俺が冒険者に成りたての頃から世話になっているLS仲間に、いつも無口な女の子がいた。
名をセーラと言い、熟練した獣使いでもあった。
俺がLSに参加したときには既に彼女はそこに居た。
居たといってもLSは通信機器の様な物だから、姿を見たのはそれから1年も経った頃だろうか・・・。
彼女はボヤーダ樹でペットのマンドラゴラと追いかけっこをしていた。
俺が通りすがりに見ているのを知ると、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。
無邪気な笑顔で走り周る彼女は、無口でノッペラボウなLSでのイメージとは正反対だった。

彼女を初めて目撃してから3ヶ月。
俺もようやくLSの真っ当な戦力となれるようになった。
LS仲間からもそれなりに頼られる様になり、彼女を含めたLS仲間と共に行動する機会が増えていった。
彼女はいつも無口で無愛想だった。
LS仲間との行動を嫌っている様子でも無く、好んでいる様子とも見られなかった。
だが稀に俺と目が合うと恥ずかしそうに俯いた。
はしゃいだ顔を見られた事が、彼女にとって恥ずかしかったのだろう。

ある日、俺が親身になって育てていたチョコボの卵から雛が孵った。
俺は嬉しさのあまりにLSの仲間に雄たけびをあげていた。
その声を聞いたLS仲間の熟練した格闘娘・・・モンクの女の子が見に来ると言って駆けつけてきた。
毎度毎度慌しいのはこの格闘娘、カナの常だった。

カナは3時間ほどでやってきた。
この娘の常識を外れた移動の早さはいつものことだが、カナの影からひょっこりと顔を出したセーラの姿に俺は驚いた。
カナとセーラが特に仲が良いということでもなく、偶然近くで出会ったのだとカナが言っていた。
カナは俺の雛チョコボを両手に乗せ、キャピキャピとはしゃいでいた。
セーラはカナの手のひらに乗った雛を覗き見て、小さく微笑んだ。
「可愛いわねー♪」
カナが頭の上に雛を乗せて俺に言った。
そうだろそうだろ、と俺は我が子の様にその雛を自慢した。
ピーピーとカナの頭の上で雛が無邪気に鳴く。
「可愛いなー♪・・・それに美味しそう・・・」
ピ・・・と雛の無邪気な鳴き声が一瞬詰り、俺の息も詰る。
冗談だ・・・冗談に決まっている・・・
俺はそう自分に納得させるように頭でその言葉を反芻した。
しかしちょっとまて俺・・・カナならあるいは・・・
「ねぇねぇ、薪どこぉ?」
やべぇ!本気だ!
カナのマジ口調に俺の手が反射的にカナの頭上の雛を救うべく伸びた。
しかし俺の手が届くよりも早くセーラが素早く雛を自らの手で救い上げた。
セーラは何も言わずに涙を流して雛に頬擦りしている。
俺はそんなセーラの姿を心の底から可愛いと思い、しばらく見つめてしまっていた。
「や、やだなぁ・・・冗談だよぉ・・・」
俺の疑いの視線に気が付いたのか、カナは慌てて冗談だと繰り返した。

フー・・・
軽い溜息が出てしまう。
「大丈夫だよセーラ。カナは冗談好きだから、ね?」
完全に大泣きして雛に頬擦りをしているセーラに、俺はなだめる様に声をかけた。
セーラさんは頬擦りをやめて、雛を涙ぐんだ目で見つめた。
雛はピー・・・と細く鳴いてセーラを慰める様に頬を舐め始めた。
『この娘には獣使いが天職なんだな。』
その微笑ましい光景を、俺はそんな事を思いながら静かに見守っていた。

ところがある時期から急にセーラはLSに来なくなった。
時々挨拶をするが、30分と経たない内に挨拶をして外してしまう。
俺は狩りの技術向上に集中するために外しているのだと察していた。
LSを通してセーラの声を聞けなくなった俺は、無論寂しかった。
しかし、俺の勝手な行動でセーラの修行を邪魔するわけにはいかないと、自らの心を抑制し負けずに狩りの修行に専念していた。

