孕ませ神殿売春

「僕は……」
目の前に広がる淫靡な花園から視線を引き剥がしながら、僕は振りかえった。
白い神官服は、売春巫女のものであっても、清楚で美しい。
それはこの女(ひと)だから、特別そう感じるのかも知れないが。
「あ、貴女と交わりたい……のだけど……」
「――!!」
アドリナさんが息を飲んだのが伝わってきた。
「……」
僕は、アドリナさんの返事を待った。
何度も唾を飲み込んで、二人の間に広がった沈黙に耐えようとする。
「――わ、わたくしで、よろしいのですか……?」
やがて、アドリナさんが消え入りそうな声で答えた。
「も、もちろんっ!」
僕が息せき切って答えると、アドレナさんはしばらくうつむいていたが、
やがて、卓の上においてあった鈴を鳴らした。
入ってきた巫女見習いに、イリアさんを呼んでくるように告げる。
イリアさんは、全裸のまま部屋に入ってきた。
大きなお乳をすくい上げるようにして腕組をして、僕に微笑みかける。
もし、他の巫女に決まっていても、そのしぐさの魅力だけで、
おっぱい好きの男なら、決心を翻してしまうかもしれない。
「坊ちゃまのご指名が決まりましたか?」
「……はい。――わたくしを、ということです」
イリアさんは、片眉と唇の端のかたっぽを上げた。
ちらっと皮肉がきいたその表情に、僕は、この胸の大きな美女が、
アドレナさんに何かきついことばを投げかけるのではないか、と心配になった。
なにしろ、中庭に控えた巫女たちの中から相手を選ぶために<鏡の間>を使ったのだし、
イリアさん自身も、僕とセックスする気満々で、その列に加わりさえもしている。

中庭の巫女たちへの指名は、ある意味とても公平な選定だけど、
その場に出ず、僕と密室で二人きりだったアドレナさんが指名されたことは、
アドレナさんと反目している副巫女長にとっては、格好の上司責めの材料だろう。
(他の巫女が居ないのをいいことに、不公平な誘惑で自分を指名させたのではないか?)
そう言い立てられたら、アドレナさんはことばに窮してしまうだろう。
僕が、弁明しなければ──。
「――」
「わかりました。それでは、いったん他の巫女たちを解散させます。
お部屋は、塔の最上階をお使いください。あそこが一番静かですから」
しかし、僕が何か言おうとする前に、意外なことにイリアさんはあっさりとそれを認めた。
「ごゆっくり。――巫女長の後で、他の巫女を呼びたければ、いつでも私に申し付けてください」
くすり、と笑ったイリアさんは、僕にウインクをしながら部屋の外に出て行った。
中庭にまわった彼女が、巫女たちを解散させるのを僕は呆然と眺めた。
「と、塔の最上階って……」
「し、神殿の東側にある尖塔ですわ。あそこは最上等の<個室>になっておりますの」
神殿内に、巫女が客を取る部屋は、百近くもある。その中でもっとも良い部屋と言うことだろう。
これからすることを思い出して、僕たちは顔を見合わせて真っ赤になった。
「お、お部屋にご案内いたしますわ。行きましょう」
アドレナさんは、そそくさと立ち上がって僕を先導した。
今にも巫女服の裾を踏んづけて転んでしまいそうな様子だったけど、
僕のほうも負けず劣らずに緊張し、焦っていたので、廊下で足を滑らせそうになった。

ようやく、といった感じで塔までたどり着く。
最上階は、やわらかな日差しが入る、明るい部屋だった。
ベッドと、枕もとの柔紙の箱と、水差し。
上質だが、シンプルこの上ない作りの部屋は、ここが何のための場所かをわかりやすいほどに示していた。
この部屋に入った男女は、互いに交わる以外に何もすることがない。
僕とアドレナさんは、そういう部屋に入ったのだ。

「……」
「……」
僕たちは、押し黙ったまま、互いの顔を見詰め合っていた。
何か声をかけたいけど、喉がからからで舌が干からびていた。
僕は、水差しの水を二つのコップに注いだ。
片方をアドレナさんに渡すと、アドレナさんはおずおずとそれを受け取った。
自分の分の水を一気に飲み干すと、ちょっとだけ気持ちが楽になった。
「あ、あのっ──」
「は、はい! な、なんでしょう?」
「い、いや、なんでもない……わけじゃなくて、ああ、そうだ。帯……してないんだね」
「え? あ、はい」
話の接ぎ穂に困った僕は、目に付いたもののことを口にしたが、
それは、意外に重要なことだったかもしれない。
イリアさんが、誇らしげに見せてくれた腹帯。
たしかそれは、一本が一月男と交わっていないことを示す証と言っていた。
アドレナさんの、純白の神官衣のほっそりしたウエストには、何も巻きつけられていなかった。
それはつまり、彼女が他の男と交わってから時がたっていない、ということなのだろうか。
だとしたら、アドレナさんは、成人の儀に必要な準備が整っていないことになる。
では、僕はアドレナさんと交わることが出来ないのだろうか。
──いや。
そんなことは、どうでもいい。
そのことに思い至ったとき、僕の脳裏を占めたのは狂おしいほどの嫉妬だった。
──アドレナさんが、僕以外の男に抱かれている。それも、ごく最近に──。
それは、僕の頭と心の中を、地獄の業火よりも熱い嫉妬の炎で灼いた。
考えれば、それは理不尽な怒りだ。
アドレナさんは、<大地の母神>の巫女長で、それはつまり、最高の売春巫女ということだ。
神殿での職務が忙しいからそうそう客は取らないだろうが、必要なら喜んでそれをする女性だ。
僕が抗議する筋合いのものではない。
でも僕は──それが嫌だった。

