「それじゃ、あなた。行ってきます」
「ああ、行ってらっしゃい」
 そういうやりとりをして、朝早くに私は家を出た。
 知らない人が聞いたら、近所のスーパーにまで買い物に行く主婦とそれを見送る亭主の会話だと思うだろう。だが、私はこれから夫ではない見ず知らずの男に種付けされに出かけるのだ。
 私が家を空けるため、3歳になる息子は有給休暇を取った夫に面倒を見てもらう。平日である以上はそうするしかない。法律で問答無用に妻を寝取られる夫の心境を思うと暗い気持ちになってくる。しかし、国民の義務である以上仕方がない。25歳から34歳までで自分が産んだ(もしくは産ませた)子供が二人以上いない人が妊娠員の選出対象になるのだから、あと一人子供がいれば、私も夫も妊娠員に選出する可能性はなかったのだが。
 今日は、あらかじめ出産管理省に提出していた生理周期では完全に危険日だ。生理が滅多にずれない私は、予定通りに危険日を迎えた。孕み頃とでも言うべきなのだろうか。
 重い足取りでマンションを出る。道であわや子供が乗った自転車にぶつかりそうになった。
「あぶなっ! 孕ませるぞ、このメス豚!」
 驚いて立ちすくんでいる私にその男の子が悪態をつきながら走り去っていった。
 妊娠党が政権を取って以来、子供に対する性教育は一変した。ことあるごとにあのような卑猥な言動をする子供が増えた。一体この国はこれからどうなっていくのだろう。
 あれこれ考えながら午後2時5分前に出産管理省のホテルに着いた。中に入る前に上を見上げた。私はこれから明日の朝まで、このホテルのどこかの部屋で、知らない男とセックスし続けた挙げ句に妊娠することになる。そう思うと胸が張り裂けそうになる。
 首を振り振り中に入り、受付で身分証明書と妊娠員任命書類を提出した。私が行く部屋は608号室だった。エレベーターで上がって部屋の前に行く。こういう時ノックをするものなのだろうか。迷いつつも軽くノックをしたら、すぐにドアが開いた。
 男がいた。
 あまりの唐突さに少し身構えたが、男に手首を捕まれて部屋に引っ張り込まれてしまった。男はドアを閉めるとすぐに私の唇を奪ってきた。身をよじって逃げようとしたが、私より一回り以上大きな体でがっちりと抱きすくめられてしまって駄目だった。男はそのまま私の唇をむさぼり続けた。舌で口腔内を蹂躙された。私の舌に絡め、歯をなぞり、歯茎に押しつけ、唇の肉を舐めてきた。5分は続いただろうか。あまりの激しさに息苦しさを感じ始めた頃、ようやく解放された。
「ぷはぁ、何するんですか!」
 私が詰問すると、男はニタニタ笑いながら言った。
「何って、キスですよ。セックスには付きものでしょう」
「私はセックスしに来たのじゃありません」
「何しに来たの?」
「・・・妊娠しに来たんです」
「じゃあやっぱりセックスするんでしょ。もしかして処女?」
「まさか! 結婚してるのに・・・あっ!」
 迂闊だった。自分から既婚者だとばらしてしまった。男女ともに出来るだけ個人情報は相手に教えないようにという注意をさっき受付で聞いたばかりなのに。
 男はさらに目尻を下げていやらしい笑みを浮かべた。
「ほう、既婚者か。自分から宣言するとは」
「・・・・・・」
「いやあ、こんな綺麗な奥さんに種付けできるなんて、ラッキーだな」
「奥さんなんて言わないで」
「まあまあ、奥さん。さっさとヤリましょうよ」
 そういいながら男は強引に私を部屋の奥に連れ込んだ。
「・・・!」
 そこには、当然のことながらベッドがあった。分かっていたことながら、いざ実物を目にすると気が遠くなった。ここでこの男に孕まされるのだ。

「キャッ」
 乱暴にベッドの上に押し倒された。