セーラのその状態は、一ヶ月に及んだ。
彼女のその状態が続くにつれ、俺は不安になっていった。
彼女が居る場所は、俺達冒険者の間で『フレンドリスト』と呼ばれているツールでわかっていた。
定住しない冒険者の管理に必須な物として、このフレンドリストは冒険者なら必ず所持していなければならない物だ。
フレンドリストの紛失・消失は「冒険者」では無くなり、年内に定住しない者は社会から拒絶されるとまで言われている。
フレンドリストはLSを外してからも同じ場所に居ることを示していた。
ワジャーム森林・・・。
俺はとうとう堪えきれず、彼女の様子を見に行くことを決心した。

いつもの様にLSにセーラが現われた。
そしていつもの様に何も喋らず、30分もせずにセーラは挨拶をしてLSを外した。
『よし・・・悪いが後をつけさせて貰おう・・・』
俺は予め見つけておいたワジャーム森林に佇むセーラの姿を追った。
セーラは何かを待っている様だった。
『む・・・アイツラなんでこんな所に・・・』
ガサガサと影からLSの仲間達がセーラの前に現われた。
セーラは怯えた様子で後ずさりしている。
影から現われたLS仲間達はヒョイとセーラを抱え上げると、森林の奥地へと足を進めていった。

『どこへ・・・』
その普通ではない光景を目の当たりにした俺は連中の後を追おうとした。
ガサッ
「ッ!」
突然影から出てきた手が俺の片足を掴んだ。
『見つかった!?』
冷たい汗が頬を伝う。
「迂闊に近づいちゃ駄目。もっとゆっくり追うのよ・・・」
足を掴んだ手の正体はカナだった。
カナは影から姿を現し、先導するように歩き始めた。
俺はカナの後に続いた。

「LS辞めちゃった人から聞いた話なの。落ち着いて聞いてくれる?」
歩きながらカナが言う。
「ああ・・・セーラのおかしな様子の原因を探りに着たんだ。話してくれ。」
普段は軽い性格のカナの口から発せられる重い口調に、俺の体が緊張する。

一ヶ月前。
丁度俺が風邪で寝込んでしまった頃の話だった。
あるLS仲間が手伝って欲しいと言っていたクエストのために、LS仲間達は満月のボヤーダ樹へ向かった。
その中にはセーラも居た。
熟練した獣使いである彼女は大きな戦力となるために手伝いの依頼が多かった。
しかし目的地に着く前に誰かがコリガンに襲われてしまった。
仲間達はすぐに助けに入った。
交戦中の仲間達に少し遅れてセーラが駆けつけ、襲い掛かったコリガンを魅了した。
もちろんセーラは善かれと思い行動したのだが、仲間達の気に障ってしまったらしい。
交戦して消耗したのに何故魅了したのかとセーラを責めた。
「・・・この子もビックリしちゃっただけだから・・・」
セーラが俯きながら傷付いたコリガンの頭を撫でて言う。
仲間達の冷たい視線を浴びながらセーラはコリガンを離れた場所で解放した。
セーラが元の位置に戻ってきた時、既にそこには誰も居なかった。
ガン!
辺りを探し始めようとしたセーラの後頭部を、何者かがカジェルで殴りつけた。

クエストは無事に成功した。
目的を果たしたLS仲間に拍手が送られる。
一部予定がある仲間を残し、その場はめでたく解散となった。
各々が戻っていく中、予定があると言っていた連中の後を追った奴が1人居た。
それが現在は居ないと言うLS仲間であり、この話をカナに打ち明けたと言う。

