冬の夜は早い。
冬至を過ぎれば一日ごとに日没が遅くなっていく時期とはいえ、
真っ暗になっていく外を眺めるのはあまり好きではない。
ましてや、することもなく、図書館から誰もいない教室に戻ってきたときは。
「……」
もうストーブも消された教室は、蛍光灯の光さえ薄ら寒い。
こんなところに来るのは面倒くさいんだけど、
うかつにも忘れ物をしてしまったんだから仕方ない。
ああ、我ながらうかつ。
大体、僕はこの教室が好きじゃない。
図書室ならいろんな本があって時間が足りなくなるくらいだけど、
教室には面白い物はないし、第一――。


 そこまで思ったところで、誰かが教室に入ってきた。

「あー、古座川(こざがわ)じゃん!」
「コザーだ、コザー!」
ドアががらっと開いて入ってきたのは、クラスメイトの女の子二人。
部活の練習上がりだろうか、タオルで顔を拭きながら入ってくる。
「何? こんな時間に」
「コザー、帰宅部じゃん」
「あー、もしかして!」
「もしかして!」
「あたしらの下着でも盗みに来たかー?」
「やっらしー!」
「コザー、へんたーい!」
「へんたーい!!」
僕が言葉を挟む間もなく、ぽんぽんと会話を進める。
言っていることばが本気でないのは、けらけらと笑いながらなので分かるけど、
僕はこういう女子は苦手で、そしてクラスメイトの女子はこういう子が多かった。
だから、僕は教室があまり好きじゃない。
「あー、そっかー。コザー、そんなにあたしらのコト、好きなんだー!」
「うひゃー! じゃあ、あたしのパンツ見るー?」
「あははっ、コザー、どっちのパンツ見たい?」
「10秒以内に言ったら見せたげるよ?」
「1、2、3、10っ!」
「早っ!! しかもちゃんと数えてないし!」
「数学赤点だもん!」
「あははっ」
二人組は、自分のセリフがツボに入ったらしく、いつまでもケラケラと笑い転げている。
僕はあいまいな笑いを浮かべて、忘れ物をカバンに放り込んだ。

二人組の片方が、手を振りながら言った。
「ごっめんねー! からかっちゃって」
「今日の試合、キツかったから、ハイになっちゃってんだー」
「あー、パンツくらい、マジ見せてもいい気分?」
「きゃー、だいたーん!」
「でもコザー、パンツとか見たことなさそうじゃん!」
「あー、そうかもー。コザー、童貞っぽい!」
「ドーテー臭(くさ)っ! って感じするよねっ!」
「あははははっ、コザー、モテなさそうだし」
「……やっぱパンツ見せたげよーか?」
「そこに話が戻るか!」
やたらとゴキゲンだ。
あんまりにも僕と異なる空気の住人に、僕は早々に退散しようと思った。
ドアを開けようとして、――ドアが勝手に開いた。
「んんー。何よ? あんたたち、まだお酒抜けてなかったの?」
「――あっ、新宮先輩!」
「――お疲れさまッス!」
クラスメイトの二人組が挨拶をする。
入ってきたのは、背の高い女生徒。
僕も知っている、女の子。
「ビール半分で、まだ酔っ払ってるの?」
「そうッスかー?」
「100%シラフっス!」
「……全然ダメだわ。様子見に来てよかった。
あんたたち、このまま家に帰っちゃダメよ?」
額に手を当てて首を振りながら、2年生の上履きを
もう一回シャワー浴びて、水飲んで、歯磨きしてきなさい。
あと、二時間くらい休んでから帰ること!」
新宮由良(しんぐう・ゆら)――由良ねぇは腕組をしながら、そう言った。
その迫力に、部活の後輩の二人どころか、幼馴染の僕まで思わず「はいっ」と返事をした。

