嫌な予感がする。
普段あれほど騒がしいアルザビが今は不気味なほど静まりかえっている。
嫌いな傭兵の姿が見えないのは喜ぶべきことなのに、不愉快な「何か」を彼は感じていた。
しかし、この感じは何度か味わったことがあるため大体の予想はつく。
「ガダラル様…「いつもの」です。」
側近のShayadarから予想どおりの報告を受ける。
「…やはりな。わかった、行ってくる。」
「お気を付けください。御武運を。」
市街戦の時以上に緊張が背骨を駆け上がる。
持ち場を離れ、向う先はナジュリスの家だ。
ナジュリスの家に近付くにつれて胸が詰まる程の匂い、表現しづらいのだがあえて言うと甘ったるい匂いと血肉の匂いが感じられた。
(これは急がないとな…)
ガダラルは歩く速度を速め、ナジュリスのもとへと急いだ。
通路を抜け、角を曲がったところでガダラルは自分に向けられた殺気を捕えた。
将軍を名乗る以上、相応のリスクを負う。
もちろんこのような体験も初めてではないため即座に鎌を抜き、標的を探す。
殺気は強いが気配がしない。
しかし、一瞬見えた影から居場所を特定した。
(上だ!)
「スタン!バインド!!」
詠唱の短い黒魔法を打ち込むと、確かな手応えがあった。
二階への階段の影へと消えた影を逃すまいと次の詠唱に入る。
ゾクゾクするような感覚を確かめるように言葉を紡ぐ。
「イーグルアイ。」
「なっ……!!」
全身に衝撃が走り、ガダラルはその場に崩れ落ちた。
ガダラルが深い闇から這い上がって来た時、体の自由が利かないことに気付く。
ゆったりとしたソファーに座り後ろ手に縛られ、ソファーの足と彼の足がきつく縛られていた。
(畜生…なんなんだ…)
イラつきながらも辺りを見回すと見慣れた台所だった。
「ナジュリス、何のつもりだ。さっさと放せッ!」
彼をこのようにした張本人と思われる人物の名前を叫ぶ。
「ふふ…怒鳴らないの。すぐご飯にするね。」
後ろから声が聞こえ、なにか良からぬ物を焼くようなつんとした刺激臭が部屋に充満する。
「放せと言っている。それに飯の気分じゃない。」
「なら、なんの気分なの…?」
ソファーをくるりと回転し、着衣が多少乱れたナジュリスと緊縛されたガダラルが向かい合う。
様子がおかしいのは明らかだった。
ナジュリスは彼のターバンを取り上げ床に放り投げると目蓋にそっとキスをした。
「…何がしたい…っ…」
唇に吸い付くように接吻され、ガダラルは素早く引き離した。
媚薬の香がしたのだ。
しかも相当な量だった。
「な、おまえ…なにを食べた…!?」
「なんだっていいでしょ…」
ナジュリスの手がガダラルの衣服にかかり、脱がされてゆく。
「ば、馬鹿か!!ちょ!止めろ!ナジュリスッ!!」
下衣にも手がのび、ガダラルの一物が外気に晒された。
「あは…かわいいね…」
「馬鹿!そんなモノ、さ、触るな!!なにを考えている!」
たらんと情けなく頭を下げているそれを優しくつかみ、指の腹でくるくると撫で、ガダラルの反応をうかがう。
「耳、赤くなってる…かわいいわね…」
「うるさいッ!止めろ!!ばっ…触るなッ…」
「んふ…大きくなた……」
縛られたガダラルの前に座り、徐々に質量が増してきたそれをナジュリスは一気に咥え、ガダラルの腿の間に顔を埋めた。
「うっ…やめ、ろ……ナジュリ…ス…!」
生暖かい唾液とその狭さに良からぬことを想像させられる。
吸い込むようにしながら頭を前後にスライドさせるとたちまち肉棒は存在を誇張しはじめる。
唾液に媚薬が交じっているのか、恐ろしいほどの快楽がガダラルを襲う。
