僕が冒険者になるずっと前、オズトロヤ城はTresure Cofferを狙うシーフの巣窟だったらしい。
Tresure Cofferはただの『金庫』ではない。鍵をあけた者が願う品を『宝』として寄越してくれる魔法を秘めた櫃だ。
サーメットの鍵を手にした彼らはことごとく宝箱をかっ攫い、自らの富を望んだという。
そして、その望みの答えとして出てくるものは、決まって魔力と体力を変換する指輪だったとか…。
「そんなの、魔力を持たない連中には何の役にも立たないだろ」
耳たぶにつけた石越しに語られる伝承は、イマイチ信憑性に欠ける。
薄暗い廊下をひとり歩きながら、僕はリンクパールに向かってツッコミを入れた。
「まぁ、そうなんだけどよ」
だがそれを根こそぎ持ち去り魔道士に売り払うことで、彼らの願いは確かに叶っていたのだそうだ。
「なるほどねぇ」
「いいよな、それこそシーフの醍醐味じゃねぇ?」
パールの向こうで、友人が羨ましそうに唸る。彼は当時美味しい思いをした連中の末裔だ。
そいつが言うことなのだから、嘘ではないのかも知れないが…。
「ま、いつのころからか出なくなったらしいけどな。俺もその時代に生まれたかったぜ……別に金が欲しいんじゃないぜ、トレジャーハンティングってやつよ。男のロマンよ。わかるだろ?」
「正直、理解に苦しむ」
真剣に残念がっている彼には悪いが、僕はその時代に生まれなかったことをアルタナ様に感謝したいと思った。
なぜならたった今、かつてのシーフ達が狙った宝箱を探して、ヤグードの根城に潜り込んでいるからだ。
おっと、そろそろ気合入れていかないとヤバいエリアだ。
「じゃ、また後で」
僕は耳たぶからパールを外して、上着のポケットに突っ込んだ。
そんな話を聞いた後の探索だったからか、最奥部に通じる扉のむこうに目当ての宝櫃を見つけた時は、息が止まるほど嬉しかった。
逸る心を抑えながら、鞄の中の鍵を確認する。この鍵を手に入れるのだって、決してラクではなかった。だけどそれも、全て報われる。
「…待ってて」
僕が欲しいものは、ずっと前から決まっていた。…ワーロックタバード。それがもう、目の前だ。
うろちょろするヤグードの目をかいくぐり、扉を開ける。鍵を取り出し、鍵穴に差し込もうとしたその瞬間。
「コッファーゲットぉ!!」
突然声がしたかと思うと閉まりかけた扉から、すごい勢いで何かが飛び込んできたのだ。
「!?」
風を切る音とともに、それは盛大に砂埃を舞い上げた。僕の視界が一瞬にして黄土色に包まれる。
「……なんだ?」
何十秒かの後、ようやく視界を取り戻した僕が見たものは。
「なによぉこれは!アストラルリングじゃないじゃない!!」
丈の短い緑色の上着に、膨らんだキュロットを身に着けた女が、取り出した中身をつまみあげて落胆する姿だった…。
オズトロヤ城に金目当ての連中がいなくなったって、宝探しをするのが僕だけじゃないことは、分かってた。
ワーロックタバードを欲しがる赤魔道士は腐るほど居る。暗黒や詩人の願いも、ここの宝櫃は叶えてくれると聞いたこともある。
彼らに競り負けるのと、このシーフに競り負けたのとでは、「僕の望みが叶わなかった」という結果自体は何も変わらない。
変わらないけれど。
「え?アストラルリングが出たのはあたし達が生まれるより前の話?そんなはずないわ!だってこの『とれじゃーはんてぃんぐまっぷ』に…」
