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ダラン:首F6b
ターナ:猫F6a
喉が渇くのは、体が渇いているから。
汗が出るのは、体が熱く火照っているから。
ならば。
ならば、何故、こんなにも涙と表現するには不似合いな液体があたしの目から流れているのだろう。
あたしが1人でいたこの宿に男がやってきて、あたしにこうやって触れるまで、悲しみと寂しさのどん底に沈んではいたけれど、今は全くと言っていい程悲しくはないし寂しくもない。
なのに、あたしの目からはボロボロと透明な体液が生まれ、流れては落ちる。
そんな事を考える前に、もう既に口からは飲み込むことができない涎が溢れていて、あたしを溺れさせている白いシーツの一部が、あたしの涎のせいで濡れていた。
そして、男を受け入れる部分からも…涎と言ってもいいような液体が溢れだしているのが自分でもわかる。
あたしは今、発情期らしい。
あたしの所々から溢れだす体液を見ては喜び、興奮する男がそう言った。
言われるまでは気がつかなかったが、そうなのかもしれない。
1年に何回か、とても人恋しくなり、体が火照り、下腹部が時々ビクリと痙攣する。
そんな時は決まって、人の肌に触れたくなるのだ。
誰かの肌に触れ、誰かの気配を感じ取り、誰かに自分の中にある熱い塊をぶつけたくなり、そして相手の熱い塊を取り込みたくなるのだ。
あたしは今、発情期らしい。
あたしの所々から溢れだす体液を見ては喜び、興奮する男がそう言った。
言われるまでは気がつかなかったが、そうなのかもしれない。
1年に何回か、とても人恋しくなり、体が火照り、下腹部が時々ビクリと痙攣する。
そんな時は決まって、人の肌に触れたくなるのだ。
誰かの肌に触れ、誰かの気配を感じ取り、誰かに自分の中にある熱い塊をぶつけたくなり、そして相手の熱い塊を取り込みたくなるのだ。
男、というものを知るまではそれがどういった状態なのかを知らなかった。
知らずにいた頃はこんな自分が不思議でたまらなかった。
たまたまあたしの家にやってきた大人があたしにその状態はまだなった事はないかい?と聞いてきたので、それを素直に答えた。
すると、悪い事は言わないからその時期が来たのなら、族長やウィンダスを護る警護隊の誰かに言いなさいと言われた。
そしてその後、誰にも会わないようにと言われた。
キマッタアイテが出来るまではそうしなさい。
その言いつけを、あたしは守った。
里にいる、いつも家まで押し掛けてくる、いいように言えばあたしを慕う、悪いように言えばあたしの自由を奪う同族の女の目から逃れ、1人のんびりと家で過ごせる…そんな時間が出来た事の方が嬉しかった。
確かに人肌が恋しい…というのかな、ふとした瞬間にちょっと寂しく感じ、この時だけはあの子たちに触られてもいつも以上に不快にはならず、鬱陶しく感じる事もない。
体もちょっと熱っぽい…かもしれないのかな、頭がぼんやりとするけれども動けないという程でもない。
それはとにかく、その状態になりそうだと思った時に、警護についている大人に"またそうなりそうだ"、もしくは"その状態になってしまった"と告げると、すぐに家に籠りなさいと言われた。
ならば、普段読めない続きものの本を借りて、じっくりと家の中で読みたいのだけれどもそれでもいいかと大人に聞くと、大人は笑って許可してくれた。
その時期が来た時、大人はあたしにいつも以上に重ね着をさせて、わざわざ水の区の図書館までついてきてくれた。
暑いよ、脱ぎたいと言うと、大人は首を横に振る。
何故かと聞くと、大人は苦く笑いながら
「虫除けだよ。こういう時に寄ってくる虫がいるからね。噛まれたら痛いから、重ね着をするしかないのさ」
と口を揃えて言った。
本を選ぶ時も大人はついてきた。はて、とあたしは思うが、それでもついてきてくれる大人はそれなりに本を読んでいる大人だったので、この作者はこれがいいかもしれない、など言ってもらい、邪魔にはならなかった。実際、勧められた本はどれも面白いと思えた。
「お嬢さん、何か本をお探しかな?」
何回目かのそういった状態のある日、見知らぬ男の声が頭の上から降ってきた。はて、お嬢さんとは誰だろう。そう思いながらきょろきょろとあたしがしていると、大人がスイッとあたしが探してもいない本をあたしの目の前に差し出した。
