ヒュム♂×樽♀
ヒュム F2A 黒髪
樽   F1B 金髪ポニテ


 面白いわけがない。
 赤魔道士の青年は、毛布から覗いた大きな耳に鈍く光るパールを見つけて、苦々しく舌打ちをするとそっぽを向いた。
 眠っているのはタルタルの女性…というか見た目だけでは少女。耳のパールは…。
「導きの鏡にフェリが映っている…。」
 とか何とか言って、それ以来彼女につきまとっているジークヴァルトと名乗ったヒュムの青年が渡したモノだと聞く。確かシグナルパールとか言う名前だったはずだ。
 冒険者でもないのに時々行動を共にしているというか、フェリが連れ出しては戦闘などを教えているらしい。
 気にならないわけがない。
 それでなくても、同じ顔してシーフやってる自分の仲間なんて、強力なライバルがいるというのに…。
 新参者が馴れ馴れしく彼女にくっついて歩いているなんて冗談じゃない。

 …醜い嫉妬だ。

 溜息をひとつついて、燃える炎に薪を放り投げた。
 当の本人に直接うちあければいいのだが、それもできず、さりげないアプローチは天然な彼女に通じるわけもなく、すべてスルーされてしまっている。
 もしかすると、自分は少し遠慮しすぎるのかもしれないが、これ以上踏み込むととても乱暴なことをしてしまいそうでつい躊躇してしまうのだ。
 今すぐにでも組み敷いてしまいたいのに。
 湧くような血の熱さを吐き出すように再び溜息をつく。
「ふみ…」
 小さな声と共にもぞりと毛布の塊が動いた。
 こんなことを思っている男と二人きりなのに、警戒心のかけらもないこんなあどけない寝顔で眠られるのも、男としてどう思われているのか悩むところか…。
「こんなに安心されても困るんだが…。」
 口の中で小さく呟いた言葉は、満天の星空に溶けて消えた。


「送ってくれてありがと。」
 そう言ってジュノで借りているレンタルハウスの扉に手をかけようとしたフェリを思わず呼び止める。
「あ。フェリ…」
「なぁに?」
 きょとんとした顔で自分を見るタルタルは、同族の子供のように幼く見えた。
「いや、ごめん。何でもない。お疲れさま。おやすみ。」
 言い出しておいて一方的に話を終わらせるのもどうかと思うが、矢継ぎ早にそう捲し立てて踵を返す。
 …小さな手がワーロックタバードの裾を掴んだ。
「フェリさん…。」
「なぁに?」
「手を離してもらえませんか?」
 振り解こうと思えば簡単にできるが、多分許してはくれまい。


「なんで?」
 切り口上な言い方をするときは大概怒っているとき。そんな些細な癖まで憶えてしまった。
「……。」
 振り返るとにっこりと微笑みつつ、金色の瞳が睨め付けている。何もかもを見透かしたような光…。
「…降参。」
 敵わない。取り繕おうとすればするほど、ボロが出るのだからしょうがないが。
「で?」
「…あいつ、いつまで連れて歩く気だ?」
「あいつって?」
「それ…。」
 言いながら耳元のパールを示す。
「って、ジークのこと?やだ。ヴィアってば何言い出すかとおもったら。」
 そうやってフェリはころころ笑い出した。
「フェリのことが心配なんだ。」
「私ならだいじょぶよ?こんなに元気だし。」
「そうじゃなくて…。あいつがフェリに、その…酷いことしないかって…。」
「そんなことある訳ないじゃない。」
 いつでも逢える訳じゃないから、きっとかわいい彼女がいるのよ。フェリはそうして笑いすぎて零れた涙を拭く。
「どうだか。」

 何度か自分の合成に使う素材狩りを手伝ってもらったことがあるから、面識がないわけではない。だから、気が付いた。フェリを見るあの瞳に。
 あれは…。
「だって、タルタルなんて、他の種族のヒトから見たら子供にしかみえないでしょ。」
 おかしげに話してはいるが、ほんの少し伏せた瞳が、それがコンプレックスなのだと語っていた。
 総じてタルタルは他種族に対する肉体的、容姿的なコンプレックスを持つらしい。
 だが、彼らの持つ魔力は一級品で、フェリほどの魔道士になれば底なしと表現してもいいだろう。前衛職にしても、打たれ弱くはあるが、なかなかの働きをするモノもいる。
 大体、ヒトがヒトに惹かれるのに、容姿など何の意味があるのか。自分がそうであるように。
「男なんて、判らないぞ。」
 あんなあからさまな好意をもったヤツは特に。
 そんな俺の言い方が気に入らなかったのか、フェリは口を尖らせて、逆にくってかかる。


