←マウラにて (猫の目線)
(遅いな…)
大都市ル・ルデの庭の噴水の前で、クラードは長い間、待ちぼうけを喰らっていた。待ち合わせの時間は6時と約束したはずだが、もう太陽はずいぶんと高く上がっている。
彼女は時間に厳しく、待ち合わせの時間にたとえ遅れることがあっても、いままでなら必ず事前に連絡を入れてきていた。理由もなしに遅刻することはない。
と、階段の上から、小柄なミスラの女性が、尻尾を揺らしながら走ってくるのが見えた。
待ち人来たれり。
クラードは不安と心配の表情を隠す。
「ごめんなさい、クラード。遅れちゃって。」
はぁはぁと息を切らせながら、彼女…リルはぺこりと頭を下げ、真剣に謝る。
(相変わらず他人行儀だな…)
「待った〜ゴメンね☆」くらいの、軽いノリで良いのに、と思う。
一緒に行動するようになってかなりになるのに、彼女との間にはいつもどこか、微妙な壁を感じる。
「別に」
そんな思いを微塵も顔に出さず、そっけなく答えてみせる。
「忘れ物はないね?」
基本的にしっかり者の彼女はそうそう失敗はないが、いざ失敗する時は派手にやらかす。
船を目の前にして「渡航証…忘れました…」とか言いかねない。
(まぁ、それはそれで良いんだけどね。可愛いし。)
「渡航証と、緊急時の薬品、あと、デジョンの呪符…一応、大丈夫だと思います」
ゴブにさえヨバクリ呼ばわりされた大きな鞄(しかもいつも、目いっぱい何か詰まっている)をごそごそさばいてリルが答える。今回は大ポカはないようだ。
「k。じゃあ、行こう」
「はい。」
冒険者特有の了解の合図に、リルはテレポメアの詠唱を始める。…10歩ほど離れた場所で。
(もう少し近付いても良いんじゃないか?テレポ漏れしたらどうするんだ)
この微妙な距離感はいつ埋まるのだろうか…見えないようにこっそりとため息をつく。
タロンギ大渓谷のメア石の前で、レンタルチョコボを借りて、二人は港町マウラに向かう。
アトルガン皇国。
この近東の大国には、いままで、冒険者が渡ることは許されておらず、ただ風の噂に名を聞くのみだった。
ところが、最近になって、天晶堂が秘密裏に、冒険者の渡航を仲介するという情報が、一部の冒険者の間に流れた。
クラードはいつも不思議に思うのだが、リルはこの手の情報収集に非常に長けている。
特別な人脈やツテがあるとは思えないのだが、今回も、天晶堂が獣人たちの持つ「証」集めていることをどこからか聞きつけ、クラードと共に2枚の「証」を獣人から奪い取り、それを交渉に利用して、マウラから出航するアトルガン皇国行きの船の渡航証をやすやすと手に入れた。
どこでそんな情報を調べるのだと尋ねても、「ネジツに」「カイセキで」等、謎の単語をごにょごにょと出し最後に「世の中知らないほうがいいこともあります!」とか真顔で言ってのける。
…まぁ、本人がそう言うなら深くは追求しないのが良いのだろう。
リルとは、以前所属したLSで知り合った。そこはメンバー同士の人間関係のトラブルで崩壊した。
知的で落ち着きがあり、大人らしい細かな気遣いの出来る彼女は、男女問わず人気があった。多分他のメンバーからも誘いの声はかかったであろうが、リルはクラードについてきた。
最初は正直に言えば、大勢の中から自分が選ばれたという期待に舞い上がった。
しかし、いつまでたっても彼女は他人行儀で、微妙な「壁」は消えない。
二人きりで行動していても、LSの中の一員だった時となんら変わりなく振舞う姿に、軽い失望を覚えた。勝手に期待した自分が悪いのだが。
(しかし、男女一緒に行動していて、この色気の無さはなんとかならないものかね?)
