正確にはいつから意識してたんだろう。
鼓動の高まりを感じながら、そんなことを考え始めていた。
今私は兄の部屋の前に立っている。
本当にたまにしか入ることのない場所。
どんな間取りかはっきりと思い出せないくらいだ。
「すぅぅっ」
口をすぼめて息を吸い込む。
大きくなっていく鼓動を押さえつけるように。
2つ離れた兄とは親密とはいえないが、仲が悪かったわけでもない。
兄妹としてごくあたりまえの距離だった。
そして、今のこの感覚。血縁の親しみとは違うもの。
だんだんと記憶がよみがえってくる。
そうこれは、1年ぐらい前のあの出来事がきっかけだったのだろう。


時計の針がまた勝手に進んだようで、そろそろ出ないとまずい状況だ。
私は約束に遅れるまいとあせって廊下に飛び出した。
「〜〜、〜〜。」
兄が階段の下から何か言っているが、全く聞こえない。
「なにー?」
全く、人に用があるなら直接来れば良いのに。
とととっ、とすばやく階段を降り始めた。
兄はまだ何か言っている。
「おい、そこの階段さっき雑巾かけたばっかりだから〜」
「えっ・・・」
もうそのときは足が階段から宙に浮くところだった。
視界が回転して、ぐるんと天井がひっくりかえる。
少しの衝撃の後、気がつけば兄の顔が目の前にあった。
「おっとと」
すべった私をとっさに支えてくれたらしい。
まるでお姫様のように、私は兄に抱きかかえられていた。
「・・・大丈夫かよ」
心配そうな表情で、私を覗き込む兄。
その、時だった。
急にどくっ、と胸の中で心臓が跳ねた。
「っ!?」
同時に不思議な感覚が私の中で芽生える。
「よいしょっと、慌てて降りようとするから・・・」
兄は私を立たせるように足を床に着かせる。
・・・それに気づかず、背中を支えられたまま私はぼおっとしたままだ。
「どうかしたか?」
「え?」
私は急に我に返り、とっさに兄を退けて離れた。
「どっか、打った?」
兄は私と同じ目線まで腰を落として視線を追ってくる。
そのしぐさ、その声・・・。
そこで初めて私は顔が熱っぽいことに気がついた。
「だ、大丈夫、なんともないから・・・」
なんなの、なんでドキドキしてるの?
私は逃げるようにその場を去った。

それからの生活はまったく変わらなかった。
朝は同じように起きておはよう、と言う。
ただ、私の兄を見る目だけが大きく変わってしまった。
毎日兄の行動が気になり、兄の表情が気になり、兄が私をどう思っているかが気になった。
なぜ?と考えても始めは全く分からなかった。
心のどこかで無意識に否定していたその答え。
それを見つけるにはしばらくの時間がかかった。
・・・そうか、だから始まりが"いつから"だったか分からなかったんだ。
そして今は、その答えがはっきりわかる。
私は思いで探しの回想から意識を元に戻した。
・・・兄は気が付いているだろうか。
気づいていたとしても、それに対して答えてくれることはないだろう。
私の思いを明かしても、相手にしてくれることはないはずだ。
血の繋がりがある以上、兄は私を妹としか見てくれない。
素直に口に出すだけでは、私をはぐらかすに決まってる。
――恋したいと思ってると、身近な人にそういう感情持っちゃうもんだよ――
兄の性格を思うと、こんな台詞でかたづけられてしまうことだろう。
そして一回失えば、私は二度と言い出せないと思う。
最初のチャンスでどうやったら本気なのかが伝わるだろうか。

その方法を思いついたのは、偶然の重なりからだった。



友人との何気ない会話。
「ねぇ聞いた?あの選手、女子アナとデキちゃった婚だって〜」
「なに、それ?」
「知らないの?赤ちゃんが出来て、それで結婚するってこと。」
「ふーん。」
「男の人はね、デキちゃうと責任をとるんだ!とか言ってプロポーズしてくるんだって〜」
「・・・そうなんだ。」
「いいな〜私が結婚したかったよ、あんなアナウンサーとなんかより―――」
「・・・・・」
私がそのとき考えていたこと。
赤ちゃんさえ出来れば、男の人は首を横に振れない。
その子を育てる義務があるから。
もちろん、普通なら絶対に愛してくれない人も。


さっき時計を見たときは11時だったから、今は半くらいだろうか。
仮病をし、両親が出かける隙をねらっての行動。
ドアをゆっくり開ける。
「ふぅ・・・」
息を大きく吸いこむ。かすかに汗の匂いがした。
昨日の深夜、私は聞いてしまったのだった。
隣から聞こえてくる兄の激しい息の音。何かが軋む音。それが唐突に終わった後の紙の擦れる音・・・。
布団の中で何気なく聞き耳を立てていた私は、それが何を意味するのか分かってしまったのだった。

その確信を裏付ける証拠が、目の前のゴミ箱に入っているはずだ。
まずは、レシート。それから新聞のスクラップ。ノートの切れ端。ティッシュが何枚か。
一瞬ドキリとしたが、何かを拭ったか、鼻をかんだだけのようだった。
もうちょっと底の方を探る。すると、他とは明らかに違う大きめのティッシュのかたまりが見えた。
指でつまみながら慎重に持ち上げる。
丸めてあるそれは、手のひらに載せると妙な重みがあった。
「これ・・だよね・・・」
鼻を近づける。
通学路に咲く、栗の花の匂いが。
その匂いは精液の匂いとよく似ていると聞いていた。
兄は自慰をしていた。これで間違いない。
「・・・・・・。」
知識として知っていても、実際に分かってしまうと少しショックだった。
ただ嫌悪感は全くなかった。逆に兄も男であることを強く感じたほどだ。


