「しまった」
 思わず、口からそんな言葉が漏れた。
 雪深い山陰の村で、俺は絶望という言葉の意味を知った。
 
***
 
 俺は北幌市に住む大学生――設楽健吾。
 就職活動も終わって、来年春から新社会人として働き出すことになった俺は、あることをしてみることにした。
 それは高校時代からバイトして貯めてきた金をつかっての旅行。
 高校、大学と勉強にアルバイトと遊ぶ暇もなく働いてきて、貯金はいつのまにか一〇〇万とかいう結構な額になっていた。
 最初は車を買おうかと考えたのだが、どうせ買うのならいい車を買いたいから、会社勤めしてからでもいいかと思い。旅行してみることにした。
 修学旅行や研修旅行じゃない一人旅。
 自分ではロマンがあっていいなあと思ったのだが、周囲からは「失恋旅行か?」だの「風俗で豪遊するってことか?」とか言われた。
 いやまあ確かに、一人旅なんて寂しいものだが。大学の友人連中が、まだ熱心に就職活動に励んでいるのをみると、とても一緒に行くかとは誘えなかった。
 そういうわけで、一人旅をしていることにした。
 手荷物はバックパックのみ。
 入っているのは、簡単な着替え、デジカメ、時刻表、ノートパソコンとその周辺機器といったところだ。
 下着は一〇〇円ショップで買えるし、人里はなれた場所に行く気はないから重装備もいらない。
 なんでノートパソコンを持っていくんだと、周りから訊かれたが、簡単だ。
 情報を入手するのにネット以上の場所はない、いまならファーストフードショップ等でもコンセントとRANケーブルを貸し出してくれている。それにデジカメで撮った写真を整理したりもしたい。
 ……正直言えば。旅をすると考えて一番嫌な点が、自由にネットができないということだった。
 昔は野球とか他にも趣味があったけれど、今はネットくらいしか趣味がない。
 一日でもパソコンが弄れないとかになったら、発狂してしまうかも知れない。
 一人旅は思っていた以上に順調に進み、気付いたら二週間の旅も折り返し地点についていた。
 各駅停車でついたのは、山陰の小さな村。

 何もない村かなあと思ったが、郷土資料館や図書館へ行ってみると、村の名士っぽい爺さんたちに捕まり、その度一時間以上の昔話を聞かせてもらえた。
 村でも少子化が進んでいるだのといういつもなら退屈を感じそうな話も、一人で自由な時間の中にあるからか、大変興味深く聴けた。
 ただ、それが問題だった。
 ついつい話を聴きすぎて、この村に滞在していい時間を過ぎそうだと気付き。慌てて駅まで走ったが――遅かった。
 この村に電車が来るのは、日に五本。
 その最後の一本を乗り過ごしてしまった。
「しまった」
 思わず、口からそんな言葉が漏れた。
 雪深い山陰の村で、俺は絶望という言葉の意味を知った。
 今から旅館をとるか? いや、でもこんな村に旅館なんてあるのか?
 どんどん暗くなっていく中、駅で頭を抱えていると。
「おやおや、どうしたんだい?」
 一人の老婆に話しかけられた。
 なんでも、老婆はこの駅の掃除をしているらしく。俺の話を訊くと、よくあることさねと笑ってくれた。
「どこか停まる場所はないんでしょうか?」
「んん、村で一番おっきぃ旅館は今みっちゃんとこの若いもんたちが泊まってるしなあ。ねぇんじゃねのかなぁ……」
「……そうですか」
 老婆も俺と一緒に暗い顔で頭を抱えた、かと思いきや。
「あー、あー、ああー」
「ん?」
「さァなちゃんチなら泊まれるかもしんね。ちょっと行ってみっか」
 そういって歩き出してしまった老婆を追いかけた。
 
 
***
 
 
 連れて来られたのは、村の端に建てられた小さな旅館だった。
 五部屋もなさそうな小さな旅館。
 ……っていうか、閉館中とかいう看板下がってるけど。泊まれるんだろうか?
「さなちゃん、さァなちゃんいるかぁ」
 玄関で老婆がそう呼ぶと、奥から一人の女性が現れた。
「はーい? あら、吉田のお婆ちゃんじゃない」
 現れたのは着物姿の女将ではなく、トレーナーにジャージという明らかにくつろいでいた様子の若い女だった。
 俺は少し驚いた。
 てっきりおばさんって感じのがでてくるかと思っていたのだが、その女は化粧もしてなさそうなのに、とても綺麗だった。
 長い艶やかな黒髪を、一房にまとめ縛りあげられ。