暗がりからLS仲間達が集まってくる。
ボヤーダ樹の外れにある人気の無い場所に、セーラはツルで手足を拘束され猿轡を噛まされていた。
冷たい視線で見つめるLS仲間達にセーラの体は小刻みに震えていた。
震えるセーラに一斉に連中は襲い掛かり、衣服を引き裂いた。
セーラのくぐもった叫びと、衣服を引き裂く音が辺りに響く。
全裸に剥かれたセーラの手足を無理矢理割り開き、パシャパシャとSSを一斉にSSが撮られる。
セーラの体の隅々が連中のSSに収められていく。
泣きじゃくるセーラの顔、豊満な白い胸、連中の指で開かれた秘部と肛門。
SSを撮る音はそれからも続いた。
セーラの乳房が乱暴に揉まれ形を淫靡に変え、秘部と肛門には指が挿れられ悲鳴のリズムを変えた。
「ふぐぅ!」
ビクンッとセーラの体が大きく跳ねる。
股間を弄っていた指に血の筋が伝い落ちた。
ポロポロと涙を流して啜り泣くセーラの両膝が持ち上げられ、開脚させられた状態で横になった男の怒張の上に運ばれていった。

連中の視線がセーラの秘部に集中する。
指で純潔を失ったセーラの秘部からは、まだ血が流れていた。
容赦無く抱え上げた連中がセーラの体を降ろし、下になった男が強引に腰を引き降ろす。「はぁ・・・あが・・・ぁ・・・!」
内臓を突き上げられた様な初めての感覚に、セーラが苦しそうな悲鳴をあげる。
のけぞったセーラの乳首に別の男達が吸い付き、すり潰し、噛み付く。
また別の男がセーラの猿轡を取り、叫び声をあげようとした唇に吸い付く。
口内を隅々まで舐められ、敏感な部分を痛いまでに刺激され、内臓が破られてしまうのでは無いかというほどに下の男が乱暴に突き上げる。
「うむぅ!ふ!はふぅ!ん・・・!」
ほど無くして下の男の動きがさらに早まり、絶頂が近い事を示し始めた。
「うっ!」「・・・!?」
突き上げる男と突き上げられたセーラの動きが止まり、腰がビクビクと痙攣する。
下の男がゆっくりとセーラの下からどくと、セーラの秘部からダラリと白い液体が溢れ出した。
呆然とするセーラにはお構いなしに別の男が横たわり、セーラが上に運ばれる。
グチュリ・・・
下の男とセーラが結合する。
放心状態のセーラは少しピクリと動いただけだった。
別の男が面白く無いとばかりにセーラの後ろに周り込む。
ピト・・・グリ・・・ブチッ!
「い”!ぃあ”あ”あ”ぁぁぁぁあああああ!むぐっ!」
唐突で強引なアナルファックにセーラの筋が音を立てて切れる。
絶叫をあげたセーラの口は再び男の口によって塞がれてしまった。
意識が朦朧としている様子のセーラの体が、再び男達の突きによってユラユラと揺れ始めた。
SSの音が辺りに木霊する。

その行為は半日にも及んだと言う。
カナが打ち明けてくれた仲間から預かったという凄惨なSSの最後には、股間から大量の白い液体を流し、充血した乳首に幾つもの噛み後をつけて気を失ったセーラが写っていた。
セーラはこのSSを材料に脅され続けているはずだとカナが言った。
既に予想はしていた話だったが、ショックが大きかった。
気付けなかった自分と連中に対して怒りが込み上げる。
「あ!」
カナが短い声をあげた。
「・・・どうした?」
俺が依然ショックを隠せない表情でカナに問う。
「・・・見失っちゃった」
「ば!・・・探すぞ!」
俺とカナは慌てて連中を探すために走り出した。

ドサッ
セーラが物の様に地面に投げ出される。
息を詰らせたセーラは苦しい表情で咳き込む。
放り投げた連中が咳き込むセーラに襲いかかり、セーラの衣服を下着姿になるまで引き裂いた。
セーラは抵抗せず怯えた瞳で仰向けのまま周りの連中を見ていた。
複数の影がセーラを囲み始める。
ゲシッ!
1人の男の蹴りがセーラの脇腹を蹴りつける。
セーラの体が折れ曲がり、激しく咳き込んだ。
ゲシッ!ガツッ!ガッ!
他の影達もセーラを蹴りつけ、踏みつけ始めた。

