サハギンの食材を求めて

暗がりの中に調子外れの歌声が響き渡った。
酔っぱらって呂律も回っていないが、一応サンドリア国歌である。
「これでオレも騎士さまだーーーっ!」
堅牢な石壁を見上げ、大声で叫ぶ。見習いとはいえ念願の王国騎士に登用されたのだ。
夜更けまで『獅子の泉』亭で飲み明かしたとて、誰も文句は言えないだろう。
「ーーーーーぁ?」
その酔っぱらい見習いの長い首が、上を向いた姿勢のままで凍り付いた。
ちらちらと、炎が揺れていたからだ。
誰も上れない石壁の中頃に。
城壁に掛けられた松明ではない。それを置く燭台も、松明を差し出す窓さえないのを男は知っている。
それなのに、炎が揺れていた。
闇の中。辺りを照らすはずの炎は、石壁だけしか映さない。
「……貴様、騎士か」
背筋を撫でるような低い声に、男の身が凍り付いた。
酔いなどとっくに失せている。声だけで、自分との力量さが見て取れた。
そいつと戦うくらいなら、ラテーヌの大断層を飛び越えろと言われた方がマシだろう。
(短い、人生だったな)
逃げられるとさえ思わなかった。
来る。
ゆらり。
炎がもう一度揺れ。
男の悲鳴と共に、奇怪な鬼火は姿を消していた。

「お姉さまぁ」
とろりと濡れた舌が、エルヴァーンの白い肌をゆっくりと滑っていく。
「ティ……トぉ……っ」
舐められた頬が、唾液を流し込まれた口の中が熱い。ティトのザラザラした舌での愛撫はいつも気持ちよかったが、今日のそれは普段と全く違っている。
「やぁ……っ。そこ、だめぇっ!」
すいと伸びた長い耳をくわえられ、思わず声が漏れた。感じやすい耳に甘く歯を立てられるたびに力が抜け、飴のようにしゃぶられるたびに鋼の意志が蕩けていく。
「ふぁぁ……っ」
もう、シィリアにティトを引き離すだけの力はない。
椅子から身を乗り出して舌を入れてきた娘を支えきれず、美女は彼女を抱きかかえたままカーペットの上に倒れ込んでしまう。
衝撃で、熱のこもった吐息が漏れた。
「お姉さまぁ。気持ち、いいですかぁ?」
卵の粘液でドロドロになった耳を解放して問うティトだが、シィリアに答えられる余裕はない。頬を真っ赤にしたまま、荒い息を吐いているだけだ。
「うー。つまんないのですぅ」
シィリアの上にまたがったままティトはぷぅと頬を膨らませると、股の下にある白とオレンジのチェックに視線を落とした。
戦士の彼女が街着に愛用しているブリガンダインだ。普段彼女が来ている金属鎧ならともかく、この服にはシーフのティトも随分と世話になった覚えがある。
「ちょ……ティ……ト……っ!」
そのチェック模様の前掛けを、ティトは鼻歌交じりに外し始めた。襟元の留め金を外せば特徴的なそれは簡単に外す事が出来る。
外した布をぺらりとめくりあげ、ティトは思わず声を上げた。

「あら? お姉さまぁ……」
その奥にあったのは本来あるべき鎖帷子ではなく、白い下着だけ。
革のベルトに押さえられたそれは、内側から押し上げるように膨らんでいる。
「……その……ね」
不思議そうに見下ろす少女に、シィリアは恥ずかしげに視線を逸らした。
「なんなのですかぁ?」
張った胸が強調されるように上着をずらし、ティトは問いかけながらシィリアの乳房をゆっくりと両手で包み込んだ。
「その……ひゃぁっ!」
答える暇も与えず、下着の上から柔らかく揉み始める。
盗賊の技で鍛えたしなやかな指は、羽根のようにふんわりと丁寧に、シィリアのふくらみの形を変えていく。
「や……」
もちろん木綿を強く押し上げる尖りは指の間に残したまま、触れもしない。決定的な快楽を与えずに、師と慕う美女を嬲り続けるティト。
「やぁ……だめ……ティトぉ……」
身をよじらせてミスラ娘から逃れようとするが、生殺しの快感は美女から一切の力を奪っていた。もちろん、逃げる事などできない。
「なんなのです?」
そこまで問うて、ティトは乳房を揉むのもやめた。代わりに十の指先だけでぱんぱんに張った胸の線をすっと撫で始める。

