───これを読んでいる者へ───

───真実と受け止めるのであれば、是非ネットを通じて世に広めて欲しい───

───あなたが信じるか信じないかは別にして、これは事実である───

学校をさぼり、川原の斜面で昼寝をしていると、傍らに一枚のフロッピーディスクを見つけた。
普段はそんなもの気にも止めないが、その足はネットカフェに向いていた。
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まず、過去の出来事を思い出して欲しい。世紀末を迎え混沌としていた時代。
新世紀は訪れ、ニ〇〇一年には世界は大きく変化した。
その後、国内で起きた二つの事件を覚えているだろうか。

・駿河湾沖で起きた自衛隊機墜落事故。
・人気アイドル失踪事件。

上記一。その報道は悉く小さく扱われ、挙句にうやむやに処理された。
上記二。現在でも未解決事件として扱われている。

この脈絡の無い二つの事件。大きな関係がある。

それでは順を追って説明する。

ニ〇〇×年七月、静岡県駿河湾沖で、自衛隊による夜間演習が実施された。
新聞発表では、演習中の自衛隊機が機器トラブルによる単独事故として、
駿河湾沖に墜落したと報道された。死傷者、被害など最初の報道では、
各メディア情報混乱状態だった。防衛庁による正式発表では生存者五、死者七、
行方不明者ニとされた。この記者会見のあと、報道は急速に下火になった。

私は勤めるホテルで行われていた政府主催の懇談会の給仕をしていた。
そこに飛びこんできた一報で事態は急変した。総理は緊急召集をかけ、官邸に戻った。
一報が大きくアナウンスされてしまったため、懇談会場にいたホテル関係者には、
固い口止めを約束させられ、なぜか私は総理に同行する事になってしまった。
目の前で転倒した総理を私が介抱し、そのままヘリまで付き添ったからだ。
事態が急だったため誰もそれに気が付かなかった。

対策室でデジカメを渡され、私は記録係になってしまった。
程なくして、一行は政府専用機にてどこかに移動した。デジカメを構えた私もそれに倣う。

そこは広く閑散としていた。中央に自動車ほどの“なにか”があった。
楕円形の“それ”は、世に言う“あれ”に似ていた。

別の部屋。ガラス越しにみるその部屋は手術室のような感じだった。

ベッドが二基、そこには“なにか”が横たわっていた。

私は撮影を忘れ、直接“それ”を見ていたことにしばらく気付かなかった。

“それ”はとても人間と似ていた。

駿河湾沖の自衛隊機墜落は、単独事故ではなかった。
“それ”は演習中の自衛隊機と接触し両者とも墜落した。
護衛艦は“それ”を回収し、基地まで運んだ。事は日本政府の超極秘裏に進められた。

80〜90年代、それは“グレイ”と呼ばれていた。
人間の子供程の身長で頭部が大きく、目は黒い皮膜のような物で覆われていてやはり大きい。
その体は銀色で、それが肌なのか衣類なのかわからない。

しかし“これ”はとても人間に近い。背丈はやはり低く肌は黄色人種のようで、
一見そこらの子供のようだ。人間との違いといえば、外見が裸の様で体毛が無い事くらい。

一体は胸部に膨らみが見てとれ、股間に突起物がない。
もう一体は胸部は平坦で、その股間にも突起物がない。
常識で物事を捉えてしまうので、その物差しは拙い。どうしても人間の体の構造と比較してしまう。
つまりこの場合の突起物とは、我々で言う所の男性生殖器を指す。
胸は個体差で、このニ体は雌という事だろうか。

我々はこれをマネキンと呼ぶことにした。

マネキンは生きていた。とても弱っていた。
医療班の懸命な処置の成果か、マネキンは徐々に回復していった。
食料はあらゆる物を提供した。フルーツやゼリー状の流動食を好んで食した。
最初はマネキンの言葉を理解する事に時間を費やした。
それは地球上のある言語に共通する体制をしていた。
コンピュータを用い、地球や人類の歴史を学習させた。
速読する様に知識を取り込む。その顔にモニタの明かりがフラッシュのように反射する。

マネキンと呼ばれる事を蔑みからと理解し、そう呼ばれることに酷く抵抗した。
名前という概念がない為、彼らの言葉で「銀河の民」を意味する“ダサーク”を胸部の平坦な方、
「銀河の月」を意味する“ベタ”を胸部の膨らんでいる方に、そう呼ぶ事になった。

