←―アルーア・シュドリアンヌの手記―
←―アルーア・シュドリアンヌの手記2、ジューン・ラウリンドの広告―
ナダ・ソンジャ:ミスラF7B
アルーア:エル♀F3A
ジューン:ヒュム♀F1A
メトト:タル♀f4A
所長 タル♂f3A
「ふにゃぁー」
船着場を降り、港から出ると思わず感嘆と呆けの入り混じった声を漏らす。
口を半開きにしながら辺りを見回す、ナダ。
ジュノに勝る程の人並みに、喧噪。
乾いた風が吹き抜けると、ちょっと埃っぽさを感じるのはレンガの町並みのせいだろう。
眩しくも優しい色合いの青空に、白い雲。
頭に布を幾重にも巻いた「ターバン」を着けた人達をあちらこちらに見かける。
強面の冒険者らしき者や、警備隊らしき者まで、ただならぬ空気を持ち合わせているように見える。
目に映る様々な光景に、ナダはただ立ち尽くす事しかできなかった。
「ナダさーん」
しばらく立ち惚けていると、懐かしい声が聞こえてきた。
正面の上…… 一階の屋根を通路とした多層構造式の所に、その声の主が手を振っている。
少し明るい栗色の髪の毛で、後頭部の頂に揺れるポニーテール。
自分より少し先にアトルガン皇国に旅立った同僚、ジューンだった。
「ジューンさーん、お久しぶりにゃーん」
思わず笑顔が浮かび、大きく手を振って返す。
ジューンは小走りで階段を降り、ナダの方へと向かう。
「待ってましたよ、ナダさん。また一緒にお仕事できるなんて嬉しいです」
ナダの手を取り、満面の笑顔で迎えてくれる、ジューン。
思わず胸が熱くなり、未知の土地に辿り着いたという不安など一欠けらも無くなった。
「さっ、アル―アさんもナダさんのこと、お待ちしてますよ。行きましょう」
「はいですニャ!」
ナダはジューンの言葉に、元気一杯で返事をした。
アトルガン白門、茶屋シャララト。
店内の座敷に座る、二人の女性。
いつもならそこに座っているのは、すらりとした美しい体のエルヴァーンに、雪のように白い肌のヒューム。
だが今日は馴染みの二人ではなく、ヒュームでは無くミスラが腰かけている。
アルザビコーヒー一つに、チャイが一つ。
「で、ナダは何の目的でここに来たワケ?」
ナダが持ってきたパママのタルトを齧り、アルーアは言葉を投げ掛ける。
「はいー、ジューンさんの皇国の広告を見て、とっても楽しそうだにゃーと思いまして」
淹れたてのチャイを冷ますように息をフーフーと吹きかける。
「楽しそう、ねぇ……」
「はいですニャ」
子供のような物言いに、呆れたような表情のアルーア。
「はい、ナダさん」
カウンターでオーダーしていたジューンが、チャイとシュトラッチを持って座敷に腰掛ける。
シュトラッチをナダの前に置くと、にっこりと微笑んだ。
「皇国名物シュトラッチ、食べないと損ですよ?」
「わぁー、いただきますニャ!」
添えられたスプーンを手にし、はしゃぐナダ。
「まっ、人手が増えるのはありがたいことだわ。私の書く皇国特集は口調が厳しすぎるってジューンからも言われてるし……」
アルザビコーヒーを一口啜る。
「いつまでたっても特集が出来ないんじゃ、私の首だって危ういわ」
ふぅー、と一息つくアルーア。
「任せといてくださいニャ、アルーアさん! わたしが来たからにはガルカにハンマーですニャ!」
「ふふ、頼もしいわね。それじゃ、ナダにはどんな仕事をしてもらおうかしら?」
アルーアの問いかけに、ナダは手を止める。
「ええとですね、わたしは五蛇将っていう人達にインタビューをしたいと思ってますニャ」
「五蛇将の方々に?」
ナダの言葉に、ジューンが身を乗り出す。
「はいー、もし皇国の特集雑誌を作るとしたら、やっぱり有名人の生の声が欲しいかにゃーと思いまして」
チャイを一口啜り一息つくと、ナダは再びシュトラッチに手を付ける。
「うーん、良い発想だとは思うけど……ええと、この茶屋によく来るヤツに一人のタルタル詩人が居てね……」
アルーアは鎮痛な面持ちで、話を続ける。
「ファリワリっていうヤツなんだけど……こいつが最近、冒険者を使って五蛇将の過去とか馴れ初めを聞きだして、詩にしたのよ」
「ええ……ガダラル将軍とミリ将軍の詩はひどいものでしたけど……」
ジューンもばつが悪そうに、人差し指で頬を掻く。
「だから、五蛇将へのインタビューは、どんなにうまいコラムになっても二番煎じになっちゃうかも知れないわ。だから……」
「だいじょーぶですニャ、アルーアさん」
ナダは二人の様子と反し、明るい声で答える。
「その詩人の詩は、一般大衆向けに作られた英雄譚でしょーし、脚色もあるでしょーし」
シュトラッチを食べ終え、チャイを一口。
「そんなの楽しめるのは大衆だけですニャ。わたしのインタビューは冒険者のみなさんにも楽しんでいただけるよーな、五蛇将達の生の声をお届けしますニャ」
自信満々、と言った様子のナダに、二人は顔を見合わせる。
しばし静止すると、再びナダに向き直る。
「ま、まぁそこまで言うなら……構わないけど」
「安心してくださいにゃ、ヴァナ・ディールトリビューン本社の看板にドロを塗るようなマネはしませんニャ」
とん、と胸を叩き、ナダは気合十分といった感じだ。
「……解ったわ、それじゃお願いするわね、ナダ」
アルーアの言葉に、顔を輝かせるナダ。
「任せてくださいニャ!」
「はい、これ。アルザビとアトルガン白門の地図。この赤い印の所に私とジューンの泊ってる宿があるから、何かあったらここに帰ってきなさいね」
地図を渡されたナダは早速、
「ありがとうございますニャ! 早速いってきますニャ!」
と言い、懐をまさぐってその場にお金を置いて、勢い良く走り去って行った。
「別に私の奢りでいいんだけどさ……これじゃ足りないよ、ナダ」
溜息をつくアルーアを見て、ジューンはさぞ楽しそうに笑っていた。
場所を移して ―――
アルザビ。
まずは環境に馴染もうと考えたナダは、アルザビの大通りに店を構えた織物屋に行き、衣服を新調した。
今現在のアトルガン皇国の流行である「アミール・ファッション」と呼ばれるものらしく、赤を基調としたデザインで、
所々に象牙色の生地を組み合わせた服である。
もちろん本来は皇国に使える兵士や、傭兵業を営む者達が着込む戦装束であり、本当なら服の下に鎖帷子や
布の中に金属を埋めて縫い合わせたものなのだが、今ナダが着ているものはイミテーション……
すなわち、見た目だけ真似たと言うただのお洒落着である。
「よしっ……と。準備万端!」
服を身体に馴染ませるかのように、肩を回したりするナダ。
心なしか周囲からの視線をちらほらと感じるが、自分がまだ皇国に馴染んでいないのが解るのかも知れない。
まぁ、今日来たばかりなので仕方がないかぁ、と胸のうちで呟く。
愛用のペンと手帳を持ち、アルーアから渡された地図を広げた。
顎に手をやり、ペン尻で地図を叩く。
各将軍の持ち場が青いインクの丸印で囲ってあり、その横にはしっかりと各五将軍達の名前も記してある。
アルザビに場所を移す前に、冒険者や街の人々から聞き込みである程度の知識は得ておいた。
各将軍達の評判は上々で、これは良い対談のコラムが書けそうだと確信していた、ナダ。
空を見上げ、深呼吸。
「レッツゴー ニャー」
腕と尻尾を同時に振りながら、ナダは足を進めた。
「あのー、こんにちはー」
「ぬ?」
アルザビの玄関とも言える、監視塔と水路の区画。
ワジャーム樹林とバフラウ段丘へ通じる門を一望できる、橋の上。
臙脂と黒を基調にした鎖帷子を着た、背の高いエルヴァーン。
その背には、皇国の将たる証の、二双式刃の両手剣。
かの高名な天蛇将、ルガジーンに、ナダは声を掛けていた。
「お忙しい所すみませんにゃ、わたしはナダ・ソンジャと言いますニャ」
「こら、そこのお前! 気安く声を掛けるでないぞ!」
後方から激が飛ぶ。
シパーヒ装束に身を包んだヒュームの女性がにじり寄り、ナダの肩を掴んだ。
「ビヤーダ、穏便にするのだ」
落ち着け、と言わんばかりに手で制する。
ビヤーダと呼ばれた女性は渋々と、ナダの肩から手を離した。
「私の部下がとんだ失礼をした、申し訳ない。私はアトルガン皇国軍天蛇将のルガジーン、何の御用かね」
軽く一礼し、颯爽たる物言いに立ち振る舞い……其の身から滲み出る風格。
ナダは思わず小さく頷き感心した。
「……?? 如何した?」
「ああ、ごめんなさいですニャ。噂通りのお方と、つい感心してしまいまして」
