←ちゃんとつけてね
case 2 ナツコの場合
「ねえ、あなた…きちんとつけてくださいね」
またか。
結婚して半年、僕らは毎晩のように体を重ねているが、挿入直前に必ずそう言う。
べつに、ナツコもセックスが嫌いなわけではない。挿入時はややマグロ状態だが、
抱き合ったりキスしたり、そういうスキンシップに関してはむしろ積極的なほうだ。
なのに、なぜ肝心な「生殖器同士のふれあい」だけを拒むのだろうか。理解できん。
学生時代…恋仲の頃もセックスしていたが、そんなことを言われたことはなかった。
もっとも当時は僕が自発的に避妊していたせいもあるのだろうけど。
だから、晴れて夫婦となった今こそ、こころおきなくナツコと生でセックスして、
思う存分ナツコの中に出しまくって、子作りに励めると思ったのに。
「今日あたり…その…デキる日だと思いますから…」
おまけに危険日だからダメというわけか。ナツコは子供ほしくないのだろうか。
子供連れや、ベビーカーを引く仲睦まじい夫婦とすれ違うたびに、うらやむような、
時にせがむような秋波を僕に送り続けていたのは、ありゃ僕の勘違いだったのか。
「何してらっしゃるの…早く…きてくださいな」
うじうじ考えていたら催促された。ナツコは僕よりふたつ年上だが、敬語を使う。
まあ大学時代から誰にでも礼儀正しくて、皆の憧れだった。僕には過ぎた女性だと
思っていた。それが今では僕の腕の中にいる。息づかいや鼓動がわかるほど近くに。
それなのに、こんな薄いゴム製品一枚で隔てられた距離の、なんと遠いことか。
着けたくもない避妊具のせいで、わが分身の気負いも半減してしまう。
ナマで挿入して粘膜の感触を直接味わいたい、とうるさいほど主張している。
それができないとわかると、急にしぼみやがって。このわがままムスコが。
ま、それでもびっくりするほど快感を味わえるんだけどな。ナツコの膣は。
ナツコにばれないよう、やや意気消沈したモノに活をいれなおす。
「ちゃんとつけてくださらなきゃ、ゆるしませんよ」
これさえなければ満点嫁…とは言わないが、なにも再確認することないだろうに。
気落ちした心の中を見透かされないよう、笑顔をつくってナツコに覆いかぶさった。
口づけを交わしながらナツコの秘所に己が肉茎をあてがい、ゆっくりと腰を進める。
ほどよく潤った孔に僕自身がぬるん、とすべりこむと、ナツコが小声でうめいた。
「ん、んっ…」
目をつぶり、下唇をゆるくかんで圧迫にたえている顔がなまめかしくいやらしい。
僕のサイズは普通ぐらい…だと思うが、ナツコの入り口は何度も僕が蹂躙している
にもかかわらずかなり狭い。そのため挿入前には入念に愛撫して濡らしておかないと
かなりキツいそうだ。つきあい始めた頃は、痛がって泣いてしまったこともある。
「ぁあ、いっぱい…おなかのなか…ひろげられています…」
温かな洞内は、つぶつぶした肉の襞がびっしりとちりばめられているみたいだ。
しかも汁気が多く(僕がそれなりに開発したからね)、ねっとりと絡みつく。
隙間なくぴっちりとつながった結合部からはにちにちと控えめな音がする一方で、
「ぁん、ひぅ、んぁっ、ぁうん、きゅぅ、ぅん」
可愛らしい声で喘ぐナツコ。はじめは演技でもしてるのかと思うほどであったが、
小柄なために肺が圧迫されて呼吸がままならなくなり、声が漏れてしまうという。
普段は綺麗なアルトを披露してくれる合唱部出身の彼女は、僕が中に侵入すると
子犬も恥じらうほど甲高く艶っぽい嬌声を、その喉で奏でる。僕だけの特権だ。
腰を突き入れるときはかなりの圧力で押し戻され、それでいて抜こうとするときは
奥の方で引っ張っているかのように吸い付いてくる。普段の清楚な振る舞いからは
想像できないほど、体は貪欲で我侭なのだ。そのギャップがまた卑猥でたまらない。
この感触を、ゴムなしで味わいたいものだ。ゴムなしで…これさえなければ満点膣。
「い…いきそう、です…わたくし、もう…おねがいです…いっぱい…ください」
あえぎつつ、ナツコが限界であることを告げる。僕もそれに合わせペースを上げた。
この奥の奥に、僕の白くどろどろと濁った精子をぶちまけてやりたいものだ。
そう。たっぷり。受精するほど。うう、そろそろ出ちまう。くそう、せめて想像の
中だけでもナツコを孕ませてやる。どっぷどぷ出して、絶対に妊娠させ…うぐ。
びゅる。びゅ。
射精終了。どうも事務的だ。避妊具にせき止められた精液の感触が僕を現実に戻す。
快楽反射として精液は出る。が、膣内に直接流し込みたいのが本音ってもんだろう。
行為の後、いつもナツコはメロメロになってしまい意識朦朧になることが多い。
けれど、やはり僕の気乗りが悪かったせいか、今日はそれほどでもないようだった。
それでも浮かれたような表情を見る限り、幸せそうな様子ではある。
「赤ちゃんできるといいですわね」
「…え?」
何を言っているのか。ゴムつきで妊娠する確率は3〜10数%程度。それも正しく
着用しなかった場合の数値であって、理想的な使用法を守れば限りなくゼロに近づく。
僕だって、ナツコが妊娠を望まないのであれば協力することにやぶさかではない。
それでいて、彼女自身はピルの服用などは一切していないみたいだが。
「あなたがつけてくだされば、そのうち赤ちゃんできますよね」
「な、何言ってるの?」
「だから、ちゃんとつけてくださいってお願いしてましたのに」
「ゴム着けて妊娠って、それはいくらなんでも…」
「…え…?…………どういうことですの?」
「だって、いつも『つけてくれ』って…。ゴム外すところだって、見てるだろ?」
そうか…ナツコはイってしまうと、意識がとんでしまうのだった。
うつろな目がこちらを向いていることもあったが、まるで見ていなかったという。
「もう…ちがいますわ。わたくしのナカにあなたのタネを…『つけて』と…」
「え、あ、それって、え、え?勘違い?」
「それじゃ、ずっと避妊具なんか使っていらしてたの?…もう、できないはずだわ。
おかしいおかしい、ってずっと悩んでいましたのに。私の体に問題があるのかと…」
「ごめん、僕のほうこそ」
ナツコは種を「つけて」欲しかったのに、僕はゴムを「つけて」いた。
要するに、まったくすれ違いだったのだ。嗚咽まじりでうつむくナツコを抱き寄せる。
「ごめんなさい。わたくしが言葉たらずでしたのね…でしたら…」
僕がナツコにたっぷりと膣内射精してやったのは、その後すぐだ。4回いや5回?
ともかく腰がぬけそうになるのもいとわず、ぶっ続けで中に出しまくった。
もちろんゴムなんかしないさ。射精量も半端じゃなかったよ。挽回したわけだ。
だってナツコに種付けできるのだから。ムスコの喜びようも尋常じゃないさ。
ナツコも一滴残らず受け入れてくれた。子作りへの意気込みがそうさせたんだ。
ほとぼりも冷めやらぬなか、ナツコは真っ赤になりながらも、ぼくの顔をじっと
みつめてささやいた。
「ねえ、あなた…今日こそ、ちゃんと付けてくださいね。…貴方のこ・だ・ね」
おしまい