「アーマーブレイク!」
 鋭い叫びと共に、分厚い甲羅が砕かれる音が響いた。
 それと同時に無数の鉄の矢が飛来し、装甲を失ったカッパークゥダフに突き刺さっていく。鉄壁の防御を失った亀の怪物にその鉄の雨を防ぐ術はない。
 崩れ落ちる略奪兵のクゥダフを踏みつぶし、さらに分厚い装甲をまとった熟練の戦士クゥダフが進撃していく。
 デルフラントはパシュハウ沼の最奥部。ベドーと呼ばれるその場所で、戦いは繰り広げられていた。
 対するのはバストゥーク。大統領府直属のミスリル銃士隊と在野の冒険者とを主力とした、混成部隊である。
 ほんの入口とは言え、ベドーはクゥダフの本拠地だ。兵は強く、数も多い。
そのため、冒険者も3国に認可を受けた公認冒険者以上の手練れが集められていた。

 そんな中、少女の声が響いた。
「先行するね! フォローよろしくっ」
 まだ幼さの残る体を薄い鉄の鎧で包み、やや小振りな両手斧を勢いよく
振り回す。先程、覚えたばかりのアーマーブレイクでクゥダフの甲冑を叩き割ったのが、彼女である。
 もちろんバストゥークの正規の軍人ではない。百人隊長相当の地位を与えられた、在野の冒険者だ。
「チルカ、離れすぎ! もう少し下がりなさい!」
 仲間の声に半歩さがりかけるも、ちらりとある一点に目が泳ぐ。
「だぁぁぁぁっ!」
 薄茶けた鎧をまとい、腹からの気合と共に長剣を振るう彼の姿を。かけ声こそ情けないが、それでも刃を振るう度、クゥダフが分厚い装甲ごと確実に崩れ、物言わぬ躯となっていく。
 ミスリル銃士隊は第5位、ナジ。
 チルカが冒険者になった時、初めて色々な事を教えてくれたのが彼なのだ。
アヤメやアイアンイーターと違い、近寄りがたい雰囲気がないのも有り難かった。
 趣味が悪いと友達は笑うが、どうでもいい。
「やーーーーーっ!」
 やがて彼と並び、戦うために戦士の道を選んだ。
 彼と肩を並べるためには、これではまだ、足りない。
「大丈夫! 何とかしてみせるって!」
 斧を構え直し、さらに奥へと進もうとするチルカ。
 その瞬間、空が歪んだ。
 チルカが、黒魔道士達が詠唱してた呪文でこんなのがあったな……と思った
のも束の間。
「ファイガ!」
 空と大地を真っ赤な炎が渦巻いた。
 戦場となっていた沼沢地の上。少しの高台となっている場所から、クゥダフ
魔道士達が範囲呪文での一斉掃射を行ったのだ。
「戦士達は敵を引きつけろ! 後衛を死守! 撤退! 撤退ーっ!」
「ほら吹きゴ・ブ! 何でこんな大物指揮官が、こんな所に……ッ!」
 ナジの慌てるその声が、チルカに届いた最後の言葉だった。

「……え?」
 少女が目を覚ましたのは、薄暗い一室だった。
 体の上に布が掛けられている上、縛られた様子はない。だが、大工房の
金属臭と錬金術ギルドの薬品臭が混じり合ったような異臭に、土作りの
部屋。床に至っては半ば泥に覆われている。
 バストゥークではない。間違いなくベドーの居住区の一室だろう。
 捕まったにしてはあまりにまともな待遇に首を傾げていると、音もなく扉が開き、何か巨大な者が入ってくる。
「起きたか、人間」
 それは4匹のクゥダフだった。
「あ、あんたッ!」
 反射的に拳を構え、咄嗟に寝台を蹴って先頭のクゥダフに飛びかかる。
勝ち目がないのは分かっているが、上手くいけば隙の一つも作れるかも
しれない。そうすれば、逃げるチャンスも生まれてくる。
 守りのない喉を狙い、鋭い拳の一撃。
「無駄だ。人間」
 殴った瞬間、手甲をはめた拳が砕けたかと思った。
「……っ痛ぅぅ……」
 ガルカよりも大きな体躯に、壁ほどもある分厚い背甲。それ以外の頑丈さも
見ての通り。戦いの最後に現れた名のあるクゥダフよりも、こいつらははるかに
強い。
 共和国で言えば、鋼鉄銃士隊の精鋭達か、それ以上の強さ……。
 こいつ等が先程の戦闘に出て来ていたら、と思うと、背筋にすっと寒い物が
走った。

