孕ませ神殿売春
巫女長アドレナ


「――明日から別の客を取ってもよい、というのですか?」
私のことばに、巫女タチアナはちょっと眉をひそめた。
無理もない。
<成人の儀式>を行なう執政官の息子のために集められ、
入念な準備──つまり半年も男断ちを命じられたあげくに、
その子に抱かれもせずに解散、では売春巫女として立つ瀬がない。
他の巫女は指名されたが自分は指名されずに終了、というのならば、
まだ自分の魅力のせいと納得することも出来るかもしれないが、これは──ある意味、出来レースだった。
それも恐ろしく手の込んだ出来レース。
執政官の息子が選んだアドレナという名前の娘は、ついこの間までこの神殿の巫女長代行だった。
──しかし、その正体は異教の巫女。
<帝国>の女神である<婚姻と出産の守護女神>に仕える娘にして、
あの「坊ちゃま」の婚約者──未来の妻だった。
この世で最も強力な女神が、彼のために、その誕生と同時に
──いや生まれる前の受精卵の段階から丹念に丹念に「作り上げ」てきた女。
たとえ百万人の美姫に囲まれても、あの坊ちゃまはあの娘を選ぶだろう。
姿を見れば眼が選び、声を聞けば耳が選び、匂いをかげば鼻が選び、
同じ部屋に閉じ込めれば生殖本能が選ばせる、「自分にとって最もよいつがい」を。
あの娘は、本人さえも気が気付かぬ、ごく自然なことばや仕草、それに選択のひとつひとつが、
すべて坊やにとってもっとも好ましいものになるよう育てられているのだ。
美貌や肢体や知性や能力などのさまざまな魅力もさるものながら、
それこそが帝国貴族の妻が持つ「最高の武器」だった。
アドレナは、ただ、あの坊やの前に立つだけで、自然と微笑を交し合うことができ、
ただ呼吸をしているだけで、未来の夫を魅了してやまない。
そんな女を交えた出来レースを、一切の手を抜かず、厳格に執り行うことを強制する<帝国>。
──不毛の大地に種をまくような、従属国の悲哀を思い知らされる半年だった。
私や、目の前にいる巫女タチアナなど神殿の幹部数人はこのことを知っていたが、
大多数の巫女はそんなことがあるとは露知らず、期待とともに<準備>を行なっていたのだ。
あるいは、あの坊ちゃまが、アドレナが消えた後で、他の巫女を抱く気になっていればよかったのだが、
残念ながらそうはいかなかった。――予想通り。
タチアナが非難するような目になったのも無理はない。

「……ええ、先ほど本人にも確かめましたが、<準備>していた巫女を解散してよろしいそうです」
私はつとめて事務的に返事をした。
しかし、タチアナは、視線を和ませ、ふっと苦笑を浮かべた。
「アドレナ……<婚姻と出産の守護女神>の巫女。
たいしたものですね。もう未来の夫の心をつかんで離さないでいるわ」
──この街を支配する<帝国>の守護女神は、われらが<大地の母神>の力を借りて
自分の巫女であるアドレナに男子を妊娠させる方法を予見した。
アドレナはそれにしたがい、この神殿の売春巫女のふりをして未来の夫に抱かれた。
効果はてきめんで、彼女は二ヶ月もせぬうちに妊娠し、それが分かった日の夜、
帝都から派遣されてひそかに待機していた数十人の巫女や女騎士たちに大切に守られながら、
邪神たちの呪いから逃れるために、一路、帝都の<婚姻と出産の守護女神>の大神殿へと向かった。
大神殿に着きさえすれば、彼女の出産を妨げるものは何もない。
ついでに、あの坊ちゃまとの結婚にも。
顔を合わせるようになって一年ほど。身体を重ねるようになって二ヶ月ほど。
──その間に、執政官の息子は、(本人は知らないが)自分の婚約者にめろめろになった。
自分が童貞を捧げ、代わりに処女を貰った、相思相愛の初恋の相手に。
だが、<婚姻と出産の守護女神>の策略の緻密さは、それだけにとどまらない。
──妊娠がわかってから、安定期に入るまでの数ヶ月、アドレナは姿を消す。
あの子は自分の前から消えた最愛の女性を想い、人生最大の失意に苦しむだろうが、
それさえも、この先何十年も続くアドレナとの結婚生活を極限まで楽しむためのスパイスに過ぎない。
一度失ってその価値を心の底から実感した「この世で一番大切なもの」を
「幸運にも」もう一度手に入れることができた男は、もう二度とそれを手放さないだろう。
「――ふふ、つかんだのは心だけじゃなさそうね。
あの坊っちゃま、あれからおち×ちんが勃たないそうよ。
もう、あの娘でなければセックスできないみたい。
ふぐりのほうも、未来の妻にしっかり握り締められちゃったようね」
それは、売春巫女にとっては徹底的な敗北を意味していたが、
自分たちよりもはるかに年若な乙女にしてやられた思いは、意外に爽やかだ
──結局、あの娘はどれだけ魅力があろうとも、自分の夫となる男以外にはまったく興味がないので、
多くの男性に春をひさぐ売春巫女の私たちにとって本格的な<敵>にはならないからだ。
いわば、お互いの「生息領域(テリトリー)」が違う。
帝国とこの街、<婚姻と出産の守護女神>と<大地の母神>との関係も、それでうまくいっているのだ。
タチアナと二人で、肩の力が抜けた表情で笑う。
あとは熟練の巫女同士の話──猥談になる。
「……少なくとも、新婚から十年か二十年、あの坊やは、
自分の妻となったあの娘以外の女に見向きもしないでしょう」
「そうね。毎晩せっせと同衾しては、熱心に子種をしこみ、
毎年のように彼女に子供を産ませるにちがいないわ」
「まあ、帝国の貴族様にとっては、それが幸せなんでしょうけれども……」
「ね、あの娘――あの坊っちゃまが一生のうちに作る精液のうち、何割を独占するのでしょうね?」
「そうですね。――あるいはあの坊や、一生あの娘以外に女を知らない人生であっても不思議ではありません」
お茶を三杯ほど飲む間中続いた会話は、年頃の男の子が聞いたら
思わずズボンの前を押さえたくなるくらいに卑猥で際どい。
──どこの売春神殿や娼館でも、控え室の中はこんなものだ。
とくに私と巫女タチアナはその中でも「好き者」の筆頭格。
楽しい猥談がひとしきり続く。
しかし、その中にも、一抹の寂しさがあるのは免れない。
なんと言っても、あの坊ちゃまは、巫女たちの間でも人気のある男の子だった。
育ちも頭も性格もよくて、初心な少年は、
いかにも帝国貴族らしい(この街にとっては)欠点を持ち合わせていたが、
それを補ってあまりある魅力があった。
最良の性交相手が準備されている事実を知っている私やタチアナでさえも、
ひそかに自分が<成人の儀>の相手に選ばれはしないか、
いっそアドレナからあの子を寝取ってやろうか、と思っていたほどだ。
「……ちょっと嫉妬してしまいそうですね。いろいろな意味で……」
タチアナが空になったカップに視線を落としながら呟いた。
夫のいる身で、他の男に心をひかれたり性交したりすることを、<大地の母神>はとがめない。
それをいいことに、この人妻巫女は神殿での売春と自由恋愛を大いに楽しんでいる。
彼女にとっても、あの坊ちゃまは「お気に入り」だったのだ。
私にとっては……。
──いけない。そろそろ頭を切り替えなければ。
私は自分のカップに残ったお茶を飲み干した。

