目が覚めて最初に見たのは、見たことのねぇ天井だった。煤けた石の壁に、グリフォンの赤い旗。
…ああそうだ、俺はラヴォール村に来て……豚どもとデーモンとやり合って……得体の知れないヤツらが出てきやがって…
「ラジュリーズさまっ」
名を呼ぶ声に気づき、俺は顔を向けた。手を伸ばせば届きそうな距離から俺を覗き込んでいる娘の表情は、今にも泣き出しそうだ。。
「よかった……!このままお目覚めにならなかったら、あたし…!」
いや、泣いた。大きな瞳からぼろぼろ涙が溢れさせて、俺のかぶっている掛布や枕にぱたぱたと落として。
「悪かった」
俺は枕元に膝をついているポーシャの頬に手を伸ばした。手のひらにじんわり、伝わってくるのは、柔らかい感触と血の通った温さ。
「冷たい指先をなさって」
ポーシャは涙をためたままの目で俺を見つめ、ようやく少し笑った。頬に乗せた手に自分のそれを重ねて、そっと握ってくれる。
「ああ、なんだかひどく寒いんだ」
後々、「呪詛」だと知ることになる変調も、その頃の俺は知らないままだったから
「温めてくれよ」
ダンサーの細い腰にそっと腕を回して、てめえが寝ているベッドに引きずりこんで
「ラジュリースさま、まだお体が……それにここは修道院で、リリゼットも……!」
子どもをなだめる様な台詞を吐く唇に喰らいついて、貪った。花みたいな甘い香りが、ふわんと鼻に飛び込んでくる。
こじあけて、遠慮がちな舌を絡め取って吸って、唾液を交換して、しばし離れる。
「……もう、心配して損ちゃいましたわ」
「連れない事、言うねえ」
唇を尖らせて見せるポーシャの頬は、心なしか上気していた。俺はというと、手足は未だ冷たいのに、臍の下のアレだけはやけに熱い。
もっともそれはポーシャにもお見通しだったようだ。
「だってもう、すっかり元気、でしょ?」
「元気かどうかは、ポーシャに決めてもらいたいもんだ」
狭いベッドの中で、ポーシャを背中から抱いた。薄いフリルに覆われただけの尻に、触れられたばかりの箇所をおしつけてやる。
「なぁ、感じさせてくれよ。生きてるって」
びくりと身体を震わせたポーシャは、首だけひねって俺を見た。
「…もう、言い出したら聞かない…困った方」
目は潤んでいるけれど、これは泣いてたからじゃ、ねえ。
「嫌かい?」
「……お慕い、しております」
ポーシャの睫がすっと伏せられたのを確かめてから、今度はそっと唇を重ねた。
「お慕い、しております」ね。
もっと直球ズガーンでも全然構わねえんだけどよ。


ポーシャを正面向いて抱きなおし、仰向けに寝かせてから顎を掴んで深く口づけた。
いつも思うんだが唾液が混ざり合う、くちゃくちゃって音は、背中がゾクゾクする。
「…ん」
口の天井から頬の内側、歯に歯茎。俺のより小ぶりなそれらを、じっくりと舌で撫でて、吸う。
ポーシャは時々、背中を反らしフリルを揺らし、
「あぁ」
湿った吐息を、俺の口の中に吐いた。
「マヤコフのダンサーとコンナコトしてるなんて、隊にバレたら俺、殺されそう」
俺の冗談に、ポーシャがくすりと笑う。
「…ラジュリースさまとコンナコトしてるなんてお師匠にバレたら私、ステージにあげてもらえなくなりますわ」
緑色の瞳に俺を映し、口の端をあげていたずらっぽく。
「冗談きついなぁ」
笑い返したついでに俺は白い頬を撫で、首筋から鎖骨までくすぐって、フリルの中に手を差し入れた。
なかなか買えないプラチナ・チケットのステージの上で弾む、柔らかい乳房。それが今、手のひらの中にある。
「ま、俺は幸せモンってことさ」
「……っ、んっ」
極上の柔らかさをゆっくりと指で味わいながら、イヤリングの飾られた耳を口に含んだ。
「ゃぁ!…あっ」
耳たぶから軟骨を舌先でなぞり、軽く歯を立てる。
息をふぅっと吹き込むと、踊り子の衣装がしゃらしゃらと、かすかに音を響かせた。
両手の中にある柔らかい肉がじんわりと熱を帯び、冷たい指先に絡んできている。
「ラジュリースさまが私によくして下さるのは…」
「ん?」
俺は身体を少し離して、腕の中のポーシャをあらためて眺めてみた。
「…わたしが、マヤコフのダンサーだから……?」
ほんのり汗ばんだ胸元は紅潮し、すっかり乱れた衣装は俺を誘っているようにすら見える。
「バカだな」
誘いにまかせ胸元を開くと、じっとりと汗ばんだ乳房がぷるんとこぼれ落ちた。
ヒュームってのは細くてちっこい身体のくせに、おっぱいのボリュームはなかなかどうして、スバラシイ。
「んなわけ、ねーじゃん」
口と耳をいじりすぎたせいか、ピンクの乳首はつんと上を向いている。
「ポーシャだって俺が王立騎士団にいるから、こーいうことするんじゃ、ねえだろ」
「……それは、もちろん」
「なら俺も一緒」
俺はむきだしになった乳房に顔を寄せ、その柔らかさをあらためた。
フリルの下に収まっていたときの印象よりも、大きく見えるのは何故なんかな。谷間に頬を埋め、両脇から両手で掴む。
柔らかさが指の隙間からぐにゅりとひしゃげて、こぼれた。
「…ラジュリースさま…」
可愛く甘えてくれてるくせに、俺が触れるのを拒むみたいに押し返してくるそれを、揉みしだいた。
少しずつ先端を搾り、摘み上げる。
「ぁっ…ぁんっ」
ポーシャは俺の頭にすがりついて、甘い声を上げた。くしゃくしゃと髪をかき回される感覚が、妙にイイ。
「ん?」
ああ俺、シアワセ。やっぱりシアワセ。勃ちあがった乳首にしゃぶりつきながら、ぼんやり思う。
「わたしね…」
両方を交互に口に含み、舌先と唇で転がした。音を立てて吸うと、白い肉に残る赤い痕。この女は、俺のモンだ。
「…しあわせ、です」
いつしかポーシャは無意識に腰をせり出すようになっていた。

