ディエリーザ・エリュデュナス エル♀ F8-A
アネシア・ロアン ヒューム♀ F4-A
エザン・リューディ ミスラF6-A
[Prologue]
ジュノの雑踏の中、3人は出会った。
それは、捻じれ歪んでいても…再び絡まりあう世の患いか。
離れても…最後には絡まりあい、溶け合うのが魂か。
待ち受けるは、生か死か。美か醜か……愛か憎か…。
回廊を歩く。
ボロボロで、今にも砕け散りそうな装備を着込み。
足を引きずりながら。それでも確実に前へと進む。
天井からは、神々しい光が射し神聖な空気を作り出す。
少々の階段を昇る。
「…!!」
足が、痛む。
それでも尚、前へ…前へと進む。
細長い回廊を抜け、その場所へと辿り着く。
回廊と同じ、骨の様な白い回廊。
天から射す神々しい光。
目の前には、腕を広げ来る者を抱き止めるかの様な手。
今にも飛びたたんとする、美しい翼。
女神アルタナ…。
生きとし生ける者全ての根源であり、この世の始原とも言える存在…。
光が尚も女神の神々しさを増すかの様に見えた。
そして、ある程度進むと。
その像に跪いた。
第1章 [God Hates Us All!]
ジュノ下層の雑踏。
人通りが多く、煩わしい。
そんな中、一人の少年がアルタナ神の像を抱えて歩く。
家に飾る石像だ。
だが、少年の足でこの雑踏を行くのは難儀であった。
大人達は下を見ず歩く。
蹴り飛ばされてしまうかもしれない少年は、小走りしながらも慎重に歩いていった。
コッ
それは僅かに出来たタイルの割れ目。
足を引っ掛け、転ぶ少年。
ゴトン!
ほんの少し先に落ちた像は僅かに欠けた物の大きい損傷は無い。
胸を撫で下ろす少年。
しかし…
ゴッ!
パキィン!
黒いソルレットがアルタナ像を蹴り、像の翼と少し広げた手の部分を折った。
堅い音を立て像は破損した。
泣き叫ぶ少年に、視線が集まる。
しかし、蹴り飛ばした本人は端が綻んだマントを翻し悠々と道を行く。
「待ちなよ!」
赤い帽子…全身を優美とも言える赤い防具を着たヒュームの女性が黒い鎧の主を呼び止める。
ワーロック装備…。
赤魔道士の象徴的な装備で手に入れるのには相当な苦心をしなければならない装備。
しかも、所々に強化と補修が見受けられた。
腰に下げたジュワユースが陽に照らされ光る。
ピタリと歩を止める銀髪の黒鎧。
だが、振り向く事はしない。
「あんた!この子の像を壊したでしょ!キチンと謝りなよ!!」
その時、初めて黒い鎧の主は体ごと向けた。
目に眼帯をつけ、カオス装備をしている。
やはり強化と補修は見られる物の、兜はしていない。
背に光るバルムンク…そして、手に下げたデスサイズが鈍く光る。
暗黒騎士としては珍しく、彼女はミスラだった。
その口から出た言葉は赤魔道士の想像を超えていた。
「石ころ蹴飛ばして…何が悪い?」
像…それも、この世界の母たる象徴とされる神像を蹴り壊して悪びれない態度が赤魔道士の怒りに火をつけた。
「これの何処が石ころなのよ!!アルタナ様の神像じゃない!!」
「ふん。大した造型でもなく…どこにでもある様な石ころだろう。」
取り付く島も無い態度。
「だ・か・ら!神像だってば!!あなたは職人が苦心して彫った像を何だと思ってるのよ!!」
「代わり映えしないデザインだけ彫って。二束三文の物を高値で売りつける。言うなれば…詐欺師か?」
赤魔道士の手がブルブルと震える。
アルタナへの侮蔑。また、苦心して彫る職人の余りにも酷い侮辱。
神を信奉する者にとって…そして、職人を親に持つ赤魔道士にとって、これ以上無い屈辱だ。
「あんた、この像彫るのにどれだけ苦心すると思ってるのよ!!それに!そもそもこの像はこの子のでしょ!!謝って、弁償しなさいよ!」
ふうと、一息吐く暗黒騎士。
「石ころに値段がつく御時世…か、堪らないねえ…ああ。堪らない。」
そう言うと、壊れた神像の前へ足を伸ばし、そっと自らの眼前へ持ってくる。
マジマジと彫像を眺める暗黒騎士。
ああ、やっと謝るのか。
そう思った赤魔道士の期待は打ち砕かれる事となる。
「解んないねえ…。たかが石ころ。こんなの拝んで幸せ来てりゃ……何の苦労もしねえ!!」
そう言うや否や、神像を高く持ち上げ、地面に叩きつける!
バギン!!