「幸せなのでしょうね――最初に手に入れた女が、自分にとって最高のものだったというのは……」
テーブルの上を片付けながら、タチアナは自分に言い聞かせるように言った。
「ふふ、「それ」に出会う前に他の女で遊んでみるのも、またちがった楽しさだったはずだけど、
残念ながら、あの坊ちゃまは永遠にその機会を逃したようね。
──お互い、あの坊っちゃまのことは忘れましょう。あらためて貴女にふさわしい客を取りなさい」
「ふふ、わかっております。――主人と相談して決めますわ。よい子を孕めるように」
妖艶この上ない表情で答えたタチアナに私は苦笑した。
この人妻だけは、よく分からない。
どこまでも<大地の母神>信者の女にふさわしい言動だが、
あるいは、私と違って彼女には信仰はあまり重要でないのかもしれない。
他の巫女たちに「解散」を伝えるように命じたタチアナが一礼して部屋から出て行った後、
私は娘──カヤーヌを呼んだ。

「――あ、あたし、選ばれなかったんですか? おかあ……いえ、副巫女長」
「カヤーヌ、そういう嫉妬はいけませんよ。
どの殿方とも同じ喜びを持って春をひさぎ、どの殿方の精液も等しく受け入れる。
同時に誰に選ばれなくても恨みはしない。――それが神殿の巫女というものです」
「あ、は、はいっ。……あの、でも、別にあたしは嫉妬とかじゃなくて……」
家に居るときとは全く違った頼りない声でうつむき、
ごにょごにょとことばを濁した娘は、本来は、快活なことでまわりに知られている少女だ。
慣れない神殿での生活は気疲れするのだろう。
春をひさぐ巫女なのに、まだ処女の身であることにも。
自分はともかく、あるいはこの娘にはあの坊ちゃまが食指を動かされる可能性があるかもしれないと
「準備」の巫女たちの中に入れておいたが、ちょっと相手が手ごわすぎた。
この子にはかわいそうなことをしたかも知れない。
初めての相手、それも王子様と言って差し支えない存在に、
大勢のライバルの中から選ばれる──女の浪漫だ。
カヤーヌがそういう結末に期待を抱いていたとしても不思議ではなかった。
「……じゃ、明日から普通のお勤めに戻るわね、お母さま──じゃなかった、戻ります、副巫女長」
だが、意外なことに、カヤーヌはにっこりと微笑みながら顔を上げた。
その笑顔に、私はちょっとどきりとした。

あれは、どういうことだったのだろうか。
部屋に入ってくるときのおどおどとした様子とは打ってかわって
上機嫌で部屋を出て行った娘のことを考えながら、私は神殿の受付のほうにまわった。
ロビーで客の応対をしている巫女たちの中を歩く。
胸に客たちの視線が集まるのを感じた。
──ゆれる乳房は、男の生殖本能を刺激する。大きければ大きいほど。
たとえ貧乳好みの男でも、目の前で動くものがあれば目で追ってしまう。
それは無意識下で性欲を刺激し、精巣の動きを活発化させ、
結局は、相手に選んだ巫女との交わりに良い結果をもたらす。
だから神殿は、乳の大きな巫女はつとめて巫女装束の胸元を緩めるように指導しているのだ。
解散した巫女のうち、すぐに客を取ると言ってきた巫女たちの名札を受付に出すように指示する。
名札を出さないで待機している巫女が控えの間にたむろっていた。
神殿を訪れる客は、やはり色々な巫女と交わりたいという者が多いが、
自分好みの巫女と何度もセックスしたいという客も以外に多くなってきている。
何人かの巫女は、神殿と相談の上、その客専属になっていた。
巫女の数は増える一方だが、客となる男の数は、むしろ減少しているからだ。
専属の売春巫女――それは、巫女服を着て神殿で待機する「妻」と何らかわらない。
帝国が<大地の母神>に容認を与える以上に、この神殿が<出産と婚姻の守護女神>に
影響されていることが大きいのだ。――これも世の中の流れなのだろう。
その流れは、副巫女長の私でさえ免れえ得ない現実だった。
現に、私の娘カヤーヌは──。
「……あ、あのっ……!」
ふいに後ろから声を掛けられ、私は驚いて振り向いた。
まだ少年と言ってもいい若者が、立っていた。

「はい、お客様ですね。ご予約の方でございますか?」
私はにっこりと笑って挨拶をした。
一応確認はするが、この子が予約客でないことはわかっていた。
副巫女長の私は、その日の客の動向を逐一把握している。
今日の予約者に、こんな若い年齢の少年はいない。
「あ、いえ。よ、予約はないんですが……」
この子は、運がいい。
今日は、執政官の息子のために拘束されていたとびっきりの巫女たちが
いっせいに予約の受付を再開する日だ。
大半の者は「解散」命令後、今日は自宅に帰ったが、
最上級の巫女の何名かは、まだ神殿の中にいる。
客が来さえすれば、彼女たちは喜んで売春を再開するだろう。
セックスを生業とする巫女の、数ヶ月の男断ちの後の初めての客。
久しぶりの情交には、普段にもまして濃厚な反応とサービスが伴うだろう。
この子は、普段はめったにめぐりあえない人気巫女の、
数年に一度の最高の状態を味わえるのだ。
だが──。
「あ、あのっ、これから予約できますか!?」
「ええ。待機している巫女の名簿をお持ちします」
「いえっ!! もう決まってます!」
言い切った少年は、空気を求めてあえいだ。
深呼吸を二つ。三つ目の途中でもどかしそうにことばを押し出す。
「――か、カヤーヌちゃん……いや、カヤーヌさんをお願いしますっ!!」
私は、私の娘を指名した少年をまじまじと見つめた。