「トパーズ」
「……はい。エンシェント」
 先頭のクゥダフが名を呼ぶと、後ろに控えていた少し小柄なクゥダフが呪文を唱え始めた。やがて放たれた淡い光と共に、チルカの腕から痛みがすっと退いていく。
「……ケアル?」
 その行為に、チルカは目を疑った。
 オークに捕まって慰み者にされる者。トンベリに供物にされる者。忌まわしい
獣人旗の飾りにされる者。獣人に破れた冒険者の悲惨な末路は、冒険者の間
でもよく知られたものだ。しかし、人間を助け、あまつさえケアルまで唱える獣人
なんて聞いた事がない。
「……あたしをどうする気!」
「どうもしない」
「は?」
 今度は耳を疑った。
「オーク風情は犯し、ゴブリンどもは喰らう。だが、我らはそんな事、好まない」
 文化的な一族だから。と言ったクゥダフは、笑ったのだろうか。
「戦をすれば戦で返す。救えば……」
「救えば……?」
 反応に困ったチルカぐっと少女の首根っこを捕まえ、無理矢理前のめりに屈ませる。
「ひゃ……ッ!」
 クゥダフの手のぬるりとした感触の後、ちくりという鋭い痛み。鎧と肌の間に、何かが押し込まれたらしい。
「な……何っ……!? あんたたち、何入れたのよっ!」
 体の上を何かが這い回っている感触に、チルカは身を震わせた。金属鎧の内側では手も届かない。毒虫でも入れられていたのなら、命の保証は……。

「ヨロイ蟲」
 チルカの問いに、トパーズと呼ばれたクゥダフが平然と言い放った。
「よっ……!?」
 時折競売や釣場で見かける、何だか気色の悪い虫が頭をよぎる。
「な、何てモノ入れるのよぅっ! やだ、やだっ! ちょっと、落ちないっ!」
 要塞の巨大甲虫や巣の芋虫は平気で殴るクセに、柔肌に触れられたとなれば恥も外聞もない。慌てて鎧を外し、上着を脱ぎ捨て、下着姿になった所でようやく黄色の蟲がぼとりと転げ落ちた。脛当を履いた脚で泥の上を何度も踏みつぶし、荒い息を吐く。
「アンタ……達っ…………?」
 そう言ったチルカを、もうクゥダフ達は見ていなかった。
 チルカが脱ぎ捨てた泥だらけの百人隊長鎖帷子を取り、しきりに検分している。
「……? 何、してるの?」
「この鎧の改良技法、我々見た事がない。お前の斧も、面白い改良加えられてあった」
「あ……」
 チルカはその斧と鎧が、バスの鍛冶ギルドが官給品に独自の改良を施した物
だという事を思い出した。鍛冶職人の友人からのツテで、実用試験を頼まれたのだ。
「だから助けた。お前はついで」
「ついで……」
「しばらく待っていろ。外に送り届けてやる。我々は、協力者を裏切る真似はしない」
 かつてパシュハウ沼の地図を作った人間を助けたように。
 エンシェントと呼ばれた老クゥダフはそう呟くとチルカから視線を外し、再びチルカの鎧に興味を戻すのだった。