「ティトぉ……おねがぁい……いじ……わるぅ……」
いつもの凛としたシィリアの面影はまるでなかった。全てを許した少女の前では、誇り高い美女も一人の娘でしかない。
「言わないと、続きやってあげないのです」
今度は唇を硬くなった乳首に近付け、そう問う。
布の下の頂はティトの甘い息にくすぐられ、小刻みに震えていた。
その様子をとろんとした瞳で見つめながら、少女は悪戯っぽく問いかける。
「ティト……ティトと早くえっちしたかったのぉっ!」
その途端、ぷるんという音が聞こえた気がした。ティトが尖った爪先でシィリアの下着の布を引き裂いたのだ。
飛び出した形の良い胸にザラザラした舌でサハギンの粘液を存分にまぶし付けられ、高貴なエルヴァーンの美女は存分な嬌声を上げる。

「ご主人さま、ひどいモグよ」
裏通りをぱたぱたと飛びながら、モーグリは珍しく愚痴をこぼした。
「すぐ使うから、掃除を頼む」と慌ててジュノのレンタルハウスに飛んだのはいいが、いつまで経っても主人が来る様子はない。
心配になって本国の管理人や各地のモーグリに聞いてみれば、シィリアは客を連れてモグハウスにいるというではないか。
「お客さまが来るなら、それこそモグに任せて欲しいモグ!」
それが邪魔だというシィリアの思惑に気付くわけもなく、無粋な獣人は痴態の繰り広げられている主の部屋の前へと辿り着いた。
カバンからカギを取り出し、扉を開く。
その瞬間、モーグリは後ろに気配を感じ……。
「……モげはぁっ!?」
それきり、意識を失った。

「何……帰って……きた……ぉっ」
それを迎え入れたのは、途切れ途切れの喘ぎ声だった。
引き裂かれた下着から飛び出した胸をティトにしゃぶり付かれているのだ。
サハギンの強壮剤のせいで全体が性感帯と化した乳房はミスラ娘の指や舌を迎え入れるたびに震え、
痛いほどに尖った乳首は痺れるような快楽を伝えてくる。
「気が……効かな……いぃぃっ!」
ティトの爪先で先端を軽く弾かれ、不機嫌そうな声が裏返った。
狂騒に侵された体には疲労感などカケラもなく、甘い痛みを伴った気持ちよさだけが全身を支配している。
だが、返ってきたのはどこか間の抜けた気の良い獣人の声ではない。
「……アルタナの使徒も、堕ちたものよの」
背筋まで凍り付くような、昏い声。
「な……っ!」
聞き覚えのある声に、シィリアの中で眠っていた戦士の本能が覚醒した。
「やん、お姉さまぁ」
乳房にしがみついたままのティトを庇うように抱き寄せ、半身を起こす。ティトに声を掛ける余裕もない。
緑の矮躯が捧げ持つのは、怨みの炎が静かに灯った小さなランタン。
亜麻のコートと左手の包丁には、真っ赤な返り血がこびりついている。
ウガレピ寺院に住まうそいつらとは幾度となく刃を交えてきた。
冒険者たる美女が戦った幾多の獣人の中でも、間違いなく最狂の敵。
「……トン……ベリ。ど……して……こんな……所に!」
上擦った声を漏らしながら、エルヴァーンの美女はウガレピの狂信者を睨み付けた。

