津田香織は今、娘の由香が通う学校へ向かっている。昨日、担任の教師から由香の進路について話したい事があると言われ、午後六時に待ち合わせをしたのである。一体、何の話だろうかと不安を覚えながら、香織は由香が生まれた経緯を思い出してみる。それは今から十五年前、香織がまだ十五歳の時であった。当時、担任教師で幸田という若い男がいたのだが、ある日、この男が香織を強姦したのである。
その頃、香織は進路の事で悩んでおり、幸田のもとを何度も訪れていた。大体は学校で相談に乗ってもらっていたのだが、ある日、幸田は香織に自分のアパートに来るよう言った。それも休みを利用し、学校の無い土曜日を選んだのである。香織は何の疑念も持たず、幸田のアパートへ行き、そこで犯された。幸田は初めから香織を嬲るつもりでいたらしく、部屋へ入るなり服を剥ぎ取られ、圧し掛かられてしまう。香織はその時の事を、今もありありと思い出す。下着を奪われ、強引に陰茎をねじ込まれるおぞましさは、例えようのないほどの苦痛で、膣内に放たれた粘液は香織を半狂乱にさせた。幸田はその日、夕方まで香織を離さず、何度も犯した。
しかも運悪く香織は妊娠し、その後、由香を生む羽目となった。無論、騒ぎは大きくなり、強姦犯の幸田は弾劾されて、教育界から去ったと言われている。しかし、十五歳で父無し子を産み、今日まで育てるという事は大変であった。もっとも愛する異性の子ではないにしても、由香は香織にとってかけがえのない娘であり、今では産んで良かったと思っている。そんな愛娘ゆえ、担任教師に呼び出された事に一抹の不安を感じるのであった。学校へ着くと由香が校門の前で待っていて、
「お母さん、こっちこっち」
と言って手を振った。由香はかつての自分そっくりで、暗い影がひとつもない活発な少女に育っていた。
「あなた、何かやらかしたの?先生に呼ばれるなんて、お母さん初めてだわ」
「進路の事だって言ってたよ」
由香はにこにこと笑いながら、香織を校内に案内した。すでに終業時間で学内に人影は無く、かなり薄暗い。由香は校舎に入ると生徒指導室という所へ香織をいざなった。
「ここだよ」
「緊張するわね。先生ってどんな人?」
「んー、普通のおじさん。山田先生っていうの」
「山田先生ね」
香織はひとつ咳払いをしてから、部屋の扉をノックする。
「どうぞ」
低い声が返ってきたのを確かめてから、香織はそっと扉を開けた。
「失礼します」
会釈しながら入ると、室内には背の高い中年男性が立っていて、香織に椅子を勧めた。
山田は物静かで知的な感じのする、いかにも教師然とした男性だった。
「山田と申します」
「津田でございます。今日は由香の進路について、何かお話があるそうですね」
「ええ。由香君、こっちへ」
山田は香織の後ろに立っていた由香を手招くと、表情も変えずにこう言った。
「由香君は中学を卒業後、私の妻になります。ひとつよしなに」
香織は目を丸くし、口を開けたまま絶句した。ややあって悪い冗談だと思い直し、「あの、冗談はおよしになって・・・」
と言いかけた時、山田は由香の制服のスカートを捲り、
「嘘ではありません。彼女のお腹には私の子供がいます」
そう言いながら、少し膨らんだ由香の腹を指差したのである。
「そういうことなの、お母さん」
由香は腹を愛しげにさすりながら、伏し目がちに香織を見た。悪い冗談だと思っていたが、キャミソールの下は確かに膨らんでおり、それが孕んでいる為だという事も分かった。山田が由香と性的関係にあり、子を宿したという事実は香織を憤慨させた。
「ふざけないでください」
香織は怒りのあまり山田をきっと睨みつけたが、にやりと歪めた口元にどこか見覚えがあった。あの、由香を孕んだ時、自分を犯し抜いた卑劣な男の顔──幸田の顔がまざまざと浮かんできたのである。
「ま、まさか」
「やっと気がついたか、香織」
山田が立ち上がると、香織は犯された時の記憶をつい先ほどの事のように思い出した。
「幸田先生」
「ご名答。今は母方の旧姓に戻って山田だがね」
「お母さん、山田先生の事、知ってたんだね。教えてくれればよかったのに、もう」
由香は甘えるように山田へしなだれかかり、腕を絡ませた。年齢は親子ほど違えども、その様は恋人同士となんら変わらぬほど親しげである。
「な、なんて事を」