この少年──見覚えがある。
たしか、この街の<評議会>にも名を連ねる大商人の跡取り息子だ。
もっとも、この街に限らず、<評議会>などの組織にはすべての成人男子が参加している。
女は神殿などの別の組織を使って、都市の運営に携わる。
むろん、男女の組織の間は、緊密で友好的だ。
<評議会>の慰労会は、毎年神殿を半分借り切っての大宴会に定められている。
評議員一人に巫女が十人もつく慰労会は、神殿の腕の見せどころだ。
──しかし、この子が神殿を訪れる年頃になっていたとは──。
私は、「名簿」を閲覧しながらこっそりため息をついた。
今年あたりに<成人の儀>を迎えるという話だったが、失念していた。
あの坊ちゃまの件で大わらわだったからだ。
本来なら、この子のためにも、巫女を<準備>させておく必要があった。
しかし、怪我の功名で、<準備>が出来ている巫女は十分な数がそろっている。
──この少年が指名したカヤーヌも。
ふいに、私は、娘が子供の頃──と言っても今でもカヤーヌは「大人」ではないが──に、
この少年と同じ私塾へ通わせていたことを思い出した。
つい二年ほど前は、机を並べる級友。
その後は、……最近、カヤーヌが街への買い物を積極的に手伝ってくれたわけがわかった。
カヤーヌは、いつも同じ商店の紙袋を抱えて戻ってきた。
私が鈍かったのもあるが、娘は、知らぬ間にずいぶん成長していたようだった。
執政官の息子のための<準備>を解くよう命じられたときのカヤーヌの微笑を思い出す。
──なるほど、そういうことだったのか。
「あの……」
招き入れられた私の執務室で、少年――イドリスという──は、居心地悪そうに身じろぎした。
「――大丈夫です。……カヤーヌを、私の娘を、あなたにお届けしましょう」
「え……娘……?」
イドリス少年は、びっくりしたように私を見た。
恋しい娘とよく似た顔立ちを私の中に見出し、緊張のあまりに忘れていたことを思い出す。
私塾の行き帰りに、何度か顔を合わせたことのある同級生の母親。
「あ……」
どぎまぎとした少年は、顔を真っ赤にしてうつむいた。

「え……、あ、そ、……そのっ……!」
もとからしどろもどろだったイドリス少年は、さらに困惑を深めた。
それはそうだろう。
恋人とのセックスを申し込みに行って、受付を担当したのがその娘の母親だったのだ。
いくら、売春神殿でのこととはいえ、これは恥ずかしい。
ましてや、童貞の男の子にとっては。
「――」
私は、ふいに息を飲んだ。
──どこかで見たことのある風景。
そういえば、この少年は……。
イドリスの経歴を思い出す。
彼の母親は、私が生まれる頃にこの街を統治していた執政官が当時の巫女長に産ませた女だ。
帝国の血筋を引く娘から産まれた少年がカヤーヌに惹かれたのも、あるいは当然のことかもしれない。
カヤーヌの父親も、帝国貴族――何代か前の執政官だった。
ごくり、という生唾を飲み込む音を私は聞いた。
少年のものではない。
聞こえたのは、私の喉もとからだ。
「……よいのですよ。副巫女長として、母親として、
あなたの<成人の儀>と、そのための交わりを祝福します。――ですが……」
私のことばは、すらすらと続いた。
自分が、何をしようとしているかは、よくわかっていた。
「カヤーヌは、五日後にもっとも受胎しやすい期間に入ります。
まぐわいはじめるのは、そのころからにしたほうがいいでしょう」
これは、嘘ではない。
カヤーヌだけでなく、巫女たちの月の巡り会わせについて神殿は、よく把握している。
だが、イドリス少年にはいわないでいることがあった。
「では、別室にてくわしくご説明しましょう。――ご案内してさしあげて」
私付きの巫女見習いに先導されたイドリスが部屋をでていくと、すぐに私は神官衣の中に手を差し入れた。
──濡れている。
指先にたっぷりとからみついた蜜液は、副巫女長のものでも、母親のものでもない。
現役の、それも最高級の売春巫女のもの──いいや、それもちがう。
もっとシンプル──恋し、欲情している女のもの。

深い淵に沈めたはずの記憶は、肉体の刺激で呼び起こされていた。
執政官の息子に好意を抱いていた理由がはっきりわかった。
カヤーヌの父親も帝国貴族。――私は、ずっとその面影を追い求めていたのだ。
そして、イドリス少年は、あの坊ちゃまよりも、それが色濃い。
私のはじめての男の雰囲気が。
「ごめんね、カヤーヌ。――あの子、私に半分頂戴」
抑えきれない情欲に身体をわななかせながら私は蜜まみれになった指を舐めた。
たっぷりと成熟した、牝の匂い。
「ああ……」
乳を揉みしだく。
軽く触れただけで母乳が流れた。
何度も妊娠を経験し、また女神の秘術を授かった私は、孕んでいなくても乳が出る身体だ。
部屋に満ちる牝と母性の匂いが絡み合う空気は、私──イリアそのものだった。
「……大丈夫、あの子をあなたから取り上げたりはしないわ。
でも、愛する女の母親を味わってみるのも、イドリスにとって良いことだと思うの」
一度口に出した欲望は、どんどんと形を作り、高みを目指す。
私は、このまま自慰で達してしまいそうになる自分を必死で抑えた。
この燃え上がった炎は、最良の形で次のまじわりに使えば良い。

イドリス少年には言わなかったことがある。
──五日後からは、私も受胎しやすい時期に入るのだ。

私が部屋に入ったとき、担当巫女による<事前授業>はあらかた終わっていた。
神殿での<成人の儀>――セックスと妊娠についての教育は、あからさまで実践的だ。
相手の巫女を孕ますために、男はどうすればいいのか。
その知識をたっぷりつめこまれたイドリス少年は、講義が終わるころには顔を真っ赤にしていた。
だが、重要な項目がいくつか残っている。
それは私が確認することにしていたので、巫女は一礼して下がった。
私はソファに──イドリスの隣に腰かけた。
「<授業>はおわかりになりましたか?」
「たぶん……」
「ふふ、後心配なさらなくても大丈夫ですわよ。
神殿は若い殿方に、子作りの方法と愉しみを教える学校でもあるのです」
「子作りって……」
イドリス少年が息を飲む。
「あら、殿方の<成人の儀>が、誰か女を妊娠させることだとはご存知のはず。
そして、女の<成人の儀>は、誰かの子種で妊娠し、出産すること。
──あなたの精で、カヤーヌを孕ませていただけるのでしょう?」
「……えっ…っと、その……」
少年は真っ赤になってうつむいた。
この年頃の少年は、もちろん「大人」になりたい欲望はあるが、
それ以上に、セックスのことで頭がいっぱいだ。
ましてや、恋人とのはじめての性交となれば、なおさらだ。
その興奮は悪いことではないが、神殿の巫女として、
セックスの目的が子作りであることは、きちんと教えておかねばならない。
最近、性風俗の乱れが世界的な大問題だ。
<美と性愛の女神>の堕落した一派や<不貞と婚外性交の女神>の信者などは、
子作りよりもセックスの快楽を優先させる本末転倒ぶりだ。
<帝国>は、こうした邪教を駆逐しようと躍起になっているが、
有害な教義は、えてして若い世代に大きな影響を及ぼすものだ。
<大地の母神>は、セックスを楽しむことを大いに奨励しているが、
それは妊娠・出産という大事に付随された快楽ということを忘れてはならない。