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」
走り疲れた俺とカナはその場にへたり込んだ。
「クソ・・・一体どこに・・・」
俺は焦っていた。
こうしている間にセーラはどんな仕打ちを受けているのか・・・。
「ごめん、私が見失ったばっかりに・・・」
カナは両手で顔を覆って泣き出してしまった。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・セーラ・・・」
ワジャーム森林を夜の闇が包み始めた。

夜道に白い肢体が横たわっている。
散々に蹴りつけ踏みつけられ、体中に痣を纏ったセーラが気を失っていた。
連中はセーラの周囲からは姿を消し、近くに潜んでいる様だ。
フッと闇が揺らいだ。
揺らいだ空間にいくつもの黒い人影が浮かびあがる。
かつてここで息を引き取った者の亡霊、フォモル達だ。
フォモル達は即座に傷付いたセーラを発見した。
「ふぐ!むぐぅ・・・!」
フォモル達が一斉にセーラに襲いかかる。
怨念や欲望といった思念の塊であるフォモルには容赦が無かった。
自らの怒張を露にし、乱れたセーラの下着を引き裂き、セーラの口に、白い肌に、乳房に、秘部に、アナルに擦り付け突き入れた。
闇の中で異形の黒いフォモル達と白いセーラの肢体が蠢く。
時折セーラの苦しそうな呻き声が、その塊から聞こえた。
フォモル達が一斉に白い欲望をセーラに吐き出す。
セーラの体がビクビクと跳ねるが、すぐに次のフォモル達が入れ替わり弄んだ。
「い”!?あ”・・・ぎ・・・!」
2体のフォモルの怒張がセーラのアナルに無理矢理侵入し、セーラの瞳が裏返る。
構わずフォモル達は自らの欲望のままにセーラを使い続けた。

夜が明け、朝日が山間から顔を覗かせた。
フォモル達の姿は朝日を浴びると共に消えていった。
ドサッ!ブピュッ・・・ビュルッ・・・
セーラに襲い掛かっていたフォモル達も消え、セーラの肢体が地面に崩れ落ちる。
白濁した液体に埋もれ、秘部からはフォモル達の放った液体が勢い良く痙攣と共に噴出していた。
物陰からLSの連中が姿を現し、光の無い瞳で宙を眺めるセーラにSSの複製を投げつけて去っていった。

「ハァ・・・ハァ・・・」
俺達はまだセーラを探していた。
1晩中走り回り俺もカナも体力の限界を感じてきていた。
「あ!ねぇ、こっちきて!」
突然カナが大声で俺を呼ぶ。
俺は残った体力を振絞ってカナの呼ぶ場所へと向かった。
「どうした!?」
荒い息をつきながらカナに問いかける。
「あ・・・あれ・・・」
カナが指差す方向には嫌な匂いを発する湿った地面とSS、そして誰かのフレンドリストだった。
「ま・・・まさか・・・」
予想は的中した。
SSにはセーラの受けた被虐の全てが収められ、フレンドリストは間違いなくセーラの物だった。
フレンドリストを捨てる事。
それは冒険者を辞め、自らの立場を宙に浮かせる事を示していた。
そして冒険者の輪から離脱する事を・・・。
急いで周囲を調べたが、セーラの姿を見つける事は出来なかった。

その場へ座り込んで俺はただ呆然としていた。
救えなかった自分への怒り、誰からも救われる事も無く去っていったセーラへの切なさ、セーラに襲い掛かった正体不明な連中への恨み、色々な思いが爆発していた。
「ねぇ・・・一緒に別のLS探さない・・・?」
俺の様子を察して遠慮がちにカナが言う。
「酷すぎるよ・・・耐えられないよ・・・」
カナが涙を流しながら震える。
どちらから共無く、俺達は皇国へ戻った。

