「…この乱世に、幾人もの男達が屹立し、そして死んでいった」

男が、傍らに佇む参謀に語りかける。

「万余の夜を越え、残ったのは私とあやつただ二人」

燭台の火が揺れる。照らし出された瞳は回顧に漂っていた。

「不思議なものだな。10年前、私は宮廷勤めの親衛隊員で、あの男はただの自警団の隊長だった」

男は思いを馳せていた。初めて出会った、あの原野に。

「駆けた。ただひたすらに、駆けた。私は大きくなった。多くのものを手に入れた。そして、磨り減った」

「………」

参謀は、ただ黙って聞いている。彼もまた、遠い昔に思いを馳せているのかもしれない。
10年前と違い、髪にも、髭にも白いものが目立っていた。

「ただ、あやつは何も捨てなかった。私ほど何かを手に入れることもなかったが、何も失くさなかった。そんな気がする」

「殺す機会も、潰す機会も何度もありました」

「しかし、殺せなかった。潰せなかったのだ」

言っても仕方あるまい、と男は杯を傾ける。
あの男の理想を否定したかった。甘い、と。だから傑出した才を持ちながらも、飛躍できない。
多くのものを背負いすぎているのだ。飛び立てるわけがない。
いつまでも大きくなれず、いつか自分に屈する時が来る。そう信じて疑うことが無かった。
…しかし、誰と戦っていても、何処を攻めていてもずっと、頭のどこかに引っかかっていた気がする、と男は思った。
それはきっと、自らの心のどこかに、この乱世の果てに雌雄を決するべき相手なのだという思いがあったからではないか。
現にあの男は、その理想だけを糧にこの乱世を生き抜き、最後の二人の片翼となっている。

遠い原野から自分を呼び戻し、男は杯を置いた。

「…だが、最後に残る一人は」

「あー!また大河見てるーー」

「…いいでしょう、別に」

肌に触れる明かりが暖かい室内、雪の降り積もる外をよそにこたつにアイスでお気に入りのDVD鑑賞。

考えうる限りの最高のロケーションで画面に没入していたのに、一瞬で引き戻された。

リモコンを操作しながら、言葉に出来ない無常感を瞳に込めて俺は来訪者へと顔を向けた。

どてらを着た美女が、おこたおこたと謎の呪文を呟きながら自分の隣席に潜りこんでいる。いつの間に二階から降りてきたのか。
どてらの下がパジャマな事から今まで寝ていたことは容易に推測できる。

どてら美女は腰を下ろし、ぐてんとこたつのテーブルに頭を乗せた。そのまま顔だけを俺のほうに向ける。
艶やかな黒のショートヘアがテーブルに広がった。

「大河ばっかり見てる人は若ハゲになるんだって」

「ガセと言わざるを得ない」

DVDが停止され、画面はニュースへと表情を変えていた。くだらないやり取りをする俺たちに世情を伝えてくれる。

「11月になり、ここ鳳来市では慰霊祭が始まりました」

男のレポーターが、鳳来山が映ったスクリーンを背に原稿を読み上げている。

「おお、やってるねえ」

「ですねー」

どてら美女こと片桐家長女の片桐唯子、そして居候の俺が暮らすこの片桐家があるのもここ鳳来市だ。
この列島の中心部には、神々の住む広大な山脈がある。そこは人でないものたちが暮らす神霊の地。
誰も近づけぬ偉容を誇る霊峰群。その霊峰郡の入り口である鳳来山、そしてその麓がこの街だった。

片桐家は神霊を相手取る宗教連合組織に古くから籍を置く旧家で、この地の神社を預けられ護り手を受け持っている家の一つだった。
なんだか霊感というのは遺伝しやすいらしく、片桐家にはそういった力を強く持つものが多く生まれる。
現在の片桐家当主である長男の北斗さんや、次女の理々がまさにそうであり、今回の慰霊祭にも主要メンバーとして参加し
この一週間は鳳来山の社で儀式を行っている。