神像は四散し、まさしく『石ころ』となった。
「ほらよ、これで正真正銘の石ころだ。こんなゴミに金を出す気がしれないね。」
「あんたぁ!!」
腰のジュワユースを抜く赤魔道士。
「やるのか?急ぐんだが…。まあ、拒みはしない」
そう言うと、手に提げたデスサイズを構える。
一触即発の空気…が流れる。
その時だった。
遠くから笛の音がする。
「ちっ、親衛隊か。妙な事に巻き込まれるのはゴメンだね。石ころ欲しけりゃ、これで買いな。」
そう言うと、ポイと貨幣の入った袋を少年の前へ投げる。
「ちょっと、待ちなさい!!」
「急いでいると言った。無駄な時間はこれ以上使えない。」
ジュワユースを持つ手が震える。
「覚えてなさいよ!私は…アネシア!アネシア・ロアンよ!」
ギッと睨み、アネシアが叫んだ。
「覚えてたら、な。ついでだ。覚えなくて良いけど…。こっちはエザン。エザン・リューディだ。」
振り向きもせず、手をひらひらとさせる。
それを睨みながら、怒りの声を出すアネシア。
「絶対!絶対に許さないんだから!!」
程なく、ジュノ親衛隊が到着し、アネシアはジュノ親衛隊に騒ぎの理由を説明。
群集の言動と一致した事により、素早く彼らは去っていった。
残ったのは泣き止まない少年と地面に落ちる神像の欠片。
アネシアは、しゃがむと散らばる落ちた神像の欠片を拾い始める。
集めてどうしようと言うのか。
そんな事は全く考えていない。いや、考えられなかった。
少年はまだ泣いたままだ。
集めてどうするか。
困った顔で少年の方を見ると、エルヴァーンの女性が少年の前にしゃがんでいる。
「ほら、男の子がいつまでも泣いてちゃダメだ。」
白く輝くガラント装備。
腰に下げるは、フロッティ。
「ほら、お姉ちゃんのコレあげるから。泣かない。ね?」
にっこり笑って差し出すのはアルタナの神像だ。
しかも、あの色は恐らくエルシモ産の名石製だろう。
軽く見積もってお値段20万ギルはくだるまい。
そんな物を簡単にあげてしまうナイトに驚愕するアネシア。
神像を受け取ると、泣きはらした目で頭を下げ、大通りをゆっくり戻っていく。
「あ、貴方…あんなに高級な物あげていいの…!?」
横にいる女性に気付いたのか、女性ナイトが顔を向ける。
「ああ。良いんだ。また取りに行けば良いだけだから。」
そう言うとニコリと笑う。
出来た人間もいるもんだ…。
アネシアは感心した。
あのエザンとか言うミスラの様な外道もいるが。
そして傍と気付く。
エザンの置いていった小銭の入った袋だ。
「あ〜。これどうしよ…。」
地面に転がる袋を見てアネシアが頭を抱える。
「貰っちゃえば?あの態度だし…。大した額も入って無いと思うよ。」
ナイトもあの態度には閉口していたらしい。
途中からの見物と人ごみで前には出れなかったのだが。
そう言うと、袋を拾い上げ、中を開く。
意外と重い…。こりゃ1万ギルでも入ってたか?と思うや否や…。
「…………」
「……………15万ギルはあるわね…。」
ぽつりとナイトが呟く。
「なななななななな!?あの態度で15万ギルぅ!?」
アネシアの見積もりでは、あの壊された神像を見積もっても2万ギルは行かないだろう。
中流家庭用の物として1万と少々が相場か。
それの10倍以上の額をポンと出したのだ。彼女が言う「たかが石ころ」に。
「ど…どどどどど…どうしよ……。」
袋を持ったまま硬直するアネシア。
「これは…流石に届けましょうか。」
「届けるって…ジュノ親衛隊にでも?それともあいつに…?」
「あの人に直接届けた方が…良いでしょうね。額が額だし…親衛隊の誰かが途中でネコババしそうな額だし。」
「あ、そういえば…その。貴方は?」
考えれば名前を聞いてもいなかった事に気付く。
「私はディエリーザ。よろしくね。」
ディエリーザはそう言うとニコリと笑う。
「どの辺りに行ったのかしら、あいつ…。チョコボ屋に入ったとこまでは見たけど…。」
「人づてに聞いていくしか無いんじゃない?何だかんだで…一番良いと思うよ。」
「それしか無いかぁ…。じゃ少し行って来るか…。ありがとね。また!」
別れを告げるアネシアにディエリーザは同行を申し出る。
「危険地帯だと不安だし…私も行くわ。」
「い、良いわよ。私だって、結構、修羅場くぐってきてるし!」
パタパタと手を動かすアネシア。
「いえ。事故とはどこで終わるか解らない物よ。だから、私も行く。
貴方みたいに物をハッキリと言える人…死なせたら勿体無いわ。」
その言葉に少し頬に赤みがさす。
「そ、そうかなぁ?父さんから良く、言われてただけよ!正しいと思った事はハッキリと、胸を張って言え!ってね!」
“父”
その言葉にディエリーザの胸がズクンと疼く。
そして僅かだが、悲しい目をする。
ディエリーザにあの日の事が思い浮かんだ。
ディエリーザ・エリュデュナスは裕福な家に生を受けた。
サンドリアでも古くからの名家である。
彼女が三つの時、父が外交官としての役目を賜り、ウィンダスへ赴任。
そこから、彼女はウィンダスで育つ。
自然の多い中、ディエリーザは大した病気も無く育っていく。
だが、不幸がやってくる。
母、ジェルリアの死。
十歳の彼女に対するショックは大きかった。
死因はウィンダスに昔からある風土病。
子供の頃かかってしまえば、僅かな熱を出して終わるだけだが
大人になってから罹れば、生死に関わる程の熱を出す難病。
それでも、初期の内に対策を取れば簡単に治る物だった。
だが、父は地元の医師ではなく、サンドリアから連れてきた医師に見せた。
サンドリアの医師は何度も診察したが、原因不明とし、
断腸の思いでウィンダスの薬師に掛かった。
その時のミスラの言った言葉。
「あと、3日持てば良い方…。」