「さあ、奥さん。可愛い赤ちゃんを作りましょうね」
「ちょっと、シャワーくらい浴びさせてよ」
「なるほど、綺麗な体で妊娠したいんだね」
「そういうわけじゃ・・・」
「せっかく俺に抱かれるためにおめかししてくれたんだから、まずはこのまましないとね」
「別にあなたに・・・」
 いや、男の言う通りだ。まるで若い娘がデートするような格好をして来てしまった。メイクもばっちりだし、普段は付けない香水も付けてきた。相手が見知らぬ男なのに、いや、見知らぬ男だからこそみっともない女に見られたくないという気持ちがあった。女としての魅力が徐々に失われていくのを実感する年齢だからこそ、抵抗しようとしていた。私を女ではなく一児の母としてしか見ない夫への当て付けではなかったのだが、夫は違和感を覚えたかも知れない。
「んんっ!」
 ブラウスの上から胸を撫でられ、思わず声が漏れる。夫に抱かれたのは何ヶ月前だっただろう。久しぶりの感触に、我慢の堤防は早々に決壊してしまった。同時にフレアスカートの裾もまくられ、太股を撫でられる。
「奥さん、綺麗だね。いくつ?」
「・・・31よ」
「ホント? 全然見えないね。25,6かと思ったよ」
「まさか、そんなに若くないわ」
 まるでホストクラブのような会話だ。あるいは、人妻の援助交際か。どっちにしろ浮気であることには変わりない。今の私だって、法律で強制されて浮気をしているのだ。
「奥さん、こっち向いて」
「んん・・・」
 再び唇を奪われた。奪われたと言うよりは、こちらから差し出したと言うべきかも知れない。ここに至っては私はこの男に抱かれるしかない。どうしようもないのだから。
 何度もキスを交わしながら、男は器用に自分の服を脱いだ。中肉中背の夫と大して変わらない体型に、なおさら背徳感を感じてしまう。男の重みと温もりを全身で受け止めると私の体も熱っぽくなってきたように思える。これが自然なことなのだろうか。
 再び男の手が私の体に伸びてきた。片手で乳房を揉み、もう一方の手でショーツ越しに性器を触ってくる。
「あっ、ああ・・・」
 愛撫に合わせて声を上げてしまう。すでに濡れている。男にも分かるはずだ。ショーツをまさぐる動きが激しくなった。先日、夫に黙ってこの日のために買った下着だ。ブラもショーツも普段私が身につける下着の半分くらいの面積しかない。気が付いたらショーツを脱がされていた。ブラウスはボタンを半分くらい外されただけ。着衣の状態で愛撫を受け続けることに若干戸惑った。
「いや・・・ちゃんと脱がして」
「せっかくこんな綺麗な服を着て来てくれたんだから、最初はこのままでしたいんだ」
「そんな・・・」
 行為の前にシャワーも浴びず、服も脱がないなんて初めてのことだった。この男は変態的な性欲の持ち主なのかと思うと、かえってさらに興奮してしまった。男の手で股を割られ、両足を大きく広げられた。男が自分の一物を掴んで私のヴァギナにあてがった。
「ごめんね。俺もう我慢できないから、挿れさせてもらうよ」
 ヌチュッ
 淫らな湿った音とともに、男の肉棒が私の体内に侵入してきた。

「はああっ!」
 すでに絶頂に至ったかのようなあえぎ声が出る。両手も大きく左右に広げてシーツを掴んで快感をこらえる。もはや、家族も年齢も立場も関係なく、ここにいるのは一組のつがいだった。お互いに性欲を満たしながら子孫を作るために性行為を行うのだ。
「はあっ、はあっ、はあっ。奥さんの中、気持ちいいよ」
 男が腰を振りながら耳元でささやく。同時に胸を愛撫し、耳朶を甘噛みしてくる。うなじをさすり、手と手を絡めてくる。口づけを交わし、お互いの舌をしゃぶりあう。
「んっ、んっ、んっ、わ、わたしもっ、気持ち、イイッ」