(ガードは……何をしているのよ!)
シィリアはそう思い、次いで自らの不運さを悔いた。
武器は倉庫の中で、着ている物は薄布一枚。
助けを呼ぼうにもリンクパールは外していたし、モグハウスの壁は合成事故を防ぐための補強工事がされたばかり。
もっとも、完全防音だからこそ、シィリアとティトも人には言えぬ秘め事を周りを気にすることなく愉しんでいたわけなのだが……。
いずれにせよ、移動魔法も使えぬ身でこの追跡者から逃げ切るのは至難の業だろう。
モーグリがいれば少しは時間稼ぎになったかもしれないが、それを悔いても後の祭だ。
「やだ……何で、トンベリがっ!?」
最悪、ティトだけでも守らなければ……。
悲鳴を上げる少女を強く抱きしめ、視線を叩き付ける。
「……貴様等蛮族の警護ナド、何の意味も持たヌ」
耳元で聞こえたその声に、シィリアはさらに身を固くした。
いつ忍び込んできたのか。片目の潰れたトンベリが、抱き合う彼女達のすぐ傍に小さな躯をさらに歪ませてしゃがんでいたのだ。
恐らくは忍術の心得があるトンベリなのだろう。そんな強者に傍まで寄られては、脱出するのは至難の業どころの話ではない。
絶望的、だ。

「なに。今宵は、アルタナの使徒の堕落ぶりを確かめに来ただけじゃて」
ドア側のトンベリはそう言いながら角灯を大事そうに置き、ひたひたと近寄ったところで足を止める。
「蛮族どもの料理か」
ティトがシィリアを押し倒した時に散らばったサラダが目に入ったらしい。
ひょいと指先でつまみ上げ、アップルビネガーで味付けされたグリモナイトの切り身を口に運ぶ。
「……不味い。料理とは言えぬな」
「な……っ!」
一言で切り捨て、今度は部屋の隅に置いてあった箱の前へ歩み寄った。シィリアが戦利品をまとめて入れている収納箱だ。
部屋の主の許可も得ずに開け放ち、無遠慮に中を覗き込む。
だが、今度の反応は先程と違っていた。
ほぅ、と感嘆したような声を上げ、シィリア達の隣に控えている片目トンベリへと歪んだ顔を向ける。
「モルよ。ちと、小腹が空いた。多少遅いがここらで夕餉にしようではないか」
モルと呼ばれた片目の忍者は賛同の意なのか、小さく唸り声を上げるのみ。
「何を……まさか!」
トンベリのアルタナに対する憎しみを十分に知っていたシィリアは、危うく悲鳴を上げそうになった。
彼らの女神ウガレピは血生臭い生け贄を好み、その復讐の念を授かったトンベリ族はウガレピに迷い込んだ人間を生きたまま喰らうという。
「殺すなら私だけになさい! ティトは……ティトだけは」
「お姉さまぁ……」
腕の中の少女を抱きしめたまま言い放つ美女。
「貴様等、我らの話を聞いておらぬであろ。故に堕落したというのだ」
その様子を見て、トンベリ達は大声で嗤った。
「殺しはせぬ。貴様等蛮族を喰ろうても、旨くも何ともないわ」

「や……ぁ……」
完全防音のモグハウスの中に、くぐもった声が流れて消えた。
痛々しく鉤縄の絡み付いた肌を、太い指を持った手がまさぐっているのだ。
黄色く濁った粘液にまみれたトンベリの手は、執拗なほど丁寧にシィリアの引き締まった腹を撫で回す。
「ん……ぁ……はぁ……っ」
へそに薄く貯まった黄濁はトンベリの精ではない。
それを証拠に、撫でられる度にシィリアの顔から嫌悪が去り、代わりに甘い吐息が漏れ始めている。
鉤縄で縛られた足がわずかに動き、小さな殻を蹴り飛ばす。
「ふむ。まさか、こんな辺境でサハギンの卵の相伴に預かれるとはの」
コートの下から包丁を取り出し、トンベリは何かを切り始めた。
ぶつ切りにされたそれはサハギンの卵を塗り込めたシィリアの肌の上にぼとぼとと落ちていく。
もぞもぞと腹の上で蠢く醜いそれは、身をよじる度にシィリアの感度を増した肌に熱い疼きを与えてくる。
「ひゃ……な……何……ぃっ!?」
その上から、さらに冷たい感触が加えられた。
日に焼けた裸の肌へ、モルがとろりとした液体を注いでいるのだ。
金色のその液は腹の上に並べられたものに絡み、あふれた液は腹の横や卵液の染み込んだ股間のほうへと流れ落ちていく。