僕の複雑な表情に気付いたアドレナさんは、しかし、にっこりと微笑んだ。
「わたくしが腹帯をしていないのは、この一月の間に殿方と交わったからではありません。
まだそれをつける必要がない身だからでございますわ。――ほら」
アドレナさんは、左手を僕に見せた。
その薬指には、薄青に輝く宝石がはめこまれた指輪があった。
「あ、それは……」
「<乙女の指輪>。帝国市民のあなたなら、この意味はご存知ですね」
この街で、こんなものを見るとは思わなかった。
これは、貴族の子女が身に付ける処女の証。
薄青の宝石は、女神たちが作った魔法石だ。
持ち主の破瓜とともに、それは真紅に染まって<正妻の指輪>となる
<婚姻と出産の守護女神>の信者の娘は、これを好んで身に付ける。
神殿に昇った日に与えられたそれを、少女時代は純潔の証とし、
結婚後は、そのまま結婚指輪として使う。
結婚し、初夜をすごした次の日の朝、生娘から妻に変貌した娘は、
この指輪をつけた左手を誇らしげに掲げる。
一緒に寝室からでてきた男に自分の純潔を捧げたことを、
その指輪を見せることで、まわりの人間に無言で、しかしあでやかに語るのだ。
──たしかに、この指輪をしている以上、腹帯は必要ない。
過去何ヶ月間男と交わっていないか、というのを証明する腹帯に対して、
薄青の魔法石は、生まれてこの方まったく性交経験がないことを証明するものだから。
でも、なぜこんなものを、<大地の母神>の巫女長のアドレナさんが……?
<婚姻と出産の守護女神>の好みの風習は、<大地の母神>の巫女にとっては、
逆に窮屈なものであるはずだ。
僕は、アドレナさんが処女であることにほっとし、嬉しく思うのと同時に、
彼女がそれをつけていることを訝しく思った。


「……こ、この街の民は、帝国にいろいろと妥協しなければならないのです。
とくに支配層の有力者は。──イリアさんなど、たたき上げの巫女たちは、
わたくしたちのこうした態度を、けっして喜んではいないようですが……」
僕の視線に気付いたアドレナさんは、とまどったように目を伏せた。
その、あまり触れられたくなさそうな表情に、僕はかえって納得した。
帝国は、その植民地支配に、色々と手を打っている。
女神同士の協定により、地上での戦争が禁止された世界では、政治的な駆け引きがより重要であり、
そして<婚姻と出産の守護女神>は、それが得意であった。
植民地や辺境の上層部に帝国式の風習を押し付けて、下層民との分断を狙い、
その政治力や発言力をそぐようなことは日常茶飯事だ。
そして、そうした従属国の有力者たちは、それに半ば反発し、半ば迎え入れている。
帝国はアメと鞭の差が著しい国だから、僅かな妥協は、大きな見返りをもたらす。
アドレナさんのような有力者が、帝国文化の真髄といえる<乙女の指輪>を身に付けて、
帝国への恭順を示せば、その代価ははかりしれないものになるだろう。
たとえば、まだ処女であるのに、神殿の巫女長の座につくことができるような。
そうした見返りも含めて、その決断はアドレナさんの意思ではなく、
おそらくは親帝国派であろう、彼女の一族全体の決断であろうことは予想が付いた。
どこの国でも、貴族は、それにつらなる一族の存在が大きい。
(だから、イリアさんはアドレナさんに反抗的なんだ)
ひとつの謎が解けると、すべての謎がつながって解けた。
そして、アドレナさんが巫女長なのに正真正銘の処女であることにも納得がいった。
緊張がほぐれ、僕は知らず知らずのうちに入っていた肩の力を抜いた。
「あ……」
気持ちが楽になると、欲望が、むくむくと持ち上がってきた。
──ズボンの前を盛り上げるくらいに。
それを見たアドレナさんが、真っ赤になる。
そのしぐさに、僕は欲望がさらに高まるのを感じた。
──この女(ひと)の最初の男になる。
それは、僕にとって考えられる最高の幸福だった。

「アドレナさんっ!」
僕は、巫女長に抱きついた。
熱い息を吐きながら、彼女の唇を求める。
「あ……」
頬を染めたアドレナさんは、しかし、拒む様子を見せずに、僕を受け入れた。
柔らかな、甘い唇に、僕のそれが重なる。
脳天までしびれる感動に、僕はくらくらした。
未熟者同士二人のキスは、おどおどとした動きから始まったが、
やがてお互いの舌を求めて大胆になってきた。
「んっ……んっ……」
目を閉じたアドレナさんの頬が桜色に染まる。
アドレナさんの舌は、ものすごく柔らかくて繊細だ。
僕の舌は、それを絡めとろうと執拗に巻きつく。
「ああ……」
アドレナさんがもらした甘く吐息は、唇を重ねている僕の口の中に注がれ、
そのかぐわしさに、僕はいっそう興奮した。
「んっ……ふわっ……」
息が続かなくなって、いったん唇を離すと、僕とアドレナさんの唇の間を、
唾液が細い銀色の糸となって伸びた。
「……」
ふいに、僕は、アドレナさんが、今まで僕が思っていたよりもずっと若いことに気が付いた。
巫女長としての立ち居振る舞いとイメージから、僕は彼女をずっと年上と思い込んでいたけど、
こうして間近でみるアドレナさんの美貌には、少女と言ってもおかしくないくらいの幼さが残っている。
きっと僕と同い年くらいか、せいぜい一つか二つ年上だ。
「あ、アドレナさんっ──」
まるで、恋人と会っているような感覚に襲われ、僕は彼女の肩をつかんだ。
「きゃっ」
そのままベッドに倒れこむ。
彼女は小さな悲鳴をあげたが、そのしぐさには僕を拒むそぶりのかけらも見当たらなかった。