「――あの……」
私がそんなことを考えていると、イドリスはうつむいてテーブルに落としていた視線を上げた。
「何か?」
「その……カヤーヌちゃ……いえ、巫女カヤーヌさんと、<成人の儀>を終えたら、――どうなるんですか?」
「どう、とは?」
「あ……、ですから、ですね。ええと、僕がちゃんとした「大人」であることを証明できたら、
──カヤーヌちゃんを妻に迎えることって、できますか。――いえ、絶対にそうしたいのです」
少年は、まっすぐに私を見た。
私は、どきり、とした。
その真剣な眼差しは、少年は驚くほどカヤーヌの父親に似ていた。
私を第二夫人に迎えたい、と言った数代前の執政官に。
私の初恋の、いや、初めて愛した男に。
「――」
「……あの……?」
絶句した私に、イドリスは訝しげな顔になった。
「……できないことではありませんね」
私はかすれた声で、ようやく答えた。
大商人の息子と、神殿の副巫女長の娘は釣り合いが取れている。
性格のほうも、お似合いかもしれない。
イドリスが純情な少年であることは話していてすぐに分かった。
カヤーヌも、売春巫女には向かない貞操観念の持ち主であることも。
娘は、神殿にあがる前に、私にしきりに「専属巫女」の制度について聞いていた。
複数の男に身を任せるには、父親から継いだ血は真面目すぎるのだろう。
同じく帝国貴族の血を引く者どうし、イドリス少年とお似合いかもしれない。
いや、確実に相性のよい夫婦となるだろう。
──私とあの男との時の結末とは、ちがって。
「――副巫女長さん……?」
凍りついたような表情で黙り込んだ私に、イドリスが恐る恐る声をかける。
「……そう、あの娘が欲しいのね。――でも、それはちょっとむずかしいわよ」
私は、微笑を浮かべながら答えた。
嫉妬にとがった表情を隠すのは、成熟した女の得意技だ。

「む、むずかしい……のですか!?」
イドリスは慌てたように聞き返した。
「ええ。世間的や神殿的に、という意味ではありませんわ。
カヤーヌの母親は、けっこう口うるさい女なのです。
――娘の旦那様になろうという殿方については、かなり厳しい目で見ますわよ?」
「あ……」
自分の目の前の女性がカヤーヌの母親だということを改めて思い出し、イドリスが狼狽する。
「娘を幸せにできる殿方かどうか、母親には試し、知る権利がございますわね?」
「……はい」
私はやさしく追い討ちをかけた。
獲物を追い込む先は──ハーレムだ。
「ふふふ、そう緊張なさらなくて良いですわ。あなたは、なかなか見所がありそうな殿方ですし、
そうでなくても、私が色々と教えて差し上げればよいのですから」
「お、お願いします……」
「教える」の中身も知らないまま、少年は頭を下げた。
契約完了。
私はソファからゆっくり立ち上がり、イドリスにも同じようにする事をうながした。
「それでは、イドリス様。――服をお脱ぎください」
「……え?」
「ああ、下半身だけでけっこうですわよ。おち×ちんを見せてください」
「えええっ!?」
イドリスは狼狽した。
「何を驚いているのですか。男女の交わりに一番重要なことです。
あなたが大人の男になるのにふさわしい身体か、お調べします」
私は、副巫女長の真面目くさった顔でことばを放った後、微笑を浮かべた。
「ふふふ、恥ずかしがらずともいいですわ。――これから義理の母親になる相手に」
不意打ちの一言に、イドリスの狼狽が激しくなり、すぐに落ち着いた。
カヤーヌとの結婚のことを思い出して、覚悟が座ったのだろう。
「……はい」
少年はズボンを下ろした。

「あらあら、まあ──」
私は頬がにやけてくるのを必死で取繕った。
緊張して縮こまった少年のそれは、成熟しきった大人の女の目には、
まさに「可愛い」と形容すべき代物だった。
だが小さく可愛らしいものを大きく猛々しく育てるのも女の愉しみだ。
私はイドリスの前にひざまずいた。
両手で少年の性器をそっと包む。
「あっ……副巫女長さんっ……」
「ふふふ、先ほど習いましたでしょう? 女とまぐわうためには、まず、これを大きくしないと」
売春巫女ならば、もちろん手技も得意だ。
陰嚢を軽く揉みながら茎を何度かこすると、イドリスの男根はたちまち勃起した。
「まあ、ご立派……」
私は本心からそう言った。
イドリスの男性器は、彼の年齢や体格に比してずいぶん見事なものだった。
まだ仮性包茎のようだが、これから女とまぐわい続ければすぐに治る程度のものだ。
「そ、そうなんですか?」
「ええ、大きくなったら先っぽもちゃんと剥けていて、
すぐにでも女の中に入る準備ができていますわ。
ふふ、湯あみもきちんとしてきたのですね」
「えっと……はい」
恋しい娘と交わるために、恥垢を丹念に洗い流してきたイドリス少年の先端は、
まるで、神聖な儀式につかう神具のように清浄だった。
熟練の巫女になると、汗や恥垢を気にせず、むしろ好むようになる傾向にある。
まぐわいの味を濃くするために、馴染みの客に対して男根を洗わずに来るようせがむ巫女は多いし、
長旅に汚れきった旅人の男根を自分の舌と唇で清めることで客人をもてなす辺境の女王もいる。
私も、交わりの前に味の濃い口腔性交をすると、普段より燃え立つ性癖だ。
だが、イドリス少年のきれいな男根は、
そうした生々しい生物的な性欲とは違った面で欲情を刺激した。
神聖なものを快楽の世界へといざなう快楽。
それは、性交未経験の少年との淫戯そのものの魅力だった。
私は少年に気預かれぬようにそっと舌なめずりをした。


