アジド・マルジドの贅沢な憂鬱


 ウインダス森の区。そのほぼ中央に、手の院はあった。ウインダスの都を警護し、時にはマスコットキャラクターともなる、通称「カカシ」と呼ばれる機械人形・カーディアンを製造、教育する政府機関である。
 夕方。戯れにカーディアンにヘンな言葉を教えにくる冒険者達の数もまばらになり、職員達も今日の業務の仕上げに入る頃。手の院の奥まったところにある院長室の扉はきっちりと閉められ、ご丁寧に内側からカギまでかけてあった。その中では…。

「…よし、これでいいわ。」
 手の院の院長、アプルルが1人でカーディアンの調整を行っていた。しかし、彼女が調整しているカーディアンは、普通にウインダスの街中を闊歩しているそれとは違う。人間でいう股間に当たる場所(カーディアンは足の代わりに車輪を用いて移動するので、この場合は胴体と駆動部分をつなぐ場所を指す)に、人間の男性のソレを模した大きな張型のアタッチメントがそびえ立っていたのだ。
「最後は…。…やっぱり私自身で確かめなくては…。こんなこと、他のスタッフには絶対に頼めないものね…。」
 調整を終えたアプルルが部屋の中央にでんとすえてあるベッドに移動すると、カーディアンもついてきた。この特製カーディアンの使い心地を自分の身体で確かめる。ベッドによじ登ったアプルルは、覚悟を決めてカーディアンに背を向け、帽子とフードをはずしてローブを脱ぎ始めた。
 切なそうに瞳を閉じながら、徐々に一糸まとわぬ姿になっていくアプルル。彼女の脳裏では、後ろに控えているカーディアンが、かつて彼女と愛し合い、婚約寸前までいった恋人へとその姿を変えていっているところだった。

(…そういえば、あのときもこんな感じだったっけ。彼がこっそりとここの窓から入ってきて、このベッドの横に控えていて。そして…。)
 …そして、存分に愛し合った後、彼はアプルルの頭をなでながら、すまなそうに言ったのだ。
「君とは、これで終わりにしよう。やっぱ俺、あの方の義理の弟になる覚悟なんてできないんだ。身内になるからって決して甘くなんてしてくれないだろうし。いつ死ぬかわかんないってコトになるだろ?俺そんなのイヤだから。」

 いつも忙しくて、いつも赤字決済の山に囲まれている手の院の院長とはいえ、アプルルとて妙齢の女性。しかも優しくて気立てもいいときている。思いを寄せてくる男性は、決して少なくはなかった。…しかし、1つだけ重大な欠点があったのだ。―それは、彼女の兄、口の院院長にして戦闘魔導団長のアジド・マルジドその人であった。アプルルと結婚するという事、それはつまり、あのアジドの義理の弟になるということなのだ。彼の恐ろしさを知る男達は、アプルルが彼の妹であると分かるが早いか、その顔にあいまいな笑みと明らかな恐怖の色を浮かべて、彼女の前から去っていってしまうのだった。あの婚約寸前までいった彼で、もう何人目であったろうか…?

(あの日も…いつもみたいに、こうやって私が服を脱ぐと、彼も同じように脱いでて、私を抱きしめてくれた…。)
 恋人との在りし日を思い出したアプルルの、何もつけていない股間がじゅんと濡れた。ここはアプルルの大事な研究室。神聖なる仕事場だ。
いくらシャントットから頼まれたことのためとはいえ、スタッフや冒険者達に、自分がこんなことをして甘い声で鳴いているところなんて見せられるわけがない。そう思えば思うほど、彼女の股間は熱い液体を徐々に滲ませてくる。…あぁ、私、こんな状況でこんなことして、感じちゃってるんだ…。その確信は、アプルルの理性をただ溶かし、あの時と同じような淫乱な雌へと堕としていくのみであった。

