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第六話 奔流

インターバルの間隔も短くなってくる。大好きだ、ユキコ。愛してるよ、ユキコ。その想いをこめながら腰を動かす。やっていることは獣じみた本能そのものだけれど、この行為に持てるかぎりの愛情をのせて一心不乱に突く。
そして、ついに限界がきた。

「もう、やばい。出るよ、ユキコ。いっぱい出すよ。絶対にんし…うぁ」

びゅじゅるっっ

すさまじい衝動が走り抜ける。

びゅるっ
 びゅるびゅるっ
  びゅくん
   びゅく
    びゅっ
     ぴゅ…

正直、腰がぬけるかと思った。目がまわるような強烈な快感が下腹部から脳髄を突き抜け、ふたたび下腹部を襲う。粘ついた塊のようなものが尿道を通過してゆくのがはっきりと判る。その量たるや、これまで経験したことがないほどだ。
我慢していたせいもある。半月ぶりの射精。ベッドで子作り候補の日を話し合い、それまでエッチしないと決め、ふたりで小指をからめた。だからひとりでもしていない。もちろん、風俗なんか行くわけもない。僕はユキコひとすじだからね。
本当は2〜3日おきぐらいに出しておいたほうがいいと何かで読んだ。でもけっこうゴタゴタしてたせいで、それどころではなかったし、なによりユキコと約束した…赤ちゃんをつくる日のためにいっぱい溜めておいてね、って。
もしかしたら本当に半月ぶん出たのかもしれない。それほど大量の射精だった。ユキコを妊娠させると強く誓った。僕の体がそれに応えてくれたとしても不思議はない。出すだけ出し終えたはずの僕のモノだが、まだ弱々しくびくびくと脈動を繰り返していた。


『たくさん』

ユキコの瞳はそれだけを映していた。それだけだったが、ユキコの気持ちは伝わる。胸がいっぱいで、うまく感情を表現できないのだろう。僕にとって至福である射精の瞬間はすぐに去ってしまうが、その至福をユキコが全身で享受しているからだ。
いつもなら、ゴムにせきとめられて行き場を失った精液は逆流して陰茎にからみつく。だが今日はその不快な感覚がない。精子たちはユキコの膣内を満たし、何にもさえぎられることなく猛然と進むべき場所に向かっているのだろう。
ユキコの子宮も降りてきて粘液を分泌し、精子を呼び込んでいるに違いない。妊娠しようとする女の体の働きをさまたげることはできない。妊娠させようとする男の体から放たれた、強い意志をともなう精子の働きをさまたげることはできない。
そして僕は知っている。あの日、隠していたけどユキコはちょうど生理を迎えていた。強がっていたものの、ちょっと具合悪そうだったし。それから半月…そろそろ排卵の時期ということになる。ユキコの生理周期は極めて順調なのだ。
そして今日ユキコから「決心」を告げられた。つまり、もっとも期待できる「デキそうな日」だとユキコもわかっている。偶然ではない。確信をもってユキコは僕に頼んだのだ。「デキる日」だという確信をもって。

早鐘のような鼓動もようやく収まってきた。息を整えつつユキコの体をぎゅっと抱きしめ、もういちどユキコの唇にキスをする。それから、瞳を覗き込んで話しかけた。

「ユキコ、よかったよ」
『…』
「すごくたくさん出た。きっと受精するよ。なんたって僕の精子はすごく…」
『…』
「…ユキコ…?」

様子がおかしい。いや何も様子がわからないのだ。ユキコの瞳は半眼のまま虚空をさまようだけだった。

「ユキコ…まさか。…どうして…どう…うぅ」

こらえていても、嗚咽がもれてしまう。ユキコから「朝が来ない」ことは告げられていたんだ。わかっていたはずだ。…だからといって、すんなり受け入れられることでは、ない。

「ユキコ…泣いたらだめかい?」
『…』
「いや…今こそ、泣くべきときだよな」

僕は声を押し殺し、ユキコの豊かな胸にうずまって涙をながした。だから、ユキコのまなじりから一粒の涙がこぼれ落ちていたのも、見ていなかった。
カーテンの隙間から見える夜空は、いつのまにか白みはじめていた。


→第七話 伝心 〜 side ユキコ 〜