「……ねぇ」
「……ここの改良、興味深い。背甲の節に応用出来そう」
 返事がない。クゥダフ達は分厚い甲羅を寄せ合い、何事か話し合っている。
「……ねえってば」
「サファイア、背甲の調整したがってた。それで試そう」
 チルカは少し大きな声で呼んでみるが、それでも返事がない。
「ねえ!」
 挑発で使うような全開の声。
「何だ、人間」
 それでようやく、老クゥダフがうるさそうに振り向いた。
「この部屋、何か暑くない? あと、トイレどこ?」
 鉱山区にあるスラム街の奥の奥。錬金術ギルドでも漂わないような異臭に辟易しながら、チルカはぼんやりと漏らす。閉めきられた穴蔵は妙に蒸し暑い。
下着のままの肌には薄く汗が浮かび、頬も軽く火照っている。
「しない。いつもと同じ。小便、そこの溝で足す」
 様々な廃液をごちゃ混ぜにしたような、異臭漂う排水溝をちらりと一瞥し、老クゥダフは再び鎧へ。
「嘘でしょ!?」
 もうしばらく大人しくしてろ、と今度はトパーズに言われ、チルカは再び黙る。
「外は……」
 スライド式のドアを少しだけ開けてみると、降りしきる雨の中、老クゥダフやトパーズほどもある大柄なクゥダフ達が歩き回っていた。
「外の連中、見つかれば、殺される」
「……早く言ってよ、そう言う事は」
 ぼそっと呟いたエンシェントに呟きで返し、下着姿のチルカは元の場所に戻ろうとして。
「ひぁ……っ!」
 後ろから尻を掴まれた感触に、思わず声を上げた。
「人間、鎧着ける。鎧の節が動く所、見てみたい」
「だからって、ねぇ……。先にトイレ」
 ガチャガチャと押し付けられる腰鎧をチルカは何とか押し返そうとするものの、クゥダフ達も納得する様子はない。
「駄目。まず鎧。それから小便」

「うー」
 素肌に直接伝わる鉄鎧の冷たい感触に、チルカは身を震わせた。
 クゥダフ達が鎧を着るのを無理矢理手伝おうとしたため、鎧を着るだけにいつもの何倍もの時間がかかっている。その上「とにかくゆっくり歩く」と指示されたため、たった数mの距離にある溝まで、スローモーションで歩く羽目になっていた。
 ほんの目の前にあるトイレまでが、凄まじく遠い。
「ちょっと……見ないでよ」
「人間、無茶言う」
 クゥダフに完全包囲されたまま、文字通り亀のようにゆっくりと歩く。所々にクゥダフの粘液や汚泥が絡み付いた鉄鎧は冷たく、尿意で一杯の腹をじんわりと冷やしてくる。いつもは服で覆われた関節部分が肌にこすれ、悲鳴を上げそうになる。乳首が薄布一枚を隔てた金属板に押され、息を漏らしそうになる。
 そして、粘り付くようなクゥダフの視線。
 痛みと羞恥と尿意にまみれたチルカは、それでもゆっくりと歩を進めていく。
「そこで、小便する」
「……見ないでってばぁ……」
 顔を真っ赤にしてそう言いながらも、ヘドロの流れる汚濁の溝の上にまたがるチルカ。
「我々は人間ごときに劣情など催さない。興味があるのは、その蝶番」
 文化的な一族だから。と言ったクゥダフは、笑ったのだろうか。
「そういう問題じゃなくって……」
 4匹のクゥダフの視線に曝される中。ゆっくりと左右の掛けがねを外し、溝のヘドロが付かないように股当を外す。
「もういいでしょ……。股当も外したんだし」
 ここからは下着だけだ。人間の体には興味などないと言っていたではないか。
「鎖帷子の動き、見たい。早くしゃがむ」
 ぐっと肩を押さえつけられる。チルカは涙すら浮かべ、そっと体を降ろした。
「ん……っ……」
 カシャカシャと鎖帷子がチルカの細身の通りに動き、しゃがみ込む少女の上半身をクゥダフの視線から守り通す。ほぅ、とかふむ、とか言って同じくしゃがみ込むクゥダフに囲まれたまま、チルカは半泣きで下着を少しだけずらし、裸になった下半身に力を込めた。

「ふぅ……ぁ……っ……」
 ちょろ……じょぼ……じょぼじょぼじょぼ……
「ほぅ」
 見られてない。見られてなんかない。必死にそう言い聞かせるチルカだが、彼女が少し身じろぎをするたびに、研究熱心な亀達は感嘆の声を漏らす。
「ふむ……」
 見られて……ない。
 4人のクゥダフに囲まれているのに。
「おお……」
 見られて……。
 下半身丸出しで、あまつさえ放尿しているというのに。
「や……だぁ……」
 体が熱い。
「ほほぅ……」
 視線が痛い。
「ぉぉ……」
 じょぼじょぼという音がちょろちょろになり、やがてぽちゃ、という音を最後に
長い放尿は終わりを告げた。
「ぉう」
 ゆっくりと立ち上がる。
「これは……」
 下着を直し、股当を受け取ろうとして……。
「もう一度鎧、脱ぐ」
「ま……た……?」
 体が熱い。
「そう。節の検討したい。それからまた着て、我々の言うとおり、動く」