細くて白い首筋に、僕の唇が這う。
セックスの時の簡単な手順は、神殿の<事前授業>で教えられていたけど、
そうした知識はグルグルと頭の中でまわってまったく役に立たなかった。
今の僕を行為に推し進めているのは、牡としての生殖本能だった。
神官衣を、引き裂くようにしてはだける。
さきほど、鏡越しに見たどの巫女よりも白く、きめこまかな肌があらわになる。
アドレナさんは着やせする人なのだろうか、僕が思っていたよりもずっと大きな胸は、
若い乙女の瑞々しい張りに満ち溢れていた。
「――っ!」
「あっ──ああっ!」
アドレナさんの鴇色の乳首を目にした次の瞬間、僕はそれに吸い付いていた。
乳房を丸ごと口にせんばかりの勢いで、かぶりつく。
左右の乳に音を立てて吸い付くと、アドレナさんは僕の下でのけぞった。
「……」
ひとしきり、アドレナさんの胸を堪能すると、
僕はいよいよ見たくてたまらなかったものへと目標を定めた。
「あ……」
神官衣の裾に手をかけると、アドレナさんは、頬をさらに赤くした。
もじもじして視線をそらす。
しかし、その身体は、緊張してはいるが抵抗する様子はなかった。
それをいいことに、僕は、神官衣を躊躇なく剥ぎ取った。
「おお……」
思わず声が出る。
アドレナさんの白い腹部、白い太もも、そして──。
「――すごい、これが、アドレナさんの……」
衣を脱がすのと同時に、僕は腿をつかんで下肢を(できるだけ優しく)広げていたから、
僕の目には、アドレナさんの秘所が丸見えになっていた。
「ああ……」
アドレナさんが、顔を両手で覆いながら羞恥がきわまった声を上げた。

アドレナさんのあそこは、つるつるだった。
恥毛が生えていないのは、<大地の母神>の巫女の流儀にのっとって、
妊娠・出産を経験していないから剃り落としているのか、
それとも単にまだ若いアドレナさんのそこがまだ芽生えていないだけなのか。
僕は後者だと思った。
白く滑らかな肌と、その真ん中の大切な部分。
誰にも汚されていない場所の事を「処女地」と呼ぶけど、僕はその本当の意味を知った。
「すごい……これが、アドレナさんの、あそこ……」
僕は、愛しい人の性器を見て、頭の中が沸騰するかと思った。
「……はずかしい…です。あまり……見ないでくださいまし……」
アドレナさんは、こちらも両手を覆う手指の間から、
もうこれ以上ないというくらいに真っ赤になった顔を見せながら、消え入りそうな声で言った。
「だめ──もっと見たい。アドレナさんのここ」
「ああ……」
僕は宣言どおり、アドレナさんのあそこに顔を近づけた。
どうすればいいのか。
これから何をすればいいのか。
僕は、本能の求めるままに行動した。
アドレナさんの押し広げられた下半身に、顔をうずめる。
「――ひっ!」
アドレナさんが小さな悲鳴を上げた。
ぴちゃ。
ぴちゅ、ぴちゃ。
僕は、<大地の母神>の巫女長の女性器を舐めはじめた。
「ひああっ!――そ、そんな、そんなことっ!!」
アドレナさんが身をよじって悲鳴を上げる。

ぴちゃ、ぴちゅ。
ぴちゅ、ぴちゃ。
女の子のあそこをなめるのは、もちろん初めてだけど、
僕の舌と唇はまるで別の生き物のように巧みに動いた。
アドレナさんのあそこは、こうなっていたんだ。
こんな香りがするんだ。こんな味がするんだ。
興奮した僕の舌が、どんどん動きを活発にする。
不思議なことに、さきほどまであんなに喉がからからだったのに、
甘い香りのするアドレナさんのあそこを舐めはじめると、
後から後から唾液があふれ出してきた。
まるで、アドレナさんのあそこを僕の唾液で汚しぬくことを本能が命じたように。
「ひっ、あっ……あっ! だめ、だめです、そんなところを舐めてはっ!」
勢いづく僕とは逆に、アドレナさんは先ほどまでの冷静さを失っていった。
僕にあそこを舐められることに嫌悪感はないのだろうが、
羞恥心が反射的に拒否のことばを口にさせてしまうのだろう。
僕はかまわずに舐め続けることにした。
「たしか、こういうときの女の人の「だめ」は、本当のだめ、じゃないんだよね?」
「そ、そんなっ……」
「だって、アドレナさんやイリアさんが<事前授業>で教えてくれたよ?」
「ひっ……」
ちゅる。
ちゅちゅちゅ。
僕は、アドレナさんのあそこに口をつけて、吸いたててみた。
舌の上に、僕の唾液ではない、かぐわしい液体の味が広がる。
アドレナさんの蜜液だ。
「アドレナさん、濡れてきてるんだ……」
「あ、あふっ……そ、そんなっ、はずかしいこと、い、言わないでください……」