「あれ…?天晶950年初版発行?…いまって何年だったっけ?…いやん!古書屋のオヤジに騙されちゃった!!」
「……」
何が腹立たしいって、こんなバカに負けた自分の不甲斐なさだ。
苛立ちと悔しさが腹の中で煮えくりかえる。我慢、我慢だ、僕。
彼女は僕になど全くお構いなしだ。
「もう!仕方ないからここでゴハンにしちゃおっと!」
空っぽになった箱にもたれて座り、呑気にスシなんか広げはじめた。無邪気なその様子は、客観的に見ればなかなか可愛らしい。悪気は多分、ないのだろう。
幼い顔立ちの割に、白いチューブトップで覆われた白い胸元は豊かで柔らかそうで谷間がくっきりと見える。米粒を頬につけながらむしゃむしゃと頬張る姿を目の当たりにして、微笑ましいなと思ってしまった。不覚だ。
…まぁ…いいか……女の子相手に怒るのも大人気ないし…
そう思って僕は、気持ちを切り替えようとした。それなのに、だ。
「あ、そこでつっ立ってるおにいさん〜」
バカシーフが何か投げて寄越してきた。
思わず掌で受け取ったそれを、拡げて見てみる。
……ちゃっちい、指輪だ。防御力を少しだけブーストする石が、安物の台座に適当な細工で埋め込まれていた。少なくとも魔道士の僕には、全く役に立たないものだ。
「おにーさんのほしいモノ、コレになっちゃったみたい〜、ごめんねぇ!」
彼女はごめんと言いながらもぺろんと舌を出し、肩をすくめる。悪びれた様子は、全くない。
「……」
ついさっき『女の子相手に怒るのも大人気ない』とか言っておいて何だが、改めて怒りが湧き上がってきた。
「ん、なぁに?あたしの顔に何かついてる?」
女は僕の気持ちにになどまるで気づかない。
「わかった、おなかすいてるのね!しょうがないなぁ〜、はい!」
見当違いのことをほざきつつソールスシをひとつこちらに差し出して、にっこり笑った。
その笑顔は確かに可愛い。可愛いけど、だけど。
…ふざけんなよ!
無神経さを許容できるほど、僕は人間、出来てないみたいだ。
「それ、貰おうかな」
僕は女の傍にかがみ、彼女の差し出すスシを受け取った。
「…ありがと」
礼を言いながら、身を離す。…そのついでに耳の中にひとつ、魔法を滑り込ませてやった。
「パライズ」
簡単なわりに使い勝手のいい、麻痺をもたらす白魔法を。
「…!?」
さすが脳筋、しかもバカ。一欠けらもレジストされず、綺麗に『入った』。
「しばらく、動けないよ」
彼女の手から食べかけのスシがぽろりと転がり、埃っぽい地面に落ちる。
「なに…なにするのよぉ!」
目を見開いての抗議はもちろん無視。細い肩に体重をかけて、仰向けに押し倒した。
「何って、お礼だよ。君がくれた指輪の」
剥き出しのくびれた腰にまたがって、身体の下の獲物に目をやる。
細い首と浮き上がった鎖骨、なだらかな曲線を描く乳房。
それらを目の当たりにしていると、喰らいつきたい衝動が立ち上ってきた。
「やめてよぉ!おスシたべて機嫌なおしてよぉ…!」
麻痺していて、そのうえ男に上に乗っかられて逃げられるわけないのに、彼女は効かない上半身を必死によじって抵抗した。
その度にボリュームのあるバストがぶるぶると弾み、僕の鼻先にほのかに甘い芳香を撒き散らす。
バニラをベースにした最近流行の香料と、汗が混ざった匂いだ。
嗅覚や触覚への挑発は、反則だって。ヘイトあがっちゃうよ?