 シーツを離し、男の背中に両手を回し、強く引き付けると、男の律動が激しくなった。
「積極的だね、奥さん」
「奥さんって言わないで」
「じゃあ名前で呼んで良い? なんて名前」
「み、美咲よ」
 下腹部から全身に発せられる快感に理性が打ち負かされ、さらなる個人情報を暴露してしまう。しかしもはや後悔も焦りもしない。自分の膣内を蹂躙している男にもっと自分を求めて欲しかった。自分の心の中にある、夫への気持ちの部分を上書きして欲しかった。
「美咲。どう? 俺のは。 気持ちいい?」
「あっ、あっ、あっ、ええ、気持ち、いいわ」
「しかしいいのか? 美咲は旦那のいないところでこんないやらしいことして」
「だってっ、法律でっ、決まってっ、るんだからっ」
「もう一人子供を作っておけば、妊娠員に選ばれなかったのに」
「でもっ、あの人がっ、構ってっ、くれなかったからっ」
「そうなんだ。旦那さんのせいなんだね」
「そうよっ、あの人が悪いのっ」
「じゃあ仕方ないね。美咲、俺と赤ちゃん作ろうな」
「ええ、あなたとっ、赤ちゃんっ、作るっ」
 子作り宣言をすると、男の動きがさらに早くなった。私も男の首をかき抱いて男に合わせて腰を動かした。
「美咲っ、俺の精子で孕め!」
 ドピュッドピュッドピュッドピュッ・・・
「あああっ、あああっ、あああっ、あああっ!」
 膣奥にまで入った剛直が熱い迸りを子宮口に向けて発射する度に叫び、絶頂に達した。

 今、私はシャワールームにいる。もちろん何も身につけていないが、そばにはついさっき私を抱いた男がいる。
「いやあ、やっぱり美咲は綺麗だね。美人だし、スタイルも良いし」
 全裸になった私をジロジロ見続けている。先ほどから何度も私の体を褒めそやす。機嫌を取ろうとしているのだろうが、言われて悪い気はしない。むしろ繰り返されるうちに自分の体がこの男を魅了してることに満足感を覚え始めてきた。
 シャワーを浴び、ボディソープでお互いの体を手で洗う。お風呂でイチャイチャすることなんて一体何年ぶりだろうか、前に夫とお風呂に入ったのは新婚当初だけだったなどといったことが頭に浮かび、夫のことを思い出して再び罪悪感がわき出してきた。私がよほど暗い顔をしていたのだろう、男がそれに気付いて言った。
「美咲、後悔してるのか」
「えっ、いや、別に・・・」
「何も美咲が気に病むことは無いんだよ。法律で決まってることだし」
「そうだけど・・・」
「それに旦那さんだって、本当はこうなることを望んでいたのかも知れないし」
「ええっ? どういうこと?」
「だってさ、さっさと二人目の子供を作っておけば良かったのに、旦那が美咲を孕ませようとしなかったってことは、美咲が妊娠員に選ばれても構わなかったってことだろ」
 私には青天の霹靂だった。
「そんなこと・・・あの人は私のことを愛してるわ」
「愛してるかも知れないけどさ、他の男に種付けされる可能性があるのに抱かないってのはおかしくない?」
 そういえばそうかも知れない。一人目を産んでからは誘っても気乗りうすだったし。
「旦那さんは美咲が他の男と子作りすることを望んでたんだよ。だから今日、俺に種付けされたからといって美咲が旦那を裏切ったわけじゃないんだ」
「・・・でも・・・」
 本当に夫は私が自分以外の男に妊娠させられることを望んでいたのだろうか。
「ひょっとしたら、旦那さん自身が妊娠員になりたかったんじゃないの? 次は一度自分が孕ませた美咲じゃなくて誰か他の女を孕ませたかったのかも」
「・・・!」
 思えば、私宛てにピンク色の妊娠員任命の手紙が来た時、夫が目の色を変えて封を開け中身を確認していた。あれは自分宛じゃないかと思って慌てていたのだろう。