絶望だった。
薬師の予想を裏切り、彼女は4日後に死んだ。
母が死んだ後、父はそれを振り払うかの様に働いた。
夜遅くまで職務を遂行し、机に突っ伏して寝る事もあった。
彼は言った。
「ディエリーザ。心配は要らない。絶対に、お父さんは死なないから。」
力強い父の言葉と時間が彼女を癒した。
次の不幸は彼女が十六の時だった。
陽気な日だった。
近所の子供達に…本を読み聞かせて、帰った矢先…。
日が沈んだにも関わらず、家は明かり1つ点いていなかった。
「ん、もう!またお父様ったら明かり点けないんだから…。」
そう言うと、火打石で種火を作り、燭台に一つ一つ明かりを灯していく。
今日はお手伝いさんは休みで、家事はディエリーザの役目だった。
「お父様―!」
暫くして、食事の用意が出来たので2階にいると思われる父を呼んだ。
だが、降りてこない。
「お父様―?」
何の気配もしない事に嫌な気配を感じた。
ディエリーザは、そっと父親の寝室を開けた。
ギッ…
軽く軋んだ音を立て開く扉。
明かりが全く点いてない。
扉から入る光が床に横たわる足を照らす。
「お父様!!」
扉を開けると父が…床にうつぶせになって倒れていた。
周りには何かの薬が散らばっている。
「お父様!お父様!!」
息はしている。
心臓も動いている…だが…もしも…死んでしまったら…。
自分は…一人だ。
そんな事に耐え切れる程、彼女はまだ強くなかった。
「お願い!お父様ぁ!!目を覚まして!!」
軽く揺さぶると、父がかすかに目を開けた。
「ああ…良かった…お父様……。」
目に溜めた涙を流すディエリーザ。
父のぼやけた視線がディエリーザを捉える。
「おお……。」
その目に映るのは、娘のディエリーザでは無かった。
「ジェルリア……。」
「え…?」
ディエリーザは父が自分と母を見間違えてるのだと思ってクスリと笑った。
「私ですよ。ディエリーザですよ?」
だが、父にその言葉が聞こえたかどうか。
「おお…ジェルリア…。何度…何度あの愛を…確かめた事か…。」
「お父…様?」
ゆっくりと起き上がる父。
ディエリーザの方へ向き直ると肩を抱いた。
「え?あ…。」
突然の出来事にディエリーザは呆然とする。
「君は…あの時のまま…変わらないな…。」
そう言うと、父はスッとディエリーザの腰へ手を回す。
「ちょ…ちょっとぉ、お父様!冗談はおやめください!」
ディエリーザは笑いながら、答えていたが、父は止まらない。
「何年ぶりだろう…君にあって…。今…また、私の心に…炎が灯る…。」
その時、ディエリーザは見た。
父の瞳に妖しい炎が灯っているのを。
「愛している、ジェルリア!!」
そう言うと、娘を床に押し倒し、服に手をかける父。
「お、お父様!正気に…正気に戻ってください!!私です!娘のディエリーザです!!」
「おお、おお…そうだとも。私は君を…何年待っただろう!また…愛を確かめられるとは!」
スカートの中に手をいれ、下着をそっと脱がす。
「お願いよ!お父様ぁ!やめてぇ!!!」
抵抗するディエリーザ。
だが、僅か十六の娘が、壮年の男の力にかなう訳も無かった。
キスで口を塞がれる。
娘と父がするキスではない。
これは、恋人同士の…。
いや、これから交わる者がする接吻だった。
「んむぅう!!うー!!」
余りの事に、息が出来ない。
その時、ディエリーザの手がそっと、父の手によって、その股間へと無理矢理誘われる。
「君の事を思うだけで、私はこれだけ猛っている…!君だけしかいないんだ!」
その手は、熱い…励起した男性自身がズボンを通して伝わってくる。
大きさは、昔一緒にお風呂に入ったその時より…大きかった。
服は徐々に乱れ、胸元をはがされ、キスをされる。
「あぅう!やめてえ!!おとうさまあああああ!!うああっ!ダメ!!お願いします。お父様あ!」
壮年の技が娘の体に襲い掛かる。
的確な愛撫。絶妙な力加減。
娘のディエリーザは徐々に体に熱い物を感じる。
それは、性経験の無いディエリーザには初めての事だった。
(何…これ…何なの!?…いやあぁ!!怖い…怖い!!!私は…私はぁ!?)
恐怖と光悦が入り混じる複雑な表情。
「ああ…ジェルリア…。君は…美しい…。」
乳首を吸われた時。ディエリーザの体は父を受け入れる体勢へと…徐々に誘導されていった。
股間はしとどに濡れ、内腿に雫が垂れている感覚すらある。
「さあ…1つになろう…ジェルリア…!」
ズボンを下ろし、その励起した男性器を見たディエリーザの目は覚めた。
「ダメ!ダメよ…お父様!!」
スカートで自らの女性器を隠し、後ずさるディエリーザ。
「お父様…ここで…ここで交わってしまえば…私は、貴方の娘ではなくなってしまいます!お願い!正気に…戻って!!」
だがその声は父には届かなかった。
「ああ、恥ずかしがる事は無い…ジェルリア。初めてのあの時と一緒だよ…さぁ!」
説得は無駄だと知ったディエリーザは快楽で痺れた足を引きずり、ドアへと向かう。
「ああ、そうか。今日は顔を見たかったのだけど…君はそう言えばそれが好きだったね…。」
そう言うと、四つん這いで逃げる娘の体に覆いかぶさるように圧し掛かる。
「誰かぁ!!誰か!あうっ!?」
そして、素早くスカートをたくし上げ、濡れた女性器に自らの男根を突き入れた。
「あぐあぅうううう!!」
痛みがディエリーザを襲う。
まだ未通の女に壮年の男の男根は大きすぎた。
ミヂ…ミヂィ…。
「いぎっ…ぐううぅぅっ…うっ…!」
押し広げられる痛みに耐えるディエリーザ。
あまりの痛みに涙が頬を伝う。
「良い気持ちだ…ジェルリア…これが…君の愛何だね…。」
「お願い…お父…様……!」
尚も懇願するディエリーザ。
だが、それは空しく砕かれた。
ブヂ!