ルガジーンに対し、深々と頭を下げる。
「実はわたし、はるか西の国から船に揺られてやってきました、とある雑誌記者達の一人なのですニャ」
「遠路はるばる皇国に参じた幾人かの文書きの話は耳にしている……記者魂ここにあり。恐れ入る」
「そこでですニャ、いちコラムとして五蛇将様達との本音の対談の場を設けたいと思いまして……よろしければ、インタビューをお願いしたいのですニャ」
ナダの言葉を聞き、ルガジーンは腕を組み顎に手をやって考え込む。
「つい最近、旅の詩人が私達五蛇将の詩を作り、吹きまわっていたが……そういった類の話かね?」
怪訝そうに眉をしかめるルガジーン。
「いえいえ、そういった英雄譚のようなものでは無くて、冒険者や傭兵などに向けての雑誌なので、脚色ナシの生の声を皆さんに聞かせたいのですニャ」
「将軍と言う肩書はあれど、我々は凡庸な軍人だ。最低限の学はあるにしろ、決して語彙が豊かである訳ではない。そんな我等との対談を雑誌に載せても、皆の眼を楽しませることなど不可能ではないかね」
「そのままの皆さんを伝えたいのですニャ。ルガジーン様の皇国に対する熱い思いとか、そういった素直な言葉を載せたいのですニャ」
ふむ、とナダの言葉に更に考え込む様子。
瞳を閉じて考え込み、しばらく間を置くと、
「解った、幸いにも現在蛮族の動きは見られない。私で良ければ、何なりと答えよう」
ルガジーンの返答を聞き、ぱぁっと明るい顔になるナダ。
「ル、ルガジーン様! 何故そのようなお戯れを!」
一歩下がっていたビヤーダが、言葉を投げる。
「戯れなどでは無いぞ、ビヤーダ」
組んでいた腕を解き、咳ばらいを一つ。
「私の皇国に対する思いを読んだ者達が感化され、立ち上がってはくれんかと淡い期待からの判断だ」
真剣な眼差しのルガジーン。
決して戯れや気紛れなどから引き受けたのではないという意思が、見てとれる。
それを感じ取ったビヤーダは、もう口を挟まなかった。
「ありがとうございますニャ」
ビヤーダとルガジーン、二人にお辞儀をする。
―― アトルガン突撃インタビュー ――
テーマ:五蛇将
インタビュアー:ナダ・ソンジャ
回答者:天蛇将ルガジーン
― 初めまして、この度はお忙しい中、わざわざありがとうございます。
ルガジーン(以下 ル):お気遣い無く。お手柔らかに頼む。
― 五蛇将を束ねる皇国の守護神と謳われる天蛇将の立場であるとのことですが、どのような経緯で今の位に?
ル:その事については以前旅の詩人が詩にしたと思ったが……もう一度聞かせた方が良いかね?
― これは失礼致しました、では別の質問に移ります。最近の皇国の兵について憂いを感じておられるとのことですが、それは一体どのような?
ル:そうだな……私自身が言うのはおこがましいが、最近の皇国兵は我等五蛇将を奉るかのような目で見ている。本来その目は聖皇様に向けるべき眼差しなのだが……困ったものだ。
― 兵士の方々は前線で活躍する五蛇将を目の当たりにしますから、仕方のない事なのかもしれませんね。
ル:聖皇様は誰よりも皇国の未来を憂いておられる……その思いが皇国の民に伝わらぬのは歯痒いものだ。時に聖皇様の御命を狙う不届き者も街に潜むせいもあり、その御姿を見知らせられぬのもある。
― ルガジーン様は、聖皇様を拝観なさったことがあるのですか?
ル:申し訳ないが、それについては口を噤ませて頂きたい。
― 解りました、次の質問です。民衆や兵士、冒険者や傭兵の方々からも人気の高いルガジーン様ですが、それについてはどう思われますか?
ル:慕われる事は純粋に嬉しいことだ、特に冒険者や傭兵の者達は皇都を護る同志みたいなもの。特に戦での彼等の伝令、戦術には我々も大きく助けられている、ありがたいことだ。
― ガダラル将軍とのカップリングが良いという声が、一部の女性冒険者達から挙がっていますが。
ル:ワラーラ哲学を少々嗜んだが、時に西洋文化はそれを根底から覆す。……理解不能だよ。
― ルガジーン様の必殺技、ビクトリービーコンはどこかで見たことがあると皆が口を揃えておっしゃいますが……「五」蛇将とか、「天」蛇将とか、名称も相まって。
ル:ぬう、気のせいだとは思うのだが。もしかしたら西洋の国でも同じような技が編み出されているのかも知れぬ。
― 皇都防衛の終戦の勝鬨の際に、必ず咳きこむので「もっと修行しろ」と言う声が挙がっておりますが……?
ル:うむ、不甲斐無いようで済まないがその通り。聖皇様のため、そして民のために更なる精進を積まねば。
― 最後に何か一言、お願いします。
ル:皇国を護るのは我等五蛇将にあらず。勇敢なる兵、傭兵あっての賜物の勝利。皆と共にくつわを並べて皇都防衛に当たれる事を、私は何よりの誇りと思う。
― 本日は色々な質問に答えて頂き、ありがとうございました。
ふぅ、と一息つくルガジーン。
「……意外と緊張するものだ。何か不手際はあったかね?」
「いえいえ、とんでもにゃい。とってもよかったですニャ」
手帳にインタビューの内容を書き終えたナダは、満足げに答えた。
「きっとこの記事を読んでくれた皆さんが、ルガジーン様の事を更に慕ってくれるですニャ」
鼻息荒いナダをよそに、ルガジーンは落ち着いた様子で考え込む。
「済まぬが、そのペンと手帳の紙を一枚貸してくれんかね」
ルガジーンがそう言うと、ナダは言われるままにペンを渡し、手帳のページを一枚切り離し、それも渡す。
さらさらと何かを書きこむと、切り離した手帳のページとペンを返す。
「これを機に、聖皇様のために奮起してくれる者が増える事を願う」
そのページには流暢な皇国文字が羅列され、何と書いてあるかナダには理解できなかった。
「これは何ですかニャ?」
「私からの同意書みたいなものだ。他の四将軍達に見せれば快く取材に応じてくれるだろう」
ルガジーンの言葉に、ナダは尻尾を立てて左右に振る。
「ほ、本当ですかニャ!? それは助かりますニャ!」
うむ、と首を縦に振る。
「文章とは予想を超えた大きな力を生む……我等五蛇将の胸の内を皆に伝えてほしい、よろしく頼む」
「任せてくださいニャ!」
ルガジーンが握り拳を己の手の平に当てると、ナダもそれにならい同じ動作をする。
ナダはルガジーンの取材同意書を手にし、その場を後にした。
「次の将軍サマは……っと」
ルガジーン様の後はやっぱりあの人かなと、独り言を呟いた。
「……何だ貴様。俺に気安く話しかけるな」
鋭い目つきで睨んでくる。
その瞳の奥には凛凛と燃え盛る炎のようなものが見て取れた。
「初めましてですニャ、ガダラル様。わたしはナダ・ソンジャと言います、しがない雑誌の記者ですニャ」
「そんなことは聞いてない……黙って失せやがれ。俺は西方訛りの言葉を聞くといらいらするんだ」
素気ない様子で、吐き捨てるかのような物言い。
確かに、噂通りの性格だった。
「実は、とある雑誌の企画で五蛇将の方々にインタビューを……」
「黙って失せろ、と言ったのが聞こえなかったか?」
ナダに背を向け、取りつくしますら見せない。
「これ……ルガジーン様からの預かりものなのですニャ」
ナダがルガジーンの名を口にすると、再びこちらに向き直る。
「ルガジーンからだと? ヤツの使いか?」
目もとに皺が寄り、一層険しい顔つきになった。
その背後には陽炎のようなものが揺らめき、疑心の眼差しがナダを捕えるかのようだ。
「いいえ、そんなんではないですニャ。とにかく、どうぞ一瞥を」
取材同意書をガダラルに差し出すと、強奪するかのように掴み取る。
しばし、沈黙の一時。
ちっ、と舌うちを一つ。
「あいつめ、余程暇を持て余しているのか……まぁいい。この筆跡から見て、ヤツのものであることは間違いないようだな」
取材同意書をナダに突き返す。
「良いだろう、その取材とやらに応じてやる」
面白くない、とでも言いたげな表情のガダラルであったが、ナダはそんなことお構いなしの様子で喜んだ。
「ありがとうございますニャ」
―― アトルガン突撃インタビュー ――
テーマ:五蛇将
インタビュアー:ナダ・ソンジャ
回答者:炎蛇将ガダラル
― 初めまして、この度はお忙しい中、わざわざありがとうございます。
ガダラル(以下 ガ):やれやれだぜ、まったく……手短にしろよ。
― 早速質問です。人々はガダラル様の事を、その勇猛さから『猛将・羅刹』と言う二つ名で畏敬を込めて呼んでいますが、それについてはどう思いますか?
