奪います。これからあなたが妊娠するまで、あなたは僕のものだ。」
耳元で囁く。美弥子さんに言われたとおり、僕はこれから2時間だけ、この人に恋をする。
「……お願い、朱美って、呼んで。」
もう一度その唇を塞ぐと、僕は彼女をベッドの上にゆっくりと押し倒した。
横たわった北条さん、朱美の体はホントに綺麗だった。
みっちりと盛り上がった砲弾のような乳房。
なだらかに肉の載ったお腹。
綺麗に引き締まった太もも。
その白い肌に興奮しながら、僕はゆっくりと愛撫を施していく。
うなじへキス。胸を優しく、すこしずつ荒く揉んでいく。
「朱美さん、痛くない?」
「う、うん。もう少し強くても、平気。」
興奮で少し掠れた声が、僕の耳を怪しく擽った。
既に固く尖った乳首を摘むと、彼女の息がさらに荒くなった。その先端に唇を寄せ、強く吸い上げる。
「うんっ、……あ、はぁ」
高くなり低くなり、荒い呼吸と入り乱れる旋律。それに誘われるように手をお腹から下の茂みに這わせる。
「触るよ。」
「うん……うん。」
朱美さんの顔を見上げると、目尻に溜まったかすかな涙が上気した頬へと滲んでいた。
切なそうな表情に、僕の胸もいっぱいになる。
茂みの奥へ手を添えると、そこはもうしとどに濡れそぼっていた。大陰唇にそって下へ撫で、後ろの穴にそっと触れる。
「ひっ、そこ」
その唇をもう一度キスで塞いで、指を内側の襞伝いになで上げる。上側で、指先をまさぐると、複雑に隠れた襞の間から固くしこった感触が見つかる。
ゆっくりと剥き上げて、人差し指で強くならないようにこする。
「んー!ん、んっ!」
悲鳴か歓声なのか分からない声を上げる朱美さんの唇を、舌で舐めつつ、露わになったクリトリスをさらに責め立てる。
耳元から聞こえてくる呼吸は、もうハアハアと忙しなくなっている。
「舐めてあげるね、朱美さん。」
「……え?」
すぐに彼女の股間へと顔を下げて、膝を割る。戸惑っている様子に構わず、その滾々とわき出る泉に口づけする。
「ひあっ!あ!」
濃い桜色の襞を掻き分けて、小さな穴の入り口を探り当てる。
舌を差し込んで入り口の上側を強く舐める。
「ひんっ!ら、らめ」
声にならない悲鳴を上げる朱美さんに構わず、舌をさらに奥へと押し込み、左手の指先で目の前の真珠をきゅっとつまみ上げた。
「ふあぁあぁ!んんんっ!」
途端に、穴の入り口がきゅっと締まり、太ももとお尻がビクビクと震えた。
顔を上げると、朱美さんは眼を瞑ったまま荒い息を時折詰まらせて、さらに何度か体を震わせた。

「朱美さん、大丈夫?」
「え、あ、あう。」
息は荒いが、だいじょうぶみたいだ。軽く逝って貰おうと思ったけど、どうやら思ったより高く絶頂に達してしまった様子。
ここでもう少し休んで貰ってもいいけど、妖艶な奥様風だった朱美さんの、あまりに可愛い反応に僕の股間も、もう限界が近い。一回、中で出したい。
「入れるよ。」
両の太ももをすり上げて、彼女の体をグッと引き寄せる。
僕の先端を、ドロドロに蕩けた彼女の潜みに当て、グッと身体ごとのし掛かるように押し込む。
「ひゃんっ!ひ!あ!」
24歳の政治家の愛人のそこは、柔らかく僕を誘い込む襞と、しっかりと握るように締め付ける肉とが同居していた。
「ううっ、朱美さん、気持ちいいよ。」
熱く締め上げる感触に、僕も悲鳴を上げてしまう。
「あ、だめ、まっ」
何か堪えるように声を上げる彼女の胸を強く握り、唇を荒々しく塞ぐ。
腰は、もう止まらない何かに駆り立てられるまま、強く、何度も叩きつける。
「ひう、う、う、ん、ん!」
朱美さんの、キスの合間から漏れる声は、段々低く唸るような声へと変わっていく。
「出す、出すよっ!」
「きて!うあっ!んんんんんん!」
一際強い締め付けに合わせて、僕のペニスから貯まりに溜まった精液が彼女のヴァギナへと噴き出していく。
ドクリ、ドクリ、ドクリ、ドクリ。
ちっとも収まらない脈動と、脳を灼く快感がひとかたまりになって、目の前の女性の胎内へと注ぎ込まれていく。
「ふ、う、ふ、うんん」
すすり泣くような、息も絶え絶えの歓喜の声が耳に聞こえる。体中の神経を焦がす愉悦は、密着した肌の感触、肉棒を撫で上げるような膣の律動と、感極まった年上の女性の声が醸し出す妙なる和音のように感じられる。
ドクン。
見下ろせば、小作りで美しい顔に涙を流して喘ぐ顔。それは、最初見た妖艶な年上の女性ではなく、もう愛すべき僕の、僕だけの女。
「もういちど、いきます、ね。」
忘我の境地を彷徨っている彼女の頬に口づけて、そっと囁く。もっと、愛してあげたい。狂おしい思い。
「え……!?あは!ちょっ!」
彼女の身体を横に起こし、左脚を肩に抱え上げる。そして、こすりつけるように股間を押しつけて律動させ、右手で陰核を押しつぶし、左手で乳房を握る。
「ふあ、あ、だめ、あ、あ、いいっ!」
目の前の彼女の狂態を愛しく思いながら、何度も何度も絶頂へと押し上げる。
「もう、もうだしてえ……」
絶え絶えの哀願の声とともに二度目の精を注ぎ込むと、身体を包み込む快感と一緒に、僕は昏く温かい場所へと落ちていった。


僅かな気絶の間から目覚めると、僕は仰向けで左側から誰かに抱きつかれていた。
「なんか、調子狂っちゃうわ。」
少し怒ったような拗ねたような口調に視線を落とすと、口を尖らせた北条さんがこちらを見上げていた。
だが、その視線は悪戯っぽい女の子の輝きに溢れていた。
最初にあったときと、まるで違うその印象に僕は戸惑う。
「えっと。……何か、不味かったですか?」
「違うのー。」
ぶー、と口で言いながら、北条さんはそのふくよかな胸を僕にこすりつけてくる。
「今まではさ。ここに来ると若い男に『抱かせてあげる』って感じだったのよ。
それなのに、君には『抱かれる』『愛される』って感じだったからさー。」
嬉しげにニヤニヤ笑いながら、僕の首筋に顔をこすりつける北条さん。
いったい、どうしてしまったんだろうか。
戸惑う僕を他所に、彼女は『今日、妊娠してなければいいのに。』と呟いた。
「え!?」
「大きな声、ださないで。だってさ」
そうしたら、また君とできるじゃない?
僕の口にちょこっと可愛く口づけて、北条さんはそんなことを口にしたのだった。


6.
「北条さん、そろそろお時間ですよ。」
「えー!もう少しくらいいいじゃない〜。」
「ダーメです。」
にこやかな笑顔だけど、全く目が笑ってない美弥子さんに追い立てられて、北条さんは丁重に室外へと送り出された。
「またしよーね、辰馬君。」
北条さんは、部屋を去り際に可愛く投げキッスをしたけど、すぐに美弥子さんに扉を閉められてしまった。
もし、北条さんが妊娠していなければ、二週間後にまた会うことになるかも知れない。でも、そのときの相手が僕だとは限らない。
それに、一度の獲得権で施術出来るのは三回までだ。
だから、北条さんには悪い気がしたけど、今ので妊娠してくれていたらいいな、と思った。
成績のことを考えなかった訳じゃないけど、それ以上に、僕以外の誰かに妊娠させられるなんて、あんまり嬉しい想像じゃなかったから。
ふっと、依田と芳賀が放った、新谷さんをバカにするあの言葉が思い出されてしまった。


チームの全員で昼食を取りながらでブリーフィングをする。
僕、若杉辰馬と新谷悠子さん、松本美弥子さん、そして白土萌葱さん。ここに先ほどは同席していなかった女性がもう一人加わる。
警備主任の島本瑞香さんだ。
彼女は、正直に言ってとてもそんな役職の人とは思えない。体格はそんなに良くないし、丸顔の童顔に浮かんだ表情はボーッとしていてつかみ所がない。
濃紺と金で飾られた警護官の制服を纏っていてさえ、どこかの高校生が迷い込んできたようにしか見えない。
「北条さんには大人しくお引き取りいただきました。護衛の方々にも怪我はさせていません。」
ぼそぼそと喋るその女の子が、柔道剣道空手道その他諸々合わせて20段を超える武道の達人だと言われても、あんまり信じる人は居ないのではないかと思う。
僕も、ちょっと俄には信じられなかった。松本さんの解説付きで、総合格闘技の数年前に行われた大会の映像を見せられるまでは。
「午後の希望者の拘束も、美弥子さんと私で間違いなく。」
あまり表情のないこの娘が、ちょっと手足を動かしただけで人が面白いように吹っ飛んでいく。そんなCG真っ青の映像を見たあとでは、彼女の腕に疑問を持つ余地はない。
間違いなく島本さんは強いのだ。それも、半端無く。
とにかく、島本さんを加えた5人+島本さんの部下数名が、僕らのチームということになる。
「ところで、辰馬君。」
パストラミのサンドイッチにかぶりついたところで、美弥子さんから声が掛かる。
「んあ、ふぁい。」
慌てて口の中のものをのみ込むと、美弥子さんは『ゆっくり食べていいわよ。』と苦笑した。
「北条さん、すっごく君が気に入っちゃったみたいじゃない。どうしてあんな事言ったの?」
「あんな事って、なんですか?」
「ほらあれよ。『君は僕のものだ、誰にも渡さないっ』みたいなあれっ!あんな事言われたらどんな女だってイチコロよ!?もー、辰馬ったら女たらしっ!」
ケラケラ笑いながら、美弥子さんは僕の肩を抱いて揺さぶった。
確かにちょっと臭い台詞だったかも知れないけど。
「でも、美弥子さんが教えてくれたんですよ。『希望者さんを自分の恋人だと思え』『2時間だけその人に恋をしろ』って。だから僕は……。」
赤くなって俯いてしまうと、美弥子さんはさらに僕をからかった。
「やーん。辰馬ってば情熱的ねぇ。そっかぁ、辰馬って恋したらああなっちゃうんだ。うーんいいなぁ。お姉さんにも言ってみ、ねえねえ〜。」
結局、新谷さんが止めてくれるまで僕は美弥子さんにたっぷりからかわれてしまった。抱きついてきた美弥子さんの身体の柔らかさと、日だまりのヒナギクみたいないい匂いに反応して興奮してしまったのは僕だけの秘密だ。

