←第七話 伝心 〜 side ユキコ 〜
第八話 幸せ 〜 side ユキコ 〜
ふとももの付け根に濡れたものがまとわりついた。彼がびちゃびちゃになった下着を脱がそうとしてる。そうとう苦労して膝のあたりまで下ろしたが、あきらめたようだ。言ってみればほとんどヒモみたいな布地で、おまけにかなり薄いから。
そして彼が私の脚の間に潜り込んでくる気配。姿が見えなくなると、不安になる。すると、ぽっ、という小さな音とともにわずかな開放感を覚える。やだ、そういえばカテ…なんとかいう、おしっこの管をいれられていたのだった。それを抜いたらしい。
…ものすごく、恥ずかしい。アソコを見られるのは、ほんとうはすごく嫌。彼が見たいっていうから、我慢するだけ。恥ずかしいっていうより…あんまり見るようなものじゃないよ、あんなの。どうしてあんなトコロ見たがるのかな。
それに、むだ毛の処理もずっとしてなかったから、きっとひどい有様になってるはず。それだけじゃなく、よりによって、おしっこの…。顔から火がふきでそうだった。それだけは、見られたくないものの筆頭、っていうぐらいに。
けれど、そんな些細な感傷はたちどころにかき消えた。いきなり強烈な電撃のようなものが下半身を襲う。ほんの一瞬だったけど、脳天から足先までしびれた。そして返す波のように快感が全身を洗い流す。たぶん、おマメさんに息がかかっただけ…なのかな。
そこから先は、めくるめく恍惚状態に溺れ、意識を保っているのがやっとだった。彼が私の秘所を、唇で、舌で、鼻先で、指で、手のひらで、いろいろなところで執拗に攻めたてる。とくに、中に入れられた指を曲げられるたびに、体が跳ねた。
や…やだ、もう…だめ、いき…そう。…い、いく、いっちゃ、いっちゃう、い……っっんぅ…………。……ま、まだ、なの…もう、お、お願い。もう、入れて、あなたの、お願い、欲しい、の。あな、たの…お、おちん…ちん…欲、し、い…のっ!
何度のぼりつめたことだろうか。おしよせる快楽に翻弄されつつも、ようやく、それだけを伝えることができた。言葉に出さずとも、彼の好きなフレーズを紡ぎ出したことがわかったのだろうか、彼がにっこり笑う。
「じゃあ、いくよ…ユキコを、今日、これから、孕ませる。妊娠させるよ」
うん…きて…。ちゃんと妊娠、させてね。
ハラマセル…その暴力的な響きに、私のおなかの奥で子宮が「きゅぅ」と渇望の悲鳴をあげた…みたいな気がした。
彼が見せようと意識していたのかどうか、わからない。でも彼の屹立したモノは、しっかりと私の視界に捉えられていた。赤茶けてごつごつと節くれだち、待ちきれなさそうにひくひくと揺れながら、私の中に入るため視界から外れてゆく。
いよいよね。この瞬間だけは、こころの準備みたいなものが必要。だって、あんなに大きなものが私の体に、こじいれるように入ってくるんだから。…あ…来た…。んんっ、…んは…。内からぐいぐいと拡げられてゆく、狂おしいほどの圧迫感。
すごい。なんだかいつもより大きいみたい。彼のカタチがはっきりわかる。手で握っているような…ううん、もっとはっきり。なめらかな先端も、せり出した部分も、浮き出た血管も、わずかに胴震いする本体も…それと、ちょっと余り気味の皮まで。
彼をいっぱいに包み込む私。なんだろう…嬉しい。嬉しさで、私の体がゆっくりと満たされてゆく。足の指先まで暖かさがめぐってゆく。彼を受け入れていることの幸せ、それをいっぱいにかみしめている。気がつくと、彼も動きを止めていた。
気持ちいいのかな。気持ちよくなってくれているのかな。うふふ。彼の顔をみれば、それが、すぐわかる。唇を固くむすんで、目を細めている彼の顔を見れば。しばらくその幸せに浸ったまま、私たちは時計が刻む音の流れに身を任せた。
それから、彼は思い出したように律動をはじめる。ゆっくりと引き抜いたかと思うと、ぶぢゅん、という音とともに激しく突き入れた。水気たっぷりのいやらしい音を自分の秘所が奏でたと思うと、恥ずかしくてたまらない。
そんな私などおかまいなく、彼はますますダイナミックに腰を動かす。彼とつながった部分は、声を出せない私のかわりに、さまざまな音色で嬌声をあげはじめた。…気持ちいいのは、事実。ごまかしようがない。だからこそエッチな音がする、のかも…。
彼はときおり動きを止めては、私の顔を覗き込む。なにも言わないけど、気遣ってくれている。ありがとう。だいじょうぶよ。すごく、気持ちいいの。幸せ。だから、もっとよくしてね。大好きよ、あなた。…ぁん、あん。はんっ、んぁっ。
エラのようになった部分が、気持ちよいところを的確にこすりあげる。入ってくるとき、出てゆくとき、それぞれ違った向きで、私の内側にある快感の核みたいなところををぐいぐいと刺激する。そのたびに、目の前が何度もチカチカと瞬いた。
…ん…いい…。すごく…いい。相性が抜群なのだろう。私の体で欠けている部分に、彼がぴったりと合わさっている。欠けていた何かを、彼が補ってくれているみたい。これほどの充足感を与えてくれるひとは、たったひとり、彼だけ。
ふと気がつくと、彼が私の中で止まったまま、すこしの時間がすぎていた。うつむいたままで私を見るでもない。息も荒いままだし、出しているみたいな様子はないから、まだ終わりではないだろう。出そうなのを我慢しているのかな。あなた、どうしたの?