「それにしても、我らを蛮族と蔑む貴様等がこのようなものを食ろうておるとはな」
「ち……がぁぅ……っ」
屈辱的なトンベリの言葉に、喘ぎながらも否定する。
腹の上で蜂蜜を我が身に絡ませつつうごめくそれは、ハイポーションに使うモルボルのつるだった。
ぶつ切りにされたモルボルの触手が、シィリアの腹の上で踊っているのだ。
「料理人の儂にとっても、滅多に味わえぬ馳走ぞ、これは。のぅ、モル」
トンベリはそう言いつつ、蜂蜜にまみれた切れ端をつまみ上げ、口に運ぶ。
「うむ。美味美味」
それだけではなかった。忍者トンベリのモルは反対側から切れ端をつまみ、蜂蜜を絡めてもぞもぞと動くそれをシィリアの股間に押し付けたのだ。
「やぁ……やだ……ぁ……」
開かれた姿勢で縛られた恥部には先程までの熱が十分に残っていた。
そして中では先程仕込まれた『もの』が小刻みな振動を与え続けている。そんな場所に醜悪に蠢く物を当てられてはたまらない。
ぷちゅ……。
「ひあぁぁっ!」
淫らな水音と共に軽く潮を吹き、エルヴァーンの美女の肢体がびくりと震える。
もちろん体は捕縄の術で縛られているから、震えは表に出る事も許されず、女の体内を駆け巡るのみ。

「ふむ。それもまた、珍味よの」
続いて料理トンベリも生命を残した蔓をシィリアの愛液に絡めようと手を伸ばす。
半開きのままでひくつく割れ目に太めの指をそっと差し入れる。
「いやぁ……だぁ……だめぇえええっ!」
拓かれた処からとろとろとこぼれ落ちる愛液を、トンベリは新鮮な食材へ存分にまぶし付けた。
さも旨そうに口へ運び、指に残った粘りけをシィリアの長く美しい銀髪で拭い取る。
「その割には、濡れておるが?」
「ちが……ぁはっ!」
濡れたくなんかなかった。感じているとも信じたくはない。
だが、シィリアの女の部分は触れられれば愛液を吹き、揺さぶられれば快楽で全身を洗い流す。その上……。
ぱたた、とシィリアの顔に粘りけのある液体が落ちてきた。唇に落ちたそれを舐め取れば、わずかに甘い。
「おね……ぇ……さまぁ……」
惚けたようなティトの声だ。
床の上に縛り付けられたシィリアの真上でミスラの娘は縛られていた。
ちょうど並行となるよう、空中に。シィリアの見上げる上に、ちょうどティトの股間があった。
「すごぉい……おねえ……さまのあそこ……とろとろぉ……」
そしてティトの顔の真下では、シィリアの股間がトンベリ達に嬲られている。


「やぁ……ティトぉ……見ない……でぇ……」
直上で縛られたティトの股間にも何かが挿入されているらしく、薄く開いた入口から細い紐のようなものがはみ出していた。
シィリアと同じものなのだろう。ひくつく度に内側から愛液があふれ、美女の顔へと滴り落ちてくる。
「そろそろあちらのミスラも食べ頃かの……」
しかし、その一言にシィリアの蕩け掛けた思考が一瞬我を取り戻した。
「らぁ……らめぇ……ティト……ティトぉ……」
縛られて動かぬ腕を目の前の少女に伸ばそうとするが、もちろんそれも叶わない。

「ん……んむ……」
モルの手によって、ティトの中からゆっくりとそれは引き抜かれた。
「んはぁ……っ」
ぎゅぷ、という音と共に彼女の胎内から現われたのは、サハギンの卵よりも小さなボール状の物体だ。
幾つかの玉が細い紐で連なっているらしく、二つの玉が姿を見せても紐の続きはまだティトの中にくわえ込まれたままになっている。
包丁で紐を切り、愛液の染み込んだボールを眺めれば。
それは、ぎろりとこちらを睨み付けた。
「うむ。こちらも新鮮新鮮」
いまだ生命力を失わずひくひくと動くヘクトアイズの眼を満足そうに見やり、料理トンベリは昏く嗤う。
近くに転がっていたサハギンの卵を拾い上げ、片手で器用にぱかりと割った。
「……やぁ……だ……やだぁっ!」
黄身が落ちた先はシィリアの胸の谷間である。
料理人の意を汲んだのか、卵白が胸元からこぼれるより早くモルの太い指が伸び、潰した卵を胸全体に塗り広げていく。
「それにしても、アルタナはこの様な事は禁じておると聞いたが……」
そう言いながらもまんざらではない様子だ。眼球どうしを結ぶ視神経を包丁でぷちりと切り、二つあるうちの一つをモルに渡してやる。
「ひゃぁぁっ!」
そしてシィリアの左右から眼球を、黄濁の塗りたくられた彼女の胸に押し付けた。
「いた……いたぁ……んっ……んん……っ」
ティトの愛液でドロドロの顔で、シィリアは甘い声を上げる。乱暴に両胸を押し潰されているというのに快感しか伝わってこない。
ティトとの交わりに甘く解きほぐされ、サハギンの狂騒に犯された乳房は、痛みすら快楽として受け止めているのだ。