肌は黒髪と対照的なまでに、透き通るような白い肌をしている。
 眉は少し下がり気味だったが、すっと長く、美しい弧を描いている。
 瞳は穏かさを表すかのように細められていて。笑みが似合いそうだと思った。
 そしてなにより、唇の形が好みだと思った。上唇に比べ、少しだけ厚い薄桃色のした下唇は、いかにも「好き」そうな感じに見えた。
 俺がじろじろ見ていたのがばれたのかもしれない、その女は俺へ視線を向けると、
「少し待っていてくださいね」
 そう言って微笑み、再び奥へ消えた。
「え?」
「よかったな兄ちゃん、泊めてもらえるってょ」
「あ、え、あ、はい」
 老婆はよかったよかったと言いながら、帰ってしまった。
 俺が立ち尽くしていると。直ぐに女が戻ってきて、俺は再び驚いた。
「お待たせしました」
 女は着物に着替えていて、髪を結い上げ、薄く化粧もほどこしてきたようだ。
 先程より一段増しに美しさが増しているように見えた。
 女は床に正座すると、手を付き。
「当旅館の女将を勤めさせていただいております、若菜早苗でございます。本日は当旅館にお越しいただき、まことにありがとうございます」
 そう言って、床に額がつきそうなほど頭を下げた。
「……こちらこそ」
 俺がぽろっとそういうと、女将がくすっと笑った気がした。
 早苗女将は顔を上げると。
「ただ、当旅館。現在閉業中ですので、働いている者も私一人。なにかとご不便をかけるかと思いますが、どうかご容赦ください」
「あ、はい」
 つまり、この旅館にいるのは俺と女将二人きりということか。
 ……それは好都合。
 そう俺の暗い部分が笑ったような気がした。
 
***

 部屋に案内された俺は、とりあえずパソコンのケーブルを引かせてもらうことにした。
 こんな山奥なのに、ちゃんとRANケーブルがあることに驚いたが。ノートパソコンを弄るのは後にして、旅館内を探索することに決めた。
 
 客室はどうやら三部屋ほどしかないようで。その客間同士も団体客が来た時のためか、ふすまで遮られているだけのようだった。
 俺のほかに客はおらず、本当に従業員も早苗女将しかいないようだった。
 途中、早苗女将が風呂掃除に励むのを見て、少し心が癒された。背中を流してもらうサービスとかあるのだろうか? あったらいいな。
 そんなことを考えながら歩いていると、一階の探索が終わり、ある物を見つけた。
「階段? 二階にも客間あるのか?」
 目立たない場所に作られた階段を昇っていくと、直ぐに部屋に辿りついた。
 どうやら従業員用の寝所、というより早苗女将の私室のようだった。
 八畳ほどの小さな部屋は綺麗に整えられていて、彼女らしいと思えた。
 殆ど物はなく、申し訳程度に本棚とテレビがあるくらい。
 こんな場所で過ごすとなったら、退屈しそうだ。
 そう思いながら首を巡らせていると、ふと箪笥に目が停まった。
 ここは早苗女将の私室だ、つまり彼女の私物がある、つまり……
 
 俺は直ぐに行動に移していた。
 彼女の箪笥を手当たり次第に開け、お目当てのものを見つけた。
 それは――彼女の下着。
「うはっ」
 棚一杯に詰まっているパンツやブラジャーを見て、俺は思わず声をあげていた。
 とりあえず、そこに顔を埋め、思いっきり呼吸した。
 それから物色を始めてみたが、彼女の下着はなんというか面白みがなかった。
 どれも地味で、生活感あふれているとでもいえばいいのか。いやまあ、ブラジャーのサイズから、彼女の乳房を夢想するのはとても楽しかったが。
 しかし、少し期待外れ――そう思っていた時だった。
「ん? これは……?」
 箪笥の一番奥に、茶色い紙袋があった。
 目立たないように仕舞われたそれを掴み、開けてみると。
「おおっ」
 そこには一枚下着がはいっていた。
 それも、まるで男を挑発するためのかのような布地が極端に少ない下着だ。
 後ろは当然のようにTで、前は局部を隠すわずかな部分以外薄いシースルー生地でできていた、これでは陰毛が丸見えだろう。その前と後ろを結ぶのは、心もとない紐だけ。

