「……はぁ?」
少女はその話を聞いた時、頭の上に伸びた耳を疑った。
「サハギンの卵、なのですか?」
「そうだよ」
こともなげに頷いたのは東方風の服をまとった中年の親父だ。怪しいヒゲまで生やしたその顔は正規の商人のものではない。
もっとも、このノーグに正規の商人なんて一人もいないだろうけれど。
「フリントキャビアって知ってるだろ?」
最近、ジュノの競売に並ぶようになった品だ。料理人の師と慕うエルヴァーンの美女から聞いた話では、煌魚なる高級魚からごく微量に取れる貴重な卵らしい。
まだまだぺーぺー料理人のミスラ娘に扱える素材ではなく、手の出る値段でもなかったため、食べた事はおろか触った事さえなかったが。
「食ったヤツの話じゃよ。アレより美味いらしいんだ」
その言葉を聞き、ごくり、とミスラの娘の喉が鳴った。
「ティトさんだっけ? アンタ、この仕事、請け負わねえか?」
鮮やかなグリーンのガンビスンを見て、少女の冒険者としての力量を見て取ったのだろう。提示された金額も悪いものではない。
もちろん、ティトが断る理由などどこにもなかった。
「……フム」
真っ黒な瞳に、薄着の少女の幼い顔が映っている。
つるりとしたガラス玉のようなそれからは、熟練のシーフであるティトでさえ感情を読みとれない。
「イイダロウ」
そのサハギンが、無表情な魚の顔でそう答えた。部族の中ではかなり高齢らしいが、
もちろんティトには魚人の年齢など分からない。
「……ほんとなのですか?」
「聞いた本人ガ何を言う。コチラガ指定した連中の卵であれば、カマワンと言っている」
獣人にしては驚くほど流暢な共通語で、呆れたように呟く。
「全然おっけーです! ありがとうなのです!」
そう。
ティトは、サハギンと交渉していたのだ。
もともとサハギンは他の獣人達と違い、人間の街であるノーグと特殊な共生関係にある。
そのノーグからの使者役を何度かこなしていたティトは、交渉役のサハギンと幾らかの面識があったのだ。
そのツテを頼り、ダメもとで聞いてみたら……この返事。
代価に報酬の半額を要求されたが、それだけで話が付くなら安いものだ。
「ドウセ我々にも不要な物だ。ドレ、少し待ってオレ」
老サハギンはそういい残し、湿っぽい倉庫をひたひたと出て行くのだった。
「遅くナッタ」
やがて姿を見せた老サハギンの後ろには数十匹のサハギンが従っていた。
一瞬身構えるティトだが、彼らの様子を見てあっさり構えを解く。
彼女ら(卵を産むのだからメスだろう)の身のこなしからして、非戦闘員か雑兵の類だと悟ったからだ。
この程度の相手なら、交渉だからとバトルジュポンを着流しただけのティトでも余裕で逃げ切ることが出来る。
恐らく、正面から拳一つで戦っても生き残れるだろう。
「我が部族でも、卵を産む資格の無い者タチダ」
そう言われ、ティトは納得した。
狭い洞窟にひしめき合うようにして暮らすサハギンも他の獣人と同じである。
力ない者は、初めから子孫を残す資格を与えられないのだ。
「オスも混じってオルガ、気にせんでモライタイ。こちらも、子孫を残す資格の無い者タチナノダ」
無論貴殿に害は与えぬ。そう保証して、倉庫の奥へと一同を案内する。
「はぁ」
カギの付いた扉を抜けた先にあったのは、小さな入り江だった。
小さな港のように加工されたここから、宝物庫への荷物を積み降ろすのだろう。
「デハ、始めようカ」
すぼまった穴が押し広げられ、内側から白い物が姿を見せる。
鳥の卵よりわずかに大きな白い卵はゆっくりと外界に現われ、半分が出たところで岩のくぼみにぽとりと落ちた。
表面にはある程度の弾力があるらしく、岩肌に当たっても割れることがない。
既にくぼみの中には十個ほどの卵が産み落とされていた。
「んー。何か、悪いです」
卵を産む雌サハギンの黒い瞳には、痛みのせいかうっすらと涙が浮かんでいる。
セルビナの海岸で見た亀の産卵とよく似ている、と思い、ティトは何となくそう呟いた。
「イズレにせよ不要な物ナノダ。ソレガ部族の役に立つのナラ、コチラとしてもアリガタイ」
