2度目は、一週間後位であったか。
孤児であり、国の規定で戦績を納めなければならないアリアは、
街を襲ったノートリアスモンスターとの戦いで、ジュノ警邏隊を支援した功績が認められ、
特別に数ヶ月分の免除を受けた。

「信じられない…こんなの、初めて」

下層の酒場にて。戸惑うアリアは、ただただ呆然と目の前の酒と料理を眺めていた。
困ったようにルーヴェルと、そして彼のギルド仲間を交互に見つめては、溜息を付く。

「まぁまぁ、今夜は新人さん祝いだ。ぱ−−−−−−−っとやろう、ぱ−っと!」

ヒュームの騎士ゼノンが、なみなみとエール酒(ビール)のつがれた大ジョッキを、
無理矢理アリアに押しつけた。その際、何か言いかけたルーヴェルをぎろりと視線で威嚇する。
モンクの修行をしているミスラの娘、ゼノンの被保護者でもあるミューリルが、
こめかみにぴくぴくと青筋を立てていた。その姿を、赤魔道士の青年ディルムッドが、
肩をすくめて眺めている。

「では、我らがリーダーにもう1回音頭をとって貰おうかな、っと」

軽く咳払いをして、ゼノンはギルドリーダーであるタルタル族の男、パウ・チャに視線を向けた。
それを受けて、パウ・チャは渋々舞台に上がり、ジョッキを掲げる。

「…アリア、俺のギルドに来てくれて感謝する。では…その、乾杯」

「パウ、何を照れているんだ。普通にすればいいだろう、普通に」
パウ・チャの恋人でもあるエルヴァーンの女騎士サフィニアがすかさず突っ込んだ。
すでにそのジョッキが何杯目のものなのか、誰にもわからない。

「今日は俺達のおごりだ。好きなだけ飲み食いしていいんだぞ、アリア。
 何、遠慮しなくていいよ、お礼は後で幾らでも体で…がふっ!」
「ねぇねぇアリア、これすごいだろ〜。みーんな、ルーヴが作ったんだよ〜」

程良く焼けたソーセージの切れ端を、口の中にぽいっと放りこみつつ、
ディルムッドがにこにこ笑いながらそう告げた。その右手ににぎられたジョッキは、
ゼノンの頬にめりこんでいる。

「ルーヴってほんっっとに、アリアの事が好きなんだね〜。ブアイソでだんまりな癖に、以外とむっつりスケベェだし〜」

声に反比例して、ちらりとルーヴェルを見上げるその目は笑っていなかった。
普段寡黙なこのエルヴァーンの狩人が、怪我を負い、抵抗できなかったであろう白魔道士の娘を
手込めにした話はすでにギルド仲間全員に知れ渡っていたからだ。

「あー、そうそう、今晩よければ俺の部屋に泊まっていいよ〜。空けとくからさ〜」
「ちょっとディル、何鼻の下のばしてんのっっ!だいたい、その子に部屋貸してどうすんのっ!」

きーきー喚くミスラの娘を見ると、金髪の青年はちょっと首を傾げしばらく考え込むと、ぽんと手を打つ。

「あ、心配しないで。ミューの部屋に泊めて貰うから!」

ごすっ、と鈍い音がしてディルムッドの体が地に沈んだ。鳩尾にミューリルの鉄拳を受けたからだ。
その後、ルーヴェルが彼の背を踵で踏みにじったのには、残念ながら当人同士にしか気付かれなかった。

「…ぷはっ」

ルーヴェルが慌ててそちらを向くと、ゼノンに一気飲みを強制させられたアリアが、
ご丁寧にジョッキの中身を全てカラにしてしまっていた。口の周りに白い泡が残っている。

「はれ?」

黒髪が揺れたかと思うと、その体がふ−っと真後ろに倒れ始めた。

「アリアっ!?」

ギルド仲間の紹介にいちいち頷き、返事をしていた彼女である。ほとんど料理に手をつける暇など無かったはず。
空きっ腹に酒を流し込めばどうなるか。よほどの酒飲みでもなければ明白だ。
椅子ごと床に叩きつけられる寸前に、ルーヴェルの腕がアリアを抱き留めた。