ガ:知るか、そんなこと。勝手にそう呼ばれてるだけだ……気にしたことなんざない。
― 世俗世相のことはお構いなしですか?
ガ:俺はただ皇国の興廃のために戦っているだけだ。
― なるほど、皇国の未来を憂いておられるのですね。
ガ:……さあな。
― 次の質問に移ります。冷血無比と言われるガダラル様ですが、実は大いに部下思いで、かつて部下を逃がすために一人で殿(しんがり)を務めたことがあると聞きましたが?
ガ:……誰から聞いた?
― ルガジーン様からです。
ガ:あ、あのヤロウ……! 知るか! 俺はただ雑魚の兵士どもに足を引っ張られたくないから一人で殿を務めたのだ! 決して部下を思いやってなんかじゃねえ!
― 俗に言うツンデレですね?
ガ:ふん、西方の奴等はそうやって俺達の知らない単語で翻弄させようとしやがる……さっさと次の質問に移れ。
― 解りました。傭兵達の事を嫌っている節があると聞きましたが、これについては?
ガ:傭兵どもは一言めに金、二言めには金……誇りと言うものがまるで感じられん。奴等とくつわを並べていると思うと虫酸が走る。
― 傭兵や冒険者達の中には、ガダラル様を慕っている者も結構多いと聞きますが、これについての感想は?
ガ:ほう……それは初耳だな。いいだろう、そいつらが討ち死にした際は特別に俺が骨を拾ってやる。
― 『またガダラルか』『らせつw』は一世を風靡した、名言ですが、当の本人は如何な気分でしょう?
ガ:う、うるせぇ! 畜生め、好き勝手言いやがって……下らん質問はするな!
― 『ファ・イ・ガ〜!』『俺サマのサラマンダーフレイムを見て腰を抜かすんじゃねぇぜ』等が流行語大賞候補ですが、どちらが大賞に輝くと思われますか?
ガ:もう止めだ! くそッ! 無駄な時間を費やしちまった!
― ルガジーン様とのカップリングが良いとの声も挙がっておりますが、これについては?
ガ:もう終わりだっつってンだろうがッ!!
― 本日は色々な質問に答えて頂き、ありがとうございました。
「貴様ッ! 俺をコケにするつもりで取材に来たのか!?」
固い握り拳を作り、わなわなと震わせるガダラル。
「いえいえ、お陰さまでとても良い内容になりましたニャ。この記事を見た皆さんが、更にガダラル様を慕ってくれるですニャ」
深々とお辞儀するナダ。
歯を剥き出しにして、怒りに震えるガダラルの様子など知る由もなく。
「クソが……ルガジーンからの紹介じゃ無ければこの場で灰塵にしてやるものを……!!」
顔を真っ赤に染めて怒るガダラル。
溢れる魔力が赤い陽炎のように揺らめき、大気を熱くする。
ちょっと、やばいかにゃ……と、ナダは初めてガダラルの怒りの大きさに気付き、思わず後ずさる。
「畜生がァァァァァーーーッ!!」
「ぎにゃあああ! ありがとうございましたにゃぁーー!!」
ガダラルの叫びと共にその身から、炎柱が間欠泉のように吹き出る。
踵を返し、一目散に逃げるナダ。
「フォオオオーーーーッ!!」
一際大きな叫び声と共に、空に大きな火球が舞い上がって爆発し、花火のように散る。
周囲に居た近衛兵や冒険者達の驚きの声が遠くから聞こえた。
「はぁ……はぁ……アブナイところだったニャ」
次は穏やかそうな人がいいにゃ、と汗を拭いながらその場を後にした。
「あのーお忙しいところ失礼しますニャ」
背中に大きな弓を背負ったヒュームの女性に声を掛ける。
「はい、何でしょう?」
お洒落なトレダーシャポーの下から覗く黒髪は、つややかで美しく、風に揺られて軽やかに踊っていた。
にっこりと優しく微笑むその顔は慈愛に満ち、同性ながらに胸が高鳴る。
「あ、あの、初めましてナジュリス様。わたしの名前はナダ・ソンジャ、しがない雑誌記者ですニャ」
「これはご丁寧に。初めまして、不肖ながら五蛇将の一席を担う弓士、風のナジュリスです」
ナダが頭を下げる前に丁寧にお辞儀をする、ナジュリス。
それを見て、慌てて頭を下げる。
「じ、実はわたし。とある雑誌の企画で五蛇将の方々にインタビューをさせて頂いているのですニャ」
「まあ、それはわざわざ御苦労さま。西方から来た雑誌記者のお話は聞いております、皇国の観光広告を作ってくださった御方の同社のお人ですか?」
「は、はいですニャ」
懐をまさぐり、ルガジーンからの取材同意書を取り出し、ナジュリスに差し出す。
「ルガジーン様からの、預かりものですニャ」
「ルガジーンから?」
ナダの差し出した取材同意書を受け取り、目を通している。
うんうん、と一人で頷くと、ナダの方を向き、笑顔で答えた。
「解りました、冒険者の方達や傭兵の方々と私達のコミュニケーションにもなりそうですね。是非ともお願いします」
取材同意書をナダに手渡しで返すと、ナジュリスはまたしてもお辞儀をした。
そしてまた、ナダも慌ててお辞儀を返す。
「あ、ありがとうございますニャ」
噂以上の物腰の低さに、丁寧な態度……そして花のような笑顔にナダは感心するしかなかった。
―― アトルガン突撃インタビュー ――
テーマ:五蛇将
インタビュアー:ナダ・ソンジャ
回答者:風蛇将ナジュリス
― 初めまして、この度はお忙しい中、わざわざありがとうございます。
ナジュリス(以下 ナ):初めまして、こちらこそわざわざ西方からご足労頂きありがとうございます。今日はよろしくお願いしますね。
― では早速質問に。東西随一の弓士との噂をお聞きします、その事についてナジュリス様自身はどう思われますか?
ナ:東西随一と言うのは言い過ぎですね……ただ皇国の中では、私の弓に肩を並べる者は少ないと思います。
― 皇都防衛戦の際、傭兵や防衛隊の網目を通り蛮族に矢を浴びせるその様は、まさに天才、と謳われておりますが?
ナ:人の波の中から、風の流れを感じるんです。そしてその流れの中で瘴気を纏う者は独自の匂いを放ちます。私はそれを感じ取り、矢を放っているだけです。
― それを天才と言うのではありませんか?
ナ:うーん…… 特技、と自分では思っています。天才と言われるのはちょっと恥ずかしいので、やめて欲しいですね。
― 同じく皇国に仕えているライアーフ二等兵は、実の弟君と聞きましたが。
ナ:はい、恥ずかしながら我が愚弟です。いつまでたっても二等兵から上がらないので、良い加減退役して欲しいのですが……
― ナジュリス様、ライアーフさんのどちらにしても比喩の対象になってしまうからですか?
