←第四話 宣言

第五話 交合

僕自身をユキコの小さなスリットにあてがうと、ぴったりと吸い付いた。粘膜どうしが、まるで別な生き物たちみたいにお互いを求めるがごとく自然に惹きつけあう。ずっと昔から、もとはひとつであったかのように。けっして離れまいとするかのように。
いつもなら僕はおおいに焦らして、ユキコのほうから腰をおし付けてくるのを待つ。ユキコが好きなように加減しながら、熱く潤った狭い胎内に少しずつ包まれてゆくのは、もどかしくもたまらない。自分で押し込むだけでは、なかなか味わえないのだ。
もちろん今はそういうわけにもいかない。なのに僕のモノがひとりでに飲み込まれていく錯覚に陥る。音もなくユキコの内側に埋まってゆく、はちきれんばかりの分身。先のほうからじわじわと温かくぬめったものがまとわりついてくる。
それは次第に胴回りを浸食し、ついには付け根のあたりまで全体が覆われた。ああそうか、僕が我慢しきれずに腰をつきだしてしまったんだ。そんなわかりきったことを考えながら、しばしユキコの「中」をじっくりと堪能する。
いつものゴム越しですら、快感という言葉だけでは到底あらわせない感触。すべてを蕩けさせてしまいそうに熱く煮えたぎり、それでいてそっと優しく締めつけられる、息苦しいほどの心地よさ。それを今日は直接、ナマで感じているのだ。
男がどうしてこれほどまでに女の体に執着するのか、その理由としては充分すぎる。

『うごいていいよ』

などとユキコが言っているのかどうかは、わからない。わからないが、瞳は否定的な輝きをしていない…と思う。そんな気がする。ともかく僕は温かなユキコの体をなごりおしみつつ腰をゆっくりと引き、うってかわって一息に突き入れた。
ぶぢゅん。なんといやらしく、なまめかしい音なのだろう。ユキコの中からあふれた蜜は、ふたりのあいだのわずかな隙間にしみわたってゆく。熱い液体を通して、ユキコの存在が伝わってくる。そしてそれから先は、もう堰を切ったようだった。

ぢゅっ、ぶちゅ、じゅくん、ぷちゅん。
にちゅっ、じゅく、じゅくん、ちゅぴ、ぬじゅん。

えもいわれぬ淫猥な音にあわせて、ふたつの体がぶつかりあっては離れ、離れてはぶつかりあった。壁に投影されたシルエットも僕らとともにせわしなく動く。ベッドはふたりの重みを支えながらも、キイキイと控えめに抗議していた。

ときどきインターバルを入れ、ユキコの目を覗き込む。とくに苦痛のサインなどは出ていないようなので安心した。自発呼吸が不自由なのでボンベからラインを引いてはいるのだが、あまり激しい運動を続けると酸欠におちいるかもしれない。
僕はそれなりに息も弾んでいるが、ユキコは対照的に静かなまま横たわっている…僕が突き入れるたびに内臓を圧迫するせいで、強制的に肺から空気の押し出される音がする以外は。
ユキコは、そんなに大きいわけでもないのに声が出ないよう必死に押し殺していたっけ。それでもしまいには「きゅん、きゅんっ」と子犬のように鳴いてしまう。その様子が、なんだかいけないことをしているみたいでけっこう興奮するけど。
そんなユキコも今では声ひとつあげることすらできない。寝ている女にいたずらをする、などというのは男なら誰でも考えそうなことだが、動かない女の体を意のままにする…悖徳的であればあるほど対価となる悦びは人を溺れさせる。
心のどこかでそんなことを望んでいたのだろうか。そのせいでユキコの体が動かなくなったのだとしたら。いやまさか、そんな馬鹿げたオカルトめいたことが起こるもんか。ちくちくする罪悪感を強引にふり払うように、僕は顔をあげた。

『あなた』『何か』『ある』『?』

ユキコが「どうしたの?」と訊いている。心の奥底からむらむらとわき上がってきた黒い感情のせいで、僕は腰が止まっていたらしい。だめだな、ユキコとの愛を確かめあう大事なときに余計なことを考えるなんて。

「ん、なんでもない。ちょっと休憩しただけ。あまりにユキコが気持ちよくしてくれるから、すぐイっちゃいそうでさ」
『ばか』

すでに上気しているのに、さらに赤くなるユキコ。そうだ、集中しなきゃ。ユキコの狭くきつい洞内は、ぎゅうぎゅうと締め付けているようにも、やさしく包み込んでくれているようにも感じられる。こんなにも僕を愛してくれる、その気持ちに応えなければ。
すぐイっちゃいそう、というのは誇張でもなんでもなく、実のところ僕は限界に近かった。ユキコの膣は僕の気持ちよいトコロを的確に刺激する構造になっているらしい。ついでに言えば、僕のモノもユキコのイイところに当たるようだ。
体の相性なのだろう。僕もユキコも、お互いが初めての相手ではなかったが、それでも生涯でこれ以上ないという伴侶に巡り会った。それぞれに欠けた部分をぴったりと補い合う、というのにふさわしいほどしっくりくるのだ。心も、そして体も。

→第六話 奔流