「……と言うことで、ター君は何も見てない、何も聞いてない、ということで」
くるりと振り返った由良ねぇは、両腰に手を当ててずいっと身を乗り出した。
「……返事は?」
「……はい」
「よし、いい子っ!」
由良ねぇは、またくるりと振り返って、二人組を睨む。
「あ、あはは……」
「えへへ……」
「――休んだだけじゃダメそうね。二人とも水飲んでからグラウンド30周!!」
「えー!!」
「そ、そんなー!!」
「汗かいてシャワー浴びれば、なんとかなりそうよ。ほら、行った、行った!」
二人を追い立てる。
女子バスケ部の縦社会は絶対だ。
さらに言えば、由良ねぇは、その中でも特別……。
「なあに? 何を言いたいのかなー、ター君は?」
な、なんでもありません……。
僕は、(おっかない)と言おうとしたのをあわてて飲み込んだ。
「よろしい! では、ター君、私らは……帰ろっ!」
由良ねぇは、びっと親指を立てて笑った。
僕――古座川貴志(こざがわ・たかし)はそれに従うしか他になかった。

「はあ、まったく。3年の追い出し会だからって、
お酒まで出しちゃうんだもの。ダメダメよねー」
帰り道、由良ねぇはため息をついた。
どうやら、卒業前の3年生相手の練習試合の後のパーティで、部室でお酒を飲んだらしい。
由良ねぇは飲んでないけど、半分くらいの部員が飲んで、
僕のクラスメイトたちは一番酔っ払っていたらしい。
それで、心配した由良ねぇが見に来たわけだ。

「主将も大変だねー」
石ころを蹴りながら僕は言った。
僕ら二人が通学路に使っている河原の土手は、日が沈むと真っ暗だ。
さっき川が枝分かれしたところから先は、人家もあまりなく、通学してくる生徒もいない。
だから、小学校の頃から、僕と由良ねぇは、なるだけ時間をあわせて一緒に帰ることにしている。
こうして、お互いの話をしながら帰るのは、すっかり日課になっていた。
「そうかなー?」
「由良ねぇ、意外と真面目だし」
背の高い由良ねぇは、迫力と腕力と姉御肌な性格で、皆に一目置かれている。
今の3年が引退するときに、女子バスケ部のキャプテンに選ばれたのも当然だ。
京のアルコールみたいな、上級生のやること、それも「伝統的」で、
顧問の背院生も半ば黙認しているようなことは、あまり口やかましく言わずに楽しむ柔軟性と、
僕のクラスメイトみたいにハメを外しすぎてる人間には、ちゃんと注意できる強さを兼ねそろえている。
成績もいいし、周りからの評判もいい由良ねぇは、みんなからとても信頼されていた。
「意外とって何よ、意外とって」
由良ねぇはぐうっと顔を寄せて僕をにらみつけた。
甘い、いい香りがする。由良ねぇの。
「あ、いや……」
僕は慌てて手を振った。
由良ねぇは、そんな僕をじいーっとにらんでいたけど、やがて、ふっと笑った。
「私、けっこう、フマジメだよ? ……ター君も知ってるじゃん」
口元を覆った、くすくす笑い。
小さなときから知っている。
これは──由良ねぇの、合図。
「ふ、フマジメって……」
経験から来る予感に、僕は一歩横に離れようとしたけど、
由良ねぇは、歩きながら、さりげなくその一歩を詰めてくる。
なんとなく、気おされて、さらに横に一歩逃げようとする。
それも詰められて──。
気が付けば、由良ねぇと僕は、土手から降りて河原の茂みのほうに入っていた。