アドレナさんは、息も絶え絶えだった。
僕の愛撫で、こんなに感じてくれるなんて。
初めての相手として僕に応じてくれたのだから、
アドレナさんが僕に好意を持っているということは確信していた。
でも、アドレナさんの乱れようは、肉体的なものだけではない。
処女は、きっと身体の反応だけで、こんなに乱れたりはしないと思う。
まるで、待ちわびた恋人が相手の時のような、心のときめき。
錯覚かもしれないけど、僕はアドレナさんからそんなものを勝手に感じて、すっかり嬉しくなった。
舌を丁寧に使って、溝を掘りおこすように女性器を舐めあげる。
アドレナさんが羞恥と興奮とそして快楽の入り混じった小さな嬌声をあげる。
舌の先を尖らせて性器の中にもぐりこませようとすると、
秘所の潤んだ肉は乙女の抵抗をみせたが、男の強引さに負けて僅かな侵入を許した。
柔らかな肉襞がぴっちりと僕の舌を包み込む。
「〜〜〜っ!!」
舌先を引き戻すと、アドレナさんの蜜液が、女性器と僕の唇とを細い糸でつないだ。
はぁ、はぁっ。
アドレナさんは、必死で快楽に耐えている。
僕は、この人に絶頂を与えたくなった。
舌先を女性器の上側に滑らせる。
「ひっ──」
何をされるか悟ったアドレナさんが、甘い悲鳴を噛み殺した。
アドレナさんの、小粒の真珠のようなクリトリスが獲物だった。
ぴちゃ、ぴちゅ、ちゅるん。
舐め上げ、優しく吸い上げると、アドレナさんは下肢はおろか身体全体を痙攣させた。
「ふうっ……ふぅうんっ!」
アドレナさんは、快楽に必死に耐えていた。

「アドレナさん……イってもいいんだよ」
僕は、アドレナさんに絶頂を与えようとした。
この女(ひと)に快楽の極みを与えたかった。
でも、アドレナさんは、いやいやするように首を振った。
「アドレナさん、――嫌なの? それとも怖いの?」
考えてみれば、彼女は処女の身だ。自慰の経験があるかどうかも疑わしい。
性的な絶頂感に対する嫌悪感や恐怖感があるかもしれません。
「ち、ちがいますっ……ただ……」
「ただ……?」
「はじめての絶頂は、あなたと一緒に……迎えたいの…です」
あえぎながら潤んだ瞳を向けたアドレナさんの美しさに、僕は呆然となった。
僕がアドレナさんと交わりたいのと同じくらい、アドレナさんは僕と交わりたがっているのだ。
最初の絶頂を一緒に──つまり、僕とのちゃんとしたセックスの中で迎えたいと言ったのだ。
そのことばの意味を理解したとたん、僕の男根は、今まで以上に固くそそり立った。
「い、いいの? アドレナさん。ほんとうに、入れちゃうよ……?」
「来て……ください。わたくしの中に……、あなたと、あなたの子種を、ください」
小さな声で途切れ途切れに言われたことばに、僕は人生最大の衝動に駆られた。
「あ、アドレナさんっ!!」
僕の男性器は、これ以上ないというくらいに大きく膨れ上がり、石のようにカチカチだった。
それを、真珠色のアドレナさんの性器にあてがう。
「ああっ、そ、それが──あなたの……」
ああ、<事前授業>でならった。
はじめての時、男の子は、女の人にたしかこう言うのだっけ。
「あ、アドレナさん、――ぼ、僕の童貞を、初めての子種を受け取ってください」
顔から火が出るほど恥ずかしいせりふだ。
だけど、アドレナさんは、こちらも顔を真っ赤にしてちゃんと返事をしてくれた。
「はい、よろこんで。――あなたの童貞と、はじめての精を受け取ります。
……もうひとつ、私の純潔も、あなたに捧げます──」
その声を聞くやいなや、僕はアドレナさんの中に突き進んだ。

「ああっ……ふあっ!!」
「おお……」
僕がアドレナさんの濡れた肉を割って入っていくと、二人は同時に声を上げた。
アドレナさんの声は、破瓜の痛みも混じっていたが、
僕がそれに何か言う前に、アドレナさんはにっこりと笑った。
「――嬉しい。あなたと、一つになれました」
「――っ!!」
そのことばに、僕の生殖本能は最高点に達した。
できるだけゆっくりとアドレナさんに負担をかけぬよう、
でも出来るだけ強く、激しく──矛盾した二つの動作は、牡の本能がやってのけた。
僕が動くたびに、アドレナさんの吐息から痛々しいものが抜けて、歓喜のそれに変わってくる。
「うふう……んむっ……」
二人の唇が自然と重なったのは、アドレナさんが痛みを気にしなくなったのと同時だろう。
僕とアドレナさんは唇と性器の二箇所で粘膜を絡み合わせて一つになった。
ちゅく、ちゅく。
ぎゅぬ、ぎゅぬ。
僕の物を包み込んだアドレナさんの性器が粘液質な音を立てる。
柔らかな、ぴっちりとしたたくさんの肉襞が、僕の男根を全ての方向から包みこんで愛撫する。
「ああっ──す、すごいよ、アドレナさん、すごく、き、気持ちいいっ……よっ…!!」
「ふあっ、あっ……わたくしも、わたくしもですっ!」
アドレナさんの上に重なった僕が何十度目か腰をゆすったとき、今までで一番大きな絶頂が僕を襲った。
口付けを離して、アドレナさんにささやく。
「うわっ、あ、アドレナさんっ……。だ、だめだ。もう、イきそう……」
アドレナさんのとろけたような表情の中で、潤んだ瞳が熱っぽく輝いた。
「――」
僕と交わっている美しい女(ひと)は、無言できゅっと僕を抱きしめた。
手だけでなく、足がすべるように僕の足に絡みつく。
腿と腿、膝裏と膝裏、ふくらはぎとふくらはぎ、すねとすね。足の裏や足指まで。
僕はアドレナさんに絡み取られた。