「ね? だから今は旦那のことは忘れて、俺とセックスすることだけを考えようよ」
 会話の間中、男は私の体を泡の付いた手で触り続けていた。夫というしがらみが心の中から外れた以上、私の肉体は男の愛撫を素直に快感に変換していた。
 泡をシャワーで洗い流し、両手を浴室の壁に伸ばした。男が私の腰を掴み、背後からペニスをゆっくりと膣内に入れてきた。不安定な場所での行為だからか、男の動きはゆっくりだった。
「ああ・・・美咲の中は気持ちいいなあ、んんっ」
「ああ・・・私も・・・んっ」
 私は首をねじって男とキスをした。唾液を交換し、飲み下す。体の全てが夫のものではなく、この男のものになっていくような感じがした。
 男は手を伸ばして私の腹部を優しくさすった。
「ここに俺の子供が宿るんだね」
「そうよ。そこが大きく膨らんで、あなたの子供を育てるのよ」
 数時間前に初めて出逢った男女とは思えないほど猥褻な会話を交わしつつ、お互いに快楽にふける。動きが遅いからなおさら男のモノの形が膣を通して分かる。夫のモノよりも大きいようだ。奥まで突き入れられると、下がってきた子宮口にかすかに触れた。

「あっ、美咲。今、先っぽに当たったのって、もしかして・・・」
「ええ、子宮口よ。あなたの子種を吸い取るために下りてきたの」
「ここから、俺の精子が入って美咲の卵子を犯すんだね」
「いやあ、そんな言い方。エッチね」
 男はゆっくりと私を貫き続ける。息が詰まるような刺激ではないが、一突き毎に私の頭の中に快楽の層を重ねていくようだった。
「はぁっ、はぁっ、また、中に出すよ」
「ええ、中にちょうだい。あなたの精子、ちょうだい」
「妊娠しろっ、美咲!」
「あああああっ!」
 男の熱い精液を感じ、大きくのけぞって私はイッた。

 そのまま髪も体もロクに拭かずに、二人ともベッドに倒れ込んだ。
 それからは坂道を転げ落ちるかのようにセックスにふけった。若い頃でもこんなに性に溺れたことなど無かったはずだ。セックスをしては寝て、起きたらセックスをし、部屋に備え付けられてるドリンクやインスタント食品などを摂るのも、挿入しながらだった。ベッドの上で、絨毯の上で、廊下に立って、トイレの中で、シャワールームの中で、玄関口で、至る所で私たちは性行為を行った。お互いに性器が痛くなっているのは分かっていたが、止められなかった。法律で強制されているからという動機付けなど、とうの昔に消えて無くなっていた。

 ジリリリリリリリリリ!
 唐突に館内放送で目覚まし時計のベルのような音が鳴り響いた。思わず私は男と顔を見合わせた。
 夢の終わり。
 最初に私の頭に浮かんだのは、その言葉だった。
「ああ、もう10時か。これで終わりだね」
 ついさっき、12回目の種付けを終えたばかりで、私は男の腕に抱かれてまどろんでいた。
「あ・・・そうね。終わりね」
 急に現実に引き戻された気がした。私には帰る家がある。私を待っている夫がいる。
私が育てる子供がいる。男の腕から抜け出して、身支度を始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。頼むよ、あと一回だけ」
 名残惜しいのか、男がさっさと服を来て化粧を始めた私の後ろに立って懇願してきたが、私はそのまま無視した。
「なあ、頼むよ。あと一回」
 男が私の胸を揉み、尻を撫でる。しかしベルを聞いて体の火照りが急に覚めた私には不快なだけだった。
「早くあなたも支度した方が良いんじゃない? ベルの後1時間以内にここを出ないといけないんだから」
 素っ気ない態度で突き放す。男は首を振り振り、支度を始めた。
 30分とかからず、私も男も部屋を出る用意が出来た。