「ゆ、由良ねぇ……」
河原に生えた木の、太い幹に押し付けられながら、僕は喘いだ。
由良ねぇがちょっとかがんで、僕の胸元に顔を押し付ける。
「ちょ、由良ねぇ……」
すー。
はー。
すー。
はー。
目をつぶって、由良ねぇは何度か深呼吸を繰り返し、
「んっ……、うふふ。ドーテー臭ぁーい」
いたずらっぽく笑いながら、僕を見上げた。
「ちょっ……」
僕は、舌をちょろっと出した由良ねぇに、僕は何も言えずにあたふたした。
「うふふ、う・そっ! そんなのするわけないじゃん」
すっと身を起こした由良ねぇは、今度は、僕の首筋に顔をうずめた。
そして、耳元でささやく。
「……だって、ター君、童貞じゃないもんねー?」
「……!!」
いつの間にか、僕のズボンの前に由良ねぇの手が伸びている。
学生服のズボンの上から、ゆっくりとそれをさする手は、
月明かりの中で、白く白く見えた。
「ふふふ。みんな、人を見る目がないよねー、ター君?
もう○年も前に童貞捨ててるター君のコト、「ドーテー臭い」とか……」
「ゆ…ら……ねぇ……」
「そんなター君とこーゆー風にしまくっちゃってる私のコト、「真面目そう」だとか……」
「あ……そこ、だめっ……!!」
ズボンの上から強くつかまれて、僕は女の子のような悲鳴をあげた。
でも、それは、誰もいない河原では、聞くものもいない。
──由良ねぇ以外には。
「ん。ター君……しちゃおっか?」
そして、僕の1コ上の幼馴染は、いつもと同じ微笑を浮かべた。


白い月光が、僕を照らし出している。
月明りよりももっと白くてもっと綺麗な手が、
僕のズボンを下ろして、その「中身」を晒していく様を。
由良ねぇの、その手つきは、とても手馴れたものだった。
まるで、何度もしたことがあるように。
――そう、それは初めてのことじゃない。
由良ねぇが、僕のおち×ちんをこうして扱うのは。
冷たい外気に触れて縮こまろうとする僕の性器を優しく手で包み、
温かい手のひらと指で愛撫するのも。
僕の生殖器官が、慣れた刺激に反応して本来の役目を果たそうとするのも。
「あっ、あっ、由良ねぇ、やめて、とめてぇっ!」
思わず声が出る。
思ったよりも大きな声に、出してから慌てて自分の口を塞ぐ。
誰も通らない、通っても気付かない、場所。
二人だけの秘密の場所。
だけど、恥ずかしさは止まらない。
また溢れそうになる声を、ぐっと飲み込んで、
もう一度、由良ねぇに――。
「なあに、ター君?」
僕よりも早く、由良ねぇのほうから声をかけてきた。
「――お顔、真っ赤だよ?」
「あっ……」
由良ねぇが、下から僕を見詰めている。
きらきらと光る目は、「いつもの」由良ねぇのもの。
でも、みんなは、僕以外のほかのみんなは知らない。
みんなの知っている「真面目でしっかりした由良ねぇ」じゃない。
僕だけが知っている、いじわるで、優しくて、
――とってもいやらしい、由良ねぇの、目。

「――どうしたいの? どうされたいの? ター君?」
「あっ、あのっ……」
「お・へ・ん・じ・はぁー?」
一個一個区切った後、甘く伸ばした語尾で質問される。
「あ、あうぅ……」
声が出ない。
ことばにならない。
早く、「お返事」しないと。
でないと、由良ねぇは……。
「ふうん、――こうされたいのかな?」
……勝手に「僕がされたいこと」を決めてしまう。
ちゅっ。
桜色の、形のいい唇が、僕の先端に触れる。
気持ちいいことを感じる神経だけがむき出しになっているような
硬い先端に、由良ねぇが触れる。
キスをする、唇で。
背筋にぞくぞくと何かが登ってくる。
「ひゃうっ!」
それは、のけぞった僕の口から、甘い悲鳴とともに吐き出される。
「うふふ、こうされたいのね?」
由良ねぇがくすりと笑って、唇を開ける。
その口に、僕のものが――。
「ふあっ!」
また、声が漏れる。
温かい、洞(うろ)に、包まれて。
僕の感覚の全てを詰め込んだ先っぽが、由良ねぇの甘い唾液で蕩けてしまいそうになる。
「んっ……」
由良ねぇが、ちょっとだけ、眉をひそめる。
夢中になったときの、癖。
唇の輪でしごかれて、僕は女の子のような悲鳴をあげた。