「いやん…ぐるぐるするぅ…」

泣きべそをかきながら、真っ赤な顔でアリアは必死に訴えた。すでに呂律が回っていない。
うるうると潤んだ瞳でルーヴェルを認めると、その胸にきゅっと縋り付く。

「ゴラ!触るなムッツリ助平!!」

その様子にただならぬ雰囲気を覚え、ゼノンが喚くが、後ろからミューリルの容赦のない回し蹴りをくらい、
これまた大地に沈む。彼女にしてみれば、ルーヴェルとアリアがひっついているほうが好都合なのだろう。
ただ、やはり彼女も生娘である。ルーヴェルの行動を容認するにはまだ潔癖すぎるのか、
どうしても見つめる視線が厳しくなる。
壊れ物を扱うかのように、エルヴァーンの青年はヒュームの娘を抱き上げた。

「おい」

酒場を後にしようとする彼に対して、ギルドリーダーの男は声をかける。

「この前言ったこと、忘れてはいないだろうな?」

数年前、とある事件に巻き込まれた彼の身柄を保護し、新しい道を示したパウ・チャは、
先だってのこの青年の暴挙を示唆するような物言いで、そう釘を差す。

「無論だ」

互いに想い合っているのは分かっていた。
だがそれでも、その距離があまりにも早く縮まった事に、パウ・チャは危惧を覚えずにいられない。
運命に流されているかのような、ふたり、だから。

「だが…すまない。もう、遅い」

重い樫材の扉が、静かに開き、そして閉じられた。



「あふ…」
酔いの醒めないまま、アリアはルーヴェルの部屋の、彼のベッドに横たえられた。呼吸が浅い。
青年は無言で水を汲み、娘の体を抱き起こすと口元にカップを添えてやる。
こく、こく、と細い喉が上下し、こぼれた水がつうっと顎を伝ってこぼれてゆく。
「暑いよぅ…」
半べそをかきながら、アリアはそう訴えた。服の襟元をゆるめながら、苦しそうに息をする。
露わになった胸の谷間に、ルーヴェルはぎくりとした。呼吸する度、男の視線が釘付けになる。
もう少し酔いが醒める待つつもりであったが、白地のズボンの裾から覗く、
足首の細さとその白さに誘われた青年は、黙ったままとうとう上着を脱ぎ捨てた。

ゆっくりと娘に覆い被さる。

「ルーヴ…さん?」

亜麻布で作られた下衣のみの姿になると、ルーヴェルは無言でアリアの服の留め金に手をかける。

「え…っ」

ひやりとした空気を、アリアは肌に感じた。潤んだ瞳がさっと緊張する。そして唇が重なった。
慌てて呼吸をしようとして開かれた口の端から、ルーヴェルの舌が侵入し、抗議の声がかき消される。
顔を放すと、男は手を伸ばし、愛おしげに彼女の頬をなぞる。水色の瞳が、恋情と欲情で揺れていた。

「嫌か?」

彼にしてみれば、ギルドメンバーに鉄拳制裁と言う名の釘を刺されたために、彼女が回復するまでの
一週間をただひたすら悶々と待ち続けなければならなかったのだ。
互いの想いを伝え合った、あの夢のような時間を、もう一度確認したいという思いもあったが、
加えて、健康な青年男性としての生理的欲求を我慢するのにもそろそろ限界だった。
口ではそう問いかけながらも、その手は的確に、アリアの服をほどいていく。

「男の人って、こういうの好きなんですか…?」

心底困った顔で、彼女はそう問いかけた。ルーヴェルの手に自分の手を重ね、拒絶するかのように
きゅっと握りしめる。その仕草が、逆に彼を萌え…いや、燃えさせてしまう。

「すまない。これでも、ずいぶん我慢している」

さらっと素直に欲求を口にする自分。ルーヴェルは言ってしまってから、はたと気付いて内心慌てた。
どう見ても色恋沙汰に不慣れな小娘相手に、自分は一体何を期待しているというのだ。
深い紫紺の瞳が、彼をじっと見つめている。動揺を悟られたくなくて、青年は唐突に動きを早めた。