だが、次の瞬間、強く突き入れられた男根により、ディエリーザの処女は失われた。
「うぎぃい!うううううああああああああああああ!!!あー!!!!あーーーーー!!うあああああああ!!!」
ほんの少しの悲鳴の後、彼女は泣きじゃくった。
とうとう、娘では無くなってしまった事を心のどこかで感じていた。
これからは…父の女になってしまったのだ、と。
「ああ、君の声が響いているよ…愛している…ジェルリア…。」
悲鳴が嬌声にでも聞こえるのか、尚も腰を押し出し、根元まで入れようとする父。
「うああああぅああああ!」
押し広げられる感覚。
ともすれば、腹が押しつぶされる感覚が彼女を襲う。
痛みであるが、そこには確かに…快楽が混ざっていた。
「ううっ…気持ち良いぞ…ジェルリア…ジェルリアっ…!」
ストロークが早くなる。
それと共に血以外の物がディエリーザの膣を濡らす。
「うああん!あっ…ふぁ!!くぅう…あぐっ!!!」
泣き声に混じる快楽の嬌声。
そして……。
「出るよ…ジェルリア…!ジェルリアっ!!」
そして、彼女の胎内に父の精液が打ち込まれた。
ディエリーザはぐったりと床の上で息も絶え絶えに呼吸をしていた。
だが、彼女は目の端で捉えていた。
父の男性器はまだ収まっていない。
つまり、次があるのだ。
一度犯されてしまい、投げやりな気持ちに心地よい倦怠感が体を支配する。
拒む事無く、ディエリーザはそのまま体を父に任せた。
その夜、ディエリーザは何度も父に犯された。
朝になって、自らに起こった事実にむせび泣いた。
その日から、父の頭から娘、ディエリーザは消えた。
ディエリーザはジェルリアになった。
そして、父は“ジェルリア”を夜毎犯した。
“ジェルリア”は父に体を貫かれる内に、女の悦びを体に刻み込まれて行く…。
誰に言えただろうか。
あの体の疼きを。
夜が待ち遠しくなっている自分が居た事を。
女陰は昼から父を待ち望み蜜を垂らす…。
気がつけば、ディエリーザは自らベッドへ赴き、父の相手をした。
光悦の顔を浮かべた自分を嫌悪しながらも、拒みきれない快楽。
更には数年の間、父の“妻”として、ねぶられた未成熟な体はエルヴァーンには珍しい程の大きな乳房を彼女に与えた。
それが恥ずかしくて、彼女はあまり外には出なくなった。
だが、一度寝床に入ると、その胸をさらけ出し、彼女は乱れた。
犯されてから2年後。
長年の職務からディエリーザは父と共にサンドリアへと帰還。
サンドリアへ帰ってきても情交は続く。
広い屋敷の一室で起こった事は使用人の誰一人知る事は無かった。
その更に2年後。情交の最中父は死んだ。
冷静にも体を清め、シーツも何もかも清めてディエリーザは情交の跡を消し去った。
葬儀はつつがなく行われ、全ては元通りになる。
筈だった。
父が死んだ時、背徳からの開放感と背徳への別れの狭間に彼女は突き落とされた。
父が死んでから暫く、男を買っていた事もある。
だが、他の男はディエリーザを満足させるに至らなかった。
絶頂も全て演技で押し通した。
父が刻み込んだ快楽は、彼女に二度と快楽を与えてはくれぬ枷となった。
その後、途轍もない額の請求書が来る。
父が長年服用していた薬だ。
滋養強壮の薬品で一瓶あたり10万ギルを超える大金だった。
使用人を解雇し、目ぼしい財産を売り払い、土地、屋敷全て売っても、まだ足りぬ。
爵位を売って残った金は5万ギルを残し、雇っていた使用人に配った。
サンドリアを未練無く出ると、彼女は育ったウィンダスへと戻る。
そこで冒険者としての一歩を踏み出すのは間もなくの事だった。
余談だが、彼女がサンドリアから出立した三日後。
豪遊していた貴族が刺されて死んだ。
刺したのはエリュデュナス家に使える元使用人。
刺された男は爵位を金で買ったあの男だった。
男の以前の職業は薬売りだった。
「あ、え…あの…私何か…悪い事…?」
その言葉にハッとするディエリーザ。
「あ、いえ。何でも…無いから。気にしないで。」
そう言うと右腕を差し出す。
「うん!!」
二人はギュッと握手を交わした。
陽気な返事と暖かな手にディエリーザはニコリ微笑む。
そして、2人はチョコボに乗って駆け出した。
(あの目……凄く悲しそうで…何でも無い訳…無いじゃない…。)
あの瞳はよっぽど悲しい事が無ければ出来ない。
アネシアはそう思った。
だが、たまたま出会い、ホンの少し一緒に行動するだけの人の事を根掘り葉掘り聞くのも失礼だ。
その事は胸の奥底にしまい、二人はロランベリー耕地へと出た。
のどかな天気が二人を出迎える。
チョコボを使えばすぐに追いつくかと思ったが、存外そうでも無いらしい。
道行く人々にそれらしい人物の所在を聞くが、どうにもバシュハウ沼へ向かってるらしい。