香織の体からは力が抜け、思わず床へへたり込んでしまった。有り得ない、何かの間違いだと自分に言い聞かせたが、衝撃の事実は覆りように無かった。
「苗字と、それに香織、お前の面影があるんで、すぐに分かったよ、ふふふ」
「あ、あなたという人は・・・自分のした事が分かっているんですか」
詰め寄る香織を山田は難なくかわし、
「だからどうしたというんだね」
と、事も無げに言うのである。由香は知らないのかもしれないが、山田は自分の娘と知り、犯して妊娠させたのである。その行為がどれほど背徳的で、人道に反するのか。まして教師の身でありながら、生徒を犯すという信じられない悪行を、いともたやすくやってのけたのだ。香織は山田のあまりにも人間味の無さに戦慄した。
「何ヶ月なんですか」
「三ヶ月って所か。ちょうど、女にしてやったのもその頃だ」
山田は由香を抱き寄せ、唇を奪った。
「お前と同様、進路について俺の所へ相談に来たんだ。そしてあの時と同じようにアパートへ呼び、女にしてやった。お前と違って何度も俺の所へ来たんだ。やはり、分かったのかなあ、俺がこいつの──」
「やめて」
山田が父親だ、と言いそうになった瞬間、香織は叫んだ。愛娘、由香に身ごもった子が、実の父親の種である事を知られたくは無かったのである。
「どうして止める?感動の再会なのに」
「鬼畜」
香織は大粒の涙をこぼしながら山田を罵った。しかし、この男がその程度で傷つく事も反省する事も無いのは、香織自身が一番良く知っている。それでも、言わずにはいられなかった。
「お母さん、興奮しないで。そりゃあ、先生は旦那さんにするにはちょっとおじさんだけど、いい人なの。愛しているのよ」
「由香!」
気がつけば香織は由香の頬を平手打ちで叩いていた。これまで娘に手を上げた事は無かったが、感情が高ぶって怒りを止められなかったのである。
「はっ」
手に残る痺れるような痛みが娘にも与えられたと気がつき、香織は我に返った。由香は信じられないという風に母親を見つめ、同じように涙を目にいっぱいためている。
「由香、ちょっと席を外しなさい。お母さんは突然の事で興奮しているんだ。私の方から説得してみるから」
「・・・はい」
由香は放心状態のまま部屋を出ていった。そして残された香織は、
「どういうつもりなんですか」
そう言って山田を睨みつけた。
「どうもせん。由香を嫁にしてやるさ」
「う、産ませる気ですか」
「当然だ。お前だって産んだのだろう」
「ひ、ひどい」
山田はわが子を孕ませ、更に子供を産ませる事が楽しくて仕方がないとでも言うように、口元を歪ませた。
「お前、今、幾つになった。由香が十五だから、三十か」
「だからどうだというんです」
「当分は楽しめるって事だな」
山田はそう言って香織の衣服に手をかけ、一気に引き裂いた。
「いやッ!」
薄手のブラウスが裂け、肌があらわになるとあの時の忌まわしい記憶が脳裏を駆け巡る。
それと同じ事が今、行われようとしている。しかも、その時に宿した子供まで孕まされ、娶ると言うのである。香織はほとんど絶望的な気持ちになった。
山田の手がスカートの中へ及び、ショーツを引き下ろした。そして香織はソファへ突き倒され、ついには山田に押さえ込まれていく。
「い、いやッ!人を呼びます」
「そうしろ、そうしろ。ついでに由香に見てもらうか。母親が夫になる男に犯されている所を。
その時には俺があいつの父親だってばらしてやる」
「ひ、卑怯者」
「何とでも言え。俺はまだお前に未練があるんだ」
山田はズボンを脱ぎ、中年男とは思えないほど張り詰めた陰茎を取り出し、香織の股の間に割って入った。
「嫌です!やめて・・・うーッ」
「ふ、ふ、ふ、思い出すなあ、あの日の事を。お前はビイビイと泣き叫んだっけ」
陰茎は槍のように香織の胎内を進み、根元まですっかり収まった。十五年前に犯されてから男性不信になり、異性を遠ざけていた香織だったが、ここで再び悪夢が起きた。
「ガキに握られてるみたいだ。由香と同じような持ち物だぞ」
「あ、ああ・・・」
山田は目の縁から涙をこぼす香織の顔を手で挟み、無理矢理口づけを強請った。そして、しつこく何度も何度も唇を重ね、かつての教え子を犯したという達成感に酔う。
「お前共々、由香も可愛がってやるぞ、うッ!」
と言う山田の言葉を、香織は膣内で発射される子種の生暖かさに怯えながら聞いていた。
おすまい