「これでしょう。さあ、行きましょう」
そう言うとぐいぐいと大人があたしの手を引っ張っていく。
途中に読みたい本があったので、慌ててその事を大人に言ってそれを手に取った。
その後、その時期は図書館にも行けなくなってしまった。
いや、希望した本は言えば届けてくれた。だが、自分で図書館に出向いて見る事すらも出来なくなってしまったのだ。
今なら、わかる。
大人が言っていた悪い虫と表現されるものも、噛まれたら痛いという意味も、わかる。
その事をわかってしまったあたしは、あの頃から見ると悪い虫に噛まれてしまったと表現をしてもいいのだろう。
わかるという事はきっと、そうだと自覚をしているからに違いない。
「…ほら、見てみな」
あたしを抱く男はあたしの中で今1番抱かれたい男だ。
…いや、その表現は違うかもしれない。
あたしはこの男しか抱かれたくない。だから、たった1人の抱かれたい男だ。
その男が鏡越しにあたしを見て口元をいやらしく上げて歪めていた。
男も興奮していた。
その証拠にあたしの体の下に控える、その男の屹立したその先はいつも以上に濡れて光っていた。
男のそれは、興奮すればするほど硬くなり、そして先がほんの少しだけれども濡れて光るのだ。
男はある日鏡を買ってきた。
『だってお前、新しい装備とか合わせるのに要るだろうがよ』
そう、言った。確かにそうだと思ったし、自分もそれが目的で欲しいと思っていた。
だからその為に稼いだお金も脇に置いておいたのだ。
『いや…悪いよ。お金を払うからいくらか教えて』
『ん。んー…。じゃあ、お前の強くなった祝いだ。1人でここまで頑張っているからな。これを買うつもりで置いてある金があるなら、装備に回しな』
半ば強引とも言えるその突然のプレゼントを、あたしは素直に受け取った。
男がそう言ってくれて、嬉しかった。何故なら、その時新しい装備を買う為に売る何かの素材を採りに行こうかとしていたからだ。そして、この男から何かを貰うという事は滅多になく、それも喜びのひとつだった。
今日の男は何を思ったか、その鏡の前に椅子を置いて腰掛け、あたしに改めて愛撫を施し始めた。
あたしは白いシーツの上で既に男に弄られ、いつもなら男もあたしの秘所に手を伸ばすくらいだ…と、自分で思う。
男は自分の腕の中にいるそんな状態のあたしを、鏡越しに見ていた。
鏡に映るのは、あたしのある意味無様だと思えるような無防備な姿と…初めて客観的に見る、男のあたしを抱くその姿だった。
男は確実に興奮していた。
いつもこれ位興奮しているのだろうか、それともいつも以上に興奮しているのかはわからない。何故なら、あたしはいつも、これ位になると男に翻弄されて記憶が濁るのだ。
今日は自分の何とも言いようがない位情けない姿を目の当たりにしてしまった分、かなり頭が冷えてしまった。だからいつも以上に意識が残っている。
男はあたしの脚を掬い、鏡の前で思いきり広げた。
「…見えるか?」
ペロリと男が自分の唇を舐めた。心底興奮している時にする、男の仕草だ。
あたしの、男を迎え入れる所は既に濡れぼそっていた。
「…はは、こんなのを見て興奮するんだ。変なの」
「しゃーねぇ、そこが1番気持ちいい所だからよ。なんだ、酔いが醒めたか」
あたしの言葉に興奮で顔を赤らめている男が可笑しそうに笑う。
男があたしの脚を持ち上げたまま、一物をあたしにあてがった。
この感覚は、知っている。
この感覚の後、どうなるかも、知っている。
その付随してくる感覚を体が勝手に思い出したのか、ズクンとあたしの下腹部が一瞬だけ大きく震えた。そしてその後、トロリと熱いものがあたしの中から溢れだす。
鏡越しに、あたしと男の目が合う。男は本当に楽しそうだ。
「まあ、見てなよ」
何を見ていて欲しいのか、あたしはあまりわからなかった。
が、男は顎をしゃくる。
「俺のこれ、どう?」
「どう…って」
「お前から見て、どう思うのよ」
男はあたしにあてがったそれを、焦らす為にほんの少しだけ入れてすぐに抜いた。
それだけで、あたしの中が熱くなる。
「…お、大きい…ね。本当にこれ、入るのかなって思うくらい」
不思議だと思うのは、自分の顔や体を見ると一気に快感の酔いが醒めたくせに、それを見ずに男の体に目をやるとそれなりに興奮してくる…その事だ。
「はは、大きい、か。お前、これ、欲しい?」
そう言いながら男がまた、あたしの中にほんの少しだけ入れて、また抜く。