 俺はそれの股間部分に鼻を押し付け、呼吸しようとしたが。
「……ふぅ」
 階段を昇ってくる足音に気がつき、心臓が凍った。
 隠れなければ、そう思い、慌てて押入れの中に身を潜めた。
 わずかに開いている隙間から、彼女の様子を伺うことにした。
「お風呂洗うのはやっぱり疲れるわね」
 そう言いながら、彼女は着ている着物を脱ぎ始めた。
 重たい衣を脱いだ彼女の裸体は想像以上だった。
 バスト九〇は越えていそうな重たそうな乳房は、多少垂れているようにみえたが、充分ハリがあり、動くたびにたゆんたゆんと音がしそうなほど。
 彼女がブラジャーを外すと、ぶるんと音がしそうなほど勢いよく、乳房はブラジャーの拘束から弾けた。
 彼女の乳首は少し大きめに見えたが、それでも使い込まれて型崩れしていない、綺麗な突起だ。
 俺は自分の股間が勃起するのを感じながらも、視線を動かした。
 彼女は乳房に比べ、腰は細くくびれもあるように見えた。まるで脂肪の全てが乳房に集まっているような、そういっているような体格だったが。
 尻も適度に大きく、子供が沢山埋めそうないい尻をしている。
 パンツを脱ぎ、一糸纏わぬ姿になると、彼女は何故か姿身の前に立ち。しばらく自分の身体を見つめていたかと思うと、ため息を吐いた。
 俺に食べられる前に、汚れている部分はないか確認したのだろうか。
 どうやら、そんな馬鹿な展開ではなく。
 彼女はぽつりと呟きをもらした。
「なんで、こんなに胸大きくなっちゃったのかしら……」
 その言葉の意味を、最初理解できなかったが。
 彼女が改めて着物を着なおして、理由がわかった。
「こんなに胸がでてたら、着物似合わない。折角いい着物なのに……」
 なるほど。
 どうやら彼女は自分の巨乳のせいで、着物の美しい形が崩れるのがいやだと思っているようだ。
 そういえば、よくある女性ファッション紙なんかでは巨乳のモデルよりも、細身のモデルのほうが作り手からも受けてからもうけがいいとか聞いた覚えがある。
 ファッションにおいては、豊かな乳房は敵だとでも言った所か。
 ――しかし、そんなことは俺には関係ない。
 帯の上に乗っているかのように張り出した乳房は、熟れていて、今が食べ時だと俺に教えてくれているようだ。
 彼女は化粧をしなおすと、階段を降りていった。
 
 
***

「お風呂とお食事、どちらを先になさいます?」
 早苗にそう聞かれ、俺は「まずキミから」そう言おうと思ったが、違うことを言った。
「あの、今客も従業員も含め、俺と女将さんしかいないんですよね?」
「ええそうですよ」
 早苗はにこにこと穏かな笑みで答えた。
「なら、一緒に食事にしませんか? その方が楽しいと思いますし」
 早苗は少し驚いたように、目を僅かに開くと、嬉しそうな笑みをみせたが、直ぐに客商売らしい笑みで隠した。
「お客様がそう仰ってくださるのなら、そういたします。では、どうぞお風呂をお先に」
「あ、今すぐはいったほうがいいです? ちょっとやりたいことが」
 パソコンを指差して言うと、早苗は「いえ」と首を横に振った。
「ならタイミング見てはいります」
「はい」
 そう答えると、早苗は厨房に消えた。
 タイミング、そうタイミングだ。
 飯を食べた後でもいいが、いや、飯が出来上がったあとに入ろう。準備が整い、直ぐに食べられるようになってから。
 俺は頭の中に浮かぶ計画に、笑いが止まらなかった。
 
 
***
 
 
 早苗が料理を運び終えるのを見て、俺は言った。
「風呂はいってきたら駄目ですかね?」
「え?」
 早苗は先に食事にすると思っていたのだろう、ぽかんと口を開けてこちらを見たが、直ぐに「はい」と答え。少し残念そうな顔をした。
 暖かいうちに食べて欲しかったのだろう。
 旅館の料理というより、家庭の料理っぽいそれを見て。俺は少し悪いなと思ったが、心を鬼にし、閉ざした。
「風呂ってどこにあるんですか?」
「こちらでございます」
 早苗にわざわざ案内させた。場所は先程の探索で知っていた。
 着くと俺は思いつく限り風呂のことを褒め、そして言った。
「背中流して貰えたら最高だなぁ……」
「え?」
「あっ、いやなんでもないですっ」
 わざとらしくそう言うと、早苗は何か考え込むような顔をして、風呂場を後にした。
 俺は服を脱ぐと、用意してあったタオルを掴み、浴場へ出た。
 小さなおんぼろ旅館だったが、露天風呂だけは一流だと思えた。
 温かいお湯に浸かると、旅の疲れが癒えていくようだ。
 俺は軽く鼻歌を歌いながら、待った。