 生まれたままの姿になったアプルルは、ベッドにしどけなく横たわった。身体をはすに開いて誘う仕草をすると、カーディアンはかすかに車輪の音をさせながらベッドの際に寄ってくる。(当然のことながら)無表情のままアームを伸ばし、アプルルのほのかにふくらんでいる胸に小さなボールのような指をあてがった。それと同時に、そのボールに仕込まれたバイブレーションが作動し始めた。ウイーーンというかすかな音を響かせながら、カーディアンはアームを回転するように動かし、アプルルの胸を揉みしだき始めた。時々バイブの仕込まれた指先が彼女の乳首の周辺をそっとなぞったり、乳首自体をねっとりとこねたりすると、アプルルの口から甘い吐息がもれた。
「…っ…ぁはぁっ……っん…ふぅっ…。」
 窓を閉め切り、扉にカギをかけてあるとはいえ、快感に突き動かされるままに甘い喘ぎ声など出しでもしたら、好奇心旺盛な冒険者はおろか、スタッフ達に示しなんてつくわけがない。…ここでスル場合は、どんなに気持ちよくても喘ぎ声を出したり、ましてやヨガリ鳴くなんてことは絶対に許されないのだ。アプルルは身体が冷えないように毛布を軽くお腹にかけ、角を丸めて口に押し込んだ。しかし、そうしている間にも、想像の中の彼(カーディアン)はゆるゆると胸全体を撫で回したかと思えば、すっかり立ち上がった敏感な乳首をやや乱暴にこねまわす。絶妙な力で乳首をこねられるたびに、アプルルの口から耐えきれないというような淫らな吐息がもれる。声を決して出さないように、彼女は毛布に爪を立て、腰をくねらせる。しかし、その動作も今は、カーディアンがさらに彼女を攻め立てるようにする誘いの行動にしかならなかった。
「ふ…っ…んん……はぅっ…ふーっ。」

 快感のあまり腰をくねらせるアプルル。その腰をカーディアンのアームががっちりと押さえ込んだ。残ったもう片方のアームは、当然のごとくアプルルの下半身へと伸びていく。指のバイブレーションが空気を震わせながら秘裂の周辺をゆっくりとこね始めると、声を出すことができない分、余計に興奮が高まっているアプルルの腰が、激しい快感にびくんびくんと跳ねた。
「ぅふっ!!…ん…はふぅ……ふっくぅ…ん…!」

 オレンジ色の夕日が差し込む院長室で、冒険者やスタッフに見つからないよう声を殺しながら、シャントット博士から頼まれた実験と称して、かつて愛し合った彼氏に見立てたカーディアンと淫らな行為に耽っている…その事実は、アプルルをどうしようもなく濡らし、感じさせていた。
カーディアンの方も、それをわかっているのだろう。仕込まれたバイブを小刻みに動かしながら、ぬらぬらに濡れた秘裂をゆっくりなぞったり、執拗にこねまわしたりして、余計にアプルルを濡らし、感じさせていく。やがて、その指先が、もうはちきれんばかりにぷっくりとふくらみきった敏感な肉芽に狙いをつけた。軽くバイブした指先が、そっと肉芽にふれた、その瞬間。
「はぅっ!!――――ッ!!!」
 アプルルはきつく毛布をかみしめてツメを立て、腰を無意識にびくんびくんとはねさせてイッてしまった。しばらくの間彼女が絶頂の余韻にひたっている間、カーディアンはアームで両脚を割り開いたまま、表情のない目でアプルルを見つめ続けていたが、下半身にそびえ立ったアタッチメントだけは全体からぬるぬるとしたオイルを染み出させ、彼女の中に進入していく準備を万端整えていたのだった。