 もうチルカは逆らわなかった。
 亀たちの熱の籠もった視線を一身に受けながら、ゆっくりと百人隊長鎖帷子を
脱いでいく。先程のヨロイ蟲の時のように、ぱっと脱ぐような真似はしない。「出来るだけゆっくり脱ぐ」というクゥダフの注文に自ら答え、クゥダフの視線のシャワーと感嘆の声を全身に浴びながら、ゆっくりと。
 小振りな胸が、戦いで引き締まった腹が、細身の腕が露わになる度、感嘆の声が漏れ、視線が注がれる。
 ねぶるような視線に身を震わせ、少女は瞳を潤ませる。
 恥ずかしさに死にそうになるが、その内側から湧き出す不思議な感覚に、さらに身を震わせ、亀たちの言葉に従っていく。
「腕と足も、片方だけ脱ぐ」
 細いが鍛えられた足から指先まで8対の眼に曝し、半裸になったチルカはあは、と小さく吐息。
「なら、今から、鎧着る」
 腕鎧は片手を検討に。残りをチルカに着るよう指示し、少女は小さく頷く。
「これ、股当」
 再びゆっくりと防具を身につけ、股当を受け取り、股間に回す。
 その時、ぐちゅ、と水音が鳴ったのを、クゥダフ達は聞き逃さなかった。

「今の音、何だ?」
「……え?」
「防湿性に問題でも、あるか?」
「あ……や、ひゃぁっ!」
 レザーグラブに覆われたようなクゥダフの指が無造作に股間に手を伸ばされ、
チルカの股当を上からぐっと押さえつけた。
 再びぶちゅる、という粘液質の音がして、黒いタイツにさらに黒い染みが広がっていく。
「ぁ……あは……ン……」
「他の所は問題ないのに、ここだけ問題ある」
 ぐりぐりとひねりを加え、他の研究者達にも分かるようにわざと水音を立てさせる。
「あ……わぁ……はぁ……ッ!」
 ただでさえ敏感になっていた所にこの仕打ち。身をかがめたエンシェントの背甲に両手を突き、少女は必死で身を立て直そうとする。
「こんなにあふれ出てきた。ここだけ、確かめる必要ある」
「ぇ……や、ぁんっ!」
 がちゃがちゃと金具を外す音に、くずおれそうになっていたチルカは必死に抗議の声を上げた。
「何か問題あるのか? 人間」
「え……ぁ……う、うん……。それぇ……」
 そこまで言って、口をつぐんだ。冒険者とは言え、チルカも年頃の女の子だ。
おいそれと口に出せるような内容ではない。
「人間の事、良くわからない。だが、口に出せない程度の問題なら、大した事ない」
 軽く言い切り、エンシェントは再び金具に指をかける。
 太さの割に器用に動く指が、少女の腰鎧の束縛を解き放つ。
「や、あぁっ」
 そこに現れたのは、ビシャビシャに濡れた少女の下着だった。尿ではない、もっと粘液質のもので、水が滴るほどに濡れそぼっている。
「下の布まで濡れているな」
 さらにその先を確認すべく、亀の指が下着に伸びた。
「や…やぁ……やだ、そこは……ぁ……ッ」
 下着と肌の間にザラザラとした感触が入り込み、ゆっくりと下に下げる。

「あそこなのぉっ! 私のエッチな所から出てるだけなの! 防湿性とは全然問題ないのぉっ!」
 泣き声で叫んだ時には遅かった。
 指一本で引き下ろされた下着の奥は外に曝され、ごぽりと愛液を吐き出す口が、薬品臭の漂う空間に露わになっていた。しゃがんだ姿勢ではない。4匹のクゥダフの前に、今度こそ少女の大事な所は露わにされている。
「はぁ……ぁあ……ぁ……」
 涙に答えるように、とろりと流れ落ちた愛液がつつ、とずり落ちた下着にこぼれ落ちた。膝から力が抜け、泥の床の上にぺたんと崩れ落ちる。
「雌の生殖行為か……」
 嘲るようなエンシャントの言葉に、体が火照るのが分かった。
「雌……」
 その一言で、チルカの何かが壊れた。
 金属に覆われた右手がゆっくりと股間に伸び……。

