とある日曜の昼下がり――。
大学生の由貴は自室で寝ていたところを、妹の由佳に叩き起こされた。
なんでも大事な話があるらしい。
どこか不機嫌そうな表情の由佳は、なかなか話を切り出そうとせずに、
何かを考え込むような様子を見せている。
ベッドに座った由貴は、自分の正面で椅子に座っている妹をぼんやりと見つめていた。
由佳は有名進学校に通う高校一年生。兄の贔屓目というわけではないが、かなりの美少女だった。
背中の半ばまで伸びた艶やかなストレートの黒髪、髪とは対照的な白い肌、整った目鼻立ち、
身長は155センチほど。
一見すると物静かなお嬢様風だが、実際には明るく社交的な性格で、男女問わず友人も多い。
容姿とは別に内面的にも人を引き付ける魅力があり、リーダーシップを発揮するタイプだった。
頭も良く、成績も優秀。運動神経も抜群と、まさに非の打ちどころのない少女である。
(それにひきかえ兄である僕は……)
容姿も成績も運動神経もぱっとせず、なんとか受かった三流大学にすら今では……。
そんな由貴のとりとめのない思考を遮るように、由佳が話を始めた。
「あのね、お兄ちゃん……最近学校行ってる?」
冷ややかで固い声音で尋ねられ、由貴は内心で冷や汗を流した。
(ヤ、ヤバイ――)
普段は兄妹仲が良いのだが、しっかり者の妹は時として、ダメ兄の情けなさに我慢できなくなるらしい。
(由佳がこの声音で話し始めたら要注意だ……そもそも「大事な話」の時点で気付くべきだった)
が、時既に遅し――。
「い、いや……最近あんまり行ってない……かな? ははは……」
引きつったような苦笑と共にそう答える。
数ヶ月前から段々と出席が減り、ここ一ヶ月はほとんど授業に出ていない。
サボって何をしているのかと言えば何もしておらず、部屋にこもってごろごろしている。
俗に言う「ヒキコモリ」というやつの一歩手前である。

それを聞いた由佳は「はぁ〜」と深くため息を吐いた。
「ほんっとにも〜お兄ちゃんは……ちょっと目を離すとすぐこれなんだから。
も〜ちょっとしっかりしてよね。まったく。だいたいお母さんとお父さんも甘いとゆ〜か
放任主義とゆ〜か……」
くどくどと愚痴とも説教ともつかない話を始めた由佳に、由貴はひたすら恐縮していた。
やがて話しは佳境に入り、
「何か……悩みでもあるの? 私じゃ力になれないかな? 相談に乗るよ、お兄ちゃん」
と、上のセリフを心配そうに言われれば、兄冥利に尽きると言うものだが、実際には有無を言わせぬ
口調で言われたのでほとんど命令形である。
「悩み……かぁ」
直接的な原因になるような出来事があったわけではない。しいて言えば性格的なものである。
のんびりやでぼんやりしている由貴は、ただなんとなく家でゴロゴロしていたいだけなのだ。
もちろんそれが誉められたことではないのはわかっているし、不安や焦燥も感じている。
周りの皆は大人になっていくのに自分は取り残されているみたいだし、自分に自信も持てない。
自分を変えたいとも思うがきっかけもない。優秀な妹にコンプレックスもあるのかもなぁ。
というようなことを由貴は妹につらつらと語った。
「なるほどね」
兄の話を聞き、由佳はふむふむとうなずく。
「つまり、大人になれて、自分に自信が持てて、シスコンも解消できるきっかけが欲しい。と?」
「まぁ、そうなるかな」
そう答えたものの、そう都合よく全部解決できるわけないよなぁ、と由貴は思った。
の、だが、
「よし! ここは一つこの健気な妹が、お兄ちゃんのために一肌脱ぎましょう!」
妹がやたらはりきっている。どうやら解決法があるらしい。
一抹の不安も感じながらも、由貴は妹の指示に従うことにした。