ちらりと後ろを振り返ると、彼女は少し離れた所をとことこと走っている。いつも決して隣には並ばない。今日は服装までいつもより厚着で悲しくなってくる。
昼過ぎ、二人はマウラに到着した。
「船は、いつ頃着く?」
こういう事前調査はリルの得意分野だ。
しかし、リルはだるそうに近くの柱に寄りかかって、返事をしない
「リル?」
不審に思って近付くと、リルはさりげなく2、3歩後ずさった。
(またか)
内心舌打ちしつつ、かがみこんで彼女の顔を覗き込む。ぼうっと上気して、頬は赤らみ、目は潤んでいる。
(…なんだかやけに、色っぽい…な。)
もやもやとしたものが湧き上がるのを抑えて「どうした?」と尋ねる。
リルはそんな彼に、ぱたぱたと手を振って軽く答えた。
「昨日から、なんかちょっと風邪ひいたみたいなんですよ…寝不足かな?」
(…何だ、風邪か。)
「そうか…昨日まで強行軍だったしな…疲れが、出たか」
内心どこかがっかりしつつ、それでも心配して、彼女の額に手を当てる。亜麻色の柔らかい前髪が心地よく彼の指をくすぐる。
「少し熱っぽいな。休んだほうがいい。」
「うん」
彼女はにこりとして、次の瞬間その手はさっと振りほどかれる。
「畝が出るのは…えーっと、4時、12時、20時…12時の船は、さっき出ちゃったみたいです。次の船は晩だから…これが着くまで休んでていいですか?」
「構わんが、大丈夫か?」
看病しようか?と、切り出す前に、
「宿で少し休めば大丈夫。荷物預かるから、釣りでもして待ってて。あ、私の分の切符も買っといてくださいね!」
そう言って彼女は、クラードの荷物をさらっと奪い取り、クリムゾン脚を装備したかのような俊足で走り去った。
「逃げられた…」
取り残された彼はぽつりとつぶやく。あまりに鮮やかなスルーっぷりに、クラードは、自分の下心が見透かされているのではないかと、ふと、不安になる。
夕方の船の入港まで待つのは、はっきり言って暇だった。マウラの村には今まで何度も訪れていて、もうとりたて見るべきものはない。
これでリルが隣にいるなら、新天地への期待に会話も弾むだろうが、肝心の彼女はぐっすりお昼寝中だ。
「…釣りでも、するか。」
そう思ってふと、荷物を全部、リルが持っていってしまったことを思い出す。
竿も、疑似餌も、財布もあの中だ。切符を買っておいてと頼まれたが、先立つものがなければどうにもならない。
クラードは宿に向かった。カウンターで、先ほどのミスラの連れだと言うと、部屋を教えられる。
鍵は彼女が持っているので、確認を取って中から開けてもらって欲しいとのことだった。
教えられた部屋に向かい、ノックしようと扉に手をかけると、すぅっと音も無く隙間が開く。
(鍵をかけ忘れたのか。無用心な)
まぁ、寝てるのを起こすのも忍びないし、荷物を取ったら、鍵をかけておけばいい…そう考えていたその時、中からかすかに誰かの声が聞こえた。
「ぁ…」
甘ったるく、鼻にかかった、声
(………リル?)
それは確かに彼女のものだが、今までに聞いたこと無い彼女の声。
クラードは隙間に近付き、耳に意識を集中させる。
「あっ…きもちいい…そんなところ…恥ずかしい…ぁ…」
(何だ!?)
確かにリルのものと思われる嬌声に、混乱して頭がクラクラする。
「だめぇ…おかしくなりそう」
(中に誰かいるのか?誰かとヤっているのか!?)
普段の落ち着いた彼女からは信じられない甘い喘ぎに、興奮と怒りでクラードの全身の血は沸騰しそうになる。
ドアを蹴り開けて、相手を殴り倒したいところだが、そこで一度ブレーキがかかった。
どういう状況か見極めたい。
リルの声は特に抵抗している感じは無く、むしろ悦んでいるように聞こえる。もし彼女が望んで誘った相手だとしたら、自分の立場が無い。
クラードは廊下を少し戻って、完全に声の届かない場所で、スニークとインビジを詠唱した。未開の地に向かうとあって、今日は(都合よく)サポ白だっだ。
インビジが切れないように、慎重に扉の隙間を抜け、部屋を覗き込む。
そこで見たのは信じられない光景だった。
ベッドに横たわったリルが、あられもなく足を広げて、自分で自分の秘所をまさぐっている。
上着もはだけ、小ぶりだが形のよい胸があらわになり、もう片方の手で丁寧に揉みしだいている。
ベッドの足側は扉のほうに向けられていたので、クラードからは、ぐっしょりと濡れた花芯の内側まで見えてしまいそうだ。
「ひゃぅ!…あ、あ、あ、あ、あ…!」
胸を愛撫していた手が、敏感な突起に伸び、リルの身体が跳ねる。
(…そうか、発情期か。)
クラードには思い当たることがあった。猫に似た特性を持つミスラという種族は、猫と同じように周期的に発情期を迎える。ミスラの雄はかなり数が少なく、性交の機会をめったに持てない女性たちの中には、その衝動を静めるために、他種族にその相手を求めることもあるため、口さがない連中は
「ミスラは好き者だから、すぐにヤラせてくれるw」
と言い放つ。クラードにはそこまで偏見は無かったが、実際に関係を持ったミスラの女性は両手の指に余る。
先ほどまでの妙に色っぽい仕草も、納得できた。
リルが誰かに抱かれている訳ではないと確認して、内心ほっとしつつも、ふつふつと怒りが沸いてきた。
(私では相手にならんということか…!?)