あれから2年が経った。
結局あの時のカナの申し出は断った。
俺はセーラがきっとどこかで待っていると信じて、1人セーラを探すための旅に出た。
俺が本当に笑える様になってから、カナには会おう。
そしてまた3人で一緒に遊ぼう。
そう決心して飛び出したが、情けない事にまだ見つかっていない。
カナは元気にしているだろうか・・・。

物思いに耽りながら、俺は立ち寄ったサンドリアのレストランに向かって歩いていた。
「あ・・・!」
「・・・え・・・?」
通りすがりそうになった女性が俺を見て驚きの声をあげる。
俺はその急な反応に驚いて立ち止まった。
「セー・・・ラ・・・」
「・・・お久しぶり。ごめんね・・・急に居なくなっちゃって・・・」
見忘れるはずも無い、捜し求めていた女性が申し訳無さそうに言った。
「どこ行ってたんだよ!すっげー探したんだぞ!」
俺はセーラの肩を掴んで湧き上がった思いを口にした。
頭の中が真っ白になって、それ以上何を言ったらいいのかわからなかった。
「・・・ごめんね。」
セーラが涙を浮かべて俯いた。
「よかった・・・元気で本当に・・・よかった・・・」
俺は泣き顔を見られない様に俯いて泣いた。
「ありがとう・・・」
セーラが小さく微笑んで言った。

「あ・・・私名前変わっちゃったの。今はセリアって言うのよ。」
紅茶を口に運びながらセーラが言った。
彼女はあれからサンドリアに定住し、名をセリアと変えて過ごしていた。
性格は驚くほどに明るくなっていた。
「セーラ・・・いや、セリア・・・。君が去る前何が起こっていたか、話を聞いて知ってるんだ。
 知らなくて、助けられなくてごめん。
 俺、どうしてもセーラ・・・セリアの事が気になって捜してたんだ。」
「そう・・・ありがとう。とっても嬉しいよ。
 捜してくれて本当にありがとう・・・。
 あと・・・セーラでいいよ。」
俺の心の中のわだかまりが軽くなった。
話したい事が沢山あったはずだ。
だが何も言葉にならなかった。
お互いに無言のまま時が過ぎていく。
「今は、元気なのか・・・?」
セリアは満面の笑みで答えた。
「うん。とっても幸せ!
 良い旦那様も居るし1才になる子供も居るのよ。
 とっても可愛いの、今度見に来てね!」
俺の心が複雑な思いで満たされた。
「そ・・・そうか。ビックリした。
 セーラ結婚したんだ・・・。
 おめでとう。今日は乾杯だ!」
複雑な思いに悩まされながら、俺は彼女の幸せを祝った。

複雑な思いを抱いたまま、俺とセーラは店を出た。
「今度、寄ってもいいかな・・・?セーラの家に。」
「うん!絶対に来てね!今度は自家製の紅茶御馳走するわ♪」
セーラは満面の笑みで言い、家へと戻っていった。
その後ろ姿には、かつてのセーラに感じられた寂しさは全く無かった。
「・・・幸せそうだ。よかった・・・」
そう呟いた。
この心の憂鬱は何なんだ。
セーラが幸せに過ごしているならなによりじゃないか。
嫉妬・・・それとも自分が幸せにしてやりたかったという勝手な思いなのだろうか・・・。俺は複雑な思いを抱いたまま、サンドリアを後にした。

