[般若っ娘の華子の場合・1]

「ふうぅっ! ふうぅっっ!」
普段は優しい華子の顔は、いつものそれじゃなかった。
きっかけは同じゼミを受けている女の子との、他愛のない会話。
普段はほとんど話もした事がなく、たまたま同じ趣味を持ってたことが分かって何十分か話し込んだ、でもまるで恋愛なんて感情には結びつきそうにもない、一人の同級生との会話。
それが目の前の彼女――でもあり、許婚でもある――荻野華子(おぎの はなこ)には許せなかったようだ。
彼女は俺を組み敷き、両手を女とは思えない強い力で押さえ込む。
日本人離れした白い肌を興奮で真っ赤に染め、目をかっと見開いて俺の方を見る華子の顔は、かなり前に家族で見に行った能で見た般若の姿を思い起こさせた。
自分の彼氏が自分以外の女性に触れる事にたいして、異常な
ぐらいに低い沸点を持つヒステリー女の怒りを買うのは俺としても避けたいところだったし、親が決めた縁組とはいえ俺には勿体無いぐらいの美人である華子と問題を起こすつもりなんてさらさらない。
俺は結構、いやかなりその手の事に気をつけてたつもりだった。
「許さない……ゆぅさないっ!」
参ったな。すっかり頭に血が上ってる。こうなるともう俺なんかじゃ手がつけられないのは、何度も体験すりゃ嫌でも骨身にしみてくる。
「楠(くす)くんに話かけてもイイのは華子だけ。華子らけなのぉ!」
普段はその容貌にふさわしいはきはきした物言いの華子だが、極度に興奮すると時々舌足らずな発音が混ざる。意外なギャップに可愛いと思ったのは初めだけ。荒い鼻息の混じった物言いは、今じゃ怖いとしか思えない。
「そうよ……楠くんに話し掛けてもいいのは華子だけ。
楠くんと一緒に住むのも華子だけ! 一緒にご飯するのも華子だけっ!
結婚するのも華子らけっっ!子供産むのも華子だけなのっ!
そうでしょ!?」
「……うん、そうだよ」
「そうでしょ!? なのに何なのっ!? なんで他の女の子とデレデレしてゆのっ!?」
「してないよ」「いやしてた! 華子ちゃんと見てたんやから!」
弱弱しい釈明は、いつものとおり全然聞いちゃ貰えなかった。いっつも勝手に思い込んで、勝手に自己完結してしまうんだから。まあ、少しは負い目(単なる会話だけど)を持つ身では、そう強くも出られない。
「……楠くん。華子を裏切らないで。他の女の子を、好きにならないで」
「そんなわけないよ。俺が好きなのは華子だけだ」
「じゃ、証明してよ……」
何回も繰り返してる言葉のやり取りを終えると、華子は俺を押さえつけてる両手を自分のスカートの下にやり、その中のパンティを一気にずり降ろした。パンツはもうぐしょぐしょに濡れてて、それがあてがわれてた場所がどんな事になってるかを雄弁に物語っていた。
じー……。
自分の準備を終えた華子の手は、何も言わないうちに俺のジーンズのファスナーに向かった。慣れた手つきで下まで下ろし、大胆に出来た穴に手を突っ込む。すこしトランクスをまさぐってたけど、すぐに俺のナニを探り当てて、外に引き出した。俺のもこれからの展開を期待して随分カチカチになっている。
「証明して……。楠くんの子供、華子に産ませて……」
いうやいなや、華子は自分の穴を俺の棒にあてがい、腰をすこしづつ降ろしていった。


[般若っ娘の華子の場合・2]

