ダボイの村を走り抜ける影があった。
一心不乱にただ前へ前へと走る。
「は、早く…!出口に…!」
影の正体は一人の白魔道士の少女の姿だった。
少女はダボイの奥から逃げてきたのである。
すでに防具の服はボロボロになり、所々素肌も見えていた。
白く綺麗な素肌もオークにやられたのだろうか、怪我をしている箇所もあった。
「グォオオオオァァァ!」
後ろからオーク達の声が聞こえる。
図体がでかいオークといっても人間よりも遅いというわけではない。
少女は必死に走った。
しかし、その必死が仇になり少女は入り口がどこか解らなくなってしまっていた。
「出口はどこ…!?」
もうすでに出口がどこかはどうでもよくなってきた。
テレポを使おうにも魔力が足らず唱えられなかった。
今はオーク達から隠れられる場所があればいいと。
「まで!アルダナの子!」
後ろからオーク独特の発音が混じったアルタナ語が聞こえてくる。
1匹のオークが少女の後ろの近くまで来た。
オークが手を伸ばそうとした時、少女が急に振り返った。
「フラッシュ!」
少女が残り少ない魔力で魔法を唱えるとオークの眼前が光に覆われた。
あまりの眩しさにオークは少女を見失ってしまった。
「グァアアッ!?どごだ!?」
目くらましとはいえ光に弱いオークの目にはかなりきつい物だったらしい。
しばらくその場で腕をぶんぶんと振り回していた。
「今のうちに…!」
少女は近くにあった隠れ場所を見つけて、そこに身を潜めた。
しばらくしてフラッシュをしたオークとは別のオークが数匹来た。
「アルダナの子はどごいっだ?」
オークはしばらくその辺りを詮索し始めた。
数分経った所で一匹のオークが鼻をヒクヒクし始めた。
少女はその行動を見てハッと気がついた。
しかし、もう遅かった。
「ぞこだぁ!」
鼻をひくつかせていたオークの指が少女のいる場所を指した。
オーク達はその声を聞くといっせいに少女のいる所に駆け出した。
少女が隠れている所に次々とオークの手が伸びた。
「きゃぁあああぁ!」
ずるずると引きずり出される少女。
少女はオーク達に囲まれた中央へと放り出された。
「グゥフフフ…」
オーク達はにやにやと笑いながら少女を見つめた。
少女はそんなオーク達の視線にぶるぶると恐怖に体を震えさせるしかなかった。
「アルダナの子だ!人間のにぐだ!」
オークの一人が涎を垂らしながら叫んだ。
オーク達にとってはヒュームの肉も食料になるのだ。
「肉もぐいだいが、こいづメズだぞ」
もう一人、別のオークが言った。
その言葉に他のオーク達が再び少女の体をじろじろと見始めた。
その目は食料を見る目とは違った目だった。
「このま゛まぐっちまうのもいい゛が…」
オーク達は互いの顔を見回すと、それが合図だったかのように少女に襲い掛かった。
オーク達の手が少女の服にかかる。
そしてビリビリッと音を立てて服を破き始めた。
破かれた服の破片が空中へと空しく飛散った。
「や、やめてぇー!!」
少女の悲痛な叫びが木霊する。
オーク達が服を破き終わると少女は素肌をあらわにしていた。
肌が所々無理矢理掴まれたせいか赤く腫れていた。
恐怖で体がプルプルと震えた。
その度にやや大きめな乳房が小刻みに震えていた。
「な、何するつもりよ!?」
少女は体を隠そうとしたが腕をオークが掴んで押さえ込んでしまった。
その衝撃で先程よりも乳房が大きく震えた。
その光景にオーク達の目がより一層
「なに゛をずるっで?ぐふふ…、ぎまっでるだろ」
そう言うと一人のオークが腰布をごそごそと探り始めた。
しばらくすると何やら棒状の物がボロンと出た。
少女はそれが何か、すぐに理解した。
それはオークの生殖器だった。
ヒュームの男とは明らかに違う形をしていた。
少女はこれからオーク達が何をしようとしてるのか解った。
「…ぃゃ…」
少女は恐怖が限界まで達し、声が出なくなってしまった。
ただ、無言で首を横に振ることしかできなかった。
オークが少女の足を掴んだ。
「ぐへへ…、ざいじょはお゛れがいぐど」
足を掴まれた事によって少女の性器が丸見えだった。
オークは自分の生殖器を少女の性器へと狙いをつけた。
その時だった
シャァァァァ…
どこからか水音が響き始めた。
音の出所はすぐにわかった。
少女の性器からだ。
「ぐはははは!ごいづ、小便もらじたぞ!」
オークが大声で笑いながら言った。
恐怖で少女は失禁してしまったのだ。
だが、今は恥ずかしい等と考えれなかった。
ただ少しオークに犯される時を延ばせただけだった。
「小便ぐざいがどうぜ違う匂いになるだろ」
オークは再び少女の性器に狙いをつける。
段々と少女の性器とオークの生殖器との距離が縮まっていく。
そして、後数センチという所で少女は最後の絶叫を発した。
「いやぁぁあああああぁぁぁぁ!!」
絶叫はダボイの空に木霊した。
次の瞬間である。
今まさに少女を犯そうとしていたオークの動きが止まったのだ。
いや、正確には動かなくなったのだ。
そしてそのままどさりと地面に倒れこんだ。
少女はもちろん、オーク達も何が起こったのか理解できず硬直してしまった。
倒れたオークの首の後ろには1本の斧が打ちつけられていた。
それが鉄製の斧だったら冒険者だとわかっただろう。
しかし、オークの首にあるのは骨製の斧だった。
つまり、オークがオークを殺したのである。
「だ、だれだぁ!?」