「…あんなとこで何をするのかしら…?」
バシュハウ沼は敵も然したる物ではなく、小銭稼ぎ以外の用途が思いつかない様な場所だ。
後はバリスタと言う戦闘競技が行われる物の、今は閑散としている。
「もしかしたら…ベドー…?」
「…うーん。まぁ…このままコンシュタット行くよりは可能性高そうよね。」
ベドー…。
クゥダフ族の本拠地であり、手前は兎も角として奥に至っては熟練の冒険者が幾度と無く餌食となっている場所である。
二人は、ベドーへと歩を進める。
その直感は当たっていた様だ。
自分達より僅か前に通ったチョコボの足跡が見えた。
「当たり!」
そして、突如…チョコボが嫌がり進まなくなる。
そこから先は危険地帯である事を示していた。
「ありがと。もう帰って良いよ。」
ディエリーザがチョコボの頬に口付けをし、手を振る。
チョコボは颯爽と来た道を戻っていった。
独特な臭いのする沼地を暫く歩く。
そこは凄惨な光景だった。
広場に横たわる数々の屍。
首を刎ねられ、あるいは甲羅ごと両断されたクゥダフがそこかしこに転がっている。
「な…何これ…。」
思わずアネシアは口を塞ぐ。
血と、臓物…そしてベドー特有の腐敗した泥の臭いが酷く鼻をつく。
「でも…まあ。道標になってくれてはいるね。」
確かに。死体は転々と奥に向かって転がっていた。
「ま、サッと返して。サッと帰りましょう。ここ…健康に悪そうだし…。」
「そ、そうね」
クゥダフには良いのだろうが、空気が悪い。
二人は小走りで奥へと向かっていった。
血に塗れる燭台。
脳が叩きつけられた壁面。
洞窟の様な所でエザンは戦っていた。
「シャッ!!」
掛け声と共に、デスサイズが振り回される。
その鎌の刃が、ジルコンクゥダフの頭をぐずぐずに破壊する。
「こぉのぉ…侵入者がぁあ!」
大剣を持ったクゥダフがその手を振り上げる。
ガギィン!!ジュブッ!
エザンはクゥダフの頭を砕いた速度をそのままに、体その物を回転させ、鎌を鎧の隙間である脇につき立てた。
大剣は振り下ろされる事無く、地に落ちた。
暫く痙攣したあと、クゥダフは大剣を落とし、生き絶えた。
「こっちだあぁ!こっちにいぃるぞおぉ!」
間延びした独特の声が聞こえる。
その声を聞くと、持っていた袋から小袋を出し、そっとクゥダフの死体に潜ませる。
そして、黒い粉が入った小瓶の蓋を開け、中身を撒き散らしながら走る。
追って来るクゥダフ達の前には、黒い“もや”がかかっていた。
「なぁんだぁ?これはぁ?」
振り払おうとしても、中々晴れない。
「目くらましのぉつもりかあぁ!?」
足元もおぼつかぬ中、慎重に、剣や杖で先を探りながら歩く。
その時、一体のクゥダフが持つ杖が仲間の死体に突き当たった。
ゴロン
クゥダフの死体に仕掛けたボムの腕が転がり、起爆する。
ズバゥン!!
「ぐあぁああぁう!!」
「あぢぃい…!うああぐぅ!!」
ボムの爆発の威力を発火薬の粉塵爆発で数倍にあげた特性爆弾。
近くにいたクゥダフは甲羅だけを残し、首と四肢を失った。
広範囲に渡り撒かれていた発火薬は、後続の追っ手にも火が襲い掛かった。
「ふん。これで少しは片付いたか。」
そう言うと、外へ向かいエザンは走り出す。
目的は……さらわれた子供の救出。
ジュノ近郊で何人か子供がさらわれていた。
ベドーにいる所までは掴んだのだが、そこから先がいけない。
危険な場所もあるが、幾つも小部屋があり、どれが牢として使われているか解らない。
その間に人質に取られれば手も足も出ず、更に環境の悪いベドーではいつまで保つか解らない。
迅速に、かつ出来る限り無事に…。
無理な注文だ。
エザンはその依頼を受けた。
子供の無事の是非は問わない事を条件に。
外に出て、横を見ると、背を向けたクゥダフが見える。
ボーっとしているのか後ろにいるエザンに気がつかない。
「おい。」
声をかけると一閃。
クゥダフの首に鎌を引っ掛ける。
「お前達が誘拐した子供はどこだ?」
恐ろしい殺気。
「あ、あううぁ…」
「さっさとしろ。このまま首を刎ねるぞ。」
「ま…まてぇえ。あ…案内するぅう…。だ、だからあぁ。」
「だったら、とっとと案内するんだな。」
そう言うと、ナイフを手放しクゥダフは歩き出した。
「な…何…?さっきの音。」
爆発の音はアネシア達の耳にも届いていた。
あまりの音に一瞬耳を塞ぐアネシア。
「あっちみたいね。」
少しキーンとする耳を抑えディエリーザが指差す。
その先にある洞窟からは、もうもうと煙が出ている。
「何…やったのかしら…?」
「さぁ…?ファイガ…とか?」
確かにファイガUかVならあり得そうな威力ではある。
だが、彼女は暗黒騎士だ。黒魔法のガ系はポイゾガ以外は使えない。
「流石にそれは無いんじゃない…?しかし…あいつ、何しにこんなとこまで…。」