「じゃ、まずは目を閉じて」
言われた通り目を閉じる。
次の瞬間感じたのは、正面から近づく妹の気配と、甘い匂い、温かな吐息、
そして唇への柔らかな感触――。
(えっと、これって……)
状況の把握に時間が掛かる。
(キス……だよな。僕と、由佳が……)
やがてゆっくりと由佳が由貴から離れる。
由貴が目を開けると照れたように微笑む由佳の笑顔があった。
「えへへ。どーだった? 初めてでしょ、キス」
兄に今だかつて恋人がいたことがないことを、妹である由佳はよく知っていた。
しかし、由貴のリアクションはショックのあまり普通だった。
「いや、どーって言われてもなぁ」
「あ、あれ? もしかしてキスしたことあるの? お兄ちゃんが!? 嘘!!」
平然としている(ように見える)兄に、由佳がわりと失礼な驚愕の声をを上げる。
「いや、初めてだったけどさ。ノーカンだろ? 外国とかじゃ普通の挨拶らしいし」
平然と答える由貴。でもお兄ちゃんはすげーショックを受けてます。
兄の態度が不満な由佳は、「むぅ」と一声呻くと「これでどーだ」と言わんばかりに
再び兄に抱き着き、押し倒し、キスして、舌を入れ――。
さすがにこれには由貴も正気に返り(?)、じたばた暴れて引き離そうとするものの、
由佳の巧みなディープキスに徐々に体の力が抜けていき、やがて大人しくなる。
部屋の中に響くのはもはや「くちゅくちゅ」という粘着質な水音と、由貴の荒い息遣い、
それと由佳の甘えるような「んっ、んっ」というくぐもった声だけだった。
由佳の舌は兄の口腔を探るかのように、歯、歯茎、下顎、上顎をまんべんなくなぞり上げ、
舌同士を絡め、吸い上げる。
兄は兄で、口腔を蹂躪されているかの如き妹の舌使いと、初めて味わう粘膜同士の接触による
あまりの心地よさに脱力しきっていた。

兄の反応に気を良くした由佳は、さらに自分の唾液を兄の口腔へと流し込み、由貴は妹から
流し込まれた唾液を抵抗せず、無意識に飲み干していた。
それに満足した由佳はようやく長いディープキスを終え、唇を一旦離し、さらに啄ばむようなキスを
2度3度と繰り返して由貴の唇を味わった。
そしてどこか勝ち誇ったかのように兄に尋ねた。
「どう? 今のキスはカウントされるよね? お兄ちゃんのファーストキスの相手は私だって
認める気になった?」
それに対し、由貴は茫然としながら「……あぁ……」と返事とも呻きともつかない声を漏らす。
微妙に目の焦点が合ってなかったりもする。
しかしそれも束の間、はっと正気に返るとベットに仰向けに倒れた自分に、半ば跨るような格好で
抱き着いている妹を、なんとか引き剥がそうとしながら声を上げた。
「ちょっ、おまっ……一体どういうつもりだ!?」
すると途端に由佳の表情が、怒られた子供の様な、不安と悲しみに満ちたものに変わった。
「あ、あれ? ……もしかしてお兄ちゃん、私とキスするの嫌だった? ご、ごめんね……」
今にも泣き出しそうな涙声の妹に、由貴は慌てて弁明する。
「い、いや、じゃなくて、嫌じゃなかったぞ。うん。全然嫌じゃなかった」
それを聞いた由佳は、ほっとしたような安堵の表情を見せると「えへへ」と可愛らしく微笑んだ。
つられて由貴も微笑みを浮かべたが、すぐに笑っている場合でないことを思い出し、
再度妹に説明を求めた。
「そ、そうじゃなくて、嫌とか嫌じゃない以前になんで由佳が僕にキスするんだよ!?
全然わけわかんないよ!」
「だってぇ、男の人が大人としての自信をつけるっていったら……ねぇ?」
由佳は「わかってるでしょ?」とばかりに答えを濁すが、由貴にはまだ何の事かわからない。
「なんだよ、一体……?」
由佳は悪戯っぽく微笑むと、兄の耳元に甘い声で囁いた。
「セックス――お兄ちゃん、まだしたことないでしょ? キスも初めてだったもんね」