水曜日の午前十時。私立じゃがべえ学園寮の管理人室のドアを、何者かが叩いた。寮を
管理する芋田屁八は、
「開いてますよ。お入りください」
そう言って、学園から送られてきた、新しい寮母の履歴書を手に取った。

「失礼します」
ドアが開き、一人の女性が管理人室内に入ってくると、屁八は目を丸くした。
(えらく若いな。履歴書じゃ、三十四歳とあるが)
笠島美紀子、三十四歳、既婚。夫は会社員で、八歳と七歳の子供がいる──と、履歴書に
は書いてある。しかし、目の前に現れたのは、二十歳そこらかせいぜい二十代半ばくらいに
しか見えない、美しい女性だった。

「笠島美紀子と申します。よろしくお願いします」
「私は芋田です。どうぞ、おかけください」
椅子を勧めた屁八は、美紀子がしとやかに座る姿を見て、彼女に品の良さを感じた。言葉遣
いも綺麗で、特に不審な点は無い。屁八は美紀子に、かなりの好印象を抱いた。

「単刀直入に聞きます。笠島さんは何故、この仕事をご志望されたのですか?」
「応募要項に料理が得意な人、とありましたから。実は私、栄養士の資格を持っております」
「それはありがたい。なにせ、ここには育ち盛りの子供たちしかいませんから」
じゃがべえ学園寮には、一年生から三年生までの男子ばかりが、十人ほど住んでいる。彼ら
の健康の為にも、栄養士の資格は本当にありがたいと言えよう。

(さて、どうするか。決定の裁量はわしに任されているが)
履歴には何の問題も無いが、屁八はある事が気になっていた。それは、美紀子は若く
て美しい、という事である。前任の寮母は屁八と同年代の、五十過ぎの女性だった。ま
さに寮生にとっては、母かそれ以上の年齢である。

だが、美紀子は若くて美しい。年齢は三十四歳でも、そこがネックになる。思春期真っ
只中の少年たちにとって、美紀子の存在が心を乱す存在にはならないか。屁八は、そ
れを危ぶむのだ。
「笠島さん、お子さんがおられるようですが、時間の方は応募要項に添って頂けるの
でしょうか?」
「はい。子供はもう、手がかかりませんし、募集広告にあった、午前九時から午後五時
までの勤務時間は守れると思います」
「ふうむ」
断る理由が見つからない。屁八はもう一度、美紀子の顔を見た。

(やっぱり美しい、な)
そろそろ老いにさしかかった屁八でさえ、そんな事を考えてしまう。しかし、美紀子の立
ち居振舞いを見る限り、それは杞憂ではないかとも思えてくる。屁八は迷った挙句、
「では、いつからお願いできますか」
そう言って、履歴書に採用の判を押したのであった。

美紀子は早速、その日からじゃがべえ学園寮で働く事になった。まずは初日という事で、
昼食にカレーを作ってもらう。
「昼放課になると、寮生たちがご飯を食べに帰ってくるんです。人数は十人ですが、皆、お
かわりをするので、多めに作っておいてください」
屁八が食材をキッチンに並べ、食器や調理器具の説明をすると、美紀子は腕まくりなんぞ
をして、
「十人前ですか。腕が鳴ります」
と、何の躊躇も無く、料理に取り掛かるのである。なるほど、流石に自信があるというだけ
あって、材料は手早く切り分けられてしまった。

(さすがに手際が良い)
ずん胴と呼ばれる大きな鍋に、カレーの材料が放り込まれた。美紀子はきちんと手順に添
って、火の通りにくい物から順番に煮る。ルーは香ばしさを出すためにフライパンで炒った
後、様々な隠し味と共に、鍋へ入れられた。そうして昼前には、まことに美味そうなカレーが
出来上がったのである。その手際の良さに、屁八は唸った。

「芋田さん、どうぞ味見をなさって」
「どれどれ・・・うん、美味しい」
小皿によそわれたカレーを試食すると、味もぴたりと決まっている。屁八の頭の中に、寮生
たちの喜ぶ顔が浮かんだ。そのうちに午前の終業を知らせる鐘が鳴り、寮に生徒たちが戻
って来た。

「ああ、腹減った。カレーのいい匂いがするぞ」
「寮母さん居ないから、管理人さんが作ってくれたのかな?」
威勢の良い少年たちが数人、ドヤドヤとまとまって食堂に来た。皆、十五、六の育ち盛り
で、見るからに食欲旺盛な感じである。