彼らの星が地球よりも進んだ文明だという事を知った。
彼らは化石燃料や、対立による争いという時代は既に終わったと話す。
つまりこれから地球が向うべき理想の未来をしているのだ。
画期的な技術の獲得が期待できるかもしれない。しかし当分発表は出来ないだろう。

彼らの生態調査が始まった。
争いを捨て地球時間で数千年経つという彼らは、とても温厚そうに見える。
感情や欲求がなく、我々が最初にマネキンだと思った事に納得した。
ダサークは地球で言うところの雄だった。ベタは雌という事らしい。
有性ではあるが生殖は体外で行うらしい。以前は有性生殖をしていたが、
生殖時の感染病及び、出産による母子の死の危険を軽減するため、
画期的な母体カプセルという物が発明され、そのリスクはなくなったという。
母体カプセル導入からあまりにも時間が経過しているため、
有性生殖自体がマネキン二人にはピンとこないようだ。
地球人類の抱える課題をいろいろ経験、克服してきたようだ。やはり学ぶ事は多分にありそうだ。

ここに一組の男女がいる。一部の人間にはとても有名な二人だ。
AV女優とその相手をする男優だ。ある程度名の知れた女優と、AVを観ていればまあ知っている男優だ。
人間の生態にも興味があるとし、生殖行動を理解したいと言いだした。
そこで、その手の事務所に連絡をし来てもらったのだ。

マネキンは厄介な事に、我々の思考を読み取る力を持っていた。
こちらが少しでもやましい考えを見せれば、即座に殺されるだろう。
なぜなら事態を知らずに後から入室した側近の一人が、マネキンを見て殺されてしまった。
マネキンはこう言った。────ブジョク ハ ユルサナイ────
どういう事か聞いてみると彼は心の中で「なんと醜い生き物なんだ」と思っていたというのだ。
その力は本物だった。しかし我々人類はそういう考えをすることを理解してもらうほかなかった。
側近は首を押さえ苦しみ悶え死んだ。何らかの力を使って、
問答無用で殺されてしまうとあっては堪らない。果たしてこれを生かしたのは良かったのか。

逆らえない妙な状況になっていることに、ここにいる皆が感じはじめていた。

今この部屋には、総理、側近が五人、研究チームの人間が二人。
それにテレビでも見た事のある、総理の右腕と言われる男。名前は確か、相馬。
あとはジャケットをかけられ隅に安置された男の遺体。もちろん私以外は、政府の人間だ。
そしてマジックミラーの向こうの男女。

二人には撮影と称し、マジックミラー越しにセックスを行ってもらう。
正確には人類による異星人向けの、我々の生殖行動のお披露目だ。
もちろんマネキンが見ているとは知る由も無い。二人には多額の報酬を約束している。

研究チームの一人が、マイクでこちらから指示を出す。

「ではまず服を脱いでください」

無言で服を脱いで行く。それをマネキンは感情の無い眼で見つめている。
褐色の肌に鍛え上げられた肉体の男優。それと相反するような、真っ白い肌の豊満な女優。

「下着も脱いでください」

裸の男女が棒立ちになっている。
男優の下腹部の毛は整えられていて、男性器がしな垂れている。
女優の乳房も重みにしな垂れる。しかしその形は美しかった。少なめの陰毛。
何の因果で私のようなものがこの状況下にいるのか、改めて不思議に思う。

───ナント ミニクイ イキモノ ナンダ───

ダサークが、自ら殺した男と同じ台詞を吐いた。
我々がそう思ったように、彼らからすれば私達は異常なのだ。

「その場で回ってください」

言われるままに二人は、ゆっくりとその裸体を我々に披露した。

「では男性の方。性器を勃起させて下さい」

男優はこのやりとりが可笑しいらしく、クスッと笑った。

「笑わないで下さい」
「ちょっと待ってよ。なんなのこれ?」
「こちらの指示に従って下さい。報酬は伝えた通りお渡しします。
 手を使って結構です。勃起させて下さい」
「なんだよ」

