第一話


 結局あの日からそのままずるずると美穂は健人の自宅に住み着き、事実上の同棲状態になってしまった。一応今後の予定としては、妊娠が分かった時点で婚約、結納を済ませて出産後に入籍する運びである。愛欲にまみれた日々が約一ヶ月過ぎたある日のこと。健人が男友達とゲーセンで遊んでから夕方遅くに帰宅すると、なぜか家の中の空気が重く感じられた。
「ただいま……、あれ? 誰もいないのか」
 リビングに入っていくとその正反対、健人の両親と美穂に加えて美穂の両親まで揃っていた。一ヶ月前の高木・半田両家の話し合いの日さながらの光景に、健人は戸惑いながらも挨拶をしようとすると、
「いいから早くそこに座りなさい」
 日頃母に尻をしかれっぱなしで威厳など感じたことのない父から、有無を言わさぬ口調で命令された健人は、これは只事ではないと直感してしゃちこばってリビングの絨毯の上に座った。
 唐突に、美穂の父親が口を開いた。
「健人君、君には失望した」
 は? なんですと? なんで俺責められてるの?
 健人が脳裏にクエスチョンマークが飛び交ってるまま周囲を見渡すと、自分と美穂の両親四人がまさしく失望の表情を浮かべていた。
「健人さん、私、生理来ちゃったんです!」
 ついで美穂が怒った口調で畳み掛けてきた。
 それでもなぜ自分がこのような針のむしろに座らされているかを理解できない健人は、キョトンとした顔をしていた。
「だから、あなたは一月前、美穂ちゃんに『孕ませる』ってプロポーズしたでしょ。その約束を反故にしたからみんな怒ってるの!」
 頭の回転が鈍い我が息子に苛立ちを隠さず、詳しく説明する健人の母親。事ここに至って健人もようやく事情を理解した。
 つまり、妊娠を前提として同棲させてヤリたい放題させているのに、生理があるとはどういうことだ、ということか。
「一緒に住み始めた頃は毎日私に五回は種付けしてくれたのに、今じゃ二、三回じゃないですか、健人さん」
 美穂が口をとがらせて未来の旦那をなじる。
「毎日五回してて二人とも腰痛めたから減らしたんだろうが」
 健人が反論する。
「最近は精の付くもの食べようとしないし」
 健人の母も文句を付ける。
「朝晩ウナギを一週間続ける方がおかしいだろ」
 再び健人が反論する。
「健康診断では美穂も健人君も問題ないんでしょう? ウチの美穂はそんなに魅力無いの?」
 美穂の母親が微妙に反論しづらい意見を言ってくる。
「いや、そんなことは、十分魅力的ですよ」
 汗を拭いながら健人が答える。
「聞くところによると健人君、君は夜な夜な友人達と遊び歩いているそうだね。私の娘には色々と至らないところがあるかも知れないが、ちょっと可哀想だとは思わないのかね」
 再び美穂の父親に詰問された健人は慌てて弁明した。
「いや、夜な夜なって7時には必ず帰ってるんですが。それに遊び歩いてるって言ってもゲーセン程度……」
 弁明は途中で実の父親に遮られた。
「言い訳無用! 全く情けない息子だ。私がオマエぐらいの年齢の時には女の一人や二人すぐに孕ませていたのに」
 ボゴォッ!
 健人の父親が突然突っ伏した。
「二人? どういうこと?」
 健人の母が自分の夫に強烈なボディーブローをかましながら睨んでいた。
「と・に・か・く! 今度こそ必ず美穂ちゃんを孕ませなさい! また美穂ちゃんに生理来たら一日三食あなただけエビオス錠とマカドリンクだけにするからね! 分かったらさっさと子作りを始めなさい!」
「はいっ!」

 青い顔でピクピクうごめいている父以外の三人から急き立てられ、健人は美穂の手を掴んで逃げるように自分の部屋に飛び込んだ。
「さて、新たな命が出来なかったら、俺の命が無くなりそうな状況になったわけか……」
 天井を見つめながら自らの運命の儚さを考えていた健人は、体の違和感を感じて視線を下げると、既に全裸になっていた美穂が自分のズボンを下げて肉棒を取り出そうとしていた。
「ちょwwwおまwww何してんだ、美穂」
「えー、何って子供作らないと健人さん来月からエビオスとマカ三昧になるんだよ、良いの?」
「いや良くないよ、そりゃ」
「じゃあ、種付け種付けー」
 そう言いながら美穂はむき出しになった健人のペニスを咥えた。
 ああ、状況に流されてるな、俺。
 健人は服を脱ぎながら下半身を美穂に委ねた。
「んふぅ、んん、んぷぅ。はいっ、これで準備オーケーですね」
 健人の肉棒を自らの口内で固く反り立たせてから、美穂は健人をベッドに誘った。
「今度こそちゃんと孕ませて下さいね」
「ああ、理由や目的はどうあれ、美穂に俺の赤ちゃんを産んで欲しいことには変わりないからな。お互い頑張ろう」
「あん、いきなりぃ、すごぉい」
 こうして二人は命がけの種付け作業に没頭していった。

 翌月は美穂には生理が来ず、健人は新たな生命の誕生を大いに喜んだのだった。