「さっきはごめんなさいね。急に気持ちが冷めちゃったから」
さすがにさっきの態度は冷たすぎたかな、仮にも一晩愛し合った仲だし、と思い謝った。
「いや、こっちこそごめん。みさ・・・いや、奥さんは悪くないよ」
 お互いに謝り、頭を少し下げた時、私の目には男の下腹部が膨らんでるのが目に入った。
「いやねえ。まだ勃ってる」
「ああ、綺麗にメイクした奥さんを見てたら、またこんなになっちゃって。もう一回だけしてくれない?」

 男は手を合わせて頼んできた。
「駄目よ、服がメチャクチャになっちゃうから」
 言ってから、服が大丈夫ならOKなのか、と自問自答して顔が赤くなった。
「じゃ、脱がなくても良いから、フェラでいいからさ」
 そう言いながらすでに男はジッパーを下げ、ビンビンになった肉棒を取り出していた。
「ちょっと、口でなんて、化粧が落ちちゃう」
「頼むよ、すぐ済むから」
 男に肩を押し下げられ、ひざまずいてしまった。ああだこうだ言いながらも、ほぼ丸一日、私をよがり狂わせたペニスをいざ目の前にしてしまうと、言葉が無くなった。
 手でさすり、唇をそっと這わせた。すでに完全に固くなっていたので、すぐにすっぽり咥えた。口の中の空気を抜き、頬肉の内側を密着させる。舌で亀頭を撫で回し、先走り汁を嚥下する。一晩の間に何度となく行った行為だったが、お互いに身支度を済ませた後にドアの前でしていると思うと、さらに顔が赤くなった。
「ああ、奥さんのフェラチオ、気持ちいいなあ。真っ赤な唇を割って俺のチンポが奥さんの口を犯してると思うと興奮するよ」
 そんなこと言わないで、と言おうとしたが、男に両手で頭を抑えられているので、口淫に専念するしかなかった。しばらく続けると、男も我慢が効かなくなっていたのか、すぐに私の喉奥に射精した。
 事が終わり、文句の一つでも言ってやろうかと立ち上がった瞬間に、再びベルが鳴った。
「あっ、もう五分前か! やばい、早く出ないと」
 慌てた男に促されて部屋を出て、受付を通ってホテルを出た。
「じゃあ、これで。気持ちよかったよ、奥さん。元気な赤ちゃん産んでね」
 あっという間に男は去っていった。女として少し寂しさを感じたが、妊娠員としての職務が終わった後もつきまとわれるのではないかという危惧を持っていたので、男の後ろ姿を見て安心したのも事実だった。

 それから私は交通機関を乗り継いで自宅に戻った。すでにお昼を過ぎていたが、空腹感はなかった。疲労感でいっぱいだった。
「ただいま」
 帰宅を告げると奥からものすごい勢いで夫が出てきた。何も言わずに私を押し倒し、私を犯し始めた。
「ちょっと、あなた、どうしたの!」
「美咲、お前は俺のモノだ! 俺の女だ!」
 夫と付き合い始めてから今まで、こんな強引に私の体を求めてきたことはなかった。
「美咲、美咲、ミサキ、みさき・・・」
 私の名を呼びながら、玄関先でひたすら私を犯してきた。正直戸惑ったが、先日近所の奥さんに聞いた話を思い出した。
 その人によると、夫婦のどちらかが妊娠員に選ばれると、1割ほどの夫婦は離婚に至るそうだ。しかし9割の夫婦は別れることがないという。特にそのうちの多くはかえって夫婦の絆が強まるという。配偶者を他人に一晩奪われることで、独占欲がより強くなるそうだ。その奥さんもかつて妊娠員に選ばれ、夫と喧嘩別れのような形でホテルに行ったが、帰宅したら夫が激しく求めてきて以前より仲良くなったらしい。
 どうやら我が家も心配はないみたいだ。次に生まれる子供が、あの男のものか夫のものか分からないが、その次の三人目もさして間を空けずに産むことになるだろう。
 選出されたときは政府や運命を呪ったが、意外と妊娠員制度というのは社会にとって良い制度かも知れない。