「スシなんか、魔道士には要らない」
頬を両手で挟んで、動きを止める。
「甘いものを」
目を覗き込んで、希望を伝えた。
「熱くてドロドロに蕩けちゃうようなの、希望」
「……!!」
意味を理解したのか、何かいい返そうとぱくぱくする唇を塞ぐ。
表面には、ついさっき彼女が頬張っていたソールスシの味が微かに残っていた。
観念したのか、自分のしたことを悪いと反省したのか、それとも単に好きなのか。彼女は僕のすることを拒まなかった。
厚めの唇を吸い上げ、舌先でゆっくり開かせ、中に押し入る。
深く口をつけて、舌を絡め取って軽く歯を立てた。唾液が混ざり合って、くちゃくちゃと微かな音が響く。
「…んっ」
口蓋から頬の裏側、歯や歯茎を順番に舐めて回る。時々彼女は身体をびくりとさせ、くぐもった声を僕の口の中に吐いた。
粘膜を犯す僕には快楽は生じないが、犯される側には発生するようだ。
薄く目をあけて、表情を窺う。ぎゅっと眉間に皺が寄るぐらい硬く目をつぶっておきながら、頬も耳たぶも首筋も朱に染まっていた。
ちょっと可愛らしいなと感じて、頬を撫でる。ついでに首筋から耳も。
「……っ、んっ」
耳たぶを口に含む。少しひんやりした柔らかいそれを軽く噛んで、耳の内側に舌を這わせた。
ぴちゃぴちゃいう音は僕には小さくしか聞こえないけれど、彼女の頭の中では大音量で響いている筈だ。
「あぁっ やっ んあっ」
開放してやった口から、息と一緒に喘ぐ声が溢れた。
「耳、イイんだ」
指摘しつつ息をふぅっと吹き込むと、白い喉が面白いほど反り返る。
その反応を見る限り、耳が弱いのはどの種族も同じなんだなと思う。…あぁガルカは、知らないけど。
身体を少し離して、支配下にある獲物をあらためて眺めてみた。
汗をかいたのか、白いチューブトップが肌に張り付き、ふたつのふくらみの中央が、うっすら透けて見える。
「勃ってる」
片手で白いチューブトップをずりあげると、少し汗ばんだ乳房がふたつ、ぷるんとこぼれ落ちた。
布地の下から存在を主張していた乳頭はつんと上を向いて、僕を誘っているようにも見える。
…でもまだ。これは後のお楽しみ。
「…やっ」
女が恥ずかしそうに横を向いたので、前髪を掴んで正面を向かせた。触れてもいないのにコリコリにして、感じてるくせに。
「嫌じゃ、ないだろ」
双丘を両手で掴み、その柔らかさを確認する。衣服の下に収まっていたときの印象よりも少し大きなそれは、僕の掌には収まり切らない。
指の隙間からぐにゅりとひしゃげて、こぼれた。
「…やあっ」
僕が触れるのを拒むように押し返してくる弾力。屈服させたくて、指の腹を全部使って、力を入れて揉みしだく。最初は根元からゆっくり、少しずつ先端を搾り、摘み上げるように。
「あっ…あぁんっ」
麻痺したままの女が、鼻にかかった声をあげはじめた。
人間の身体は、自由が利かなくなると刺激に過敏になり、次の刺激を予測し、備えるように出来ているらしい。
彼女も僕が触れるのを予想しているのだろう。過敏で、快をもたらす先端に。
まだ触れてもいないのに硬くして勃ちあげて、潤んだ眼で様子を窺っているのが可笑しい。
「なに?」
わざと先端には触れず、薄いピンクの乳輪を親指と人差し指で摘んでやった。転がすように力を入れてやると、背中をびくびくさせて悶える。
「…はんっ……やっ…あっ」
頬から胸元までうっすら紅く染まった中、僕が掴んだ指の痕だけが白く浮き上がって見える。使い古した玩具の手垢みたいにも見えた。
中指で、先端をほんの少しだけ、掠ってやる。
「……あんっ」
望んでいた刺激だったのだろう、彼女は上半身を大きく弾ませた。もっと乱れるところが見たい。そう思った。
「感じてんだ」
両方を交互に口に含み、舌先と唇で転がしてみる。根元に歯を立て、くびり出したところを音を立てて吸った。
「…やっ…んぁっ…んっ……はぁっ」
自由の利いていない細い腕が、微かに動いて地面を引っ掻く。掴むところを探している指に掌を重ねると、縋り付く様に絡んできた。こういうリアクションは、素直でいいな。
無意識にせり出される細い腰が、僕の下腹部に触れた。身体の熱さが、布越しにでもはっきりと感じられる。
抱き起こして唇を貪りながら、彼女のベルトに手をかけた。