「あ……はぁ……っ。いい……いいのぉ……」
 汚れたベッドの上。チルカは4匹のクゥダフの前で自慰を曝していた。
「ふむ……」
「ほぅ……」
 チルカが小さな身体を揺らし、身を震わせる度、クゥダフ達は感嘆の声を漏らす。
もちろん、その間も彼らの目はチルカの自在に動く鎧に注がれたままだ。
「もっと……もっと見てぇ……。指……先ぃ……」
 ビチョビチョに濡れた金属の指先を、ぐりぐりと股当の股間にこすりつける。
タイツに覆われたそこを太ももまで下ろし、さらにその奥へ。
「ぁはあ…………っ……ナジ……さぁん……」
 手甲の指先は少女の愛液に温められ、ほんのり暖かい。自在に動く金属関節にクゥダフ達の視線を一身に集めながら、チルカは自らの中にその鋼の指を迎え入れた。
「あぁぁはぁ……ぁぁ……ぁぁぁん!」
 ぴんと立った乳首が胸元の鎖鎧を押し上げ、鎧の上からでもその形を露わにしている。硬くなったそれがこすりつけられる感覚に、さらに気持ちは高ぶっていく。
「自在に動く鎧。ぜひ実現したい」
 鎖鎧の動きを確かめるため、立った乳首の上を執拗に撫でるクゥダフの無骨な指が、快楽を加速させる。時折金具を外し、中の動きを見るために胸を露わにされるが、そこに向けられる視線さえ今のチルカには心地よいものでしかなかった。
「はぁっ……触って……触ってぇ……」
 鎧の上からは触れてくるクセに、いやらしく濡れる処には関心を向けもしない。
その事が逆に少女に寂しさを感じさせ、言動を過激にさせていく。思考など、人体に有害な成分を含んだ廃液の臭気で既に麻痺しきっていた。
「足りない……足りないのぉ……」
 果てはクゥダフの手を取り、自ら誘う始末だ。
 クゥダフの指を股間に引き寄せ、ぱっくりと口を開けたそこにくわえ込む。
「指ぃ……指、いいのぉぉ……っ!」

『うーん……。困ったわね、トパーズ。帰すと約束をした以上、守らねばならないし。貴女、何か良い案はないかしら?』
 むしろ、ここまで来るとクゥダフの『彼女達』の方が困っていた。
『エンシャント。リーチャーとトレーダーが来ていたから、彼女達に託すというのはどうでしょう?』
 ベドーに良く来る、ゴブリンの医者と貿易商の二人組だ。噂では人間とも付き合いがあると言うし、女性でもある。この人間の雌に対しても、悪いようにはしないだろう。
『そうね……そうするしか、ないか』
 いかに憎い人間相手とはいえ、クゥダフは約束を守る。
 それが、はるか昔からの部族の誇りなのだから。


『懐かしいわね……。まさか、貴女が女だとは思わなかったわ』
 そう言い、流暢なクゥダフ語を語った少女……否、美女はゆっくりと立ち上がった。
『また技術供与に来たか、人間。随分と我々の仲間を狩ってくれたようだが』
 少女のまとう鎧の色は蒼と銀。ダークキュイラスは、バストゥークで開発された最新鋭の鎧だ。
 ゴブリン達の手によって人間の世界に戻された後、彼女は戦士である事を辞め、さらに業深い戦いの道を選んだ。ナジよりも深い、ザイドにまで至る暗黒の道を。
『……まさか』
 老クゥダフの問いを、美女は昔と同じ笑みで一笑に付す。
 構えた武器は斧ではなく、両手持ちの大鎌。だがこれも、バストゥークのダーク鉱を用いた最新型。
『今度は、貴女を倒しに来たの。貴女の腕が鈍ってなければ良いけれど』
 かつての二人の間には、圧倒的な隔たりがあった。
 だが、今の強さは同じ。老女は老い、少女は修羅の戦士へ成長した。
『ほざけ』
 周りを取り囲む戦友に加勢は無用と叫び、老いてなお戦士の道を選んだ老女は剣を引き抜く。
『……参る!』
 二人の戦いの行方を伝える者は……。