「…!」

アリアの手を振りほどくと、彼女の身を覆うローブを引き剥がし、下着の留め金を外す。
小振りな胸が露わになり、つんと上を向く乳首ごと己の手で包んでしまう。
「ルーヴっ、さん…っ!」
やわやわとした感触の奥に、確かな弾力が存在するのを、手のひら全体で感じようとする。
「いやです、こんなの…!わたし…っ」
今にも泣き出しそうな表情のアリアに顔を近づけ、その首筋をきつく吸い上げた。
しかし、前回と反応がまったく変わらない。ただ戸惑うばかり彼女は、ルーヴェルの愛撫に怯えている。
自由な方の片腕で、覆い被さる男の体を必死で押しのけようとしてるのに、彼はやがて気付いた。
いったん中断し、ルーヴェルはまじまじとヒュームの娘を見つめる。

「アリア…」

沸き上がる劣情をぐっとこらえ、ルーヴェルは彼女を見つめ続けた。彼女を抱いたまま体を起こし、
そのまま壁に背を預けて向かい合う。
「怖がらないでくれ、傷つけたくない」
アリアは困ったように瞳をそらす。その体を、エルヴァーンの青年は優しく抱きしめた。

「あの、こういう事、分からない訳じゃないんです…その、他の人がしてるの、見たことありますし、
 一応…襲われたりとか、求められたこと、ありますから。未遂でしたけど…」

歯切れ悪く、アリアはぼそぼそと弁解した。その一言一言が、ルーヴェルの胸に突き刺さる。
きっと彼女は今、自分の傷をさらけ出してるはずだから。

「ごめんなさい…わたし、何もわかってないんですね。やっぱり怖いです…でも」

震えながら、アリアはルーヴェルの胸に縋る。その相反する行動に、青年の理性は激しく揺さぶられた。
腕をほどくと顎を捕らえ、上を向かせる。戸惑う瞳が涙で濡れていて、ルーヴェルを高ぶらせた。
ちゅっと音を立てて、軽く唇を吸う。もう一度、今度は少し長く口づける。

「覚えれば、いい。ひとつづつ」

掠れた声で、男は悪魔の誘惑のようにそう囁いた。己の劣情のまま目の前の娘を捕らえようとする。

「俺はお前が欲しい、だから、怖がらないでくれ…」

欲しいのは、Yes[肯定]だけ。だから、そのままアリアの唇に自分のそれを重ねる。

「口を開けろ」

え、といいかけたその隙間に、青年は舌を割り込ませる。驚いて引っ込む彼女の舌を捕らえ、存分に弄ぶ。
彼女の全身がやがて緊張し、ルーヴェルの胸をどんどんと叩いた。
開放してやると、酸欠寸前の彼女はぷあっと息を吐き、軽く咳き込んだ。涙目が、彼を見上げる。

「口を閉じるな。息が出来ないだろう…」

言って、再度キスを交わす。今度は深く差し入れず、アリアの呼吸を見計らいながら、口腔をなぞってやる。

「こう…ですか?」

真剣にそう問うので、ルーヴェルは自然と微笑んだ。前にそんな風に笑ったのは、いつだったかも忘れて。
そうやって幾度も舌をからませ、唇を重ねる。唾液が溢れて、糸をひいた。

「あふ…」

羞恥で上気した頬を認め、ルーヴェルは再びアリアを寝台に横たえる。
ゆっくりと顔を移動させ、滑らかな首筋に舌を這わせる。今度こそ、アリアは抵抗しなかった。
両手で胸を覆い、ゆっくりとその感触を確かめてやると、娘はくすぐったそうに身をよじる。
「ん、だめ…そんな」
桜色の先端をきゅっと挟み込み、反応を楽しんだ。抗議の声を無視し、吸い付くと戸惑う声が漏れる。
「ルーヴさん、駄目ですよ、そんなとこ…」
「アリア…?」
性的な反応に欠けるそのリアクションに、困惑を覚えながらもルーヴェルは慎重に動向を伺った。
嫌がってはいないが、動揺が消えてはいない。それでも、白い腕が彼の首に回され、きゅうとしがみついてくる。
ゆるゆると力を抜いて、青年はその行為に従った。そして、アリアの胸に顔を埋める。