「は……ァ……っ」
シィリアの乳房に転がされ、柔らかくなったそれを二匹のトンベリは一口に放り込む。
しばらくもぐもぐと口を動かしていたが……。
「……仕込んだミスラは完璧じゃが、やはり、下味が不味い。料理とは言えぬの」
その一言で至上の珍味を切り捨てた。
「そん……な……」
ティトがくわえ込まされていたのは、シィリアが作ったオプチカルスープの具材だったものだ。
友人達には頼まれさえするそれを一刀に切り捨てられれば、獣人の言葉とはいえ……いやだからこそ、プライドは深く傷つけられる。
「次はこちらを試してみるか」
今度はシィリアの股間に入っていた目玉が引き抜かれた。こちらは友人に調理を頼まれて預かっていたものだ。
つぷ……ぷ……じゅぷ……っ!
「ぁぁああぁぁあぁぁっ!」
胎内を小さな塊が連続でこすり上げ、愛液を思い切り掻き出されて、美女の口から悲鳴が吐き出された。
膣全体をずらされるような気持ち悪さは、球体が二つ抜けた所で中途半端に終わりを告げる。
再び両胸を容赦なく揉み上げられ、ティトの愛液のシャワーを浴びながらの嬌声を上げるシィリア。
「ふむ。液が濃いのか、少し漬かりすぎよの……。この尻軽、余程に淫乱とみえる」
「ぁは……そ……んぁ……ちが……ぁ」
二個目の目玉の感想をそう言い切られ、蕩けそうな頭で必死に考え、言い返す。
「まあ、良い。モル」
その声と同時に、シィリアの体の上にどさりと何かが落ちてきた。

「ティト……っ!」
小さく柔らかい体は、ティトのものだった。何らかの仕掛けのある縛り方だったのか、落ちてきた方向はシィリアの体の向きと同じに戻っている。
「おねぇ……さまぁ……」
全身に卵液を擦り込まれ、あれだけ慕う美女の痴態を見せられたのだ。
少女の声は快活さを失い、惚けきった喘ぎ声がかろうじて言葉の形を取っているのみ。
「ティ……ト……」
力なくこちらを求めるティトの唇を、たまらずシィリアは受け止めた。
サハギンの卵の味が口の中一杯に広がるが、気にせず舌を絡め合わせる。束縛の弛んでいた両手で少女を抱きしめ、貪り付いた。
「ひぁ……っ!」
「にゃぁっ!」
そんな二人の口から、同時に悲鳴が上がる。膣に残っていた目玉を一気に引き抜かれ、代わりに何かの液体を擦り付けられたのだ。
今までの全てを洗い流すようにたっぷりと掛けられたそれは、やはりシィリアの倉庫に入れてあったもの。
「スライ……ム……オイルぅ……うぅぅっ……ん……」
「やぁ……おねぇ……さぁあ……っ……なんか、ずずってぇ……やぁぁぁあっ!」
スライムオイルで洗い立てられ、一気にねとつく唇を押し付けられて、吸い上げられた。
卵液の火照りが洗われ、徐々に戻ってきた不快感に足をばたつかせようとするが、足だけはいまだにしっかりと束縛されていて動かす事も出来ない。
「ふむ。馳走になったな」
幅広の舌で膣内の愛液まで掻き出しておいて、いけしゃあしゃあと礼を一つ。
もちろん縛られたままのシィリア達からは見えない位置だ。
「料理人の腕は三流だが、食材としてはまあ、そこそこではあったぞ?」
じんじんとする秘所に、ぺたりと何かが触れた。
「やぁ……だめ……だめぇぇぇっ!」
それが何か分かった瞬間、エルヴァーンの美女は今度こそ狂ったような叫びを上げる。
「やぁ……ふとぉ……やだ……やああああっ!」
「にゃぁぁあああっ! あつ……あつぅ……いぃ……っ」
少女達にトンベリからの『代金』が払われたのは、それからすぐの事だった。