「北斗と理々も頑張ってるんだろうね〜」

ありがたやありがたや、と唯子さんは画面に映った鳳来山へ手を合わせる。
留守番している事からもわかるだろうが、俺たち二人には霊感的なものは皆無だった。
まあ俺はそもそも片桐家の血を引く人間ではないのだが…

そういうわけで、片桐家に生まれながらも霊的な力に恵まれなかった唯子さんは今年大学4年。
すでに社務所の手伝いに入っている。
そして今年同じ大学に入学したばかりの俺もアルバイト的にそんな唯子さんの手伝いをしていた。

「まあそれはそれとして」
いつの間に取り上げたのか、俺のカップアイスのスプーンをちろちろと舐めながら唯子さんは呟いた。
可愛い口を出て、緩やかに蠢く舌の先に目が引き寄せられてしまう。ハッとするほどに赤い舌が白い肌に映えて。

「…なんでございましょう」

…エロい。落ち着かない胸を鎮めるように俺は静かな声を出した。

「二人っきりだね〜♪」

誘うような舌の動きを止め、ニヤニヤと笑いながら唯子さんは隣に座っている俺の耳元に囁く。

「北斗さんも理々もいませんからね」

俺は努めて事務的な返答を返す。

「す〜ぱ〜独占た〜いむってことだよね〜♪」

「それは違う」

俺の返答など気にすることもなく、唯子さんは肩をすり寄せてくる。猫のような瞳が輝いていた。

「かまってー」

さっきまでの妖艶な表情から一転して、くいくい、と俺の服の袖を引きながら素直な笑顔で言う。
俺は目をそらした。理性の敗北の予感。

「あそんでー」

くいくい、と引かれ続ける袖。

「…妖怪小袖引きと名付けますよ」

「いいことしよーよー」

「というと?」

「えっち」

一体今の俺はどんな表情をしているのだろう?自分のことではあるが想像が出来なかった。

「なによー、そんな「淫乱死ね!」みたいな顔しなくてもいいじゃない!」

「いやさすがにそんな表情はしてなかったかと…」

別にそこまで思ってはいない。

「淫乱生きろ」

「フォローのつもりだとしたら最高に滑ってるからね?」

じとっとした目でイエローカード一枚。

反感を買ったらしい。自分で言い出したくせに…

「もー……巫女服じゃないとイヤ?」

「そんな趣味はありませんから!」

「ホントかなー♪巫女服の時はいつもより大きかったような…」

さわさわ、とこたつの中で俺の股間を撫でる。ことさら優しい手つきで。

「そんな設定もありませんからね!!」

強く否定しながら距離を離す。それに合わせて唯子さんもまた距離を詰めてきた。

「………」

距離を離す。それに合わせて唯子さんがさらに距離を詰めてくる。
さらに距離を離…そうとしたら腰がこたつテーブルの柱にぶつかった。

「ふっふっふ〜」

唯子さんが怪しげに笑いながら行き場をなくした俺の身体に手を回してくる。

「……くっ」

俺は「負けないぞ!」とばかりに目で挑んだ。

「…むむむ」

唯子さんは錦馬超のような台詞を漏らして眉をひそめる。

10センチの距離で見つめ合う。触れ合ってはいないのに、吐息のせいで心拍数も計られてしまいそうだった。
和室にテレビCMの声が空々しく響く。招き猫のインテリアだけが俺たちの戦いを見守っていた。

