←第一話 言葉
第二話 願い
『私』『お願い』『あなた』
「なんだい。なんでも聞くよ」
『子供』『欲しい』
「…え?」
『子供』『欲しい』『私』『と』『あなた』
赤ちゃんはもうちょっと先にして、二人の時間をたくさん作りましょう。結婚式の前日にユキコが提案したことに僕も異存はなく、1年あまりたっぷりと蜜月の時間を過ごした。世界に二人だけしかいないみたいに。
自分で言うのもなんだが、毎日ノロケていた。ケンカもときどきするけど、甘酸っぱい恋人気分がずっと続いていた。で、そろそろ子供つくろうか、って話をしたのが半月前…ユキコが起き上がれなくなる前の日だったんだ。
真っ白な頬が、ゆで上がったみたいに真っ赤に染まりながら、こくん、と小さく頷いたしぐさがものすごく可愛らしくて、思いっきり抱きしめちまった。
その晩は、デキそうな日を計算したりしてはしゃいだな。「それまではエッチ禁止、ひとりでもしちゃだーめ。たくさん精子つくってもらわなきゃ」なんて言われて、年甲斐もなく興奮したというのに。
「でもおまえ、体は…」
『お願い』
ユキコの決心は固かった。複雑な単語は使えないながらも、必死に意志を伝えようとしていた。僕との子供が欲しい。体のことはわかっている。でも生きた証が欲しい。僕を愛した証が欲しい。愛の証を遺したい。
瞳が乾くのも厭わず、ユキコは訴え続けた。これが心の叫びなのだろう。今にもユキコの声が、あの鈴をならすような澄んだ声が聞こえてくるようだった。
ユキコの体を気遣って、などと…そんなのは綺麗事だ。説得力なんかない。そうさ、僕だって、ユキコとの子供が欲しいんだ。できるなら元気なユキコと…いや、こうなってしまったからこそ、ユキコと子供をつくりたい。
ユキコを孕ませたい。ユキコに、僕の生命力あふれる精子を残らず注ぎ込みたい。僕のオスとしての願望、欲望がむくむくと広がってゆく。
「わかったよ、ユキコ」
『ありがとう』
「いっぱい可愛がってやる。覚悟しろ」
→第三話 前奏