ずぶっ。ずぶぶっ。
「あ、ああっ。……ああぁ……」
美人な華子の顔が快楽に歪む。もう何ヶ月も前に処女を失い、その後何回も同じ事を繰り返してきたけれど、華子の蜜壷はものすごく窮屈なままで、貪欲に俺の精を絞り上げようときつく締め上げてきた。
「ああぁ、いいよ。楠くんのお〇ンチン、私の中でぴくぴくしてる」
「華子もいいよ。おマ〇コすっごく気持ちいい」
「当然よぉ、楠くんのお〇ンチン中にいれてゆんだもん……」
勝ち誇ったように言う華子。でもその顔が嬉しさで真っ赤に染まるのを見て、俺はさらに興奮した。
「動くね」
「うん」
ず。ずずっ。ずずずっ。
ぐちゅ。ぐちゅぐちゅ。
初めはゆっくりと、次第に激しく腰を上下し、華子は自分の膣に刺さっている肉棒を出し入れし始めた。そのあいだ俺は下半身を動かさない。華子が俺を「犯して」る間は、俺が動くとえらく不機嫌になる事は良く知っていた。
ずちゅ。ぐちゅ。ずちゅ。ずちゅ。
ずちゅ。ずちゅ。ぐちゅ。ずちゅ。
「ああっ! あぁあっ! イイの! 楠くんのお〇ンチンスッゴク気持ちいいのぉ!」
「くっ。もう俺でそうっ!」
「ダメっ! まだダメっ! もう少しで華子イキそうなのっ! それまでイッちゃダメぇ!! 
……あっ! あっ! あぁっ! もうイキそう! お願い楠くん、華子をイカせてぇ!!」
華子の言葉を聞いて、俺は下から華子を突き上げ始めた。攻守逆転。華子は自分で動くのを辞めていた。俺に覆い被さって、俺の動きに自ら翻弄されていく。
ズン! ズン! ズン! ズン! ズン!
パン! パン! パン! パン! パン!
部屋に規則正しい音が響いていく。華子の嬌声がその音に負けじと大きなものになっていった。
「ああっ! ああぁっ! スゴい! スゴいのぉ! お〇ンチン突き上げてくゅう!」
「出るっ! 出すよっ! 華子の中に精液出すよっっ!」
「出してっ! 華子の膣に出して! はにゃ子に、楠くんの子供孕ませてぇっ!」
華子の肉穴を犯していた俺はすぐに限界を迎えた。
『あ、ああぁ、あああああぁぁぁぁぁっっっ〜〜!』
二人の声が重なり、部屋に響き渡る。
どくっ。びゅく、びゅくく。
許婚の子宮に、俺は子種の詰まった白濁液を流し込んだ。その瞬間、恋人が俺を抱きしめる腕の力がギュッと強まる。自分を求められてるのが分かって嬉しくなる瞬間。
俺の射精は、いつものセックスの時のそれより若干長く続き、いつもより大目の精液を相手に送り込んだ。


[般若っ娘の華子の場合・3]


「証明、できたかい?」
「……うん。証明できた、と思う」
さっきまでの痴態が嘘のように、華子の顔は優しさを取り戻していた。口調も普段どおりのものに戻っている。もっとも、興奮はまだ覚めやらずとやらで、寝そべって明後日の方を向いた姿勢から垣間見えた顔は赤いままだし吐息も時々荒くなる。
でも、嵐は無事過ぎ去ってくれたようだ。正直ホッとする。
「楠くんが華子を好きでいてくれるのは分かった」
「嬉しいな」
「でも半分だけね。証明できたのは」
「えー?」
「だってしょうがないじゃない? ――子供が出来たかどうかは、もう少ししないと分からないもの」
「……出来たのかな?」
「出来てると嬉しいな」
意地悪な笑みを華子は浮かべた。覚悟はしてるけど、一生このヒステリー女に縛られるのかと思うと、ちょっと気が重い。――悪くはないけど。
「でもまだ学生なのに子供作っていいもんかな?」
「いいんじゃない? 親も認めてるんだし問題ないでしょ」
「でも妊娠しちゃったら学校どころじゃなくなるだろ?」
「その時は学校辞める」
きっぱり言われてしまった。
「楠くんの奥さんになれて、子供産む事が出来るのなら、学校なんていつでも辞める――問題ないでしょ?」
そういってこっちを向いた華子の顔には、満面の笑みが浮かんでた。
でもさっきまでの笑顔とは微妙に違って――なんだか背筋に寒気が走る。
「出来てたら、よ? 心配するにはまだ早いわ」
「う、うん。そうだね」
つられて笑う。ちょっと笑いが乾いたものになるのは仕方がないことだった。
「それよりも、楠くんはこれからも証明しつづけてよね」
「? 何を?」
「華子以外の女の子を好きにならないこと」
「げー」
「げーって、何? やっぱり楠くん他の女の子に子供産ませるつもりなの?」
「え、い、いや……」
「許さないわよ。そんなことしたら」
顔は笑ってる。けど、目から笑みが消えた。
「許さないからね。楠くんとセックスする相手は、華子一人だからね」
こっちを見据える顔は、目をキッと見開いて、
「華子もセックスする相手は楠くんだけ。産むのは、楠くんの子供だけ……」
まるで耳元まで避けたように思えた口元には、一瞬牙すらも見えたような気がした。
「楠くんが華子の事を好きだってこと、一生証明しつづけてよ……」
そこに居たのは、一人の般若。
女としての怒りと嫉妬を、これ以上ないぐらいストレートに俺に見せつける一人の美しい般若。
でも、その女の顔を見て俺は、
それを自分が独占できる事に、これ以上ない幸福感を感じていた。

<終>