 予想よりも早く、彼女は現れた。
「お背中を流しに参りました」
「え、マジっすか」
 浴場へ現れた彼女は、腕や裾をまくっていたが、それでも着物を着ている。
 俺は無邪気な笑みを浮かべて、誰でもそうするというように彼女に提案した。
「なんなら女将さんも一緒にはいりましょうよ」
「え?」
 早苗は驚き、苦笑した。
「それは、その……」
 どう断ったらいいんだろうというように笑う早苗を前に、俺は下心がないのをアピールするため、立ち上がった。
「一緒にはいりましょ……う、あわわわわわわ」
 彼女の視線が俺の股間に注がれたのが分かった。
 俺の陰茎はだらんと気が抜けた調子で、それを早苗がちゃんと見たのを確認すると、手で覆ってうずくまるように座り。
 それから、甘えた声で俺は言った。
「……だめですかね? 一人だと寂しいんですよ」
 早苗はまだ少し考える様子を見せたあと、女神のような笑みで了承してくれた。
 ぐんぐんと湯船の中で陰茎は太さを増していっていた。
 
 早苗は手ぬぐいで前を隠して現れたが、その大きな乳房は隠しきれておらず、片方の乳首ははみ出ていた。
 早苗は軽く前を洗ってから、「失礼します」と言ってから湯船に浸かった。
 手ぬぐいで前を隠したままだったけれど、まあ仕方ないか。湯船に手ぬぐいつけるなと怒るのも馬鹿らしいし。
 それから俺は早苗と他愛のない話をした。
 俺が旅行中の大学生であること、電車に乗り遅れてしまったこと、これまでしてきたバイトのことなど。それから産まれてから未だに彼女がいないというと、早苗は「不思議ですねえ」と笑った。童貞だと思われたかもしれないが、それでよかった。
 八歳年上だという早苗相手には、うぶっぽいアピールが有効なはずだから。
 まあ、素人童貞なことには違いなかった。
 その間中、俺は湯船の中で簡単な運動をしていた。
 そうとても簡単な、ちんこを上下にさするだけのピストン運動。
 湯船の中でいかないように堪えながら、硬度を維持するのは、痛みを伴う作業だった。
 俺は
「ふう」
 と、ため息をつくと。
「じゃあ、背中流してもらっていいですか?」
 餌を前にした子犬の風情で訊いた。
「はい」
 会話で気が弛んだ早苗がそう答えると同時に、俺は立ち上がった。
 まずは股間を隠した状態で。

 早苗が俺があがってから立ち上がるのは分かっていた。
 そうしないと、俺に裸体の見せたくない部分を披露してしまうから。
 だから、洗い場のほうに座る早苗は俺を見て、立ち上がるタイミングを計る。
 早苗の視線が俺に来たと分かった瞬間、隠していたものを解放した。
「……あっ」
 早苗が息を飲むのが聞こえた。
「どうしました?」
 俺は早苗の前で立ち止まった、よく見えるように、と。
 湯に浸かっていたためか、黒光りする堅く硬直した陰茎は、興奮状態を示すようにびくんびくんと早苗の鼻先で痙攣する。
 あと一歩近づけば、その欲情の臭いまで早苗に届くだろう。
 更に一歩近づけば、その滾る陰茎は早苗の顔に触れるだろう。
 そんな至近距離にある、狂暴な物体に、早苗の視線は注がれていた。
「え、あの……」
 俺はかゆいから掻くというように、陰茎に触れ、動かした。
「……っ」
 早苗の顔に怯えが浮かぶのが分かった。
「な、なんでもないです」
 早苗は慌てた様子で立ち上がると、俺より先に風呂から上がった。
「どうしたんですか?」
「……」
 早苗は答えなかった。
 ぷりぷりとした尻が動くさまは見ていて心躍った。
 洗い場に俺が座ると、早苗はまだ不安そうな顔をしながらも、俺の背中を洗い始めた。
 あんまり怯えさせるのもまずいか。
「そういえば、ここの村の郷土資料館に行ったんですけど」
 先程までのように、俺は無害だとアピールするため世間話した。
 どれほどの効果があったかは分からないが。少なくとも鏡に自分の裸体が映っていて、それを俺に視姦されているとは思わない程度には、早苗は気が弛んだようだったが。
 時折、肩越しに俺の下腹部を覗き込み、「ごくり」と艶かしい喉の音を鳴らしていた。
「……終りました」
 早苗は疲れたという風に息を吐くと、
「どうでしたでしょうか? 何分、このようなことをするのは初めてで……」
 などと初々しいことを言った
「とても気持ちよかったです」
 俺はにこやかにそう言ってやった。
「ほんとですか」
 と嬉しそうな早苗を悦ばせるために。
「ほんとですよ、だから、前もお願いしまーす」
 無邪気にそう言って、振り返った。
 早苗は洗う間手ぬぐいを外していたせいで、無防備な裸体を俺の前に晒してしまった。
 艶と濡れる陰毛までまる見えだ。
「あ、きゃっ」