「午後の受胎希望者は15歳の女の子よ。楠綾子、高校1年生。親御さんが受胎希望者リストに登録していて、今回当選したラッキーな娘ね。」
新谷さんが手元の端末を操作すると、壁面のLEDモニタに資料が映し出された。バイタル値らしき数値やグラフなども表示されるけど、僕の注意はどうしても顔写真にいってしまう。
写真は家族とのポートレートだろうか。静かに、それでも屈託無く笑う、大人しそうな少女がそこに映っていた。
長く濡れたような黒髪と、整っているが線の細い容貌。白い肌に浮かぶ目元の泣きぼくろがアクセントになっていて、大人になりかけの少女のアンバランスさが感じられた。
「当人は、あまり気が進まない様子だったけれど。」
「いずれにしろ、既に前処置は済ませてある。処女であるため、排卵調整剤や性的興奮剤の他に、軽い筋弛緩剤も投与してある。
また、辰馬君の安全のために拘束状態での性行為になる。少なくとも、一度の射精が済むまでは拘束を解かないように。いいな。」
僕と一歳しか違わない娘が。そうか、法律では13歳以上の女子であれば、両親の承諾が有れば受胎希望者になれるんだっけ。
そんなことを考えつつ、美弥子さんと白土先生の会話をボーッと聞き流していたら、白土先生の声が一段高いトーンになって投げかけられた。
「辰馬君。聞いているのか。」
「え、はい!」
「しっかり聞いていろ。」
慌てて応えると、白土先生のもったペンの先でピシリと叩かれてしまった。
「初めての性行為で、しかも興奮性の薬剤を投与されているから、もしかするとあなたに危害を加えることもあり得るの。特に、破瓜の瞬間は痛みで強い反射を起こしてしまうことがあるわ。」
新谷さんの説明に、良く耳を傾ける。
「ま、鎮痛剤も調整しあるし、筋弛緩剤でそんなに力も入らないだろうから心配ないんだけどね〜。」
美弥子さんはお気楽にいうが、それってつまり。
「えっとその。じゃ、僕は……。」
「うむ。拘束されて身動き取れない少女を犯して孕ませる。燃えるだろう?」
白土先生の身も蓋もない説明に、思いっきりしかめ面をしてしまった。


「ふー、ふー、ふーぅ。」
施術室にはいると、ベッドの上には既に拘束され肌も露わにされた少女が横たわっていた。
素肌に絡みつく蜘蛛の巣のような黒く細い糸は、ナノカーボンのネットらしい。
両腕と両足を縛り上げられ、ふわふわしたクッションのようなものを抱えてうつぶせになった少女は、肌を朱に染めて荒い息を繰り返していた。
大きく開かれ露わになった性器は、充血しているのか淡いピンク色から赤みを増している。
力の抜けた太ももには、またの間から溢れた愛液が幾筋も流れていた。どうやら、薬がかなり効いているらしい。
正面に回ってみると、流石に口は拘束されていないみたいだった。
薄く開いたまぶたの下ではうつろな瞳が視線を中空に彷徨わせ、ハアハアと繰り返し吐息を漏らす唇からは、うっすらと涎が垂れている。
「その。僕は若杉辰馬です。」
はっと顔を上げた彼女、楠綾子さんは、僕と目を合わせまいとすぐに俯いた。
「み、みらいで……。おれがい……。」
か細い声で哀しげに、それでいて興奮を抑えきれずに震える声で彼女は言った。強く瞑ったその目尻から涙が一筋頬を伝う。
「楠綾子さん。あなたが辛いのは分かってますから、答えなくていいですよ。」
長い黒髪を讃えた小振りな頭をゆったり宥めるように撫でながら、なるべく落ち着いた口調で声をかける。
まずは、恐怖心をなるべく取り去る。身体には力が入らないように薬を打たれているそうだけど、心の強ばりまでは取れない、美弥子さんはそう言っていた。
それに、僕だってこんなところへいきなり連れてこられて、裸で縛り上げられたら怖いに決まっている。
「これから、あなたの中に、その、射精して、妊娠させます。」
ひっく、ひっくと綾子さんは嗚咽を漏らす。やはり、心が辛いんだろう。
いくら、滅多にない幸運だといわれても、まだ15歳で子供を産むなんて、やはり想像もしないことだろう。
「でも、いきなり入れるとちょっと痛いと聞いてますから。その……」
頬や頭、首筋を撫でてあげながら、顔を持ち上げる。


「まず、気持ちよくしてあげますね。」
唇にそっとキスする。
「へ?やら……う、んん」
力の入らない彼女の口を強引に奪う。何度も何度も舐めて、吸って、咥えるうちに、彼女の声は次第に抗議から熱いだけの吐息に変わっていく。
キスから、首筋へ。首筋から細く白い背中に吸い付いて舐め、時に強く吸う。白い肌に痕が残るほどキスすると、綾子さんの吐息に息の詰まるような切ない声が混じり始める。
「んー!んん!」
肩口に吸い付きながら、後ろから抱きついて両の胸を手に収める。
探し当てた小振りな突起を指先でゆっくりと転がすと、食いしばった唇から悲鳴のような音が漏れた。
「綾子さん。お願いだから我慢しないで。声を出しても、誰も聞いてないから。」
「あ、あな、たがっ、んんんっ」
「僕は、綾子さんの可愛い声がもっと聞きたいな。」
右手の指の間で乳首をつまみ上げ、左手は前から股間へ回して軽く形をなぞる。
「うー!あんっ、あ!」
「もっと声を出して。その方が気持ちいいから、ね。」
耳元に囁くと、一瞬僕の方を向いた綾子さんは涙目で何度も頷いた。
綾子さんは、すごく感度が良かった。昂ぶってくるにつれて、優しくあちこちを撫でるだけでも軽いアクメに行き着く。
クリトリスを舐めてあげたり、膣の入り口を撫でてあげると、悲鳴を上げて絶頂に達した。きっと、薬のおかげもあるんだろうけど、元々感じやすい体質なんだろう。
おかげで、5回目くらいに逝ったときには悲鳴は喜びの声に変わっていた。
「完全に解れたみたいですから、これから入れますね。」
「ふあ、あ、はい。いれ、いれてえ。」
可愛くねだる綾子さんの耳元にキスして、後ろから覆い被さる。
綻んだ花弁に、もう限界まで固くなった僕のものをこすりつける。綾子さんは、甘く切ないため息を漏らした。もう、怖がってはいないようだ。
あまり焦らすとかえっていたいと聞いていたから、僕はなるべく乱暴にならないように素早く先端を潜り込ませた。
綾子さんの秘裂は、たっぷりと濡れていたけど、それでもやはりきつかった。薬と愛撫が上手く聞いていることを祈って、ぐいと押し込む。
「ひゃん!」
「いたいですか?」
「ちょ、ちょっとだ、け」
「もう少しで全部はいるから、我慢してね。」
やっぱり痛いんだ、申し訳なく思いながら残りもぐっと突き込み、先端が行き止まりに当たる。
「ふうんっ!んん!」
綾子さんは、荒い息を繰り返しているし、身体からは、ぐったりと力が抜けている。
でも、僕のものを締め上げるそこだけは、まるで別の生き物のように忙しなくうごめいていた。
ぎゅうぎゅうと音を立てるほどに締め付ける秘肉が、まるで僕の性器を奥へ誘うように蠕動を繰り返す。
じっとしていないと、僕もすぐに逝ってしまいそうだ。
「ごめんね、綾子さん。痛かったよね。」
そういって後ろから抱きしめ、頭を撫でてあげると、綾子さんは頭を振って否定した。
「あ、あなたのが、おく、に、あたったとき、わ、わたし、いっちゃった。イっちゃったのぅ。」
「痛くないの?」
「うん、うん。きもちいいの、きもちいい、もっとうごいて、ねぇ、もっと。」
切なく囀るその声に、僕は溜まらなくなってしまう。
腰を、わき上がる衝動のまま綾子さんの細い身体に叩きつける。
「はぁっ!あんっ!あ、ああ、あん、んん!」
「僕も、気持ちいいよ。綾子さんの中、温かくて、きつくて、うねうねしてるよ!」
「ひあっ、やだ、いわ、ないでえ。あんっ!んっ、んんっ!」
ぼくは、むさぼるように綾子さんを抱えて、ただひたすら後ろから突き込んだ。
「ああ!出る、中に出すよ!」
「きて!イっちゃう!イっちゃうよぉ!」
「いくよ!僕ので、僕ので孕んで!」
「あああ!ああ、うああああああっ!あああーーー!」
射精の瞬間は、出す、というより搾り取られるといった方が良かった。がっちりと絡め取られた僕の硬直は、メチャクチャに蠢く柔らかな肉に精液を根こそぎ吸い取られる。
僕の腰は促されるままに先端を、ぷりっとした綾子さんの胎内に押しつけ、そのたびに、腹の底からわき上がるような射精感が背筋を伝う。
綾子さんは、とても初めてだなんて思えない、あまりに気持ちいい穴の持ち主だった。
虚脱から我に返ると、綾子さんは手足を拘束されたままぐったりと伏せていた。早く、時折不規則になる呼吸の音だけが、綾子さんの状況を教えてくれた。