「……こ、こうして、身体を密着させると、子宮の奥に子種が届きやすくなるのです……」
もう一度口付けを求めながら、アドレナさんがささやいた。
「い、いいの、アドレナさん、ほんとに、ほんとに出しちゃうよっ!?
アドレナさんのこと、妊娠させちゃうよっ!?」
愛しい女(ひと)の柔らかな肌が密着すると、女性器さえもがぎゅっと僕を強く抱きしめ、
僕の絶頂間は耐えられないくらいに高まった。
「いいの……ですっ。 アドレナの中に、あなたの精をください……!」
アドレナさんは、下からさらに強く僕を抱きしめて固定した。
「うわあっ、ア、アドレナさんっ!!」
僕は僅かに動くことが出来る腰を、全身全力で動かした。
限界はすぐに来た。
「くふっ、イ、イく、イくよっ!!」
「ああっ、来て、来てくださいましっ!!」
最後の瞬間、アドレナさんは僕の唇を自分の唇でふさいだから、
僕たちはキスをしながら人生最初の絶頂を同時に迎えることになった。
目の前が虹色に、次いで真っ白になる。
どくっ、びゅくっ、びゅるっ……。
男根の律動は、単に性器だけのものではなかった。
射精感は、アドレナさんの中にうずめている下半身を中心にして、
身体全体がアドレナさんの中に溶け込んでいくように強かった。
その放出感は、僕の子種がアドレナさんの子宮に流れ込んでいっていることを実感させた。
僕は、アドレナさんの処女を奪っただけでなく、
今まさに、彼女に自分の子供を妊娠させようとしているのだ。
「あああああああ……」
全身が痙攣した。
精神的な感動に呆然としていた肉体に、快楽が戻ってきたのだ。

夢精の時とは桁が違うほどの量の精液を放ったのに、まだ射精をし終わっていないのに、
僕の男根は再び熱く固くなった。
「ひあっ……」
自分の膣(なか)で、それを感じ取ったのだろう、とろけきったアドレナさんが反応した。
「つ、続けるよっ!? いいっ!? アドレナさん!?」
「は、はいっ……。何度でも、何度でも来てくださいっ。アドレナの中に、全部、ぜんぶっ!!」
「ああっ、ア、アドレナさん……っ!」
僕はアドレナさんとつながったまま、何度も続けて射精をした。
アドレナさんは、それを全部、彼女の膣と子宮で受け止めた。
僕たちは、絡み合う二匹の蛇のように、快楽にのたうち、生殖本能に身を任せた。
びゅくっ、びゅるっ、ぴゅくっ。
アドレナさんのあそこは、ぴっちりと僕の男根をくわえ込んでいたから、
優しく圧迫されて、僕の射精は、長く長く続いた。
細い管の中を、ゼリーのように濃い精液がまわりを包み込む肉の抵抗に抗いながら通っていく快楽。
それが、豊穣な湿地のように潤みきった膣の中に迎え入れられ、
奥へ奥へと導かれ、愛しい女(ひと)の子宮の中に流れ込んでいく充足感。
射精が最後まで終わらないうちに、次の絶頂が来て、僕はずっとアドレナさんの中に精液を出し続けた。
僕たちは何度も何度も交わった。
何度も何度もキスを交わし、お互いを褒め称え、愛をささやいた。
そして、二人の間に子供ができるように、何度も何度も女神にお祈りを捧げながら、また交わった
僕の欲望は衰えることなく、体力の限界まで射精を続け、
アドレナさんも、射精されるたびに絶頂を迎えてのけぞった。
やgて、時間の感覚も分からなくなった頃、僕とアドレナさんは、
ベッドに裸体を沈み込ませるようにして気を失い、そのまま眠りに付いた。

「――はい。濡れタオルです。これで汗をお拭きください。お食事と飲物は、このバスケットの中に──」
丸一日たって、イリアさんが部屋の外に色々な物を持ってきてくれた。
呼び鈴を鳴らせば、いつでも来てくれたのだけど、
僕とアドレナさんは、お互いとのセックスに夢中で他のことが目に入らなかったし、
限界までむつみ合った後、失神するようにして眠り込んだから、それだけの時間がたっていたのだ。
「ありがとう」
僕はぼんやりしながら、それを受け取った。イリアさんがくすりと笑う。
「その呆けた顔。よほどお楽しみのようですわね。
……ひと段落ついて、他の巫女を呼びたくなったらいつでも声を掛けてください」
「あ……いや……」
僕は歯切れの悪い返事をした。
イリアさんの、神官衣の胸元をゆるめたところからのぞく巨大なおっぱいを見ても、
正直なところ、僕の男根はぴくりとも反応しなかった。
「ごめん、イリアさん、他の巫女さんはいいや。――あ、まだ、いいやってことで……」
言い直したのは、そのままだと、イリアさんにも興味がないという意味になるからだったけど、
実際、僕はアドレナさん以外の女性と交わる気が全然なくなっていた。
「……正直な人ですこと。まあ、何かあれば、呼び鈴を鳴らしてください」
怒るかと思ったけど、イリアさんはにやにやとした笑みを浮かべて僕を眺めた後、外へ出て行った。
僕はバスケットを抱えて、部屋に戻った。
若い牡と牝──僕とアドレナさんの性行為の匂いに満ち溢れた部屋に戻ると、
さきほどのイリアさんではまったく反応しなかった男根が、また天を向いて硬くそそり立ってしまった。
欲望を抑えながら、汗を拭き、食事をし、お茶で割った神酒を飲みながら二人でおしゃべりをしているうちに
また二人の気持ちは限界に達して、ベッドに倒れこむようにして抱き合い、交わり始める。
塔の中から一歩も出ないそんな生活が二ヶ月くらい続いた。