不意に、唯子さんが目を伏せる。

「…もう、私には飽きちゃった?」

「な……!」

言葉を失う。白浜に落とした真珠のように言うべき言葉が見つけられない、そんな沈黙。

「ち、違いますっ!」

なんとかワンカウントで心の底から言葉を引きずり出した。
目を伏せたままの唯子さんに次なる本音を浴びせるため、俺は必死に頭を回した。

「飽きたとか、そんなんじゃ…なくて。ただ…こんな風に年がら年中迫られても、困ってしまいます…」

「………」

「べ、別に唯子さんが嫌だから困るんじゃなくて、むしろ、それは逆でっ!」

俺に対するこの人への心情は色々と複雑なのだ。女神のように思っていた時期もあって、でも今は本当の家族のように大切で。

そういった諸事を説明するのには宇宙が一巡するぐらいの時間が必要に思えた。

「だから、俺は…!」

それでも何とか心からの言葉を続けようとした時に、俯いたままの頭が、いや身体全体が震えだした。

「ぷっ……くっ……」

「………」

その震えの意味に気付き、俺の心は瞬間冷却された。

「…ぷっ、ふふふっ、かーわいい♪」

無言で、抗議。

「あーん、もうそんな顔しないでよう!あはは、ホントかわいいなあーもー♪」

俺の頭を抱え込むと、唯子さんはごめんごめん、と子犬を抱くような力で撫でた。

無抵抗の、抗議。

唯子さんはされるがままの俺の頭を起こすと、またさっきと同じ距離で俺の目を見つめた。
何かに潤んだ、熱っぽい瞳で。

「そういうところ、大好きだよー…」

「ま、またそういうことを…っ!」

言葉が途切れたのは、言葉を落としたからではなくて、唇をふさがれたからだ。

「ん………」

そっと、唇を触れ合わせるだけのキス。普段の唯子さんからは考えられなかった。
その意外な攻撃に、俺は抵抗する意気をそがれてしまう。心の大半が驚きに占拠されていた。

「ふふ……」

唇を離すと、唯子さんは子供を褒める親のように優しく笑った。
その顔を見ただけで、俺は心臓を鷲づかみにされた気分になる。
負けた。認識が脳内で言語化されるよりも早く本能は現実を感じていたようだ。

自分ではもう指一本動かせない俺を、唯子さんはそっと畳に押し倒す。どてらの裾が押し倒されている俺の身体に触れる。

「いただきまーす…♪」

上手くこたつから腰部を露出するよう斜めに押し倒された俺の耳元に、唯子さんは頭を寄せそっと囁いた。

「あ、ちょっと…!」

それはいつも通りの唯子さんで、俺も金縛りが解けたように自分を取り戻す。
だがもうその時には、チャックが下ろされトランクスの隙間に白魚のような指を差し込まれていた。速技すぎる。
そして時を置かず引っ張り出された。日常モードのそれを、唯子さんは片手で包むように握る。

