正人が会社から帰宅すると、玄関で迎えた妻の由梨の顔が真っ青になっていました。
「どうしよう、昼間、届いたのよ」
由梨の手には一枚の葉書が握られています。
それを見て、正人の顔からも血が引きます。
「あなた、どうしよう?」
「どうしようって……法律できまっているんじゃ……」
「私、あなた以外の人の子供なんて産みたくない」

それは日本の少子化を食い止める切り札として、ある法案が提出されたことが始まりでした。
どれだけ予算措置をしても、それだけ制度を整えても、女性はなかなか子供を産んでくれない。
それならばとその法案は、既婚の女性に子供を産むことを義務付けることにしたのです。
勿論、多くの女性達が反対しました。
そもそも、夫婦に子供が産まれない原因には、夫の側に問題があることも多いのではないかと。
その時、一人の歴史学者があるアイデアを提案しました。

昔、嫁に入った女性に求められたことは子供を産むことでした。
嫁に入って3年、子供が産まれなければ、離婚されてしまいます。
だから日本各地の村々には、子供のいない嫁達が村のお堂に一晩籠もり、懐妊を祈願する風習がかってはありました。
すると不思議と、子供が産まれることが多かったといいます。
勿論、祈ると子供が出来るという非科学的なことは現代では否定されています。
おそらく、お堂に籠もっている女性の元に、村の男が夜這いに行き、それで子供が出来たのだろうと考えられています。
それでも産まれた子供は夫婦の子として大事に育てられました。
種を蒔いても実がならない畑に、別の種を蒔いてみる昔の知恵を復活させようというのです。

勿論、現代日本に昔のような風習はもう残っていません。
だから公正、公平をモットーとしてその制度は作られました。
この制度は厚生労働省が全国の市町村と協力して運用されます。
特定の条件を満たした女性と男性がコンピュータによってランダムに組み合わされて、役場から葉書が送られてきます。
その葉書には場所と時間だけが書かれています。
誰と組み合わされたか相手の氏名やプロフィールなどは書かれません。
相手によって拒否できないようにするためです。
その場所で二人は初めて顔を合わせることになります。
選ばれた二人が会って、やることとはSEXです。
それも子供を作ることだけを目的としたSEXです。
目的は少子化対策ですから。
だから、ピルやゴムなどの避妊行為は一切禁止されます。
無事、子供を妊娠した場合、女性側に産んで育てる義務があります。
勿論、費用やその後のケアには国が万全の体制を整えています。

現金なことに女性達の反対は、選ばれる男性の中に
芸能人やスポーツ選手が含まれることが宣伝されると徐々に下火になっていきました。
勿論、全ての男女がこの制度の対象者になるわけではありません。
以下の条件をみたす男女だけが対象とされます。
1.健康体であり病気(特に性病)に感染していない20代〜30代前半の男女
  そのため、健康診断の受診が義務づけられます。
  ちなみに健康体であるとは、子供を産める・作れる身体であること。
  女性の場合は生理の周期もその時に把握されます。
男女共通の条件はこれだけです。以下は女性側だけの条件となります。
2.一定以上の収入を得ている家庭を営む既婚者であること
  産まれた子供の親権は母親にあり、しっかりと育てて貰わなければなりません。
  だから経済力や家庭がない女性では子供を育てることが出来ません。
  また女性の夫は自分の子供ではないからといって養育を放棄することは出来ません。
3.結婚後3年を過ぎても子供がいないこと。
  既に自分の子供がいる女性も免除されます。
  子供のいない女性に子供を産んでもらうことがこの法律の目的ですから。

そしてその法律は成立したのです。


1ヶ月前に健診を受けた由梨は、体に問題は無く、病気でもないという結果を貰っていました。
外資系企業に勤める正人は、世間一般に言う高給取りで充分な収入を得ています。
由梨と正人はまだ20代で、つい先頃結婚3周年を迎えましたが、不妊治療の甲斐なく未だ子供はいません。
つまり由梨は他の男の子供を妊まなければならない義務があるのです。
ちなみに余談ですが、逃げ出したりしたら夫婦共々懲役20年です。