男優は少しイライラしつつも自ら陰茎を掴み、ふやけたモノを強制的にしごきだした。
陰茎はみるみる長く太くなる。やがて芯を持ち勃起した。つまり生殖可能状態になった。

───アレ モット ミル───

「ではヘッドフォンをし、こちらに空いている穴にペニスを挿し込んでください」

丁度腰の辺りに空いた穴に股間を押し付けた。陰茎はもちろん陰嚢もこちら側にあらわれた。
男優はこれみよがしにペニスを動かす。自分の一物と男優という仕事の一端を、
その猛々しいペニスの動きとして私達にアピールした。側近の女性二人が目を逸らす。

───モウ イッピキ モ コチラヘ───

ベタが言う。

「女性の方。胸をここへ」

女優も可笑しいらしく笑顔を見せるが堪えつつ、同じようにヘッドフォンをし、
胸部の高さの位置に空いた二つの穴に若干背伸びをしながら乳房をあてがった。
ナマッ白いその乳房の迫力と淫靡さ。私の股間も反応してしまう。

ダサークがおもむろにペニスを握った。

───ネツ ヲ モッテイル ミャクドウ ガ ハゲシイ───

一応“オス”同士。マジックミラーの向こうの男優は何を思うか。

───コノ ナカ ニ タネ ガ チクセキ サレテ イルノダナ───

陰嚢は綺麗に除毛されていて、本当においなりさんのよう。
我々より幾分長い指で睾丸を摘んでいる。

───ツイ ニ ナッテイル モウ イッピキ モ ミタイ───

女優の方を見ると、ベタが自分の胸部の膨らみと女優の乳房の揉み比べをしていた。

女優をベッドに寝るよう指示し、下半身をこちら側に差し出した。
膝を立て、陰部を披露した。誰からとも言わず相馬が率先して行動する。
相馬は女優の性器を押し広げた。私もこんなにまじまじと女性器を見る事は少ない。
しかもカメラを回しているため、なぜだか経験した事の無い興奮を覚える。
かすかに香る女の匂いに私は勃起してしまった。

───ココ ニ アレ ヲ サシコム ノ ダナ───

「その通り。そして精子を雌の体内に射出するんだ」

女性器から離れた相馬は、タオルで手を拭きながら答えた。

───デハ セイショク コウドウ ヲ───

「ではセックスをして下さい」

男優の性器は刺激から遠のいてしまったので、若干下を向いていた。

───アレ ハ ナンダ───

キスを見て疑問に思ったようだ。睦合う二人。
愛情表現だと説明した。今一理解していないが、今は後回し。
撮影と銘打ってあるので、胸を揉んだり吸ったりと一通りの前戯を続ける。
やがて互いの性器を愛撫し、ペニスを口に含み、女優は性器を舐められ声を上げる。

「もういいです。挿入して下さい」

大袈裟に喘いでいた分、急に白けムードになり、それがこちらにも伝わる。
私はカメラをこちらの部屋に向けた。側近女性二人は終始よそを見ていた。

コンドームはしない旨、あらかじめ男優に伝えておいた。

男優が女優の股に擦り寄る。室内固定カメラが陰部にズームする。
こちらのモニタにその場面を大写しにする。両者の体液でいやらしくヌメる秘部。
ペニスが膣に挿入されていく。正常位、後背位、騎乗位と体位を変える。
マジックミラーの向こうの腰を振る男と、モニタに映る激しく往復運動をする結合部分。

───ヒドク ヤバン ナ コウイ ダ───

射精する段で、男優はペニスを抜き女優の腹の上に射精した。
勢いは凄く、胸はおろか顔にまで到達する。

「なぜ膣内に射精しなかった」

相馬がマイクを横取り、感情的に問うた。

「悪い。癖で外に出しちゃった。あれ、声が違うな。アンタ誰だ」

その問には答えず。

───アレ ハ ナニ ヲ シテイル───

「精子の詰まった精液を、体外に射精してしまったのだ」

───タネ ヲ タイガイ ニモ ダスノカ───

「ああ。快感を求めるだけにする射精もある」

この行為が快感も伴う事を教えた。

───デハ モウイチド───

射精の瞬間と、精液を直で見たいらしい。

「瑞希君。君がしてさし上げなさい」

総理を差し置いてこの場を取り仕切る相馬は、瑞希と呼ばれる側近女性に命令した。
二人いる女性の若いほうと言えば分かりやすい。

「そんなこと出来ません」

髪を後ろで一つに束ね、眼鏡にスーツ。手には書類を抱えている。
端正な顔立ちで、年は二十八、九に見える。
彼女は言われた事が一瞬わからないようだったが、すぐに理解し拒否した。