「…はーい、こんにちわ♪」

そしてちゅ、と先端に口付けた。悔しいが、その無邪気な行為だけで少し反応してしまう。

「びくびくしちゃって。ちゃんとお返事できるいい子だねー♪」

いこいこ、と優しく手で包んだまま上下させられた。少しもどかしい快感が、腰を揺さぶる。

「このまま、お手手でシコシコしてあげよっか?」

そう言いながら、唯子さんは手の動きを強く、速くする。

「…それともぉ」

手の動きがまた弱まる。俺はその緩急に少し腰を震わせてしまった。

「お口で、ちゅぱちゅぱしてほしい?」

唯子さんが、んー?と俺の顔を伺ってくる。何かを見透かされそうで、俺は顔をそむけた。
その瞬間、唯子さんの手の動きが止まる。

「お手手とお口、キミはどっちが好きなのかなー?」

「………」

顔を背けたまま膠着する時間。当然のように俺が負けた。

「……口で、お願いします」

「お口で…どうして欲しいのかな?」

向き直ると、唯子さんがとても意地の悪い笑みを浮かべて俺を見ていた。

「……唯子さんの口で、ちゅぱちゅぱ、して欲しいです…」

何か大切なものを失ったようにも思えたが、多分それはとうの昔に失くしたものだ。
多くのものを得て、多くのものを失くして生きてゆくのです。大河で言ってた。

「はーい、よく言えました♪」

ちぱちぱ、と唯子さんは指の先だけで音のしない拍手をする。

「それじゃあリクエスト通りに、お口でいーっぱいちゅぱちゅぱしたげるね…」

唯子さんは俺のモノにまた手を添えると、口を近づける。

「んー………ちゅ…」

そうして、中途半端に勃起した俺のモノにまた口付けた。

「ちゅ…ちゅ……えろ」

何度も何度も、幹に口付ける。そして、ちろりと舌を出すと裏筋の部分を一舐めした。
暖くぬめる舌の感触に、俺は思わず身体をびくりとさせてしまう。

「んふふ……ちゅぱ…ちゅ、れろれろれお…」

そんな反応に気を良くしたのか、唯子さんは俺のモノにゆっくりと、力強く舌を這わせる。
裏筋から根元まで、舌で幹をくるむようにして上に。そのままカリ首を舌でごしごしと擦る。
まるで表面全体を舌でぬぐうように。
唾液でぬくらむつぶつぶした舌の表面が、モノ全体を擦り掃除してゆく感触に俺のモノは完全に勃起した。

「あふ……」

唯子さんはとても幸せそうに微笑みながら、吐息を漏らす。
そして一通り舌でぬぐい終わると、いったん口を離して亀頭を咥え込む。
そのまま、飴をしゃぶるようにぐちゅぐちゅと唾液に浸しながら亀頭を吸った。

「んあ、むっ…!ちゅぷちゅ…れお…んっちゅ…じゅるじゅりぅ…!」

しばらくそうして亀頭をしゃぶられ続けていたが、不意に唯子さんが口を離す。

「ぷぁ……んふふ、それじゃあ、お待ちかねのぐちゅぐちゅ、行こうね…」

唯子さんはそう言って、ふぅ、と息を吸う。そして、俺のモノをそっとくわえ込んだ。

「んぅ……じゅぷ、じゅるる…あふ、ぐちゅ、ずっずちゅるるる…!」

俺のものを口内に収めると、勢いよく頭を前後させ始める。
口内の粘膜と唇でぴったりとモノに吸い付き、舌をぐいぐいと押し付けながら勢いよく吸い上げる。
口と俺のモノの間で勢い良くかき混ぜられる唾液が泡立ちながらぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てた。

「くっ…うぅ……」

俺は耳と腰から伝わる痺れるような快感に耐える。
びくびく、と自分の体の一部が唯子さんの口の中で震えているのがよく分かった。
息を荒げすぎないように深く呼吸をしていると、不意に唯子さんが口を離した。

「じゅぱっ…んぅ……もー、我慢してるのー?」

少し荒い吐息を漏らし、手で俺のものを優しくしごきながら唯子さんが言う。

「我慢なんか、しなくていいの。何度でも、いくらでも、飲んであげるから…ね…?」

「それは……」

「いいんだよー♪いくらでも、唯子さんのお口で気持ちよくなっちゃってくださいな♪」

たっくさんたっくさん、ね。という言葉を残して、唯子さんはまた俺のモノを咥え込む。

「じゅぷ、じゅずるるるっ!じゅる…ちゅ…えろえろえろ…んぁ…」

唯子さんのぐちゅぐちゅになった口内で勢い良く吸いたてられ、舌で裏筋やカリをぐりぐり撫でられる。
俺は快感に耐えながら上半身を起こすと、股間で上下する唯子さんの頭に手を置いた。
長い髪を、手で梳くようにそっと撫でる。
そうすると唯子さんは心地よさそうに目を細めながら、じゅるじゅると強く吸い付いてくる。
もっともっととせがまれているようで、俺は暖かい気持ちになりながら唯子さんの髪を撫で続けた。

「ん……すみません、もう…」

俺は限界が近いのを感じ、唯子さんにそれを伝える。
唯子さんは加えたまま頷くと、舌と吸い上げる動きを強くした。

「ぐちゅ、ちゅばっ…んぅん…えろ、ちゅ…じゅぷ、じゅる…じゅるるるる、ずちゅ…!」

「唯子さん…!」

俺は髪を梳いていた手を止め、唯子さんの頭に置く。
次の瞬間、勢い良く射精するのを自分でも感じた。

「んっ!んん…ぐちゅ…んぅ…ちゅう…!」

唯子さんは頭の動きを緩やかに、そして強くしながら吸いたてる。

「ちゅう……んふ…えろえろ……ん…じゅううっ…!」

最後の一滴まで逃さない、とばかりに俺の腰に頭を押し付けながら吸い上げ続ける。
唯子さんの喉が蠕動して、口内を満たす液体を飲み下していくのが吸い上げられている最中でも分った。