「よく頑張ったね。ごめん、辛かったでしょ。今、解いてあげるね。」
教えてもらったとおり、拘束具の結紮点にある留め具のボタンを軽く押すと、網になっていたナノカーボン繊維はぱらりと解けた。
荒い息を繰り返す綾子さんを、そっと仰向けに横たえて、顔を覗き込む。
「大丈夫?」
息は荒いが、顔色は悪くない。たぶん大丈夫だろうと思うけど、念のため美弥子さんを呼んだ方が……
そう思った瞬間、綾子さんの白く細い腕が僕の首筋を捕らえ、僕の頭は彼女のささやかな胸に抱きしめられていた。
「……もっと。」
「……え?」
「ねぇ、もっとしてぇ。もっと気持ちいいこと、教えて。」
唐突に塞がれた唇に、目を白黒しているうちに、綾子さんは僕の手を取って彼女の胸と下腹部へ導いた。
結局、綾子さんは時間いっぱいまで甘い悲鳴を上げて快感をむさぼり、最後は気絶してストレッチャーで運ばれていった。
僕も、推奨されている2回を越えて、合計3度も彼女の中に注ぎ込んでしまった。
結局、なぜ彼女があんなに突然豹変したのかは、良く分からなかった。北条さんといい、綾子さんといい、僕はもしかして何かやり方を間違っているのだろうか。
疲れた身体をシャワーで洗いながら、僕は深く溜め息をついた。


施術室から廊下に出ると、辺りは随分と騒がしかった。大勢の人間が慌ただしく叫ぶように声を上げ、あちらこちらを走り回っている。
「どうしたんですか。」
「大丈夫、心配しなくていいわ。」
僕の問いかけに、新谷さんがすぐに答えを返した。
「何があったんです?」
さらに聞く僕の顔を見て、新谷さんは眉間に皺を寄せた。
「林君が、体調を崩したの。付属病院へ搬送されることになったわ。」
行きましょう。僕の肩を抱いて歩き出す新谷さんの体には、驚くくらい力がこもって強ばっていた。
林次郎は、結局この後新生館に戻ってくることはなかった。あとで知ったことだが、彼は傷病で徴募を解除されたそうだ。
ぼく達"種馬"のうち、3年間の徴募期間を無事に終える者は、僅か2割に過ぎない。それ以外の8割は、身体や精神を病んで"除隊"することになる。
損耗率8割。それが僕の置かれた現実を現すもう一つの数字だった。


7.
「ごめんなさい。少しだけ我慢して下さいね。」
「うぅぅ、はぁ、はぁ、ふぅ、ふぅ。」
荒い息の合間に、時折思い出したように涙を流す彼女の目元を親指で拭う。視線の焦点はほとんど定まっていない。
無理もない。いつもよりずっと丁寧に愛撫を繰り返したから、彼女、薄根梨都子さんはもう5回以上絶頂に達している。
まだ、ほとんど使われたことのない赤い秘孔に自分の剛直を宛がう。
既に、膝まで愛液がしたたっている彼女の性器は、僕の先端を温かく柔軟に迎え入れた。
「入れますね。」
彼女の耳に聞こえているかどうかは分からないけれど、その短い髪を撫でつけながら囁く。
「うぅぅ、うん、うん。きて、ボクの中、き、てぇ。」
梨都子さんはたしか僕よりも3つ年上のはずだけれど、甘えるように啼くその声が堪らなく可愛い。
スレンダーだけどメリハリの利いた小麦色の体躯と、ベリーショートのボーイッシュな髪。
それに、自分のことを"ボク"と言い、訥々と言葉少なに話す口調が、逆に自分より年下の子を相手にしているような、少し倒錯した刺激をもたらしているみたいだ。
僕は、薬で四肢の自由を奪われた世界的アスリートの唇をむさぼりながら、熱く潤った彼女の中に自分自身を深く押し込んだ。


僕が新生館に来てから、漸く2週間が経とうとしていた。
毎日二人というノルマは、確かに思ったよりずっときつかったけれど、幸いなことに僕は体調を崩したりせずに済んでいた。
僕の若さのおかげだと新谷さんは笑ったけど、白土先生や美弥子さんや島本さん、そしてもちろん新谷さんが僕の体調を注意深く気にかけていてくれたからだ。
三日目の午後に臨時のお休みを貰ったけど、それ以外はノルマをこなすことが出来た。
それに今朝は、嬉しい知らせもあった。
美弥子さんが無事、僕の子供を妊娠していることが分かったのだ。
美弥子さんが満面の笑顔で報告してくれると、僕はなんだかホッとするような気持ちと、何だかよく分からない不安とで胸がいっぱいになってしまって、に涙ぐんだまま絶句してしまった。
「役割が逆だぞ、辰馬君。」
美弥子さんは、僕を胸に抱き寄せてゆっくり撫でてくれた。まるで、僕が妊娠したみたいだったと、あとで思い出して恥ずかしくなった。
とにかく、僕の新生館での生活はまずまず順調な滑り出しを見せていた。


「今日の午後のビジター(受胎希望者)は、リトライの娘よ。」
その日の午後の受胎希望者は、僕も知っている女性だった。
薄根梨都子、17歳。
三年前のサンパウロ・オリンピックで、14歳にして器械体操の金メダルを取った女性だ。
僕も、『りっちゃんブーム』とかでマスコミが大騒ぎしていたのを今でも覚えている。
でも、最近はほとんど名前を聞かなかった。
くっきりした意志の強うそうな目鼻立ちと、無造作に短くされたようなショートカット。
ちょっと色黒だが、凛々しいというか精悍というか、とにかく整った顔立ちは中性的だけれど十分魅力的だった。
まさか、彼女にこんなところでお目に掛かるとは、想像もしていなかった。
「彼女は、先月一度ここに来ているけれど、そのときは受胎できなかったの。だから2度目の施術になるわ。」
新谷さんの説明に、壁面に映し出されたプロフィールに見入る。
施術履歴のところには、確かに一月ほど前の日付が入っていた。
応接者の名は、『依田』。
「なお、彼女は前回の施術で事情があって投薬量を控えたのだが、初性交時にあまり良い状態ではなかったため苦痛体験として記憶してしまったようだ。
今回は、初回性交時の規定投薬量を処方し、軽い酩酊状態での施術となる。」
白土先生の言葉に、自分でも顔が険しくなるのが分かる。
他の徴募者の施術について詳しく聞いたことはないが、依田はすごく粗暴なヤツだ。
きっと、拘束されて身動き取れないこの人を、手荒く扱ったに違いない。
「なるべく、優しくしてあげます。」
僕の言葉に、チームのみんなは頷きを返してくれた。


十分にほぐしたつもりだったけれど、梨都子さんの膣内はすごい締め付けだった。
僕のものは辛うじて奥まで入り込んだけど、がっちりと掴まれたような感覚に抜き差しならない状態になってしまう。
「だいじょうぶ。怖くないよ。」
力の入らない手足で必死に僕に抱きつこうとする梨都子さんを、両腕でしっかりと抱き留めてあげる。
慣れるまで、じっと動かずに待つ。
荒い息をしている梨都子さんを安心させようと、ゆっくりと話しかける。
「梨都子さんが怖くなくなるまで、僕がずっと抱いてるから。ね、大丈夫だよ。」
目尻から流れる涙をキスで拭う。
美弥子さんに教えられた手管だけど、優しくしてあげたいって気持ちは教わったものじゃない。
間違いなく僕の心からこみ上げる愛しさ。いや、哀しさなのかも知れない。
「もう、もう。らいじょぶ。だから、うごいて。ボクの中で、ね。」
まだ怖いだろうに、気丈にも微笑むボーイッシュな女の子が、切なく、愛おしい。
「少しずつ慣らそうね。」
じっとしているだけで訪れる下腹部の快感を極力忘れて、僕は自分の腕の中で熱く静かに鳴く女性を愛で続けた。
ただ、この人が一時だけでも幸福を手に入れられるように。

その夜。
家庭教師をしてくれる新谷さんを待ちわびたまま、僕は勉強机で居眠りしてしまったらしい。
気付くと、柔らかくて温かくて、それでいて狂おしいほどに心をかき乱す香りに、僕は抱かれていた。
ぼやけた視線を上げると、間近に新谷さんの怜悧な容貌が見えた。
青白い月明かりに照らし出された横顔は、怖くなってしまうほどに美しかった。
身動きした僕に気付いたのか、新谷さんは口元に笑みを浮かべる。
「疲れてたのね。抱き起こそうとしたら私につかまって寝ちゃうんだもの。」
「え。あっ、ご、ごめんなさい。」
慌てて飛び起きようとする僕を、新谷さんはギュッと、意外なくらい強い力で後ろから抱きしめてくれた。
「辰馬君。今日はお疲れ様。あの娘、ここへ来るときは緊張で真っ青だったのに、帰るときは嬉しそうにしてたわ。」
新谷さんは、僕の首筋に顔を押しつけると、ありがとう、そう囁いた。
「僕は、皆さんが教えてくれるとおりにやってるだけですよ。まだ戸惑うばっかりで。どうすれば、ここに来る女の人たちに幸せになってもらえるか、よく分からないんです。」
「きっと、それでいいのよ。あなたのその気持ちが、彼女たちを少しだけ変えてくれる。今はそれだけで十分よ。」
新谷さんの囁きは、僕の耳に余韻だけを残して、淡い月光の中に溶けていった。