「恋人にするようにすればいいんだよ。ねえ総理」

平時ならセクハラと捉えられかねない発言に、腕を組んだ総理は何も言わず頷くだけだった。
相馬は瑞希の耳元で囁いた。

「あの男の様にされてしまうよ。それに彼らは我々人類の行為を見たいんだ。
 男がするのはおかしいだろ。それに不細工な五十嵐のババアなんて見たくもない。
 すなわち君しかいないんだよ。彼も本望だろう。君のような女性にしてもらえて。
 軽くシコシコっとすればいいんだよ。とにかく殺されるよりましだろう」

相馬が“ナニ”かを握るような手を、上下する仕草が見えた。瑞希は了解したようだ。

しかしその相手は男優ではない。このおかしな状況を察したのか、
マジックミラーに詰め寄り、こちらを威嚇しはじめた。
ドスの利いた声を発し、マジックミラーを叩く。しかしなんとも滑稽で、
叩くたびに萎えた陰茎が左右に揺れる。
一連の行為は、恐らくマネキンにはとても野蛮な動物的行為に映っただろう。
それでも、もう一度お願いする。しかし男優は応じない。
鋭い目付き。すなわちガンを飛ばす。その視線の先にはダサークがいた。
男優は首を押さえながら悶え、倒れた。口から泡を吹いている。陰茎から尿が迸る。
女優は半狂乱し、気を失ってしまったので退場させた。
これが後に起きたAV男優変死事件ならびにAV女優自殺事件。あなたも知っているのではないか?

生殖行為要員はいなくなった。そこで白羽の矢は側近の瑞希と志垣という男に立った。
相馬の指示だった。志垣は小太りで眼鏡、髪を七三にした三十半ばの男だ。
見るからに女に縁のなさそうな風貌だ。
ズボンを脱ぐ。パンツも躊躇しながら脱いだ。パンツに乗っていた腹がだらしなく垂れた。
病的な白い肌に体毛は濃く陰部が汚らしく映る。その奥に皮を被った陰茎が垂れていた。
男優と比べるからかもしれないが小さく見える。椅子に座った志垣はシャツの裾を、
臍の上までたくしあげ両手で押さえる。

「瑞希さん、すいません…」
「…い、いえ」

志垣を意識しないようそっけなく答えた。
瑞希は割り切った様に上着を脱ぎ、ブラウスの袖を捲り、恐る恐るペニスを握る。
ペニスに触れた瞬間、志垣がビクッっとした。それに反応して瑞希もペニスを離す。
相馬が咳払いをする。改めて握る。瑞希の顔が真っ赤だ。しごく度に包皮が捲れ亀頭が現れる。
徐々に大きくなっていく。包皮が剥け、あまり使ってなさそうな亀頭が飛びだした。
完全に勃起したペニスを細くしなやかな指で淡々としごく。マネキンが凝視する。

「瑞希君。志垣君は君のことが好きなんだよ」
「えっ…」

一瞬瑞希の手が止まる。相馬が続ける様促す。

「なあ志垣君」
「そんな事…や、やめてください…」
「とぼけなくてもいいだろう」
「じょっ状況を考えてください。人が死んでるんですっ、よっ…」

声を上擦らせながら志垣が反論する。

「そうかい。なんならダサークに聞いてみようか」

───ウソ ミタイ ダ ナア───

「えっ?」

───ダイスキ ナ ミズキサン ニ オチンチン サワッテ モラエルナンテ───

瑞希は顔を赤くして俯く。陰茎から手を離す。また相馬に促されペニスをしごく。

───イツカ セックス シタイヨ ミズキ ミズキ───

「やめろーやめろー」

志垣が吼えた。しかしそのペニスは猛っている。

「相馬さんアンタ何を言わせるんだ」
「おや、私は何も言ってませんよ。ダサークが勝手に言ってるんじゃないか。
 しかし君も隅に置けないね。人が死ぬような状況で考える事ではないのかね」
「…」
「どうせならもう一度性行為を披露してみるのもいいのでは。なあ瑞希君」