「んん…ん…ぱふぁ、んっ、ごふっ、ごほっ!」

長い長い吸引が終わり、俺のモノから口を離した瞬間に唯子さんは軽くむせた。

「すっごい、出たね…♪久しぶりだもんねー。………にしても」

唯子さんは口の端に付いた精液を舌で舐め取り、俺のモノを優しく掴むと軽く左右に振った。

「さっすが、ビンビンですねー、旦那♪」

このこの、と指先でつつかれると俺のモノがビクリと震えて勝手に応える。
自分の身体なのに思うようにならないのがもどかしい。
この歳であはは、と子供を見守るような笑顔を向けられるのは中々の羞恥だ。

「次はー、どうして欲しい?唯子さんがなんでもしてあげるよー?」

「そう言われましても…」

「乱暴に、強引に喉の奥まで突いてみたい?それとも…おちんちんがふやけるぐらいにしゃぶって欲しい…?」

「………」

剛速球が来るとわかっていても、それを打てるかというと話はまた別だ。
黙り込んだ俺を見て、唯子さんは立ち上がる。

「それとも…こっちに入れたいのかな〜?」

唯子さんはするっとパジャマのズボンを下ろすと部屋の隅に放った。
白いレースの下着が露になる。明らかに薄手な素材が織り成す薔薇模様に俺の眼は釘付けになる。
上はパジャマにどてら、下半身はショーツ一枚という奇妙ないでたちが、この人には妙に似合っていた。

「大分、濡れてますね…」

「うん……」

ささやかな反撃も、素直な肯定に砕けた。

「うわ、また大きくなったね…パンツに反応したのかなー?それともまさかどてらに?」

「…唯子さんにですよ」

「あー、口が上手いんだー」

そう言うと、唯子さんはパジャマの上のボタンを外してゆく。ショーツと揃いの白いブラが目に染みる。
それにしても、休日でも女の人はこんな凝った下着を身につけるものなんだな。
やはりこれもお洒落の一部なのか。

そんなことを考えているうちにパジャマの前は完全にはだけられ、唯子さんのスタイルのいいプロポーションが眼前に晒されていた。
豊かな胸や、腰のくびれに可愛いおへそ。俺の目には、あらゆる女性らしさが詰め込まれた身体に思える。
本当に、ただ綺麗だった。


「…も、もう。少し恥ずかしいよ?」

まじまじと見つめてしまっていたのか、唯子さんは視線から逃れるように身をよじらせた。

「…すみません」

童貞じゃあるまいし。しっかりしろ俺。
…でもいつ見ても綺麗なものは綺麗なのだ。

「もう…」

唯子さんは恥ずかしげな顔のままで、ブラのホックに手をかける。
ぱさり、とブラが静かに畳へと着地した。
豊かな胸のふくらみが、生まれたままの姿で俺の目に飛び込んでくる。

「ほうら…」

脱いでいる間に少し調子を取り戻したのか、唯子さんは俺の手を取ると自分の胸にそっと押し付ける。
ふにゅん、と俺の手の形に胸が歪む。その圧倒的な柔らかさに俺は思わず指を曲げた。

「やん♪」

わざとらしい唯子さんの声にこっちが照れてしまうが、もうそのまま構わず手全体で胸を揉んだ。
正直もう唯子さんの前で恥ずかしがっても仕方がないだろう。
指を押し返す柔らな弾力を確かめるようにしながら、俺はふにふにと胸を揉む。
既に硬くなり、その小さな存在を主張する乳首も、手のひらで触れるか触れないかのようにして先端を擦った。