風邪をひいたと嘘をついてまで、独りで自慰にふけりたかったのか。
そんなクラードの怒りどころか、存在すら気づかずに、彼の目の前でリルは自分だけの甘い時間に夢中になっている。
「挿れてほしいの…」
固く閉じたまぶたの奥で誰を想像しているのか。細い指を想像の相手のものに見立てて、リルの甘い声が誰かにねだる
くちゅり くちゅり
「んあぁぁ…んあぁぁぁぁ…」
いやらしい音とせつない声がクラードの耳に届く。その声が彼の劣情を誘い、彼のモノは、はちきれそうなほど昂ぶっていた。いますぐ押し倒して、淫らな肢体をを壊れるまでめちゃくちゃにしてやりたい。
だが、それをしたら、彼女は自分の元から去ってしまうだろう。
リルを抱きたい。しかしなにより、リルを失いたくなかった。
いたたまれなくなって、クラードは彼女から目を背け、静かにこの部屋から逃げ出そうとした。
そのとき、ひときわ感きわまったリルの声があがる。
「あ、あ、あ、あ、あ、クラード、クラード、きて!!」
彼の中のなにかが弾け飛んだ。
「呼んだか?」
意識して声を出したため、知覚遮断魔法の効果は切れ、クラードは姿を現す。
驚いて声も出ないリルを抱きすくめ、ベッドに押し倒した。
甘酸っぱい雌の体臭が鼻腔をくすぐり、柔らかい彼女の肢体が、すっぽりと腕の中に納まる。
一歩踏み出すだけで、壁の向こうのずっと望んでいた物が、簡単に手に入れられたことに、今頃気づく。
「…独りで慰めるなんて、寂しいだろう?」
できるだけ静かに、ささやく。
「違うの、クラード、違うの!」
リルは束縛から逃げ出そうと必死にもがく。魔道師である彼女の腕力では相手にならない。
(どうして逃げる?)
甘い声で名を呼んだ彼女とのギャップに彼は苛立ち、抵抗する彼女の顎を押さえつけ、強引に口付ける。
「んん!」
リルの歯列を割り、舌を絡め取る。噛まれないかと一瞬警戒したが、戸惑う彼女にはそんな余裕もないようだった。甘い唇を吸い、口腔の中を舐め取る。彼女への初めてのキスにしては強引すぎて、まるで犯しているような錯覚に捕らわれる。
リルの抵抗がゆるみ、くたりと目を閉じた。それを自分を受け入れたサインだと、勝手に解釈する。
クラードは乱れて汗で張り付いた服を脱がし始めた。
「だ…め…」
リルは泣き出しそうな目で懇願する。いやいやと首を振る仕草は、悩ましくて逆効果だった。クラードは黙々と服を剥ぎ取り、ベッドの下に放り投げた。リルの、ミスラにしては色白の肌があらわになる。
乳房は揉みしだいた指の跡がうっすらと紅く残り、乳首は、咥えて欲しいとばかりに勃っている。押さえつけられ、足を閉じて隠すことも出来ず、しどしどに濡れた秘所は花弁を開き、心細げにうち震えている。
「みないで…」
弱々しい声と羞恥の仕草すら、いとおしい。
「可愛いよ」
耳元でささやくと、リルの身体がぴくんと震える。
「クラード、やめて、私、こんなの…」
か細い声で拒否し続ける彼女に、クラードの支配欲が刺激される。
この心も屈服させたい。もう一度、彼女自身から求めさせたい。
クラードは彼女の乳房に手を伸ばし、顔をうずめた。揉みつぶし、舐め、噛み、吸い付いて、点々と赤い痕をつける。
「ひゃぅ!」
激しい愛撫にリルが良い声で鳴く。
「身体は、そうは言っていない」
熱い秘所に指を這わせる。彼女自身が昇りつめる直前まで愛撫したそこは、透明な粘液があふれ、太股までしたたっていた。指を舐めて濡らす必要すらない。
「あっ…やぁっ…そこは…」
さっきリルがしていたのを真似して、指先で入り口と肉芽をいじめる。
「あぁっ!や…だぁ…」