「ん、なんでもない。ちょっと休憩しただけ。あまりにユキコが気持ちよくしてくれるから、すぐイっちゃいそうでさ」
もう…わざわざそんなこと言わないでよ…ばか。
とはいえ、本音だったのだろう。次第にピストンが速くなり、息づかいも小刻みになってゆく。それからまもなくだった。奥の奥、これ以上は入らないというところまで彼のモノが突き入れられた。そして、ひときわ大きく膨らむ感覚。
「もう、やばい。出るよ、ユキコ。いっぱい出すよ。絶対にんし…うぁ」
べちゃり、どろり、どろっ、どろどろっ
確かにそんな音が聞こえた。生温かいものが胎内であふれたみたいだった。ぐわりぐわりと心臓の鼓動のようにリズムよく膨らんだり縮んだりしながら、大量の液体を吐き出す熱い雄の器官。粘りついた精液の感覚までが、はっきりとわかる。
女同士で花咲くエッチ談義では「中出しされてもわからない、膣をぎゅっと締めれば男性器の脈動がかろうじてわかる程度だ」って、みんな言ってた。たしかに、膣ってかなり鈍感だ。気持ちいいのは、あくまで内側からイイトコロを圧迫されたときだし。
でも、今日はまるで違っていた。いままで神経がかよっていなかった部分にも、あまさず張り巡らされたみたいだった。私のお腹の奥で繰り広げられているできごとを、両手で触っているかのように、目で見ているかのように、感じとれる。
そして、私も絶頂を迎えた。下腹部を満たしてゆく熱いほとばしりが全身をかけめぐってゆく。体が浮き上がるような感覚と、そのまま深淵にしずんでゆくような感覚がせめぎあう。チカチカとはじけていた光がだんだん大きくなり、そして目の前が真っ白になった。
私の中を幾度もうねる快感にあらがうことなどできるはずもなく、しばらくのあいだ、なすがままだった。登っては降り、寄せては引く。何度かとびそうになる意識をようやく保ちながら、その波が次第におさまってゆくのを、ぼんやりと待つだけだった。
耳の奥を何かが通り抜けてゆくような音。自分の意志と関係なく小刻みに痙攣している体は、お湯をかけられたみたいに熱い。それでもなお、私の中に注がれた液体は、それ以上の熱さをもっているかのように、その存在をひしひしと感じる。
半月、我慢させちゃったんだもんね。すごい量。うふふ、これなら絶対に妊娠できそう。ね、あなた。たくさん出てるよ。たくさん私の中に出てる。あなたの愛が、たくさん、流れ込んでくるわ。あなた、ありがとう。大好き…大好きよ。
彼のモノは、まだ弱々しく脈動をくりかえしていた。最後の1滴まで余すことなく私の中に送り込もうとしているのだろう…。それから、彼はふぅーっと長く野太い息を吐き、射精の余韻にまみれた表情で私に告げた。
「ユキコ、よかったよ」
わたしも。
「すごくたくさん出た。きっと受精するよ」
うふふ。そうね。すごい量だもんね。
「なんたって僕の精子はすごく…」
彼の顔色がさっと変わった。どうしたの?
「…ユキコ…?」
なあに?
「ユキコ…まさか。…どうして…どう…うぅ」
…どきん。心臓がつよく打ちつけられたような衝撃。彼に私の「言葉」が伝わっていない。そう…ついにその時がきたのね。…わかってた。わかってたけど…。
「ユキコ…泣いたらだめかい?」
もう泣いてるじゃないの。すっかりぐしゃぐしゃよ。
「いや…今こそ、泣くべきときだよな」
しわがれた声でつぶやきながら、彼は私の胸に顔をうずめた。すすりあげる音を感じながら、考える。
だいじょうぶ。私はだいじょうぶよ。だって、あなたの一部をわけてもらったんだもん。それも、こんなにいっぱい。だから、今は泣いていいよ。私も泣く。悲しいからじゃない。嬉しいから、泣くの。幸せだから、泣くのよ。そうでしょ?
ほら…あなたの生命の息吹が、私のなかを、のぼってくる。すごい勢い。ううん、錯覚じゃない。わかるの。奪われた「会話」の代わりに神様がわかるようにしてくれたのかもね。精子たちが、我先にあらそって、ひだひだのすきまを泳いでるのが、わかるわ。
あ、私の子宮。いりぐちが、ぐぐーって下がってる。あっ、すごい、すごい。いりぐちが、吸い付いてる。白いぬるぬるした精液に、吸い付いてる。とてもいやらしい光景だけど、神秘的ね。糸を引きながら、精子を吸い上げようとしてる。
ふふ…子宮のいりぐちは複雑よ。まよわないように、上がってきてね。一粒でも多く、お部屋に上がってきてね。赤ちゃんのための、だいじな、だいじな、お部屋に。
…!!
あなた、いま、来たわ。卵子。私のたまご。赤ちゃんになる、私とあなたの赤ちゃんになる卵子。いま、出てきた。ころころと転がりながら、踊ってるみたい。なんだか楽しそう。ふふ、あわてんぼさん。そんなに慌てなくても、そんなにすぐ精子は来ないわよ。
だから、今はゆっくりおやすみなさい。眠っているあいだに、いちばん元気な精子が、あなたのそばまで来てくれるから。彼が私のそばにきてくれたように。だいじょうぶ。きっと、来るわ。だから、だいじょうぶよ…。
いつのまにか、彼は私の横で寝息を立てていた。一生懸命がんばったんだもんね。ありがとう。私、幸せよ。ゆっくり休んでね。私も、今日は、おやすみなさい…。
→第九話 兆し