「じゃ、ヴィアは?私のことそういう対象で見たことある?」
「それ、は…っ。」
「ほら。ヴィアだって…」
 問われて思わず口ごもってしまったところをしてやったりとした顔をする。理由も知らずに。
 この胸の中を開いて見せてやれるならそうしてやりたい。
 俺が…。
 本来ならフェリの話に乗って何でもないフリをするのがこの関係を崩さない一番の方法だったのだろう。だけど、流れ出してしまった感情は押し留めることなどできなくて…。
「な、するっ…!」
 腰ほどもないタルタルの小さな躯を抱え上げ、レンタルハウスに押し込むと、衝動に任せるまま、フェリの唇を自分のそれで塞ぐ。拍子にワーロックシャポーが頭から脱げ、床に転がった。
 甘い唇。想像していたのよりずっと柔らかく、甘い。
「…んんぅっ…!」
 逃れようと動かす頭を押さえ込んで更に深く。
 気配を感じてそちらに目をやると、彼女の世話をしているモーグリと目が合った。モーグリは突然のことにびっくりしていたようだが、一瞬後にはぽんっと消えてしまった。おそらく本国のモグハウスに戻ったのだろう。
 小さな舌を絡め取り、口腔をたっぷり味わったあと、やっと彼女を解放した。
「…はぁ…っ」
 熱のこもった溜息が二人を繋ぐ唾液の糸を切る。
 それから、何もなかったかのように…フェリにほほえみかけた。

「知らなかった?俺がフェリをそういう対象で見てたなんて。」
「な…何言ってるの?」
 ほんの少し怯えたようなフェリの、柔らかな頬のまろみに、そっと掌を沿わす。
 赤く上気した頬は怒りのためか、それとも蹂躙するようなキスのせいか。どっちでもいい。
「俺が今までどれだけ我慢してきたか…。」
「じょ…冗談でしょ?」
 震える声で気丈にも放たれた言葉で、頭に血が上る。
「冗談でこんなことできるかよ!」
 本気のキスを冗談にはできなかった。もう止められない。
「きゃぅっ!」
 レンタルハウスに設えられたベッドに半分放り投げるように彼女を押し倒す。
「…ゃあっ!」
 のし掛かる俺を押しのけようと腕を突っぱねるけど、俺がいくら赤魔道士とはいえ、タルタルの白魔道士がヒュムの男に力で敵うわけがない。
「俺だって男だよ?」
 シーツに縫い止めて抵抗を封じる。
 そしてとどめの一言。

「それとも、俺のこと拒絶するほど嫌い?」
「……。」
 フェリは優しいから、たったこれだけで抵抗を止めてしまう。もう拘束なんていらない。
 押さえつけていた両手を離し、ワーロックグローブをはずしてベッドの下に投げる。
「フェリのこと好きだよ。フェリが誰を好きでも構わない。」
「ヴィア…」
 泣きそうな顔が男の嗜虐心をそそるなんて、気付いているのだろうか?今彼女が助けを求められる場所なんて俺のところしかないというのに?
「俺を見て…今だけでいいから…。」
 もう一度口付ける。軽く啄むように。
 何度目かでようやく柔らかな唇を舌先で辿って、合わせ目に滑り込ませた。
「ん…っ」
 深く、混じり合う。フェリの官能を引き出したくて。
「は…ふっ…」
「ねぇ、ライルとはもう、寝たの?」
 ふとした疑問だった。
 だけど、フェリの動きはぴたりと止まって…。
「え、あ、な…っ…」
 真っ赤になって口をぱくぱくさせて動揺するなんて、肯定しているようなものじゃないか。

 半分の落胆と、嫉妬心。それからライバル心のようなモノまで混ざった複雑な感情が、火のついた情欲に油を注ぐ。
「そっか…。」
 じゃ、遠慮はしない。
 大きな耳の先端をそっと口に含んで甘噛みをする。
 唇に触れたパールの冷たい感触に引きちぎってしまいたくなるが、そこは我慢で。
「ふっ…!」
 舌先で丁寧に膚を辿りながら、着衣の中に手を忍ばせた。
「…っ!」
「ここ…硬くなってる。」
 掌にひっかかった小さな果実を指先で押しつぶしたり、摘んだりしながら言葉で耳を嬲る。
「んくぅ…っ…ふ」
 指に挟んで転がすと、喉の奥で殺された声が漏れた。
「ダメだよ。俺にも声を聴かせてくれないと。」
 噛みつくように喉元にキスをして、一つだけ痕を残す。これはライバル宣言。
 白いエラント装備をわざとゆっくりはだけ、下着をたくし上げた。
 扁平と言っていい胸の辺りに残された花弁のような痕。それはもう消えかけてはいたけれども…。
 他の男の痕跡に嫉妬する。