「あの……だ、大丈夫なんでしょうか……僕……」
「ええ。これなら交わるところまでなら合格ですわ。
――でも、もっと大事なことがあります。
それを試す前に、いくつか質問させてくださいね」
「は、はい」
「イドリス様は、もう自慰の経験はおありですか?」
「は、はい、……あります。精通からもう三ヶ月も経ちますから……」
「まあ」
本来、年頃の男子は、精通が始まる前後から親を通じて神殿が監視する。
精液を作れる身体になれば、すぐに<成人の儀>にすすませるのだが、
ちょうどそのころ、私たちは執政官の息子の件で忙殺されていたので、
彼のことはつい手付かずだったのだ。
イドリスの母親が帝国的な人間であり、
<大地の母神>の神殿のやり方にあまり協力的でないことも影響した。
「では、もう精の出し方はご存知ですね。最後に自慰をなさったのはいつですか?」
「と、十日前です」
イドリスは真っ赤な顔を背けながら答えた。
予想通りの答え。
私は少年の視界の外でにやりと笑い、すぐにしかつめらしい表情に戻った。
「あらあら──それは問題ですね」
「え?」
イドリスがびっくりしたように振り向いた。
「な、なにかいけないことがあったんですか!?」
「ええ。殿方の精は、三日から六日の禁欲でもっとも元気が良くなるものなのです」
それは、神殿が何百万回という実例から割り出した経験則だった。
──妊娠しやすいセックスの研究は、どの女神の神殿でも枚挙に暇がない。
さまざまな女神が、自分たちの教義に則したさまざまな方法を模索しているが、
<大地の母神>の神殿は、豊富な実例をもとにして、純粋な肉体面での研究をすすめている。
男性の体内で精嚢や子種のはたらきについては、おそらくどこよりも詳しいはずだ。
もっとも、「三日から六日」の禁欲を律儀に守れるほど、この街の男の数は多くないので、
結局、こういうときに役に立つ程度の知識でしかないのだが。

「……もちろん、毎日まじわっても妊娠させることは可能です。
しかし、特別なとき──初めての交わりがいつなのか、すでに決まっているのなら、
それにあわせて精を蓄えていたほうがよろしいですわ。
十日、交わりの日を迎えたときでは十五日では、いささか溜めすぎです」
「そ、そうなんですか」
「ご心配なく。あなたの<成人の儀>は五日後。
――今日、精をお出しになっておけばちょうど良い時期に当たりますわ」
「あ、そうですね。……じ、じゃ、後で出しておきます」
「後で、ということは、ご自分で、ということですか。――いけません」
私はかぶりを振った。
「ご自分でなさること自体があまりよろしくないことだというのに、
<大地の母神>の神殿内で精を無駄にすることなど、女神様への冒涜ですわ」
「す、すみません」
少年は顔を赤らめた。
「この神殿には何百、何千もの巫女がおります。そういうことは巫女にまかせてください」
「で、でも僕は……」
「……「はじめての交わりはカヤーヌとしたい」のですね?
大丈夫――交わらなくても、精を無駄にしない方法があります」
私はイドリス少年の男根に顔を近づけた。
「わわっ、――副巫女長っ!?」
狼狽しきった声を無視し、私は初々しい男根の先端を口に含んだ。
娘の夫となる男の子の男根を。
「うわっ!」
反射的に身をよじって逃げようとする少年の腰に手を回して動きを制する。
はじめて受ける女の舌と唇の奉仕――イドリスはすぐに達した。
「あっ…あっ……それ、だめっ!!」
少女のような甲高く甘い悲鳴を上げ、少年は私の口の中に放出した。
若々しい、新鮮な精液が、口腔いっぱいに広がる。
最後の一滴まで射精させ、尿道に残った分を吸い取ってから口を離す。
荒い息をついて後ろのソファに倒れこんだイドリスを優しく見つめながら、
私は、神事の際に最高級の神酒をいただくときのように、厳粛にそれを飲み下した。

「――ふふふ、子種がたくさんの、よい精液でしたわ。これなら、安心して<成人の儀>を行なえます」
初めての快感と脱力感に、後ろのソファに崩れ落ちるように座り込んだイドリス少年の股間から
顔を離して立ち上がった私は、優しく微笑みながら声をかけた。
唇についた精液を舐め取りながら。
「ど、どうしてこんなこと……」
「今、言ったとおりです。あなたの精液にちゃんと子種があるかどうか。
──熟練の巫女は精液を飲むだけでわかります」
熟練者や位階の高い売春巫女ならば、それくらいのことはできる。
精液は、男のエッセンス。一人ひとり味が違うものだし、体調などにも左右される。
それを判断するのは、経験と牝の本能だ。
遠い異国、自らが売春神殿の巫女長を兼ねている、ある砂漠の都市の女王などは、
一度飲んだ精液の味を決して忘れぬことで有名だ。
帝都への表敬訪問──つまりお決まりの売春外交――で再会した帝国貴族たちを
目隠ししたままで口腔性交を行い、すべての相手を言い当てたという。
「副巫女長……」
「――お義母さん、と呼んでいただけないかしら?」
ぐったりとソファに寄りかかりながら見上げるイドリス少年が、はっと身じろぎをした。
「私があなたの精液を飲んだのには、もう一つ意味があります。
あなたが妻に迎えたがっているカヤーヌは私の娘。──つまり、私と身体の中の具合がよく似ているということ。
そして私は、殿方の精との相性をこういう形で感じ取ることができる。
……あなたの精液、とても美味しかったですわ。私の舌と唇──私の身体は、喜んでそれを受け入れました。
つまり、カヤーヌも、あなたの精ときっと相性がいいということです」
身体や性の相性は、あなどれないものだ。
自分の快楽を追及すると同時に、一番の懸念事項を確認しておく。
娘の夫の「はじめての口取り体験」を奪ったのだ、それくらい娘に気遣っておかねばなるまい。
「あ……」
イドリスが複雑な表情を浮かべた。
ここは考える暇を与えてはならない。
私は慈母の微笑を浮かべながら巫女装束に手をかけた。
「!!」
全裸になった私に、イドリス少年は息を飲んで絶句した。