老サハギンの口調は淡々としたもの。
閉鎖的なサハギン族は、部族外の者には何の感情も抱かない。
必要最低限の同盟を結んだ部族や人間と、細々とした付き合いがあるだけだ。
前大戦で闇王軍として馳せ参じたのも自らの住みかを人間達から守るためであって、闇の王に与したわけではないという。
「そんなものなのですか」
彼らの基準で言えば、強者の卵は何者にも代え難い部族の宝だが、不要な卵はその同族ですらないのだ。
「……じゃ、一つ味見しても良いですか?」
「好きにシロ」
産卵しているサハギンに近寄り、くぼみの中から卵を一つ抜き出してみた。
生まれたてのそれはマンドラゴラの頭のようにぷよぷよしていて、ティトの指の中でくにゃりと形を変えてみせる。
表面を覆う液体をぺろりと舐めてみた。
「……礒くさぁい」
ねっとりと舌に絡み付くそれは、すえた潮の味がした。痛んだ生魚のような臭いに顔をしかめつつ、それでもゆっくりと歯を立てる。
ぷちゅ、と何かが潰れる感触がして……。
「にゃ……?」
ティトは表情を失った。
魚の卵のような味だ。それをもっと濃厚にして、塩味と甘みをキツくしたような……。
「美味しい!」
独特のクセはあるが、それさえ気にならなければ確かに美味しかった。
魚を生で食べるミスラのティトだから、もちろんクセなど気にならない。
一つ、二つと手が伸びる。卵のくぼみに手を突っ込むたびに両手が汚れていくが、今はその悪臭さえ風味の一部になっていた。
ドロドロの手で掴んだ卵に唇を押し付け、粘つく粘液ごと卵の中身をすすり上げる。
独特な風味が口の中に広がるたび、ミスラの少女から甘い息が漏れていく。
「くさぁい……けど、おいしいよぅ……」
ついには卵溜まりの前にひざまずき、直接顔を押し付けた。
「オイ……危なイゾ」
どもり気味の共通語でそう言われ、思わず顔を上げる。
「……にゃ?」
きょとんとした目の前に飛んできたのは白い濁りだった。
オスサハギンの股間から卵に向かって放たれたそれは、ちょうど彼の反対側で卵に顔を埋めていたティトの顔を直撃したのだ。
状況が理解できていないのか。ぼんやりとしたまま、ミスラの娘は唇をとろりと流れる白濁に舌を這わせる。
こくりと喉を鳴らせば、胸の奥がじんと熱くなった。
「……」
無言のまま卵溜まりから卵を取り、白い粘液にまみれたそれに唇を寄せる。
「……じゅる……ぺちゃ……ちゅ……」
濃厚な中身をゆっくりと吸い上げ、周りに絡んだ精を口の中で和えるように舐め回す。
味わうように口内で転がした後に小刻みに嚥下し、最後の一口を呑み下してから、はぁ、と蕩けるようなため息を吐いた。
「続けて、いいノカ?」
遠慮がちに問うサハギン。
「はい……。ボクの事は……ぁふ……気にしないでくださいなのです……」
精液のたっぷりかかった二つ目の卵を取り上げながら、ティトは艶っぽく微笑んだ。
瞳はとろんと潤み、心なしか頬も赤みが差している。
「ジゃあ、行くゾ」
二匹目のオスサハギンから新たな精が放たれた。飛び散るそれをばしゃばしゃと受けながら、ティトは卵を頬張り続ける。
顔や襟元を白く染める粘りを両手ですくい取り、卵に絡めてなおも口に運ぶ。
「熱ぅぃ……」
やがてティトはゆっくりと上半身を起こした。
七匹目のサハギンからの白いものが全身に降りそそぐが、気に留めた様子もない。
むしろそれを塗り広げるように全身を撫で回し、八匹目の精を浴びながら服の紐をすっと引き抜いた。
「はぁ……あついのぉ……」
緑色のガンビスンが平たく削られた岩の上にぱさりと落ち、その上にかかった飛沫が白く染めていく。
もちろん、一糸まとわぬティトは体中でそれを受け止めている。
「ねぇ……後ろから……おねがぁい……」
白い澱みに浮かぶ卵の池に再びひざまずき、上擦った声でねだるティト。息は荒く、ときおり漏れる喘ぎははっとするほど色っぽい。
「後ろからダト、卵にカカラナイ」
「いいのぉ……ボクに……ぃ……みんぁあ……ボクに……かけてぇ……っ!」