 早苗は乙女のようなリアクションで前を隠すため、うずくまってしまった。
「え、あ、ごめんなさい。いやですよね。自分でやります」
「あ、そういうわけでは……」
 早苗が顔を上げると、そこには泡だらけになった陰茎。
 俺はそれを前後に、早苗に見せ付けるように擦った――いや、洗った。
「小さい頃は、母さんに身体洗ってもらってて、だから懐かしくて」
 適当な言い訳を言っている間も、早苗にかかった石化の魔法は解ける様子がなかった。
 早苗は眼前でピストン運動をする陰茎と、その傍で裸になってしまっている自分、今旅館には二人きり――その状況のまずさに気がついたのだろう、顔を真っ赤にして固まったままだ。
 俺は、もうここで早苗を犯そうかと思った。
 うずくまった体勢、床に押し付けてバックから挿入でもいいし。顔を引き寄せて口で洗わせてもいい。何も考えず獣のように早苗の身体を嬲ってもいい。
 色々な考えが過ぎったが、どれも選ばなかった。
 俺は早苗が見ている前で、一人で果てることにした。
 ピストンの速さと手の握りを強くして、一気にスパートへ。
 そして、
「きゃっ」
 早苗の顔に精液をぶちまけるだけで、今は良しとした。
 避けることすらせず、顔をどろどろにした早苗はぽかんと俺を見ていたが。
 俺は何もなかったというように、前をお湯で流し。
「先に上がってますね」
 そういって浴場を後にした。
 
 脱衣場にいても、早苗がすすり泣く声が聞こえた。
 その声をBGMに、俺は仕込みを始めた。
 
 
***

 俺は脱衣場の前で早苗が上がってくるのを待った。
 早苗は二○分ほどもかけて、ようやく平静に戻り、そして事に気がついて、それを受け入れて現れた。
 早苗は着物姿ではなく、俺と同じ浴衣姿で俺の前に姿を現した。
「あ……」
 そうなった理由は簡単だ。
 俺が早苗の着ていたもの、着れそうなものを隠し、来てほしいものだけを置いておいたのだ。
「待ってましたよ。一緒にご飯食べるっていったでしょう?」
「……」
 早苗の手を掴むと、俺はゆっくりと廊下を歩いた。
 早苗は浴衣の前がはだけないように、しっかりと押さえて、無言でつき従ってくれた。
 
 
***
 
 
 俺は早苗と並んで食卓についた。
 早苗は卓を挟んで向かい合おうとしたが、そうするたびに俺が早苗の横に座って、早苗は二回目で諦めてしまった。
 食事の間中、早苗はちらちらと俺のほうへ視線を向けていた。
 それは「何故服を隠したのか?」と訊こうとしているからなのか、俺に惚れてしまったからなのか、それとも俺の浴衣の前がはだけちんこが丸見えだからか。
 おそらくは後者だろうし。
「美味しいですね」
「早苗さん料理が上手だ」
 そう、何かを言うたび、俺が彼女の身体に触れるからだろう。
 首筋に触れ、手に振れ、二の腕をもみ、背中をさすり、内ももに手を置こうとし、そしてぶつかった風を装って早苗の乳房に触れた。
 その弾力に満ちた柔らかさ。
 俺は掴みに行こうかという気を抑え、世間話を続けた。
 食べている間。俺は早苗に酒を勧め続け、しかし自分では一滴も飲まなかった。
 そうして、早苗の目がとろけ、酔ってきたのを確認して。俺は最後の行動に移った。
「早苗さんはお酒がすきなんですか?」
 早苗はちびりちびりと日本酒を舐めながら、うふっと妖艶に笑うと。
「……すこし」
 潤んだ瞳で、物欲しげに俺の陰茎を見ながらそう答えた。
「そうなんですか。なら、こんなお酒って知ってます?」
「はぃ?」
「きのこ酒っていうんですけど、すっごい美味しいらしいですよ」
「きのこ、酒……?」
「はい、俺の地方に伝わる呑み方なんですけど。やってみます?」
 早苗は酔った笑いのまま頷いた。
 俺は日本酒がはいったコップを掴むと、それを畳が濡れるのもかまわず、ちんこにかけて言った。
「これがきのこ酒です、さあどうぞ」