「な、なんだかナマイキな触り方だなあ…」

長い付き合いからの経験でわかるが、要するに、感じているということだ。
この人はなんだか、俺と二人の時はとにもかくも主導権を握りたがる。
侵略すること火の如く。攻めたがりなのだ。
それでも、しばらくの間胸を揉み、足を撫で、首筋を吸う俺の愛撫に身を任せていた。
ちなみに俺自身は、こんな風に唯子さんが心地よさそうに恥ずかしそうにしているのを見るのも好きだし、
俺を攻めながら楽しげにニコニコしている唯子さんを見るのもどちらも好きだ。攻守自在。

「…はい、もうおしまい!」

「むむ」

「それじゃ、そろそろ…」

そう言って俺の愛撫を中断させると、唯子さんは腰を上げてショーツに手をかけそのまま引き下ろしていく。
ことさら見せ付けるようにゆっくりと。
淡い陰毛が露になり、白い紐のようになったショーツがくるくると巻かれながら肉付きのいい太ももを滑り落ちて行き、
そして足首を抜けると、ぽい、と放られた。
そのまま唯子さんは片手で俺の上体をそっと倒すと、ヒザ立ちで俺の腰に跨るような体勢をとった。
俺のモノを掴むと、先端をぴたりと閉じられた割れ目に擦り付ける。何度も。
既にその入り口からはかなりの量の愛液が滴り落ちている。
イタズラに笑いながら、唯子さんはからかうように俺を焦らす。

なんだかあまりにも自然にマウントポジションを取られてしまっているが、
これはこの片桐家の中でのパワーバランスがごく自然に表れている形といえよう。
言うまでもない気がするが、俺はこの人に全く頭が上がらない。いや筆下ろしされたからとかそんなんじゃなくて。
…されたけど。

「ふふーー」

「う……あれ…?」

期待と諦観からなすがままにされていた俺はその瞬間に重大なことを思い出した。

「そ、そうだ、コンドーム…!」

「う〜ん。取りに行くのもめんどくさいよねー」

唯子さんはわざとらしく言いながら、突然焦らす動きをやめて腰を落とそうとする。

「ダ、ダメですよっ!」

唯子さんとの子供…想像に胸をときめかす自分を押し殺して、俺は強く言った。
俺にまだその責任を取る甲斐性がない以上は、避けなければならない。

「むー」

すんでの所で腰を止め、唯子さんは不満げに俺を見やる。

「…ダメなものは、ダメですよ」

子供を育てるには、十分な後ろ盾が必要だ。俺にはまだそれがなかった。

「俺たちだけの問題じゃありませんから…」

半ば自分に言い聞かせるように、俺は言葉を続けた。
一応はそういう営みなのだから、生まれてくる子供のこともちゃんと考えなくてはならない。

「…わかったよう」

そう言うと、唯子さんは今にも下ろしそうだった腰をずらした。
ふう、と俺が息をついた瞬間に次の言葉が耳に届く。

「…でも、これならナマでおっけーだよね♪」

唯子さんは俺のモノを腹へ倒すと、その上に腰を下ろした。
女性器と自分の腹に挟まれて、俺のモノはわななく。

「そ、それは……!」

「ふふん……ほれほれ」

唯子さんは何故か得意げに笑うと、腰をリズミカルに前後に振った。
少しほころんだ割れ目が熱い液をまぶしながら俺のモノを扱いていく。

「んっ…しょ……!ふふー、気持ち…いいっ…?」

グイグイと割れ目が押し付けられ、根元から裏筋までしごき上げる感触がたまらない。
熱いぬかるみが男性器の形に合わせてぐにぐにと歪みながら吸い付いてくる

「ほらほら、どうなのかな?」

黙り込んで快感に耐える俺から何とか言葉を引き出そうと、唯子さんはどんどん攻め込んでくる。

「素股もいいけど、おまんこの中は、もっと気持ちいいよ〜?
 唯子さんのおまんこは、君のオチンチンならいつでもどこでも、生ハメ中出しおっけーだよ♪」

「な……」

あまりに露骨な誘惑に思わず生唾を飲み込んでしまう。喉の動きを悟られないようにと、俺は慌ててあごを引いた。
あくまで言葉を返さない俺に、唯子さんは眉をひそめる。

「……意地っぱりー……いいよ、もう。なら素股で、イカせちゃうんだから…!」

そして宣言と共に、腰の動きを強く大きくしだした。
男性器全体を、根元からほぼ先端の裏筋まで女性器で舐めるようにしてしごく。
唯子さんの汁と、俺の先走りですでに俺の腹部はネチョネチョになっている。