この相馬という男。何を考えているのか解らない。

女性としていろいろ侮辱される事を強要される瑞希は、二の腕を振るわせながら一際強くしごく。
志垣も顔を真っ赤にしている。妙な息使いに変わった事は、それを意味していた。
志垣の不快な吐息を聞きながら、その熱り立つ陰茎の先から白い液体が噴射させた。
精液は綺麗な孤を描き、前方にいたダサークの体にピチャピチャと音をたて付着した。
精液は体をつたい、股間から垂れ落ちる。ダサークはそれを指で掬うと、なんと口に含んだ。

うなだれる志垣。指に精液を絡ませた瑞希。精液まみれのマネキン。

───イツカ セックス シタイヨ ミズキ ミズキ───
───イツカ セックス シタイヨ ミズキ ミズキ───
───イツカ セックス シタイヨ ミズキ ミズキ───
───イツカ セックス シタイヨ ミズキ ミズキ───

「何を言っているんだ」

相馬がやや慌てて聞いた。瑞希は怯えている。

───セックス キモチ イイノカ───

「あ、ああ。しかしキミはできないだろう。それに快感を理解できるのか」

───ワタシ ノ ココニモ ソレ ガ アル───

ダサークは股間を弄りだした。衣類のような皮膚が、股の両側にはだけられ、
その下に割れ目が現れた。一見女性のような股を押し広げると、
亀頭のような突起が顔を出している。それはすでに勃起しているようだ。
いや勃起時の大きさのまま体内に収納されている感じだ。

───ワタシ ノ カラダ ヘン───

亀頭が前後に動き出した。出たり戻ったりを繰り返し、
やがて亀が頭を出すように、それが完全に体外に現れた。
形態はまさに勃起した男性器のそれと同じだった。
やはり興奮で勃起するのではなく、もともとその大きさのまま収納されているらしい。

───ミズキ ノ アナ───

瑞希はその意味を理解し、今度は完全に拒否した。逃げる様にドアへ向う。

───ミズキ ナニ ヲ オビエル───

ドアノブに手を掛けた瞬間、瑞希が首を掻き毟り倒れた。
部屋はパニック状態になった。私は即座に物陰に隠れた。もうカメラは回していられない。

───オマエ メス カ───

側近に問い掛ける。銃を構えたのを見て、もう一人の側近も銃口を向けた。

───サッキ カンジル───

瞬間、側近二人は首を押さえ倒れた。床を転がる暴発した銃から放たれる銃弾が、
科学チームの一人に当たり倒れる。

───オマエ メス カ───

今度は首相に同じ質問をした。震える総理は無言で五十嵐を指差す。
恐怖におののく五十嵐はその場から動けずへたり込んだ。
ダサークが頭から足に掛けて撫ぜるような仕草をすると、五十嵐の衣類が溶ける様に消えた。
年相応の裸体が現れた。男性器のようなものを五十嵐の股に滑り込ませる。
ダサークは見様見真似で生殖行為をする。端から見ると子供に犯されているようだ。
往復運動を繰り返す。だんだん動作が激しくなり
痛いくらいに股を打つ。気付かなかったが白い液体が大量に股からあふれている。
ダサークは射精をしたんではなかろうか。それでも執拗に腰を突く。
五十嵐がぎゃあっ、と悲鳴を上げる。白い液体に赤が混じりやがて断末魔に気絶した。

───オワッタノカ───

「あ…、ああ。こ、これが精液だ」

相馬も恐怖しているのだろう。

───ナンダカ ミョウ ナ カンジ ダガ コレ ガ キモチイイ ナノカ───

どうやら快感を享受したようだ。

───イニシエ ノ ヒトビト ガ コレ ヲ ホウキ シタ コト ガ ワカラナイ───

───モット メス モット メス───

相馬は芸能事務所に連絡をした。

数ヶ月が経過した。一時錯乱状態だったが、五十嵐は出産した。高齢出産だったが耐えた。
どう見ても人間である。生殖器が飛び出しているので男児だった。
精密検査をし、遺伝子的にも人間だった。