 早苗は「まぁ」と口元に手を当て驚いた様子を見せたが。
「美味しそうですね」
 直ぐに飢えた女が餌をみつけて悦ぶ表情で笑いをこぼし、きのこ酒――もといフェラチオを始めた。精液という名の美酒を搾り出すために。
 早苗が男に飢えているのは分かっていた。
 この村では少子化が進み、男たちが出稼ぎに行ってしまい、若いものがいないらしい。
 そんな環境で結婚していない早苗。
 今年二九歳、来年三十路の雌狗は、じゅるじゅると淫猥な音を立てながら俺の陰茎をしゃぶっている。
 浴衣の胸元がはだけ、豊かな乳房と、それが生み出す深遠な谷間が見えた。
 湯船に浸かっていたからか、酒がはいっているからか、早苗の肌はほんのり上気しピンク色になっていた。
「美味しいですか?」
 俺は絞り上げてくるような早苗のフェラ、その快感を笑顔でごまかして訊いた。
「はっ、んぅ、はい……おいしいですぅ」
 早苗は酒で呂律の回らない口で、フェラしながら答えた。
「お客様の……ちゅるっ……おさけっ……んっ。おちんちん酒美味しいでしゅ……苦味があって、コクがあって……ほんと……おいし」
 早苗は深く深く俺の陰茎を飲み込むと、舌を、いや口全体を絡ませ。じゅぼっじゅぼっと強いバキュームを始めた。
 手を使わず、首を動かすだけで早苗は恐ろしい快感を与えてくる。
「おちんち……おきゃくさまのおちんち、んっ、熱燗みたい……すごい、あったかい……」
 俺は余裕の笑みを浮かべていようとしたが、できなくなった。
 早苗が首を動かすたび、絡みつく舌が蠢くたび、身体全体から力が抜けそうな快感が走り抜けるのだ。
「さ、早苗さんの口……まんこみたいだ……」
 そういうと、早苗は目だけで笑い。亀頭を舌で弄りながら
「ありがとうございます」
 応えた。
 俺はまずいと思った。
 このままではイニシアチブが入れ替わってしまう。
 好きにされるより、俺はこの極上の女を俺の自由にしたかった。
 だから、早苗の前髪を掴むと、ぐいっと引き上げちんこから引き離した。
「あんっ」
 早苗はもう少しという風に顔を近づけようとしたが、俺はそうさせなかった。
「も、もう満足でしょう」
 早苗から少し離れ、前を閉めた。本当の予定だと、早苗に精液を飲ませたあと、挿入するつもりだったが。今挿入したら入った瞬間に暴発してしまいかねない。

 だから少し手を変えることにした。
「もうちょっと、おちんちん……」
 切なそうに求めて手を伸ばしてくる早苗。
 俺は心を鬼にして、それを蹴り払った。
「きゃっ」
 早苗は抵抗もできず畳の上に転がった、その弾みで浴衣の前がはだけた。
 仰向けで横たわる早苗は、乳房があらわになっていると気付くと、それを隠そうとしたが。俺は再び足でそれをさせなかった。
「女将さん、最初からこういうつもりだったんですか」
「……え?」
 俺は早苗を見下しながらいい続けた。
「男日照りしてるからって、客襲うとか、駄目じゃないですか」
 早苗は困惑顔で「そんなつもりじゃ……」と言った。
 それはそうだろう。
 早苗が俺を襲おうとなんかしていない、襲うとしていたのは俺だ、俺が早苗に性的ないやがらせをし続けた。早苗に否はない、そうどこにも。
 しかし、正当な道理など、意味をなさない。
 酩酊した頭ではまともに考えることすらできないだろう、いや、させない。
「男が欲しくて欲しくて堪らなかったんでしょ? だから直ぐに混浴に応じた。ずっと俺の股間ばかり見ていた」
「そ、そんなことは……」
 俺は閉じられていた早苗の脚を掴むと、強引に開いた。
「こんないやらしいパンツなんかはいて。陰毛見えてますよ? いや、見せてるんですか?
 見て欲しいんでしょ」
 早苗は手で顔を覆い、首を横に振った。
「それは、あなたが……」
 早苗の言葉を遮るように、早苗の長くしなやかな脚を持ち上げ、まんぐり返しにすると尻を叩いた。
「前はシースルーで後ろはTバックですか。もうこれ布じゃなくて、紐ですよね」
 早苗のはりのある尻肉を掴むと、アナルをよく見えるように拡げた。
「ほら、お尻の穴見えちゃってますよ。やらしい。こんなの穿いて接客ですか。貴方の接客って客のちんこくわえ込むことなんですか?」
 早苗は首を横に振るばかり。
「もうこれなら穿いてないほうがいいですよ」
 そう言って紐を解いて早苗のパンツを剥ぎ取った。 
 早苗の手が秘部を隠そうと伸びてきたが、俺はそれを阻み、仰向けになったかえるのような体勢を取らせ。
 鼻で笑った。
「濡れてる」
「それは、だって貴方が――ひっ!?」
 俺は早苗の尻を引っぱたいた。
「貴方、じゃなく、お客様、でしょう?」
「ご、ごめんなさい……」