 それと知られぬよう、重ねて口付けて自分のモノに置き換える…。
 唇で感じる柔らかく滑らかな膚。
 この肌に何人の男が触れたのか。知りたいけど知りたくない。自分の女性遍歴を棚に上げて、彼女の過去をとやかく言える立場ではないのに。
「!」
 スロップスに手をかけてゆで卵を剥くよう、下着ごとつるんと脱がす。白く丸い尻が一瞬浮かび上がりぽすんと音を立ててシーツに沈んだ。
「いやぁっ…。」
 咄嗟に閉じようとする膝の間に脚を割り込ませる。手を入れるだけなら十分な広さだ。
「そこ…はっ!」
 恥じらう表情が酷く新鮮に映る。そんな顔を滅多に見せることがない。
 中途半端に引っかかったエラントゥプラントが彼女の動きを制限しているようだった。

「濡れてる…感じてくれてるんだ…?」
 指先に溢れたぬめりを纏わせ、スリットをゆっくりと擦りあげる。
「…ぅ…あっ…」
「気持ちいい?」
 びくびくと可哀想なぐらい反応するのを愉しみながら言葉で責める。
「ライルはここをどうやって触った?」
 フェリはちいさく頭を振った。絹糸のような髪がシーツにぱさりと乾いた音を立てる。
「さすがに言えないか。」
 すっかり力の抜けた腿を大きく開かせ、蜜のわき出る泉に顔を埋める。
「ひぁ…ぁぁあっ」
 同時に豆粒より小さな肉の突起に舌先を這わせた。
 溢れる蜜をすすり上げ、捏ねるように肉芽をしゃぶる。
「そんな、しちゃ…ダメ…いや…」
「でも、気持ちいいでしょ?」
 ほら、こんなにして。
「ぁぅっ」
 狭い膣内に指を滑り込ませ、くちゅくちゅと水音をわざと響かせてかき混ぜる。指を包み込み、食むように締め付けてくる。

「ゃあ…あっ…あ、あ…っ」
 耐えきれなくなったのか、フェリから声が漏れ、耳を冒される。脳髄が痺れるようだ。
「…っあ…ん、あ、っ…ぁぁ…」
 甘く掠れた声が切羽詰まっていく。
 躯に力が入っていくのがわかる。そろそろイクのかもしれない。
「…ひぅっ…」
 強く吸い上げてやると、悲鳴のような声があがった。小さく震えて弛緩する。
「イっちゃった?」
 顔を上げると焦点の合わない濡れた瞳が天井の明かりをを映していた。荒い息に胸を上下させ、絶頂の余韻にたゆたっている。投げ出された四肢に力はない。
「ダメだ…抑えられない…。」
 自分の前をくつろげ、いきりたった自身を取り出す。のし掛かって秘所に押し当て、本当にこれが入るのか少しだけ心配になる。
「フェリ…ごめん。いれるよ。」
 体格差を考えてもこれを彼女の中に挿し込むだけでも、相当な負担になるだろう。だけど、このまま止めるなどできるはずはない。ゆっくりと腰を進め、飲み込ませる。

「ぃ…っ…」
 苦痛を訴えた小さな声。
 ほんの少しだけ頭が冷えた。寄せられた眉にもしかして…と思ったが出血しているわけではないらしい。どうやら、まだそんなに男を迎え入れた経験はないのだろう。
 狭く堅さが残っている膣に少しずつ進入する。
「…痛い?」
 尋ねてみたモノの、余裕など全くなかった。あまりのよさに眩暈がする。
 絡みつく媚肉と誘い込むような動き。
 想像していたことだったが、途中まで突き入れたところでこつんと奥に亀頭があたった。
「さすがに、入りきらない…か。」
 いっそのこと突き破ってしまいたいぐらいの衝動。
「…動かすよ?」
 フェリの額に唇をおとす。
 じっとしていても、お互いきついだけだ。
「あ、あぁ、あう…っ…」
 腰の挿送に合わせて苦痛とも取れる声が噛み殺しきれずに零れる。
 目尻に溜まった涙を嘗め取り、そのまま唇に口付けた。


 好きだと。誰にも渡したくないと。唇が離れた僅かな間にそうやって口にした言葉はフェリに届いていただろうか?


 小さな躯を手加減なく揺さぶる。
 理性のかけらを必死にかき集めても、自分の下でのたうつ嬌態にそれらは一瞬にして霧散してしまう。
 淫靡な水音と獣の息づかい、それからベッドの軋む音が部屋に満ちる。
「こわ…れ、る…。」
 切れ切れに紡がれた声。
 ああ、それこそが望んでいたこと。
 このまま快楽で縛り付けて、自分にしか感じられないようにしてしまいたい。

 けれど、それは彼女の輝きを奪うだけだろう…。
「フェリっ…。」
 叩き付けるように欲望を吐き出して、肩口に顔を埋める。
 潰さないようにするのが精一杯で…。
 小さな手が頭を抱く。
 あやすように慰めるように。
 やはり、この白魔道士をみすみすあのシーフにくれてやるのは惜しい。
「俺、諦めないから。」
 自分が汚した躯を抱き締める。
「いつか、フェリを捕まえる。」
 今はまだ彼女を手に入れられない。だからそれだけで我慢しておく。


FIN