ハァッと自然にあたしの体の中から熱い息が出た。
「…悪い虫…だ」
あたしは思わずそう言ってしまう。
「はは、そうだな。いつもの悪い癖が出てきたか。焦らし過ぎると乗り遅れるな」
また男が自分の唇を舐めた後、男の一物に刺すようにあたしの体をゆっくりと降ろし始めた。クチュクチュッと音を立てながら、あたしの体が男の一物を咥えて飲み込む。
「あ、ああ!」
「…ほら、入ったぞ」
男の声が低くなり、今日1番熱い息があたしの頭の上から落ちてきた。
「まだまだ、浅いな」
男はゆっくりとした動作であたしの体を掬い上げ、一物が抜けるギリギリの所で止めてからまたあたしの体を降ろした。
男の一物があたしの体にもたらす圧迫感は、いつ受けても息が出来ないと思うほど苦しい。
しかし、何度か受け入れて男の一物の大きさにまであたしの受入口が広がってしまえば、後は快感が待ち受けている。
「ほら、鏡を見ろよ。はは、繋がってんぞ」
そんな事を言われても、目の前にある鏡の中のあたしは無様で、嫌でもその姿が飛び込んでくる。正直、快感を逃がすとわかっているものをもう見たくない。
拒否を込めて、あたしは思いきり鏡から顔を反らせた。
男はそれを見て、フフンと鼻を鳴らす。
そうやって鼻を鳴らせた後、思いきりあたしの体に男の一物を差し込ませる為にあたしの体を降ろした。
「ひっ」
それでもまだあたしの奥には届いていない。
あたしの体は男の逞しい腕によって、しばらくその位置で強制的に上下に動かされる。
グシュグシュと卑猥な音が耳に届いた。
「ひゃ、あ、ああ!」
「流石にいつも以上に気持ちいいねぇ…。お前、この深さでも結構イッちまうよな。はは、焦らし過ぎねぇように、しねぇと…!」
その男の言う通り、いつだってあたしの中から熱いモノが溢れだして止まらなくなる。
体の底からくるそれが、あたしを支配する。
鏡の前だとか、ベッドの上だとか、もう、どうでも、いい。
どうでも、いいのだ。この気持ちよさが、あれば。
でももっと、もっと、奥に、ここよりも、もっと、おくにね、もっと、きもちいい、ところが、あるの。
「さあ、おねだりは?」
この、わるいむしは、あたしをむしばむ。
あたしを、あまいどくで、むしばんでいく。
「も、もっと…もっとあたしを強く突いてぇ!」
あたしは、あたし自身の快感の為に、叫ぶ。男に突かれて溢れだす涎をそこかしこから垂れ流して、無様な姿で、その快感を請う。
男の言いなりになり、男が喜ぶ言葉を吐き、そして男が自分に与える快感の虜になる。
これを、悪い虫に噛まれた状態だというのだろう。
もう、他人から与えられる快感というものを知ってしまったから、男に抱かれるというその快感を知ってしまったから、引き返せないのだ。ここまで気持ちのいいものを手放す事なんてできやしない。
もしこの男が何かあってあたしの元を去ったとしても、あたしはきっと、この快感をあたしにもたらしてくれる他の男を探すに違いない。そして、あたしはまた、この"男"という他人がもたらす快感に溺れてしまうのだ。
それ位、違う。それ位の、激しい快感が…あたしを掴んで離さない。
今までで一番の快感の波が、あたしを飲み込んでいく。
「あ、ああ、奥まで、奥まで突いてぇ、その―――で、あたしの―――を、突いて、お願いぃ!」
男はあたしを突き刺したまま、またベッドへと帰っていく。
それは待ちわびた、快感の時間だ。
それだけで、また、あたしの下腹部が疼き、涎を垂らす。
「俺の―――は、どんなの?」
「あぅ、大きくて、熱いよぉ…っ。すごく、おっきいよぉ」
男はあたしの後ろから、異種族のくせにまるで尻尾の生えた獣のようにあたしを突く。
例えその力が弱いとしても、逆立ったあたしの尻尾を噛む所や、時々あたしのうなじを噛む所が、そんな所が、まだ交わった事のないけれども同種族の男のようだと思う。
「お前の―――、熱くて気持ちいいぜ」
そこでやっと、男はあたしの1番気持ちいい場所まで突いてきた。
グイグイと容赦なく快感の高みへと引っ張っていく。
あたしはありったけの声を我慢できずに上げてしまう。快感の頂点はすぐそこだ。
「ひっ…あ、あ、イっちゃ、イっちゃうぅ…!」
あたしが頂点にたどり着こうとした所で男は動きを弛めて止めた。
目の前に見えたその終着点に手が届かず、あたしは叫ぶ。
「いやぁ、イかせて、お願い、イかせてぇ!」
「イく時に、俺の名前を呼びな、ターナ」