翌朝、日課の通りランニングコースを走りながら、僕は昨夜の新谷さんの言葉を反芻していた。
新谷さんは、すごく真剣に今の仕事に取り組んでいる、それは僕にも良く分かっていた。
なぜ、そんなに真摯なのか。
その理由は分からないけど、ただ仕事だからと言うには、新谷さんは入れ込みすぎているような気がする。
でも、問題はそれじゃない。
僕は、どうすればもっと彼女の役に立てるのだろうか。
それだけで十分、と言ってくれる言葉は嬉しいけど、僕は、もっとあの人のために何かしたい。なにかさせて欲しい。
「……やっぱり、ノルマ以上に増やすしかないのかな。」
「それは止めておいた方が良いと思うね。」
「うわぁっ!」
後ろからかけられた予期しない声に、思わず叫び声を上げてしまった。
「驚かせて悪かったね。」
あまり悪びれた様子もなく、淡々とした表情で後ろに立っていたのは、僕と同じトレーニングウェアの加賀美さんだった。
相変わらず薄笑いというか、奇妙に達観したような笑みを浮かべている。
「走りながら話そう。」
そういってさっさと走り始める加賀美さんを、慌てて追いかける。
この二週間、同じ時間にランニングやトレーニングをしていて、その姿は何度も見かけたが、加賀美さんは一度も話しかけてきたりしなかった。
それにやっと慣れてきたところなのに、なぜわざわざ話しかけてきたのだろうか。
僕は、どう問いかけたものか言いあぐねてしまう。
「君がどうするかは君の自由だけどね。」
緩く走りながら、加賀美さんは唐突に台詞を吐いた。
「だが、統計をよく見るべきだと思うね。一日に三応対をした徴募者は、必ず満期前に事故退役している。身体が持つはずがないんだ。」
真っ直ぐ正面を向き、まるで独り言のように喋る。
「もちろん、それでもやるなら止めはしないけどね。」
冷ややかな口調は、どこか嘲るような調子でさえある。
ただ、内容は僕のことを気遣ってくれているようだ。
もしかしてからかわれているだけなのかも知れないけれど。
「でも、僕はもっと役に立ちたいんです。……どうしたら」
思い切って相談の言葉を口にするが、それが終わる前に割り込んで返事が返ってくる。
「なら、主任担当官に相談することだね。彼女たちは、その気になりさえすればかなりのことが出来る権限を持っている。
もちろん、それをきちんと活用できるかどうかは本人次第だが。」
どうも調子が狂うが、やはり同じ立場の先輩のアドバイスは貴重だ。
なるべくその態度ではなく言葉の中身に集中する。
「君の主任は、依田や芳賀の担当と違ってなかなか聡明そうだ。きっと、上手いやり方を見つけてくれると思うね。」
そこまで口にすると、少し喋りすぎたようだ、そういって、加賀美さんは唐突にランニングを切り上げて去っていった。
不可解な人だけれど、その忠告は聞くに値するかもしれない。
淡々とした加賀美さんの言葉を頭の中で思い返して、僕はそう思った。


「ノルマを増やしたい、ということ?」
「いえ、あの。今の一日に応接二回はやっぱり限度だと思うんです。でも、もう少し頑張りたいとも思って。」
だから、どうしたらいいか相談しようと思ったんです。
僕が最後まで言い切るのを、新谷さんは待っていてくれた。
「そうなると、休日を使う?」
「そう、ですね。土曜日とか祝日に一人くらいなら、無理な負担じゃないと思います。」
「でも、一般受胎希望者は受け付けていないし……」
考え込む新谷さん。
「やはり無理ですか。」
「いえ、ちょっと考えついたことがあるの。他の職員にも相談してみるから、私に任せて。」
チャーミングに微笑んだ新谷さんは、ありがとう、と言って僕の頬に口づけしてくれた。キスなんて何度もしているのに、その瞬間はまるで天にも昇るような気持ちだった。


新谷さんが調整してくれた結果、僕は土曜日に受胎希望者を一人だけ応接することになった。
その相手は、一般公募者ではなく館内職員の中から募った希望者。
新生館の職員は、ほとんどが受胎希望者のボランティアだから、新谷さんの提案はごく好意的に受け止められたのだった。


8.
金曜日のデブリーフィング。
今日も無事ノルマをこなして、激しい性交の余韻と疲労にボーッとしながら僕は話を聞いていた。
デブリーフィングでは、主に三つの観点から希望者との応接と施術を振りかえる。
1.性交において受胎に繋がる適切な行動が取れたか。
2.1に反しない限りにおいて、十分に徴募者の安全が図られていたか。
3.1及び2に反しない限りにおいて、希望者の要望に応えられていたか。
「膣内射精回数は、午前午後とも規定回数の二回ずつよ。第一の希望者、村上基子さん(21)には正上位で二回、
赤松ユマさん(14)には拘束状態の後背位で一度、正対座位で一度。」
そんなわけで、まず確認するべきは受胎に必要な行動、つまりは膣内射精がきちんと行われていたかということになる。
「記録映像を見る限り、どの射精時も必要十分なだけ深く結合しているから、きちんと受精が期待できると思うわ。よしよし。」
頭を撫でてくれる美弥子さんの言葉に笑い返しながら、LED画面を見る。
壁に映し出された映像は、僕が本日二人目の受胎希望者・赤松ユマちゃんと抱き合って座り、腰を蠢かして彼女の中に精を放っているシーンだった。
とは言っても、外見では抱き合った僕と色黒で細身の少女がただ痙攣しながら荒く息をついてるようにしか見えないけれど。
ユマちゃんは、インド系の女性と日本人の男性の間に産まれた少女で、エキゾティックな彫りの深い顔立ちと、浅黒い肌の色が特徴的な娘だった。
僕と同じ歳で、まだ胸やあそこなんかはまだ大人になっていなかった。
もちろん処女だったから、最初は拘束状態でしつこいくらいに愛撫した。
完全に力が抜けるまで丁寧に弄ってあげないと、薬を調整してあってもやはり最初に入れるときに辛いのだ。
その後、後ろから繋がってゆっくり時間をかけて、施術開始から最初の射精まで1時間以上掛かった。
そのせいか、二回目の時には痛みだけではなく、少しは感じるようになってくれていたと思う。
マジマジと自分のセックス風景を見つめていたことに気付いて、慌てて視線を逸らす。
さっきまで肌を合わせていた相手のことを考えていたら、四回も出したのにまた股間のものが強ばり始めた感覚がする。
いろんな食べ物や薬品で強化されているとはいえ、まだ勃つ元気があるなんて僕も随分と性欲が強いな、と我ながら呆れてしまう。
「辰馬君のメディカルチェックは軽く済ませたが、背中に軽いみみず腫れが出来ていた以外は特に問題はない。」
白土先生の言葉に、背中の軽い痛みを思い出す。
この傷は元々、一昨日午後の希望者、原千鶴さんにしがみつかれたときに引っかかれたもので、今日の午前の希望者、村上基子さんにも同じ位置を掴まれてしまったのだ。
あれはちょっとだけ痛かった。
でも、村上さんとは上手くセックスできて良かった。
彼女は心因性の男性不信だとかで、衣服どころか顔を隠した覆いさえ取らないまま、裾をまくり上げた状態で挿入と射精だけを求めていた。
美弥子さんや新谷さんからも、最初はそれでも良いと言われていたけれど、僕は出来ればそんなのイヤだった。
身体を良くほぐせばそれだけ妊娠しやすくなると言われていたし(統計的にもそういう傾向は確かにあるらしい)、なにより辛いだけの施術ではなく、どうせなら少しでも気持ちよく、幸せになってから帰って貰いたいと思っていたから。


「でも、あの対処はヒヤリとした。彼女がもし逆上していたら、万が一にもキミが絞め殺されていたかも知れない。次からは、事前に相談して欲しい。」
ボソリとした声で、島本さんが注意する。
僕は、彼女を説得して普通に施術させて欲しいと頼んだのだ。そうしたら、基子さんは顔や肌を見られるのは絶対イヤだという。
だから、基子さんに僕の目に目隠しをして貰った。そうすれば、基子さんも恥ずかしがらずに済むからだ。
ちょっと、場所が分からなくてやりにくかったけど、基子さんに手や言葉で導いて貰ったからなんとかなった。
おかげで、最後にはきちんと満足するまで施術できたと思う。最後まで顔は見せてもらえなかったけど、肌はいい触り心地だったし、声も可愛かったな。
「次からは気をつけます。心配かけてごめんなさい。」
あの時は頭の中が一杯だったから、島本さんに相談するなんて考えつかなかった。でも確かに、ああいうときはちゃんと相談するべきだろう。
僕が頭を下げると、島本さんは無表情な顔にごく僅かな笑みを浮かべて頷いてくれた。
このところ毎日一緒にいるせいか、少しずつ島本さんの表情が分かるようになってきた気がする。
口元とか目元が、笑ったり怒ったりするとほんの少しだけ形を変える。よく見ていると、少しだけそんな表情が見える気がするのだ。
「今日も無事に施術が終わったわね。お疲れ様、辰馬君。皆さんもお疲れ様でした。」
新谷さんがまとめると、デブリーフィングは終わりになる。いつも新谷さんのこの声が掛かると、ああ、今日のお仕事も終わりだな、と肩の力が抜ける気がする。
だが、今日はそれで終わりではなかったらしい。
「ああ、そうだ。」
白土先生が、手元の書類を一枚、僕に手渡した。
「なんですこれ?」
電子ペーパに映し出された文字に目をやると、そこには【効果判定表】と書かれていた。そして、上から順に名前と日付と丸印。
平成51年 7月
7月1日 松本美弥子 ◎
7月4日 北条朱美  ◎ 楠綾子  ◎
7月5日 岩明仁美  ◎ 鶴田啓子 ◎
7月6日 植芝理子  ◎
7月7日 神崎泉   ◎ 文月晶子 ◎
7月8日 道原香津美 ◎ 北崎孝美 ◎