「んふ。……どうする? このままイきたぁい?」
由良ねぇが、口を離して笑う。
「う、あ……は、はいぃっ!」
僕は、答えるしかない。
そう答える以外は、脳が拒否する。
でも、由良ねぇは、意地悪だから、いつもそうしてくれない。
「ふぅん」
そう言って、僕を見上げる。
「あ……」
ちろっ。
何もしないのか、と思うと、舌でおち×ちんの先を嫐る。
ちろちろ。
ちろちろ。
「ター君ってば、先っぽの裏側のここのぷっくりしたトコ、弱い、よね?」
「あうっ……!」
情けない悲鳴を上げて、僕は痙攣した。
「ここ、こうやって唇で挟むのも好き、だよね?」
「ふああっ……!」
後ろの木に頭をぶつけるくらいに、仰け反る。
「ちゅって啜(すす)ると、いいんだよね?」
「ゆ、由良、ねっ……え……!!」
「ター君は、私のお口でされるの、大好き、だよね?」
「はいっ……はいぃ〜っ!」
もう、由良ねぇに何を言われているのか、
自分が何を答えているのか、わからなくなる。
今にもはじけ飛びそうなくらいに心臓が脈打っている。
心臓だけじゃなくて、頭の中も、血管も、全身が全て。
そして、全身を駆け巡って、出口を求めているのは、
きっと血液じゃなくて、精液だ。
そして、由良ねぇは、それを僕よりずっとよく知っている。

「あはっ……ター君、いいお顔!」
由良ねぇが、微笑む。
「ター君、今にも泣き出しちゃいそうな、かわいい顔してるよ?」
「あう……ゆ、由良ねぇ……」
「そんなに気持ちいいの?」
「……」
「気持ちいい、の?」
「き、気持ちいいっ、気持ちいいですっ!!」
「うふふ。……何が気持ちいのかな、ター君?」
「由良ねぇっ! 由良ねぇのお口が気持ちいいっ……ですっ!!」
「ふぅん、そぉなんだ? じゃ、こういうのも?」
れろん。
由良ねぇが、思いっきり突き出した舌全体を使って、
僕の先っぽを舐め上げた。
「ひゃうっ!」
僕は、背中を木にこすり付けて悶えた。
(――学生服、背中が擦り切れてたらどうしよう……)
脳みそが煮えているような感覚の中で、
不思議とそういうことだけは頭に浮かぶ。
だけど、それは理性的な考えのつながりにはならず、
由良ねぇの舌がもう一度からみついただけで、霧のように消えた。
「由良ねぇ、もう、だめっ……僕っ……」
「あら、ター君、もうイきたいの?」
「うん、イかせて、イかせてぇっ!!」
「だぁ〜め。――私も気持ち良くしてくれなきゃ」
由良ねぇが立ち上がる。
ためらいもしない動作で、ショーツを脱いだ。
「うふふ、挿(い)れちゃうぞ」
もう一度笑って、――僕を誘(いざな)う。
由良ねぇの、中に。

「はぁふ」
間近で甘い喘ぎ声があがる。
痛いほどに張り詰めた性器が、
蕩けそうなほどに潤んだ性器に入って。
僕は、木を背にしてもたれかかっている。
というより、後ろに木がなければ、身体を支えられない
わずかに腰を落とし、前に足を突き出して
必死で踏ん張っている僕の上に跨るようにして、
由良ねぇは、僕とつながっている。
そして、ゆっくりと動き始める。
前に、後ろに。
上に、下に。
各々は、一センチもないくらいの小さな小さな動き。
でも、それは、それだけで十分すぎるほどの刺激。
さっき、お口でされたときより、
何倍もきつくて、何倍も複雑な門が、
無力な旅人の通行を咎め、許し、繰り返し繰り返し嫐っていく。
「ゆ…ら……ねぇ、僕、もぉ……」
「うふふ、もうイっちゃいそう?」
「う、うん……」
「ふーん。……ダメよ」
由良ねぇが、不意に、腰の動きを止める。
快感の、突然の消失感に、僕は悶えた。
「え……」
「私、今、怒ってるんだから」
「……な、な、にを……?」
必死で質問する。
「あの子達と、いちゃついてたこと」
由良ねぇが、僕を睨む。
その目は──かなり本気だ。