 絶頂を抜け、ようやく息を整えたアプルルの潤んだ目に映ったのは、オイルで全体をギトギトヌルヌルに光らせた、カーディアンのそそり立ったアタッチメントだった。カーディアンは両腕のアームでアプルルの脚を押さえ込み、張型の先端部分をゆっくりと彼女の秘裂に埋め込んでゆく。ずぷり、ぬちゅり…。
「…っん……んふ…っ…。」
 先程の指などとは比べ物にならない程の大きな質量がゆっくりとねじ込まれてくる…。実際の人間のモノとは違う明らかな異物感と、それによってこれからもたらされるであろう快感への期待で、アプルルは腰をくねらせた。それは傍から見ているだけでもぞっとするほど色っぽい光景であった。
(…私がこんなことしてるなんて、おにいちゃんは絶対知らないんだよね…。)
 アプルルは、自分がなかなか結婚できない本当の理由を、兄であるアジド・マルジドにだけは知られたくなかった。あの兄がいるから、自分を好いてくれている男性達が恐れて近づいてこないなんて、その本人に言えるわけがないのだ。きっと「妹を泣かせたのはお前らかぁあああああ!!」と怒りの叫びを上げて男達を真っ黒な消炭にしてしまうに違いない。兄は何だかんだいって自分をいちばん心配してくれている。それだけに、結婚できない本当の理由を知ったらどうなるか…。もしシャントットがそれを兄にバラしてしまったらどうなるか…。それを思うとアプルルは、兄が心配なあまりに余計に結婚や交際ができなくなっていくのであった。
「んふぅっ…はぅ……ふーっふーっ…。」(こんなことになってるのって…おにいちゃんのせいだよ…おにいちゃん…。)
 彼女の思考は、だんだんと甘い快感の波に押し流されていこうとしていた。喘ぎ声だけは出すまいと毛布に噛み付き、ツメをたてて意識を新たにするが、カーディアンは張型をゆるく回転させながら、ズン、ズンと的確に奥の方まで突いてくる。最奥部の最も感じる場所を、これでもかというくらい、的確に突いてくるのだ。

(…おにいちゃん…責任…とってよぉ…!)
 とろけきったアプルルのこんな思考が脳裏をよぎった瞬間、アプルルの身体の奥底で、快感が爆発した。目の前が真っ白にかすみ、思わず毛布をかんだまま白いのどをのけぞらせ、腰をびくんびくんとはねさせる。
「…っんふぁっ…ぁはぅっ!!――――――ッ!!!」
 カーディアンのアタッチメントは、アプルルがイッた後も数分間、ゆっくりと回転しながら彼女の敏感な部分を抉り続けていた。アプルルは毛布をかみ、ツメを立て、腰をくねらせながら数分間、満足するまでイキ続けたのであった。


…☆…☆…

 元通りにローブをまとい、張型のアタッチメントを丁寧に水で洗っているアプルル。いとおしむように手でなでて洗っているうちに、彼女の表情には再び赤みがさしてきている。(…最近何かおかしい…私、また欲情してきてる…?)窓からは先程よりかは幾分弱まった夕暮れのオレンジ色の光が差し込んでいる。彼女から見えない位置、窓のそばのしげみで、録画用の水晶玉を手に、感嘆のため息をもらす男が1人いた。
「…こ、こいつはスクープだ。世紀の大スクープだ。喘ぐ吐息もつぶやきも、全部鮮明に入ったぞ!」
 「週刊魔法パラダイス」の記者ヒウォン・ビウォンだ。ずーっとシャントットの庵の周辺に張り付いていたはずなのだが、ちょっと腹ごしらえにといつもの場所を離れたついでに、港の口の院、森の区の手の院と順番にのぞいて見たらば…まさに棚からぼたもちであった。水晶玉に映るアプルルのあられもない姿を見ているうちに、ヒウォンの脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
「…そうだ。こいつをそのままスクープとして使うんじゃなく…利用してやろう。」

 そうと決まれば善(?)は急げ、だ。ヒウォンは水晶玉の映像がきちんと保存されているのを確認してからカバンにしまいこみ、一路石の区、シャントットの庵へと急いだのだった。


ヒウォン・ビウォンの甘美な受難