……そして、僕は、待ちに待った知らせと,人生最大の失意とをほとんど同時に受け取った。
「――月の物がこなくなりました」
──アドレナさんが、幸せそうな顔で僕にそう告げた次の朝、彼女の姿は神殿から消えていた。

「――もう一杯、いかがですか?」
イリアさんが、僕のカップを見ながら声をかける。
「――あ、ああ。はい。お願いします」
カップに何か入っていれば飲むし、入っていなければ飲まない。どっちでもいい気分だった。
どっちでもいい、というよりは、なんだってもいい、という気持ち。
イリアさんは、そんな僕に何を言うわけでもなく、
お茶で割った薄い神酒を注ぎ直してくれた。
初夜の日に、アドレナさんがすすめてくれた飲み物。
でも、イリアさんが注いでくれたそれは、アドレナさんのそれとは違って、塩からい。
……いや、塩からいのは、イリアさんのせいではなくて──。
ああ。これは涙の味だ。
僕は、また泣いているのか。
最近はずっとそうだ。
アドレナさんがいなくなってから、ずっと。

神殿からアドレナさんの姿が消えた。
どこをどう探しても、誰もアドレナさんの行方を知らない。
誘拐か──、僕は、愛しい女(ひと)が消えたことに驚き、絶望し、
その姿を探して街の中を、ついで外を探した。
でも、アドレナさんは、僕のアドレナさんは、どこへ消えたのか、まったく消息がつかめなかった。
イリアさんや他の巫女たちも協力してくれたけど、結果は同じだった。

神殿は、新しい巫女長がその座に着いた。
いや、その新しい巫女長は、実はアドレナさんの前の代の巫女長で、
神殿での売春で妊娠したために、出産のために一年ほど神殿を離れていたのだ。
ものすごく美人で、妖艶な女性だけど、そんなことはどうでもいい。
それからの僕は、まったく腑抜けたようになってしまった。
まだこの街の流儀による<成人>を迎えていないのに、
僕は、もう他の女性と交わる気をすっかりなくしてしまっていた。

アドレナさん。
僕の前から消えた女性(ひと)は、僕の心の全てを奪っていってしまったようだった。
イリアさんをはじめとする、僕のために準備をしていた何人かの巫女たちも、
この間から他の客を取り始めるようになった。
イリアさんも、その豊かな胸の下にあるくびれたウエストには、もう腹帯をつけていない。
娘のカヤーヌさんも、先日初穂をあげたという話だった。
「……アドレナさんの行方は何かわかりましたか?」
「いえ。何も……」
この数ヶ月、もう何度も繰り返された質問。
神殿に来たのに、巫女とも寝ない僕に、イリアさんは辛抱強く付き合ってくれている。
「……坊ちゃま、もしよろしければ、また巫女の準備をいたしますが。
この間集めた巫女は、みなお客様を取り始めて、妊娠した者もおりますが、
二、三ヶ月時間をいただければ、同じ数の巫女をご用意できます」
「……いや、いいよ。――今月中に、僕は帝都に戻るから」
「……そうですか」
父の任期はまだ終わっていないが、僕はいったん帝国に戻ることにした。
アドレナさんが居ないこの街は、僕にとって哀しくつらいだけの場所であったし、
帝都にある<婚姻と出産の守護女神>の神殿から、
僕の婚約者の花嫁修業が終わったので、すみやかに結婚するようにという連絡が来たからだ。
──結婚にも、まだ見ぬ婚約者にも、何も興味もわかなかったが、
それは、帝国貴族としての義務であった。
むろん、何やかやの理由をつけて、半年や一年はそれを先延ばしすることはできたが、
僕はそうした気力さえもなくなっていた。
関心も喜びもないまま、流れに身をゆだねるくらいのことしかできそうになかった。

「では、<花嫁の間>へ──。あなたの妻になる女がお待ちかねですわ」
「そうですか」
<婚姻と出産の守護女神>の神殿の巫女は、帝国貴族の結婚式の世話人も勤める。
位階の高そうな、この年かさの巫女は、僕の結婚式の担当だ。
あんまり興味がないが。
ついでに、結婚式も、結婚そのものにも。