「それは、見れば分かると思うが辰馬君、君が施術した受胎希望者のうち、受胎判定が済んだ者のリストだ。」
「あ〜!あたしの名前がトップにあるね〜!」
えらいえらいと頭を抱きしめてくる美弥子さんにされるがままになりながら、ペーパーをもう一度見る。
「この二重丸は、もしかして……」
「そうだ。着床が確認できた希望者だ。」
「辰馬君、すごいわよ。最初の10人が全員着床、つまりはあなたの子供を身籠もったの。」
新谷さんの言葉に面食らう。たしか、妊娠確率は67%とか言ってなかったっけ。
「正直に言おう。いままでこんなことは初めてだ。もちろん、100%というのはたまたまだとは思うが、君がきわめて優秀な雄であることが証明されたと言っていい。」
白土先生が、珍しく手放しで誉めてくれる。言い方がどぎついのはいつものことだけど。
「それに、初めての女性や対処の難しいケースを安心して任せられる。キミは大したヤツだ。」
島本さんも、僕の目を真っ直ぐに見て誉めてくれる。
なんだかこう、べた褒めされると照れてしまう。それに、僕はみんながお膳立てしてくれた中で出来ることをやっているだけだ。
「僕が上手くやれてるみたいでホッとしました。これも、皆さんが手助けして下るおかげです。ありがとうございます。」
心から感謝して頭を下げると、水くさいこと言うなとか、これからも頑張ろうとかいいながら代わる代わる頭を撫でられた。


「2027年に成立したのが優生男子保護法、その翌年に成立したのが改正民法と配偶者制限法、
そして、2030年に成立した国民健康誕生法。この三つが所謂優生保護基本三法と言われているわ。」
新谷さんの言葉を聞きながら、慣れない手つきで手元のノートに板書を書き込む。
新谷さんは、小型の電子ホワイトボードに綺麗な字で書きつづっていく。
僕の方はと言えば、手慣れたキーボードと違うペンの手触りに悪戦苦闘しながらの筆記だ。
この、『ノートに手書き』というレトロなスタイルは、新谷さんが僕に授業するに当たって決めたルールだ。
僕は、電子ペーパーにさえ手書きなんてしたことがなかったし、板書は先生からメッセで配られるものだと思っていたから、このやり方に馴染むまでけっこう時間が掛かった。
本音ではすごくやりにくかったけど、新谷さん曰く、『この勉強法が一番効率がいいし、字を書くことで脳が活性化される』という事だったので、それを信じて言うとおりにしている。
というか、ペンの握り方が悪かったりすると、新谷さんが手ずから手つきを直してくれるのだ。
ホントのところ最初は、新谷さんと手が触れあえるその瞬間が目当てだったのだけれど。
それはともかく、今新谷さんに教えてもらっているのは、優生保護制度やそれを取り巻く社会情勢、外国での対処や体外受精や遺伝子調整といった科学技術の可能性、それに一番の根本原因であるAPDSについて。
とにかく出生率低下問題に関わることを基本からきちんと教わっているのだ。
なぜそうなっているかと言えば、僕の方は単純に新谷さんに教えてもらえる課題は何か聞いたらこれだった、と言う理由だ。
新谷さんは、『私の専門分野だし、辰馬君にとっても一番身近な問題でしょう。』と言っていた。
「APDSの伝播と各国に与えた影響については、前回教えたわね。
とにかく、2027年には世界中で急速な出生率の低下が明らかになっていて、日本政府も慌てて対策を始めたの。
それが具体的な制度として確立したのは2031年以降だから、正直かなり後手に回ったと言っていいわね。」
新谷さんの言葉に頷きながら、必死でその板書を書き写す。
「とにかく、この制度が確立してからそれまでと一番変わったことは、国民の出生については全て国の管理の下に行われるようになったという事ね。」
私や辰馬君とは違って、国が子供の両親を決めるの。新谷さんは、苦い表情でそう付け足す。
物心ついた頃には、結婚と出産とが完全に切り離されていてそれが当たり前だと思っていた僕にとって、それ以前の社会がどうだったかなんて、社会の授業でしか知らないことだ。
「とにかく、ほとんどの男女は結婚相手との子供を得ることは出来ないし、場合によっては母親さえ違うこともあるわ。実子どころか、養子を貰うにも抽選制ですからね。」
それは聞いたことがある。
たしか、養子の当選権利がネットオークションで2億円以上の値段が付いたことがあるとか言っていた。もっとも、出品者はすぐに捕まったってニュースだったけど。
「実は今、次の法改正が審議されてるわ。今までは、一夫一婦制以外の結婚形態は認めてこなかったんだけど、1対多数や多数対多数のグループ結婚を可能にしようという話が出ているの。
実際、ロシアやインドではもう導入されているし、中国やアメリカでは地方によって黙認していたり合法化しているところもあるわ。日本もいずれ、認めることになると思うわ。」
そうなると、君のように生殖能力の高い男子は取り合いになるかも知れないわ。他人事じゃないわよと、新谷さんは苦笑した。


授業が終わって去り際に新谷さんは、そうそう、と思い出したように付け加えた。
「明日の所内希望者の施術だけれど。対象者の最終候補が二人になってしまって。悪いけれど、どちらか選んでくれない?」
そう言って新谷さんは、二枚の電子ペーパーを差し出した。
そこには、普段から見慣れた顔。
一枚目には『白土萌葱(26)』、二枚目には『島本瑞香(20)』と書かれていた。


9.
土曜日も、平日と変わらず朝のトレーニングは欠かさない。
たっぷり時間をかけたストレッチ。
スクワットやプッシュアップなどの筋力トレーニング。
3kmのゆったりとしたランニング。
それほど重いメニューではないけれど、起床後に一時間以上かけて身体を動かす。
まだ新生館に来て一ヶ月も経っていないのに、僕はこのトレーニングにすっかり慣れてしまっていた。
元々身体を動かすのは嫌いじゃないし、身体をほぐすと一日調子がいい。
どちらかというと、この朝の運動が無いと物足りないくらいだ。
このトレーニングメニューを作ってくれたのは、新谷さん達、僕のサポートチームの人たちだ。
体調管理を担当する白土先生、栄養士も兼ねている美弥子さん、そして武道の達人である島本さん。
三人が僕の体力に合わせて組み立ててくれたメニューを毎朝こなす。
僕の仕事は、一日四回以上女性の中に精を放つことだ。
たったそれだけのことだけど、その実それが、どれだけ身体に負担の掛かることなのかは、美弥子さんが声を大にして力説してくれた。
なにより、中途退役率8割という数字は間違いのない事実なのだ。僕は、病院に担ぎ込まれるなんてごめんだ。
新谷さんとの約束を果たすまでは、絶対に。
だから、体力はしっかりと付けておかなくてはいけない。僕にとって、この身体だけが資本だから。
ランニングから戻ると、いつものように新谷さんが待っていてくれた。
「辰馬君。はい。」
眩しいくらいの笑顔で、新谷さんはドリンクを手渡してくれる。今日は、牛乳とバナナのミックスドリンクらしい。
「亜鉛が豊富で身体にいいのよ。」
「ありがとうございます。」
渡されたジョッキの中身は、よく冷えていて甘くて美味しかった。ただ、味が濃くて、運動のあとに飲むにはちょっとだけ喉通りが悪かったけど。

最近、新谷さんにはこういう微妙に常識から外れたところがあるのに気付いた。
どうも、美弥子さんから聞いた話では、お料理も洗濯も、家事と名の付くものはどれもこれも得意ではないらしい。
この間も夜食代わりに、身体にいいからって椎茸の粉末をお湯で溶いて飲まされそうになったっけ。美弥子さんが慌てて止めてくれたけど。
「どうしたの?辰馬君。」
思い出し笑いをしていると、新谷さんはキョトンとした表情で小首を傾げた。
そんな仕草も可愛いな、と思ってしまう。6つも年上の人なのに、最近は綺麗とか美しいとかより愛らしく思えてしまうのは、何でなんだろう。
「いえ。美味しかったです。ごちそうさまでした。」
ちょっと喉に引っかかりながらも、きちんと最後まで飲み干してジョッキを返すと、新谷さんも嬉しそうに笑い返してくれた。
そんな瞬間のこの人は、本当に童女のように無垢に見える。
「今日は、土曜日で本当はお休みだけど。」
いいのね。新谷さんは、途端に怜悧な顔を取り戻して僕を見つめる。
ああ、僕はなんて不思議な人を好きになってしまったんだろうか。
いろんな顔を知れば知るほど、あこがれだけじゃない、いろんな気持ちが呼び覚まされていくのを感じる。
きっとこの人は、僕も知らない僕の心の鍵を持っているんだろう。
「自分で決めたことですから。頑張ります。」
そう、無理はしないでね。ぼくの答えに、新谷さんはかすかな憂いを込めて頷いた。
ピシリとしたスーツの襟から僅かに覗いた白いうなじに、思わず視線が行ってしまう。
「ところで、その。どちらになったんですか?」
じろじろと見てしまったのが恥ずかしくて、慌てて言葉を継ぐ。
そうすると、新谷さんは珍しく気まずそうに笑って視線を逸らした。
「その、辰馬君。……ごめんねっ!」
突然両手を合わせて僕を拝む新谷さん。正直、何がなにやらワケが分からない。
でも、そんな風に謝る新谷さんも妙に可愛いな、と思ってしまうのはやはり僕がこの人に心を奪われている証拠なのだろう。


昨日の夜僕は、今日の所内施術の相手を誰にするのか決められなかった。
なにしろ白土先生も島本さんも、毎日顔を合わせている、お世話になっているチームの人なのだ。
その人達とセックスすることだけでも抵抗があるのに、その二人からどちらかを選ぶなんて僕には出来ない。
自分でも優柔不断でかっこわるいと思うけど、顔見知りを性の対象として見るやましさに思考が止まってしまう。
そしてそれ以上に、それぞれ魅力的な良く知っている女の人たちと気持ちいいことを出来る、その想像になぜかとてつもなく興奮してしまう。
そして、やましさが募れば募るほど、同じくらいにやらしい気分になってしまう。
しばらく悩んでいたら、新谷さんは優しく笑って僕の頭を撫でてくれた。
「悩まなくていいのよ。私に任せて頂戴。」
そう柔らかく微笑む新谷さんに、僕は頼ってしまった。きっと、新谷さんなら僕にとって一番いい事を選択してくれると思ったから。