ほら、と男が腰をまたゆっくりとだが振り始めた。
今度こそ、快感の頂点に手が届くかもしれない。
あたしは…快感が欲しいが為に、男の名前を呼んだ。
「あっ…は、ダラン、もう1度、ちょうだい…っ。ねぇ、もっと、突いてぇ」
そう言うと、あたしの口の中に男のあたしにしては大きな指が差し込まれた。
その指が男とキスをして舌を絡めるような動きであたしの口の中を動き回る。
指が動き回る間も、男の一物はあたしの中で動き回っていた。
あたしの背中にあたしに獣のようにのしかかっている男の汗が落ちて、あたしの汗を取り込んで白いシーツに汗のシミをいくつも作る。
そうやって混じりあって溶けていくうちに、男もやっぱり獣が唸るような喘ぎ声を出し始めた。
途中でグルリとあたしの体は反転させられる。男はどこか必死な顔であたしを思い切り突き刺していた。
あたしはそんな必死な顔の男の腕を掴んだ。そして、言われなくても…あたしは、あたしの、たった1人の、愛しい男の名前を、呼ぶ。
「イっちゃう、イっちゃうよぉ、ダラン、ダラン…っ、ひっ、ああ、あああ!」
「やっべ、イきそ…」
あたしが快感の頂点を掴んだ後、少し遅れて男も彼なりの快感の頂点を掴みかけたらしい。まだもうちょっと意識のあるあたしの体を離して、男はあたしに思いきり白い液体を振りかけた。
勢いのあるそれは、あたしの胸元まで一気に汚す。
男は汗にまみれながらさっきの必死な顔を緩めて、疲れが見えるけれども満足気な顔であたしの顔に手を伸ばした。
あたしは、というと…
この時期特有…なのか、どうか、もうわからないけれど
あたし自身が勝手に決めている"キマッタヒト"の大きな手に撫でられて
ここの所ずっとあたしに襲いかかっていた、底の見えない寂しさから解放されて
とても、安心して
そこで、一気に意識が遠のいて
そこで、ぷつり、と…。
あたしの今回の、発情期…とやら、は、そこで、緩やかに、終息へと向かっていった。
「お前、本当に今までどうして発情期に1人でいられたの」
あたし達ミスラ族の発情期の様子を知っている男がベッドの上に転がりながら、同じくゴロゴロと転がっているあたしに聞く。
この人はあたしに会うまでに何度も、発情期の体の熱に耐えきれなくなった同族の女を抱いてきた人だ。
だから発情期の女の様子を知っているし、あたしが発情期に家に閉じこもる事自体が凄いと思っているらしい。
あたしは愛しい彼の、今は体裁なんてない、寝ぐせでぼうぼうと逆立っている前髪に手を伸ばした。
彼はあたしの手を取り、指に唇を寄せる。
その理由は…男を…男からもたらされる快感を…知らなかったから、だよ。
あたしはそこまで言わず、言葉を飲み込む。
「…何で、かな。んー。本当に、我慢できたんだぁ」
「ふーん?まあ、何だなぁ…。これからは危なっかしそうだ」
あたしは改めて男の顔を見た。男は口を尖らせてふぅ、とため息をついた。
べぇといきなり舌を出して、男があたしの指先を舐めた後、しばらくしてあたしの頬に頬ずりをする。
本当に時々、この男は動物みたいになると、あたしは思ってしまうのだ。
「…女の快感を知れば知るほど、発情期に道を踏み外しやすくなるって言うからな。他の女で確認済みだ」
男はそう言って、あたしを抱きしめる。
あたしも男を抱きしめ返した。
「大丈夫だよ。あたし、そうなったら家で丸くなっているもの。それはこれからも変わらないよ」
「是非そうであって欲しいね」
男は何か思っているのか、あたしを更に強く抱きしめた。あたしはそうやって強く抱きしめてもらいながら、窓の外の空を見上げる。
「あたし、キマッタヒトがいるからね。だから、その人が来ると思って待っているんだぁ」
あたしは次もそうであって欲しいと願いながらそう男に告げる。
すると男は
「あー、くそ、可愛い事言いやがってこいつは!」
と嬉しそうに笑って、またあたしに頬ずりをした。あたしも笑って男に頬ずりをする。
「今度からは絶対に最初から居てやるからな、な。またそれが来たら言えよ?」
あたしはその言葉に小さくうなずいた。男が何かを決めた目であたしを覗き込む。
「…絶対だぞ」
「うん、言うよ」
あたしの唯一の抱かれたい人である限り、言うよ。
あたしはまた言葉を隠して小さくうなずく。そして、愛しい男の顔に改めて手をのばして、自分から彼の唇に自分の唇をそっと重ねて、男に向かって笑いかけた。
→贈り物