「ふふ、おち×ちんも、子種も、よろしいものだと確認できました。
後は──<成人の儀>の当日に、うまく事を成せるための練習です。
これならば、精をお出しになるにしても単なる無駄にはなりません。
──今、私に飲ませた精液と同じく、女神様もお許しになるでしょう」
私は、自慢の乳房を持ち上げた。
白い肉がゆれるのを、イドリス少年は食い入るように見つめた。
それから、茂みが豊かに生える私の股間にも。
乳房はともかく、女の性器を間近に見たことはあるまい。
狼狽の表情が、たちまち興奮のそれに変わるさまを、私はにんまりとしながら見つめた。
「あ…あのっ……」
「ふふふ、心配しなくてもいいですわよ。あなたの「はじめて」は、カヤーヌのためにちゃんととっておきます。
<成人の儀>のときに、殿方が心得ておくべき方法を少し教えてさしあげるだけ。
……私は、もうすぐあなたのもう一人の母親になる女ですわ。
息子がいざという時に恥をかかないための手助けくらい、させて下さい」
私は、ベッドの上に横たわった。
イドリスは、<授業の間>になぜベッドがあるのか不思議に思っていたのだろうが、
こういうときのために、神殿の部屋には、執務室にも控え室にも、みな夜具が置いてある。
ここは、<大地の女神>の神殿なのだ。
こちらを向いて横たわり、大きく足を広げた女に、イドリス少年は戸惑うばかりだった。
「あ、あの、これからどうすれば……」
「大丈夫、落ち着いて。服を脱いで私の上に重なりなさい」
「は、はいっ!」
肌を重ねる。
娘の未来の旦那と。
私は、手と指と唇と舌と身体全体とを使って、まぐわいの時の姿勢と作法をイドリスに教え込んだ。
口付けと挿入だけはしない。
それは、未来の妻にはじめてを捧げるものだからだ。
そのかわり、それ以外のことはすべて私のものになった。

「うわ…あ……、気持ちいい、気持ちいいよぉ……」
イドリスが状態をのけぞらせてあえいだ。
「ふふふ、カヤーヌのあそこに入れたら、もっと気持ちいいですわ。期待なさい」
「そ、そんな、これより気持ちいいっ…なんてっ! 考えられないっ!」
もう何度も放っているのに、イドリスの男根は硬く膨れ上がったまま。
私が性技を尽くしているのもあるが、なかなか強精家だ。
正常位のやり方はほぼマスターした。
処女相手ならば、十分すぎるほどのテクニックも。
今、イドリス少年は、私の白い身体の上に重なり、
たっぷりと蜜にまみれた女性器に自分の性器を乗せて、前後に腰をゆすっている。
私の狭間で、男根の裏側をこする──俗に言う「素股」というものだ。
性器での結合をのぞけば、セックスに一番近い。
これを繰り返すことで、未来の娘婿に、女の扱い方を教え込む。
首筋への愛撫、胸への愛撫、女性器への愛撫。少年は覚えの良い生徒だった。
「あっ……また、イくっ!」
「いいのよ、たくさん出しなさい」
男根の中で、亀頭の次に敏感な裏側を刺激され、イドリスは大きくあえいで射精した。
勢いよく噴き出した精液は、私の白い腹を汚し、胸の谷間や顔にまで飛び散った。
「ふふふ、すごい量ね。まだまだ溜まっているのかしら。
今日のうちに、一回、全部出しておしまいなさいね」
「は、はい。イリアお義母さん……」
「いい子ね、イドリス」
結局、イドリス少年が陰嚢をすべて空にするには、その後二時間ほどかかった。

「――お疲れ様」
若い体力を使い果たした愛しい男の子は別途の上で夢うつつだった。
汗にまみれた肌を濡れた布で拭いてやる。
かけられた精液でぬるぬるになった自分の裸体も丹念に拭きあげた私は、イドリスに添い寝した。
「ふふ、いいものあげるわ、イドリス」
少年の頭に優しく手を回した私は、自分の乳房にイドリスの顔を押し付けた。
乳首を少年の唇に含ませる。
うとうととしているイドリスは、本能的にそれを吸った。
少年の口の中に、母乳が流れ込む。
目を覚ました少年は、しかし口を離さず、赤ん坊のように私の乳を吸い続けた。
「どう、おいしい?」
「はい……」
「たくさん飲んで、あたらしい精液をいっぱい作るのよ。カヤーヌのために。
これから<成人の儀>までの間の禁欲中、ずっとこれを飲ませてあげる。
精液の補充には、ミルクが一番いいのよ」
「は、はいっ」
「ふふふ、カヤーヌもこのお乳で育ったのよ。私のお乳で身体を作ったの。
あなたがこれから作る精液も、私のミルクが材料。
だから、その二人が交われば、相性抜群できっとすぐ子宝に恵まれるわ」
──返事はなかった。
いつの間にか、イドリスは満足そうな表情を浮かべて寝入っていたからだ。
私は、たった今増えたばかりの「わが子」の髪を梳きながら、
もうしばらくそのまま添い寝を続けた。

「お母さま、あたし怖い……」
塔に向かう廊下で、カヤーヌは身体を震わせた。
愛する男に抱かれる喜びと、破瓜への不安は矛盾しない。
私はその細い肩をそっと抱きしめた。
「大丈夫、あなたは、もう十分「大人」になれるわ。――イドリスもあなたを欲しがっている」
「……イドリスが……」
小刻みに震える娘の頭を優しく胸の谷間に抱え込む。
この子が不安になったときは、こうするといつも落ち着いたものだ。
「あなたも十分に熟れて、イドリスを迎え入れられる。――この五日間ずっと準備していたでしょう」
私は手を伸ばした。
カヤーヌの神官衣の裾を割って、下着の上から、股間をそっとなでる。
巫女見習いが初穂をあげるときには、初体験の男に施すように、先輩の巫女たちが<事前授業>を施す。
性に対するさまざまな知識は神殿に上がったときから与えられ続けているが、
直前の授業は、男を受け入れ、迎え入れるためのより実践的な施術だった。
カヤーヌのそれは、私が自ら担当した。
マッサージのような愛撫を繰り返し、若い身体の奥底に眠る女の肢体を目覚めさせる。
カヤーヌの身体は、この五日間で十分に目覚めていた。
あとは──精神だけだ。
私は、娘の股間を優しく嬲りながら、カヤーヌの耳元に唇を寄せてささやいた。
「――イドリスは、あなたを妻に迎えたいそうよ」
「!!」
カヤーヌの震えがぴたりと止まった。
女の覚悟は、時としてかくも簡単に決まる。
「あなたも、イドリスの妻になりたいのでしょう?」
「はい……」
「そう。では、行きましょうか。――大丈夫、母さまが見ていてあげる。
あなたが、イドリスの妻になるところを。安心して、あの子のものになりなさいな」
「はい!」
カヤーヌは別人のように元気良く歩きはじめ、私はその後を続いた。