ポケットとナイフホルダーつきのそれが、どさりと音を立てて地面に落ちる。
下着ごと引きずり下ろしたキュロットの下には、開ききった襞があった。
「…んあ…」
閉じようとする膝の間に腿を挟んでから、触れた。透明な液を溢れさせるそこに指を差し入れて、下から上になぞる。
熱く絡みつく肉と淫らな水。微かにたちのぼる女の匂いに、衝動がどくどく疼く。
「あ…あ、あ」
彼女は僕の肩に頭を乗せて、短い声を何度もあげた。時折顔をあげたがそれは反射で、意思ではないようだ。
目には殆ど焦点がないくせに、唇を重ねると舌を絡ませて応じてくるあたりが貪欲で好ましい。
膨らんだ陰核を指の腹で擦り、襞の奥の膣口を指で突付く。ひくひく蠢くそこを捏ね回しながら、訊いた。
「欲しい?」
彼女は壊れたカーディアンみたいに何度も頷く。
汗と涙で張り付いた髪を梳いて触れるだけのキスをしてから、片手で腰のベルトを緩めた。
よく考えればこの小部屋は、オズトロヤ城の最奥部へ降りるためのギミックが設置されているわけで。
他の冒険者がいつ通ってもおかしくない場所だ。
…そんなところで、なぜ、為しているのだろう。
痺れるような怠いような快楽に朦朧となりながらも、僕は取り留めなく考えていた。
欲で硬くなった僕の器官は火傷するほど熱い胎内に呑み込まれている。向かい合わせに座った名前も知らない女と、繋がっているのだ。
M字に開かれた脚の付け根に、赤黒い肉が沈んでいるのがはっきり見える。動くたびに肉と粘膜が擦れる音が溢れ、彼女は背中を反らせた。
「ひあっ…んっ あっ やっ あぁんっ」
もっともっと啼かせたくて、文字通り衝き動かす。
上下する身体に合わせて、裸の胸がたぷたぷと揺れ動くのが見えた。
先端をそそり勃たせた乳房はどうしようもなく卑猥だ。誘われるままに触れて、掴んで捏ね回す。
「だめっ あんっ やっ あぁぁっ」
聴覚と視覚、掌の感触から得た刺激。それらが僕の余裕を一気に奪う。
「イっちゃえよ…!」
内壁にきつく緩く絡みつかれて、何かが出口を、求め始めた。ぶち撒けたい欲が、確実に昇ってくる。
「ひゃああっ……!あぁっ!んくっ… っ あぁっ あっ っ!」
がくがくと腰を振りたてる娘を抱いて、衝動のまま突いた。キツイ。熱い。
「…あっ……あっ……だめっ……イっ……イっちゃうぅっ……!」
耳のすぐ側で、切羽詰った吐息と獣じみた啼き声が聞こえる。
「…イっていいよ…イっちゃいな……!」
ぞくぞくする快感を感じながら、彼女の耳元に息と一緒にひとこと吐く。
「…ああ!あぁ!あぁぁ!!」
力任せに地面に押し倒し、上から被さって滅茶苦茶に奥を抉った。
「あぁっ はぁぁんっ あっ はぁあぁんっ」
身体の下で、白い身体がびくびくとのけぞる。内壁が締まる。あぁヤバい。何がって僕が。
「……るっ」
自分の呻く声が聞こえた。目の前が、一瞬白くなる。落ちかけた意識の中で、彼女の絶叫を聞いた。
「はぁんっ……あっ…イぃっ……いくぅ……いっちゃあぅっ……ッ!」
長い叫びの中、僕の欲は彼女の胎内で爆ぜてしまっていたことだけ、付け加えておく。
「…で、これが土産ってか?」
ジュノに戻った僕は、彼女の寄越した指輪を目利きのシーフに鑑定してもらっていた。
「今のオズトロヤ城では、この指輪が拾えるみたいなんだ。君が言ってた昔話が本当なら、これにだって多少の価値はあるんじゃないかと思って」
彼は商売柄か、ノーグの闇市に顔が利く。上手くいけば酒代ぐらいにはなるかも知れない。
「ん〜…」
ささやかな期待を胸に抱く僕とは裏腹に、拡大鏡で石を覗くエルヴァーンの表情は冴えなかった。
「ゴミだ」
そう言って眼鏡を外し、僕に指輪を投げて返す。かわいそうなイキモノを見るような視線が、痛い。
「オマエ何しにオズいったのよ?」
第三者にバッサリ斬られると改めて凹むが、だからといって
「…んだよ、競売でも店でも売れねぇぜ?捨てちまえよそんなの」
そう分かっていてもくずかごに放り込めない僕。バカというか未練がましいというか。
苦し紛れに彼がパール越しの会話で使っていた言葉で返してみた。
「男のロマンって奴」
…いや実際何なのかは、よくわかんないけれど。
<終>