ナ:……私的な意見を述べますと、やっぱり唯一人の血縁ですし、比喩されて引け目を感じるのは弟ですから……他にも色々ありますが、肉親が兵役なのは精神的に辛いです。
― 弟思いなのですね。
ナ:ライアーフからは「弟離れしてよ」と、よく窘められます。姉としても、将としてもまだまだ未熟です。
― 傭兵や冒険者の方々からは、ナジュリス様のような姉をもって、ライアーフさんが羨ましいとの声も挙がっておりますが?
ナ:そ、そうですか。ありがとうございます。
― 上記の者たちから色々な噂が行き交っております。例えば、料理の腕がイマイチだとか錬金術の知識に長けているとか。
ナ:そ、そんな……料理の腕は、まぁその……自慢できるほどではありませんが、そこそこの腕はあると思います。錬金術の知識は、嗜む程度にしかありませんよ。
― 次の質問です。常にお淑やかで慎ましく、凛とした出で立ちのナジュリス様ですが、やはり東方の血筋を引くからでしょうか?
ナ:そんなに褒められると照れてしまいますね。ですが、誰に対しても礼節を欠かさず、というのは父から教わった東方の最低限の教育でして、これを教えてくださった父にはとても感謝しています。
― なるほど。それで傭兵の方々や冒険者の皆さんに対しても優しく、きさくに答えてくださるのですね。
ナ:礼を持って接すれば、礼を持って返してくれます。ただそれだけの事ですよ。
― では最後に、皆さんに対して何か一言お願いします。
ナ:はい。私ナジュリスは皇国のため、市民のために粉骨砕身で挑む所存です。志を共にしてくださる皆さん、未熟な私ですが、どうかよろしくお願いします。
― 本日は色々な質問に答えて頂き、ありがとうございました。
ふう、と一息つくナジュリス。
「ふふっ、緊張しましたけど……こういったやりとりも新鮮ですね」
「ありがとうございますニャ、とっても良い感じでした。お蔭さまでスムーズにインタビューが進みましたニャ」
ナダが一礼すると、それに答えるかのように一礼して返すナジュリス。
「いえいえ、お粗末さまでした」
「この記事を読んだ皆さんが、更にナジュリス様を慕うようになるのは間違いないですニャ」
鼻息荒いナダをよそに、ナジュリスはふと己の背後へと顔を向ける。
「ナダさん、ほら。丁度良い所に……」
ナジュリスは顔を後方に向けたまま、指を差す。
すると、その先には大地をも震わせるかのような巨躯の男が、通路を歩いてきていた。
天蛇将を除いた四将のトレードマーク、アミール装束を着こんだガルカ。
アダーガ、と呼ばれる真紅のカタールを両脇に差したその姿は、間違いなく土蛇将ザザーグ。
「ザザーグ、ちょっと」
「んん?」
角を曲がり、持ち場に戻ろうとしていたザザーグにナジュリスは呼びかける。
のしのしと悠々とこちらに歩み寄る。
「どうしたナジュリス? 俺になんか用か?」
「ええ、丁度良い所に通りかかってくれたわ。貴方に合わせたい人がいるの」
少し身体を引き、ナダの姿をザザーグに見せる。
「こちらの御方は西方から参った雑誌記者の人で、私達五蛇将について取材を行っているのよ」
「ほぉう、わざわざ西方から俺達に取材するために……そいつぁ感心なこったな!」
ヒュームで言うなら顎鬚にあたる部位のたてがみを撫で、歯をむき出して笑う。
「ザザーグがナダさんの事を知らないということは、まだ取材を受けてないってことね?」
「取材? いいや、初耳だぜ」
「それじゃあザザーグ。彼女……ナダさんって言うのだけど、取材に答えてあげてくれない?」
ナジュリスの言葉にザザーグは、
「おう、全然構わねえぜ。よろしくな、嬢ちゃん」
と、快く承諾してくれた。
「あ、ありがとうございますニャ! ナジュリス様、ザザーグ様!」
―― アトルガン突撃インタビュー ――
テーマ:五蛇将
インタビュアー:ナダ・ソンジャ
回答者:土蛇将ザザーグ
― 初めまして、この度はお忙しい中、わざわざありがとうございます。
ザザーグ(以下 ザ):気にすんなって。こっちこそよろしく頼むぜ!
― 最初の質問です。ザザーグ様は西方の大陸の一国家、バストゥーク共和国出身の御方とお聞きしましたが?
ザ:おう、その通りさ。もともと軍職だったんだがな、一悶着起こしちまって国からほっぽりだされちまった! ガハハハハ!
― 何だか、国から追われたようには見えない口ぶりですね?
ザ:なぁに、ただ単に水が合わなかっただけだぜ。皇国に出向く良いきっかけだったって事さ。
― その前向きな姿勢と豪快な人柄からか、部下や傭兵、果ては冒険者達から「兄貴」と呼称されますが、如何なお気持でしょう。
ザ:ガハハ、みんな可愛いもんだぜ、まったく! 結構気に入ってるんだぜ、その呼ばれ方!
― ガルカ族特有の強靭な肉体、と言うのもありますでしょうが、ザザーグ様の戦いぶりを見た者達はモンクとナイトが合体してるんじゃないかと疑惑がかかっておりますが?
ザ:ガハハッ、生まれつき体が頑丈なのが取り柄でよ。まぁナイト様みてぇに剣振り回すなんてこたぁ俺には出来ねぇな! 男ならやっぱり己の拳よ!
― ではかつて軍職についていた頃から、武器は己の拳で?
ザ:おう、当り前よ!
― 次の質問です。ザザーグ様の思想を聞くと皇国のためと言う大義が無いのでは? という声が挙がっておりますが。
ザ:大義か。こう見えても、そう言った目に見えないモンのことはよく考えてるつもりだぜ? ただ堅苦しい物言いは好きじゃなくてよ……部下達に俺の考えを押し付けるつもりはないぜ。
― 他の蛇将の方々と違って「皇国」と言う言葉をあまり口にしないみたいですからね。
ザ:そうさなぁ。あっ、別に皇国の事を軽んじている訳じゃないぜ? ただ俺個人としては、やっぱ皇国も大事だが部下や傭兵達も大事でよ。あんまり大義やら何やらを教え込むと、自分の命を軽んじちまうヤツも出てくるからな。
― 兵士である前に、人間でありたいと?
ザ:良い事言うねぇ、嬢ちゃん。皇国の防衛も大事だが、建築物は直せても、人の命は無くしたら拾えねぇからな。国っつうのはやっぱ民あってのモンだからよ……特に若ぇ兵士とかには命を大事にしてもらいてぇな。
― ザザーグ様が戦う理由というのは何なのでしょう?
ザ:そうだな。臭い話になっちまうが、俺の拳が人を救えるかも知れねぇって考えで戦ってる。別にこれと言ったきっかけは無いんだけどよ、俺がやれる事をやってるだけだぜ。
― 最後に皆さんに向けて何か一言、お願いします。
ザ:しみったれた話になっちまってすまねぇな! お前さん達 傭兵のことはみんなアテにしてるからよ。これからもよろしく頼むぜ!
