シャントット博士の淫らな失敗

 ――パチパチ…パチッ…!

 暖炉の火が爆ぜる音がして、シャントットは目を覚ました。裸のままではあったものの、身体はきれいに拭かれており、彼女は、何とか自分が助かったことを悟った。
「…博士?気がつかれましたか。」
 聞き慣れた低い声。アジド・マルジドが部屋から顔をのぞかせた。
「…帰りが遅いですことよ!」
 ホントは危ないところだったのだが、わざと眉根を寄せてアジドをにらむシャントット。しかしアジドは謝らなかった。
「びっくりしたのは俺の方です。これはいったい何なんですか?」
 彼が指しているのは、もちろん先刻の巨大モルボルのことだ。
「わたくしがあのモルボルで何をしていたか、見たのでしょう?」
 シャントットが逆に質問で返すと、アジドは口ごもった。しかし、逃げたい気持ちを何とかこらえる。

「…俺が、忙しいからですか…?」
 最近色々と忙しくて、シャントットの連日連夜のお誘いにも、ろくに応えられない。そんな後ろめたさは、正直あったのだ。しかし、シャントットはホホホッと笑って答えをごまかした。
「わたくしが呼べば、あなたは口の院の仕事が立て込んでいるのでない限りはやってきてくれますわ。最近は忙しくてなかなかこちらには来られないようですけど。」
「…。」
「それはとてもありがたいことだと思っていますわ。でもね、わたくしを大切にする以上に、あなたには大切にするべき人がいるのではなくて?」
 アジドは、シャントットが、自分に恋人がいるのではないかと言っているのかと思った。あわてて首を横に振り、否定の意を伝える。
「じょ、冗談じゃないです!俺にそんな人はいません。女なんてうるさくて煩わしいだけのイキモノなんざ、妹だけで充分です!」
「…うるさいとか煩わしいとか、そんな考えだから、妹さんの気持ちはおろか、ご自分の気持ちすら、分からないのじゃなくて?」
 シャントットの言葉は、とても重要な意味を含んでいたのだが、残念ながら今のアジドには通じなかったようだ。
「い、妹の気持ちなんざ、分からなくたって俺は生きていけます!」
 なぜか真っ赤になって言い捨て、庵を飛び出そうとするアジド。しかしそれを、シャントットの見えない強制を含んだ声が追いかけた。
「アジド・マルジド。こちらへいらっしゃい。」
 さすがにその声に逆らうことはできない。アジドは「失礼します」とつぶやいて、シャントットのベッドがある寝室に足を踏み入れた。彼女は裸の上半身を布団で隠すように持ち上げ、ベッドに座っていた。

「…わたくしは…。」
 シャントットがここで珍しく口ごもった。怪訝な顔をして自分を見るアジド。この鈍感な弟子に分からせるには、まずは今の自分の気持ちを包み隠さずさらけだすしかない…。彼女は改めてアジドの目を見つめ、自分の気持ちを吐露した。
「わたくしは…怖かったのです。鼻の院特製の魔法機械じかけのモルボルが、まさか暴走するなんて。そしてわたくし自身が、それによって追い詰められていることに、ぎりぎりまで気がつかないなんて。そして、もしあのタイミングであなたが帰ってこなかったら…わたくしは、博士という地位も名声も、一瞬の内に失っていたかもしれません。」
「…。」
 アジドは呆然と師匠の気持ちを聞いていた。天下無敵のこの方が、怖がっていたなんて…俺は全然知らなかった…。
「だから、わたくしには、あなたが必要なのです。くだらぬ民衆のゴシップから、全力でわたくしを守ってくださる、あなたが必要なのです。」
 民衆や冒険者の間では、シャントット博士がアジド・マルジドと連夜お楽しみ、という噂が既に流れていた。それが未だにただの噂だけですんでいるのは、ひとえにアジド・マルジドがぎっちりと報道規制をしいているからだ。「週刊魔法パラダイス」の記者ヒウォン・ビウォンがずーっと張り付いていることも知っている。しかしアジドは、彼の取材の申し込みを、今後も一切受けるつもりはなかった。シャントットの名誉を守るためには、あらゆる取材を受けずにいるしかないのだ。