嫌、駄目、と拒否の言葉を口に出そうとすると、乳首を痛いほど噛んで、おしおきする。
聞きたいのはそんな言葉ではない。
「だ…ぁぁ…め…ぇあああ」
敏感な部分を同時に責めたて、発情期の淫らな身体を、容赦なく追い詰める。
クラードの腕の中でリルは、苦しげにせつなげに悶える。
「どうして欲しい?」
弄びながら、クラードはわざと意地悪に問う。その声にリルはびくんと震え、潤んだ瞳で彼を見つめた。
「…挿れて、ほしいの…」
とびきり甘い、リルのおねだりに、クラードは満足した。
入り口を弄んでいた指を、一気に奥まで突き刺す。
「あぁッ!」
リルが歓喜する。驚くほどきつく狭いそこを、ぐちゅぐちゅとかき混ぜ、擦り、激しく突き上げる。
「あ、あ、あ、あああああああああ!!クラード、クラード!!」
ひときわ高い声を上げて、リルは大きく仰け反り、びくびくと痙攣すると、そのまま意識を失った。
絶頂を迎えて、ぐったりと動かなくなったリルから身体を離して、クラードは服を脱ぎ捨てる。
散々、リルの悩ましげな肢体を見せ付けられて、クラードのそれは昂ぶり、痛いほどそそり立っていた。
「くらぁど…」
リルが、不安げに名を呼ぶ。
(今度は私も、楽しませてくれ)
リルの足を開き、とろとろにとけた秘所にあてがう。
「クラード、待って、わたし…!」
クラードはリルの制止を無視して、強引に彼女の中に進入した。
「うぁっ!!」
期待していた歓喜の声とは、別種の叫びが上がる。
「いたいっ!いたいっ!いたいっっ!!」
「……リル?」
泣き叫ぶ彼女の姿に唖然とする。さっきまで彼の腕の中で甘い声で鳴いていた彼女とは、まったく別人になったような錯覚を覚える。
熱くとろけていた膣内も、今は痛いほど固くきつく中を締め付けて、奥への侵入を拒んでいる。
(まさか…)
「初めて…なのか…?」
「…うっ、…ううう…うぅぅ…」
苦しそうにうめきながら、リルはこくこくと頷く。
(まさか…)
あれほど乱れていた彼女が、まさか未経験だと思っていなかった。
しかし、心の奥でわだかまっていた疑念も溶けていく。あれほど必死に拒もうとしたのも、未知の行為に怯えていたのか。
(私が初めての男か)
あらためて、彼女がいとおしくてたまらなくなる。
初めて男性を受け入れる狭いそこに、エルヴァーンのそれは規格外だろう。苦しんで泣き叫ぶ姿は胸が痛んだが、もう止める事はできなかった。
「済まん…少しだけ、我慢してくれ。」
リルの背中に腕をまわし、上半身を密着させると、リルも背中に手を回してしがみつく。抱きあった姿勢で、リルの奥へさらに押し進める。
「くぅ…うぅぅぅ」
再び襲ってきた苦痛に、リルはのけぞり、彼の背中に爪を立てた。
痛みで硬直した膣内は狭く締まり、彼の侵入を妨げる。力を抜かせようと、クラードはリルの尻尾を探り根元を軽く握って、すうっと先までなで上げる。
「はぅぅん!」
リルの力が抜ける。クラードは彼女の奥深くまで貫いた。狭い内壁はぎちぎちと彼を苦しいほど締め上げる。
「……奥まで、入ったよ」
子供のように泣きじゃくるリルを見ると、まるで犯しているかような罪悪感に駆られる。
(頼む、泣かないでくれ)
背中を丸めて、彼女の頬に唇を這わせ、涙を舐めとる。
「…くらぁど…くらぁど…」
壊れたように、リルが彼の名を繰り返す。
「…くらぁど…すき…くらぁど…」
弱々しいが必死な告白に、クラードの胸が熱くなる。
「…私も」
愛している、と答えようとして、彼の言葉は詰まった。
強引に奪ってから、好きだ愛してると口にしても、あまりに都合が良い話はないか?