だから、まさかこんなことになるとは思ってもいなかった。
「ふふ。今日はよろしく頼むぞ、辰馬君。」
僕の私室に入ってきたのは、白土先生。小さなガウン一枚を身に纏い、大きく開いた胸元を桃色に染めている。
「……よろしく。」
そしてその横には、島本警備主任。やはり小柄な身体をタオル地のローブに包んでいて、朱に染まった健康的な太ももが、かえって艶めかしい。
二人とも、頬は上気して薔薇色を纏い、目は夢見るように潤み、唇からは荒い吐息が吐き出されいる。
施術前の調整をしたときの特徴だ。
「新谷さん……これは。」
「ごめんなさい。白土先輩に押し切られちゃったの。」
よっぽど疚しいのか、僕と視線を合わせないように目を逸らしながら、新谷さんは扉へと後退っていく。
え?
「その……。頑張ってね!」
両手を合わせて深々と頭を下げると、新谷さんはそそくさと部屋を出て行ってしまった。扉の閉まるパタンという音が空ろに響く。
「えええー!?」


呆然と見送る僕に、後ろから絡みつく細い腕。すべすべしていて少し火照った肌が気持ちいい。
「なんだ、辰馬君。君は私たちじゃ不満だとでもいうのか。」
ギュッと抱きしめられ、耳に寄せられた唇から囁いたのは白土先生だ。
口調はいつもの尊大でからかうような調子だけど、背中に押し当てられた胸は、みっしりとしたボリュームで僕を挑発していた。
「い、いえ、そんなことは……」
その感触にドギマギしていると、今度は僕の右手にそっと滑らかな指先が触れた。
音もなく僕に寄り添ってきた島本さんが、左手の指をそっと僕に絡ませる。武道をやっている人の手とは思えない、細くて柔らかな指先。
「私も初めてなんだ。よろしく頼む。」
そっぽを向きながらも、腕をそっと触れてくる。上気した横顔に、少しだけ強く結ばれた唇が見える。
もしかしたら、彼女も緊張しているのかも知れない。
「どうするんだ、辰馬クン。私たちを孕ませてくれるのではないのか?」
耳元をくすぐる白土先生の吐息に、首筋の毛が逆立つような感覚が走る。いつもと変わらない冷静そうな声。
だけど、そこにはかすかに興奮の震えがある。
そして、島本さんにきゅっと握られた指先の感触。こちらを向いてはくれないけれど、指先からは伝わってくるもの。
これは、決意、それとも覚悟。
「僕、二人同時なんて初めてなんです。上手くできないかも知れないけど……」
大きく深呼吸して、胸を張る。美弥子さん曰く、施術の時は絶対に女性を不安にさせるな。
「やれる限り頑張ります。こちらこそよろしくお願いします。」


ベッドに二人に座って貰ったあと、僕は正直戸惑ってしまった。
なにしろ、いつもは一対一だし、事前にどういう手順を踏むのがベストかブリーフィングで聞いてから施術している。
それなのに今日は、そのブリーフィングのメンバーのうち二人が対象で、しかも同時に施術するわけで。
「心配するな、辰馬君。」
僕の戸惑いを読み取った白土先生は、ニヤリと深い笑みを見せて立ち上がると、何の衒いもなくガウンを脱ぎ捨てた。
そして、それに続いて島本さんもバスローブを脱ぐ。こちらは僅かに俯きながらだけど。
二人の裸身が、カーテン越しに窓から差し込む夏の日射しに照らし出され、ベッドの上に陰影を作り出した。
白土先生は、長身で女性らしい見事なスタイルだ。
染み一つ無いほどに白い肌に、普段まとめている長い髪を下ろした黒と、艶やかな唇の赤が艶めかしいコントラストを描き出して、それだけで鼓動が跳ねるのを感じる。
釣り鐘型、というか砲弾のように突き出したミッシリと張り詰めた胸。
ふくよかなバストから細くしまったウェスト、そしてやはり豊かなお尻へのラインが、綺麗というよりも扇情的な曲線を描いている。
むっちりとした太ももから伸びた足も、適度な丸みがすごく艶めかしい。そして、意外なぐらい黒々とした茂みが、足の間の翳りに見える。
きっと、今までみた誰よりも濃いんじゃないだろうか。意識するまいと思っても、つい視線がそこへ行ってしまう。
島本さんは、背丈も僕とあまり変わりない小柄な人だから、きっと少女っぽい体つきだと思っていたのだけれど、厚手のローブを脱ぐと、そこに現れたのは想像よりももっと女性らしい姿態だった。
小振りだけど張り詰めた乳房とその下に続く引き締まったお腹。お尻はきゅっとつり上がり、細くしまった足もしなやかだ。
僅かに日焼けした手足と白いままの胴の対比が健康的かつ清楚だけれど、シチュエーションの異常さのせいか、かえって奇妙に僕をそそった。
特に、ほとんど無毛と思えるくらいの淡い陰毛しかない股の付け根には割れ目が見えていて、ひどく背徳的な光景だった。
二人の姿色に見入っていると、あまりにありありと見ていたせいか二人は身をよじった。
「辰馬君、あまり、そうあからさまに見るな。」
「やはり、……少し恥ずかしいな。」
二人とも身体を隠したりはしないけれど、羞恥に身体を染める朱を濃くしたようだった。
「お二人とも、すごく、綺麗です。」
慌てて言葉を口にする時に唾をのみ込んだ音が、思いの外大きく響いた。
「まずは私から、頼む。」
白土先生が目配せすると、島本さんは大きなベッドの端に膝を抱えて座った。そして真ん中に腰を下ろした白土先生が、しどけない仕草で僕を誘った。
「さ、始めよう。」


ぷちゅ、くちゅ。
時折漏れる僕と白土先生の舌が絡まる音、そして荒い吐息。僕たちのキスの音だけが室内に響く。
僕は、白土先生の厚みがある果実のような唇をむさぼり、舌を絡み合わせ、口蓋を舐める。
ただそっと合わせるだけの口づけから始まった口同士の愛撫は、今や一方的で荒々しい蹂躙になってしまっている。
息も絶え絶えで僕を受け入れる白土先生に興奮を高めながら、美しい年上の女性の口腔を犯していく。
「ふあっ、はぁ、はぁ、はぁ」
唇を解放してあげると、白土先生は喘ぐような息継ぎをした。大きな乳房が、胸の上下に合わせて震える。
「大丈夫ですか。」
額に唇を寄せて問いかけながら、右手で肩を抱き寄せる。
「はぁ、はぁ、はぁ。んぁっ」
左手を乳房に初めて触れて、ゆっくり持ち上げながらもう固くなっている乳首を親指で弾く。
息づかいもそうだけれど、頬や首筋の紅潮を見れば、白土先生がもうかなり高まりつつあるのは分かった。
これは、早めに入れてあげた方がいいかもしれない。ゆっくり膣を攻めて上げた方が、白土先生みたいな成熟した女性にはいいだろう。
そんな風に考えていた僕の耳に、思いも寄らない言葉が飛び込んできた。
「キスが、こんなに、すごいものだと思わなかった。」
「……え? その、もしかして……」
「はじめて、なんだ。キスも、性行為も。言わなかったか?」
「……聞いてませんよ、先生。」
「色々と、理由があってな。今まで、そういう機会を、持てなかった。」
僕の問い返しに、白土先生は荒い息の中笑って見せた。
「なに、君ならお手の物だろう。私を、上手く破瓜に導いてくれ。」
頼んだぞ、そう口にする白土先生に、僕は改めて頷き返す。
「分かりました先生。」
「ふふ、これに関しては、君の方が、先生だろう。私のことは、萌葱、と呼んでくれ。」
「……はい。萌葱さん。」
そこから、僕は萌葱さんの体中を愛撫した。
指先でなぞって、掌でさすって、舌先でゆっくり舐めて、そして時々軽く噛んで。
萌葱さんは、初めてという割には性感がちゃんと発達していて、特に乳首と性器を刺激すると声を出して乱れた。
「ふぁ!だめ、そこだめ!イッてしまう!イク!」
濃い毛を掻き分けて性器の上側にある突起を丹念に舐めると、萌葱さんは絶頂に達した。
「ふぅ、ふぅ……も、もうきて、くれ、辰馬君。」
「僕のことも辰馬でいいですよ。入れますね。」
力の抜けた両足を膝を掴んで持ち上げ、萌葱さんの赤く腫れるほどに充血した性器に僕の肉棒を宛がう。
先端は、秘裂の間にゆっくりと押し込むとすんなり入り込めた。
「一息に入れます。痛いかも知れないですから、僕にしがみついて下さい。」
「ああ、きて、くれ。」
譫言のように答える萌葱さんの肩を抱きしめながら、ぐっと腰を押し込む。途中、何かに絡まる感覚。
「いぎぃっ!」
それに構わずに僕のものが中へと一気に突き込まれると、悲鳴と同時に彼女は手足を使って全力で僕にしがみついた。
身体の緊張のせいもあるのか、萌葱さんのそこはきゅっと締まって僕のものをしっかりと包み込んだ。
先端がこりこりしたところに当たってすごく気持ちがいい。
「大丈夫。奥まで入りましたから、しばらくじっとしていますね。」
「う、うん。うん。うごか、ないで。」
ガラリと変わった口調に彼女の顔を見下ろすと、これまでずっとポーカーフェースを崩さなかった表情が一変していた。
痛みを堪えて目尻から涙を流す美女は、どこか幼さを感じさせる必死な表情で眼を瞑り、全力で僕にしがみついてじっと耐えている。