「おかえりなさい。ご飯、出来てるわよ」
食堂と繋がったキッチンから美紀子が現れた。その瞬間、少年たちは魂を抜かれたよう
に呆け面となる。この人、誰だろう。全員の顔に、そう書いてある。
「こちらは笠島美紀子さん。今日から、皆のお世話をしてくれる、寮母さんだよ」
芋田が紹介すると、美紀子はやや控えめに頭を下げ、
「よろしくね、みんな」
と、微笑んだ。誰からも愛されるような、美しい笑顔だった。

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします・・・おい、みんな、ぼやっとせずに、ちゃんと挨拶し
ろよ」
最上級生と思われる少年が、顔を耳まで赤くしながら頭を下げた。すると、他の少年も同
じ様に顔を赤らめ、
「よろしくお願いします!」
と、エビのように腰を丸め、美紀子に向かって頭を下げるのであった。

その日の管理人日誌には、寮生の楽しげな笑い声が響いた事を、屁八は綴った。
「皆の元気な声を聞けて嬉しい。笠島さんを選んだのは、間違いでは無かったようだ」
屁八はペンを走らす手も軽やかに、こう締めくくった。

結局、美紀子は昼食と夕食をこしらえていき、そのどちらも寮生たちから喝采を浴びる味
に仕上がっていた。当然、寮内は沸き返り、少年たちの楽しげな声が響いた。親元を離れ、
一人ここで暮らす彼らにとって、美紀子の存在は明るく輝くに違いない。そう思うと、屁八
の頬も緩む。
「良い縁に恵まれたようだ。子供たちも、わしも」
美紀子は明日もやって来る。屁八は晩酌を早く切り上げ、布団へもぐり込んだ。


翌朝、美紀子は元気良くじゃがべえ学園寮に現れた。
「おはようございます」
薄手のセーターにコートを軽く引っ掛け、ボトムは洗いざらしのジーンズ。いかにも動き
やすさを重視した美紀子の装いに、屁八は感心した。
「おはようございます。早速ですが、洗濯を頼めますかな。わしは、寮内の清掃に回りま
すので」
「分かりました」
作業を分担し、一旦、二人は別れた。美紀子は寮生の各部屋を回り、脱衣かごに入れ
てある衣服をまとめると、てきぱきと洗濯を始めた。その手際も昨日の食事の支度と同じ
ように、素晴らしいとしか言い様がない。

「ずいぶん、家事に長けているようだ」
十人分の賄を物ともせず、美紀子は寮母としての役割を果たした。最初は照れと固さが
あった寮生たちも次第に打ち解け、誰もが美紀子の事を寮母さん、と慕った。

事実、子育ての経験がある美紀子は、少年たちの母に等しい優しさを備えている。これば
かりはさすがに自分も及ばないな、と屁八は、何だか嬉しいような寂しいような気持ちにな
るのであった。

それから一月後のある土曜日。寮生の一人が足を捻挫したという知らせが屁八の元へ
届いた。なんでもサッカーの練習中にラフプレーに巻き込まれ、怪我をしたというのだ。
ところが、週末は屁八も妻と子供がいる自宅へ帰る事になっていて、怪我をした寮生の面
倒をみられそうにない。しかし管理人という職務上、万が一という事もあるので、屁八は帰
宅すべきかどうか迷った。

「なんともないよ。心配しないで、管理人さん」
「しかし、な」
怪我をした寮生は屁八を気遣って、そう言うのだが、やはり放ってはおけない。屁八は帰宅
を取りやめ、寮生の看病をしてやるつもりになった。と、その時──
「あの・・・もし、よろしければ、私が看ていましょうか?」
帰宅時間が近づいていた美紀子が、そう言って屁八と寮生の間に割って入って来たので
ある。

「あなたが?」
「ええ。私、家も近くですし、家の事をやりながら、何回かこの子を見てやる事くらい、出
来そうなものですから。差し出がましいようですが、芋田さんもご自宅の事があるでしょ
うし」
美紀子がそう言うと、屁八は何だか安心した。これまでの間、寮母の仕事をきちんとこな
した彼女である。怪我をした寮生を任せたとて、何の心配もあるまい。それに、美紀子の
言うように、家庭の事情もある。気がつけば屁八は、背を押されるように寮を出ていた。

「もし何かあったら、すぐに電話をください。真夜中でも構いませんから」
「ええ。必ず」
寮に残る美紀子に見送られ、屁八は帰途についた。時計を見ると午後六時前。すでに
夜の帳は降りかけていた。