「温かいな」

とくとくとく…、少し早いリズムで響く彼女の鼓動に、ルーヴェルは耳を傾けた。

「そうですか?」
「ああ。心地よいよ」

顔を上げて、見つめ合う。アリアはルーヴェルのその言葉に安心したかのように、微笑んでいて。
それは、普段彼女がパーティーで白魔道士として行動している時からは想像も付かない、
艶やかな表情でもあった。ぞくぞくと、ルーヴェルの背筋を劣情が駆け昇る。

自分が、彼女に、こんな顔をさせている。自分以外の誰も、この娘の、こんな表情を、知らない。

「ルーヴさん…?」
ランプの明かりだけで照らされる、陰影の濃いベッドの上に横たわるアリアが、不思議そうに問いかけた。

(たまらんな…)

胸の内で呟くと、ルーヴェルは再び欲望の下僕と化す。もう一度、乳首を口に含み、舌先で転がしてやる。
「やっ?ルーヴさんたら…」
ウエストをなぞり、包み込むように尻の肉を掴む。それから膝に手をかけ、有無を言わさずじりじりと割り開いた。
自分の膝を滑り込ませ、閉じられないようにしてしまう。
ひくひくと震える白い体、その中に潜む熱を感じたくて、ルーヴェルは指を滑らせた。
「う、く…」
秘所に直に触れられ、アリアの全身がさあっと緊張した。慎重に、先をほんのわずか差し入れただけなのに、
彼の指の侵入を阻むかのように締め付けてくる。初めて抱いたときよりも、酷い怖れようだ。
「アリア、力を抜け」
涙のにじむ目をぎゅっと閉じ、ぶんぶんと首を左右にふるアリア。焦れたルーヴェルが更に指を進めると、
彼女は逃れようと腰を引く。

「…もしかして、よほど痛かったのか」

一週間前の事を思い出して、彼はそう問いかけた。娘はようやく、小さく頷く。
「やっぱり、あの後しばらく、辛くて…ごめんなさい…」
「そうだったのか。すまん…」
己の暴挙を悔やみながらも、ルーヴェルは震えている彼女の頬にキスをした。
首筋を唇でなぞり、空いている方の手で全身を優しくなぜる。
そうして、同時に差し入れた指をゆっくりと動かして行く。
「ゃあ…あ…あ…」
アリアがいやいやと首を振る。
そんな姿に罪悪感と愛おしさが同時に沸き上がり、ルーヴェルを更に高ぶらせる。

「…優しくする、から。力を抜くんだ」

幼い子供に言い聞かせるように、低く呟きながら、ルーヴェルはアリアの全身を支配しようとする。
どんな反応も見逃すまいと、劣情と神経を尖らせた。
秘所の周辺を丹念になぜ、彼女が反応を見せた場所を執拗に責め立てる。
慎重に指先を出し入れし、その間にも空いた手で白い肌をまさぐった。
そうしてようやく、ルーヴェルの指に湿った感覚が伝わる。
外部からの異物に反応して、それから体内を守るための自然な反応だった。
昨今ではその意味を取り違えられているし、いつか彼女の本能が、子孫を残すために
別の刺激でそれを分泌するように体を作り変えていくのだろうけれども。

「ルーヴ、さん…そんな、汚いですよ」
彼の行動を理解しきれず、戸惑うアリアは、掠れる声で問いかける。ルーヴェルはふっと笑うと体勢を変えた。
彼女の上にまたがり、上からその体を見下ろす。自分のつけた紅い印がいくつも、花のように白い肌を染めていた。
「心配するな。お前に、俺を受け入れて貰えるようにしているだけだ」
「受け入れる…」
「そうだ」
「体を…重ねる、ってこと…ですか?これが」
「…ああ。そうだ」
切なげに、ルーヴェルはアリアをまじまじ見つめた。
こんな綺麗な心と体を自分が汚していいのか、そんな畏れを抱きながら。