「では──これよりイドリス様の<成人の儀>を始めます。
お相手は、巫女見習いカヤーヌ。<介添人>は、私、副巫女長イリアがお勤めいたします。
<成人の儀>では、熟練の巫女が立会する場合がある。
通常、はじめての性交にのぞむ男の子には、熟練の巫女が相手をするものだが、
巫女の側も経験が浅い場合は、補助する女が必要だからだ。
──執政官の息子とアドレナのときは別だ。
あの二人は、<婚姻と出産の守護女神>が定めた本能だけで、立派に数十人の子供を作るような男女だ。
カヤーヌの<介添人>は、私がつとめる。
大きく頷いたイドリスと、身を硬くしたカヤーヌが、それぞれ決意に満ちた表情で、褥に入り込んだ。
「カヤーヌ……」
「イドリス……」
私の「息子」と娘は、しばらく見つめあい、それから唇を重ねた。
あとは──もう流れるままだった。
イドリスは慌てることなくカヤーヌの巫女衣を脱がし、愛しい女を生まれたままの姿にした。
私と違い、ほっそりとした体型の娘は、胸乳も尻も小さかったが、
イドリス少年は、それを壊れやすい宝物のように優しく扱った。
カヤーヌが小さくあえぐ。
首筋へのキス、鎖骨をなぞり、胸乳を軽く揉み、なめらかな腹や太ももをなでる。
──私が教えたとおりの愛撫。
舌を絡めてのキス。甘い睦言。
──私は教えなかったが、二人だけで探り当てた愛撫。
初々しい二人の戯れあいは、ひどく真剣だった。
「これ、こんなに大きいの……」
カヤーヌがイドリスの男根をはじめて手にしたと、戸惑ったように呟いた。
「――」
私が何か言い聞かせて落ち着けさせようとする前に、イドリスが優しくささやく。
「大丈夫、恐かったら、もう少ししてからにしよう」
「ううん、恐くはないわ。でももうちょっと、待ってね……」
娘は、未来の夫の先端を優しく握りながら目をつぶった。
手のひらに感じる感触が、やがてそれを自分の身体と心とになじんで来るのを本能で知っているからだ。

「あ……」
「……こう、かな?」
目を閉じたまま、カヤーヌは確かめるようにゆっくりとイドリスの男根を愛撫した。
その動きは、自然と上下運動に転じる。――男根に快感を与える動きへ。
男が女を喜ばすことに自分の喜びを見出すように、女も男を喜ばすことが好きなのだ。
イドリスの性器は、さらに硬く膨れ上がった。
距離をおいて見ているだけでも、びくびくと脈打っているのが分かる。
「う……うん……」
イドリスの小さなあえぎ声が、荒い息に変わり始めた頃、カヤーヌは目を開けて微笑んだ。
「大丈夫──なような気がする。来て、イドリス」
「あ、ああ!」
カヤーヌはイドリスの下で身体を広げた。
イドリスがカヤーヌの上に乗る。
二人は、私が教えたさまざまな愛撫――フェラチオやクンニリングスやシックスナインなど──
をすっ飛ばして、根源的な交わりに飛躍した。
押しとどめることのできない本能は、しかし二人の間では優しく、自然なものだった。

「夫」の男根を握って確かめている間に、「妻」の性器はいつの間にか潤い、
イドリスが濡れた肉を割って入ってきても、カヤーヌはそれをかなりすんなりと受け入れた。
私の「息子」は、それでも破瓜の痛みに眉をしかめた私の娘を気遣う。
少年はかたつむりのようにゆっくりと動き、時々止まって少女の反応を確かめた。

そんなイドリスの優しさに微笑み返しながら、「妻」は始めての体験にとまどう自分の身体を律した。
私「息子」は、そんな少女のけなげさにさらに興奮した。
自分の中におさめた「夫」の脈打つ律動に慣れ始めた私の娘は、その動きを強めるようにささやいた。
少年はうなずき、カヤーヌの上で大きく動き始めた。

二人の押し殺した声がだんだんと強くなり、高みをのぞみはじめ、
――<介添人>の私は、すっかり出番を失った。

「ああっ、カヤーヌ……僕はもう……」
「んっ……、イドリス、私ももう……」
若い夫婦は、お互いの最も敏感な場所をお互いに与え合っている。
カヤーヌの肉襞は、イドリスの男根を包み込んで粘膜でからみ取り、
イドリスの肉棒は、カヤーヌの処女地を硬い亀頭で蹂躙した。
技巧もなにもない若い牡と牝の性行為は、売春巫女の長の一人である私にとって、
はじめてみるような初々しさと神聖さに満ち溢れていた。
やがて──
「ああっ、カ、カヤーヌ。イくよ、君の中に僕の子種をっ……!」
「来て、イドリス。私の中に、あなたを頂戴!」
「おおっ、は、孕んで、カヤーヌ! 僕の子供を!!」
「ええっ、産むわ、イドリス、あなたの子供を!!」
二人は同時に叫び、絶頂に達した。
のけぞる少年が、少女の中に大量の精液を放つ。
妻は、注ぎ込まれた夫の子種を子壺の奥に大切に収め、自分の卵と結びつけた。
──この交わりは、女神に届いた。
巫女でなくてもわかるくらいに、それははっきりとしていた。
当人たちにも分かったのだろう。
汗にまみれた顔に微笑を浮かべながら互いを見つめた若夫婦の表情はすっかり「大人」のものだった。
私は、そっとソファから立ち上がった。
もうこの二人には<介添人>は必要ない。
──イドリスは、カヤーヌの男だ。カヤーヌがイドリスの女であると同じくらいに。
二人の、不純物をかけらも含まない交わりを見た私は、
娘の婿にひそかに欲情を抱いていたことが恥ずかしくなってしまった。
部屋を出ようと扉に手をかけた私の背に、カヤーヌの声がかけられた。
「待って、お母さま。――次はお母さまの番よ」


「カ、カヤーヌ?!」
私はうろたえた声を上げた。
カヤーヌはベッドから起き上がり、私に近づいた。
「知っているわ、お母さま。――お母さまも、イドリスと交わりたいんでしょう?」
「カ、カヤーヌ……」
「イドリスから聞いたわ。――私たち、この五日間、夜はずっと逢引していたの。
もちろん交わったのは今が最初だけど、神殿の裏の森で、夜通しいっしょに語らってたのよ。
お母さまが、イドリスのこと好きなのも、教えてもらったわ」
微笑んだ娘は、私よりもずっと成熟した女のように見えた。
「……色々、調べたんです。――カヤーヌの父親、あなたの最愛の人は、僕の大伯父でした。
もう亡くなられていましたが、最後まで、あなたのことが好きだったようです」
イドリスも立ち上がってこちらへ来た。
成人を迎えたその顔は、――あの人にそっくりだった。
「――それでね、イドリスと話し合って、巫女長様にも相談して、結論が出たの。
――私たち、お母さまを喜ばせてあげたいって」
「僕は、貴女の「息子」になりました。カヤーヌは、あなたの娘。
子が母親に幸せを与えたいのは、母親が子に幸せを与えたいと同じくらい当然のことでしょう」
「お母さまに、もう一度素敵な愛をあげたい。――イドリスと交わって、お母さま」
「もちろん、カヤーヌと一緒に。三人で親子の契りを強く結びましょう」
カヤーヌ、私の娘は、私の左手をそっと取った。
イドリス、私の息子は、私の右手をそっと取った。
そして二人は、私をベッドへと導いた。