その晩、屁八は妻と共に夕食を取った後、テレビを見ながらひっそりと酒を飲んでいた。
しかし、番組の内容はまるで頭に入らず、酒の味もどこかすっぽ抜けている感じである。
(気になるな)
何杯めかの酒を干した時、屁八の脳裏に何かを危ぶむ予感が過ぎった。
(十五、六の寮生が十人もいる所に、女が一人。しかも、若くて美しいときている)
泊まる訳では無い。だが、怪我をした寮生の様子を見るために、一晩に何度か寮を訪れる
はずだ。その時、寮内で不埒な輩が現れぬと言い切れるだろうか。皆、真面目な良い子
ばかりだが、気の迷いという事も有り得る。屁八の脳内に、淫らな悪戯を仕掛けられる
美紀子の姿が浮かんだ。

(そう言えば今日、彼女は風呂掃除のために、ショートパンツを穿いていたな。細身の割に
尻がむっちりしていて、色っぽかったな・・・)
寮生が何人も入れる大風呂を、美紀子が洗う姿が屁八の脳に焼き付いていた。デッキブラ
シで床を擦ると、そのリズムにあわせて乳房と尻肉が揺れる。特に肉付きの良い尻にはショ
ートパンツ越しにパンティラインが浮かび上がり、色香が漂っていた。

屁八はそれらを盗み見し、しかと記憶の襞に刻み込んでいる。もし、あれを少年たちが見た
ら・・・そう考えた時、屁八は席を蹴っていた。

自宅から寮までは、車で十五分の距離。飲酒した屁八がタクシーを呼び、寮についた時に
は、日付が変わっていた。
「明かりが消えている・・・な」
寮内はすでに灯かりが落ち、静寂に包まれていた。当たり前の話だが、これが普通である。
屁八はそろそろ酔いも醒め、少しずつ理性を取り戻していた。
「バカバカしい。わしは、何を考えてたんだ。少しでも子供たちを疑った自分が恥ずかしい」
いくら酒のせいとは言え、あの真面目な寮生たちが美紀子を襲うなどと考えた自分を自嘲
する屁八。少年たちは皆、美紀子を母のように慕っているのだ。それなのに、自分ときたら
薄汚い疑念にとらわれ、わざわざここまで来てしまったとは、呆れるより他無い。屁八は
もう、笑うしかなかった。

「しかし冷えるな。止むを得ん、管理人室で朝まで過ごすかな・・・」
もう一度タクシーを呼ぶのは不経済なので、朝を待ってバスで帰宅しようと屁八は考えた。
幸い、管理人室の鍵はあるし、寝具も揃っている。朝まで夜露を凌げればそれで良いと、
屁八が寮の扉を開けた時、浴室の方から、何やら騒ぎ声が聞こえてきた。

「ん?なんだ?誰か今頃、風呂入ってるのか?」
寮の入浴時間は決まっていて、午後十時には風呂場は閉めねばならない。しかし、浴室
には灯かりがついているし、複数人の笑い声も響いている。入浴しているのは寮生に決ま
っているが、火の始末の事もあり、黙って見過ごす事が出来なかった。
「仕方のないやつらだな。どれ、やんわり注意してやるか」
脱衣所のドアを開けると、屁八の目に異様な物が飛び込んできた。それはなんと、女性物
の下着である。ピンク色のブラジャーとパンティ。それらがセットで、脱衣所の床に無造作に
放り出されているのだ。

「どうして、こんな物が・・・?」
女物の下着を拾い上げると、艶かしい体臭が屁八の鼻を突く。確かにこれが今しがたまで、
女体を覆っていた事は間違いないであろう。しかし、誰が──と、その時、どこかで聞いた
女性の声が屁八の耳に届いた。
「皆、ママ恋しの僕ちゃんたちの割には、こんなにオチンチンを尖らせちゃって。うふふ、私、
恥ずかしいわ」
この台詞を聞いた瞬間、屁八は眩暈に似たショックを覚えた。声の主が間違い無く、あの
美紀子だったからだ。

擦りガラスの向こうにぼんやりと人影がある。屁八は浴室のドアを少し開け、中の様子を
窺った。すると──
(あっ!)
湯煙の中、屁八の視界に全裸の美紀子、そして同じく全裸の寮生たちが映じた。昼間、
彼女自身がブラシをかけた床の上に、世にも淫らな状況が作り出されている。

「全員が勃起する所を見ると、さすがに私もちょっと引くわね」
そう言って艶笑を見せる美紀子を囲むように、十人の寮生が揃って股間を屹立させていた。
皆、若さに物を言わせて、キリキリと矢をつがえた弓のように男根を反り返らせ、その先を
美女に向けている。ひとたび弦を弾けばそれは真っ直ぐ飛び、美紀子という的を射抜くで
あろう。それほどの勢いがあった。