「お前だけ、欲しい。俺にお前を、くれ…アリア…」

指を引き抜くと、乱暴なまでに足を開かせ、息を飲む彼女の視線を感じながらも腰を近づける。
「力を、抜いていろよ?」
「…は、はい」
口ではそう言うものの、恐れと恥じらいで突き動かされるアリアは、
ルーヴェルを拒絶するかのように、近づく彼の胸板をぎゅっと押し返そうとする。
とうとう我慢の限界を超えた彼は、痛みを感じるまでに張りつめた己の分身、
それを、わずかに濡れそぼる箇所へとあてがう。
アリアの両手首を、片手でまとめて掴んで寝台に押しつけ、
抵抗できないようにしてからゆっくりと侵入を始めた。

「!!」

唐突なまでに強引な行為と、異物感とに驚くアリアは、声も出せずに驚愕の表情を見せる。
「う、ぐ、アリア…ぁ」
先端を入れただけで、激しい圧力が彼を包んだ。ずっと待ち望んでいた感覚、一週間前の事実の、確認。
「い、いた…いっ、ルーヴっ、さんっ…!」
アリアが唇を噛みしめる。ルーヴェルは目を見開いて、視線を動かし、自分が彼女を貫くのを、凝視する。
「…ルーヴ、ルーヴさん…助けて…ぇっ。ああ…」
漏れる苦痛の声に、それだけではない何かが含まれているのを、ルーヴェルは感じた。
はあっ、と唇から流れる息に、甘い悲鳴が混じっている。
「ルーヴさんっ!」
痺れるほどの痛みを感じながらも、ルーヴェルは腰を突き上げた。アリアが悲鳴を上げる。
「い…ゃあ…いやぁ!いや!やだぁああ!!」
感じていたのかと思ったのもつかの間、激しい苦痛に耐えきれず、彼女はとうとう泣き叫んだ。
顔をそむけ、鼻をぐすぐすと鳴らしてしゃくりあげている。見た目よりも幼い部分がさらけ出され、
本能に溺れる寸前のルーヴェルに良心の呵責を覚えさせた。

「ア、アリア…?」

それ以上進むに進めず、かといって、ここで中断できるほど『男』が出来ていないルーヴェルは、
ただ戸惑いながら、ぎりぎりの所で理性を保っていた。
「痛むのか」
問われて彼女はどうにか頷いた。それはルーヴェルにしてみても同じなのだが。
彼女の中はあまりに狭くて、快楽と同時に、熱いまでの苦痛を彼に感じさせている。

「ルーヴさん……」

開いた瞼のその奥の、明るい藍色の瞳がルーヴェルを見た。その中に、彼は確かに『女』を、見た。
本人の意思と関係なく、びくっと震えた白い体が、ルーヴェルの分身を締め上げる。

「ぐ、っ…だ」

ダメダ、と。辛うじて残っていた理性が弾けた。乱暴な動きで、目の前の獲物を拘束しようとする。
きゃっ、と小さな悲鳴を上げるアリアの体を己の体重で巧みに押さえつけ、腰を突き上げた。
痛みをこらえ切れずにアリアが涙を滲ませる。
食いしばった歯の隙間から漏れるのは、どちらかと言えば苦痛の声だった。
なのに、それすら思いやるゆとりを無くしたルーヴェルは、
蕩けるような熱を湛えた彼女の最奥に、何度も何度も、自分を突き込んだ。
汚れを知らないかのような白い肌に、エルヴァーン特有の褐色の肌が叩きつけられる。
ルーヴェルによって男を教えられた、しなやかな体の内側に、他ならぬ彼自身の
赤黒い器官が出し入れされる卑猥な光景が、視界に映る。
雄の本能が際限なく刺激されて、昂ぶりはとどまる所を知らず、彼を凶暴なまでに振舞わせた。

「ぁん、、う、ぃた…痛いっ…はう…んぅ、んっ、んっ…ああ…、るー…ヴさ……ぅん…」

もがくアリアの、ぎゅっと閉じられた瞼からいつしかほろりと涙がこぼれていた。
慣れない苦しみと、痛み。女としてはまだ未完成な彼女は、
息をすることもままならないまま、ルーヴェルの行為にただ翻弄される。