ナジュリスの舌は血管が浮き上がった肉棒の裏筋を往復し、先端の返し部分をひっくり返すような勢いで舐め、這いずり回る。
「見て…こんなに大きくなっちゃったね。ガダラルってえっちなんだ?」
すっかり固くなり、天を突くガダラル自身から口を放し、上目遣いで恍惚の笑みを向ける。
「っ…放せッ…嫌だ……くそっ……」
「イヤ、じゃないでしょ?ガダラルかわいいょ。」
二、三度手で扱き、亀頭だけ咥え、鈴口に尖らせた舌を強く押しあてる。
ゆっくり、時には速く、不規則に刺激を与える。
「ああっ…ち、畜生……っ…うぐ…」
歯を食い縛り耐えるがその行為はナジュリスを喜ばせるだけであった。
うっとりとしたような瞳で見上げながら責める。
「ぐっ…は…止めろ…ッあ……」
肩で息をし、冷や汗で額や頬に髪を貼りつけた頭を振った。
肉棒の根元を強く握り、爪を軽く立てて根元から先端へと滑らせる。
行き場のない肉情が出口を求めて暴れるように脈打つ。
「うう…っは…かはッ……で、る……」
許さない、そう言うかのように目を伏せさらにきつく根元を締め、陰嚢を握り潰す。
「あああァアあッ!!」
目の前が真っ白になり、ガダラルの顔からみるみる血の気が引いていく。
喉を反らし、開いた口が小刻みに震え、痙攣を繰り返す。
不意にナジュリスの両手が離れ、が飛びかける直前だった意識が引き戻される。
「うっ…ナジュ…離れっ……でる……」
腰を引こうと試みるが、まだ肉情を咥えたままのナジュリスに腰を掴まれ叶わない。
「ッはぁ!ちく、しょ……っ……」
暴れる欲を抑えきれず、散々焦らされていたモノが勢い良くナジュリスの口腔内へ飛び出してゆく。
こくこくとナジュリスの喉が上下するが、相当溜まっていたせいか唇から溢れ、白濁して粘り気のある液体は糸を引いてナジュリスの胸元へ落ちた。
管に残ったものまで吸い上げ、ようやく口を離す。
ガダラルはがくりと頭を垂らして動かない。
ナジュリスは口に含んだガダラルの精液と自分の唾液を混ぜるように口を動かし、ガダラルの額と顎を掴み、上を向かせる。
額に貼りついた髪と、息を切らして虚ろな目をし、小さく口を開けたガダラルの端正な顔が見せる表情は異様な色気があった。
少し開いた口からは小さく畜生、と繰り返しているのが聞き取れる。
その口にナジュリスは近づき唇を捕える。
巧く舌を使い、ガダラルの口を押し拡げると先程彼が放った、彼の印を注ぐ。
「げェッ!がはっ…うェ……」
苦みと痺れるような刺激、さらに媚薬が混じり、なんとも形容しがたい味と、粘つき口腔内に貼りつくかのような感触に思わず吐き出し、自らの肩とはだけた薄めの胸板を汚した。
「おぇェ…まずっ……」
「おいしいよ。ガダラルの…」
「狂っている……」
上着を脱ぎ、ズボンをずり下げて脚を抜き取り放る。
座らされたままのガダラルにまたがると脚のうえへ座り、ガダラルが吐き出した胸板の上の精液を猫がミルクを飲むようにして舐める。
首筋から乳首、へそへと音をちゅっ…ちゅぱ…と立てながらゆっくり下りていく。
「い、いい加減にしろ…」
「素直じゃないわね…欲しいんでしょう?」
再び熱を帯始めた彼自身に指を絡ませ、鈴口を指先で擦る。
「ふざけ…やめッ……」
「あげる…私を……私も欲しイの…限界。」
ソファーに膝立ちになり、両サイドで結ばれた紐を解き、下衣を脱ぎ捨てるとガダラルの膨張した肉棒を自身の秘裂へとあてがう。
なぞるようにすりつけ、快楽を貪る。
「あはっ…んん…ここ好き…ああん……」
肉棒で愛撫をしながら自分で乳房を揉み乱れている。
「ああん…欲しいの!ガダラルの欲しいの!っはぁ…んぁう…」