「お姉、さまぁ」
頬を撫でる風に身を任せ、ミスラの少女は小さく呟いた。
「……ん?」
柔らかく答えるのは、エルヴァーンの美女だ。
「ごめんなさい、なのです」
全てが終わった後、ティトの下半身には汚らわしいトンベリの残滓が刻まれていた。
泣き叫んでいたから分からなかったが、シィリアも似たようなものだろう。
「謝る事なんかないでしょう……。ティトが無事なら、それで十分だわ」
黒目がちな瞳にうっすら浮かぶ涙を、そっと拭ってやる美女。
「お姉さまぁ……」
アルタナの使徒の二人を具材に繰り広げた狂宴に満足したのか、忌々しいトンベリの姿はもうない。
彼らの出口となった開け放されたままの窓からは、ひんやりとしたサンドリアの風が流れ込んでくる。
「なぁに?」
「……お姉さまの料理、とっても美味しいのです。ボク、大好きなのです」
黄色く汚れた胸にかじりつくようにして、必死に言葉を紡ぐティト。
「心配してくれるの? いい子ね」
辺境の蛮族と見下していた獣人に自分の料理を完膚無きまで否定され、シィリアの料理人としてのプライドはズタズタに引き裂かれていた。
体に刻まれた陵辱の痕は辛いが、必死に修行した料理を全否定された事に比べればはるかに傷は浅い。
「ボク、お姉さまみたいな料理人になりたくて、お姉さまを師匠って呼んでるのですよ。
もちろんこれからも、ずぅっとなのです」
けれど、愛しい少女が無心にそう言ってくれるだけで、救われる気がする。
「……ありがとう」
自由になった腕でそっと抱きしめ、真剣に見つめてくるティトに優しいキスを一つ。
にっこり微笑んだドロドロの顔を見て、ひどい顔だな、と柔らかく苦笑する。

「クポぉ……」
そこに、場違いなまでに間の抜けた声が響き渡った。
「ご主人さま、ティトさん連れ込んでエッチするのはいいけど、変態プレイはほどほどにして欲しいクポ!
後でモグが片付けるの、ものすーーーっごく大変クポよ!」
なぜか開けっ放しだったらしい玄関から入ってきた白いものは、陵辱の惨状を見た瞬間に眉をつり上げてそう叫んだ。
「……お前、何でここにいる?」
その前に、地の底から響くような暗い声が一人。ティトに足を束縛していた縄をほどいてもらい、幽鬼はゆらりと立ち上がる。
「それはないクポ! ご主人さまがいつまで経ってもジュノに来ないから、モグ心配して飛んできたクポよ!」
「……ほう。それで?」
いつもの優しいお姉さまとも、戦場での勇ましい師匠とも違う。その姿はフェ・インの奥に住まうという古代の亡霊のようだとティトは思った。
むしろ、それよりはるかに怖いんじゃないかとさえ思った。
「それで慌ててドアを開けたら、後ろからがーんって殴られて気絶しちゃったクポ!
サンドリアの冒険者は最近マナーがチョー悪いクポ!」
ザルカバードに吹きすさぶ寒風よりも冷たい空気に気付きもせず、プリプリと腹を立ててみせる白いもの。
「ドアを開けた後に殴られて気絶したのか。ほぅ」
「たぶん酔っぱらったタルタルだと……クポぉ?」
そいつは「モグ、何か悪い事したクポか?」とまでは言えなかった。
「全部貴様の仕業かぁっ!」
バーサクとウォークライと黙想とマイティストライクが同時に発動して、強く固く握られた鋼の拳が宙を翔ける。
惨劇の場に鮮血が飛び散ったのは、意外にもそれが初めてだった。