軋む寝台の上で、やがて目の前が真っ白になるほどの快楽を覚えた男は、
己の胸に抱かれながらもがく、ヒュームの娘の中に、溜め込んだ劣情を全て吐き出すのだった。

「あ……?」

惚けたようにアリアがそう呟いた。
自分の体の中に、自分のものでない熱が新たに増えたことに気づいたからだった。
同時に、ずるりと音を立てて、ルーヴェルの分身が彼女の中から引き抜かれる。
治癒術の心得がある上、また男女の営みの事も知識としては知っている彼女の事、
その「熱」が何であるかに気づいて、みるみる頬が真っ赤になり、またしても泣き出してしまう。

「る、ルーヴさん……!」

ぐすぐすと泣き出すアリアに、ルーヴェルはまたしても疑問の視線を投げかけてしまう。

「子供…子供できちゃう。……ど、どうしよう、どうしたら…」

エルヴァーンとヒュームは種として近い為、二種族間で妊娠することは少ないが、珍しい事ではない。
それゆえ、ルーヴェルのあまりに激しい行為に、達するどころかパニックを起こしたアリアは、
おろおろと視線を彷徨わせ、痛々しいまでに取り乱している。
ようやく冷静さを取り戻したルーヴェルは、本能と欲求にあっさり負けた自分の短慮を
後悔しつつも、アリアの体を曳き起こし、その腕の中に納めて強く強く抱きしめた。

「構わん」
「でも、わたし、わたしは…!」
「アリア、落ち着け」

大人の余裕、を必死でかき集めて。ルーヴェルは静かに語りかけた。
だが、長い間封じ込めていた、人としての感情が、
あるいは決して崩す事の無かった鉄壁の自制心、そういったモノが、
腕の中の娘によって易々と解放され、完膚なきまでに叩き壊されていた。

「お前が、ぜんぶ欲しい。そばに、いてくれ。ずっと」

からからに乾いた男の喉から、掠れた声が漏れる。
そして、アリアの体がびくんと震え、それが声の主に伝わるのだ。
アリアの瞼が閉ざされ、そこから先ほどとは別種の涙がこぼれるのは、
それからしばらく時間が経過してからの事であった。
二人は共に眠れないまま、時折思い出したかのように眼を開け、
隣にいる相手におずおずと手を伸ばしてそっと触れていた。
腕に、胸元に、腰の線に、そおっと指先をすべらせて、相手がそこにいるのを、確認する。

「…アリア」
「はい…?」

やがて、吐息が触れるほどにすぐ近くで、ルーヴェルがアリアを見つめながら呼びかけた。

「頼みがある」

いつにもまして真剣な表情で、青年は娘を凝視する。
その視線はいささか不明瞭で、言っていいものかどうかを悩んでいるようであったが。

「なんでしょう?」

言葉の続きを待ちかねて、アリアがそう問いかけるので、
ルーヴェルは小さくため息をつくと、意を決し、とうとう口を開いた。

「…『さん』付けは、そろそろ止めてくれ」

そう言って苦笑するルーヴェルに、アリアは恥ずかしそうに目を伏せると、こくんと頷く。
夜明けまではまだ遠かったが、二人が息づく部屋は暖かく、そして静かであった。

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その日の夕刻。アリアはルーヴェルの部屋に居ながらにして、

『レンタルハウスの共同利用』

という、非公式に流行りだした制度が自分に適応されたという報せを受け取ることになる。
無論、寝耳に水である。
絶句したまま、ルーヴェルと荷物を運んできたモーグリたちを交互に見つめるのだが、
ルーヴェルは静かに笑って誤魔化す上、モーグリ達は「これを運ばないと帰れないクポ〜」と
涙ながらに訴えて迫ってくるのである。押し切られるのは時間の問題だった。

自分のレンタルハウスにあったはずの金庫をモーグリ達がわらわらと運び込み、
ルーヴェルが使用している物の隣にどん!と置き捨て、そして去っていくのを呆然と眺めながら。

(わたし…大丈夫なのかしら…?)

アリアはルーヴェルの横顔を見上げながら、ふとそんな事を思っていた。
何が大丈夫なのか、それは彼女自身良く分かってはいなかったが、
あえて例えるのなら、飢えた狼の目前に幼い子兎を置いてやるような、
そういう種類の危険であることは確かだった。

Fin〜