「そ、そんなこと、な……い」
慌てて弁明する声は、我ながらかすれている。
さっき、の教室でのクラスメイトの会話の事を言っているのは、
本能的にすぐわかった。
由良ねぇは、意外と嫉妬深い。
「そ〜ぉ? その割には、だいぶ機嫌よかったように見えたわよ?
あの子たちにからかわれて、言い返しもせずに」
「だって……」
反論しようとしたけど、腰を一ゆすりされる。
「ひゃっ!」
悲鳴が、言い訳を強制的にかき消す。
一方的な裁判だ。
しかも、拷問付の。
僕に許されるのは、裁判官兼拷問係が望む自白をすることだけだ。
「ター君、ごめんなさい、は?」
「ご、ごめんなひゃい……」
「他の女の子と仲良くして、ごめんなさい?」
「――他の女の子と仲良くして、ごめんなさいっ!!」
「ボクは、由良ねぇが一番好きです?」
「僕は、由良ねぇが、一番好きっですっ!!」
「うふふ、よろしい。──じゃ、ター君、射精(だ)していいよ?」
「ほ、ほんと!?」
「今日、私、危ない日だけど?」
月明かりの中で、僕は見る。
由良ねぇの目には、怖い光を溜まったままなことを。
僕は、泣きそうになる。
「うふふ、ター君、精子出したいなら、私の中なら、いいよ?
外に出したら、ダメ。許さない。それとも、ずーっとガマンする?」
由良ねぇは、笑いながら耳元でささやいた。

くちゅくちゅ。
頭の中まで響いてくる、粘膜の音。
「さあ、どうするのかな、ター君?」
脳髄の奥まで甘く責め立てる由良ねぇの声。
そして、全身の神経が一つに束ねられて嫐られる快感。
「ゆ、由良ねぇっ、僕、もおっ!!」
こらえられる時間は、ものすごく短かった。
多分、由良ねぇが、動くのを再開して、十秒も、もっていない。
僕は、がくがくと震えながら、射精していた。
月の明かりの下、由良ねぇの中に。

「うふふー。ター君ったら、ほんとソーロー」
由良ねぇが僕を見下ろしながら言った。
ものすごい上機嫌な声だ。
脱いだときに、手首にからませていたショーツを取って、
するするっと穿き始める。
ティッシューで拭いもしない。
「由良ねぇ……今日、危ない日って……」
ショーツを上げる手が止まる。
「んー。ター君は、どうしたいの?」
「どうって……」
「ここで、ター君の精子、私の中から掻き出したら、妊娠しないで済むかも」
「え……」
「でも、このままター君の精子、私の中にお持ち帰りしてもいいんだよ?」
「えええっ……!?」
「さあ、ター君は、どっちがいいかな? 選ばせてあげるよ?」
由良ねぇは、制服の袖で口元をおおい、くすくすと笑い出した。

「ゆ、由良ねぇ……」
僕は、パニックに襲われた。
妊娠?
赤ちゃん?
働かなくちゃ。
結婚?
由良ねぇと──?
家は──、由良ねぇのお家も──。
ど、どうすれば。
どうすれば──。
「うふふ」
由良ねぇが吹き出した。
「う・そっ! 今日は大丈夫な日だよ」
「ほ、ほんとっ!?」
「多分」
「多分って……」
「女の子に<絶対安全な日>ってないのよ? まあ、今日は一番大丈夫な日だけど」
「そ、そうなんだ……」
「あーっ、ター君、今、ホッとしたなー?
私と赤ちゃん作るの、嫌なんだー?」
「えっ、そ、そんなことは……」
「ふふふ、許さないぞ。――今日は、ウチに寄ってきなさい!
あ、ター君の家には、宿題見てあげるって言っとけばOKだよ?」
由良ねぇが笑った。
「……はい」
頷くしか、ない。
「そんな顔しないでよ。ご褒美もちゃんとあるんだから」
「ご褒美……?」
由良ねぇは、ショーツを上まで引き上げてから僕に近づき、耳元でささやいた。
「私の部屋で、もう一回、しよっ!」
これも頷くしかない。
──いつもの通りに。
いつか、本当にそういう日が来て、僕は、きっと由良ねぇに一生をからみ取られる。
でも、多分、それはずっと前から決まっていて──とっても素敵なことなんだ。

fin