 俺は傍に置いておいたデジカメを掴むと、まず一枚シャッターを切った。
 早苗は驚き、俺の手に握られたそれを見てか細い悲鳴をあげた。
「と、撮らないで」
「いいじゃないですか。こんなに濡れてるんだ、はじめてですよ、こんないやらしく洪水させたスキモノなマンコは。男が欲しくて欲しくて堪らないんですよね」
「ち、違うの」
「違う? 何が違うんですか?」
 早苗はすすり泣きながら、答えた。
「おしっこ……おしっこがしたいから、だから……」
 笑ってしまいそうになった。
 小学生でもしないだろう、レベルの低い言い訳。
「本当ですか?」
「ほ、ほんとうなの。今にも漏れちゃいそうなの。だから、トイレに行かせて」
 なるほど、逃げる口実が欲しいらしい。
 だが、逃げたい、やめて、じゃなく。トイレがしたいというなら、させてあげよう。
 俺は早苗の耳元に口を寄せ、囁いた。
「おしっこするところ見せてくれたら、おちんちん入れてあげますよ? 本当は欲しくて欲しくて堪らないんでしょう?」
 そういうと、早苗は目を見開き。ぐすっと泣くと――頷いた。
 俺は、トイレだとよく見えないからといい。
 ふすまを開けると直ぐそこにある庭に彼女を出した。
 全裸で立たされた彼女は身体を隠すように身をよじりながら、いや、急に寒い場所にだされたから、本当に尿意がでてきたのだろう。
 俺は色々と悩んだ結果、彼女にはイヌになってもらうことにした。いや既に男が欲しくて欲しくてたまらない、いやらしい雌狗なのだから、なってもらうというのは語弊があるか。
 早苗は四つんばいになると、犬がそうするように片足を上げて、黄金色のおしっこを漏らした。
 俺はその様子を一部たりとも漏らさないように、写真で記録してやりながら。その姿で自慰をした。
「……っ……ひっ…………ひどい、こんなの……」
 そういいながらも、早苗は水溜りができるほどのおしっこをした。
 俺は早苗が立ち上がろうとしたところを、前髪を掴まえ、俺の下腹部にもっていき滾る陰茎からそのエネルギーを放出させた。
「――あっ」
「ご褒美だ」
 早苗の顔に髪にかかる熱い愛の証。
 顔が精液にまみれたのを、俺が満足して眺めていると。
 早苗は呟くように言った。
「ありがとうございます」


 部屋に戻してやると、先程まで熱かった早苗の身体は氷のように冷たくなっていた。
 俺はそれを内側から暖めてやることにした。
 早苗を仰向けに寝かせると、脚を開かせ、そのとろとろにとろけた部分に挿入した。
「ぁ――はぁンっ!?」
 早苗は挿入された衝撃であられもない声上げたが、それはこちらも同様だった。
 早苗の口をまんこのようだといったが、早苗の膣はそれ以上だった。
 まるで独立した意思を持っているかのように蠢き絡み付いてくる、微細動し痙攣する動きも波打っているようで、奥へ奥へと吸い込まれていくようだった。
 俺は早苗の腰を掴み、自らの腰を動かした。そうしなければ、早苗の膣は俺の陰茎に絡んだまま、前後に動かすこともできないように思えた。それほどの吸い付きだった。
 たっぷりと愛液という潤滑油が膣に満たされているはずなのに、早苗は俺の陰茎に食いつき、離そうとしない。
 ちょっと動かすだけで早苗は身をよじり、俺は敏感になった陰茎がいくのを堪えなければならなかった。
 じゅぼっ、じゅぱっ。
 動かすだけで激しい水音がする。
 動かしにくいように思えて、その実とても滑らかに動く。早苗の肉壷が俺の動きに合わせて蠢いてるようだった。
「す、なんだこれ……」
 腰が抜けそうだった。
 今にもいってしまいそうな俺とはうらはらに、早苗はまだピークは先というようによがり続けている。
「もっと、もっと突いてください……あぁンっ。お客様の、おちんちんをもっともっとくださいまし……もっとぉ」
 そう喘ぐ様子がたまらなくて、もっと可愛がってやりたかったが、――駄目だった。
「う、あ、もう……くっ」
「おちんちんで突いて、もっと、激しく、貫いて……んぅー? あら?」
 びゅくっ、びゅくっと早苗の膣内で俺の陰茎が痙攣し射精していた。
 俺はひとしきり出すと、避妊していなかったことを後悔したが。まあ、旅先でのことだ。子供ができても、と考えていると。
 早苗が再び腰を動かし始めた。
「射精したのに、まだおっきぃ……うふふ」
 俺の下で腰を動かす早苗に、俺は無理だというように腰を離し逃げようとしたが、そこは壁だった。
 背中をしたたかに打ちつけた俺は、座り込んでしまい。
 その衝撃から立ち直ろうとしたのだが、ソレより早く早苗が動いた。