指定された日はあっという間にやってきました。
「じゃあ……由梨……」
「ええ……いってらっしゃい……正人さん……」
その日は平日なので、こんな日の朝でも正人は会社に出かけなければいけません。
いつもどおり玄関で見送り見送られる由梨と正人の様子は流石に沈んでいます。
正人は自分の愛妻の姿をしっかりと目に焼き付けます。
今夜、会社から帰ってきた時も、いつもと同じように由梨は正人を出迎えるでしょう。
しかしそのお腹の中には他の男の子供を宿しているはずなのです。
「ううっ!」
自分が由梨を妊娠させられなかったばかりにこうなった不甲斐なさに涙をこらえながら、正人は走り去りました。
「あっ!正人さん」
由梨は正人を呼び止めようとしますが、諦めます。
なにしろ時間がありません。

今日は一流ホテルが貸しきられ、立食パーティの用意がされた会場に今回の対象者が集められました。
「えー、このような晴れがましい席でお祝いの言葉を述べさせて頂けるのは正人に光栄の極みであります」
壇上で市会議員だか県会議員だかの来賓の挨拶が始まった会場で由梨は自分の相手と初めて出会いました。
「あの……由梨です、はじめまして」
「……ゆ、裕です。今日はよろしくお願いします」
厚労省のコーディネーターの人に引き合わされ、二人はとりあえず挨拶を交わす。
裕は由梨と同じくらいの年齢の真面目そうな男性でした。
どのような相手に当たるかは運次第です。
裕は自分の相手が若い美人であったことを内心喜びながら話しかけます。
「えーと、今日は晴れてて良かったですね」
「え、ええ」
「食事が出るなんて知らなかったのでお昼も済ませてきました」
「え、ええ」
なんとか話の糸口を掴んで間を持たせたい裕に対して、由梨は生返事を返すばかりです。
「……あの……私はお気にめさなかったでしょうか?」
「え!いえ、違います!違います!!」
慌ててかぶりを振る由梨。
「……私、主人じゃない男の人は初めてで……」
「僕も妻しか知らないんですよ。だから僕のほうこそがっかりさせないかと心配です」
「なら、お互い初めて同士なんですね」
由梨はようやく微かに笑った。


会場の中では100人の男女が50組のカップルを作っていました。
にこやかに談笑しているカップル。
お互いにソッポを向き合っているカップル。
必要以上にはしゃいでいる者もいれば、ひたすら暗く落ち込んでいる者もいる。
そんな部屋の空気が一気に引き締まります。
「つまり、皆様の頑張りに日本の将来が掛かっているということを言いたいわけでして、
皆様のご健勝を願って挨拶を締めさせて頂きます。御清聴ありがとうございました」
最後の来賓の挨拶が終わって、壇上には司会者が上った。
「来賓の皆様には祝賀のお言葉をありがとうございました。
さて、これから会場の皆様にはそれぞれの部屋に向かっていただきます」
会場の扉が開き、来賓一同の万歳と拍手に送られて、人々はぞろぞろと会場の外のエレベーターホールに出ました。
このホテルの部屋の鍵はあらかじめ渡されています。
由梨と裕に渡された鍵は2013号室のものでした。
「わー、いい景色」
窓から見える風景の素晴らしさに由梨は思わず歓声を上げました。
「本当ですね」
裕も由梨の隣に立って外を眺めた。
「今頃、みんな働いているのに僕達だけこうしているの悪い気がしますね」
裕は隣の由梨の身体が強張ったことを感じて失敗を悟りました。
今頃、働いている人々の中には彼女の夫もいるのです。
「あ、すみません……」
「……シャワー浴びてきますね」
再びギクシャクした雰囲気を纏ってバスルームへ向かう由梨を見送ると、裕はベッドに腰掛けました。
「大丈夫かな、俺」

「うううっ、由梨……」
ちょうどその頃、由梨達のいるホテルの玄関を離れたところから窺う怪しげな男がいました。
正人です。心配のあまり会社を無断で休んでホテルまで来てしまったのです。
しかし、玄関には警官が立っており、今日は関係者以外は入れません。
「俺の由梨が……うううっ」