もうティトは卵に口を付けてはいなかった。胸と股間を卵を掴んだ両手で必死にまさぐり、ふるふると震える尻尾を誘うように動かしている。
丸っこい卵を二つ掴んで尖った乳首をクリクリと挟んで嬲り、濡れそぼった股間を慰めるよう、卵をその入口に押し付けていた。
「はぁぁぁあっっ!」
ぐっと指に力を入れると、入口の押し広げられる感触に高い声が溢れる。二つ目の卵で前をぐりぐりと押さえれば、高い声に甘い色が重なっていく。
そんなティトの丸まった背中に、三匹分の精が浴びせられた。
サハギンの冷たさと同じ温度のそれは、火照ったティトの小さな身体に触れた瞬間、燃えるように熱くなる。
「ねぇ……誰かぁ……。入れて……入れてよぅ……」
小柄な裸身を真っ白に染め、うわごとのように呟く。
指では足りない。卵は少女には大きすぎて気持ちよくなれなかった。
サハギンにそんな器官が無い事を知りながら、この疼きを収めるにはそれしかないと呼びかける。
「……これで良いカ?」
「あぁ……いいのぉ……それ……ちょうらぁい……」
老サハギンから差し出されたものを、確かめもせずに即座に突っ込んだ。
ぎゅぷ……にゅ……ちゅく……っ
「あぁぁあっっっっ!」
いびつな形のそれが、ティトの蕩けた胎内にぐりぐりと呑み込まれていく。
貝を削って作られたらしい冷たいカギはすぐに火照った体温を吸収し、少女の一部となって彼女の本能を次々と解き放つ。
水っぽいバトルジュポンの上に寝転がり、ティトはもらったカギで疼く膣を思うがままに蹂躙した。
ぶちゅりと引き抜かれるたびにカギへ絡んだ愛液がほとばしり、寝ころんだバトルジュポンへさらに水を含ませていく。
「やぁ……いっちゃ……いっ……ちゃうよぅ……っっっつっっっ!」
老サハギンや残ったサハギン達の大量の精液を裸の全身に浴びながら、ミスラの少女は甲高い嬌声と共に絶頂に達していた。
「……サハギンの卵?」
彩りの良いサラダに黒いものを飾り付けながら、エルヴァーンの美女は眉をひそめた。
「まあ、知らないではないけれど」
「そうなのですか? シィリアお姉さまぁ」
ティトがそう問うものの、美女の表情は優れない。
シィリアはサンドリア出身の由緒正しいエルヴァーンだ。獣人の卵を食べる事に嫌悪感を示すのも、分からないでもない。
「どうぞ。これが、フリントキャビアのシーフードサラダ」
黒いものの乗ったブリームの切り身を口元に運ばれ、差し出されるがままにそれを口に。
「……美味しい」
シィリアの作ったものという評価を差し引いても美味しい……と、思う。
サハギンの卵よりも美味しいかどうかは、今一つ分からなかったけれど。
「もう。一口で食べる子がありますか」
口元に付いたキャビアを舐め取られ、うっとりと目を細めるティト。モグハウスの中、モーグリはジュノのレンタルハウスの掃除に追い出してあるから、誰に遠慮する必要もない。
先日のノーグの報酬でティトが買ったのが、件の煌魚だった。それを調理の師匠と慕う美女にさばいてもらい、ついでにサラダまで作ってもらったのだ。
「それで、お姉さまぁ。サハギンの卵って?」
「ものすごい強壮剤と聞くわよ?」
一つ食べれば三日は戦えるという。さらに特殊な処理をすれば、一週間は寝られないとも聞いた事がある。
中毒性があるため調理ギルドで禁制品に指定されている食材だし、そもそも獣人の卵など食べたくもないから、調理師範のシィリアは試した事がない。
「……やっぱり、そうなのですか」
ぽつりと呟き、ティトはシィリアの首にすっと手を回してきた。
いつもの事だ。ゆっくりと寄せられた唇を、シィリアも柔らかく受け止める。少しザラザラした舌を絡め合わせれば、可愛いティトの甘い唾液が流れ込んできた。
(味が……違う?)
とろりと流し込まれた唾液は、タブナジア風サラダとは違う味。フリントキャビアに似ているが、もっと濃厚で、礒の臭いを強くしたような……。
「ティト?」
ぷは、と唇を離した少女は、今まで見た事もないような表情で、艶っぽく微笑んだ。
「お姉さまぁ。これが、その卵の味なのですよぉ」
夜はまだ、始まったばかりだった。
→ウガレピの狂信者陵辱表現有