「かたいです、お客様の」
「え、ちょ」
 まだ勃起したままの陰茎を掴み、その上に座るように腰を下ろしてきた。
 再び早苗のなかへ招かれたかと思うと、ふと気付く、先程までより深くはいってると。
「あたったぁ……うふふ……あたってる、すごい、すごぉい」
 早苗は子供のようにはしゃぎながら、腰を上下に動かす。
 その度に巨大な乳房が俺の頬を叩き、俺の顔が乳房に埋まる。窒息しそうなほど、早苗の乳房は大きく。視界がおっぱいだけになった。
 早苗は押さえつけるように俺を抱きしめ、激しくグラインドする。
 動くたび膣から、射精した精液が溢れた。
 
 
※※※
 
 
 俺は早苗に抱かれながら、何度射精しただろう。途中気を失ったような気すらした、気付いたら俺はひとつの布団で、早苗と並んで寝ていた。
 いつのまにか浴衣を着せられていて、早苗も着ていた。
 さっきまでのことは夢かと思ったが、陰茎がどろどろに濡れていたし。こっそり手を伸ばすと、早苗も同じだった。
 その手が掴まれた。
「ひっ」
 俺が悲鳴をあげると、早苗はうふっと笑った。
「起きたんですか。じゃあ、身体洗いに行きましょうか――様」
 早苗がなんと言ったか聞き取れなかった。
「え?」
 俺は言われるまま早苗に手を引かれ露天風呂に連れて行かれた。
 それからのことは書かなくても分かるだろう。
 気がつくと朝になっていた。
 
 
***

 一眠りし昼になると俺は身支度を整え、宿泊料金を早苗に払い、旅館を出た。
 その際の俺たちは淡々としていた。
 まるで昨日のことなんて嘘だったかのように。
 俺は電車に乗り遅れないように急いで駅へ向かった。
 まだ電車は来ておらず、俺が一人で駅のホームで待っていると。
「お客様っ」
 早苗が現れた。
 着物姿の早苗は、泣き腫らした顔で、俺に駆け寄ってきた。
 俺は驚き立ち上がった。
 そこへ早苗が飛び込んできた。
「どうしたんですか?」
 俺が訊くと、早苗は今にも泣きそうな声でこう言った。
「忘れ物があります。こちらへ来てください」
 
 
 駅のトイレに連れ込まれ、洋式便座に座らされた俺の前で、早苗は着物の前をはだけた。
 露になる大きな乳房。
「忘れ物って……」言いましたよね? 言葉が最後まででてこなかった。
 早苗は涙を零しながら言った。
「私に、わたしっ……お客様のおちんちんがもう少し欲しいんです」
「それが、忘れ物?」
「はい」
 早苗は俺のズボンを脱がせると、現れた俺の陰茎にほお擦りした。
「早苗のこと、もう少しだけ慰めていってください」
 いいながら早苗は大きな乳房で俺の陰茎を挟みあげると、それへ涎をたらして滑りをよくして、動かした。
 豊かな乳房の弾力とハリ、女が霰もない姿で自らに奉仕している状況。
 亀頭の先端を早苗は加え、ちゅるちゅるといとおしそうに愛撫した。
「旦那様のおちんちんがないと、わたし、もう……」
「だんな、さま……?」
 俺はオウム返しに早苗の言葉を繰り返していた。
 早苗は穏かに目を細め、小さく頷いた。
 
 俺は、再び、電車に乗り遅れてしまった。
 
 
***

 三ヶ月後。
 早苗は駅のベンチに座りながら手紙を読んでいた。
 三ヶ月前に外から宿泊に来た男からの手紙だった。
 そこには決まっていた内定を捨て、村の市役所で働くことにしたというような内容が書いてあった。
 早苗はくすっと微笑んだ。
 手紙の文面には書かれていなかったが、男がしたくてしたくて堪らないと思っているのがありありと伝わってくるような文章だった。
 そこへ、
「さぁなちゃんでないかい、こんなとこでどうしたんだい?」
 駅の清掃を行っている老婆が話し掛けた。
 早苗は手紙を帯の中へ仕舞いこみ、微笑んで言った。
「あの人が帰ってくるのよ」
「あらぁ、そンらよかったねぇ」
「ええ」
「うまくいって」
 そう言って老婆が微笑んだ。
 早苗は頷き、ゆっくりと腹を撫でた。
 
 
 山陰にあるこの村では少子化が問題視されていたが、それは少しずつ解決に向かっていってるという。



〜〜おしまい〜〜