その時、ホテルの部屋の由梨は……。
 
シャワーを浴び終え、バスタオル一枚の姿になっていました。
項垂れてダブルベッドに腰掛けています。
裕も由梨の横に座っています。
裕もバスタオルを腰に巻いた姿です。
お互い無言で目を合わせません。
(えーと……これからどうしよう?)
とりあえず、裕は由梨の剥き出しの肩にゆっくりと手を廻しました。
由梨のカラダが震えていることを知ります。
「……止めましょうか?」
由梨は頭を横に振りました。
「……いつかはしなければいけないことだから」
この場は止めても、妊娠が確認されるまで何度でも呼び出されることになります。
由梨にとって裕はどことなく正人に似ている雰囲気がありました。
自ら望んだ相手ではないといえ、嫌な印象をうける相手ではなかった分
マシなのかもしれないと由梨は思いました。
「……だから、してください」
目を瞑って仰向けにベッドに倒れこみました。
そして裕を待ちます。
裕は少し迷いました。とはいえ由梨の言うとおりです。
意を決して由梨の捲いているバスタオルの合わせ目を摘まみます。
そしてそれを開きました。
(……綺麗だ)
夫以外の男が触れた事のないこの清らかな人妻のカラダを、己が汚してしまうことに
罪悪感と愉悦を感じながら、裕は彼女の胸の膨らみの頂点の突起に
唇を寄せていきました。


正人はホテルの建物を見上げました。
このたくさんある窓のどれかの部屋で、今頃由梨は……。
(嫌な男に無理矢理抱かれて泣いているんじゃないだろうか)
正人は頭を振って不快な想像を振り払いました。

都心の一等地に立つ一流ホテルの20階。
2013と数字が付けられた閉じたドアの向こう側。
部屋の中にはちゅぱ、ちゅぱと唾液の鳴る音と、女の吐息が洩れる音が響いています。
裕は、由梨を仰向けにベッドの上に押し倒して、彼女の胸に食らい付いています。
裕の舌と唇と手が、激しく忙しく由梨の乳房と乳首を刺激しています。
由梨とて3年間の夫婦生活で夫に女として開発されたカラダを持つ成熟した女性です。
初めは気乗りしなくても、男の与える刺激にいつまでも無反応ではいられません。
由梨の頬は赤らみ、熱い吐息を洩らし、両手が裕の背中に廻っていきました。
(こんなに感じるなんて…相手は正人さんじゃないのに…)
裕の頭が徐々に下に向かって動いていきます。
由梨の括れた腰に舌を這わし、臍の周りにキスをします。
裕の手が由梨の茂みを撫でると、由梨は裕の求めを察して両膝を立てて左右に開きました。
そしてその間に裕が指を埋めました。
由梨の背筋が反り返り、白い首筋が露にされます。
由梨に対する激しい欲情に駆られながら、裕の頭の中には冷静に己を見ている部分もありました。
(今頃、このホテルの全ての部屋でこんなことをしているんだろうなぁ)
「何かおかしいことありました?」
由梨が裕を怪訝そうに見ています。どうやら笑みが表に現われていたようです。
「ん?……由梨さんとこういうことが出来て幸せだと思ったんですよ」
「……私も、裕さんが相手で良かったです……」
言ってしまって由梨の顔は真っ赤になりました。
この法律が出来てから女性誌には、多くの体験談が特集されました。
自分の相手の男性が当たりか外れかは、選ばれる可能性のある女性にとって一番の関心事となりました。
二人になった途端、暴力を振るったり、アブノーマルなプレイを強要する男もいる中で、
恋人同士のような普通のセックスをしてくれる裕で良かったと由梨は思いました。
(か、可愛い)
真っ赤になって手で顔を覆った由梨を見て、裕は思いました。
(もう我慢できない、早く一緒になりたい)
中腰になると腰の周りにまとわり付いていたバスタオルを手早く取り去ります。
そこから現われた裕のペニスは最大限の大きさと硬さに成長していました。
(な、何、正人さんと全然違う!)
指の隙間から、裕のモノをみて由梨は驚愕しています。
「由梨さん、入りますよ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「待てません、イキマス!」
「い、いや、痛い!痛い!裕さん」