オークの一人が気がついて大声を上げる。
オーク達は自分の周りを見回した。
次の瞬間、オーク達の集団から一つの影が飛び出した。
影は真っ直ぐに少女を押さえ込んでいるオークへと向かっていった。
その姿にその場にいた者は目を疑った。
その影は、オークだった
飛び出したオークは少女を押さえ込んでいるオークへと一直線に向かっていった。
押さえ込んでいたオークは何が起きているのか理解できず、ただ止まっていた。
飛び出していったオークが拳を振り上げる。
そして、拳を押さえ込んでいたオークの顔面に叩きつけた。
無防備だった状態で攻撃をくらったオークは吹き飛ばされた。
オークを吹き飛ばすとそのオークは近くにあった死体から自分の物なのだろう、斧を引き抜いた。
「ぎ、ぎざま!何をじている!?」
オークはその問いに答える代わりにそのオークの頭部に斧を振り下ろした。
少女は何が起きているのか理解できなかった。
だが、一番理解できていないのはオーク達だろう。
オークは少女の方に振り向くと何も言わずに少女を担いで走り始めた。
「な、何!?」
もう、少女は何がなんだか解らなくなっていた。
ただオークは黙って走った。
そして、オークが付いた先はダボイの出口だった。
オークはそこで少女を下ろした。
そして、初めて口を開いた。
「ごこを出だどころのがわにいげ」
「え?」
少女は一瞬オークが言ってる事が解らなかった。
オークは一枚の大きな獣の革と光る粉をを少女に渡した。
黒虎の革と恐らく冒険者から奪った物だろうプリズムパウダーだった。
「がわのぞばの岩がげにがくれでろ」
そう言った所で先ほどのオーク達が追ってきた。
オークは出口を遮るように構えると少女にもう一度言い放った。
「いげ!」
少女はその言葉を引き金に走り出した。
オークから貰った革を羽織って、プリズムパウダーを振りかけた。
少女の姿は消えた。
それを確認するとオークは近づいてくる大群に目を向けた。
そして、大きく雄たけびを上げた。
ジャグナー森林はすでに夜だった。
辺りには虫の声や夜行性の獣の声、梟の声も聞こえていた。
少女はさっきのオークに言われた様に川沿いの岩陰を探した。
すぐに丁度いい場所が見つかったので少女はそこに身を隠した。
どれくらい時間が経っただろうか。
少女は寝ないでただ息を潜めていた。
しばらくすると足音が聞こえてきた。
足音はまるで弱々しく、時折足を引きずる音も聞こえてきた。
少女は岩陰からそっと覗き込んだ。
そこには1匹のオークがいた。
体中に切り傷や無数の矢が突き刺さっていた。
少女はそれが追手では無く、さっきのオークだとすぐに確信した。
少女は岩陰から飛び出すとオークに駆け寄った。
すでにオークの息は弱々しく、もう長くない事を物語っていた。
「だ、大丈夫!?」
「ぢょっどぎづいがな…」
少女はさっきまで休んでいたので魔力が回復していた。
すぐさま回復呪文の詠唱を始めた。
「ケアル!」
少女の手から淡い光が放たれる。
しかし、オークの傷が回復する事は無かった。
「そんな!?何で!?」
少女は慌ててもう一度詠唱しようとした。
だが、オークがそれを止めた。
「お゛れはアルダナの子じゃないがらだ…」
ケアルは女神アルタナによって作り出された生命にしか効果が無いのだ。
男神プロマシアによって作り出された獣人には効くはずも無かった。
「何で私を助けてくれたの…?」
少女は涙を溢れさせながらオークに尋ねた
オークは息を切らしながら語り始める。
「むがし、おではアルダナの子にだすげられだ…」
オークは自分の荷物から布切れを取り出した。
それはすでに古ぼけていたが1本の包帯だった。
オークの血なのだろうか、所々黒ずんでいる。
「そのどぎに、そいづがらもらっだ…」
荷物から他の冒険者が着ていた服を少女に渡す。
オークは息を整えると続きを話し始めた。
「ぞいつは、おでのげが治すと、どごがにいっぢまっだ…」
少女は弱々しく震えるオークの手を握った。
「ごれは、ぞのおんがえじ…」
オークの呼吸は段々と弱まっていくのがはっきりと解った。
少女の握っている手の力が無意識で強くなっていた。
「あなた、名前は?」
少女がオークに尋ねる。
「おでの、名前…、ジャッグ…、ダット…」
「ジャックダット…」
「おま゛えので、あっだ、げぇ…、な…」
オークはニヤリと笑った。
次の瞬間オークの手がだらりと垂れ、二度と動く事は無かった。
少女は声にならない泣き声を上げた。
その声に反応するかのように一羽の鳥が飛び去った。
あれから少女は服を着てジュノに帰ってこれた。
しかし、彼女は冒険者を続ける事を断念した。
あの事件のせいで精神的にダメージを負ったというのもある。
本当の理由はあのオークだったのかもしれない。
だが、それを知るのは本人だけだった。
少女はモグハウスのモグに別れを告げると荷物を持って飛空挺乗り場へ向かった。
これからは実家の家業を継ぐ事にしたのだ。
飛空挺乗り場で待っていると、一陣の風が優しく吹いた。
−あっちはもう春かな…
そう彼女は思った。
飛空挺が到着すると少女は乗り込んだ。
その手には1本の布を持っている。
あのオークが持っていた包帯を…
あの事件の後、ダボイのオーク達の間である名前が広がっていた。
オーク一族の中で最初で最後の裏切り者の名前。
"Betrayal Jaggdat"(裏切りのジャッグダット)の名前が