帝都に帰ると、とんとん拍子に僕の結婚が決まっていった。
相手──婚約者は、僕が三歳の頃から定まっている。
顔を見たこともない相手だけど、神殿、女神の膝元で育った彼女は、
僕の妻になるべく十数年を過ごしてきた女性だ。
<婚姻と出産の守護女神>の神殿は、教義を堅く守るために、夫にオーダーメイドの妻を作りあげる。
夫の事を知り尽くし、愛し、愛されることに何の疑いも持たない正妻は、堅固で強力な家庭を作り出し、
それは帝国の支配層にとってもっとも効率の良い信者の本拠地となる。
──だけど、僕は、その人を愛せるのだろうか。
僕の心の中には、灰色の砂漠が広がったままだった。
一生を連れ添う女性と、今日はじめて顔を合わせ、式を上げ、その後多分初夜を迎えるというのに、
僕はなんのときめきも感じていなかった。
年かさの巫女に促されて、僕はのろのろと立ち上がった。
長い廊下を歩き、<花嫁の間>の前まで来る。
扉に手をかけた巫女が、ふと、僕のほうを振り返った。
そして、意外なことばを言った。
「一つだけ、ご注意を。――貴方様の花嫁は、すでに処女ではございません。
左手の宝石は、すでに乙女の指輪の薄青ではございませんが、ご了承いただけるよう」
「……え?」
それは、ありえないことだった。

<婚姻と出産の守護女神>の信者の娘は、生涯、夫以外の男に身体を許すことはない。
貞節の守護者でもある女神は、数少ない男が妻以外の女性と交わることについては、
「正妻をないがしろにしない範囲において」目をつぶるようになったが、
女性に対しては太古と同じく、徹底した貞操を求めている。
帝国貴族の子女は、どんな理由があっても夫以外の男と性交する状況に陥ったならば、
その場で自決するように育てられている。
いや、誰も見たことがないが、その時、<乙女の指輪>はどす黒い色に染まって
その娘を死に導くとさえ噂されている。
それが──。
(いったい、誰と……)
巫女に聞きかけて、僕は口を閉ざした。
どうでもいい、と思い直したからだ。
僕は、僕の妻になる女性のことを知らない。
いや、帝国貴族なら、ほとんどの男がそうだろう。
<婚姻と出産の守護女神>の信者の結婚は、神殿が秘術をもって占い、定める。
花婿と花嫁がもっとも幸せに、かつ子宝にめぐまれる組み合わせを定め、
それに向かって全てを構築していく。
僕の婚約者が、男性経験がある女性というのなら、それは、きっと意味があるのだろう。
──女神にとっては。
──僕にとっては、どうでもいいことだった。
誰が僕の妻になろうが、その女性が他の男に抱かれた身であろうが、それにどういういきさつがあろうが、
それは、今の僕にとっては世の中全てのことと同様に、灰色に色あせたつまらないできごとに過ぎない。
砂のように乾いてざらついた心が、僕の表情を無にさせる。
「行きましょうか」
心と同じく乾ききった声で、巫女をうながした。
巫女は、驚きも抗議もしない僕を見て、ちょっとたじろいだ風だったが、
うなずいて花嫁の控えの間に僕をいざなった。
「こちらへ。――貴方様の、花嫁でございます」
扉がゆっくりとひらかれた瞬間、僕は絶句した。

──扉の向こう、控えの間に、僕が良く知っている女性がいた。
「……あ、アドレナ……さんっ!?」
裏返った僕の声の向こうで、僕の花嫁──僕のために<婚姻と出産の守護女神>が
世界でたった一人だけ選んでおいてくれた女(ひと)が微笑んだ。
その左手には、僕が真紅にさせた指輪が光っている。
「ご紹介します。こちらは今日までは<婚姻と出産の守護女神>の巫女、
これからは貴方様の妻となる女、アドレナ。……そして、そのお腹の中にいる貴方様のご長男です」
「――!!」
アドレナさんは、巫女の衣装ではなく、帝国の様式にのっとった花嫁装束を纏っていた。
そして、そのお腹は豊かに盛り上がっていて──。
「ぼ、僕の子!?」
「……貴方様以外に、貴方様の妻となる女を孕ませることができる殿方がおりましょうや?
……それとも、身に覚えがない、とでも?」
「い、いや、――あるっ! あるよっ!」
僕を案内してきた巫女はじろりと僕を睨んだが、その瞳は笑いを含んでいるようだった。
「……女神様のご神託があったのです。
もちろん、わたくしのお仕えする女神である<婚姻と出産の守護女神>様のほうの──。
私が、かの街で<大地の母神>様の手を借りて、かの女神の巫女としてあなたに春をひさぎ、
「はじめてから百回目までの精」をすべて受け続ければ、きっと男の子を授かることができる、と」
口をぱくぱくさせている僕の後ろから、扉をしめた巫女が説明を引き取った。
どうやらこの巫女も、このことに加わっていた人だったらしい。
「――ただし、その行為の途中で、決してそれを未来の夫に悟られてはならない。
巫女アドレナが貴方様に婚約者と知られてはこの予言は無効となる、
あくまでも<大地の母神>の巫女として交わらなければならない、とも。
ですから、準備にはなかなかに骨を折らされましたわ。
さいわい、かの神殿では巫女長が出産のために里帰りをするということでしたので、
その代わりにアドレナをその後任に据える手が打てましたが。
──神殿の巫女長なら、執政官の息子と自然に接点を持つことが出来ますし、
貴方様が女と交わることが準備できたことの情報も、いち早く手に入れることが出来ました」