「…くらぁど」
迷いを見通したように、リルが再び名を呼ぶ。
「…スキって言って…嘘でも、いいから…」
「好きだ。ずっと…前から。嘘じゃ、ない」
彼が必死に絞りだした思いに、リルは満足したかのように、彼の胸に顔をうずめた。
クラードは、できるだけゆっくりと抽出を始めた。中はまだきつく、リルは苦しそうだったが、彼女の奥は少しづつ温かくなって、新しい愛液があふれてきて、滑らかに動けるように助ける。
「…ぁ…ぁ…ぁ…」
か細いが、悲鳴と違うずっと甘い声が、リルの口から漏れた。
自分の行為が、痛み以外のものも与えていると知り、クラードは嬉しくなる。
「…んぁ…んぁぁ…んあぁぁ…くらぁどぉぉ…」
リルが感じれば感じるほどに、中は温かくうねり、ゆるくきつく絡みつく。快楽に押し流されるように、クラードは激しく突き動かし、子宮の入口まで突き上げた。
「んぁぁあああぁぁああっ!クラード!クラード!!」
「リル、出すぞ」
激しく乱れるリルの中に、クラードは自分の欲望を吐き出した。昇りつめたリルの身体が跳ね、くたりとベッドに落ちた。
気を失ったリルの身体から、クラードが自分のモノを抜き取ると、白濁した粘液と血が混ざったものがあふれ出てシーツを汚した。
涙で頬は濡れて、くしゃくしゃになった柔らかい髪の毛が張り付いてた。身体のあちこちには点々と紅い痕が残っている。痛々しい姿は、まるで強姦された後のようだ、とクラードは思った。
(いや、犯したも同然か。)
発情期の弱みに付け込んで、強引に奪ったことに変わりはない。快楽の余韻が冷めてくると、苦い後悔がじわじわと湧いてくる。
やめてと懇願する目、痛みに泣き叫ぶ声。
(もっと優しくしてやれば良かった)
眠っているリルの顔は、普段の彼女よりもずっと幼く見える。
ミスラの年齢は外見からは分かりにくい。落ち着いた物腰と雰囲気に、自分と同じくらいの年頃だろうと勝手に解釈していたが、実はずっと年下だったのかもしれないと、ふと思う。
「くらぁど…」
繋がったときの、か細くすがる声が耳に残っている。
(目が覚めたら、君はどうする?)
熱病のような衝動から醒めて、自分が汚されたと知ったら、泣くだろうか、怒るだろうか、罵られるだろうか。
(いなくなってしまうかもな。それも自業自得か)
クラードはリルの細い肩を抱き寄せて横になった。狭い一人部屋のベッドに二人で眠るには、こうするしかないと誰にともなく言い訳をする。
かすかな寝息と、柔らかい体温が心地よかった。
目を閉じると、皇国へ向かう汽船が出航する霧笛の音が、遠くに聞こえた。
「わたし…自分の身体が大嫌いだったんです。何でミスラに生まれたんだろう、なんでこんな風におかしくなっちゃうんだろう、って」
目覚めたリルはそう告白した。
「おかしくなって、流されて、どうでもいい男に奪われるのが嫌で…いままで…」
頭から毛布をかぶり、膝を抱いて丸くなっている彼女の姿はとても小さい。
今まで、リルとの間に感じていた「壁」の正体が分かったような気がした。
そうやって距離をおくことで、今までにも知り合ってきた他の男達からも、自分の身を守ってきたのだろう。
「壁」が壊れた素顔の彼女は、か弱く頼りなげで、触れば壊れてしまいそうにすら感じた。
(どうでもいい男に奪われるのが嫌…か)
「私みたな男に、か」
一番最悪な手段で、彼女を傷つけてしまったことを思い知らされ、自嘲を含んでつぶやく。
ぴょんと跳ね起きて、リルが振り向いた。
「違うよ!わたしはずっとクラードが好きで!」
両手を伸ばして抱きついてくるリルを、呆然と受け止める。
「…貴方が好きで、好きで、…ずっと好きで、好きって言ってくれて嬉しかったの…に…」
リルしがみついて、嗚咽を漏らす。最後のほうはほとんど聞き取れなかったが、何と言ったのかは聞かなくても分かった。
「…嘘じゃ、ない」
必死にそれだけ声を絞り出す。
(泣かないでくれ)
自分が抱えていた苦い罪悪感の正体に今ごろ気づいた。
今まで、リルが涙を流したところを見たことがなかった。ずっと一緒に行動していたのに、リルは今まで、一度も誰かの前で泣いたりはしなかった。
(泣かないでくれ、リル)
彼女を抱きしめて髪を撫でると、リルは声を上げて泣いた。
それを自分への罰と受け入れ、泣き止むまでの長い時間、クラードはずっとリルを抱きしめていた。
泣き疲れて眠りに落ちる前の、ほんの一瞬のリルの笑顔が、クラードをどれだけ救ったか、彼女は知らない。
→マウラにて (猫の目線)