「で?いつまでたっても話が見えてこないんだけどねぇ・・・」
向かいの席に座ったスキンヘッドの男が煙草を咥えながら言う。
今時珍しく「盗み」を商売としている男で、名をボーズと言っていた。
「俺達の仕事はお悩み相談室じゃ無いからな。盗むのが仕事だ。
 ちょっとした調査みたいな事も稀〜にやるけどな。
 まさかそのセリアさんを盗め何て言うんじゃないだろうね。」
コーヒーを口に含み、俺は本題に入ることにした。
「失礼。気軽に出来る話じゃないだけに長話になってしまった。
 俺が依頼したいのは後者だ。カナを探して欲しい。
 情報を集めているのだが・・・情けない事にお手上げ状態だ。
 プロの手を借りたいんだ。」
ボーズという男は少し間考えている様だった。
「で?そのカナさんを見つけてどうするんだ?
 こっちも仕事の内容把握のために聞いておきたい。
 こういった依頼の中には、探し出して悪さする奴もいるんでな。」
「セーラが幸せに過ごしているということを伝えてやりたい。
 カナも気になってると思うんだ。
 セーラを真剣に探してくれた彼女にも、伝えてやりたいんだ。」
コーヒーを飲み干したボーズが、ゆっくりとカップを置いた。
「3日後に返事をする。それでいいか?
 それと・・・話に出てきたセーラさんを写したSSは資料になる。
 秘密は守る。用途も資料として以外では使用しない。
 それは契約に含めておいてくれ。」
 資料を受けとり、ボーズは部屋から出て行った。

3日後。
ボーズが約束通りの時間にやってきた。
俺はその男の返事を心待ちにしていた。
「大変申し訳無いんだが・・・今回の依頼は断らせてもらう。」
「何故だ!」
俺は思わず立ち上がって男に問いかけた。
「カナという人物は、君が消息を絶ったと同時期に同じく消息を絶っている。
 2年も前の話だ。捜すのはプロでも期間未定ってな事になっちまう。
 仕事として確約出来る話では無いと判断した。」
「要するに見つけられないと言うことか・・・」
俺は心を落ち着かせて再び椅子に座った。
「重要犯罪人であれば話は別だ。だが個人事情ではプライバシーの侵害になっちまうんだ。」
「く・・・」
セーラを捜すのと同じ、いやそれ以上の努力が必要と言うことか・・・。
用意しておいたコーヒーを口に運び、気を落ち着かせる。
「・・・わかった・・・」
「借りていた資料はここに置いておく。
 過去の事はもう忘れた方が良い。
 セーラは幸せになったんだ。お前さんも幸せを掴む努力した方が利口ってもんだぜ。」ボーズはそう言って部屋を出て行った。
「俺の幸せ・・・俺には何も無くなってしまった・・・」
手に持ったコーヒーはただただ冷めていった。

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「やれやれ、別の依頼を探さんと本当に食い倒れちまうな・・・。」
マウラの海に釣り糸を垂れながら溜息交じりにボーズが言う。
「調査、どうだったの?」
隣に座った短く綺麗な白髪と、静かで寂しげな瞳の美しいミスラがボーズに問う。
ボーズの相棒であるアイリというミスラだ。
「あぁ・・・カナって娘の事か?なんとも生臭い結果だったぜ・・・」
「『よくあること』ね。」
アイリは港の端に座りながら足をブラブラさせている。
「預かったSS、思ったとおり妙な所があってな。
 早い話が関連人物がわからんように加工されていた。
 それだけSSがあるなら犯行に関係した人間も割り出しやすいはずだからな。
 おかしな話だと思ってまず調べて見たってこと。」
「・・・ハゲ、『オカズ』にしてたんじゃないの?」
ブハッとボーズが赤面して噴出す。
「そ・・・そんな事あるわけがないわけがないだろ!」
「してたんじゃない。変態ハゲー」
慌てて正反対の反論をしてしまったボーズをアイリがからかう。
「余計な事言わんで話きけっつーの!
 要するにあのSS持ってる人間は犯行に関わった人間ってことだ。
 そしてあのSSを依頼者に渡したのは・・・」
「・・・カナ」
フゥとボーズが溜息をついて続ける。