ベドーと言う場所での目的に相変わらず首を捻るアネシア。
「……仕事かもね…」
「仕事?」
思わず首を捻るアネシア。
「ああ、あいつの横を横切った時仕事の話が聞こえてきてね。子供がさらわれてる…って。」
かすかに耳を動かすディエリーザ。
エルヴァーン特有の聴力だった。
「あいつ…。少しは良いとこ…あるのかなあ?」
子供の物品を冷酷に打ち壊した人間が、子供を助けると言うのも何かと不釣合いだ。
「どうかしら。ただ、彼女なら受けない様な仕事だと思うと…何か裏があるのかもね。取り合えず、先急ぎましょ。」
「そうね…!」
そう言うと二人は煙が噴出する洞窟へと足を進めた。
ギゴゴゴゴゴォ…。
かなり大きく、耳障りな音を立て、扉が開く。
中には4人の子供がバラバラの位置に寝かせられている。
「こ…ここだあぁ…。」
スッと鎌をクゥダフの首から外す。
「……とっとと、失せろ。」
中に入り、子供の一人を見た。
エルヴァーンの少女だ。
息はしている物の顔色が悪い。
恐らくここに連れられてからは飲まず食わずだろう。
オマケに空気も悪い。
早く連れ帰らねばなるまい。
その時だった。
「動くなあぁ!」
壁に寄り添う様に寝ていた少年を抱え上げ、クゥダフ
棚に置かれていた加工道具としての刃物を握っている。
スッと、向き直り立ち上がるエザン。
「動くなあぁ!と言ったはずだあぁ!」
少年の首に刃を当てるクゥダフ。
力無くダラリとした少年の体。
恐らくは相当衰弱しているだろう。
じりじりと後ろに下がるクゥダフをエザンはただ冷たい目で睨むだけだった。
ディエリーザとアネシアが走る。
かすかについた足跡を頼りに歩を進める。
「ねえ、もしかしてアレ!!」
そこにはクゥダフが良く作る小部屋の一室。
入り口から背中向きに出てくるクゥダフの姿。
そんな行動をするからには何かが起きている筈だった。
「そうみたいね…行くよ!」
子供に何かが起こっているのか?
それとも、エザンに何かがあったのか?
良くは解らないが、放っておける状況ではなかった。
パシャパシャパシャ…
水音が聞こえた時、そのクゥダフは二人の方を向いた。
「動くなあぁ!!こいつのおぉ首ぃ…かっ切るぞおぉ!」
力無く垂れ下がる子供から、急いで救出せねばならない状況である事は確かだった。
このまま一雨来たら恐らく体温の低下で死んでしまうだろう。
剣を抜けぬまま、二人は身動き一つ出来なかった。
「どうしよう……あの子…死んじゃう!」
子供の状態に気付いたのか、アネシアが悲痛な顔をする。
「くっ…どうする事も…!」
卑怯だが、敵の足を確実に止める…。
そう言う意味で人質と言うのは合法的だ。
逃げるのには苦労するが、幸いここは彼の家…。彼の住む国。
地の利はある。そして暫くすればエザンを追い掛け回す者達が集まってくるだろう。
つまり、負ける事は無い。
「貴様らぁが、人質ぃになるならぁ…残りのやつらぁ離してやってもぉ良いぞお?」
勝利の美酒を目前に控え、クゥダフは余裕の笑みを浮かべる。
「もっとも、舌掻っ切ってぇ、腕とぉ足の腱もぉ掻っ切るがなぁ!」
呪文も唱えられず、立ち上がる事も出来ず、剣を振るう事すらも出来ない状態。
つまりは肉達磨に近いを意味している。
子供を助けて、自分は犠牲になるのか。
そして、自分は生きて、子供一人を殺すのか。
「……解ったわ…。私が…私が人質になる!だから、子供と…この人だけは離してあげて!」
「待ちなさい!それでは…!」
アネシアはディエリーザを見据える。
「私一人で済むなら!!ディエリーザ、貴方はあの子達をジュノに連れ帰って!お願い!」
「馬鹿な事を…。ならば私が行く。お前が子供達を……。」
「そんなの……!」
その時、ふとディエリーザの頭に疑問がよぎる。
エザンはどうしたのだ?
「一つ…聞きたい。」
「なんだぁ?」
「先に来た、暗黒騎士はどうした…?」
緊迫した空気が流れる。
「あいつはぁ…。動けなくなってる間にぃ、この部屋に閉じ込めたぁ。後でいたぶってやるぅ!」
ガゴォン!
激しい金属音と共に、扉が蹴り飛ばされた。
「な!?」
「な、何?」
驚愕するディエリータとアネシア。
部屋の奥からエザンが姿を現す。
「お、お前…動くなぁ…とぉ!?」
エザンの方を向き直ったクゥダフは戦慄した。
背中にある剣を取り、今まさに斬りかからんとしているエザンの姿がそこにあった。
何をするのだ?この人間は。今、自分は人質を取っている。負ける筈は無い。
負ける事はあってはならない。あいつは攻撃をする真似をするだけだ。
振り下ろせる筈が無い。自分には今、最強の盾があるのだから。
そんな事を彼は考えたろう。
「ま、まぁてぇ!コイツがぁ…」
ザゴン!!
