実りの祭り - 前編

祭りの夜から半年が経った、町はすっかり静けさを取り戻し元の平和な姿に戻った。・・・妊婦が多い事を除いては。
そして、あの夜にシモンによって種付けされていたツバキはどうなっているのかというと…こちらは孕む事はできなかった。確かに、あの日の妊娠確立ははるかに高かったはずではあるが、あたる時もあれば外れる事もある。たまたま外れた方に運命の天秤が傾いただけであろう。とにかく彼女は子を孕む事はなかった。
では今彼女はなにをやっているのか、というとシモンの所に留まっていた。シモンは祭りの時は宿屋として店を開いていたがそれは祭りシーズンの時のみ、普段においては飛び込みで来た旅人を泊める事はあっても宿屋は営業していなく飯屋として営業していた。シモンの飯屋は町の人には中々評判がいい、この町ではそこそこ繁盛している店だった。
最近ではツバキがここの看板娘となった事により、評判はさらに上がった。
「ツバキ、今日はもういいぞ」
「はい、旦那様。あ、それやっておいてますから先にお風呂入ってもいいですよ。」
シモンは「そうか、ならまかせる」と言って、仕事をツバキに任せ先に風呂を済ます事にした。
シモンがいなくなると、ツバキは仕事を片付けながら考え事をしていた。
自分が旅に出た理由と、何故自分がここに留まっているのか。

まず自分が旅に出た理由、自分の剣の腕を磨きたいから。ツバキの家はそこそこ裕福な商人の家で、家族も父、母、それと兄が一人と姉が二人がいてツバキは末っ子だった。まだツバキが子供の頃家にいた食客の一人が少しは名のある剣豪で、当時から男よりも強くなりたいと願っていたツバキはその剣豪に教えを扱いて剣の道に進む事になる。
素質が元々あったのかメキメキと実力を伸ばしていき、家を出る頃にはまともに立ち向かえる者はいなかった。
そして、さらなる高みを求め家を出た−というのが表向けの理由。本当の理由は家に嫌気がさしたから。
ツバキには男には負けたくないという気持ちがある一方、男性と身を焦がれるような恋愛をして結婚したい。
という乙女じみた願望があった。しかし、ツバキの家がそれを許さなかった。父は母の事を愛していたのは知っている、しかし、父は妾も囲っていた。慕っている兄も将来を約束した許婚がいた、がすでに妾を囲っていた。
母や姉に何故、男は一人の女性を愛さないのか、愛してくれないのかを問いただすと返ってくる答えは「仕方ない事」
この答えにツバキは納得がいかなかった、何故、女は男を独占してはいけないのか。激情を母と姉に叩きつけても二人は優しく自分の頭を優しく撫でてくれるだけで何も言わない。ツバキはそんな家に嫌気がさして家出をしたのだ。
旅をし、剣の道に突き進む事は楽しかった。自分の腕が未熟だと思い知らされたり上達していると実感したりして一喜一憂し、別の武芸者達と話しては自分の世界を広げる、思春期の多感な少女には刺激的な毎日だった。
そんな中で会ったのがシモンである。
薬を盛られ半ば強姦という形で自分の純潔は奪われた、そんな男の元に何故未だに留まっているのか。
それは、薬を盛られたとはいえ自分が初めて男に屈したから、自分の意思で処女を捧げて子種を受け入れるのを望んだから。
男には負けたくないというプライドはあの夜、ことごとく打ち砕かれ、自分はふしだらにも男を求めてよがり狂った。
自分に正常な思考が戻った時にはシモンの胸の上で優しく抱かれていた時だった。あんなに男を嫌っていたのに、感じる安心感、喜び、母や姉の言っていたのはこの事なのだろうか。そう感じたツバキはシモンの元に留まる事にしたのだ。
昼は従業員として働き、夜は抱かれたり、ただそばで一緒に寝たりといった生活を続けた。いつしかシモンはツバキにとって大事な人になっていった。
旅をしていた時より満たされている−とツバキは思う。しかし、それと同時に「もし、シモンが自分以外を愛してしまったら」
と考えると、背筋が寒くなる。やはり、好きな男が他の女に抱かれているのは嫌だ。
そう考えている内、仕事がかたずいていた。ツバキはため息をつくと最愛の人が入っているであろう風呂場へ向かった。