「あらあらお客さん、先走りがいっぱい垂れてますよー?
 プクーっとした雫で、ネットリしてて…すっごいエッチ…」

「う、うう……」

返す言葉もなく、俺はただ快感にうめくだけだった。

「………ね。少しだけ、目つむって」

唯子さんの心地よい重さと、トロトロの女性器で擦られる感覚に俺は限界をむかえそうだった。
そんな時に唯子さんから一つの提案が出される。
意味も分からずに、俺はただ従い目を閉じた。完全にこの場のパワーバランスは唯子さんに傾いている。
まぶた越しに少し光を感じるだけ。そんな暗闇の世界で、俺は快感に揺られ続けた。

「ありがと♪」

そう言うと、唯子さんは一旦腰の前後運動を止めて俺の下腹部から腰を上げた。
腰の上での、もぞもぞという動きが空気で感じられる。

「……唯子さん……っ!?」

何をしているのかを聞こうとしたその瞬間に、俺は圧倒的な多幸感に包まれた。
瞬時に目を開けて見ると、唯子さんが騎乗位で俺に跨っていた。

「な………」

してやられた、と思う思考も女性器の中に入った気持ちよさにとろけてしまいそうだ。
俺は何とか理性を保ち腰を動かそうとする。

「ダーメ。もう遅いよー?」

くすくすと笑いながら唯子さんはくいくいと腰を振る。
それと共にとろとろにとろけた唯子さんの膣ヒダが、俺のモノを包みながらグイグイとしごき上げる。
ネットリとした蜜と共に、男性器にぴっちりと食いついてくる膣内の感触に俺は圧倒された。

「先走りにも、いーっぱい赤ちゃんの素が含まれてるんだって。
 あんなにヌメヌメだったもん…もう私の中全部に、君の精子、染み渡っちゃってるもの…」

「こうやって動かせば…ぁっ、もっと…!」

くいっ、くいっと腰を回すようにして、唯子さんは細かく腰を振った。
待ちかねた、とばかりの女性器のヒダヒダによる熱烈歓迎に俺のモノは翻弄される。
散々素股で高められた後でのこの感触には抗いようがなかった。
膣の粘膜が、まるで主人の意を沿うように強く抱きしめ、絞り上げてくる。

「ほぅらぁ、何も…考えなくてっ、いいからっ…!
 わたしの、おまんこに…サイッコーに気持ちよく、射精…しちゃいなさい…!」

唯子さんの言うとおり、どう考えても手遅れだった。
俺は覚悟を決めると、唯子さんの腰のリズムに合わせて突き上げる。
子宮口の手前を先端で擦り上げ、ヒダの影をカリ首で引っかくように、激しく突いた。

「あっ、やっ…!そ、そんなのズルぃ…!」

俺は耳を貸さずに、ひたすら唯子さんの弱点を攻める。
しかしそれは向こうも同じことで、唯子さんも腰を激しく前後に振っている。
優しく、強く。急に激しく。ゆっくり。
唯子さんの腰のリズムに合わせて、膣内のうねりも縦横無尽に変化する。

「…唯子さん、俺は、もう…!」

「うん、うんっ!いいよ、いいよぉっ!私の、おまんこに…出して…っ
 膣内に、いっぱい、いっぱい…!出して…ぇっ…や、やぁあん…っ!!」

卑猥な誘いに、俺は限界を迎えた。唯子さんの中で、自分が激しく脈動するのがわかる。

「…つっ…!あはぁ…っ…!出てる…出てるよー…びゅくっ、びゅくって…すごい…」

自分も絶頂に達していたのか、深く息を吐きながら唯子さんは俺の胸に顔を埋める。
そのゆったりとした動作とは裏腹に、膣内はビクンビクンと痙攣するように俺のモノを締め上げ、絞ってゆく。
それに反応して、俺のモノも精液を吐き出し続ける。
俺たちはしばらくの間繋がりあったまま、深く息をつき寄り添い合っていた。