私の教えた──いや、それ以上の滑らかさで私は神官衣を脱がされ、裸の身体に愛撫を受けた。
イドリスとカヤーヌの指と舌は、若々しく熱心な動きをみせ、熟れきった肉体を燃え上がらせた。
カヤーヌが私の女性器を激しく責め立てる間、イドリスは私の口に男根を含ませ、たっぷりと味あわせた。
イドリスがゆっくりじらすように私の肛門を舐め上げる間、
カヤーヌは自分の性器を私の顔に押し当て、若い蜜液を吸わせてくれた。
やがて、私が、売春神殿の副巫女長とは思えぬほどにとろけきったとき、
カヤーヌがイドリスを導きながらささやいた。
「さあ、お母さま、私たちから一番のプレゼントです。――もう一度お父さまと交わって、お父さまの子供を孕んで……」

「ひぃっ……あ…あああっ!!」
娘婿の男根は、堅く、熱く私の内部をえぐった。
私はつい今しがたカヤーヌが見せたような、処女の敏感さでそれを感じ取った。
「ふふふ、いいでしょ。お母さま。我慢しないでいっぱいイってもいいのよ」
優しく笑う娘は、私の初体験のときに<介添人>をつとめてくれた巫女――今の巫女長──に似ていた。
「う…くっ、だ、ダメっ……あなたの旦那様のでこんなに、こ、こんなに感じちゃ……」
「あら、ちがうわよ、お母さま。今、お母さまの中に入っているのは、イドリスのじゃないわ。
──お父さまのおち×ちんよ」
「そうです。これは、カヤーヌのお父さん、貴女の最愛の人のものです。
だって、ほら、こんなに熱くて脈打っているじゃないですか。
貴女の中にもう一度入りたくて十何年も待っていたから、こんなにカチカチなんですよ」
「あああっ」
二人の示し合わせたことばに、私は我を忘れた。
「さあ、お母さま。お父さまに、どうされたいの?」
「……な、中にっ……中に子種をくださいっ! 私にあなたの子供を産ませてくださいっ!!」
私は懇願した。
カヤーヌを孕んだ交わりの時のように。
さまざまな事情で結ばれることがなかった男との逢瀬の時のように。
「うふふ、いいわ。お母さま、お父さまの子種でイっちゃいなさい。
お父さまはお母さまのことを愛しているから、お母さまが望むだけ子種をくれるわ。
だから、お父さまの精をしっかり受け止めて、孕んであげて……」
「はいっ、孕みますっ、あ、あなたの子供っ……」
真っ白な頭にカヤーヌのささやき声が渦巻く中、
私は、カヤーヌの父親が大きくあえぎながら私の胎内に射精をするのを感じた。
カヤーヌを孕んだときのように、子種がたっぷりとつまった濃い精液が、私の子宮を満たしていく。
性交と射精は、あの日のように何度も、何度も繰り返され、
──私は、あの日のように、私の中に小さな生命が芽生えたのを感じ取った。
満たされた思いに包まれながら、私は手を伸ばし、最高の幸せをもういちど与えてくれた娘と息子をそっと胸に抱き寄せた。
左の乳房をカヤーヌに、右の乳房をイドリスに与える。
赤ん坊のように吸いたてる二人の子供に、今、お腹の中に宿った子を重ねあわせ微笑んだ私は、
ゆっくりと沈み込むようにして至福のまどろみの中へ落ちていった。

「うわ……すごい。妊婦用なのにとっても素敵なドレスね」
カヤーヌが、届いたばかりの花嫁衣裳を見て歓声をあげた。
豊かに盛り上がった腹をかかえた娘は、出産を待たずにイドリスに嫁ぐ。
「こういうデザインとかは、やっぱり帝都のほうが進んでいるよね。
今の執政官の息子さんの花嫁もこの仕立屋のドレス着て結婚式挙げたんだって話だよ」
「カヤーヌ、あんまりはしゃぐとお腹の子供に障るわよ」
私は、ドレスを胸に当てて今にも走り出しそうな勢いの娘をたしなめた。
「そうそう、妊婦さんは、大人しく座ってなきゃ。――お義母さんみたいに」
娘婿は、カヤーヌと同じくらい膨れた腹をしている私を指さした。
「だって、これから結婚式して、あなたの子供を産んで……って考えたら、幸せすぎてじっとしていられないもん」
膨れ顔になった若妻に、婿殿は苦笑いした。
「そんなにおっぱい大きくなったのに、カヤーヌはまだまだ子供だね」
妊娠してから急に大きくなった娘の胸乳は、今では私に迫る勢いだ。
血というのは争えないものだ、とつくづく思う。
「ひどいわ、イドリス。あなただって、まだまだ子供じゃない。
知ってるわよ。昨日の夜、お母さまにおっぱい吸わせてもらってたでしょ?」
「うっ」
「ふふふ、昨晩は<お父さま>もいらっしゃっていたわよ」
「あー、ひどーい。また二人だけでしてたの? 私も入れてよ」
イドリスは、私と寝るときはカヤーヌの父親になる。
カヤーヌは、それをとがめない。
母子三人で交わるときは、イドリスは二役をこなし、私たち親子を満たしてくれる。
その関係は、初めての日からすんなりと定まった。
これも、イドリスとその大伯父、私のカヤーヌにそれぞれつながっている血が為せる業かもしれない。
「……わかった、わかった。今晩、たっぷり、な?」
「――お腹の子供に負担かけないように、気をつけるのよ」
「はあい」
返事をしたカヤーヌは、私の顔を覗き込んでにっこりと笑った。
「うふふ、お母さまといっしょに子供を産めるなんて夢見たい。――ね、子育て、色々教えてね」
「もちろんよ、カヤーヌ。叔母と姪が同い年というのもちょっと大変だけど、仲良く育てていきましょう」
「うふふ、お父さまもきっとお喜びだわ」
──もうすぐ、この街の人口が二人ほど増える。
きっと姉妹のように仲のよい叔母と姪になるだろう。

FIN