「俺は、博士を守るためなら何だってします。」
 アジドの言葉は、シャントットに対して「だけ」は、いつも素直だ。シャントットは上半身にかぶっていた布団をはらりと下に落とし、アジドの浅黒い手に自分の白い手を重ねた。
「わたくしは、怖かったのです。…実を言うと、今も震えが止まりません。アジド、いつものように…。」
 「いつものように」それは、2人の合言葉のようなものだった。彼は、「結局博士は、自分が淋しくて、俺に抱いて欲しかっただけだったのか…」と頭の中でつぶやきながらも、シャントットの手を握り返しながら、やわらかく唇を奪った。帽子とローブのフードを器用に片手で脱ぎ捨てながら、アジドはシャントットを巻き込むようにベッドに倒れこむ。ローブをはだけながら彼女を抱きしめ、その長い耳に唇をつけんばかりにささやいた。
「シャントット博士。俺がついています。どうか、気弱なことはおっしゃらないでください。」
「ぁふん…アジド…今日もまた…元気ですことね…。」
 シャントットの手は、アジドのズボンの上から、既にいきり立ち始めているアジド自身を優しくさすっていた。彼は素早くローブとズボンを脱ぎ捨て、改めてシャントットを抱きしめて唇を貪った。
「……ん。…んふ…ぅんっ…。」
 唇からほほ、長い耳へと順にキスして行きながら、アジドの手は、ゆっくりとシャントットの身体の敏感な部分を的確に刺激し始めていた。胸をゆっくりともみしだき、桜色の先端をくりくりと指先でこねてやると、耐え切れないような甘い鳴き声が上がった。

「ぁ…んはっ……あぁん…。」
「怖かったって言いながら…すごく、敏感じゃないですか…。」
 アジドが長い耳に舌をはわせながらささやくと、シャントットの身体がびくんと快感に震えた。
「ぁ…さっき…んっ……モルボル…に、いじられてたから……ぁああんっ!」
 実際、モルボルに塗り込められた催淫粘液がまだ体内に残っているせいだろうか。シャントットは確かに普段より敏感になっているようだった。
「ここも、すごく、濡れてる…。」
 アジドの片手は、既に愛液がわきでる泉に達していた。ぬるぬる、くちゅくちゅと、わざと音を立ててかき混ぜてやると、シャントットは唇をかみ、頭を振って快感に耐えている。それを見たアジドは、人差し指でぐちゅぐちゅと泉をかきまぜながら、中指でぷっくり立ち上がった肉芽をこりこりこねたり、ピンと弾いたりしてみた。
「っはぁん!…はあああああっそれダメぇ…ぃやぁん!…ぁん…。」
 固くかみしめていた唇がもろくもほどけ、甘く淫らな鳴き声がもれる。この方以外に、大切にして守るべき人なんて、いるわけないじゃないか…。自分の下でびくびくと身体を震わせて悶え乱れるシャントットを見ながら、アジドは思った。その思いを表現するために、あらためてシャントットをやわらかく抱きしめ、未だ淫らな吐息がもれるチェリー色の唇を、自分の唇でふさいだ。片方の手をずっとシャントットの秘所にあてがい、敏感な肉芽をこねたり弾いたりしながら、もう片方の手で乳首をこね、さらに互いの舌をからめあわせて蹂躙する。シャントットもそれに応えるように、両手でアジドの頭をぎゅっと抱きしめ、自分から唇をついばみ、舌に吸い付く。そして、もうガマンできないというように、自らの腰をアジドにすりつけ始めた。

「博士、俺…もう……いいですか?」
 アジド自身ももう待ちきれないようで、ギンギンにいきり立ち、先から透明な露がこぼれ始めていた。それを見たシャントットは、潤んだ瞳のまま、こくりとうなずいて、身体を開いた。
「きて…。…早く、なさい。」
 いつもの、高飛車な口調が少しずつ戻ってきている。アジドはそれにちょっと安心したのか、彼にしては珍しく、笑みを浮かべた。いきり立った自身を握り、先端部分でゆっくりとシャントットの入り口をこねてやると、くちゅ、ぬちゅ、といやらしい粘液の音がひびいた。
「博士…いきますよ…。」
 アジドは低くつぶやき、シャントットが力なくうなずいたのを確認してから、彼女の腰を抱いて一気に撃ち込んだ。先程までモルボルの触手が蠢き、催淫粘液を内側と外側の両方から塗り込められていたシャントットの秘所は、泉のように愛液があふれ、新たな刺激を求めてひくひくと蠢いていた。博士とモルボルの痴態を見ていたせいか、アジドはいつもより大きく固かったのだが、シャントットのソコは、いともたやすくその口を開け、アジドのモノを根元までくわえ込んだ。
「ぁっ…ん……いつもより…おっきぃ…ですわっ…!んあぁあっ!やぁぅ…。」ぱちゅん、ぴたん、ぱちゅん、ぴたん…
 いつもよりも余計に淫らな気持ちになっていたシャントットは、今日は自ら貪欲に腰を振って、アジドのモノを締め付け始めた。アジドはいつもなら自分が動いてシャントットを気持ちよくするべきところだったので、彼女の意外な動きに驚いている。しかしそれはもちろん、彼にとって今までにない、とてつもない快感であったことは想像に難くない。
「…はっ…く……っ…うぅ…!」
「イ、イイ、ですわ…アジド……んんぁあっ!…ぁ…わたくし…もぅ…!」
「ぅあっ…く……お…俺…も……っくぁ…!」
 その後、少しの間、2人の肌がぶつかる音と、激しい息遣い、そして、シャントットの甘い鳴き声が部屋に響いた…。