「大丈夫。直に慣れるよ。ね、大丈夫だから、安心して。」
頭を撫でながら、頬にキスをする。すると、涙を浮かべたまま萌葱さんは僕の唇を自分から求めてきた。唇を重ね、舌を絡め、何度も唾液を交換する。
「薬の調合が、甘かったようだ。他人の薬量は、絶対に、間違えたりしないのだが。肝心の時に、自分の調整を、失敗するとは。上手くいかないものだな。」
長い長い二度目のキスを終えると、萌葱さんは冷静さを取り戻した声でそう口にした。
「済まない、手足の力加減が上手くできない。痛くないか。」
萌葱さんは破瓜の瞬間、ビックリするほどの力を込めてしがみついてきた。でも、それもしょうがないことだろう。
確かに少し痛かったけど、どっちかというと彼女のつらさを少し負担できた気がして、そんなにイヤじゃなかった。
「遠慮しなくてもいいですよ。大変なのは萌葱さんの方なんですから。」
「ありがとう、辰馬。」
彼女は、柔らかく微笑んだ。
「それより、まだ痛むようなら止めておきますか?」
「いや、一応痛みはもう無い。むしろ君が、辰馬が丹念に愛撫を施してくれたから、もう膣内が少し気持ちいいんだ。動いてくれ。」
まだそんなに慣れているとも思え無いんだけど。そう思いながらも、そろそろと引き抜いてみる。
「うあ、ぁぁ」
溜まらずに声を漏らす萌葱さんを上から見下ろす。入り口まで引き出した僕のものは、破瓜の血に塗れて真っ赤に染まっていた。
今までも何度か、初めての女の人の応対をしたことがあるけれど、こんなに出血の多い人は初めてだ。これでは痛いはずだ。
「……本当に大丈夫?」
僕のものが抜け出たせいか、少しホッとした表情の萌葱さんの頬を撫でて、もう一度念を押す。
「ああ、気にしなくていい。来たまえ。」
そこまでいうのなら。僕は、遠慮せずにグッと押し込む。
「むぐぅ!ぅぅ」
その瞬間、目をつぶり身体を硬くする萌葱さん。
「やっぱり痛いんでしょ?」
「少しだけだ。でも、気持ちいいのも本当なんだ。気にせず続けてくれ。」
そうまで言われれば、イヤとは言えない。僕は、彼女があまり辛くないように、浅い動きと深い動きを組み合わせてゆっくりと動く。
「ん、ん、ん、んん」
胸や首筋に出来る限りの愛撫をしながら、ゆっくりと動き続けるうちに、漸く手足の力が抜けてきた。
声の調子も、悲鳴のような高いものから段々と低めのあえぎ声に変わってくる。やっと、痛みよりも快感が上回り始めた様子にホッとする。
それにしても、萌葱さんの膣内はすごく気持ちいい。
特別きついわけでもないけれど、全体的に柔らかく包み込むような肉襞が絡みついてくる上、怒張の上側をプツプツしたものが擦るのが堪らない。
正直に言って、初めてのセックスなのに、腰使いや締め方を心得ているプロの美弥子さんと互角かそれ以上の気持ちよさだ。
気がつくと僕は、その身体の快感と次第に高まっていく彼女の反応に我を忘れる寸前で出し入れを繰り返してた。
「ふあ、ぁ、あん、あ、ああっ」
「萌葱さんの中、すごく気持ちいいよ。萌葱さんも、気持ちいい?」
「いい、いいよ、辰馬、うんっ、ふぁ、いいのっ」
萌葱さんも僕の腰に足を絡め、気がつくと腰を使い始めていた。目を閉じて、快感を追いかけているのが分かる。
「あ、おく、おく、いいのっ、もっと」
可愛くねだる萌葱さんに応えて、奥深くまで突き刺したモノの先でプリプリとした部分を突き上げる。


「それ!それいい!」
彼女の完全に快楽の波に酔った叫びが僕の耳を打つ。その声が嬉しくて何度も何度も腰を叩きつける。
「あん、あん、ああ、あん!いく、いくの!いっちゃうよぅ!」
すすり泣くような萌葱さんの声。唇で唇を塞いで舌を絡ませ、ギュッと抱きしめながら腰をもう一度押し込む。
「んーーーー!!ぅんーー!」
膣がきゅっと締まり、白い身体が戦慄く。やっと、萌葱さんは中でイッてくれた。
「ふう、うふん、ううん」
「よく頑張りましたね。もう、大丈夫ですよ。」
荒い息をつく彼女を撫でてやる。そうすると、あどけない、とても幸せそうな笑顔が返ってくる。
僕も笑顔を返しながら、耳元に口づけて囁く。
「これから、もっと気持ちよくしてあげますね。」
「えっ、ちょっと」
その声をキスで塞いで、腰をまた動かし始める。
「だ、だめ、ま……」
舌を絡め取って、身体を両手で抱きしめて、密着した状態で腰を激しく使う。
「ふあ、うあ、だ、だめ、たつま」
「ダメじゃないですよ、萌葱さん。何度もイカせてあげます。最後は、一番奥に注ぎ込んであげますからね。」
「やん、あん、あひ」
言葉にならない歓喜の声を上げる美しい先生を、僕は出来る限りの方法で愛した。
彼女の、挿入してから4度目の絶頂にあわせて、僕のものを膣の一番奥に押し込んで精を放つ。
汗みどろになり、忘我の様でほとんど失神している萌葱さんは、凄絶に美しくて、堪らなく扇情的で、そしてとても可愛かった。


そのまま眠ってしまった萌葱さんの頬に口づけして、ほっと一息つく。見上げると、時計は既に1時間半も経過していた。
身体は少し疲れていたけれど、一度しか出していないからまだまだ大丈夫そうだ。
それに、萌葱さんの見せてくれた普段とはギャップのある可愛い仕草や色っぽい姿態が、僕の気持ちを浮き立たせていた。
あと一人。島本さんは。施術に没頭していて忘れていたもう一人の女性を目で捜す。
目をベッドの端に向けると、こちらをまじまじと見入っていた視線にぶつかった。島本さんは、僕と視線が合うとすぐに俯いてしまった。
赤く紅潮した頬に荒く速い呼吸、そして潤んだ瞳。全身の肌は赤みを帯び、胸の先端では乳首が固く立ち上がっている。
一目見て、ものすごく興奮しているのが分かる。
「……島本さん。」
声をかけると、ビクッと肩を震わせ、おずおずと僕の方を見上げる。怖がってるのかな、そう思って僕は微笑んだ。
すると島本さんは、胸元で両手をギュッと握ると、眼を固く瞑ってしまった。
「えっと、どうしました。」
「わ、わたしも!」
「え?」
うわずった声で喋った島本さんは、ごくりと唾を飲み込んだ。
「私も、瑞香って呼んで欲しい。」
「……えーと、瑞香さん?」
眼を瞑ったまま、瑞香さんは首をブンブンと縦に振った。
「それで、その。こっちに来ませんか。」
「……。」
手をさしのべると、目を見開いた瑞香さんは赤らんだ顔で僕をじっと見つめた。
確か、二十歳だと聞いていたけれど、小柄な体躯や小作りで端整な顔立ちは、短く切りそろえたボーイッシュな髪型もあいまって、一見して僕と同じ中学生に見えなくもない。
もちろん、服を脱いだ下にあったのはちゃんとした大人の女性の身体だったけど。
美弥子さんや萌葱さんと較べればちょっとコンパクトだけれど、指先で突けば弾けそうな肌の張りは、他の人にはない魅力だ。
そして、その彼女が素人目にも分かるほど興奮、いや、発情している。
とても、武芸百般で大の大人が10人掛かっても倒せない達人とは思えないな。
僕が瑞香さんの裸身に見とれていると、彼女は僅かに動いた、ように見えた。
次の瞬間。
視界がぐるりと回り、気がつくと僕はベッドの中央に仰向けに倒されていた。そして、身体の上に熱い肌の感触。僕の視界には、いっぱいに広がった瑞香さんの顔。
「瑞香さん、これ……」
一体何が、と続けようとしたところで、柔らかく湿ったものが僕の口を塞ぐ。
「んん、ん、ふう。」
合わさった唇から入り込んできた舌に、すぐに自分の舌を絡めて僕の口の中へ引き込む。
驚いて戻ろうとするそれに合わせて舌を逆に押し入らせ、彼女の頭を押さえて、舌、歯茎、口蓋を嘗め回す。
「……ん、んん!ぷあ!」
たっぷりと味わったあと舌を解放してあげると、瑞香さんは息継ぎしながら僕の上にぴったりと寝そべった。
微妙に動いている彼女の腰に合わせて、彼女の湿った股間が強ばった僕のものに擦りあわされる。
「いきなり、どうしたんです。」
そのせっぱ詰まった様子が気になって、背中をさすってあげる。
「はぁん!」
すると、瑞香さんは触った僕が驚くぐらいの声を上げた。それは、悲鳴とか驚きの声じゃなくて、間違いなく悦楽に喘ぐ声。
「辰馬。すぐに、すぐに入れて。私の中に。」
どこか飢えたような切迫感のある響き。僕の上に跨った瑞香さんは、ふわふわと覚束ない手つきで僕のモノを探り当て、自分の陰裂に擦りつけた。
そこはもう、熱く火照り驚くほど潤っていた。僕の先端が割れ目に辺り、ヌルリと滑る。
「入らない。どうすればいいの。」
僕を見下ろして、せっぱ詰まった調子で問いかける瑞香さん。