「そう。だが当時犯行に関わった奴には逮捕された者も居る。
 昨日はそいつの話を聞いてきたんだ。
 ちょっと脅したらペラペラとよく喋ってくれてな。」
「首謀者はやっぱりカナ?」
ボーズが釣り餌を付け替えながら答える。
「・・・あぁ、大体の話はこういうことだ。
 カナは依頼者に惚れていた。
 だが当の依頼者はセーラって娘に首ったけでな。
 以前からセーラはカナにとって目の上のコブだったそうだ。
 カナにとって幸いな事に、セーラを快く思わない連中はLSに複数居た。
 それを知ったカナはその連中にセーラへの虐待を依頼した。
 激しい暴行を加えセーラを追い出した後、傷ついた依頼者を慰める事で自分に目を向けさせる計画だったそうだ。
 だが、カナの計画は誤算に崩れた。」
アイリの鼻に蝶がとまり、アイリが蝶と睨めっこを始めた。
「最大の誤算はセーラが長く耐えてしまった事だ。
 結果依頼者が事態に気付き、後をつけてしまった。
 焦ったカナは依頼者を現場に近づけないために、自らが誘導して追跡を撹乱した。
 一晩中一緒に走り回ってまでしてな。
 誤算はあったが『セーラを追い出す』という目的は達成された。
 だが、ここにも小さな誤算があった。
 セーラが自分のフレンドリストをその場に破棄してしまった事だ。
 その影響が次の誤算に繋がった。
 決定的な誤算はセーラを求めて依頼者が消息を絶ってしまった事だ。
 計画ではカナと依頼者は駆け落ちし、LSの連中に約束した報酬も踏み潰せるはずだった。
 だが依頼者が自分を置いて失踪し、大きなショックを受けたんだろうな・・・。
 行動が遅れてしまい、利用してきたLS連中に捕まり報酬を求められた。」

ボーズの竿が大きくしなる。
「お!かかっちゃったんじゃないのぉ?」
ボーズが立ち上がり目の前の獲物と格闘を始める。
ザバァ!
アイリが獲物への期待に胸を膨らませてボーズの方を見た。
「・・・にゃ?」
だがそこにボーズの姿は無かった。
「ア、アイリ!助けてくれぇ〜!」
ボーズの声は足元の海から聞こえてきた。
アイリはヤレヤレと呆れながらも、近くにあった漁業用の網でボーズを捕らえ引き上げた。
「・・・不味そー」
引き上げたワカメ塗れのボーズをつつきながらアイリが言う。

「ヘックション!もちろん踏み倒す予定だったカナには約束した報酬なぞ出せなかった。」
寒さに震えながらボーズが続け、アイリはボーズの衣服を乾かし始めた。
「危ない橋を渡らされ、あげくに報酬が出ない事を知ったLS連中は当然怒った。
 カナを捕らえ、セーラにした暴行以上の虐待をあたえた。」
ボーズが濡れた衣服からSSの束を取り出し、アイリに差し出した。
そこにはカナの裸体と拷問と言うべき仕打ちが収められていた。
「しかし、連中はやりすぎ、カナは虐待の果てに死んでしまった。
 依頼者がカナをいくら探した所で見つかるのは悲惨な事実だけだ。
 そんな事実なら、知らん方が良い。」
暖かいコーヒーを一口飲み、海に視線を向ける。
「皮肉な話というべきか、自業自得というべきか・・・。
 嫉妬に狂った果てに惚れた男に失踪され命を落とし、陥れるはずの相手は心に深い傷を負うも今は幸せに過ごしている。
 惚れた男が自分に振り返ったのは、命を落とした後・・・。」

ボーズが1枚のSSを取り出し、見つめながら呟いた。
「しっかり気持ち伝えりゃあ、こんな事には成らなかっただろうに・・・。」
SSには雛を頭に乗せて微笑むセーラとVサインをする依頼者、薪を抱えてニヤニヤと笑っているカナの姿が写っていた。
「俺が誰かに惚れられてもヤキモチやくなよ?ア・イ・リ」
ボーズが茶化してアイリに視線を向ける。
「ゲフッ!」
アイリは蝶を鼻にとまらせたままスヤスヤと寝息を立てていた。
「ったく!おい、こんなとこで寝たら風邪引くぞ!」
焚き火を消し、ボーズはずぶ濡れの衣服とアイリを宿屋に運んだ。

マウラの海に、3人と1匹の微笑ましいSSが浮かび流れていった・・・。