「美紀子さん。今日は管理人さんも居ないし、一晩中でも出来るよ」
「誰からいく?出来れば、僕を指名して欲しいな」
「バーカ、下級生は後に決まってるだろう」
少年たちはそんな事を言い合い、勃起した男根で美紀子へのアピールをする。都合、十本
のいきり立ったそれは、どれもが中々に育っていて、美紀子を楽しく惑わせた。
「そうね、うふっ・・・どれも美味しそうで、困っちゃうわ」
端の一本目に手を伸ばし、美紀子は愛しげに指を添えた。十本の内ではちび筆の部類に
入るが、肉傘がグッと張り出て良い仕事をしそうである。

「わあ、気持ち良い・・・」
「ここでお漏らししたら、承知しないわよ、うふふ・・・」
美紀子は少年の男根を逆手に持ち、ゆっくり扱き始めた。女性の手の中での優しい愛撫
に少年はうっとりと目を細め、男根をひくひくと戦慄かせる。

「やだ、手の中が先走りでねっとり・・・君、ずいぶんためてるんじゃない?」
「三日くらい、オナニーしてないから」
「たかが三日で、お玉もパンパンなの?若いって凄いわ」
美紀子は男根から宝玉袋へ手を伸ばし、優しくやんわりとそれを揉む。若いだけあってこ
こもプリッと張りが有り、元気の良い子種をいくらでも作り出せそうだった。

「美紀子さん、今度は僕のを握って」
「ええ、いいわよ。あら、あなた、ちょっと皮が余ってるわね。いいわ、剥いてあげる」
美紀子は空いてる方の手で、隣にいる少年の男根をやはり逆手に握った。これはサイズこ
そまずまずだが、雁首部分が皮に包まれている。
「ふふッ・・・私、男の子のオチンチンの皮、剥くの好きなのよね。あの、つるんって感じが」
「痛くしないでね」
「安心して。私、何人もの皮を剥いてきたから」
美紀子は薄笑いを浮かべつつ、余っている皮を剥いた。その瞬間、青臭い性臭が女の本能
に火をつけ、ぱあっと燃え上がらせるのである。

「オチンチンの垢の匂いがするわ。ふふ・・・いい匂い」
美紀子は鼻を鳴らし、少年の恥臭を胸一杯に吸う。これが媚薬のような効果を発揮し、
甘い疼きが彼女の下半身を襲うのだ。

「ああ、たまらなくなってきたわ。誰でもいいから、して」
噎せるような性臭に当てられ、美紀子は女の性(さが)を曝け出す。相手は少年ばかり
で十人。夜はまだ、半分以上を残していた。

(何て事を・・・)
屁八は浴室内の出来事が、まるで夢か何かのように思えてならない。あの美紀子は今、
尻を突き出し少年たちと交わり始めた。それも一対十の獣じみた乱交である。いや、獣
であればもっと意味のある交わりをするであろう。そう言った意味で、美紀子は獣よりも
浅ましかった。

「ああん!すッ、すごく、いいわァ・・・」
浴室の床に寝そべった美紀子に、少年が次々と覆い被さった。まだ経験が足りないせ
いか、少年たちは交わってすぐに果ててしまった。それでも十人も居て、尚且つ、一度
や二度の放精では男根の萎えぬ若侍たちは、何度でも女陰に挑む。また、美紀子もそ
れに良く耐え、彼らに男の喜びをもたらせてやるのであった。

(ど、どうしたら良いのか)
屁八は脱衣所を出て、管理人室にこもった。事態の収拾を図りたいが、しかし、どうすれ
ば良いのか皆目、見当がつかない。女一人に男十人の乱交が寮内で行われたとなれば、
その責任は己にも及ぶであろう。冗談ではない、と屁八は思った。

(やっぱり、あの女を採用したのは間違いだったのだ!)
そう考えているうちに、嬌声が廊下に響き渡った。
「これから一部屋ずつ訪ねていくから、皆、ちゃんとオチンチンを勃起させとくのよ」
「はーい」
美紀子と寮生たちの声である。どうやら乱交はこれからが本番のようで、美紀子が各部
屋を訪ね歩き、寮生全員と交わるらしい。それと分かると、屁八は空恐ろしくなった。
(早く、朝が来てくれ!)
祈っていると、屁八の耳に美紀子の喘ぎ声が聞こえてきた。だが冬の朝はまだ遠く、屁
八は頭から布団を被って、ガタガタと震えるだけであった。

おしまい