成長しても笑顔を見せないという事以外は。その症状は後にファレル症候群として認知される。
聞きなれない言葉だが、運ばれて来る患者が何故か決まって皆、
「晴留」「覇礼流」など「はれる」という名前だったことに由来。
「はれる」という言葉自体が名前にどうなのか、という疑問もある。
一時期、芸能人の子供の名として、流行したのを覚えているだろうか。恐らくその影響だろう。
記者会見で誰かが新しい命という意味だと嬉しそうに言っていた。
奇しくも意味にそぐわない病名になってしまった。不思議な事に初期に診た患者の母親は、
皆芸能人だった。

母体カプセルを使用する前(それでも体外受精)は、地球ででいうチンパンジーに似た生き物に、
受精卵を植付け、その猿が普通に交尾をし受精すると、それをきっかけに植付けた受精卵が、
活動を開始するという高度な方法を用いていたらしい。猿の受精卵は栄養となって、
マネキンの成長を助ける。その原理はわからない。

では五十嵐は。恐らくダサークの種と受精した。
そこに志垣が…。あの混乱の中で瑞希の遺体を見て発狂した志垣が、
性器を晒している五十嵐を犯した。なんと後に結婚する。
何度も性交を重ねたのだろう。やがて妊娠する。猿の受精卵と同等のエネルギーを
要しているのかわからないが、人間の精液が糧になり、ダサークとの受精卵が発動したのだろうか。
それはわからない。ただ、名前は…、いわずもがな。

ところであの後相馬は…。
呼び出したアイドルをダサークにあてがいセックスを強要した。
筆頭はそこそこ名の知れたアイドル、カリン星人こと“清水ミカ”だった。
五十嵐にした様に乱暴ではなく、そのテクニックも人並みになった。
しかしそこに至るまでには、やはり清水ミカを酷使してしまった。
これが先に述べたアイドル失踪事件。
そこでダサークにあてがう際は、とにかく下半身だけを提供してもらえれば良いので、
そのような施設を新設した。人選は決まって芸能事務所から。相馬は一体何物なんだ。
見帰りは金銭、仕事等を約束した。三流事務所には断る理由は無かった。

一度ピルの副作用でダサークが暴発したのをきっかけに、その手の薬は一切使わない。

今はもうマネキンはいない。感情の無いはずのベタが“嫉妬”でダサークを殺した。
一番身近なベタの心を読めなかったダサーク。ベタは自ら命を絶った。
一番不遇だったのはベタかもしれない。我々はベタを丁重に葬った。
ダサークは木端微塵になってしまったので処分した。

結局騒動は一年足らずで収束したことになる。
その間に総理が変わった事などあるが、それはまた別の機会に。

アイドル失踪事件、犯されたアイドル達の詳細については、FILE2を参照

私が何者で、どうしてそこまで知っているのかについては、さらに読み進めてほしい。

モニタをテレビに切り替えた。画面右上の時計を見る。トーク番組がやっている。
もう三時間…、そろそろ帰るか。

「今日のゲストはハレル中嶋君でーす」

司会が紹介する。今人気のハーフタレントだ。笑顔が眩しい。

後ろを向き、ハンガーから上着を取り羽織る。

ティローン ティローン

────相馬総理辞任────

テロップには気付かず。忘れ物が無いか確認し、一応PCを再起動しておく。
グラスを返却口に戻し、会計を済ませ店を後にした。エレベータの中で笑う。
アホくさいと解っていつつ、巨大掲示板にFILE1の全文を投下する自分がいた。
しまったフロッピーディスクを忘れた。

エレベータが開くと、俺は街の雑踏の中に溶けていった。

西暦三×××年

古い地層から一つの箱を発見した。どうやら棺のようだ。
現代よりも優れた文明だったのだろうか、保存状態が良く、
中の遺体はほぼ埋葬時と変わらない様に思われる。しかしそれは人間ではなかった。
棺を調べると旧地球語で───銀河の月:ベタここに眠る───と刻印されていた。

大発見をした○○大考古学チームはこれを解剖にまわした。
腹部を開くと筒状の何かがあった。中には丸められた紙。それを取り出す。
しかし覚えの無い文字だ。スーパー翻訳機にかける。

こうある。

───ファレルよ。駆逐せよ───

裏にも何か書いてある。


お、これは私にも読めるぞ。


なになに







「ヨ…ンデ…ク…レテ…ド…ウモ…ア…リ…ガト…ウ」