剣は振り下ろされた。
クゥダフの左肩から腰まで甲羅ごと袈裟切りにされた。
ドチャ
ズズッとずれ、クゥダフの胴がベドーの泥濘に落ちた。
斬られたのはクゥダフだけでは無い。
抱えられたヒュームの少年も同時に切断された。
その子の死体もベドーの泥濘に落ちたのだ。
意外過ぎる行動。
凄惨な情景。
ディエリーザとアネシアは我が目を疑った。
エザンが目の端に二人を捉え、少し顔を向けた時、アネシアはハッと気がついた。
それと同時に、エザンの方へ走る。
「うああああああああああああ!!!!」
ギイィン!
ジュワユースの一撃をバルムンクで軽々と受ける。
「なんで……何でなのよ!!」
「なにがだ?」
さも当然の様な口ぶり。何がアネシアを激昂させているのか解っていないのかもしれない。
「何で!何で子供まで殺したのよ!!貴方は子供を助けに来たんじゃないの!?」
「はぁ…。ストーカーの次は…盗み聞きか?趣味が悪い。」
「答えなさい!!」
震える声で問いただすアネシア。
「お前は何か物を斬るのに態々理由がいるのか?だとしたら…凄い面倒だ。」
「なん…なのよ…それ……。何なのよ!!」
シュィン!
その時、もう一本の剣がエザンに向けられる。
「こちらも聞かせて。救出するなら、もっと隠密に行動出来た筈…。わざわざ、ここまで騒ぎを大きくせずとも…
貴方の腕ならもっと迅速に隠密に行動、何一つ殺さず出る事も出来た筈…。そうすれば、あの子も死なずに済みましたよね?」
残った右目でエザンは二人を見る。
「理由が本当に必要なのか?」
「あるのなら、お聞かせ願いたい。」
ディエリーザは毅然として答える。
「こっちに剣を向けながら話す奴に答える…そんなお人好しに見えるのか?」
「………」
そう言うと、ディエリーザは剣を引き、手を掴みアネシアの剣も引かせる。
涙目でエザンを睨むアネシア。
射抜く様な目のディエリーザ。
「まずは、あんたから。」
そう言うとディエリーザを指差す。
「私は隠密行動ってのは嫌いでね。そして、殺さない理由も無い。だから殺した。
ここに来るまで、延べ30匹を超えるクゥダフを手にかけた。命を奪わないと誓う人でも無いんだ。こっちは。
一々見つかれば切りかかる相手に気を払いながら歩くなんざ疲れるだけだ。だったら、最初から切り倒し、すり潰す。
私なら“それが一番速い”そう判断した。それだけだ。」
雨のベドーでの対峙は続く。
「それと、次はあんた。」
アネシアを指差すエザン。
「あのガキ、どの道、もたなかった。あの亀野郎は運悪く…一番状態が悪化しているガキを選んだ。
あの状況からすぐに雨は降るのは予測出来たし、あのガキを無事連れたとして…ま、運が良くてロランベリー耕地が精々。
だったら、一思いに楽にしてやるのも慈悲って物だろ。ああ、言っとくが…他のガキはまだ生きてるよ。
ここで、訳の解らない問答を繰り返して時間を浪費するなら、そいつらを助けた方が得じゃないか?」
悔しいが、合理的な面から見れば正しい行動にも思える。
子供一人の命で、自分はおろか、ディエリーザとアネシアは五体満足で帰れる。
どの道死んでしまう子供なら、その命を“有効利用”したと言う所か。
「ふう。ま、こいつは放置した方が良いぜ。五体満足で死んでたって言った方が…親も幸せだろうよ。」
キッとアネシアはエザンを睨む。
「こんな事…アルタナ様は望んで無いわ…!私は…許さない!」
「ふっ。あんな石ころに何も出来やしないさ。」
また、石ころ呼ばわりするエザンに、アネシアは怒鳴ろうとする。
しかし、エザンは言葉を続ける。
「まあ、本当に神様…ってのがいたとして、だ。人間って奴を慈しんでるとは私は到底思えないね。」
「な…何でよ!!私達、アルタナ様のお陰で生きていられるのよ!?アルタナ様のお陰で、私達は今ここにいられるのよ!?」
右目でギロリとアネシアを睨む。
それは憎悪の瞳だった。一瞬、アネシアは体を硬直させる。
「だったら…。
もう少しマシな所に人間を置いてる。
こんなゴミみたいな混沌とした世界を生み出す奴なんてろくな奴じゃない。
神様はよっぽど憎いんだな…人間が!」
憎悪、神に対する憎しみか、世界に対する憎しみか、はたまた信者の理論を振りかざすアネシアへの憎しみか。
「そんな事無い!世界がそう見えるのは、貴方の心が荒んでいるからよ!もっと、周りを見れば…!!」
「周りを見た結果が…ゴミ捨て場にいるガキで。
女のガキは体売って日銭を稼ぎ…。挙句のはてにゃ病でコロリ。明るいか?」
冷たい瞳。この世の色々な物を見てきたのだろう。
辛い事もあったのかもしれない。その全てが彼女をそうさせたのか?