(他の男に抱かれたからといって、俺と由梨の愛情が変わったりするわけが無い。大丈夫。大丈夫)
正人は自分と由梨のこれまでを振り返ります。
結婚初夜まで由梨は処女でした。痛がって逃げようとする由梨を宥めすかしてようやく女にした時
由梨は目に涙を浮かべながらも、正人のモノになった喜びを表していたものでした。
それから3年。二人で愛を育んできたのです。
「信じているよ。由梨」

「すみません、由梨さん」
「気にしないでください。……さぁ、これで大丈夫だと思いますよ」
由梨のアソコが濡れていないわけではありませんでした。
ただ単純に裕のペニスが由梨が経験した正人のペニスより大きかったのです。
ホテルの部屋には避妊具こそありませんが、それ以外の様々なアダルトグッスが用意されていました。
勿論、ローションもあります。
由梨は、たっぷりとローションを裕のペニスと自分の入り口に塗りつけると
裕を仰向けに寝かせて、その上に自分から腰を落としていきました。
少しずつ少しずつペニスの大きさを穴に馴染ませて由梨は自分の中に受け入れて行きました。
正人相手では経験できなかった限界まで由梨の穴は広がっていきます。
裕の尖端が由梨の奥に突き当たりましたが、裕のペニスはまだ全部入っていませんでした。
そこで思い切って腰を下ろします。
「あはぁっ!」
由梨の子宮が上に突き上げられ、今までに経験したことの無い感覚が由梨の背筋を走りました。
由梨は項垂れて、動きを止めています。
「由梨さん……」
裕が由梨を呼びます。
由梨は顔を上げて裕を見ました。
由梨の目には涙が浮かんでいます。
それが結婚の神聖な誓いを破って、夫じゃない男を受け入れた悲しみの涙なのかは由梨自身にすら判然としません。
「動いてください。由梨さん」
由梨はゆっくりと、腰を振り始めます。
上下、前後、左右、右回り、左回り。
由梨の腰の動きはそのバリエーションと速さを増して行き
腰の動きにあわせて由梨の二つの乳房が跳ね回り、
由梨の口から息が洩れ、下の裕の口からもうめきが漏れ出しました。
突然、裕の手が由梨の腰をがしっと掴んで動きを止めさせました。
「?、きゃっ!」
裕は繋がったまま起き上がると、由梨を仰向けに押し倒し、
今度は自分が上になって激しく腰を動かします。
由梨はカラダを激しく前後に揺すられながら、息も絶え絶えな様子です。
二人の上げる声が段々と高く大きくなっていきました。
しっかりと防音されているはずの部屋にも関わらず
どこからともなく、由梨以外の女性の嬌声が微かに聞こえてきました。
由梨の声も他の部屋に洩れているのかも知れませんが、もはやそんなことは気にしません。
由梨のように、今、このホテルでは50人の人妻が夫ではない男にSEXされているのです。
裕のように、今、このホテルでは50人の男が人妻を己の精で孕ませようとしているのです。
裕が一際大きな声を上げると、彼の精巣から迸った数億の精子が
主におおきな悦楽をもたらしながら素早く尿道を通り抜け、由梨の膣に吐き出されました。
悲鳴を上げて男にしがみつく由梨の胎内では、人より多くて強い裕の精子が
由梨の子宮に辿り着き、そこに用意されていた卵子を受精させました。


一年後。
由梨は母親となった幸せを噛み締めながら、朝食の皿をキッチンで洗っていました。
「さぁ、ママがお仕事している間、パパと遊ぼうね」
リビングから正人が娘をあやしている声が聞こえてきます。
血の繋がらない子供を可愛がってくれるかという不安は杞憂に過ぎなかったようです。
(正人さんがこんなに子供好きだなんて知らなかったわ)
正人が娘の良いパパになってくれて、由梨は安堵しています。
その時、エプロンのポケットから携帯の振動が伝わってきました。
由梨は携帯を開いて、到着したメールを確かめます。
約束の場所と日時を覚えたら削除して、再びエプロンに戻します。
(裕さん……)
先の法律に基づいて結ばれた男女がその後、お互いに連絡を取り合って
関係を続けることについて、法律は何も禁止していません。
幸いにも正人と裕は同じ血液型です。
(二人目が出来るのは早いかもしれないわね)
由梨の顔は母のそれから、女のそれになっていました。

おしまい