― 本日は色々な質問に答えて頂き、ありがとうございました。
「いやぁ、慣れないコトしたせいか肩がこっちまったぜ。うまく出来てたか?」
照れくさそうにはにかみながら、頬を掻くザザーグ。
「ありがとうございますニャ、とっても良い感じでしたニャ」
「ガハハッ、そりゃよかった」
「ふふふ、ザザーグも案外真面目に物を考えてるのね」
ナダとザザーグのやりとりを思い出し、くすくすと笑うナジュリス。
「ザザーグ様、ナジュリス様、ありがとうございましたニャ。お蔭さまで残るインタビューは一つとなりましたニャ」
二人に対し、深々と頭を下げるナダ。
いやいや、と気にしないでくれと言わんばかりの二人。
「それじゃ、俺は持ち場に戻るとするぜ。お嬢ちゃん、頑張って良い記事にしあげてくれよ?」
背を向け、その場を立ち去るザザーグ。
ありがとうございましたニャ、と再度頭を下げると、振り返ることなく手を上げて答えた。
「残るはミリだけね」
ナジュリスがナダに声を掛ける。
「はいですニャ」
「ザザーグが持ち場に帰るって事は……次の休憩はミリだから、接触さえ出来れば取材に応じてくれるんじゃないかしら」
「おおっ、それはラッキーですにゃあ」
眩しい笑顔に圧倒されながらも、ナダは好機を逃す手はないと意気込む。
思わず尻尾が一瞬ピンと垂直に伸びたのを見て、ナジュリスはまた微笑む。
「頑張ってくださいね、ナダさん」
「はい、ありがとうございますニャ。本当に助かりましたー」
ナダが頭を下げると、ナジュリスもまた頭を下げる。
「ではでは、失礼しますニャ!」
軽快な足取りで、ナダはその場を後にした。
ナジュリスの持ち場を後にした、ナダ。
水蛇将、ミリ・アリアポーの持ち場は、ザザーグの持ち場の少し手前の所だと言う。
幸いにして五蛇将は、ワジャーム樹林とバフラウ段丘へ通ずるアルザビの玄関にまとまっている。
すぐに向かえば間に合うだろうとナダは踏んでいたが、その予想は外れ、
向かったその場所にミリ・アリアポーの姿は無く、既にその場を後にしてしまっていたらしい。
遅かったかぁ、と呟く。
次の休憩はミリ、と聞いていただけで何所に向かったかも想像つかない。
またナジュリス辺りに聞きに行きたいところだが、流石に何度も手伝ってもらう訳にはいかない。
このままここで待とう……ナダはそう考え、通路の壁に寄り掛かって待つ事にした。
澄み切った青い空を見上げ、呆けたように立ち尽くす。
アル―アさんもジューンさんも、文の口頭には必ずこの澄んだ青空の事を書いていたなあと考えていた。
頬をくすぐる乾いた風が心地よい。
……と同時に、何処からか人の囁く声が聞こえだした。
ちら、と視線を移すと、少し離れた所に数人の男達が屯している。
見た目からして冒険者か傭兵だろうが、一体何をしているのだろうかと不思議に思った。
ナダからの視線に気がつくと、嬉しそうな顔をし、はしゃぎ回る男達。
「ん?? なんだろう?」
冒険者や傭兵達の変わった様子に首を捻らせる。
「こら! そこのキミ! 何してる! そこはボクの持ち場だぞ!」
冒険者と傭兵達の後方からの声で、賑わった場が一瞬にして静まり返る。
口を尖らせながら、ずんずんと歩いてくる。
アミール装束に身を包んだ、ミスラ。
その容姿はよく見ると、自分とそっくりだった。
「何者かは知らないけど……キミ、その格好は何? ボクを馬鹿にしにきたの?」
つんつんと眉間を突かれる。
「いたたっ、ち、違いますにゃあ。わたしはただのしがない雑誌記者ですニャ、この服装は単なる異文化交流の一環ですニャ」
「そのしがない雑誌記者がこんなとこで何してるんだい、怪しいぞっ」
遠くから見ている男達の声が聞こえてくる。
「おい、ミリたんが二人だぞ!?」
「どういうことだ!?」
ミリ? じゃあもしかして、この人が。
「あのー失礼ですが、アナタはもしかして、水蛇将サマですかニャ?」
ナダの言葉にフンッと怒ったように鼻息を荒く一つ。
「そうだよ、ボクが水蛇将のミリ・アリアポー」
なるほど、遠くに屯していた男達は水蛇将のファンだったのか、と納得した。
「初めまして、とんだご無礼を働いてしまいましたニャ」
相手が目的のミリ・アリアポーと知り、丁寧にお辞儀するナダ。
「わたしの名前はナダ・ソンジャと言いますニャ。とある雑誌の企画で五蛇将の方々にインタビューをさせて頂いているのですニャ」
「ふ〜ん……」
ミリ・アリアポーからの疑惑の視線が少々痛い。
「キミ、そんなこと言っといて本当は西方諸国のスパイかなんかじゃないだろうね?」
ナダとの距離を詰めてくる。
やばい、ガダラル将軍と同じ空気を感じる……と、危機感を覚えた。
「こ、これ……ルガジーン様からの預かり物ですニャ」
懐から、ルガジーンからの取材同意書を取り出す。
ミリ・アリアポーはナダが差し出した取材同意書を手に取り、目を通す。
しばらくして、大きなため息をついた。
納得のいかない様子だったが、
「しょうがないね、ルガジーンが言うんじゃ。インタビューだっけ? 受けてあげるよ」
取材同意書をナダに突き付けるようにして返す。
ルガジーン様様だなぁ、とナダは心底ルガジーンに感謝した。
「ありがとうございますニャ、それでは早速……」
紙とペンを取り出し、取材に移ろうとしたその時、
「伏せて!」
ミリ・アリアポーが叫ぶと同時に、こちらに飛びかかってくる。
そのまま頭を抱えられ、いきなり世界が回転する。
ドッドッドッ、と二人の立っていた所に、三本の矢が刺さり、振動している。
レンガ状の床に突き刺さる、ということは相当な力で射られた矢だ。
「ミリ将軍!」
ジャリダ装束に身を固めたヒュームの男が走り寄る。
「イファーフ! 奇襲だよッ! 伝令を!!」
「はい!」
抱きかかえたナダを離し、ミリ・アリアポーは真剣な眼差しで見据える。
「敵襲が来ちゃったみたい。悪いけど、インタビューはその後でね! キミも早く辺民街区に避難して!」
そう言うと、ナダの返事も待たずにミリ・アリアポーは走り去っていった。
「そ、そんにゃあ」
ナダはミリ・アリアポーに礼を言う間もなく、その場に置いてけぼりにされてしまった。
アルザビに警報が鳴り響く。
「第一級戒厳令発動!! 敵軍奇襲!! 一般市民、非戦闘員は辺民街区まで退避せよ!! 繰り返す……」
シパーヒ装束に身を包んだ義勇兵が各所で退避の警告を繰り返す。
「何で誰も敵軍の奇襲に気付かなかった!?」
人々の逃げ惑う中、一人の義勇兵を捕まえて激を飛ばす声の主はガダラル将軍。
「はっ、それが……どうにもラミア共、新たな奇術を編み出したらしく、人間に化ける術で皇都に接近していた模様で……」
「クソがッ! 姑息なマネをしやがって……!!」
西方から訪れる人間が増えた今となっては、外から訪れる不審者を勝手に撃つ訳にはいかない。
故に、人間の容姿に化けたラミアは防衛ラインを護る兵士達に気付かれる事なく近づき、奇襲。
皇都の玄関まで誰に気付かれる事なく進軍できた、と言う事だろうか。
「いいかッ! 奇襲で戒厳令の発動が遅れた。そのせいで人民街区には非戦闘員が多数残されたままだ! 兵どもはそいつらの誘導に当たれ!!」
「し、しかしそれでは将を護る兵の数が……」
「いいからやれッつってんだろうが!! 」
身体から溢れる、魔力の熱気が炎のように揺らめく。
「わ、解りました!!」
ガダラルの迫力に負け、兵は逃げるようにその場を後にした。
血気に満ちた冒険者、傭兵達、そしてミリを除いた五蛇将が水路のある広場の塁壁通路に集い始める。
皆、百戦錬磨の強者だと言うのは、身に固めた装備や佇まいで解る。