アネシアは問答はこれ以上無用と部屋の中に入る。
「中の袋に毛布が入ってる。使いな。」
アネシアにそう言ったが、アネシアは無反応で部屋の中へと入っていった。
そして、ディエリーザがエザンに近づく。
「忘れてたわ。これは…貴方のよ。」
ディエリーザがスッと大金の入った袋を出す。
「お前、ガキの物を取ったのか?」
そう言うと首を横にふるディエリーザ。
「いいえ。あの子が受け取らなかっただけ…。だから、これは貴方のよ。」
ふぅとため息をつくエザン。
「…やった物を…また受け取るってのは趣味じゃない。お前らで分けな。駄賃だ。」
子供を連れ帰る面倒を請け負う駄賃と言う所か。
「…そう……。なら…戴くわ。いくらかは…その子の弔い代になるけれど…。」
悲しい目をしてディエリーザは切り落とされた子供を見る。
「一々断るな。もう、私の金じゃない。」
視線を子供に向けたまま
「そう…。この子…どうするの?」
アネシアがそっと子供の死体を指差す。
「ふん。腐れば土だ。どこで腐ろうが…一緒だろ。」
確かにそれは道理だ。
土になれば、どこだって一緒だ。
だが、ディエリーザは、この場で腐って行く事に哀れみを感じた。
「そう…。でも…少し可哀想…。」
あまりに悲しい瞳にエザンはばつが悪そうにする。
どうにもこう言う目は苦手なのか。
下らないセンチメンタリズム…。
ほんの少しの静寂の後、エザンは口を開く。
「……遺髪だけ…持っていけ。残りは…コンシュタットにでも埋めておく…。」
意外な答え。
それを聞くと僅かに微笑むディエリーザ。
「貴方…優しいのね。」
「…初耳だ。」
スッと髪の一部をナイフで切り取るエザン。
器用に紐でくくり付け束ねる。
「ほら。持っていけ。」
遺髪を渡すエザン。
「解ったわ…。じゃあ…。」
そっと手に取ると部屋からアネシアが出てくる。
「行きましょ。ディエリーザ。」
抱えた子供をディエリーザに渡し、自らも抱える。
スッと横を通り、先に進むアネシア。
エザンには目もくれず、元来た道を通る。
「……じゃあな。趣味の悪いお嬢さん。」
からかいなのか、皮肉を言うエザン。
キッと一瞥すると、前を向き、歩き出す。
「この世界が嫌いなら…早く、この世から消えなさいよ…!」
履き捨てる様に言うと、二人は進む。
小雨降る中二人が遠くへ消え行く。
一人残されるエザン。
仕事が残っている。追ってくる残存勢力の殲滅。
「早く消えなさいよ…、か。」
屍と化したクゥダフの腕から子供の遺骸を引き剥がし、袋に詰め込む。
「確かに…ね。」
雨雲が曇り空になり、僅かな隙間から光が突き刺す。
小部屋に置いたデスサイズを手に取ると、再び歩き出す。
暫く後、ベドーには血の雨が降った。
鉄錆で茶色の沼地が赤く染まった。
雨が降り、死体が積もる沼地で、鎌を振り血を払う。
「神は…私達を憎んでいる…。じゃなかったら…!!」
天を仰ぎ見る。
睨むエザンに天は何もせず、ただ雨を降らすだけ。
その先の言葉はエザン口から出る事は無かった。
子供の死体を背負い、歩く。
その顔は悲しそうで、どこか晴れ晴れとした表情に見えた。
ディエリーザとアネシアが歩く。
アネシアは泣きながら。
ディエリーザは悲しい瞳をしながら。
子供を抱えながら歩く。
ディエリーザは小さい頃、父の腕に抱かれウィンダスの港を散歩した事を思い出した。
「大きくなったらね、お父さんと結婚するの!」
そんな事を言った気もする。
あの時は純粋にそう思っていた。
暗転…。
「やめて!お父様!!やめて!!」
自分の叫び声が頭でリピートされる。
父に襲われて暫くは、拒んでも拒みきれず…寝床で犯された。
この時、自分はどうするべきだったのか、未だに答えが出ない。
アネシアの言う通り…嫌いな世界から消える為、首を掻き切るべきだったか?
暗転…。
「あ、ああう…お父様……もっと…頂戴…!」
体についた精液を舐め取る自分がいる。
乱れに乱れ、朝まで父と交わる日も少なくなかった。
正気に戻ると、徐々に自分の体が変わって行く事に絶望した。
外見も…内面も…。
暗転…。
「あぅひいいいぃぃ!あなたぁ…ああっくぅ…あなたあ、愛してるわ!」
気付けば父を“あなた”と呼んでいた自分に気がつく。
体が疼き、昼間から父を求めていた。
心は高揚とし、絶望が背徳に変わった。
“お父様”と再び呼んだのは、父が死んでからだ。
母の相手を奪い、母に成り代わり、自ら父を求めた背徳。
それを恥と思わず、今、こうして生きている。
私は、この世界が好き?
神様は…私を憎んでいる?
答えは出ないまま、ディエリーザの涙は雨に濡れて泥の中に落ちた。
To Be Continued
Love & Death
次回予告!!
煌く白刃。
落ちる首。
叫び声がこだまする。
ベドーのあの日から一週間経ち、再び出会うアネシアとディエリーザ。
打ち解けあって、一緒にお風呂!?
そして…胸に顔を挟んで亀○人!?
快晴の空、美味しいご飯!
だが、その時サンドリアでアイツを中心に大騒ぎ!?
次回、Love & Death
第2章『Spiritual Awakening』
アネシア「見ないと…ひっさーつ!電撃当身!!」
ディエリーザ「それ…エンサンダー…。」
エザン「…くだらん。」