 ――ぴたんぴたんぴたんぴたんぴたぴたぴたぴた…。

「…っはっ…くぅあっ……出る!!」
 シャントットの中が急激に締まり、アジドは激しく搾り取られるのを感じながらシャントットの中に白濁した欲望を放った。
「んあぁん…やぁイクッ…イッちゃ…ぁ…ぁはぁあぁあぁあぁあぁんっ!!」
 アジドの熱い精が放たれるのを感じながら、シャントットは目の前が何度も激しくフラッシュして弾けていくのをおぼろげに見ていた…。自分でも信じられないくらいの甘い鳴き声を上げて果てながら…。


…☆…☆…

「…で、このネジが外れていたから、機械部分がうまく制御されてなかったのですよ。」
「ネジ1本であんなことになるなんて、機械もあてになりませんことね。」
 コトがすんで落ち着いたシャントットは、アジドからモルボルの暴走原因を聞き、呆れたように鼻を鳴らした。
「これは、即刻鼻の院に突き返してしまいましょう。」
「そ、それがいいと、俺も思います。」
 シャントットがあっさりとモルボルをあきらめたことに、アジドは内心ほっとしていた。これを使われるたびに、自分も毎回彼女の性欲処理に借り出されるかもしれないのでは、たまらない。
「…本当は、これがあれば、アジドの手をこれ以上煩わせずにすむと思っていたんですのに…。」
「俺の手を煩わせる…?俺、そんなこと思ってないですよ。」
 シャントットのつぶやきに、アジドは首をかしげつつ、ごくごく素直に返してくる。
「…。あなたのその素直さは、わたくしにではなく、あなたを本当に心配し、思ってくれている方にこそ、見せてあげるべきではなくて?」
 何も分かっていない彼には、今はこのくらいのヒントしか与えてやれない。シャントットは意味ありげにウインクして見せたが、アジドはやはり首をかしげたままだった。
「…俺には、そんな人、いません!」
 胸を張って言い切ったアジドに、シャントットは呆れつつも高笑いした。
「ホーッホッホッホッホッ!なら、今はそれでもよござんす。…さ、アジド・マルジド。これを鼻の院へ運ぶのに付き合ってもらえて?」
「かしこまりました。シャントット博士。」


…☆…☆…

 ウインダス森の区。手の院の裏庭。
「えぇっ!?カーディアンをそのように改造するのですか?」
 シャントットの極秘の提案を聞いた手の院の院長アプルルは、思わず声を上げて驚いてしまった。対するシャントットは冷静そのものだ。
「そうですわ。わたくしがあなたのお兄様を酷使し続けると、あなたにも『色々と』支障があるのではなくて?」
「…っ?」

 シャントットが意味ありげに笑いかけると、手の院の院長アプルルは、どういうわけか自分の顔がぽーっと赤くなるのを感じずにはいられなかった。ややあって、アプルルは真っ赤になったまま、手をぶんぶんと振って言い訳を始めた。
「おおおおおにいちゃんは、シャントット博士がお元気なのが、いちばん幸せなんだと思います。…ウインダスの平和を守るカーディアンを、そのようなことに使うのは、私にはちょっと…できません…。」
 それを聞いたシャントットの目が、邪悪な光を放ったのをアプルルは見逃さなかった。シャントットはにやりと笑みを浮かべながら、アプルルの耳元にささやいた。
「なら、アプルル。あなたの秘密にしているネタを、お兄様と、わたくしの庵の周りでうろついている新聞記者にばらしてしまうつもりですけど、それでもよろしくて?」
 アプルルは一気に青ざめてぶんぶんと首を横に振った。
「いいいいいいいやです、それだけはやめてください!……わかりました。シャントット博士のご期待に沿えるものを、作ってみます…。」

 シャントット博士が高笑いと共に去っていった後、アプルルは一気に憂鬱な気持ちに落ち込んでいた。
「何で私の秘密を、シャントット博士がご存知なの…?おにいちゃんにバレたら、きっとタダじゃすまない…。」


アプルルの淫靡な実験