皇都防衛戦の際、五蛇将達には各員に持ち場があると聞いたが、ミリ・アリアポーとナジュリスを除いた三人はその場で待機していた。
ルガジーンが背負った二双刃の大剣を取り出し、こちらへと向く。
「各冒険者、傭兵、義勇兵諸君、よくぞ集まってくれた。今現在皇都は奇襲を受け、混乱状態にある」
ガダラル、ザザーグも各々の武器を手にする。
「辺民街区からの応援も直に駆けつけてくれるだろう。だがそれまで我々がこの場で敵軍を食い止めねばならぬ。無論、命の保証はない」
男三将軍、武器を天に掲げ、ぶつけあって金属音が響く。
「君達同志の勇気に心からの敬服と敬礼を示す……諸君が皇国の剣とならば、我は護国の楯として、その命を懸けよう!」
「いいか貴様等! 敗北は許されんぞ!! その手足が落とされようとも、残った口で蛮族の喉を喰い千切れ!!」
「敵さんは奇襲に成功していい気になってやがるぜ、調子に乗ったアイツらに一泡吹かせてやろうじゃねえか!!」
おおっ!! と、鼓舞に対して勝鬨で答える一同。
「かっ……かっこいいですにゃあ〜」
ナダは避難するのも忘れ、皆の戦前の高揚ぶりに心を鷲掴みにされていた。
「来たわ!! ルガジーン!!」
監査塔の頂上の窓から凛とした、美しい声。
弓に矢を番える凛々しい御姿は風蛇将、ナジュリスだった。
その視線の先を見ると、外へと続く門から、ラミア、と呼ばれる半人間の怪物が見えた。
蛇の頭の下に人間の顔、そして蛇の下半身……赤い舌をちろちろと覗かせ、勝鬨を上げる。
「もう勝った気でいやがるぜ、敵さんよお」
ヘッと鼻で笑うザザーグ。
「まさか出鼻に我等将軍が迎え撃つとは敵も考えまい。ザザーグと私達が前線に出る……ガダラルとナジュリスは上から狙い撃つのだ!」
「フンッ、ちゃんと持ちこたえろよ?」
ガダラルの皮肉めいた口ぶりに、ルガジーンは笑い、傭兵達もつられて笑う。
「いくぞ!!」
ルガジーン、ザザーグが縁に足を掛け、空に舞う。
傭兵達もつられて、高い塁壁の通路から飛び降りる。
着地の瞬間の一閃。
先頭に居たラミアが、左肩から一直線に剣を浴び、分断される。
五蛇将を束ねるルガジーンが最前線に出てきた事に敵は驚き、一瞬戸惑いの空気。
それを感じ取った傭兵達が一瞬にして距離を詰め、ラミア達の波に斬りかかる。
紫色の血が飛沫のように舞い、激痛の叫びを上げる。
後に続いたラミアが、斬りかかった傭兵達の隙を見て、剣を振り上げるものの、瞬時にその腕が無くなった。
ナジュリスの放った矢がその腕を射抜き、吹き飛ばしたのである。
「散れ!!」
ガダラルからの怒号にも似た叫びと同時に、前線の皆が四散する。
巨大な炎の柱が幾重にも間欠泉のように吹きあがり、その真紅の柱に飲み込まれた蛮族は無残に骨すら残さず消え去った。
それでもラミア達の進軍は止まらない。
「これでも喰らいな!!」
拳に気を溜め続けていたザザーグがそれを蛮族に向かって放つと、突風のような気の塊が吹き荒れ、ラミア達の波を押し返す。
「敵を門へと押し返すのだ! さすれば、狭い門の通路で片方だけでも敵線が詰まる!!」
ルガジーンの伝令を聞き、傭兵達も合わせて動く。
縁に身を隠すようにして屈み、将軍達の戦いぶりを必死に書きつづるナダ。
戦の高揚が移り、自分自身血が高ぶっていくのがよく解る。
勇猛果敢な五蛇将と傭兵達の活躍を目の当たりにして、血が躍っているのだ。
「ガダラル将軍、伝令です!! 封魔堂前にゴースト部隊の空襲と!!」
義勇兵からの伝令の叫び。
「何だと!? 状況は!」
「ミリ将軍と傭兵達が持ちこたえております!」
「傭兵どもの数は!?」
「はっ! 既に五百は参戦しているかと!」
よし、とガダラルが頷く。
「ルガジーン!! ザザーグ!! 傭兵どもの応援が駆け付けたぞ!! 一旦退け!! 持ち場につくぞ!!」
ナジュリスが監査塔から飛び降り、通路に着地する。
「よぉし、その言葉を待ってたぜ!!」
「解った!! 皆、一旦退くぞ!」
前線に居た皆は踵を返し、駆けだした。
その背を護るため、ナジュリスとガダラルが弓矢と魔法で援護する。
同時に、ラミア達の雄叫びも増す。
本隊が合流したのであろうか、それは大気を揺るがすような大きな音であった。
外に通ずる門から、藍色をしたスケルトン族と、オークの体型に酷似した包帯巻きのモンスターが現れる。
ちぐはぐな体型を持った、金色の機械人形らしきモノ。
多種多様なモンスターが次々と姿を見せる。
わたしも引かないとマズイにゃ、とナダも倣って、一旦退いた。
広場に通ずる通路には門が取り付けられており、防衛戦の際には閉じて錠を掛けるようだ。
前線を押さえていた五蛇将と傭兵達が退くと、待ち構えていた義勇兵達が急いで門を閉じる。
「各自、持ち場で待機! 敵を迎え撃つのだ!!」
ルガジーンの叫びに誰一人答える事無く、散開してゆく。
言われなくても分かっている、という様子だった。
市街戦も激化を迎えるであろう、と傭兵や義勇兵達が固唾を呑む中、ナダは五蛇将達の活躍を収められた喜びに胸が一杯だった。
残るはミリ将軍の活躍を収めるだけニャ、と地図を広げて封魔堂の位置を確認する。
人々が刃を構えて行き交う中、一人佇んで地図を眺める姿は、場違いな事この上無い。
「この北にある広場が、封魔堂かニャ」
地図を懐にしまい、駆け足で封魔堂へと向かう。
ナダが着いたその時、北の広場は正に戦場と化していた。
青い布状のゴースト族達が、傭兵達と戦っている。
ナダは身の危険を考え、上から広場を見渡せる通路立っていた。
黒い霧を撒き散らして視覚を妨げたり、強力な精霊魔法を放ったりと激戦を繰り広げる。
しかし傭兵達も負けてはおらず、物理攻撃に対して強いゴースト族を前線の隊が挑発しながら引き付け、そして別隊が魔法で攻めていた。
その中で、ミリ・アリアポー将軍も傭兵や義勇兵達の援護を受けながら、懸命に戦っていた。
愛用の片手棍を振り上げると、美しい水飛沫が舞い、球状となった水は破裂してモンスターを弾き飛ばす。
「ミリたんを守れー!」
「ミリたんをやらせるなー!」
傭兵達からの局所的な伝令が飛び交う度に、
「う、うるさい!! ボクは傭兵がキライなんだッ!」
と、叫んで返す。
傭兵がキライと言う割には、戦闘で傷ついた傭兵達に回復魔法を詠唱し、積極的に手助けを行っている。
これが人気の所以……所謂ツンデレか、と納得する。
「蛮族の指揮官が皇都に侵入!! 各自、厳戒を強めよ!!」
伝令の叫びと共に、皆のざわめきが一層強まる。
「さ、流石にそろそろアトルガン白門に避難しないとまずいですかニャ」
ミリの活躍にペンを走らせるナダであったが、更なる激戦が予想される伝令を聞き、冷や汗を垂らす。
封魔堂の広場から出て、大通りの二階通路に出ると、既に辺民街区の扉は封鎖されているのが解った。
「そっか、防衛戦を辺民街区にまで飛び火させちゃあマズイですニャ……」
考えればすぐに解ることだったのだが、戦の熱に浮かれて高揚しきっていたせいか、頭が回らなかった。
どこか安全なところ……あるかどうか解らないが、どこかで敵が撤退するまで待つしかないか、と考える。
鼓膜を震わせる轟音。
先程の水路のある広場の門が破られたのだ。
歪曲した閂と共に、義勇兵達が吹き飛ばされてくる。
「ナンバープレートつきラミアだ!!」
血と埃に塗れた傭兵が、大きな声で叫ぶ。
爬虫類独自の匂いと共に現れたラミアは、今まで見たラミア達より一回り大きく、首元にプレートが埋め込まれていた。
妖艶な微笑みと共に、熱い吐息を放っている。
「くそ……大通りまで引っ張るんだ!」
一人の傭兵が叫び、注意をひきつけるべく弓を構えた。
が、その弓から矢は放たれることなく、カランと軽快な音と共に転がり落ちた。