愛撫を続ける中、突如蛮族の襲撃を知らせる警笛が甲高く響いた。
「ナジュリスいるか!?」
ザザーグの熊みたいな声が聞こえる。
その声にナジュリスの手が止まる。
「ナジュリス?いないのか?」
助かった…ガダラルはそう安堵したが事態は悪いほうへ急速に進む。
「ガ、ガダラル…?なにやって…」
「え?…は?」
焦点のあったナジュリスがしげしげとガダラルを見つめる。
はだけた身体に、反り勃つ男根…下着を付けていない自分…
「きゃああああああああああああああ」
ソファーから飛び降り、近くにあったブランケットで身体を隠す。
「なっ…!?ちがっ…!」
ナジュリスの眼差しを慌てて否定するが遅い。
「どうした!?まさかもう奇襲部隊が?!入るぞ!!」
「来るなザザーグ!!」
「ガダラルもいるのか!?なんだ今の悲鳴は!」
「何でもない!問題ない!…ちょ!ナジュ…!!?」
ナジュリスが玄関へ向かい、大きな音を立ててドアを開ける。
「な…お前さんなんちゅう格好…」
「ん?どうしたザザーグ、それにナジュリス。」
後ろからひょっこり顔を出したのはルガジーンとミリだ。
「ガ、ガダラルが……」
泣きそうな顔、着衣の乱れや震える身体をみてその場にいた三人は奇襲部隊が現れたととった。
「弱いのに強がるから…入るぞ!」
ルガジーンが剣を抜き、ナジュリスの家へ入る。
「大丈夫か!?…ん?」
ルガジーンが構えたその先には椅子に縛られ絶望の顔をしているガダラルがいた。
振り返り、ナジュリスの胸元にかかっていた白濁液をみてからガダラルの反り勃つそれを見る。
「誤解だ。話を聞け。」
剣をおろし、ルガジーンはため息を吐いた。
「ああ、わかるよガダラル。君はまだ若い。色々と興味があるだろう、うん。
夜な夜な…その、なんだ、女性が淫らな格好をする文献を読んでみたり、それを隠したり…
あー、つまりマスターベーションすることもあるよね。
大丈夫、異常なことじゃない、誰もがその道を通り、男という生きものは死ぬまで迷い込むんだよ。
確かにナジュリスは可愛くてやさしい、いい子だ。胸も大きくて華奢な腰まわり、きれいな体躯をしている。抑えられないのもわかるよ。
しかしね、ガダラル、よく聞きなさい。君がどんなに彼女を愛しているとしても強引に愛を示すのは良くないことだ。
若い者は強く反発するだろうが、順序というものがある。
まずは目が合ったら恥ずかしそうに目線を斜め下に向かって外し、その次にパーソナル・スペース、あー、すなわち個人的領域に入ってみるとかね、段階があるんだ。わかるかい?」
「誤解だといっているだろう!!これは…」
「言い訳は見苦しいぞガダラル、最後まで聞きなさい。
愛するものを自分の物にしたい、その気持ちは痛いほどわかるよ。本能だ。仕方のないことだよ。
だけどそれは切ない恋なんだ、シヴァのダイアモンドダストのように儚く美しく、しかし同時に危険なものなんだ。わかるね?
私は君とナジュリスがこんな形でお互いに辛い思いをすることに非常に胸が痛んでいる。
まるで私のうさぎが死んでしまったかのように…。ガダラル、わかっているね?
今からは市街戦が始まるから時間がない。終わってからちゃんとナジュリスにごめんなさいするんだよ?わかったね?ほら、すぐ支度をしなさい。」
そういうと、ナジュリスの家をあとにし、他の三人に持ち場につくよう指示した。
「くそ…動けん……畜生…畜生…畜生…畜生…畜生…」
いつもどおりの悪態をつき、誰もいなくなった台所でガダラルは自分が誇り高き黒魔法の使い手だということを忘れていた。