いや決して悪くはないんだが、さっきからムダに元気な俺のアレにあたって仕方がない。
しかも黒いタイツごしに、じっとりとした熱さまではっきりと感じられる、んだ。そんな状況下で、状況下でだぞ
「お慕い、しています…ずっと、これからも」
こんなコト耳元でささやかれた男(いや俺だけど)が、タイツを一気に引きずり下ろし、
かぶさっていたフリルを上にどけたって、そりゃあ自然の摂理ってもんだ。
そしてそこには、開ききった肉があった。透明な液を溢れさせるヒダに指を差し入れて、下から上になぞる。
冷たいままの指に熱く絡みつく肉とくちゅくちゅ響く音。
汚いことなんか何にもしらないような顔してるくせに、しっかり女の匂いはする。
「ゃ…あ、あ」
顔を出した肉マメを割り開き爪先でいじくり、ヒダの奥を突付いて
「なぁ、ポーシャ、あのさ」
名を呼んで、願った。
『アイシテルって、言ってくれよ』

ポーシャは俺と比べたら、まるで子供みたいに小さい身体をしている。
だから繋がったときに感じられる熱さ狭さといったら、そりゃもう、たまんなかった。
ひたひたと締め付けてくる熱が肉が、生きていると実感させてくれる。
だけどわかってる。ポーシャにとって異種族の俺はバカでかくて受け入れ難い相手であるのは間違いない。
「…ラジュ……スさま……っ」
動くたびに骨盤がぎちぎちと悲鳴をあげているのが、今も聞こえている。でも
「あっ…んっ あっ んあっ ゃぁんっ」
苦痛と快楽がいっしょくたになった嬌声は、俺のささやかな理性をあっさり砕いた。文字通り衝き動かさずにはいられない。
男ってのはどうして、こうどうしようも、ねえんだろうな…!
大きく弾む身体に合わせて、裸の胸がたぷたぷと揺れ動くのが見える。茶色の髪が枕の上に乱れ、青い羽飾りが床に落ちた。
「ゃぁっ…っ ゃあああっ!」
「ポーシャ、………しよ」
小さな頭を抱いて、耳元で囁いく。涙を浮かべたポーシャの瞳に、俺が映って見えた。
「……だって、あ、たしは……貴族でもない、し……っ…あ……ラジュ……さまに、は、……っ!」
「俺がいいっていうから、いいの」
細っこいポーシャの内壁が、ひたひたと俺に絡みついてくる。ずっと溜まっていた欲が、一斉に出口を求め始めた。
「……俺の子、産んでよ」
確かに、たしかに、ぶち撒けたい欲は確実にある。だけどそれだけじゃない、イノチをつなぎたい。
こんなこと今まで考えたこと、一度だってなかったのに。
「んくっ… っ ゃぁっ あっっ!」
耳のすぐ側で溢れるのはポーシャの、切羽詰った吐息と、どこか獣じみた啼き声。背中で感じるのは回された爪が皮膚に食い込む痛み。
「…ださい……あな……たを…!濃いの……っ……いっぱいっ……!」
腕の中で、しなやかな身体が大きく反った。ぎゅうっと締め付けられる感覚に目の前が白くなる。
「……っ」
訪れたのはすべてを、ぶちまけるような快感。俺の願いは、叶うの、かな。


そういえば。
こんなご時世でも、結婚式ってのは挙げさせてもらえるもんなんだろうか?
「…ポーシャ…」
狭いベッドでポーシャの柔らかさと体温を感じながら、俺はもう一度、目を閉じた。……おやすみ。