「ミンナ……イッショ ニ オドリマショウ……」
人間のものではない、しゃがれた声と共にラミアの眼が妖しく光る。
うああ、ぐああ、きゃあ、とその場に居た傭兵達が一斉に苦しみだす。
ラミアは眼を赤く輝かせ、身体をくねらせ回る。
さながら、蛇が求愛のダンスでも踊っているかのような……そんな感じに見て取れた。
「サア ワタシ ノ カワイイ ニンギョウサン……ソノ ホンノウ ヲ カイホウシテアゲルワ!」
苦しむかのように呻いていた傭兵達の動きが止まる。
武器を収め、一人の男の傭兵が走りだす。
「う、うわああ! か、身体が、勝手に……!!」
その先に居たのは、一人のエルヴァーンの白魔道士の女性だった。
「えっ……ちょ、ちょっと! きゃ、きゃああ!」
味方を回復して回るエルヴァーンの女性に、男はタックルをして魔法の詠唱を中断させた。
「ご、ごめん! 俺、今操られてて……」
傭兵の顔はとても申し訳なさそうな表情であったが、その勢いは止まらず、押し倒した女性の服に手を掛ける。
「オホホホホ……アノコ ハ エルメス ガ スキナノネ」
何かしらの妖術をかけたらしく、傭兵は己の意志に反して体が動いているようだった。
「サア ミンナ! スベテ ヲ カイホウ シナサイ!」
手を掲げ、ラミアの体から桃色のオーラのようなものが撒き散らされる。
先程ラミアに睨まれた傭兵達をソレは包みこむようにして覆い、吸い込まれてゆく。
「ちょ、ちょっとやめて! 正気に返って!!」
「マジすんません、あ、操られてて俺の意志と関係なくあああエルメスイイ!! エルメスイイ!」
複雑な表情をしていた傭兵の男が、いつの間にか眼が座り、欲望の炎を宿らせていた。
「あんっ、だめ! ああっ……ん、ん……」
唇を塞がれ、服の上から乳房を揉まれる、エルヴァーンの女性。
「も、もしかして、これは……噂に聞くラミアの魅了技かニャ?」
ナダは遠くから惨状を目の当たりにしていた。
魅了された男性の傭兵は「ミスラとまんこしたい!」とか「もいんマジでもいん!」とか「タルメスとにゃんにゃん!」などと叫び、目当ての女性へと飛びかかる。
同じくして女性の傭兵は「ダルメルイイ!」とか「ガルカ道!」とか「ティーダ顔萌え!」と言いながら男性へと襲いかかっている。
血と埃に塗れ、火薬と死臭漂う市街戦は一瞬にしてピンク色に染まり、汗と汁の行き交う場となってしまった。
大通りを見ると、未だに激しい戦闘が繰り広げられているものの、この一角だけ別次元になってしまったかのようだ。
男女の嬌声の入り混じる、この場は正に生と死が行き交う、恐ろしい場へと変貌した。
「こっ……これはマズイですニャー」
今まで書いた五蛇将インタビューの紙をターバン状の帽子の中に入れ、封魔堂へと退こうとしたその時、
「ミリたん萌え!!」
性欲を持て余した男性の声と共に、その肩を掴まれた。
「うにゃっ!?」
ナダは強力な力で引き寄せられる。
「ミリたん萌えぇぇぇぇ!!」
魅了された男の叫びを聞いた周囲の者達も、反応する。
「ミリたんハァハァ!」
「ミリ=ツンデレ!!」
幾つもの妖しい眼光がナダを捕捉する。
まるで子供が楽しいオモチャを見つけたかのように『キラーン』と……。
「や、やめてくださいにゃあ〜 わたしはミリ様じゃないにゃあ〜」
男の手を振りほどこうともがいたが、逆に強い力で抱き寄せられてしまう。
「ミリたんが『ニャ』キャラになった!」
「だ、だからわたしは違っ、んむむ!」
否定の言葉を続けようとしたが、それは叶わず、唇を塞がれてしまったのだ。
男の舌が捩じ込むかのように唇を強引に開かせてきて、口内に侵入してくる。
背中にしっかりと腕を回されて振りほどけない間に、男達がナダを取り囲む。
「クンカクンカうぉぉぉぉ」
そう呟きながらナダの小ぶりな臀部を後ろから鷲掴みにしてくる。
「んーっ、んんーーっ」
服の上から臀部に顔を埋め、股間で息を荒くする。
「ぶはっ」
唇をようやく解放され、大きく息を吸い込む。
「み、皆さん! わたしはミリ将軍じゃ……わわわっ!」
臀部に顔を埋めていた男が離れると、すかさずナダを押し倒し、その四肢が押さえ込まれた。
「ちょっ、ちょっと待ってくださいニャ!」
性欲と煩悩を剥き出しにさせられた皆に、ナダの懇願が届くはずもなく、その衣服へと手がかかる。
イミテーションの偽アミール装束は悲痛な音と共に、あっさりと剥ぎ取られてしまい、双房が男達の前に露にされた。
「キャッ!!」
恥ずかしくて思わず胸を隠す……と、いきたかったが四肢を押さえられているせいで、それは叶わなかった。
「オパーイオパーイ!」
ナダを囲む男達が、歓喜する。
「や、やめ……」
拒絶の言葉を放そうとしたが、それも叶わなかった。
露になったナダの両方の双房に、男が食らいついたから。
「んあ……ああー……ふぁぁ………」
戦の熱ですっかり高揚していた肉体が、快感を一瞬で鋭く強いものへと変化させたのだ。
興奮で立っていた桃色の突起が二人の男に吸われ、舌で転がされて弄ばれる。
両方の乳首を同時に吸われ、舌で愛撫されるなんていうのは初めてだったため、一気に性感が高まっていく。
ナダは、自分の体の奥から熱い滴りを感じ始めた。
囲っていた内の一人の男がナダの佩楯状の脚装備に手をかけ、脱がせてゆく。
「あっ、だ、だめにゃああ」
両足を押さえていた男達も手伝い、懇願虚しくあっさりと脱がされてしまう。
下着の上から指が幾度か上下に這うと、そこにあっという間に染みが作られ、ヌチュッと粘質な音を立てる。
「うあっ、あああっ」
ナダが喜びと情欲の色を混ぜた声を発する。
四肢からは力が抜け失せ、快楽の坩堝に落ちる。
貪るように群がる男達の愛撫にその身を任せ、ただ快感に体を捩らせる。
一本、また一本と触れる手が増えてゆき、ナダの身体中に男の手が這いずりまわる。
「ああっ、ん……気持ちいい……にゃあ……」
快感に悶える中、更に強い快感がナダを襲う。
「んにゃああッ」
下着ごしだった指が、直接ナダの秘部を這い出した。
そのまま下着はおろされ両脚を開帳させられると、男達の指が、まるで蜜蜂のように蜜の溢れた花へと群がる。
「あんんっ……んああっ、だめえぇ……あああっ、すごいにゃああ」
秘裂を広げられ、内部を行き来する数本の指に、敏感な陰核を剥き出しにさせて押さえ、擦り上げてくる指。
何人もの男達に囲まれているからこそ味わえる快感。
ナダは快楽の虜となり、ただ喘ぎ、嬌声をあげるだけだった。
「ふああっ……んにゃあっ……あっ……?」
心地よい快感に身を任せたナダの顔の前に、大きな一本の男のシンボル。
天に向かって一直線に起立していた。
ぐいっと寄せ付けられると、ナダは自ら顔を動かし、己の口へと運んだ。
「んん……んむ……」
久々のオスの匂いにすっかり酔い、発情モードのスイッチが入ってしまった。
「うおおおミリたんが俺のをっ」
ハイテンションな周囲に乗せられているのではなく、自分の意思で煩悩の乱痴気騒ぎに加わる。
口内でたっぷりと唾液を塗りつけ、滑りを良くして舌で転がすと男は喜びの声を上げる。
「あむっ、んぷっ……んんーー」
「あっ、畜生。いいなぁ、俺も混ぜろよ」
囲ってた男のうちの一人が、ナダの手を取る。
その柔らかい手に、熱く漲る男根が添えられると、ナダの手を使って扱き始めた。
「ミリたんの手ぇ柔らけぇー」
先走る液体がすぐにナダの手を汁塗れにし、ヌチュヌチュと粘質な音を立てる。
陰核を擦り上げていた男はそれを見て、ナダの脚の間に入る。
鋼鉄のように硬く猛ったモノを、淫らに濡れそぼったその秘裂へと狙いを定めた。
「んんっ!!」
身体全体が挿入の衝撃に反応し、弾けて跳ねる。