どうやら、萌葱さんと違って彼女の場合、薬の量がちょっと多かったようだ。性欲の昂進が普通より進んでしまった状態らしい。
しかも、1時間半も待たされてるわけだし。
「落ち着いて。」
上半身を起こして、瑞香さんの細い身体を抱きしめる。僕の胸板に、彼女の固くしこった乳首が当たる。身体全体が熱い。
「う、んん、んんっ」
ちょうど、僕の固く立ち上がったモノの裏側が、彼女のクリトリスに当たっていた。
瑞香さんは、腰を少しずつ動かして少しでも快感を得ようとしている様子だ。確かに、限界かも知れない。
「このまま入れますね。」
眼を瞑って、辛そうに激しく頷く瑞香さんの首筋に唇を寄せて、強く吸う。
「あぁんっ!」
彼女が声を上げた瞬間に、両手で掴んだお尻を少し持ち上げ、剛直を素早く穴に宛がう。そして、グッと腰を送り込む。
「あ、ああああっ!」
「うう。」
彼女の秘所は、ひどく熱く、蕩けるように蜜が溢れていて、そして恐ろしくきつかった。
何の抵抗もなくスムーズに一番奥まで進入した僕自身は、次の瞬間がっちりとくわえ込まれて身動きが取れなくなってしまう。
「あ!あ!いい!来ちゃう!来ちゃう!」
すごい締め付けに驚いて動かそうともがいていると、それがたまたま彼女の浅めの秘奥を突き上げたらしい。
悲鳴にも似た声を上げた瑞香さんは、二度三度と身体を震わせると、ぐったりと僕に抱きついて深い溜め息をついた。
「イッたんですね。気持ちよかったですか。」
僕の声に、瑞香さんは荒げた息の中で弱々しく頷いた。
まだぴくぴくと反応している彼女の身体を抱えて、背中を撫でてやる。
「入れて直ぐにいっちゃうなんて。待たせ過ぎちゃったね。ごめんね。」
次第に引いていく快楽の波に身を委ねている彼女の姿は、年上と言うよりは同年代、あるいは愛らしい年下の子にさえ感じられる。
「まだまだ可愛がってあげるからね。」
「ふあ、あん、うん、もっと、もっとして。」
首筋を舐め上げ、耳を甘噛みしながら抽送を再開すると、瑞香さんは愉悦に溺れた可愛い声で続きをねだった。


瑞香さんの中に精を放って、横向きに横たわりながら抱き合っていると、うしろからのし掛かってくる気配がした。
瑞香さんよりもふくよかで柔らかな感触。
「白土先生?」
「萌葱と呼べと言っただろう、辰馬。」
耳元をくすぐる少しかすれた声、それに背中に当たる大きな胸の感触も、僕をそそる。
「えっと、萌葱さん。もう回復したの?」
射精したばかりなのにまたもや硬さを取り戻しつつある僕のモノ。
だから、僕の声には彼女を気遣う気持ちと同じくらい、高まった欲望に裏打ちされた期待が混じっていた。
「……まだできるのか?」
「萌葱さんさえイヤじゃなければ。」
呆れたような響きに、ちょっと恥ずかしいなと思いながら答えると、萌葱さんは真剣な表情で答えてくれた。
「嫌なものか。でも、加減してくれないと次は、愉悦のあまり死んでしまうかも知れない。」


萌葱さんと瑞香さん。二人と上になったり、下になったり、一人を二人で責めたり。
気がつくと、時刻は昼と過ぎ、僕は二人の中に3回ずつ注ぎ込んでいた。
二人に抱きつかれて腕枕している。身体は気怠いけれど、性的な昂ぶりは落ち着いて満ち足りた充足感だけが身体を包む。
そんなちょっと前までは想像しなかった状態で、僕たちはお互いの温もりを感じながら、なんとはなしに穏やかに話していた。
とは言っても、僕にはあまり話すことがない。平凡で無口だけど頼れる父。ちょっとおっちょこちょいだけど明るく楽しい母。
そして、僕を慕ってくれる少し恐がりの妹、春佳。僕にとってはとても大事だけど、どこにでもある普通の家族だ。
萌葱さんは、母子家庭で育ったそうだ。母も医師で研究者。その後を追いかけて研究者になった。
飛び級に飛び級を重ねて、15歳で医師になった。それからは研究一筋。男性と知り合う暇もなかったという。
瑞香さんは、柔真流という戦国時代から続く武術の宗家の生まれなのだそうな。
生まれてからずっと、その武術を継承するために技を学び、それ以外の武術にも研鑽を積んできた。
しかし、APDSのせいで一族の中で子供を残せる人間が彼女だけになってしまった。
なんとしても子孫を残し道統を維持するために、子供を作らなくてはいけない。それが彼女がここへ来た理由だった。
二人とも、僕なんかと較べて本当にすごい人だと思う。
そのすごい人とセックスできて嬉しいという気持ちと、彼女たちに見合う男じゃなくて申し訳ない気持ち。そのどちらも、僕の中にある本意だった。
「しかし、これで孕んでしまうともうしばらくはセックスできないわけだな。何か損した気分だ。」
「実は、私も。」
そろそろ施術を始めてから4時間が経とうとしていた。そろそろベッドからでなくては。そんな雰囲気の中、二人はそういった。
ぼくは、無言でいたのだけれど、どうやら内心が顔に出てしまっていたようだ。
「どうした、そんな怪訝そうな顔をして。」
萌葱さんが、僕の頭を撫でながら優しく訊いた。
「僕はその、何度かそういわれたんですけど、ピンと来ないんです。」
無言で続きを促す二人に、上手く要約して話せないことに歯がゆさを感じながら言葉を繋ぐ。
「僕とその、セックスするのって、皆さんイヤじゃないんでしょうか。まだ子供だし、経験だってそんなに無いから特別上手いわけでもありませんし。
……子供を作る目的のためなら我慢できるかも知れませんけど、そうでなかったら、種なしでももっと上手い人とかいっぱいいるんじゃないでしょうか。」
「ふむ。」
「確かに君の言うとおり、君はまだ子供だし、特別にテクニックが優れているとも言えないだろう。」
肯定されると、自分の言ったことを繰り返されているだけなのに、やっぱりな、と心が沈んでしまう。
「だがな。」
うつむきかけが僕の顔を持ち上げて、萌葱さんはチュッとキスをしてくれた。そして、胸元に僕の頭を抱き寄せる。
「私は初めての相手が君で良かったと思うし、君さえ許してくれるならもう一度、いや、何度でも抱かれたい。」
「私も。」
萌葱さんに続いて、控えめにそっと寄り添うように僕に抱きついてくる瑞香さん。
その華奢だけど引き締まった体躯が、僕の腕の中で身体の隙間をゼロにする。その温もりが僕に、彼女の短い言葉への信憑性を与えてくれる。
「それは、その、嬉しいですけど。……でも、どうしてですか?」


「それはな……」
「キミが、辰馬が、心から愛してくれたから。」
僕を見上げる瑞香さんは、視線を逸らさずに真っ直ぐに言った。
「そうだな。瑞香の言うとおりだ。」
萌葱さんもそれを肯定する。
「でも……。こう言うと怒られそうですけど。僕、お二人のことはもちろん好きですし、えーと、セックスできるのも嬉しかったです。二人ともすごく美人ですし。」
「うむ。良く分かっているじゃないか辰馬。」
「……うれしい。」
前後から抱きついてくる力が強くなる。
「でも、その。僕はお二人に恋しているとも言えないないし、女性として愛しているとも言えないと思います。……だから、身体だけでも、一時だけでも幸せになって貰いたい。
もっとホントのことを言うと、僕のことを、イヤな思い出にして覚えていて欲しくないだけなんです。……僕は、自分が可愛いだけなんですっ」
気がつくと、僕は取り乱して涙声になっていた。
「そのぐらいにしておけ、辰馬。」
萌葱さんがそっと僕を抱いてくれる。
「君がどう思おうと、それは自由だ。だが、君が私たちの初めての交わりを可能な限りいい想い出にしてくれたのは間違いない事実だ。」
「それに、本当に私はキミの気持ちが嬉しかった。それが同情でも別に構わない。ありがとう、辰馬。」
瑞香さんも僕に抱きついてくれる。
「そうだ。君は私たちを立派に女にしてくれた、女の喜びを教えてくれたのだからな。胸を張っていいんだぞ。」
二人の暖かさが誘ったのだろうか。僕は、胸の奥から涌いてくる言葉に出来ない感情に満たされてしまった。感謝、喜び、共感、疚しさ、後悔、喪失、……。
「ふ、うう、ふぅ、ぐぅぅ……」
何に突き動かされたのか分からないまま、僕の心は決壊した。
「気が済むまで泣いて。」
「は、はぃ。う、ううう」
僕は、二人に抱きかかえられたまま、何年かぶりにひたすら涙を流し続けた。
家を離れてからこの約一月ほど、ずっと張り詰めていたものが解れるような感覚。
暖かな温もりの中で泣き続けるうちに、僕はいつの間にか眠ってしまっていた。
身体を交えた女性に裸のまま抱かれているという、かなり刺激的な状況なのに、僕はそのとき確かに、母に抱かれるような心からの安らぎを感じていた。


「二週目の結果も出たか。」
「ええ、先輩。やはり予想通りです。」
どこから聞こえて来る声に、ほんの少しだけ意識が覚醒する。
「すごいな。施術10人中9人が受胎か。そうすると、これまでの成績は19/20、95%か。」
「もしかすると、最終的にも9割以上になるかも知れません。予想よりも1割近く、平均を2割強上回るかも。」
言葉は聞こえて来るけど、その意味はほとんど頭に入ってこない。
「その推測はまだ早計だな。だが、そうなったとしても対策は予定通りだ。彼が並の男と違うのは分かっていたことだ。」
「……私は、彼を利用しているのが辛いです。」
「心配するな。幸い彼はお前に惚れているんだ。身体で償えばいいことだ。ま、彼に抱かれるのは罰にもならないと思うがね。」
その声には聞き覚えがある。耳に馴染んだ声だ。
「……そ、そんなによかったんですか。」
「ふん、愚問だな。もし彼を持て余すようならすぐにでも言えよ。私があとは引き受けるからな。」
その会話の声は普段から良く聞き慣れている誰かの声に違いない。いや、もしかしたらもっと昔に聞いた声かも知れない。母さん?春佳?だれだっけ……
「……引き受けるって」
「なに、一回り年下の夫と蕩けるような夫婦生活というのも悪くないな、と。」
「ちょっと先輩!だめで……………」
遠ざかっていく声は、脳裏に浮かんだ古い記憶と一緒にするりと手の内から逃げ出し、夢の中にだけ存在する曖昧の海へと溶けていってしまった。
その瞬間感じた悲しみのような感情もまた闇の中に沈んでいき、僕は再び意識を手放した。