「あなたを騙すのは、とてもとても心が痛みました。――ああ、あなたと顔を合わすたび、
私があなたの婚約者、未来の妻となる女とどれだけ伝えたかったことか!
でも、そうしたら、女神様のご神託は破れ、この子を授かることができませんでした」
アドレナさんは、愛おしげに自分のお腹をなでた。
「巫女アドレナが貴方様の前から消えたのは、このお子様を守るため。
着床から数ヶ月の間、男子を堕胎させようとする邪神たちの呪いから小さな胎児を守る秘術は、
<婚姻と出産の守護女神>のこの神殿の奥深くに存在いたします。
彼女は、我々数人の巫女を除いては誰にも知られることなく、呪いの目からも逃れて
この数ヶ月をこの神殿の地下の聖なる結界の中ですごしました。
時がたち、もはやいかなる呪いも効かぬほどにお子様がしっかりと彼女の子宮に根付いた今、
晴れて巫女アドレナは、あなたの前に姿を現すことができるようになったのです」
巫女は、呆然としている僕を笑いを含んだ視線で眺めながら説明をしていった。
「イリアさんたちには、悪いことをしました。
<帝国>の威光を借りたごり押しで、短期間とはいえ、巫女長の座を他教の巫女がつとめるなど、
<大地の母神>の巫女にとっては屈辱の極みだったでしょうが……。
けれども、いろいろありましたが、最後にお別れするときは「良い子を産むように」と祝福してもらいました。
処女の身で、あなたにいろいろと男女の事を<事前授業>するのも、とても恥ずかしかったのですが」
「そのことについては、気にやむことはありませんよ。ご協力いただいた<大地の母神>の神殿には
わが神殿から借りを返しておくことにいたしておりますから。もちろん、利子をたっぷりとつけて。
──わが教徒の男の子が一人、この世に生まれてくることに比べたら、どれだけの代価も惜しくはありません」
そうした説明は、僕の耳の中でぐるぐるまわっていて、ちっとも頭の中まで入ってこなかった。
僕はひとつひとつ理解するのをあきらめて、一番大切なことにだけに関心を絞った。
大股でアドレナさんに近づく。
大きなお腹をした僕の奥さんのもとに。
あのなかに、僕とアドレナさんの大事な子供がいる。
僕の心臓はどきどきと高鳴った。
「あの……、僕も、触ってもいい? その……アドレナさんのお腹」
アドレナさんは、微笑んでうなずいた。
「もちろんですわ。お父様の手で、わが子を確かめてくださいまし」

花嫁装束の純白の布地越しでも、アドレナさんの体温のあたたかさと、胎児のしっかりとした心音は伝わってきた。
僕の子供!! それも男の子!!
邪神たちの呪いのせいで、女子の百分の一の確立でしか身ごもれない男子は、
世界にとって、それはそれは貴重な存在だった。
女神や神殿はさまざまな予見や秘術をもって、なんとかその確立を増やそうとしている。
そして、運よくその神託を授かった人間は、万難を廃してそれを実現させようとする。
<婚姻と出産の守護女神>の巫女が、女神から神託を授かったのなら、
他の女神の手を借りたり、その神殿に短期間信者の振りをしてもぐりこむくらいのことは許される。
性交の相手は未来の夫であり、妊娠するのはその正規の子供なのだから、なんらやましいことはない。
他神殿に形だけ仕えることや、婚前交渉については、女神自身からの神託があるのだから、
神殿もその遂行を全面的に協力はしても、それを責め立てるようなことは金輪際ありえない。
アドレナさんは、それを実行したのだ。
感動と、興奮が僕を包み込んだ。
僕とアドレナさんは、二人の女神の流儀にのっとって、立派な大人であることを証明したのだ。
アドレナさん。
視線をあわせて微笑み合うだけで、僕の心にあたたかいものが流れ、――そして身体は燃え立った。
──困ったことに、僕のあそこは、こんなときだというのにカチカチに膨れ上がってしまった。
アドレナさんがいなくなったこの数ヶ月、射精はおろか勃起さえ一度もしなかった男根が、
あの日々のように猛烈な精気をまとって復活した。
僕は花婿衣装の前を押さえた。結婚式をつかさどる巫女がこほんと咳払いをしたので、僕は真っ赤になる。
「……貴方様たちに、みっつほど伝えておくことがございます。
ひとつ、出産後はもちろん次の子を授かるよう何度でも交わるべきですが、妊娠中の今は性器での交わりは控えるよう。
ふたつ、そうした時に神殿は口腔性交をすすめております。殿方の精液は良質の栄養、お腹の子の身体を丈夫にできて一石二鳥。
みっつ、花婿花嫁の入場まであと四半時(30分)ほど。――その間に済ませることは済ましておいてください」
言うや否や部屋から出て扉を閉めた巫女のことばを反芻して、僕たち夫婦は真っ赤になった。
そして巫女がすすめたように、衣装を汚さないように注意しながら、
僕はアドレナさんにフェラチオをしてもらった。
妻になる女(ひと)の愛撫は、丁寧で情熱的で、数ヶ月も精を放っていなかった僕は何度も絶頂に達した。

結局、僕の結婚式は、予定より半時(一時間)も遅れた。
皆に祝福と懐妊の驚きと喜びの声をもらいながら、僕は、
やっぱり<婚姻と出産の守護女神>は僕にとって最高の女性を妻として選んでいた事を確信していた。
アドレナさんは、ついこのあいだまで処女の身だったけど、
僕の前で<大地の母神>の巫女長を演じるために、いろいろな性的知識は学んでいた。
そして、僕は、どちらかというとベッドの中では女性にリードされるのが好みの性癖だったらしい。
さきほどのフェラチオの素晴らしさに、僕は、
妊娠中もこの女性を思いっきりむさぼることが出来ることに気が付いて、どきどきした。
アドレナさんも同じ思いだったらしい。
他の人に悟られぬよう──いやばればれだったかもしれないが──、
熱い視線をからませた夫婦の、二回目の初夜も熱いものになりそうだった。
                                               (FIN)

親子巫女 イリア&カヤーヌ