「………ねえ、怒ってる…?」

「怒っても、仕方がないでしょう」

部屋に常備してあるティッシュで行為の後始末を済ませ、俺と唯子さんは言葉少なに座り込んでいた。
唯子さんはわからないが、俺は当然、思いっきり生で膣内射精をしてしまった事について考え込んでいた。
これからのことを考えないといけない。出したのは自分だし、責任も自分にある。
しかし、これは唯子さんにも真剣に考えてもらわなければ困る事だ。
…そう、唯子さん。唯子さんは、何を考えているのだろうか?
こんなに身近で、あけすけな人なのにそれは密室殺人よりも謎めいていた。ずっと昔から。

「…私との赤ちゃんは、や?」

不穏な声に、俺は正面から、唯子さんの顔を見据えた。
少し乾いた笑いと、笑いきれていない瞳。本当に、不安な時の顔。

「んなわけなかろう」

俺は即答と共にぐい、と唯子さんの身体を抱き寄せた。唯子さんも、俺に寄りかかるようにして身体を預けてくる。
さっきまでの積極も強引さも何処へ消えてしまったのか。
ころころと、逆転するバランス。童貞を奪われたあの頃から、ずっとこんな関係だった。

「…そんなことを確かめるために、こんな無茶はしないでください」

強く抱きしめながら、俺はきっぱりと言った。

「うう……」

俺の腕の中で唯子さんは縮こまるように身をすくめる。
雪原の子兎のようなリアクションに、俺は抱く力を強めて応えた。

「まったく、本当に…」

ちゃぽん、と湯船のお湯が跳ねる。屋敷と同じく広い風呂場に、真相を聞かされた俺のぼやきが溶けた。
二人で湯船に浸かりながらくつろぎモード。
俺は足を開きながら木張りの浴槽に腰を下ろし、唯子さんはそんな俺を背もたれにしていた。

「い、いいじゃない。ちゃんとお薬飲んでたんだから…」

「それにしたって、あまり体にいいものでもないでしょう?」

「うう……」

言うことは言った。温かな湯の中で、俺は唯子さんを背中からそっと抱いた。
湯気が立ちこめる中、十分に暖かい湯船の中であっても温もりが欲しい。それはきっと、お互いに。

「あ………」

かすかな声を漏らすと、唯子さんは体から力を抜く。二人の上気した吐息だけが耳に届いた。
なんだか悪くない雰囲気にのぼせてしまいそうで、俺は日常に回帰すべく軽い調子で話題を放る。

「そういえば、女の人ってやっぱり休日でもあんなに綺麗な下着をつけるんですね」

「…む」

………デリカシーにかける質問だったか?振り向いた唯子さんの目は不機嫌に細められていた。

「あれは、とっておきです」

唯子さんは俺の腿を軽くつまみながらぴしゃり、と言い切った。

「そうだよ。ずっと用意して待ってたのに」

この人と来たらおこたでアイスで大河ですよ。とぶつぶつ呟く。

「………そうか」

起こすのもなんだなと思いそっとしていたせいで、今日は唯子さんが自分から降りてくるまで一度も顔を合わせていなかった。
まさか唯子部屋にそんな策がめぐらされていたとは知る由も無い。

「だから今日の残り時間は、しっかり独占させてくれないとね♪」

いつもの調子でそう言うと、唯子さんがさらに身体を摺り寄せてくる。バランスはまたも逆転していた。
俺は何も言わずに、押し付けられた背中を抱く。
窓からの光量は、日が沈んだことを示していた。きっと外では音もなく雪が薄闇の中を舞っているだろう。
押し付けられた身体はとても暖かく。夜は、長くなりそうだった。