ぱたん、と後ろ手にドアを閉める。息が荒くなっている。
触らずとも秘部が湿ってきていることが分かる。
いつもならこの辺りの高ぶりで自慰をためらっていた。
こんな事しちゃいけない、こんな事しても何にもならない・・・
けど、今日は違う。今日のこの行動には目的がある。
私は慎重に部屋を横切り、兄のベッドに仰向けに寝そべった。
その間も体は熱を増し、明らかに普段と興奮が違うことを感じ取る。
自分でも気が付かないうちに、指が下着越しの割れ目をなぞっていた。
「はぁっ・・・・っ!」
割れ目の中心部辺りを左手で押さえ、右手で陰核を弄る。
徐々に粘液が染み出してくるのを感じ、指先も湿ってくる。
「んっ」
その湿りを確かめるように指を強く押し付ける。
下着の中心部分が蒸すような熱気を帯び始めた。
「ふぁっ」
すぐに、布越しでは刺激が足らなくなる。
我慢できなくなった私は、秘部を覆う布を横にずらして粘膜に直接触れた。
「ああぅっ」
そこは想像以上に火照り、充血して敏感になっていた。
私の頭の中では、わずかな理性が本能を抑制しようと声を上げていた。
――「そんなことしたら、あなたの人生はどうなるの?」――
だが、それを多い尽くすように兄の顔が浮かんでくる。
「はぁっ、お、お兄ちゃんっ・・・・・んぅっ」
勢いで軽く達する。
「んんっ!ふぅっ、うっ、はぁっ、」
今の衝撃で、最後の理性が吹き飛んだように感じた。

もう準備はこれでいい。
ティッシュのかたまりを手に取り、紙を開いていく。
先ほどの匂いがあたりに広がる。
「はぁっ、はっ、これが・・・」
ティッシュの質が悪かったのか、それはまだ液状を保っていた。
白濁した半透明の粘液。
「お兄ちゃんの・・・精液・・・・。」
恐る恐る指で触れてみる。一晩経った粘液はひやりとした感覚を私に与えた。
少し指を持ち上げると、わずかに糸を引いた。
「このなかに・・・・」
出来るだけ多くすくって指同士をこすり合わせる。
手のひら全体が粘液に覆われた。
半透明の液体が蛍光灯に反射して光る。
「お兄ちゃんの精子が・・・・」
その生々しい感触は、私の決心をますます強いものにした。
私は今日、妊娠する。

実兄の子を身ごもる。
それが社会に認められないことは分かっている。
しかしそれは、兄に愛されたいという願望も同じことだ。
ただ、あの人にだけに認めてもらうことが出来るなら・・・・。
覚悟はできた。

指を少しずつ膣口へと近づけていく。
心臓が張り裂けそうに鳴っている。
「はぁっ、あああっ・・お兄ちゃん・・・」
精液にまみれた手で大事な部分に触れる。
「んあっ!」
鼓動がさらに高まった。
陰核を触っていると、精液は指を伝ってどんどん付着する。
冷たかったそれは私の体温で徐々に暖められ、息を吹き返したかのように透明度を増していった。
「んふぅっ・・・」
今までにない興奮に眩暈がしながらも、膣口に塗りつけていく。
滲み出した膣液と混ざり始めたのか、精液は濃淡の差ができている。
もう、そろそろだ。


私は小さく呟いた。
「お兄ちゃんの精子、貰うからね・・・」
中指と薬指を押し当て、ゆっくりと膣内へ押し込みはじめる。
「あっくっ・・・!」
初めて異性の粘液が侵入する瞬間。
意識が飛びそうになる。
「精液が・・・あぁぁ・・・」
指が根元まではまり込んだ。
一瞬指の隙間からぷじゅっ、という卑猥な音がする。
「ふっ、あぁっ」
奥に精液を塗りこむように、膣内で指先をこすりつける。
「ううっ、あぁあぁっ、あっ」
精液の混じった膣液が隙間からあふれ出す。
「あっ、だめっ、」
指をいったん引き出し、奥へと押し込むように再び挿入する。
「いっ、んんっ、ふうぅぅぅんっ」
なんどか繰り返すうちに、指の動きは抽送動作になっている。
くちゃ、くちゃっと言う音が部屋に響き、次第にテンポが速まっていく。
「はぁっ、あっ・・あんっ」
兄の精液が、私の中に入っている。
それだけで達してしまいそうなほど、私は興奮していた。
「もっと、欲しい・・」
膣口から垂れていた精液をかき集め、次々に膣内に押し込んでいく。
「もっと、奥に入れなきゃ・・・」
うつ伏せから四つんばいになり、腰を高く上げた状態で行為を続ける。
動きはより激しく、音はより大きくなる。
背徳感はまったく無かった。むしろ、兄を受け入れることに歓喜を感じていた。
この快感が何よりの証拠だ。
「んっ、んんっ、ああっ、ふあぁぁっ」
精液を膣壁にすり込むように指を動かす。
こうすれば膣が精子を吸収できると思った。
「ぜんぶ、入れなきゃっ・・・」
私はもう片方の手でティッシュを膣口に押し付けた。
「私、受精するのっ・・・!!」
腰を持ち上げる。
自慰で熱を帯びた膣壁に、冷めた精液が流し込まれた。
「んっぁあぁぁぁあああああああ!」
その瞬間、私は達した。
「あぁっ・・お兄ちゃん・・・・」
おなかの奥の、ひやりとした感覚を覚えながら私は意識を失っていった・・・。

血縁より近く2