「うおお、超気持ちいい……! ミリたんがオレのチンポを飲み込んでくよ!」
腰を掴まれると、そこから一気に男のピストン運動が開始された。
凄まじく硬く猛った男根は、内部の肉壁を強暴なまでに引っ掻き、擦り、抉り回す。
「すっげえ濡れてるぜ……! ミリたんの中……!!」
男の喜びの実況を聞き、周囲の男達の眼が色欲に塗れて光る。
「マジかよ、いいなぁ」
「早くイけよ! みんな待ってんだから!」
「俺も早くミリたんとヤリてぇよ……さっさと出せよ!」
荒い呼吸に包まれ、貪られるナダ。
久しぶりに味わう肉棒の感触に、心と体は快楽に屈し、全てを受け入れていた。
……もうミリ将軍でもいいや。
ナダは、そう考えることにした。
「はっ、はっ、くっ、ふっ……ミ、ミリたんっ」
腰を振る男の呼吸が荒くなってゆく。
打ち付ける腰も、だんだん強く激しい打ち込みになってきた。
男根を銜えさせていた男は、快感で動きの鈍くなったナダに痺れをきらし、頭を掴んで性交するかのように腰を前後に動かす。
「やべっ、イキそ……ううっ!」
「んんっ!」
膣内で男根が更に硬くなり、ビクビクと跳ね回る。
絶頂の証を思うまま、ナダの体内で大量に放出した。
「んっ、んむむふぁむっ」
な、中はダメ、とナダからの懇願の言葉であったが、口を塞がれているため、ただの呻き声にしかならない。
「くぅぅぅ……すっげぇ出たわ……あー……」
「悦ってないで早くどけって」
射精した男が退くと、間髪入れず違う男がナダの膣内に侵入してくる。
「んんんっ!」
「うおっ、マジだ……吸いつくみたいに飲み込まれていく……!」
実に滑らかに男根が入ってゆき、ナダの最奥を侵す。
さっきの男より、長いのだ。
「くっ……飲んでよ、ミリたん!」
「んむむっ!」
膣内に侵入してきた男根に気を取られていると、口内を行き来していた男根が弾け、精を放出する。
口の中に広がる噎せ返るようなオスの香りに、神経が痺れるかのような快感。
ちゅぽん、と音がして口から男根が抜かれると、ナダは躊躇いもせずに口内の精液を飲み込む。
おおっ、と男達からの歓声が上がる。
「ふにゃぁぁ………」
ナダは甘えるような声を出すと、空いた片方の手で先程口内に射精した男のモノを掴み、粘液に塗れたそれを舌で掃除する。
熱心に熱心に舐めとり、それを終えると、
「みんな……いっぱいヌイてあげるニャ……」
と、顔を紅潮させ、舌舐めずりをしながら呟く。
うおおーっ、と男達は興奮と歓喜と煩悩のままに叫んだ。
「……ナダさん、遅いですねえ」
「んー……そうねえ」
アルーアとジューンが宿泊している一室。
ジューンはベッドに腰掛け、アトルガン皇国発行のワラーラ哲学文書を読みながらアルーアに声をかけた。
「五蛇将にインタビューするって言ってから随分経つわね……人民街区に死者の軍団が奇襲を仕掛けたっていうから、それに巻き込まれているのかしら」
机に向い、ペンを走らせるアルーア。
部屋の中に、紙に字を綴る音が絶え間なく続く。
「だとしたら……ううーん、縁起の悪い言い方で申し訳ないですが、無事だと良いのですけど……」
しおりを挟んで分厚い哲学文書を閉じると、顎に手をやる。
心配そうな面持ちのジューンとは正反対の様子で、まったく気にかけていない様子のアルーア。
「大丈夫よ、ナダはああ見えても仕事に真面目だし。蛮族に襲われて死ぬような間抜けな子じゃないわ」
ふう、と一息つくと、アルーアは背もたれに寄り掛かる。
ジューンはワラーラ哲学文書を傍らに置き、アルーアの元へと歩み寄る。
「順調ですか?」
「ええ、お陰さまで。所長には随分と待たせちゃって、申し訳ないけど」
己を皮肉るように鼻で笑うアルーア。
ジューンは机の上に置かれた原稿へと視線を移す。
「あれ……??」
ふと、違和感に気がつく。
「随分多くないですか? その原稿の数……」
ああ、とアルーアが気がついたように答える。
「まっ、出来上がってからのお楽しみってやつよ」
そう言うと、アルーアはジューンにウインクして答えた。
「んん………っ、あー……ん」
身体中到る所に精液が浴びせられ、口の中はオスの青臭い匂いでいっぱいだった。
膣だけでは飽き足らず、後ろのほう……お尻のほうまでも使われ、男達のオモチャと化していた、ナダ。
両方の穴を擦られる快感に何度も絶頂を迎え、そして勢いよく体内に放たれる。
それの繰り返しだった。
そして今は、また新たに魅了された一人の男に、覆いかぶさられていた。
「あんっ、あんっ、あんんっ……」
「ミリ……ミリ……!!」
相変わらずミリ・アリアポーと勘違いされ、ひたすらに犯されていた。
ナダの嗅覚からは戦場の火薬と血生臭い匂いは消え、汗と男の官能な匂いしか嗅ぎ取れていない。
「ううっ……ミリッ! だ、出すよ!!」
男の腰の振りが一層早くなり、絶頂に向かおうとして激しく動く。
ナダの最奥まで突き入れ、深く深く押し込んでくる。
「あああ……な、中はだめにゃぁ……」
「くっ……で、出る!」
根元まで突き入れたまま、男は絶頂の証をナダの体内へと思いっ切り放つ。
「ふにゃ……ま、また………中に出されちゃったニャ……」
魅了された男達に何回も何回も輪姦され、既に結合部からは白い粘液が泡立っているほどだった。
男根がビクビクと跳ねるたびに膣内では新たな精が放たれ、そして内部で留まっていた他の男の精液が溢れる。
「できちゃったら誰の子供か解らないニャ……」
茫然としながらぽつりと呟くナダ。
だが、その心の奥底にはこの上ない快感と満足感に満たされ、その証拠に輪姦の最中、何度も絶頂に達していた。
精液を身体と体内に浴びせられる度に、その熱に絆され、快楽の渦に捉われる。
射精した男が離れると、また別の男が鋼鉄と化した肉棒を宛がい、突き入れてくる。
「んにゃぁぁ………」
膣内を抉られ、掻き回されながらナダは、
「アトルガンさいこうニャ……」
と、呟いた。
――ジュノ。
全世界に向けて発行される新聞、ヴァナ・ディール・トリビューン本社。
チーフデスクには所長のタルタルが腰掛けており、その傍らには金色の髪を二つ対にして結わえたタルタルが、背を高くするための足場に乗って覗き込んでいる。
ナダ・ソンジャが手掛けたと言う「アトルガン突撃インタビュー:五蛇将編」の下書き文の写しが、所長宛てに送られてきたのである。
二人のタルタルは何とも複雑な表情でその文章を読んでいた。
「うーん、随分とまぁ個性豊かな面々のようだね、皇国の防衛の要と呼ばれる連中は……」
「でも、これを雑誌の一コラムにするなら、悪くない出来だと思いますわ、所長」
拡大鏡代わりのスペクタクルズの位置を正す。
「そうだな、これこそが正に現地の者達……皇国で生活する者達が楽しめるものなのかもしれない。アトルガン特集として発行するためには、もう少し説明文が欲しいな」
「ワタクシ達は五蛇将の特集と言われても、ピンとこないですものね」
うむ、と頷く所長。
「まぁそこらはアルーアくんとジューンくんに任せておけば問題ないだろう」
所長はナダの書いたコラム文書をデスクに置く。
「それでは、そろそろワタクシの出番ですわね?」
再度スペクタクルズの位置を正すかのように、指でクイッと押す。
そのキラリとレンズが光を跳ね返した。
「そうだね、メトトくん。鬼編集と呼ばれた君がアトルガン皇国に行けば、大いに彼女達の助けになるだろう」
所長の言葉に「解ってますわ」と答える、メトト。
「ワタクシの厳しい原稿チェックのもと、皇国特集誌を珠玉の一冊にするために皆で力を合わせますわ」
使命感に燃え、胸を張って鼻息荒く答えるメトトだった。
→―アルーア・シュドリアンヌの手記4、メトトの編集―